2018年10月7日

2018年10月7日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • EASD:イーライリリー、GIP/GLP-1受容体アゴニストなどのデータを発表 
  • EASD:GSK、GLP-1受容体アゴニストのCVOが成功 
  • アドセトリス、PTCLの一次治療試験成功 
  • ブルーバード・バイオ、ベータサラセミアの遺伝子療法をEUで承認申請 
  • Karyopharm、画期的作用機序の多発骨髄腫用薬の承認申請をFDAが受理 
  • もう一つのhATTR治療薬が承認 
  • Paratek、二つの抗生物質が相次ぎ承認 
  • ヘムライブラが米国でインヒビターを持たないA型血友病にも承認 
  • EMA、キノロン系抗生剤を市場回収・用途制限へ 


【新薬開発】


EASD:イーライリリー、GIP/GLP-1受容体アゴニストなどのデータを発表
(2018年10月4日発表)

イーライリリーは、GIP/GLP-1受容体デュアルアゴニストであるLY3298176の後期第二相二型糖尿病試験の結果をEASD(欧州糖尿病研究学会)とLancet誌で発表した。高用量は忍容性に問題がありそうだが、中間用量でも既存のGLP-1受容体アゴニストより血糖降下作用や体重減少作用が大きそうだ。

この試験は、二型糖尿病患者300人を偽薬群、1mg、5mg、10mg、15mg、Trulicity(dulaglutide)1.5mgの6群に無作為化割付して、26週後のHbA1cの変化を比較したもの。何れも週一回、皮注。

血糖降下剤は薬効評価の対象とすべきポピュレーションや期間に関する見解が定まっておらず、現状ではFDAとEMAが異なった解析を要求している。そのせいか、この試験でもイーライリリーのプレスリリースとLancet論文のA1c値が異なっている。後者のmITTによる解析だけ記すと、上記各群の低下は0.06%、1.06%、1.73%、1.89%、1.94%、1.21%だった。LY3298176の5mg以上は効果がTrulicityより高そうだ。

GLP-1受容体アゴニストは糖尿病薬には珍しく体重が減るのが特徴。この試験では、各群の体重が0.4、0.9、4.8、8.7、11.3、2.7kg減少した。ここでも5mg以上はTrulicityより大きな数値が出ている。15mg群の11kgというのは体重管理薬でも中々見れないほど大きい。

このクラスの薬の弱点は悪心や嘔吐などの胃腸毒性で、各群の発生率は9.8、23.1、32.7、51.0、66.0、42.6%。GLP-1作動剤の売れ筋であるTrulicityの数値が許容水準と考えると、10mg以上はあまりよくないことになる。有害事象で治験を離脱した患者の比率は5mgが9%、10mgが6%、15mgは24%、Trulicity11%となっており、15mgの忍容性は劣る。おそらくこれが理由で、15mg群のA1c目標達成率は10mg群より低い。

ノボ ノルディスクも長期作用性GLP-1誘導体、Ozempic(semaglutide)がTrulicity群も設定された臨床試験で良さそうな数値を出している。データと照らし合わせると、LY3298176の10mgのほうが効果が高いように見えるが、もし忍容性が十分でなく5mgしか実用化されなかった場合、差別化は難しそうだ。

イーライリリーは2022年頃の承認申請を計画している模様。

リンク: イーライリリーのプレスリリース
リンク: Friasらの治験論文(Lancet)

EASDではSGLT2阻害剤のJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の第三相一型糖尿病試験の結果も発表された。他のSGLT2阻害剤の試験と同様に、高量で糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが見られたので、低量の薬効が十分かどうかが論点になりそうだ。

二型糖尿病の承認用量である10mgと25mgに加えて2.5mgもテストしたところ、偽薬調整後A1cが0.2~0.5%低下した。この数字を見てもわかるように、試験薬群ではインスリンの使用量を減らすことにも成功した。

低血糖は増加しなかった。糖尿病性ケトアシドーシスは2.5mg群では偽薬並みだったが10mgと25mgでは増加した。このため、適応拡大申請するとしたら2.5mgになりそうだ。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

また、DPP4阻害剤のTradjenta/Trajenta(linagliptin、和名トラゼンタ)の心血管アウトカム試験、CARMELINAの結果も発表された。6979人の心血管リスクの高い二型糖尿病の成人を組入れて、Trajentaを使う群と使わない群のMACE(心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)のリスクをメジアン2.2年間追跡したところ、両群同程度だった。腎機能低下や心不全入院のリスクも同程度だった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

EASD:GSK、GLP-1受容体アゴニストのCVOが成功
(2018年10月2日発表)

EASDとLancet誌では、グラクソ・スミスクラインのGLP-1受容体アゴニスト、Tanzeum/Eperzan(albiglutide)の心血管アウトカム試験が成功したことも発表された。9463人の高リスク患者をメジアン1.6年間追跡したところ、MACE(心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発生率が7.1%と対照群の9.0%を下回り、非劣性解析だけでなく優越性解析も成功した。

Human Genome Sciences社が企業買収で獲得したアルブミン融合技術を用いて半減期を長期化した遺伝子組換え型ヒトGLP-1で、14年に欧米で二型糖尿病薬として承認されたが、ライセンス後に同社を買収したGSKは、昨年、事業の選択と集中を推進する目的で、販売を中止した。今回のHarmony試験の成功を受けて、事業譲渡努力を続ける予定。

リンク: GSKのプレスリリース

アドセトリス、PTCLの一次治療試験成功
(2018年10月2日発表)

シアトルジェネティクス(Nasdaq:SGEN)と武田薬品は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)の第三相一次治療試験が成功したと発表した。

CD30陽性PTCL(末梢T細胞リンパ腫)における標準レジメンであるCHOP(cyclophosphamide、doxorubicin、vincristine、prednisolone)と、このうちvincristineに代えてAdcentrisを使うレジメンの第三者査読PFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオ0.71、p=0.011と有意に改善した。二次的評価項目である全生存期間もハザードレシオ0.66、p=0.0244となった。

詳細はASH米国血液学会で発表する予定。

Adcetrisはシアトルジェネティクスが開発し北米以外では武田薬品が開発販売する、CD30を標的とする抗体とMMAE細胞毒をリンカーで繋げた抗体薬物複合体。ホジキン型リンパ腫、全身性異形成大細胞リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫などに承認されている。今回のPTCLでも適応拡大申請される見込み。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)


【承認申請】


ブルーバード・バイオ、ベータサラセミアの遺伝子療法をEUで承認申請
(2018年10月5日発表)

ブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)は、LentiGlobinの販売承認申請をEMA欧州薬品局が受理したと発表した。加速審査を受ける。適応は、輸血依存のベータセラサミアでbeta0/beta0遺伝子型ではない成人と青年。

患者数が世界で288000人と推定される重度遺伝子疾患で、ベータグロブリンの遺伝子欠損が原因でヘモグロビンが欠乏する。LentiGlobinはex vivo遺伝子療法で、患者から採取・精製したCD34陽性細胞にレンチウイルスベクターを用いてベータグロブリン(T87Q置換型)を導入する。臨床試験では多くの患者が赤血球輸血不要になった。ヘモグロビンを殆ど作れないbeta0/beta0型でも輸血が減少した。

リンク: ブルーバード・バイオのプレスリリース

Karyopharm、画期的作用機序の多発骨髄腫用薬の承認申請をFDAが受理
(2018年10月5日発表)

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)は、FDAがKPT-330(selinexor)の承認申請を受理したと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4月6日。

腫瘍抑制的な作用を持つ蛋白を細胞核の外に輸送する蛋白、exportin 1に結合・阻害する経口剤。多発骨髄腫でアルキル化剤、ステロイド、免疫調整剤2剤、プロテアソーム阻害剤2剤、Darzalex(daratumumab)の全ての治療歴を持つ『ペンタ難治性』多発骨髄腫に用いる。

リンク: Karyopharmのプレスリリース


【承認】


もう一つのhATTR治療薬が承認
(2018年10月5日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)とその関連会社であるAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)は、FDAがTegsedi(inotersen)をhATTR(先天性トランスサイレチン調停アミロイドーシス)の成人のポリニューロパチー治療薬として承認したと発表した。

アルナイラム(Nasdaq:ALNY)のOnpattro(patisiran)も同じ用途で8月に欧米で承認されている。TegsediはIonisの得意分野であるアンチセンス技術、Onpattroはアルナイラムの得意であるsiRNA技術を用いて創製された。夫々の治験成績を見ると、Onpattroのほうが効果が高そうだ。TegsediはOnpattroと同じ年45000ドルで発売されるが、Onpattro同様に不応時返金制などが導入されるのではないか。

リンク: 両社のプレスリリース

Paratek、二つの抗生物質が相次ぎ承認
(2018年10月2日発表)

Paratek Pharmaceuticals(Nasdaq:PRTK)は、FDAがテトラサイクリン系抗生剤を承認したと同日に二回、発表した。一つはNuzyra(omadacycline)で、地域感染細菌性肺炎と急性皮膚皮膚構造感染症の治療に用いる。スペクトラムがグラム陽性菌、陰性菌、非定型菌、薬物耐性菌などと広く、注射用と経口剤を揃えていて一日一回投与で足りることが特徴。レーベルには、moxifloxacin対照試験で奏効率は非劣性だったが死亡率がやや高かったことが記されている。欧州でも申請中。

omadacyclineは共同開発歴が豊富で、99年にグラクソと、03年にバイエルと、05年にMSDと、09年にノバルティスと提携した。一因は、抗生物質の開発の難しさだろう。耐性菌対策の取っておきの薬は取って置かれて中々使われない難があるのだ。製薬会社の開発意欲を高めるために、使っても使わなくても毎年一定額を支払う定額課金モデルの導入が幾つか国で検討されているようだが、米国やドイツのように保険組織が細分化されている国では簡単には進まないかもしれない。

リンク: Paratekのプレスリリース(Nuzyra)

もう一つはSeysara(sarecycline)。9歳以上の中重度尋常性ざ瘡の治療に、一日一回経口投与する。こちらは逆にスペクトラムが狭いことが特徴。

Alleragan(NYSE:AGN)が米国の権利を取得し承認申請したが、先月、権利をAlmirallに譲渡した。Paratekの売上ロイヤルティ率は一桁台後半から二桁台前半。

リンク: 同(Seysara)

ヘムライブラが米国でインヒビターを持たないA型血友病にも承認
(2018年10月4日発表)

ロシュは、FDAがHemlibra(emicizumab-kxwh、和名ヘムライブラ)の適応拡大を承認したと発表した。07年に、A型血友病のうちインヒビターを持ち血液凝固第VIII因子が無効な患者の出血予防薬として承認されたが、今回、インヒビターのない患者の予防も承認された。また、週一回投与に加えて、二週間または四週間に一回の投与法も認められた。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMA、キノロン系抗生剤を市場回収・用途制限へ
(2018年10月5日発表)

EMA(欧州薬品庁)のPRAC(薬物監視リスク評価委員会)は、フルオロキノロン系とキノロン系の抗生剤の使用を制限するようEMAに勧告した。稀にではあるが、筋、腱、骨、神経系の副作用が発生して障害が長期間持続することがあるため。

適応から除外されるのは、自然軽快が見込まれる、あるいは重度ではない、感染症、『旅行者の下痢』の予防、再発性下部尿路感染症、フルオロキノロン/キノロン系の使用による深刻副作用歴、軽度・中程度深刻感染症の治療(多剤不適例を除く)。高齢者や腎障害、臓器移植歴、全身性コルチコステロイド同時使用例は特に注意が必要。

全てのキノロンと一部のフルオロキノロンは適応がなくなるため市場から回収されることになる。

PRACは副作用の最初の兆候が現れたら治療を止めるよう医療従事者に勧告した。具体的には、腱の炎症や断裂、筋痛・筋力低下、関節痛・腫脹、ピンや針で刺されたような痛み、疲労感、うつ病、混乱、自殺思考、睡眠障害、視覚・聴覚障害、味覚臭覚異常など。

リンク: EMAのプレスリリース







今週は以上です。

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