【ニュース・ヘッドライン】
- EMA、今冬のCOVID-19ワクチンにLP.8.1株を推奨
- キイトルーダの卵巣癌試験が成功
- 心ミオシン阻害剤の実薬対照試験が成功
- ノボ、週一回皮下注用成長ホルモンを3疾患に適応拡大申請
- Tavere社、FilspariをFSGSに適応拡大申請
- インサイトの抗PD-1抗体が肛門管癌に適応拡大
- アッヴィのADCが承認
- MSDのHIF-2アルファ阻害剤がPPGLに適応拡大
- FDAがcetirizineの稀だが深刻な離脱症状を警告
- 米国も高齢者のIxchiq接種を停止へ
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【今週の話題】
EMA、今冬のCOVID-19ワクチンにLP.8.1株を推奨
(2025年5月16日発表)
EMAのETF(非常事態タスク・フォース)は25/26年シーズンのCOVID-19ワクチンにLP.8.1株抗原を配合するようメーカーに求めるよう推奨した。現行のJN.1株またはKP.2株ベースのワクチンで良しとするWHOと見解が分かれた。
LP.8.1株はオミクロンJN.1系統の変異株で、受容体結合親和性が高く、感染やワクチン接種による免疫から逃避する能力も高い。MC.10などの新規変異株と比べても増殖有意性を持つ。米国では4月27日の週の感染例の7割を占めた(CDC推定)。欧州でも増加している。
対応ワクチンが導入されるまでは現在承認されているワクチンの使用を容認する。
米国政府は新規変異株対応COVID-19ワクチンの承認に際して大規模な偽薬対照試験を求める可能性が浮上してきている模様だが、ETFは現行の試験で十分と評価している。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: EMAの説明資料
【新薬開発】
キイトルーダの卵巣癌試験が成功
(2025年5月15日発表)
MSDはKeytruda(pembrolizumab)が第3相白金抵抗性卵巣癌試験の中間解析で主目的を達成したと発表した。データは未発表。卵巣癌領域で初めて適応拡大申請に向かうのではないか。
この日本の施設も参加したKyeNote-B96/ENGOT-ov65試験は、paclitaxel(bevacizumab追加可)をベースにKeytruda 400mgの3週毎最大18回点滴静注を追加する群と偽薬を追加する群のPFS(無進行生存期間、独立データ監視委員会査読)を比較した。PD-L1陽性(CPS≧1)サブグループと全被験者の二つの解析とも成功した。副次的評価項目の全生存期間はCPS≧1サブグループの解析が成功、全体の解析は継続追跡する。
尚、同社がClinicalTrials.govに届け出た治験登録では本試験の主評価項目は治験医評価に基づくPFSのみとなっており、最近になって変更した、あるいは、適応拡大申請に際して審査機関と別途握ったものと推測される。
リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 治験登録(ClinicalTrials.gov)
心ミオシン阻害剤の実薬対照試験が成功
(2025年5月13日発表)
Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)は、CK-3773274(aficamten)が第3相MAPLE-HCM試験で主目的を達成したと発表した。データは未発表。
この心ミオシン阻害剤は左心室流出閉塞を伴う症候性肥大型心筋症用薬として欧米で承認申請中。米国の審査期限は9月26日だったが、4ヶ月も前に3ヶ月延期された。承認申請後に要求されたREMS(リスク評価緩和戦略)を追加提出したことが申請内容の主要な変更と見なされたため。通常の審査期間延長事例は、期限の1~2ヶ月前に追加提出した場合が多く、変な感じだ。
今回の試験も承認申請時のSEQUOIA-HCM試験と同様に、対象は閉塞性症候性肥大型心筋症、主目的はCPET(心肺運動テスト)に基づくpVO2(最高酸素摂取量)改善作用だが、対照群が偽薬ではなくベータ・ブロッカーのmetoprolol。便益だけでなく忍容性も上回った模様だ。metoprololの運動機能改善作用は確立していないようなので、意義は良く分からない。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
ノボ、週一回皮下注用成長ホルモンを3疾患に適応拡大申請
(2025年5月12日発表)
ノボ ノルディスクはSogroya(somapacitan)の第3相REAL8バスケット試験のデータを学会発表すると共に、4月に欧米で適応拡大申請していたことを明らかにした。SGA(低出生体重児)、ISS(特発性低身長症)、NS(ヌーナン症候群)の3疾患の思春期前患者で身長ベロシティがsomatropin一日一回皮下注群と同等又はそれ以上だった。
どちらも遺伝子組換え型成長ホルモン製剤。SGAサブグループでは身長ベロシティ年率が11.0cmとなりsomatropin高量群の11.1cmと非劣性、低量群の9.4cm比優越性だった。ISSでは両群10.5cmで非劣性、NSでは10.4cm対9.2cmで優越性が示された。
リンク: 同社のプレスリリース
リンク: ヌーナン症候群の解説(難病情報センター)
Tavere社、FilspariをFSGSに適応拡大申請
(2025年5月13日発表)
Tavere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、Filspari(sparsentan)をFSGS(巣状分節状糸球体硬化症)の治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。審査期限は26年1月13日。FDAは諮問委員会上程を計画している。
23年に米国で、24年にはEUでもIgA腎症治療薬として承認された、アンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のアンタゴニスト。ブリストル マイヤーズ スクイブのBMS-346567を、変遷を経て、Ligand Pharmaceuticalsからライセンスした。
主エビデンスは8歳以上の原発性FSGS患者371人を組入れた第3相DUPLEX試験。主評価項目であるeGFR(推算糸球体濾過量)は対照薬のirbesartanを有意に上回らなかった。副次的評価項目の蛋白尿は減少率が有意に上回ったが、FDAはそれだけでは不十分との見解を示していたので、申請が受理されたのは取り敢えず朗報。一方、優先審査指定されなかったのは当方に載っては失望的。諮問委員会招集は、少なくともFDA上の位置づけは審査担当者が専門家とかけ離れた評価をしないよう牽制するためのものなので、良くもあり悪くもある。
FSGSは腎臓の糸球体硬化により腎機能が進行性に低下する。欧米の患者数は各4万人。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
インサイトの抗PD-1抗体が肛門管癌に適応拡大
(2025年5月15日発表)
FDAはインサイト(Nasdaq:INCY)のZynyz(retifanlimab-dlwr)を成人の切除不能局所再発/転移肛門管扁平上皮腫に適応拡大した。一次治療にはcarboplatin及びpaclitaxelと併用し、白金薬ベース化学療法に進行した、または、不耐の患者には単剤投与する。前者はPODIUM-303/InterAACT 2試験(308人)でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が9.3ヶ月とZynyzの代わりに偽薬を併用した対照群の7.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63だった。全生存期間の中間解析は所定の閾値に達していないが、ハザードレシオ0.70、メジアン値は29.2ヶ月対23.0ヶ月と好ましい方向を指しており、偽薬群の45%が進行後にZynyzにクロスオーバーしたことも考えれば中々のものだ。
後者のエビデンスは21年に新薬承認申請した時と同じ第2相POD1UM-202試験。cORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が14%、メジアン反応持続期間は9.5ヶ月だったが、前回は、FDAも諮問委員会も、それだけでは延命またはそれに準じる便益に繋がるとは限らないとして、挙証不十分と判定した。
ZynyzはMacroGenicsからライセンスした抗PD-1抗体。23~24年に米欧で転移/難治局所進行性メルケル細胞腫用薬として承認された。
リンク: FDAのプレスリリース
アッヴィのADCが承認
(2025年5月14日発表)
アッヴィはFDAがEmrelis(telisotuzumab vedotin-tllv)を加速承認したと発表した。成人の治療歴のあるc-MET過剰発現型局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に1.9mg/kgを2週毎点滴静注する。第2相LUMINOSITY試験(該当症例は84人)でORR(客観的反応率)が35%、メジアン反応持続期間は7.2ヶ月だった。警告・事前注意事項は末梢神経症、間質性肺疾患/肺臓炎、眼表面疾患、点滴関連反応、胚胎毒性。コンパニオン診断薬として承認されたロシュのVENTANA MET (SP44) RxDxアッセイで染色検査して、50%以上の腫瘍細胞で3+(強度)であった場合にc-MET過剰発現と判定される。EGFR変異を持たない非扁平上皮非小細胞性肺癌の25%が該当するようだ。
非小細胞性肺癌は様々な薬が選択肢になりうるので使い分けや順番に関する情報が重要だ。cMET過剰発現とEGFR変異は多くの場合排他的なようなので、EGFR阻害剤とは棲み分けそうだ。上記試験の被験者の96%は白金薬、82%は抗PD-(L)1抗体の使用歴を持っているので、少なくともエビデンス上は、これらの薬の後に使うことになるだろう。
リンク: 同社のプレスリリース
MSDのHIF-2アルファ阻害剤がPPGLに適応拡大
(2025年5月14日発表)
FDAはMSDのWelireg(belzutifan)を12歳以上の、手術や治癒的治療が適さない局所進行、切除不能、または転移性の、PPGL(褐色細胞腫・傍神経節腫)に適応拡大した。120mg(但し体重40kg未満の小児は80mg)を一日一回、経口投与する。72人を組入れた第2相試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が26%、メジアン反応持続期間は20.4ヶ月だった。有害事象は貧血、疲労、筋骨格痛、リンパ球減少、肝機能検査値異常など。
21年に米国で、今年2月にはEUでも加速/条件付き承認された経口HIF-2アルファ阻害剤。米国では即時手術が不要なVHL(フォン・ヒッペル・リンドウ)病関連腎細胞腫や中枢神経系血管芽細胞腫、膵神経内分泌腫瘍、そして23年には抗PD-(L)1抗体とVEGFチロシン・キナーゼ阻害剤歴のある進行腎細部腫にも、承認された。日本でもVHL病関連腫瘍に承認申請中。
今回のPPGLは希少な副腎疾患で、米国では年2000人世界では52800人が発症すると推測されている。
リンク: FDAのプレスリリース
【医薬品の安全性】
FDAがcetirizineの稀だが深刻な離脱症状を警告
(2025年5月16日発表)
FDAは、抗ヒスタミンcetirizineとその異性体薬levocetirizineを長期服用後に中止して深刻な掻痒を発症した症例があるため、メーカーに添付文書の改訂を求める。アレルギー性鼻炎の代表的な治療薬の一つで、米国では2022年にOTC版が6270万箱販売され、処方薬は930万枚、処方されているため、発生頻度はごく稀と言えるのでないか。
FDAの有害事象報告システムには離脱後掻痒症例が17~23年に209件、届出された。過半はOTC版を使用していた。多くは数年に亘り毎日服用しており、服用期間が長いほど報告数が増える様子が見られるが、1週間だけの患者もいた。発症は中止の1~5日後。服用開始前には掻痒の経験はなかった。痛みが酷くて寝たきりになるなど深刻例もあった。発症後に服用を再開した79人のうち71人は掻痒が解消した。その後に再び中止した症例では再発リスクが見られ、用量漸減により再発を防げた症例もあった。これらのことから、FDAは、機序は不明だが因果関係があると判定した。
リンク: FDAの安全性情報
米国も高齢者のIxchiq接種を停止へ
(2025年5月12日発表)
FDAとCDC(疾病管理予防センター)は、フランスのValneva(Euronext Paris:VLA)のチクングニア熱弱毒化生ワクチン、Ixchiqに関して、60歳以上の接種を停止するよう推奨すると発表した。EUでもEMA(欧州薬品庁)が5月5日付で65歳以上に接種しないよう暫定的な勧告を行っている(第1206回で報告)。
チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症。アフリカや南アジア、東南アジアで流行が見られる。死亡率は高くないが、インド洋のフランス領Reunion島では20年前に1年で15万人以上が感染し、237人が死亡したことがある。
IxchiqはこのRNAウイルスを弱毒化した生ワクチン。23~24年に米欧で承認され、流行地域の居住者や渡航者などに用いられてきた。これまでの出荷は約8万本、接種は約43400回。
臨床試験でチクングニア様有害反応(筋痛や関節炎など)の発生率が11.7%と偽薬群の0.6%を上回り、重症例だけに絞っても1.6%だったため、FDAは加速承認とし、市販後症例調査を求めた経緯がある。規制強化に踏み切ったのは、神経学的なものや心臓の深刻有害事象が散見されるため。有害事象報告システムに17例が報告され、うち米国は6例、EUは9例(うちReunionで3例)。2人が死亡した。年齢は62~89歳。ワクチンとの関連性は確立していないが、FDAによると、幾つかの症例はチクングニアによる重度感染症と矛盾していない。
チクングニア熱ワクチンでは、Bavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)のアジュバント添加ウイルス様粒子ワクチン、Vimkunyaが今年2月に欧米で承認された。臨床試験のプール分析でチクングニア様有害反応の発生率は0.4%(14人)と、偽薬群の0.3%と大差なかった。殆どの症例は筋痛/関節炎で、G3以上の症例はなかった。Ixchiqと同様に3000人程度の限られた曝露だが、これだけ違うと、Vimkunyaのほうが安心と考えざるを得ない。但し、比較可能かどうか分からないが接種6ヶ月後の抗体陽転率はIxchiqの数値のほうが高い。他の安全性指標の比較も必要だ。
リンク: FDAのプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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25/5/27 | Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症) |
25/5/31 | モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19) |
25/6推 | UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症) |
25/6/10 | MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防) |
25/6/12 | モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大) |
25/6/13 | UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌) |
25/6/17 | KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫) |
25/6/19 | ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防) |
25/6/20 | GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版) |
25/6/20 | Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加) |
25/6/23 | Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌) |
25/6/23 | MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法) |
25/6/27 | SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群) |
25/6/30 | Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病) |
諮問委員会 | |
25/5/20 | ODAC:ロシュのColumvi(glofitamab、DLBCL 2L追加)とJNJのDarzalex Faspro(daratumumab及びhyaluronidase、くすぶり型多発骨髄腫追加) |
25/5/21 | ODAC:UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin、胱内注入用、筋層非浸潤膀胱癌)とファイザーのTalzenna(talazoparib、転移性去勢抵抗性前立腺癌<相同組換修復不全型限定解除>) |
25/5/22 | VRBPAC:25/26COVID-19ワクチンの配合株 |
今週は以上です。