2024年4月13日

第1050回

【ニュース・ヘッドライン】

  • ニトロソアミン対策で治験組み入れを中断 
  • ACC:スタチンOTCスイッチの秘策 
  • 類似企業の売買もインサイダー取引になりうる 
  • アブリスボは60歳未満にも有効 
  • ACC:ApoC-IIIアンチセンス薬がTGを44%削減 
  • ACC:ウゴービの心不全試験、二本目も成功 
  • ACC:ジャディアンスの急性心筋梗塞試験はフェール 
  • バース症候群用薬の承認申請が今度は受理 
  • PCT社のパイプラインの動向 
  • ニーマン・ピックC型治療薬を承認申請 
  • Syndax社のパイプラインの動向 
  • パーキンソン病の持続点滴用新製剤がまたも審査完了に 
  • ODAC:微小残存病変に基づいて加速承認しても可 
  • カービクティが二次治療にも承認 
  • PRAC、GLP-1作用剤の自殺リスクを否定 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


ニトロソアミン対策で治験組み入れを中断
(2024年4月9日発表)

ノバルティスはCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)の早期乳癌臨床試験の新規組入れを中断すると発表した。nitrosamineの摂取規制に対応するため。Kisqaliの承認用途における使用や供給には影響なく、欧米で適応拡大を申請している早期乳癌の術後アジュバント療法の審査は予定通りに進捗と想定している由。

nitrosamineは大気や水、食品などに広く分布しているが、癌原性の疑いがあるため、摂取上限が設けられている。医薬品に関しては、ACE阻害剤の一部に懸念が指摘されたり、FDAがカリウムイオン競合アシッドブロッカーのメーカーに対応を求めた事例がある。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


ACC:スタチンOTCスイッチの秘策
(2024年4月8日発表)

コレステロール治療薬のOTCスイッチはなかなか進まず、日本では2012年にEPA製剤エパデール(イコサペント酸エチル)が中性脂肪値150~300mg/dLの人向けに承認されたが、スタチンは第1号のlovastatinを始めとして開発行き詰まりが相次ぎ、当方の知る範囲ではZocor 10mgが2004年に英国でZocor Heart-Proとして承認・発売されただけだ。ボトルネックの一つがFDAがレーベル理解度試験の実施を求めていること。適応になるかどうか、禁忌や薬物相互作用は問題ないかを自己判定させるものだが、あまり良い成績が出なかった模様だ。この難題を今風の方法で克服しようとした試験の成果がACC(米国心臓学会)とその機関誌であるJournal ofAmerican College of Cardiologyで発表された。

判定用ウェブ・サイトにコレステロール値や血圧、服用薬、心筋梗塞などの既往の有無を入力すると、向こう10年間のアテローム性心血管疾患リスクなどに基づいてCrestor(rosuvastatin)5mgの適否を、使用可、不可、または(処方薬で治療すべきなどの理由で)医師に相談の何れかで判定するもの。アストラゼネカがスポンサーとなり、スタチンのアウトカム試験で数々の成果を挙げたSteve Nissen博士らが12000人以上の人を組入れて実施した。1200人弱が適応となり、薬を発注し6ヶ月間服用したが、発注段階における正解率(医師の判定と比較)は90%だった。

この試験の弱い点は、対象の約4分の3が大卒で米国全体の5割強より高いこと。OTC薬が狙うべき、通院や処方薬を嫌がる人達とどの程度オーバーラップするか分からない。だが、危機管理の要諦は最初からゼロを目指すのではなく、先ず3割削減、達成したら更に3割削減を繰り返すことだ。治療の普及率を上昇させる一歩にはなるだろう。勿論、副作用対策に十分配慮する必要がある。

リンク: Nissenらの治験論文アブストラクト(JACC)


類似企業の売買もインサイダー取引になりうる
(2024年4月5日発表)

SEC(米国連邦証券取引委員会)がMedivation社の元社員をインサイダー取引で告訴した裁判で、連邦カリフォルニア北部地裁の陪審が違法性を認定した。16年にファイザーが同社の買収で合意した時に、公式発表の4日前に期近のアウト・オブ・ザ・マネー・コール・オプションを購入して10万ドル以上の利益を上げたというものだが、ユニークなのは、取引対象がMedivationではなくIncyte社であること。シャドウ・トレードと呼ばれているらしい。連想買いを先回りする手法自体はごくありふれたものだが、インサイダー情報が絡む場合は要注意となる。。

白と黒の境界線は良く分からない。本件では、被告は投資銀行出身で事業開発のヘッドとして様々な投資銀行から各種提案を受けたり、ファイザーとの交渉に同席したりしていた。同社は内部取引ルールとして同社で得た未公開情報に基づき上場株などを取引することを、すべての企業に関して禁じていた。ファイザーのオファー価格は81.5ドルと、Medivationが拒否したサノフィのオファー、52.5ドルを上回り、株式市場における価格より大きく上回っていた。両社が注目したのはXtandi(enzalutamide)という伸び盛りの抗癌剤を開発販売していたことと、時価総額が100~200億ドルと投資対象として手頃であったことと推察されるが、この条件に当てはまり、次の買収ターゲットになりうるのは他にIncyteくらいしかなかった。

まだ陪審段階なので、今後、判事が修正したり、控訴審で差し戻されたりする可能性があるが、SECはシャドウ・トレードの摘発に注力しているようなので、『李下に冠を正さず』。

リンク: SECのプレスリリース
リンク: SECの告訴時のプレスリリース(21年8月17日付)

【新薬開発】


アブリスボは60歳未満にも有効
(2024年4月9日発表)

ファイザーはAbrysvoが第3相MONeT試験で良績を上げたことを明らかにした。60歳以上の人や、胎児の出生後のRSV感染による下部気道疾患を予防するワクチンとして23~24年に米欧日で承認されているが、対象年齢拡大申請に向かうのではないか。

18~59歳の、RSV感染時の重症化リスクが高くなりがちな基礎疾患を持つ863人を組入れて免疫原性を検討したもの。RSV-AとRSV-Bともに、免疫原性が高齢者試験のデータと比べて非劣性だった。高齢者は免疫原性と中重度下部気道疾患の予防効果に関する相関性が明らかになっているので、非高齢成人においても予防効果が期待できることになる。中和抗体価は接種前の4倍に上昇した。

高リスク基礎疾患の内容はCOPDや喘息症、高血圧以外の心血管疾患、糖尿病などの代謝性疾患など。罹患率は18~49歳では人口の9.5%、50~64歳は24.3%とのこと。

ライバルのGSKもAbrysvoと前後してArexvyが高齢者向けに承認され、日欧米で50~59歳の高リスク向けに承認申請中。

リンク: ファイザーのプレスリリース


ACC:ApoC-IIIアンチセンス薬がTGを44%削減
(2024年4月7日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)はolezarsenの第3相家族性カイロミクロン血症候群(FCS)試験、Balanceの結果をACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。18歳以上の患者66人を組入れて低脂肪食と標準療法に追加する便益を検討したもので、偽薬、50mg、または80mgを4週毎に皮下注して半年間のトリグリセライド値(ベースライン値は2630mg/dL)の変化を比較したところ、80mgは偽薬調整後で44%低下し、統計的に有意だった。50mgは22%に留まり有意ではなかった。

被験者の7割は過去10年間に急性膵炎を経験しており、本試験でも53週の治療期間中に偽薬群は23人中11人が発症したが、80mg群は22人中1人、50mg群も21人中1人に留まった。深刻有害事象の発生率は、各群、39%、14%、19%だった。

FCSは100万人に1~2人の超希少疾患。リポプロテイン・リパーゼの欠乏や機能低下によりカイロミクロンを分解できない。同社が創製したWaylivra(volanesorsen)が欧州などで承認されているが、米国は血小板減少症リスクなどから承認されなかった。olezarsenは類薬で、トリグリセライドの代謝を制御するApoC-IIIの発現を抑制する。低量で長期間作用するため安全性の向上が期待され、今回の試験でも臨床的に重要な血小板減少は見られなかった。

24年に欧米で承認申請する考え。同社はアンチセンス技術をもとに脊髄性筋萎縮症用薬Spinraza(nusinersen)など数多くの医薬品の創製に成功した実績を持つが、自社開発・販売するのはolezarsenが初めてになる。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Stroesらの治験論文アブストラクト(NEJM)


ACC:ウゴービの心不全試験、二本目も成功
(2024年4月6日発表)

ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤、semaglutideを駆出率保持心不全の治療に用いたSTEP-HFpEF-DM試験の結果がACCとNEJM誌で発表された。二型糖尿病を併発する患者にも有益であることが明らかになった。

BMIが30kg/m2以上で二型糖尿病の成人616人を組入れて偽薬または2.4mgを週一回、52週間に亘り皮下注したところ、KCCQ-CSS(カンザスシティ心筋症質問票臨床要約スコア)が各群6.4点と13.7点上昇し、有意な差があった。共同主評価項目である体重も3.4%減と9.8%減で有意。副次的評価項目の6分歩行テストも群間差が14.3メートルと好ましい結果が出た。

本試験と対をなす、二型糖尿病以外を組入れたSTEP-HFpEF試験も昨年8月に成功が発表されている。KCCQ-CSSの上昇は8.7点対16.6点、体重減は2.6%と13.3%、6分歩行テストは1.2メートル増と21.5メートル増で群間差20メートルと、まあまあ似たような成績になっている。

同社はこの二本の試験に基づき適応拡大を申請中。承認された場合、製品名はWegovy(体重管理用途における名称)になるのだろうか、Ozempic(二型糖尿病における名称)になるのだろうか?(いずれにせよ、やがて経口投与できるRybelsusに置き換わるのだろうが)。

リンク: Kosiborodらの治験論文アブストラクト(NEJM)


ACC:ジャディアンスの急性心筋梗塞試験はフェール
(2024年4月6日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT-2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)の心筋梗塞急性期試験、EMPACT-MIの結果もACCとNEJMで発表された。入院後14日以内の、心不全や死亡リスクの高い約6500人を偽薬群と10mg一日一回群に無作為化割付けして心不全による入院や全死亡を観察したところ、メジアン追跡期間17.9ヶ月における発生率が各群9.1%と8.2%と若干改善したもののハザードレシオは0.90で有意水準に届かなかった。死亡は各群5.5%と5.2%、心不全入院は3.6%と4.7%だった。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Butlerらの治験論文アブストラクト(NEJM)

【承認申請】


バース症候群用薬の承認申請が今度は受理
(2024年4月8日発表)

米国マサチューセッツ州の新興医薬品開発会社、Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は、MTP-131(elamipretide)をバース症候群の治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。フェールした第2/3相試験に基づくもので、FDA側は懐疑的だったが承認申請を断行。受理されなかったが、患者支援団体の支援を得て、セカンド・チャンスを掴んだ。但し、エビデンスが脆弱であることには変わりなく、優先審査指定されなかったところを見ても、承認の見通しが改善したとは考えにくいが、FDAの上層部が難病用薬の承認基準を引き下げる姿勢を見せているのが追い風だ。FDAは諮問委員会を招集する考え。

バース症候群はX染色体上の遺伝子変異が原因でエネルギー生成が追い付かず、心不全や不整脈、白血球減少などを発現する。ほぼ全員が男性で、罹患率は男性100万人に一人と推定されている。ミトコンドリア標的ペプチド(MTP)のMTP-131はミトコンドリアのcardiolipinに結合しミトコンドリア膜の構造を正常化、機能を改善すると考えられている。

第2/3相TAZPOWER試験で12人の患者を組入れて、偽薬または40mgを一日一回、12週に亘り皮下注射したところ、試験薬群(平均年齢23歳)の6分歩行テスト(6MWT)がベースライン値の400メートルから443メートルに改善したが、偽薬群(平均年齢16歳)も413メートルから444メートルに改善したため、フェールした。そこで、第3相SPIBA-001試験としてTAZPOWER試験(オープンレーベル延長試験も含む)のデータをジョンズ・ホプキンズの19人の自然歴データと比較したところ、6MWTの改善が80メートル超対1メートル足らずとなり、高度に有意な差が見られた。

今回の申請はTAZPOWER試験の長期追跡データが追加されているが、決定的なエビデンスではないだろうから、前回と大きな違いはなさそうだ。

治験成績の評価に難渋しているのはFDAだけではないようだ。上記数値はNIH(米国立衛生研究所)が管轄するClinicalTrials.govに基づくが、NIHの品質チェックを通過できず、3月に改めて提出されたようだ。通過しようがしまいが30日以内に公表されるので、まもなく、何か変更されたのか、それとも無修正か、明らかになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


PCT社のパイプラインの動向
(2024年3月28日発表)

PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)の最近の承認申請の動きを遅ればせながら報告する。まず、PTC923(sepiapterin)を3月にEUでフェニルケトン尿症(PKU)治療薬として承認申請した。米国は7-9月期に、日本やブラジルでも24年内に、承認申請する予定。PKU患者が欠乏するBH4の前駆体であるセピアプテリンを化学合成した経口剤で、2020年にCensa Pharmaceuticalsを5100万ドルで買収して入手したもの。尚、BH4を化学合成した経口剤がバイオマリンのPKU治療薬Kuvan(sapropterin)/第一三共のビオプテンである。

米国では3月にUpstaza(eladocagene exuparvovec)を常染色体性劣性遺伝性疾患であるAADC(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症治療薬として承認申請した。ドーパミンなどの生成に必要なAADCの遺伝子であるDDCをアデノ随伴ウイルス2型をベクターとして脳の被殻に導入する。EUでは22年7月に台湾で実施された臨床試験に基づいて例外的環境条項による承認を取得したが、米国は臨床試験で用いた薬剤と量産品の同等性をさらに確認するよう求められたため、遅れた。

Translarna(ataluren)は14年にEUでデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェ-ルしたため、24年1月にCHMPが条件付き承認の年次更新をしないよう勧告した。米国では承認すらされなかったが、驚いたことに、FDAからのフィードバックに基づき24年央に再承認申請する考えを発表した。

リンク: 同社のプレスリリース(PKU用薬申請、3/28付)
リンク: 同(AADC欠乏症用薬申請など、3/19付)


ニーマン・ピックC型治療薬を承認申請
(2024年3月26日発表)

米国テキサス州の未上場医薬品開発会社、IntraBioは、IB1001をニーマン・ピック病C型治療薬として1月に承認申請し、3月に受理された。優先審査を受け、審査期限は24年9月24日。欧州でも4-6月期に承認申請予定。

リソソームの機能などに関わるN-アセチル-L-ロイシンの経口剤。欧米豪の施設で4歳以上の中重度症状を伴う患者80人を組入れた試験で、第12週の運動失調評価尺度(SARA)がベースラインの15.8から1.97低下し、偽薬群の0.60低下を有意に上回った。有害事象は両群同程度だった。

ニーマン・ピック病のうちA型とB型は酸性スフィンゴミエリナーゼの欠乏が見られ、ジェンザイムのXenpozyme(olipudase alfa-rpcp)が適応になるが、C型はNPC1やNPC2の変異が影響していて、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのZavesca(miglustat)がEUや日本で承認されているが米国は臨床試験がフェールしたことなどから未承認。

リンク: 同社のプレスリリース


Syndax社のパイプラインの動向
(2024年3月26日発表)

遅報第3弾はSyndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)。SNDX-5613(revumenib)を成人小児の難治再発KMT2A再編成型急性白血病用薬として米国で承認申請し、3月に受理された。優先審査を受け、審査期限は24年9月26日。急性白血病の5~10%を占める、ヒストンメチル化酵素の遺伝子再編成のある患者にmenin阻害剤を投与して結合を妨げる。昨年10月の発表によると、第2相試験の二つのコフォートに94人を組入れ、評価可能57人における完全/部分的完全寛解率を調べたところ、23%でメジアン反応持続期間は6.4ヶ月だった。

UCBからライセンスしてIncyte社と共同開発している抗CSF-1R抗体axatilimabも昨年12月に6歳以上の小児と成人の慢性移植片対宿主病の3次治療薬として承認申請した。ピボタル第2相試験で0.3mg/kgを2週毎に投与した群のORR(客観的反応率)が74%、1.0mg/kg2週毎の群は67%、3.0mg/kg4週毎群は50%だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


パーキンソン病の持続点滴用新製剤がまたも審査完了に
(2024年4月8日発表)

Supernus Pharmaceuticals(Nasdaq:SUPN)はSPN-830(apomorphine点滴ポンプ)をパーキンソン病のオフ・タイム症状を抑制する医薬品・医療機器として承認申請したが、二回目の審査完了通知を受領した。最初の申請は受理されず、一回目の審査完了通知の一因であった生産委託先の査察は2月に完了したが、先方が企業秘密事項としてFDAに提出したドラッグ・マスター・ファイル関連の事項と、当社が追加提出したがまだ審査されていない品質関連の指摘事項が、未解決のようだ。FDAと協議する考え。

パーキンソン病はドーパミン製剤やドーパミン作用剤がよく効くが、次第に作用時間が短くなり、症状が現れるオフ・タイムが長期化していく。SPN-830は薬剤を皮下に持続点滴する機器で、US WorldMedsがBrittania Pharmaceuticalsと共同開発した。Supernusは20年にUS WorldMedsの中枢神経系製品・開発品群を買収して入手した。

類似した製品では、アッヴィのfoslevodopa・foscarbidopa持続皮下注入用も欧州(Produodopa名)と日本(ヴィアレブ名)では22年に承認されたが、米国はポンプに関する追加情報が必要として審査完了通知を受領し、昨年12月に追加申請したところ。医薬品と医療機器を組み合わせたハイブリッド承認申請は業際分野でもあるためか、スムーズにいかないことがしばしばある。

リンク: Supernusのプレスリリース


ODAC:微小残存病変に基づいて加速承認しても可
(2024年4月12日開催)

FDAがODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集しMRD(微小残存病変)に基づいて多発骨髄腫用薬を承認する妥当性について意見を求めたところ、12人全員が賛成した。新薬開発期間が著しく長期化したり、今より効果の高いレジメンが埋もれてしまったりするのを防ぐ効果がありそうだ。PFS(無進行生存期間)や全生存期間による評価がベストであることには変わりないが、一次治療などにおいては、MRDに基づいて加速承認しPFSで本承認に切替える事例が増えていくだろう。

多発骨髄腫はthalidomideを皮切りに新薬が続々承認され、昔は再発した時のために取っておかざるを得なかった薬を最初から多剤併用することも可能になった。プロテアーゼ阻害剤と免疫調節剤と抗CD38抗体とdexamethasoneによる治療歴を持つ患者の4次治療薬として承認された薬がプロテアーゼ阻害剤と抗CD38抗体とdexamethasoneによる治療歴を持ち免疫調節剤抵抗性の患者の2次治療に適応拡大、などという事例も出てきた。多剤併用で効果も高まっていくが、標準療法の効果が高ければ高いほど、それを上回るべき新レジメンの臨床試験の必要組入れ数や追跡期間が増加していく。ORR(客観的反応率)が100%に達したら、それを上回るレジメンはもう出てこない。完治率100%ならそれでも良いが、血液学の反応は長期持続しないので、さらに向上する余地がある。

対策がMRDだ。次世代シーケンサーを用いて、10万細胞中1個、あるいは100万細胞中1個という感度で腫瘍細胞の有無を判定する。過去の臨床試験のメタアナリシスで、9ヶ月前後の時点でMRD陰性だった患者は陽性の患者より無進行生存や全生存のオッズが数倍高かった。

昨年12月のASH(米国血液学会)ではサノフィの抗CD38抗体Sarclisa(isatuximab-irfc)の第3相IsKia試験におけるMRD評価が発表された。新患造血幹細胞移植適格多発骨髄腫における標準的レジメンであるKRdレジメン(carfilzomib、lenalidomide、dexamethasone)に追加する便益を検討したところ、インダクション、自家造血幹細胞移植、地固め療法を経て77%がMRD陰性(感度は10万細胞に1個)となった。標準療法群は67%で、オッズ比は1.67、p=0.049だった。もし適応拡大申請しているとしたら、MRDに基づく加速承認第1号になるかもしれない。

この方法の短所は、製薬会社がMRDばかり重視して、延命効果があるかもしれないがMRDにはあまり効かなそうなコンパウンドの開発を後回しにするかもしれない。対策として、FDAは、一本の試験でまずMRDを評価し、平凡ならそのまま、良好なら加速承認を申請して後にPFS解析が成功したら承認申請/本承認切替申請することを推奨している。

重大な短所は有害事象の追跡期間が短くなること。ORR(客観的反応率)が良いのにPFSは悪い、という場合は副作用が原因だろうから、一本の試験でMRDとPFSを評価するやり方は長期安全性を検証する上でも有効なのではないか。

リンク: FDAの諮問委員会に関する資料掲載頁

【承認】


カービクティが二次治療にも承認
(2024年4月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Carvykti(ciltacabtagene autoleucel)が米国で成人の再発難治多発骨髄腫の二次治療薬として承認されたと発表した。プロテアソーム阻害剤と免疫調停剤による治療歴とlenalidomideに抵抗性を示した患者が適応になる。BCMA標的型CAR-T療法で22年に米欧日で4次治療薬として承認されたが、2次治療や3次治療で使えるようになったため対象人口が12万人と6倍近くに増加する。

既存の多剤併用療法であるPVdレジメンやDPdレジメンと比較したCARTITUDE-4試験でPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.41、全生存の解析は未成熟だが34%到達時点でハザードレシオが0.78と好ましい方向を指していた。当初10ヶ月の死亡率が14%対12%と上回ったのは残念だが、投与前の死亡が上回ったようなので、アフィレーシスから薬剤投与まで時間がかかることや、投与前の前処理に用いる抗癌剤の影響もあるのだろう。患者にとっては気休めにならないが。

リンク: JNJのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、GLP-1作用剤の自殺リスクを否定
(2024年4月12日発表)

EMAのファーマコビジランス委員会、PRACは、GLP-1作用剤の自殺・自傷リスクを検討した結果、因果関係を示すエビデンスはないと結論した。昨年7月にアイスランドの動議により検討を開始したが、Nature Medicine誌で刊行されたTriNetX Analytics Networkの後顧的コフォート研究でも、EMAが行った分析でも、リスクの増加は見られなかった。

FDAも1月にリスク上昇は見られないという予備的検討の結果を発表している。

リンク: EMAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
24/4/30Neurocrine BiosciencesのIngrezza(valbenazine顆粒製剤、ジスキネジアなど
24/5/9ファイザーのTivdak(tisotumab vedotin-tftv、難治/転移子宮頸癌に本承認切替)
24/5/12モデルナのmRNA-1345(RSVワクチン)
24/5/13Dynavax TechnologiesのHEPLISAV-B(血液透析中の成人のB型肝炎予防を追加)
24/5/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/5/16 Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫)
24/5/22ロシュのAlecensa(alectinib、ALK+NSCLC術後アジュバント)
24/5/23BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治リンパ腫)
24/5/25Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
24/5/31BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫)



今週は以上です。

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