2024年1月13日

第1137回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アルコン、新規作用機序のドライアイ治療薬を承認申請へ 
  • バイエルも非エストロゲン系VMS治療薬を承認申請へ 
  • セムブリックスの一次治療試験が成功 
  • 経口エダラボンのALS試験がフェール 
  • ファイザー、TF標的ADCの本承認切替を申請 
  • アステラス、画期的新薬の承認がお預けに 
  • キイトルーダの子宮頸癌CRT併用が承認 
  • EMA:男性がvalproateを服用する場合も要注意 
  • FDA、GLP-1受容体アゴニストの自殺リスクに否定的 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


アルコン、新規作用機序のドライアイ治療薬を承認申請へ
(2024年1月9日発表)

スイスのアルコン(SIX/NYSE:ALC)は、AR-15512の第3相ドライアイ試験二本で主目的を達成したと発表した。年央に米国で承認申請する考え。

ドライアイの治療は人口涙液に加えて、近年はボシュロムのLFA-1阻害剤Xiidra点眼薬(lifitegrast)やOyster Point Pharma(Nasdaq:OYST)のTyrvaya(varenicline)点鼻スプレーなどの画期的新薬が登場してきている。AR-15512はメンソールの誘導体で、瞼や角膜に分布する、蒸発による冷感を感受する冷受容体、TRPM8(transient receptor potential melastatin 8)を作動する。第3相のCOMET-2試験と同3試験は合わせて930人超のドライアイ患者を組入れて0.003%点眼液を一日二回投与し、奏効率(第14日に非麻酔下シルマー検査値が10mm以上改善した患者の比率)を偽薬と比較したところ、p値が0.0001を下回った。オンセットや持続性も良好で、改善は第1日から見られ、第90日でも持続していた。

アルコンが22年に株式価値ベース7.7億ドルで買収したAerie Pharmaceuticalsが、その3年前にスペインのAvizorex Pharmaを買収して入手したもの。

リンク: アルコンのプレスリリース


バイエルも非エストロゲン系VMS治療薬を承認申請へ
(2024年1月8日発表)

バイエルはBAY3427080(elinzanetant)の第3相VMS(血管運動性症状)試験が二本とも成功したと発表した。OASIS-1と2で60mgカプセル2個を一日一回、12週間投与する効果を偽薬と比較したところ、第4週と第12週の中重度ホットフラッシュの頻度と重症度に有意な差があった。QOLなど主要副次的評価項目の解析も成功した。データは今後、発表する。1年安全性確認試験の結果が数ヶ月後に判明するのを待って承認申請に向かう予定。

GSKのニューロキニン受容体パイプラインを引き継いでスピンアウトしたKaNDy Therapeuticsを20年に買収して入手した、NK-1,3受容体のデュアル・アンタゴニスト。類薬ではアステラス製薬のNK-3受容体アンタゴニスト、Veozah(fezolinetant)が23年に欧米で承認されたが、肝障害のリスクがあるため定期的に肝機能検査を行う必要がある。また、有害事象に不眠症がリストアップされている。elinzanetantの肝毒性については今回のバイエルのプレスリリースでは特に言及されていない。一方、睡眠障害は副次的薬効評価項目の一つに設定され、偽薬比有意な改善効果が見られた。別途、閉経期睡眠障害の第2相試験も進行中で、第3相も含めて再現されるならば、デュアル・アンタゴニストの強みとしてVeozahと差別化要因になりうる。

リンク: バイエルのプレスリリース


セムブリックスの一次治療試験が成功
(2024年1月8日発表)

ノバルティスはScemblix(asciminib)の第3相新患フィラデルフィア染色体陽性慢性期慢性骨髄性白血病(Ph+CML-CP)試験で主目的を達成したと発表した。データは公表されていないが、類薬と比べて統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。忍容性も良好とのこと。適応拡大申請に向かうだろう。

Ph+CMLの代表的な治療薬であるBCR-ABL阻害剤の一つだが、既存薬がATP競合的阻害剤であるのに対して、ABLミリストイル・ポケットを阻害するアロステリック・インヒビターであるため、既存薬に耐性変異を生じた癌にも有効な可能性がある。21~22年に米日欧で承認された。米国では2種類以上の治療歴を持つ、またはT315I変異のある、Ph+CML-CPに加速承認されているが、今回の成功で本承認切替も可能なのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース


経口エダラボンのALS試験がフェール
(2024年1月10日発表)

スペインのFerrer社は欧州の施設で実施したedaravone経口製剤の第3相ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験がフェールしたと発表した。100mgを一日一回、48週間投与したが、主評価項目のALSFRS-Rも、主要な副次的評価項目も、偽薬群と大差なかった。

edaravoneは田辺三菱製薬が脳梗塞急性期治療薬ラジカットとして日本で実用化、15~17年には日米でALSに適応拡大、22年には日米で経口液新製剤も承認されたが、欧州では未承認。FerrerのFAB122はオランダのTreeway社からライセンスしたもので、田辺三菱とは異なった製剤の模様だ。日本のALS試験が成功し欧州試験がフェールした理由は明らかではないが、ラジカットも脳梗塞用途でも欧米試験はフェールした模様であり、人種や医療風土の影響もあるのかもしれない。

リンク: Ferrerのプレスリリース

【承認申請】


ファイザー、TF標的ADCの本承認切替を申請
(2024年1月9日発表)

ファイザーはTivdak(tisotumab vedotin-tftv)の本承認切替を申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は24年5月9日。米国外でも承認申請する考えだ。

昨年12月に企業価値430億ドルで買収したSeagenがジェンマブから共同開発販売権を取得したTF(組織因子)を標的とする抗体薬物複合体。21年に第2相試験の反応率データなどに基づき難治/転移子宮頸癌に用いることが加速承認された。第3相innovaTV 301試験で1次治療歴を持つ難治/転移子宮頸癌におけるメジアン生存期間が11.5ヶ月と、医師が選んだ化学療法を用いた群の9.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


アステラス、画期的新薬の承認がお預けに
(2024年1月9日発表)

アステラス製薬は23年に日米欧でzolbetuximabを承認申請したが、米国は審査完了通知を受領した。FDAが生産委託先の査察時に、対応すべき事項を発見したため。薬効や安全性に関する懸念は表明されていない由。

承認審査時に査察を行うのは米国だけなので日欧はスルーするかもしれないが、FDAはEUなどとの情報交換を活発化しているため、油断すべきではないだろう。

BioNTechの創業者であるUgur Sahin、Ozlem Tureci夫妻が設立したGanymed Pharmaceuticalsを16年に完全子会社化して入手したキメラ抗体で、胃腸線癌の多くで高発現するclaudin 18.2が標的。claudin 18.2陽性her2陰性の切除不能局所進行性/転移性胃・食道胃接合部腺腫の一次治療にmFOLFOX6またはCAPOXレジメンと併用する用途用法で申請された。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)

【承認】


キイトルーダの子宮頸癌CRT併用が承認
(2024年1月12日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)の適応拡大を承認した。FIGO 2014病期分類でステージIII~IVAと判定された未治療の子宮頸癌に、化学放射線療法と併用で200mgを3週サイクルで5回投与し、その後も400mgを6週毎に最大15回投与する。エビデンスとなるKeyNote-A18試験はステージIB2~IIBでリンパ節転移のある患者も組入れたが、このサブグループには十分な効果が見られなかった。このため、FDAはPFS(無進行生存期間)の偽薬追加群比ハザードレシオが0.59だったステージIII~IVAに限定して承認した。全生存期間の解析は未成熟だが、昨年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると、ステージIB2~IIBも含む解析でハザードレシオ0.73(95%信頼区間0.49-1.07)と好ましい方向を向いている。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMA:男性がvalproateを服用する場合も要注意
(2024年1月12日発表)

EMA(欧州薬品庁)のPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は抗癲癇薬valproateの警告を強化するよう勧告した。癲癇や双極障害、EUの一部の国では片頭痛にも承認されているが、服用中の女性が出産すると子供の神経発達障害が100人当り30~40人と、高頻度で発生することが知られている。今回、男性服用者の子供もリスクが高まる可能性が浮上した。デンマークなど北欧3国の患者登録データの後顧的研究で、妊娠前3ヶ月間に服用していた男性の子供における発生率が100人当り5人と、lamotrigineまたはlevetiracetam服用例の100人当り3人より高く、ハザードレシオは1.5倍だった。尤も、患者背景や服用期間に偏りがあるため、因果関係が確立したとは言えない。EUはvalproateを処方する医療施設向けにDHPC(直接的医療従事者向け通信)を送付する予定。

英国は先月、もっと厳しい規制を決定した。55歳以下の男女に新規に処方する場合は、二人以上の専門医が、独立して、他に適切な治療法がない、またはリスクが当てはまらないことを確認することを義務付けた。

リンク: EMAのプレスリリース


FDA、GLP-1受容体アゴニストの自殺リスクに否定的
(2024年1月11日発表)

FDAはGLP-1受容体アゴニストの自殺思慮・実行リスクを検討しているが、予備的な分析では明確な関連性は見つからなかったと発表した。FAERS(FDAの有害事象報告システム)に届出された症例を検討したが、多くの場合、情報は限定的で、他の要素にも影響されうる。臨床試験のデータでも関連性は見られなかった。

今後、全てのGLP-1作用剤の臨床試験のメタアナリシスや、Sentinel Systemに登録されている医療保険、薬剤費給付組織、大学病院などの医療記録の分析を行って、結論を出す考え。

この問題はEMAも昨年7月に検討を開始した。semaglutideとliraglutaideの曝露2000万人年超における自傷/自殺思慮可能例が150例報告されていた由。一方、Nature Medicine論文によると、TriNetX Analytics Networkの電子医療記録を用いた後顧的コフォート研究ではsemaglutideを用いた二型糖尿病/肥満症患者の自殺思慮リスクは用いなかった患者より低かった。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)




今週は以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿