2024年1月21日

第1138回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO GI:MSI-H/dMMR結腸直腸癌にチェックポイント阻害剤併用が大変良い成績 
  • ASCO GI:ルタテラの一次治療試験が成功 
  • ASCO GI:イミフィンジのTACE併用試験が成功したが... 
  • ASCO GI:ロシュ、抗PD-L1と抗TIGHTの併用試験が成功したが... 
  • ASCO GI:キノコ成分が第2相膵癌試験で良績 
  • FDA、JNJの汎FGFR阻害剤を本承認 
  • CRISPER/Cas9薬がベータサラセミアにも承認 
  • 武田の皮下注用免疫グロブリンが適応拡大 
  • FDA、プラリアの低カルシウム血症リスクを枠付き警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ASCO GI:MSI-H/dMMR結腸直腸癌にチェックポイント阻害剤併用が大変良い成績
(2024年1月20日発表)

ブリストル・マイヤーズ・スクイブはASCO GI(米国臨床腫瘍学会胃腸癌シンポジウム)で第3相CheckMate-8HW試験の主目的の一つを達成したと発表した。同社は抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用レジメンを様々な腫瘍にテストしているが、対照試験の成績としてはこれまでにない程の良績を上げた。

抗PD-1抗体は、MSI-H(マイクロサテライト不安定性高)やdMMR(ミスマッチ修復不全)型の、変な蛋白が多く生成され免疫機構の注目を惹きやすい腫瘍に良い成績を挙げている。今回のオープン・レーベル試験はMSI-H/dMMR陽性結腸直腸癌において、異なった免疫チェックポイントに作用するYervoyを併用する便益を検討した。対照群は医師がmFOLFOX-6またはFOLFIRIベースの化学療法から選んで施行した。また、Opdivoだけの群も設定された。

一次治療を受ける患者においてOpdivo・Yervoy併用と化学療法を比較した主評価項目は中間解析で成功。PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザード・レシオ0.21(95%信頼区間0.14-0.32)、メジアン値はOY併用群は未達(38.4ヶ月-評価不能)、対照群は5.9ヶ月(4.4-7.8ヶ月)だった。G3/4治療関連有害事象発生率は各群23%と48%だった。

二次治療以降の患者も含めてOY併用群とOpdivo単剤群を比較するもう一つの主評価項目は継続追跡中。

Opdivoだけより良いのか、という疑問が残っているが、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の類似試験であるKeyNote-177試験では、単剤投与群のメジアンPFS(盲検独立中央評価)が16.5ヶ月(5.4-32.4ヶ月)、mFOLFOX-6/FOLFIRIベース化学療法を施行した群が8.2ヶ月(6.1-10.2ヶ月)、ハザード・レシオは0.60(0.45-0.80)だった。

ハザードレシオやその信頼区間を見比べるかぎり、OYレジメンのほうがかなり効果が高いのではないかと期待が高まる。

尚、Keytrudaの試験では全生存期間の解析は点推定値は良好もp値が0.07とフェールした。対照群の多くが進行後にKeytrudaを用いたため効果が目立たなくなった模様だ。BMSの試験で顕在化するか注目される。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: 2024 ASCO GI抄録ダウンロード頁


ASCO GI:ルタテラの一次治療試験が成功
(2024年1月19日発表)

ノバルティスはLutathera(lutetium Lu 177 dotatate/USAN)の第3相NETTER-2試験の成績をASCO GIで発表した。グレード2~3の進行ソマトスタチン受容体陽性GEP-NETs(胃腸膵神経内分泌腫瘍)の一次治療において長期作用性octreotideと併用する効果を長期作用性octreotideの高量とオープン・レーベルで比較したところ、メジアンPFSが各群22.8ヶ月と8.5ヶ月、ハザードレシオは0.26と、大きな改善を見た。

Lutatheraはソマトスタチン受容体を通じて細胞内に侵入し局所的に放射線を照射する。欧米日などで承認されていて、米国では今回の用途用法も既に承認されているが、明確なエビデンスが存在していなかったために、一次治療にはそれほど普及していなかった様子だ。

リンク: 同社のプレスリリース


ASCO GI:イミフィンジのTACE併用試験が成功したが...
(2024年1月19日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相EMERALD-1試験の成績をASCO GIで発表した。肝癌の20~30%を占めるTACE(冠動脈化学閉塞療法)適合の切除不能肝細胞腫616人を組入れて、TACEにImfinziを追加する便益を検討したところ、主評価項目(bevacizumabも追加した群と偽薬だけ追加した群のPFS、盲検独立中央評価)のハザード・レシオが0.77、p=0.032、メジアン値は各15ヶ月と8.2ヶ月と、高度に有意ではないが成功した。G3/4有害事象発生率は各45.5%と23.3%。

悩ましいのは副次的評価項目であるImfinziだけ追加した用群の偽薬・TACE併用比が0.94、メジアン値は10ヶ月対8.2ヶ月とフェールしたこと。TACEに血管新生阻害剤を併用する手法は幾つかの試験で効果が示唆されたとNCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインで指摘されている。このため、Imifinzi追加による限界効用はそれほど大きくないのではないか、という疑問がわく。また、過去の進行肝細胞腫の試験でPFSだけでなく全生存期間も改善した3本では、PFSハザードレシオが0.6以下だった。Imfinzi・bevacizumab追加が延命効果に繋がるか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


ASCO GI:ロシュ、抗PD-L1と抗TIGHTの併用試験が成功したが...
(2024年1月18日発表)

ロシュはASCO胃腸癌シンポジウム(ASCO GI)でSKYSCRAPER-08試験の結果を発表した。同社の抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と開発品である抗TIGHT抗体RG6058(tiragolumab)の二剤を「標準療法」に追加する効能を検討したところ、PFS(無進行生存期間、独立評価)も全生存期間も有意に上回った。但し、今日では標準療法が抗PD-1抗体も含む三剤併用に変わっているため臨床的な意義は明確でない。

この試験は中国などアジアの施設で切除不能な局所進行性/難治性または転移性の食道扁平上皮腫の一次治療を受ける461人を、paclitaxelとcisplatinの「標準療法」にTecentriq(1200mg)とtiragolumab(600mg)を追加する群と偽薬二剤を追加する群に無作為化割付けした。PFSは各群のメジアン値が6.2ヶ月と5.4ヶ月、ハザードレシオは0.56、全生存期間は各群15.7ヶ月と11.1ヶ月、0.70となった。治療関連有害事象により各群2.6%と0.9%の患者が死亡した。

これらの数値をKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-590試験と見比べると、PFSは「標準療法」にKeytrudaを追加したがメジアン6.3ヶ月、偽薬追加群は5.8ヶ月、ハザードレシオは0.65。メジアン生存期間は各群12.4ヶ月と9.8ヶ月、ハザードレシオは0.73だった。メジアン生存期間は今回のほうが大きく増加したが、ハザードレシオで見ると大差ない。PFSはメジアン値もハザードレシオも大きくは変わらない。このため、抗PD-1/L1抗体だけで足りるのではないかという疑問がわく。尚、KeyNote-590はアジアの施設の組入れは53%と、SKYSCRAPER-08より低い。

リンク: ASCO Post(SKYSCRAPER-08試験について)


ASCO GI:キノコ成分が第2相膵癌試験で良績
(2024年1月18日発表)

台湾のGolden Biotechnology(TPEX 4132)はHOCENA(antroquinonol)の第2相転移膵癌試験の成績をASCO胃腸癌シンポジウムでポスター発表した。抄録には昨年5月に発表した数値が記されているが、プレスリリースに記されている数値は更に改善している。対照試験ではないため第3相で確認することが望まれる。

アントロキノノールは台湾の高山部に生息する固有種、ベニクスノキタケの抽出物。イソプレニル・トランスフェラーゼを阻害しRAS経路に介入する。この第1/2相試験は米韓台の施設で転移膵癌の一次治療を受ける患者を組入れ、nab-paclitaxelとgemcitabineの標準療法に試験薬(一日三回経口投与)を追加する便益を検討した。第2相ポーションでは第1相ポーションで最大耐容量となった300mgを投与した。

結果は、メジアン生存期間が14.1ヶ月だった。nab-paclitaxelとgemcitabineの文献データである8.5ヶ月や、適応が若干異なるがFOLFIRINOXの11.1ヶ月と見比べて良好だ。

抄録には第2相40人のデータが12.6ヶ月と記されているので、直近ではさらに改善したことになるが、冷静に考えれば、症例数が少なく点推定値がブレやすいことの反映かもしれない。ClinicalTrials.govに記載されている米国の治験参加施設は高名ではなく、典型的な米国患者とは背景が異なるかもしれない。十分な検出力を持つ対照試験で再現されることを期待したい。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

【承認】


FDA、JNJの汎FGFR阻害剤を本承認
(2024年1月19日発表)

FDAはJanssen BiotechのBalversa(erdafitinib)を成人のFGFR3感受性変異を持ち一次以上の全身性治療歴のある局所進行性/転移性尿路上皮腫に用いることを本承認した。19年に加速承認された時の適応と似ているがFGFR2感受性変異が対象外になった。

FGFR1~4を阻害する汎FGFR阻害剤で、8mg(忍容なら9mgに増量)を一日一回、経口投与する。エビデンスとなる第3相THOR試験のコフォート1ではメジアン生存期間は12.1ヶ月と、vinflunineまたはdocetaxelを用いた群の7.8ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.64だった。コフォート2では抗PD-1/L1抗体歴のない患者だけを組入れて全生存期間をKeytruda(pembrolizumab)と比較したが、レーベルによると、メジアン値は10.9ヶ月対11.1ヶ月、ハザード・レシオは1.18となり、優越性仮説がフェールした。このため、抗PD-1/L1抗体が適応になる患者はそちらを先に使うよう推奨されている。

欧州や日本でもFGFR3感受性変異を持つ尿路上皮腫に承認申請中。

08年にジョンソン・エンド・ジョンソンがAstex Therapeutics(後に大塚製薬が買収)からライセンスしたもの。

リンク: FDAのプレスリリース


CRISPER/Cas9薬がベータサラセミアにも承認
(2024年1月16日発表)

CRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)とライセンシーのVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、夫々に、FDAがCasgevy(exagamglogene autotemcel)を輸血依存ベータ・サラセミアに適応拡大したと発表した。審査期限は3月だったが、難治鎌状赤血球病における初承認の1ヶ月遅れで承認された。患者から採取したCD34陽性細胞の遺伝子をCRISPER/cas9技術で編集し、胎生ヘモグロビンの転写抑制因子を改竄することによって、胎生ヘモグロビンの発現を促し、ベータ鎖に異常のあるヘモグロビンの代わりにする。ベータ・サラセミアの臨床試験では42人中39人が12ヶ月以上、輸血しないで済んだ。残りの3人も7割以上減少した。

リンク: CRISPRのプレスリリース


武田の皮下注用免疫グロブリンが適応拡大
(2024年1月16日発表)

武田薬品はFDAが点滴皮下注用免疫グロブリンHyQviaをCIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)の維持療法に用いることを承認したと発表した。点滴静注用製剤による治療が順調に進み投与量が安定している成人患者がスイッチできる。第3相試験ではHyQvia群(modified intent-to-treat解析対象57人)の再発率が14%と偽薬群(同65人)の32%を下回った(p=0.0314)。血栓症が枠付き警告されている(免疫グロブリン製剤のクラス警告)。

レーベルに記載された上記の再発率は武田薬品が22年7月にトップライン結果を発表した時の数値やClinicalTrials.gov記載値と異なっている(各群9.7%と31.4%、p=0.0045)。理由は不明だが、ClinicalTrials.govによると薬効解析対象は各群62人と70人となっており、レーベル記述から推測すると、無作為割付された138人のうち投与を受けた全132人のデータを集計したもののようだ。

modified intent-to-treat解析結果はClinicalTrials.govに記されていないので、ポスト・ホックなのか、感受性分析なのか、何れにせよ、元々の主評価項目や副次的評価項目ではないのだろう。

リンク: 武田のプレスリリース(英文)

【医薬品の安全性】


FDA、プラリアの低カルシウム血症リスクを枠付き警告
(2024年1月19日発表)

FDAはアムジェンの骨粗鬆症治療薬Prolia(denosumab)のレーベルを改訂し、進行した慢性腎疾患を併発する会社に投与すると深刻な低カルシウム血症のリスクが高まる旨の枠付き警告を追加した。長期安全性確認試験で確認されたため、警告をステップアップした。当該患者に用いる場合はCKD-MBD(慢性腎疾患患者におけるミネラル・骨障害)を熟知する医療従事者が適否を判断し、もし開始する場合は血中カルシウム量の検査やCKD-MBDの兆候症状を評価する必要がある。

需要のうち該当する患者の比率は3%程度である模様。

リンク: FDAの安全性情報

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)


今週は以上です。

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