2024年1月6日

第1136回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • フロリダ州がカナダから薬を輸入へ 
  • 経口剤のサラセミア治療試験が成功 
  • Anavex社、小児Rett症候群試験は判然としない結果に 
  • アルドース還元酵素阻害剤の糖尿病性心筋症試験がフェール 
  • アルドース還元酵素阻害剤をガラクトース血症に承認申請 
  • COVID-19予防用抗体をEUA申請 
  • ニーマン・ピック病C型に再承認申請 
  • etripamilの承認申請は受理されず 
  • 外来治療できる伝染性軟属腫治療薬が承認 
  • GLP-1作用剤の自殺リスクに関する疫学研究 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


フロリダ州がカナダから薬を輸入へ
(2024年1月5日発表)

FDAはフロリダ州が申請していたカナダから医薬品を輸入するプログラムを認可した。連邦食品医薬品化粧品法の第804節に基づくもので、実際に開始する前に、輸入する薬に関する情報をFDAに提供して認可を得、仕様や基準などがFDAに承認されている薬と同様であることを確認し、添付文書をFDA承認品と一致させなけれなばらない。輸入やコストセーブの進捗、そして、もし発生したら品質面などに関する問題を四半期毎にFDAに報告する。

フロリダ州は、まず、HIVなどの慢性疾患の維持療法薬から開始する予定。年間薬剤費を1.8億ドル抑制する考えだ。

プログラムが順調に進むかどうか不透明だ。現状で輸入を計画しているのはフロリダ州だけだが、ほかの州も追随するようならば、カナダ政府が、米国向け輸出が増加し国内で供給不足にならないようセーフガードを発動するだろう。製薬会社も黙っていないだろう。EUでは一部の国が他の加盟国から安価な薬を併用輸入しようとしたことがあったが、製薬会社が流通在庫管理を徹底することで余剰を輸出できなくした。

FDAの認可は輸入開始から2年間有効。その後も続けるのか不明だが、Ron DeSantisフロリダ州知事は次期大統領選に出馬を表明しており、今回のアクションも政治的プロパガンダの一つと目されているので、2年後に思いを寄せる論者は不在のようだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Ron DeSantisフロリダ州知事のプレスリリース

【新薬開発】


経口剤のサラセミア治療試験が成功
(2024年1月3日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はPyrukynd(mitapivat)の第3相非輸血依存サラセミア試験で主目的を達成した。グロビンのベータ鎖またはアルファ鎖に変異を持つ成人患者194人を2対1割付けして100mgまたは偽薬を一日二回、経口投与したところ、ヘモグロビン応答率(第12週から24週までの平均値が1g/dL以上増加)が各群42.3%と1.6%となり、統計的に有意な差があった。すべてのサブグループ分析や副次的評価項目の疲労評価尺度なども成功した。離脱に繋がる有害事象の発生率は各群3.1%とゼロだった。

Pyrukyndはピルビン酸キナーゼRのアロステリック・アクティベイター。22年に欧米で成人のピルビン酸キナーゼ欠乏症における貧血症治療薬として承認された。輸血依存サラセミアの第3相は年央に開票する見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


Anavex社、小児Rett症候群試験は判然としない結果に
(2024年1月2日発表)

Anavex Life Sciences(Nasdaq:AVXL)はANAVEX2-73(blarcamesine)の第2/3相EXCELLENCE試験のトップラインを公表した。5~17歳のRett症候群92人を30mg群と偽薬群に2対1割付けして12週間治療したもので、プレスリリースの記述が不明瞭なところもあるが、結論は、偽薬群の成績が予想以上で望ましい結果を得られなかったということのようだ。

主評価項目の一つであるRSBQ(Rett Syndrome Behavioural Questionnaire、介護者評価)は改善が示されたが、事前に特定していた事後的なMMRM(mixed-effect model for repeated measure)法による評価は各群12.93点と8.32点低下となり、p=0.063とフェールした。もう一つのCGI-I(Clinical Global Impression-Improvement)はフェールした。安全性に関する新たな問題は見られなかった。

Rett症候群はMECP2などの遺伝子変異による神経系発達障害。blarcamesineはsigma-1受容体のアゴニスト。経口液を一日一回、投与する。英豪のMECP2変異陽性成人Rett患者33人を組入れた第3相AVATAR試験でRSBQレスポンダー率やCGI-Iが偽薬群を有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


アルドース還元酵素阻害剤の糖尿病性心筋症試験がフェール
(2024年1月4日発表)

Applied Therapeutics(Nasdaq:APLT)はAT-001(caficrestat)の第3相二型糖尿病性心筋症治療試験がフェールしたと発表した。SGLT2阻害剤もGLP-1作用剤も用いていないサブグループではp=0.04とそこそこの数値が出た由だが、開発続行よりも開発パートナー探しを優先する考え。

最高酸素摂取量(ピークVO2)が標準値の75%未満で心不全を合併するリスクのある患者675人を偽薬、1g、または1.5gを一日二回経口投与する群に無作為化割付けして15ヶ月間治療し、心肺運動負荷試験でピークVO2の低下を比較したところ、1.5g群はkg/分当り0.01mL、偽薬群は0.31mLで、p=0.21とフェールした。SGLT2阻害剤/GLP-1作用剤非使用サブグループでは同0.08mL改善し、偽薬群は0.54mL低下した。深刻な有害事象の発生率は各群17.3%と14.3%だった。1g群のデータは公表されていない。

アルドース還元酵素阻害剤パイプラインの一つで、もう一つは、前日に、欧米承認申請が公表された(次項)。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


アルドース還元酵素阻害剤をガラクトース血症に承認申請
(2024年1月3日発表)

Applied Therapeutics(Nasdaq:APLT)は12月に米国でAT-007(govorestat)を古典的ガラクトース血症の治療薬として承認申請したと発表した。EUでも承認申請し既に受理された。

ガラクトース血症はガラクトースをグルコースに分解する酵素の欠乏によりガラクチトールなどの毒性代謝物が蓄積する。患者数は米国はGALT欠損型(古典的ガラクトース血症)が3000人、EUではGALK欠損型と合わせて4000人と推定されている。AT-007はガラクトースをガラクチトールに代謝するアルドース還元酵素の阻害剤。2~17歳の古典的ガラクトース血症47人を組入れて、OWLS-2やBASC-3のサブスケールを抜粋して作成した複合評価項目の改善度合いを検討したが、フェールした。但し、発語や聞取りに関するサブスケールを除外した解析ではp=0.0205と、それらしい結果が出た。難しい所だが、超希少疾患であることなどから、規制機関は門前払いすべきでないと考えたのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース


COVID-19予防用抗体をEUA申請
(2024年1月3日発表)

Invivyd(Nasdaq:IVVD)はVYD222を免疫力が低下した青年成人のCOVID-19感染予防薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請した。薬効のエビデンスは薬物動態とin vitroのIC50データで、感染予防効果が確立している類薬、ADG20(adintrevimab)のデータとブリッジングした。

ADG20は免疫力不問の第2/3相試験で曝露前の成人の症候性COVID-19感染症リスクを有意に抑制し、曝露後予防コフォートや軽中等症治療試験も良好な成績を上げたが、その頃に流行の主流となったBA.2系統に対する力価が低いため、EUA申請には至らなかった。

VYD222はADG20よりも更にスペクトラムを拡大した抗SARS-CoV-2抗体で、現在米国で感染例の半分近くを占めるJN.1系統にも高力価を示している。第3相CANOPY試験で免疫力低下300人と高リスク450人の二つのコフォートにおける曝露前予防効果を検討しているが、前者のコフォートにおける中和抗体力価(薬物動態とin vitro試験におけるXBB.1.5系統に対するIC50から推定)とADG20の力価及び症候性感染予防効果をブリッジングしてEUA申請した。プレスリリースによると、VYD222の試験でも感染予防効果の兆候は見られるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ニーマン・ピック病C型に再承認申請
(2023年12月27日発表)

Zevra Therapeutics(NasdaqGS:ZVRA)はarimoclomolをニーマン・ピック病C型(NPC)用薬として12月22日にFDAに再承認申請したと27日に発表した。希少疾患なので薬効や安全性の要求水準が低くなるが、エビデンスが薄弱で、migulstatをこの用途でも承認しているEUですら、承認しなかったので、見通しは楽観できない。

NPCはライソゾーム疾患の一つ。細胞内コレステロール輸送に関わるNPC遺伝子の変異により、肝臓、脾臓、神経細胞などにスフィンゴミエリン、コレステロール、糖脂質などが蓄積、組織に障害を与える。arimoclomolはヒート・ショック・プロテイン増幅剤。作用機序は明確ではないが、不要蛋白のスクラップを促すファーマシューティカル・シャペロンとして機能すると考えられているようだ。

エビデンスは欧米の2~18歳の患者50人を偽薬と2対1割付けした第2/3相試験。体重に応じた量を一日3回、12ヶ月間投与した。主評価項目の一つであるNPC-CSS(Clinical Severity Scale)のうち五つのドメインを集計したものは0.5点の悪化に留まり、偽薬群の1.9点を下回ったが、p=0.0506と僅かに有意水準を下回った。欧州申請に向けた、miglustat副作用サブグループでは-0.2と1.8でp=0.0071だった。FDAのアドバイスで採用した共同主評価項目であるCGI-Iは58.8%対56.3%だった。有害事象による治験離脱発生率は8.8%とゼロだった。

後に刊行された治験論文では数値が若干変動しp=0.04と閾値をクリアしているが、どちらにせよボーダーライン上であることに変わりはない。一巡目の審査では承認されず、今回、5ドメインNPC-CSSの有効性の裏付けや作用機序に関する追加資料、上記試験の4年延長試験のデータなどを追加提出した。

arimoclomolは元々、ハンガリーで糖尿病治療薬候補として発見された模様だ。米国のCytRXが権利を取得、ライセンスを取得したデンマークのOrphazymeが上記第2/3相試験を実施し欧米で承認申請したが、承認されず、22年に事業資産をZevraに譲渡した。

リンク: Zevraのプレスリリース


etripamilの承認申請は受理されず
(2023年12月26日発表)

カナダのMilestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)は10月に米国でetripamil点鼻用スプレーを発作性上室性頻拍(PSVT)の治療薬として承認申請したが、受理されなかった。FDAは第3相試験における有害事象の記録時期を明確化するよう求める一方で、副作用自体に関する懸念は表明していない由。FDAと対処方法を相談して再申請することになる。

etripamilは短期作用性カルシウム・チャネル・ブロッカー。一本目の第3相は洞調律達成期限を5時間とゆるゆるにしたためかメジアン値では25分対50分と大きな差があったがp=0.12だった。そこで二本目のRAPID試験では30分に短縮したところ、洞調律達成率が64%と偽薬群の31%を大きく上回り、ハザードレシオ2.62、統計的に有意だった。様々な症状も改善した。薬物関連深刻有害事象は発生しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


外来治療できる伝染性軟属腫治療薬が承認
(2024年1月5日発表)

Ligand Pharmaceuticals(Nasdaq:LGND)はFDAがZelsuvmi(berdazimer)を1歳以上の伝染性軟属腫の治療薬として承認したと発表した。局所性ゲル製剤で、生後6ヶ月以上の患者891人に一日一回、12週間投与したB-SIMPLE4試験で完解率が32.4%と偽薬群の19.7%を上回った。有害事象は塗布箇所反応や紅斑など。深刻有害事象は発生しなかった。

berdazimerは一酸化窒素放出剤。Novan社が開発し承認申請したが、経営破綻によりLigandに資産譲渡した。

リンク: Ligandのプレスリリース

【医薬品の安全性】


GLP-1作用剤の自殺リスクに関する疫学研究
(2024年1月5日発表)

FDAやEMAはGLP-1作用剤の安全性を再検討中だが、その一項目である自殺リスクに関する大規模な疫学研究の論文がNature Medicineで刊行された。日本を含む多くの国の電子医療記録を解析する、TriNetX Analytics Networkのプラットフォームを利用した後顧的コフォート研究で、ノボ ノルディスクのsemaglutide製品の利用者と他のクラスの薬の利用者の自殺思慮リスクを比較したところ、肥満/オーバーウェイトの240,618人ではハザードレシオが0.27とむしろ低かった。後顧的研究は症状兆候を見落とすリスクが前向き研究より高いが、当該リスクが比較的小さいであろう、自殺思慮歴のある患者だけの解析でも0.44と、望ましい結果が出ている。二型糖尿病患者1,589,855人の解析でも同様な結果になった。

この論文だけでは答えは出ないだろうが、取り敢えず、好ましい結果だ。

リンク: Wangらの研究論文要旨(Nature Medicine)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/12 アステラス製薬のIMAB362(zolbetuximab、Claudin 18.2中強度発現胃腺癌/食道胃接合部腺癌)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/20 MSDのKeytruda(pembrolizumab、新患高リスク子宮頸癌化学放射線療法併用)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)



今週は以上です。

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