2023年11月18日

第1129回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • バイエル、PI3K阻害剤の承認を返上へ 
  • 第二の神経線維腫用薬を承認申請へ 
  • イミフィンジのステージ3NSCLC試験がフェール 
  • リフヌアは米国では支持されず
  • AKT阻害剤が一部の乳癌に承認 
  • イクスタンジが高リスクHSPCに適応拡大 
  • CRISPR技術の薬が英国で世界初承認 
  • キイトルーダがher2陰性の胃癌等にも承認 
  • 中心静脈カテーテル用抗微生物薬が承認 
  • BMSのROS1陽性NSCLC用薬も承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


バイエル、PI3K阻害剤の承認を返上へ
(2023年11月13日発表)

バイエルはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤Aliqopa(copanlisib)の米国における販売承認申請を自主的に撤回すべくFDAと協働する考えであることをプレスリリースで正式公表した。6年前に2種類以上の全身性治療歴を持つ成人の再発濾胞性リンパ腫用薬として加速承認されたが、市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる効果が見られなかった。同薬は中国と台湾でも承認されているが、EUはCHMPが懐疑的で申請撤回を余儀なくされた。

PI3K阻害剤では加速承認後の市販後薬効確認試験フェールが相次いでいる。Aliqopaの場合、加速承認のエビデンスとなった第2相単群試験で良好なORR(客観的反応率)と反応持続性を示し、市販後に完了したCHRONOS-3試験ではrituximabに追加するとメジアンPFS(無進行生存期間)を半年ほど伸ばせることが明らかになったが、同試験の全生存期間の解析はフェールし、適応拡大申請は見送られた。更に、今回、rituxanなどによる1~3次治療歴を持つ難治性緩徐進行非ホジキンリンパ腫を組入れたCHRONOS-4試験で、rituxan-bendamustine併用レジメンあるいはR-CHOP多剤併用レジメンに追加してもPFS延長効果が見られなかった。

効果のない薬の臨床試験がフェールするのは珍しくないが、効果のある薬なら必ず成功するとも限らない。Never give upが重要だが、PI3K阻害剤はORRが意味のある延命と必ずしもリンクしないことがかなり明確になってきたので、セカンド・チャンスやサード・チャンスを貰うのは難しい。他社の先行事例を見ても、承認返上は已むを得ないとことだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


第二の神経線維腫用薬を承認申請へ
(2023年11月16日発表)

米国のSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)はmirdametinibの後期第2相ReNeu試験がポジティブな結果になったと発表した。2歳以上の切除不能神経線維腫症1型関連叢状神経線維腫(NF1-PN)に2mg/m2(最大4mg)を一日二回、28日サイクルで21日反復経口投与したところ、小児におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が52%、成人では41%、メジアン反応持続期間は未到達、メジアン投与期間はどちらも22ヶ月となった。ORRの判定基準は腫瘍量が96週内に20%以上減少すること。悠長だが、過去の試験で1年以上経ってから基準達成する症例もあったことから、追跡期間を投与開始後8ヶ月ではなく約22ヶ月に設定した経緯がある。

G3以上の治療関連有害事象発生率は各25%と16%。同社は24年上期に承認申請する考え。

NF1はMAPK経路のサプレッサーであるニューロフィブロミンの遺伝子の常染色体性優性遺伝性疾患。米国の罹患者は推定10万人。症状は区々だ。20~22年に米欧日でアストラゼネカのMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)が承認された。mirdametinibもMEK1/2阻害剤で会社側は忍容性面でKoselugoを凌ぐことを期待している。SpringWorksは17年にファイザーからmirdametinibなど希少難病領域のパイプラインを継承して設立された。

リンク: 同社のプレスリリース


イミフィンジのステージ3NSCLC試験がフェール
(2023年11月14日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相PACIFIC-2試験がフェールしたことを明らかにした。切除不能なステージIII非小細胞性肺癌(NSCLC)328人を組入れて、根治的白金薬ベース化学放射線療法(CRT)と同時に4週毎投与し、その後も癌が進行するまで維持投与したが、PFS(無進行生存期間)が偽薬を同時投与・維持投与した群と大差なかった。

ImfinziはステージIIINSCLCでCRTに反応/疾病安定化した患者の維持療法として承認されている。上記試験が成功すれば早い段階で、より多くの患者に用いることができるはずだったが、課題持越しとなった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


リフヌアは米国では支持されず
(2023年11月17日報道)

FDAは肺・アレルギー用薬諮問委員会を招集し、MSDが成人の難治/説明不能な慢性咳嗽の治療薬として承認申請した末梢作用性選択的P2X3受容体アンタゴニスト、Lyfnua(gefapixant)について意見を聞いた。12人対一人という圧倒的多数が、薬効に懐疑的なFDAの評価を支持した。日本で22年1月に、EUでも今年9月に承認を取得したが、米国は難しそうだ。審査期限は12月27日。

第3相試験では英国のVitalograph社のVitaloJAK咳モニターを用いて最大24時間連続で咳嗽を録音、無音部分や雑音部分を圧縮した上で、人が咳の回数を数えた。この胸部センサーとマイクを有する機器はFDAの510(k)認証を得ているが、MSDは独自のディバイスと圧縮アルゴリズムを採用したため、FDAは一巡目の承認審査でバリデーションが不十分と見なし、咳のカウント方法にも注文を付け、更に臨床的な便益についても疑問を持ち、審査完了通知を発出した。MSDは追加的分析を提出、二巡目に入った。FDAは、改訂されたデータに基づいて、治療効果が限定的で臨床的な便益があるかどうか不明と再び主張した。

主評価項目の解析はログ変換値を用いて実施されたが、理解しやすい生データのメジアン値に注目すると、COUGH-2試験ではベースライン値の20回/時前後から45mg群は9.8回/時減少したのに対して偽薬群は8.7回/時減少と、差は1回程度に過ぎない。COUGH-1試験ではベースライン(試験薬群は20.9回/時、偽薬群は26.1回/時)比で各10.5回/時と8.9回/時減少と、ここでも1~2回程度の差に過ぎない。

結局のところ、偽薬効果というノイズが大きすぎて試験薬の有難さがぼやけてしまった憾みがある。

ロシュのスピンアウトであるAfferent Pharmaceuticalsを16年に買収して入手したコンパウンド。

リンク: Fierce Biotechの報道

【承認】


AKT阻害剤が一部の乳癌に承認
(2023年11月17日発表)

FDAはアストラゼネカのTruqap(capivasertib)を成人のホルモン受容体陽性her2陰性局所進行/転移乳癌用薬として承認した。PIK3CA、ATK1、またはPTENに変異を持ち、転移後に一次以上の内分泌療法を施行した後に進行、または切除術後付随療法が完了してから12ヶ月内に再発した癌が適応になる。選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレータであるFaslodex(fulvestrant)と併用する。上記変異の有無を検査するFoundationOne CDxアッセイも承認された。日欧でも承認申請中。

エビデンスとなる第3相CAPItello-291試験では共同主評価項目である上記変異を持つサブグループ(n=289)でも、全ユニバース(n=708)でも、PFS(無進行生存期間、担当医評価)が有意に伸びた。前者のメジアン値は7.3ヶ月、Faslodex・偽薬併用群は3.1ヶ月、ハザードレシオは0.50、全ユニバースの数値は各7.2ヶ月、3.6ヶ月、0.60であったため、アストラゼネカは全ユニバース向けに申請したが、FDAはサブグループに限定した。レーベルによると、上記変異を持たない313人ではハザードレシオ0.79(95%信頼区間0.61-1.02)で、効果がないとも言い難い数値だ。FDAが限定した理由は明らかではないが、ORRやPFSが必ずしも全生存期間とリンクしないPI3K阻害剤の連想かもしれない。Truqapの標的であるATKはPI3Kの川下に位置していて、適応がTruqapとオーバーラップするノバルティスのPiqray(alpelisib)はPI3Kアルファ阻害剤である。

あるいは、変異陰性サブグループの全生存期間のデータがあまり有望ではないのかもしれない。PFSの解析が実施された段階では未成熟とのことで、全ユニバースのデータすら公表されていないが...

第一三共/アストラゼネカのEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)が承認されて以来、her2陰性の定義が複雑/曖昧になっている。本剤の適応範囲もFDAは下記リリースでher2陰性と呼んでいるがアストラゼネカはher陰性/低発現と一部食い違っているが、レーベルの上記試験成績の欄では括弧書きでher2低発現も含むことを明記しており、実際には食い違いはない。

Truqapは05年にAstex(13年に大塚製薬が子会社化)と結んだ創薬提携の成果。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース


イクスタンジが高リスクHSPCに適応拡大
(2023年11月17日発表)

アステラス製薬は、Xtandi(enzalutamide)を未だ転移していない、去勢療法にも抵抗性が生じていない段階の前立腺癌に単剤、またはアンドロゲン除去療法剤と併用投与することがFDAに承認されたと発表した。根治的前立腺全摘/放射線療法後にPSA値が9ヶ月間以内に倍増するなど、生化学的再発(BCR)リスクが高い患者が適応になる。第3相EMBARK試験で、併用群の5年MFS(無転移生存)が83.5%とleuprolide・偽薬並行群の71.4%を上回り、ハザードレシオは0.42。Xtandi単剤群もハザードレシオ0.63だった。MFS解析時点では全生存のデータは未成熟だったが、数値自体は良好と報じられている。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


CRISPR技術の薬が英国で世界初承認
(2023年11月16日発表)

CRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)とパートナーのVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、Casgevy(exagamglogene autotemcel)が英国で鎌状赤血球病とベータ・サラセミアの治療薬として承認されたと発表した。12歳以上の、造血幹細胞移植が適応になるがHLA型がマッチするドナーが見つからない、鎌状赤血球病の場合は特定の遺伝子型を持ち血管閉塞性クリーゼを繰り返す患者が、適応になる。鎌状赤血球病の試験では評価可能29人中28人において12ヶ月以上に亘り重度疼痛クリーゼが発生しなかった。ベータ・サラセミアでは42人中39人が12ヶ月以上の間、赤血球輸血が不要だった。残り3人も7割減少した。有害事象は造血幹細胞移植と似ていた。

CRISPR社はCRISPR/Cas9遺伝子編集技術の発明者の一人として20年にノーベル化学賞を受賞したEmmanuelle Charpentierらが設立した会社で、今回、同技術に基づく医薬品が世界で初めて承認された。ヘモグロビンの欠乏を補うために、患者から採取したCD34陽性細胞をCRISPR/Cas9編集し、胎児期や新生児期にだけ発現する胎生ヘモグロビン(HbF)の転写抑制因子であるBCL11A遺伝子を切断・改変した上で患者に戻すもの。赤血球機能が十分に発揮されるようになるまで移植後1ヶ月ほど入院する。

米国やEUでも承認申請中。

リンク: MHRA(英国の承認審査機関)のプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース


キイトルーダがher2陰性の胃癌等にも承認
(2023年11月16日発表)

FDAはKeytruda(pembrolizumab)を成人のher2陰性で局所進行切除不能/転移性の胃/胃食道接合部腺腫に用いることを承認した。fluoropyrimidine系及び白金系の化学療法薬と併用する。KeyNote-859(1次治療試験)の中間解析でメジアン生存期間が12.9ヶ月と偽薬併用群の11.5ヶ月を若干上回り、ハザードレシオは0.78だった。15%の患者が有害事象によりKeytrudaの投与を永続的に中止した。

CPS(腫瘍や免疫細胞におけるPD-L1発現評価スコア)が1未満のサブグループにおけるハザードレシオは0.92と見劣りするためか、EUのCHMPは10月にCPS≧1に限定して肯定的意見を出したが、FDAは限定しなかった。

her2陽性患者に用いることは一足早く21年に加速承認されたが、その後の追跡でCPS≧1以上のサブグループにしかPFS延長効果が見られなかったため、適応範囲が縮小され、EUでもCPS≧1限定で承認された経緯がある。

リンク: FDAのプレスリリース


中心静脈カテーテル用抗微生物薬が承認
(2023年11月15日発表)

米国のCorMedix(Nasdaq:CRMD)は、FDAがDefencath(taurolidine、heparin)を承認したと発表した。腎不全患者に中心静脈カテーテルによる慢性透析を施行する場合、終了後にヘパリンを注入して次回施行までの間に血栓ができるのを防ぐが、抗微生物薬も投与することにより、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を抑制する。806人を組入れた第3相試験の中間解析でヘパリン注入群と比べてリスクが72%小さかった(p=0.0034)。有害事象はカテーテル機能不良、出血、悪心嘔吐など。

20年にローリング承認申請を完了したが、生産委託先やヘパリン調達先が査察時に指摘事項を受け、審査完了通知を二回受領したが、やっと承認に漕ぎ着けた。

the 21st Century Cures Actで導入されたLPAD(Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugs)に基づく承認。適応を限定することを条件に小規模な臨床試験に基づく承認申請を認めるもので、18年に難治性非結核性抗酸菌症性肺炎用薬として承認されたインスメッドのArikayce(amikacin)、19年に高度抵抗性肺結核用薬として承認されたGlobal Alliance for TB Drug DevelopmentのPretomanid(pretomanid)に続く第3号。806人は小規模ではないように感じるが、他の要件が一部簡略化されているのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


BMSのROS1陽性NSCLC用薬も承認
(2023年11月15日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがAugtyro(repotrectinib)を成人の局所進行/転移ROS1陽性非小細胞性肺癌用薬として承認したと発表した。22年にTurning Point Therapeuticsを41億ドル(エクイティ・バリュー・ベース)で買収して入手した経口大環状ROS1チロシン・キナーゼ阻害剤で、160mgを最初の14日は一日一回、その後は二回、経口投与する。

第1/2相試験で類薬を未経験の71人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が79%(完全反応率は6%)、メジアン反応持続期間34ヶ月、1剤経験し化学療法未経験の56人では各38%(同5%)、14ヶ月だった。主な有害事象は眩暈、末梢ニューロパチー、便秘、呼吸困難、運動失調など。致死的有害事象の発生率は4%で、肺臓炎や心停止など。

リンク: 同社のプレスリリース


lebrikizumabがEUでは承認された
(2023年11月17日発表)

スペインのAlmirall(BME:ALM)は、EUがEbglyss(lebrikizumab)を年齢12歳以上、体重40kg以上の小児と成人の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認したと発表した。最初の2回は500mg、その後は250mgを皮下注し、二週毎に16週間反復した第3相試験でEASI75達成率が偽薬を有意に上回った(ADvocate 1試験では59%対偽薬群16%、ADvocate 2では51%対18%)。共同主評価項目であるIGA奏効率も有意に上回った(同じく43%対13%と33%対11%)。

抗IL-13抗体で、ロシュから権利を取得したDermiraが19年に欧州での権利を導出したもの。米国では20年にDermiraを買収したイーライリリーが承認申請したが、生産委託先が査察指摘事項を受け、10月に審査完了通知を受領した。

リンク: Almirallのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)
23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期される?
23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
23/12/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)


今週は以上です。

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