2023年11月12日

第1128回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • AHA:ウゴービの心血管アウトカム試験成績が発表 
  • バイエル、PI3K阻害剤の承認を自主返上か 
  • BTK阻害剤を蕁麻疹に承認申請へ 
  • イミフィンジ、肝癌のTACE併用試験が成功 
  • ブレヤンジをCLL/SLLに適応拡大申請 
  • CHMP、GSKのJAK阻害剤などの承認を支持 
  • チクングニア熱ワクチンが初めて承認 
  • 武田薬品の二剤が米国で承認 
  • イーライリリーの二型糖尿病薬も肥満症に実質的適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


AHA:ウゴービの心血管アウトカム試験成績が発表
(2023年11月11日発表)

2020年代のスーパースター、GLP-1作用剤の肥満症心血管アウトカム試験の結果がAHA(米国心臓協会)科学部会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。ノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)のSELECT試験に関するもので、トップラインは8月に発表済み。同社は欧米でレーベル収載申請した。

本試験は45歳以上でBMIが27kg/m2以上、且つ心血管疾患を持つ17604人を偽薬群とWegovy群に無作為化割付けして平均40ヶ月追跡し、MACE(主要有害心血管事象:心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中)の発生リスクを比較した。semaglutideはやや低用量が二型糖尿病用薬Ozempicとして販売されているが、本試験では糖尿病患者は除外された。

結果は、ハザードレシオ0.80、p<0.001、と良好な結果になった。発生率は偽薬群が8.0%、試験薬群は6.5%なので、66人に4年間投与すると一人をMACEから救うことができる計算になる。

有害事象による投与中止率は各8.2%と16.6%。胆嚢障害の発生率は各2.3%と2.8%。膵炎や自殺の増加は見られなかった。

過去の肥満症薬は、肺動脈高血圧や不整脈が増えたり、心血管アウトカム試験で効果がなかったり自殺や未遂が増えたりして、散々だったことを考えると、大きな前進だ。但し、このような試験は多くの除外条件が設けられるので、現実の医療では効果は低下し副作用は増えると覚悟すべきだ。また、一人をMACEから救うのに必要な薬剤費(米国のリスト・プライスで計算)は350万ドル超と聞くと、急に眉を顰める人が増えそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


バイエル、PI3K阻害剤の承認を自主返上か

一部報道によると、バイエルはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤Aliqopa(copanlisib)の米国における販売承認を自主返上する考えだ。17年に2種類以上の治療歴を持つ濾胞性リンパ腫に加速承認されたが、市販後薬効確認試験である第3相CHRONOS-4試験(rituximabを含む1~3次治療歴のある患者を組入れて、R-BまたはR-CHOPレジメンに追加する便益を検討)がフェールしたとのこと。CHRONOS-3試験(rituximabに反応/安定化後に進行した患者にrituxuimab再開する時に追加)では主評価項目のPFSは有意に改善したが全生存期間では有意差が出ず2年生存率は86%と偽薬追加群の90%より見劣りした。

PI3K阻害剤は多くの新薬が加速承認されたが、安全性懸念が浮上したり、市販後薬効確認試験がフェールしたり、期待を裏切るニュースが陸続している。Aliqopaよ、お前もか!

【新薬開発】


BTK阻害剤を蕁麻疹に承認申請へ
(2023年11月9日発表)

ノバルティスはLOU-064(remibrutinib)の第3相慢性特発性蕁麻疹試験が二本とも成功したと8月に発表したが、トップライン・データが明らかになった。H1ブロッカーに十分応答しない患者に25mgを一日二回、12週間に亘り経口投与して、UAS7(週次蕁麻疹活動性スコア)の変化を調べたところ、一本では20.1点(偽薬群は13.8点)、もう一本では19.6点(同11.7点)減少し、偽薬比有意な差があった。有害事象全体や、BTK阻害剤でしばしば見られる肝機能検査値異常は偽薬並みだった。

24年に承認申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


イミフィンジ、肝癌のTACE併用試験が成功
(2023年11月9日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相肝細胞腫試験、EMERALD-1の成功を発表した。塞栓術が適応になる切除不能肝細胞腫616人を組入れて、TACE(肝動脈化学閉塞療法)にImfinziを追加する効果を検討したところ、維持療法期にbevacizumabも採用した群のPFS(無進行生存期間)が偽薬追加群より統計的に有意な、そして臨床的に意味のある、延長を示した。副次的評価項目である全生存期間を検討するため治験は続行している。尚、同じく副次的評価項目であるImfinziだけ追加した群の成否は明らかではない。

Imfinziは切除不能肝細胞腫では抗CTLA4抗体Imjudo(tremelimumab-actl)と二剤併用することが承認されている。進行中の第3相では、切除術付随療法としてbevacizumabと併用したり、TACE適合肝細胞腫にImfinzi、Imjudo、エーザイのlenvatinibを併用する手法も検討中。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ブレヤンジをCLL/SLLに適応拡大申請
(2023年11月9日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)を難治再発慢性リンパ性白血病や小リンパ急性リンパ腫に用いる一部変更申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査だが、審査期限は来年3月14日とのこと。TRANSCEND試験でbcl-2阻害剤による治療歴を持ちBTK阻害剤に反応しなかった患者49人に投与したところ、CR(完全反応率、独立評価委員会査読)が18%、反応持続期間はメジアン未達(メジアン21ヶ月追跡時点)。ORR(客観的反応率)は42.9%だった。CAR-T療法につきもののサイトカイン放出症候群の頻度はG3が8.5%、G4以上はゼロ、G3/4神経学的イベントの発生率は18.8%だった。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、GSKのJAK阻害剤などの承認を支持
(2023年11月10日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

GSKのOmjjara(momelotinib)は成人の中重度貧血症を伴う骨髄線維症患者における脾腫などの症状を治療する。JAK1/2だけでなくACVR1も阻害するせいか、骨髄線維症でしばしば発現し、既存のJAK阻害剤を投与するとしばしば増悪する、貧血症のリスクが小さいことが長所。効果自体は既存薬と大差なさそうだ。米国では9月にOjjaara名で承認、日本でも承認申請中。昨年、Sierra Oncologyを買収して権利を取得したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

UCBのRystiggo(rozanolixizumab)は皮下注用抗ヒト胎児Fc受容体抗体。標準療法を受けている成人の抗AChR/MuSK抗体陽性全身性重症筋無力症患者に追加投与する。米国では6月に、日本では9月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

NovartisのSpexotras(trametinib)はMEK1/2阻害剤。1歳以上の患者のBRAF V600E変異のある低/高グレード神経膠腫に同社のBRAF阻害剤Finlee(dabrafenib)と併用する。Finleeのほうは9月に肯定的意見を得ているが、Spexotrasはなぜか2ヶ月遅れとなった。製品名は今回初めて聞いたが、遅延と何か関係があるのかもしれない。米国では前者はMekinist名、後者はTafinlar名で販売されているが、欧州は用途などに応じて二つの製品名を使い分けている様子だ。

リンク: EMAのプレスリリース

Mirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)のKrazati(adagrasib)はKRAS G12C阻害剤。KRAS G12C置換のある進行非小細胞性肺癌に単剤投与する。条件付き承認なので別途、薬効を確認する必要がある。

7月に否定的意見を受けたが、今回、肯定的意見に変更された。理由はCHMPの説明文を読んでも良く分からない。否定的意見を出した時は条件付き承認の要件であるunmed medical needを充足していないと記していたが、今回のQ&A資料を読むと、22年に条件付き承認されたアムジェンの類薬、Lumykras(sotorasib、米国名Lumakras)の市販後薬効確認試験、CodeBreaK 200の成績が前回の判断に影を落としていたように感じられる。Krazatiの単群試験と同様にORRが良好で、主評価項目のPFSはdocetaxel群を有意に上回ったが、メジアン値の差は1ヶ月余と小さかった。また、全生存期間は大差なく、検出力不足であるにしても、実薬より大きく優れるとは言い難いものだった。このため、FDAも、10月に上程されたFDA諮問委員会も、便益が確立したとは言えないと受け止めた。薬がフェールしたというよりは治験がフェールしただけという見方が多かったようだったが、本当にそうなのか、改めて試験しなければ分からない。もし既存薬と同程度なら、unmet medical needに応える薬とは呼べない。

今回、CHMPが意見を変えたのは、腫瘍学のエキスパートの意見などを求めた上で、KrazatiはLumykrasの類薬だが違った点もあるのでCodeBreaK 200試験の結果に配慮する必要は必ずしもないと考え直したためとのこと。あいまいな説明だ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Q&A資料(pdf)

一方、ノバルティスがPROS(PIK3CA関連過成長症候群)の治療薬として承認申請したPI3K阻害剤Vijoice(alpelisib)は、申請撤回となった。米国では昨年4月に承認されたが、CHMPは、臨床的便益が明確でないこと、様々なサブタイプのうち一つにしか作用が見られないこと、成長・発達に与える影響など長期的な安全性が確認されていないことなどから、後ろ向きに評価していた。エビデンスは前向き無作為化割付け対照試験ではなく、Compassionate Use Programに則り人道的な観点から適応外投与が行われた約40人の後顧的チャート・レビューなので、評価が分かれても不思議はない。

尚、活性成分はPiqray名でPIK3CA変異などを持つ転移性乳癌に欧米で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大に関する肯定的意見は以下の通り。

  • Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)のAyvakyt:成人の緩徐全身性肥満細胞腫。KITやPDGFRの阻害薬で、進行性肥満細胞腫やPDGFR変異陽性切除不能/転移消化管間質腫瘍に承認されている。
  • MSDのKeytruda(pembrolizumab):成人の局所進行性切除不能/転移胆管腫瘍の一次治療としてgemcitabine及びcisplatinと併用する。
  • イーライリリーのMounjaro(tirzepatide):肥満症や高リスクオーバーウェイトの体重管理に用いるGIP/GLP-1受容体作動剤。米国では別名販売されるがEUでは二型糖尿病薬の適応拡大という扱いになるようだ。
  • ファイザーのTalzenna(talazoparib):成人の転移性去勢抵抗性前立腺癌(但し化学療法が不適な場合に限る)。同社のXtandi(enzalutamide)と併用する。臨床試験のサブグループ・データが一貫しなかったせいか、限定が付いた。米国ではHRR(相同組換え修復)不全に限定で承認された。PARP阻害剤で、最初の適応であるBRCA変異乳癌でも、EUと米国の適応範囲が若干異なっていた。

  • 尚、イプセン・グループのAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)の局所作用性回腸胆汁酸輸送体阻害剤Bylvay(odevixibat)は、7月のCHMPでアラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒に適応拡大することが支持されたが、10月に申請撤回された。希少疾患用薬指定の打切りが決まったことが原因のようだ。21年に進行性家族性肝内胆汁鬱滞症用薬として承認され、希少疾患用薬指定もされているが、アラジール症候群における希少疾患用薬指定が外されると国によっては保険還付に影響するため、アラジール症候群用薬を別ブランドとして改めて承認申請する考え。

    【承認】


    チクングニア熱ワクチンが初めて承認
    (2023年11月9日発表)

    FDAは、スイスのValneva(Nasdaq:VALN、Euronext Paris: VLA)が開発したチクングニア熱の弱毒化生ワクチン、Ixchiqを加速承認した。チクングニア・ウイルスに曝露するリスクが高い18歳以上に一回、筋注する。免疫原性試験で28日後の防御的中和抗体獲得率が98.5%、半年後でも96%だった。市販後薬効確認試験はブラジルで行われている12歳以上の第3相試験に加えて、別のエンデミック地域でプラグマティックな無作為化割付け対照試験を実施する必要がある。

    審査期限は8月だったが、市販後薬効確認に関して合意が遅れた模様で、延期された。今回、重度チクングニア様有害事象が1.6%で発現したことも明らかになった(偽薬群はゼロ)。入院例や30日以上持続した症例もあった模様で、市販後監視対象に組み込まれた。

    チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症。熱帯・亜熱帯地域に多いが米国や日本でも散見されるようになった。死亡率は高くない。

    リンク: FDAのプレスリリース


    武田薬品の二剤が米国で承認
    (2023年11月9日発表)

    武田薬品が米国で承認申請した新薬二品が米国で承認された。一つはAdzynma(ADAMTS13, recombinant-krhn)。成人小児のcTTP(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)の治療や予防的投与に用いる。cTTPではvon Willebrand因子(VWF)の切断酵素であるADMTS13が欠乏しVWFの重合体が微小血管で血栓を形成、溶血性貧血や虚血性障害、血小板減少症などをもたらす。AdzynmaはADMTS13の補充療法。19年に買収したシャイアがその3年前に合併したBaxaltに起源を持つ。

    リンク: FDAのプレスリリース

    Fruzaqla(fruquintinib)はVEGFR1/2/3阻害剤。成人の転移性結腸直腸癌のサルベージ療法で、代表的な治療薬であるfluoropyrimidine、oxaliplatin、及びirinotecanの全てとVEGF阻害剤、そして使用が適切な場合はEGFR阻害剤の治療歴を持つ患者っ適応になる。5mgを28日サイクルで21日反復投与し7日間休む。Lonsurf(trifluridine/tipiracil)やregorafenibにも不応不耐の患者を組入れた第3相FRESCO-2試験でメジアン生存期間が7.4ヶ月と偽薬群の4.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.66だった。中国のHutchmed(Nasdaq:HCM、和黄医薬)から中国香港マカオ以外の地域での権利を取得したもの。欧日でも承認申請中。

    リンク: 武田のプレスリリース(和文)


    イーライリリーの二型糖尿病薬も肥満症に実質的適応拡大
    (2023年11月8日発表)

    FDAはイーライリリーのZepbound(tirzepatide)を体重管理薬として承認した。肥満症(BMIが30kg/m2以上)、または肥満関連疾病(高血圧症、二型糖尿病、高脂血症、閉塞性睡眠時無呼吸、心血管疾患など)を持つオーバーウェイト(同27~29kg/m2)が適応になる。低カロリー・ダイエット及び運動療法に追加する。

    食欲や胃腸における食物吸収などを抑制するGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)/GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体アゴニスト。22年に米日欧で二型糖尿病薬として承認されたMounjaroの別ブランドで、どちらも、2.5mg週一回皮下注で開始して、それぞれ4週以上空けて、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgと増量していく。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、便秘、腹痛など。

    GLP-1作用剤のクラス警告である、齧歯類における甲状腺C細胞腫(ヒトにおける甲状腺髄様腫に該当)所見や、甲状腺髄様腫歴/家族歴あるいは多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)における禁忌が枠付き警告されている。膵炎の患者における安全性や有効性は検討されていない。妊娠したら中止する。同時使用すると経口避妊薬の効果が低下する虞がある。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: イーライリリーのプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
    23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
    23/11/27BMSのrepotrectinib(ROS1陽性非小細胞性肺癌)
    23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
    23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
    23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)
    23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
    23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期される?
    23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
    23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
    23/12/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
    23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
    諮問委員会
    23/11/16ODAC:Acrotech BiopharmaのPTCL用薬二剤、Folotyn(pralatrexate)とBeleodaq(belinostat)の市販後薬効確認が遅延している件
    23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)



    今週は以上です。

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