2023年8月20日

第1116回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • HIF-2アルファ阻害剤はVHL病関連以外の腎臓癌にも有効 
  • Tukysaはカドサイラ併用も有効 
  • IgA腎症治療薬の本承認を申請 
  • 抗CD20xCD3抗体を欧州で承認申請 
  • デルゴシチニブのクリーム製剤を欧州で承認申請 
  • チクングニア熱ワクチンの承認遅延 
  • VMAT2阻害剤がハンチントン舞踏病に適応拡大 
  • CHAPLE症候群用薬などが承認 
  • イプセン、異所性骨化抑制薬が承認 
  • ファイザーの抗BCMAxCD3抗体も承認 


【新薬開発】


HIF-2アルファ阻害剤はVHL病関連以外の腎臓癌にも有効
(2023年8月18日発表)

MSDはWelireg(belzutifan)の第3相LITESPARK-005試験で主評価項目の一つを達成したと発表した。抗PD-1/L1抗体とVEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を持つ進行腎細胞腫を組入れて120mgを一日一回経口投与する効果を実薬であるeverolimusと比較したところ、盲検独立中央評価委員会が中間解析でPFS(無進行生存期間)が統計的に有意に優れると認定した。臨床的に見ても意味のある差があった由。共同主評価項目である全生存期間はトレンドに留まっており、継続追跡して次の解析に向かう。

低酸素誘導因子2アルファ(HIF-2α)の阻害薬で、21年に米国で即時手術の必要はないフォンヒッペル・リンドウ病(VHL)関連腎細胞腫などに用いることが承認された。臨床試験でORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が49%、深刻有害事象の発生率は15%だった。HIF-2は酸欠時に活性化される転写因子で、HIF-2をスクラップする酵素を阻害する薬が日本などで貧血治療薬として承認されている。Weliregは裏返しなので重度貧血症のリスクがあるが、発現時に赤血球生成因子で治療することは推奨されていない。レーベルによると試験されていないことが理由とのことだが、何故試験されなかったのかは不明。

リンク: MSDのプレスリリース


Tukysaはカドサイラ併用も有効
(2023年8月16日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)は、her2チロシン・キナーゼ阻害剤Tukysa(tucatinib)の第3相HER2CLIMB-2試験の主目的達成を発表した。her2陽性の切除不能局所進行性/転移性乳癌でタクサン系とtrastuzumabによる治療歴を持つ患者を対象に、ロシュのKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)と併用する効果を検討したところ、PFS(無進行生存期間、治験医評価)がKadcyla・偽薬併用群を有意に上回った。副次的評価項目の全生存期間はデータが未成熟。同じく副次的評価項目である盲検独立中央評価に基づくPFSの解析結果は記されていない。

Tukysaは18年に買収したCascadian Therapeuticsの開発品で、20年に米国で承認された。her2標的薬を3剤以上使用済みのher2陽性局所進行性/転移性乳癌にtrastuzumab及びcapecitabineと併用するもの。今回、もう少し早い段階で使用する道が開けたことになる。

Seagenは3月にファイザーと企業価値ベース430億ドルの買収で合意した。

リンク: Seagenのプレスリリース

【承認申請】


IgA腎症治療薬の本承認を申請
(2023年8月18日発表)

スウェーデンのCalliditas Therapeutics(Nasdaq:CALT、Nasdaq Stockholm:CALTX)は、米国でIgA腎症治療薬Tarpeyo(budesonide)遅放性カプセルの本承認切替申請を行い受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月20日。欧州でも申請したのではないか。

IgA腎症は免疫グロブリンAが腎臓に蓄積し傷害を与え、血液や蛋白が尿に漏出する。第3相NefIgArd試験でRAS阻害剤による治療を受けている患者に16mg一日一回を追加したところ、9ヶ月間の治療でUPCR(尿蛋白クレアチニン比)が34%低下し、偽薬追加群の5%低下より有意に優れていた。このデータに基づき米国では21年に加速承認、EUでも22年にKinpeygo名で条件付き承認された。

今回は、9ヶ月の治療の完了後に更に15ヶ月間観察し、eGFR(推算糸球体濾過量)のベースライン比低下を偽薬群と比較した。各群2.47mL/分/1.73m2と7.52mL/分1.73m2となり有意な差があった。欧州でも切替申請しているのではないか。

欧州ではSTADAが販売、日本は、昨年、ヴァイアトリスがライセンスした。

リンク: Calliditasのプレスリリース


抗CD20xCD3抗体を欧州で承認申請
(2023年8月17日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はREGN1979(odronextamab)を難治/再発の濾胞性リンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の4次以降の治療薬としてEUに承認申請し受理されたと発表した。米国でも申請したのではないか。

リンパ球のCD20とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。過去の学会発表によると、前者では完全反応率75%、そのメジアン持続期間は20ヶ月だった。後者では各31%と18ヶ月。重度サイトカイン放出症候群が散見され、数人が死亡したためFDAが部分停止命令を発出したこともある。漸増法の採用前と後でで効果や忍容性がどの程度変わったのか、続報が待たれる。抗CD20xCD3抗体のクラス・イフェクトと目されているので、類薬を開発中の企業にも工夫の成果やFDAの評価が参考になるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


デルゴシチニブのクリーム製剤を欧州で承認申請
(2023年8月19日アクセス)

デンマークのLEO Pharmaは汎JAK阻害剤delgocitinibを中重度慢性手湿疹の治療薬としてEUに承認申請し受理されたと発表した。日本たばこ/鳥居薬品のアトピー性皮膚炎治療薬コレクチム軟膏の活性成分をライセンスし、クリーム製剤として開発したもので、第3相試験の一本では奏効率が20%と偽薬群の10%を有意に上回った。

リンク: LEOのプレスリリース(日付はTBCと記されている)


【承認審査・委員会】


チクングニア熱ワクチンの承認遅延
(2023年8月14日発表)

フランスのワクチン企業、Valneva(Nasdaq:VALN)は米国でチクングニア熱の弱毒化生ワクチンであるVLA1553を承認申請し、8月末までに審査結果を受領するはずだったが、3ヶ月延期された。詳細は不明だが、加速承認時に要求される市販後確認試験の内容について合意に達していない模様だ。免疫原性試験に基づく申請だが、チクングニアのワクチンは初めてなので、観察的試験などを通じて臨床的便益(発症や入院の抑制)やワクチン誘導性感染増強リスクを確認するようFDAが求めているのかもしれない。

カナダでも承認申請中。EUは年内に申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


VMAT2阻害剤がハンチントン舞踏病に適応拡大
(2023年8月18日発表)

Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)はFDAがIngrezza(valbenazine)の適応拡大を承認したと発表した。小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害剤で遅発性ジスキネジア用薬として17年に米国で、22年には日本でも承認されている。今回、ハンチントン病患者の舞踏症の治療に用いることが承認された。

臨床試験では自殺思慮などは見られなかったが、他のハンチントン病用薬と同様に、鬱病や自殺思慮・行動のリスクが枠付き警告された。

リンク: 同社のプレスリリース


CHAPLE症候群用薬などが承認
(2023年8月18日発表)

Regenron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はVeopoz(pozelimab-bbfg)がFDAに1歳以上のCD55欠損性蛋白漏出性腸症(別名CHAPLE症候群)の治療薬として承認されたと発表した。この病気は補体制御因子CD55の両方の遺伝子に機能喪失型変異があり、補体系の異常な活性化により低タンパク血症や浮腫、血栓症、ガンマグロブリン欠乏による反復性感染症などを齎す。世界の患者数は数十人で、トルコやシリア、モロッコなどで見られ、報告例はすべて近親婚とのこと。VeopozはC5に結合するIgG4型抗体。第2/3相で負荷用量30mg/kgを点滴静注後、維持用量10mg/kg(12mg/kgに増量可、上限800mg)を週一回皮下注したところ、10人全員で血清アルブミン量と血清ガンマグロブリン量が正常化し、且つ、症状悪化も見られなかった。アルブミン補充や入院も治療前より減少した。

他の補体阻害剤と同様に、髄膜炎菌性感染症が枠付き警告されている。治療開始の2週間以上前にACIP(ワクチン接種諮問委員会)が推奨するワクチンの接種/追加接種を終える。それでもリスクが残るので監視を継続する。

規格は400mgのシングル・ユース・バイアルのみで、報道によると、価格は$34,600と超高価。

Eylea(aflibercept)の8mg製剤も承認された。Catalent社の充填施設でcGMP問題が発覚し遅延していたが、解決し、Veopozの承認が道ずれとなる最悪の事態も回避できた(FDAは、cGMP関連の改善勧告が履行されるまで他の薬の承認を、その施設の関与の有無を問わず、見送ることができる)。

既存製剤より投与頻度が少ないのが長所で、競合品との差を縮めることができる。最初の3回は4週毎に硝子体注射、その後は糖尿病性網膜症の場合は2~3ヶ月毎、加齢性黄斑変性と糖尿病性黄斑浮腫の場合は2~4ヶ月毎で足りる。日本でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース(Veopoz)
リンク: 同(Eylea 8mg)


イプセン、異所性骨化抑制薬が承認
(2023年8月16日発表)

フランスのイプセンは、FDAがSohonos(palovarotene)を承認したと発表した。レチノイン酸受容体ガンマのアゴニストで、FOP(進行性骨化性線維異形成症)による新規異所性骨化量を抑制する。女は8歳以上、男は10歳以上(以下、8/10歳以上)が適応になる。EUは今年7月に欧州委員会が承認しない決定をした。FDAは近年、超希少疾患や難病に用いる薬の承認審査に際して、柔軟性を重視している。このため、医師と患者が危険と便益を周知・検討した上で適否を判断することが従来以上に重要だ。報道によると、イプセンは年62万ドル余の価格を想定している。

FOPは線維性組織の骨化が進行し、長期的に可動性の低下などを齎す。米国の患者数は400人、世界でも900人と推定される超希少疾患だ。ACVR1/ALK2遺伝子の機能獲得ミスセンス多型の関与が指摘されており、Sohonosはこの変異による過剰なシグナル伝達を調停する模様。第3相試験は中間解析で無益認定されたが、平方根変換処理が適切でなかった模様であり、データ自体は悪くなかったため、2ヶ月後に投与再開され、平方根変換を行わない事後的解析で異所性骨化量の抑制作用が浮上した。

枠付き警告は胚胎毒性と成長期小児におけるPPC(骨端軟骨の早期閉鎖)。適応年齢が8/10歳以上に制限されているのは、8/10歳未満の被験者25人中14人で不可逆的で深刻なPPCが発生し、8/10歳以上の39人中10人よりリスクが高かったため(データは1月に承認されたカナダのレーベルによる;米国のレーベルでは組入れ時に8/10歳以上14歳未満の被験者では31%で発生、14歳以上ではゼロと記されている一方で、8/10歳未満のデータは記されていない)。

レチノイド酸受容体アゴニストで有名なのはロシュのニキビ治療薬Roaccutan(isotretinoin)だが、palovaroteneもオリジンはロシュで、13年にライセンスを取得し臨床開発したClementia Pharmaceuticalsをイプセンが19年に買収したもの。

リンク: イプセンのプレスリリース


ファイザーの抗BCMAxCD3抗体も承認
(2023年8月14日発表)

ファイザーはFDAがElrexfio(elranatamab-bcmm)を加速承認したと発表した。代表的な3クラスの薬を含む4次以上の治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫が適応になる。第2相MagnetisMM-3試験で97人のORR(反応率)が58%、反応者の82%は9ヶ月以上持続した。BCMA標的薬も使用済みのコフォート63人でもORR33%、9ヶ月反応持続率84%だった。枠付き警告はサイトカイン放出症候群(G3発生率0.5%)と神経学的毒性(G3/4発生率は7%)。価格(月$41,500)も含めて、同様に骨髄腫のBCMAとT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体で昨年10月に承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンの類薬、Tecvayli(teclistamab-cqyv)と大きな違いはない。

維持用量は76mg週一回皮下注で、反応者は第25週から二週毎に減らすことが可能。副作用対応のため、初回は12mg皮下注して48時間入院観察、第4日に32mgを投与して24時間入院観察、第8日から入院不要の維持療法を開始と、ステップアップしていく。

日欧でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース



【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8~9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/9/9   BioLineRxのAphexda(motixafortide、多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植に伴う得率向上)
  • 23/9/15  ロシュの皮下注用Tecentriq(atezolizumab)
  • 23/9/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症)


諮問委員会:
  • 23/9/13 CRDAC:アルナイラムのOnpattro(patisiran。ATTR心筋症適応拡大)
  • 23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)



今週は以上です。

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