2023年6月24日

第1108回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ACIP、委員はRSVワクチンを強力勧奨せず 
  • 第二のチクングニア熱ワクチンが第3相で良績 
  • キイトルーダ、胃癌術前術後療法試験の結果は今一つ 
  • NASH用薬は承認されず 
  • 硝子体網膜リンパ腫用MTXも承認されず 
  • F2Gの抗真菌薬も承認されず 
  • EU、アッヴィの片頭痛用薬などに肯定的意見 
  • 第二の円形脱毛症用JAK阻害剤が承認 
  • DMD遺伝子療法が加速承認 
  • ヴィフガートの皮下注用新製剤が承認 
  • コルヒチンが冠動脈疾患に承認 
  • ファイザーのPARP阻害剤が前立腺癌に適応拡大


【今週の話題】


ACIP、委員はRSVワクチンを強力勧奨せず
(2023年6月21日回刺し)

CDC(米国疾病予防管理センター)はACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、5月に承認されたGSKとファイザーのRSVワクチンを接種勧奨する当否について意見を聞いた。FDAに承認された適応は60歳以上だが、報道やホームページにアップされたプレゼン・スライドによると、CDCは65歳以上だけに勧奨を想定していて、委員は、医師と相談した上で希望する場合という条件を付けた上で、60~64歳に関しては13人が接種勧奨に賛成、一人は棄権、65歳以上は賛成9人、反対5人と票が分かれた。60歳以上の全員に勧奨と予想していたので大変意外だ。60~64歳より65歳以上のほうが後ろ向きな委員が多かった理由は分からない。夫々の症例数やワクチン効率を見る限りでは大きな差があるようには思えない。

本人が希望すれば、という手順前後のような前提を付けた理由の一つは、他のワクチンと同時接種する時の免疫原性や安全性に関するエビデンスが少ないことのようだ。RSVもインフルエンザも冬に多いので今秋はCOVID-19ワクチンと合わせて同時期に(高齢者や医療従事者の手間を考えれば同日に)三本打つことになるが、臨床試験の裏付けがあるのはCOVID-19ワクチンとインフルエンザ・ワクチン、あるいはRSVワクチンとインフルエンザ・ワクチンの二本同時接種だけだ。GSKのArexvy(一価ワクチン、アジュバント配合)を4価インフルエンザ・ワクチンと同時接種した試験では2人(0.5%)がADEM(急性播種性脳脊髄炎)を発症し一人は死亡したことも、発生率が低いとはいえ、影を落としたかもしれない。

尚、ACIPの勧奨は委員の賛否で決まるわけではなく、COVID-19ワクチンの追加接種に関する勧奨のように、CDCが対象範囲や文言を変更して最終決定することも歴史上2回あった。決定版がMorbidity and Mortality Weekly Reportに掲載されるまで何とも言えない。

さて、今回、RSVワクチンの二年目の効果に関するデータが明らかになった。GSKのArexvyは一回筋注でワクチン効率(RSVによる下部気道感染症のリスク削減率)が82%だったが、翌年は77%に低下した。二年目にもう一回接種する効果も検討したが、結果は大差なかった。ファイザーのAbrysvo(二価ワクチン、アジュバントなし)も一年目の66%が二年目(北半球だけのデータ)は49%に低下した。尚、両社の試験は下部気道感染症の定義が異なるため、数値の厳密な比較はできない。

ワクチンの臨床試験で散見されるギラン・バレー症候群は、Arexvyでは第3相再接種試験で一人(日本の78歳の被験者)、Abrysvoでは二人(一人は日本の66歳でミラー フィッシャー症候群の可能性もある)、報告された。人口全体の発症率より高いため、両社が市販後監視する。分母となるべき投与実績はどちらも1万人以上だが、日本の施設における投与実績も気になるところだ(一般に、日本の臨床試験参加施設は有害事象の捕捉率が高いと言われているので、発生率が高いからと言って日本人はリスクが高いとは必ずしも言えないが)。

米国の高齢者医療制度や民間保険会社(及び日本の60歳以上の人たち)にとって重要な価格は、決定はしていないものの、両社とも200~300ドル程度を想定している模様。4価インフルエンザ・ワクチンだけなら100ドル程度だが三本打つと4~5倍に膨らむことになる。

【新薬開発】


第二のチクングニア熱ワクチンが第3相で良績
(2023年6月20日発表)

デンマークのワクチン・メーカー、Bavarian Nordic(OMX:BAVA)は、CHIKV VLP(別称PXVX0317)の第3相高齢者抗原性試験が目的達成したと発表した。幅広い年齢層を対象とするもう一本は第3四半期に結果が判明する見込みで、順調ならその後に承認申請に向かうだろう。

ネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカが媒介するチクングニア・ウイルス感染症の予防用VLP(ウイルス様粒子)ワクチンで、Alhydrogel名のアルミ・アジュバントを添加して免疫原性を高めている。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)からEmergent BioSolutions(NYSE:EBS)がライセンスし第3相まで進めたが、今年3月、事業領域の見直しに伴いBavarian社に他の一部製品・開発品とともに譲渡した。

第3相は65歳以上の413人に一回筋注し、3週後の中和抗体陽転率を調べたところ、87%が当局と相談して決定した閾値をクリアした。第15日時点でも82%と良好だった。もう一本は12~64歳の3000人超を組入れて、三種類のロットの免疫原性を偽薬と比較している。

良く分からないのは効果の持続性。18~45歳を組入れた第2相では、4週置いて二回接種したコフォートの一つで第18ヶ月にブースター接種を施行したところ、中和抗体価が大きく上昇した。欧米に住んでいる人なら流行地域に旅行する時だけ接種すればよいが、流行地域に住んでいる人は1~2年に一回接種しなければならないかもしれない。ルーチンに接種すべきワクチンがどんどん増えていく。

チクングニア熱ワクチンはフランスのワクチン・メーカー、Valneva(Euronext Paris:VLA)が弱毒化生ワクチンVLA1553を昨年米国で承認申請、8月末までに審査結果が出る見込み。こちらの陽転率は98.9%と高いが、ベースが同じで比較できるものなのか明らかではない。

リンク: Bavarian社のプレスリリース


キイトルーダ、胃癌術前術後療法試験の結果は今一つ
(2023年6月20日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-585試験の中間解析結果をアップデートした。局所進行性で切除可能な胃・胃食道接合部腺腫の1007人を組入れて、切除術の前後に実施する化学療法にKeytrudaを追加する便益を検討したところ、共同主評価項目のうちpCR(病理学的完全反応率)は目的達成したが、肝心のEFS(無イベント生存率)は事前に設定された成功認定基準をクリアできなかった。このため、副次的評価項目である全生存期間の正式な解析は見送られたとのこと。

抗PD-1/L1抗体は数多くの適応を持つが、苦手もある。胃癌試験の首尾は白黒混じっており、先週も、Keytrudaはher2陽性進行胃・胃食道接合部腺腫の一次治療化学療法併用試験でPD-L1陽性サブグループにしか効果が見られず、加速承認の適応縮小申請する考えであることが発表された。

今回も失望的といえば失望的だが、主評価項目の一つの、しかも中間解析に割り当てられるアルファは決して大きくないだろうから、点推定値とp値の水準次第では、おまけする余地があるかもしれない。先行解析がフェールしたらそれ以降の解析は意味を持たないが、それでも、全生存期間の点推定値や名目p値を見てみたいものだ。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


モデルナ、XBB.1.5抗原配合COVID-19ワクチンを承認申請
(2023年6月22日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA)はmRNA-1273.815をFDAに承認申請した。同社のSpikevaxは、起源株の一価ワクチンと起源株/BA.1及び起源株/BA.4-5の二価ワクチンが承認/EUAされているが、今回は世界的に主流となったオミクロンXBB.1.5の融合前スパイク蛋白を抗原とするmRNAワクチン。同様に流行している、同様なスパイク蛋白を保有するXBB.1.16株やXBB.2.3.2株にも有効。

現在用いられているワクチンはXBB.1.5系統に対する中和抗体価がBA.5などと比べて大きく落ちることが報告されている。感染状況の疫学研究では効果が著しく落ちた様子はないので細胞性免疫が有効なのかもしれないが、状況が変わるかもしれないので、早期の実用化が望まれる。米国の感染者におけるXBB.1.5株の構成比は直近のCDC推定では27%と8割強だった3ヶ月前と様変わりしており、依然としてXBB.1系が圧倒的ではあるものの、入れ替わりの速さには驚かされる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


NASH用薬は承認されず
(2023年6月22日発表)

Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)は原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocaliva(obeticholic acid)の高量版をNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。5月の諮問委員会では代理マーカーに基づく加速承認に後ろ向きな意見が多かったため、意外感はない。同社はこの疾病に関する開発を中止するとともにリストラに着手する考え。NASHにおける次の期待はMadrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)が承認申請を予定する甲状腺ホルモン受容体β作動剤、MGL-3196(resmetirom)。

FDAはNASHにおける代理マーカーとして、肝線維症が改善しNASHが悪化しない、または、NASHが解消し肝線維症が悪化しない患者の比率が偽薬を有意に上回ることを上げている。第3相REGENERATE試験の中間病理学的解析で前者が23%対12%、p=0.0002と目的達成したが、FDAは長期追跡により肝臓アウトカム(肝不全や肝硬変、死亡などの複合評価項目)の改善を確認するよう求めた。ガイドラインと食い違うが、Ocalivaより多い25mgを投与するせいか薬物誘導性肝障害のリスクが見られるため、『臨床的な便益が合理的に期待できる』だけでは足りないと考えたのだろう。

OcalivaはEUでも承認されているが、NASHは効果の小ささや副作用を指摘され、適応拡大申請撤回を余儀なくされた。

オベチコール酸は胆汁酸誘導物で、FXR(ファルネソイドX受容体)アゴニスト。日本は大日本住友製薬(当時)がライセンスしたが、第2相NASH試験のフェールなどを経て返還した。

リンク: Intercept社のプレスリリース


硝子体網膜リンパ腫用MTXも承認されず
(2023年6月21日発表)

米国マサチューセッツ州の新興製薬会社、Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は、ADX-2191(methotrexate)を原発性硝子体網膜リンパ腫(PVRL)用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。過去の論文刊行された臨床試験と、増殖性硝子体網膜症(PVR)患者68人の安全性確認試験のデータに基づき申請したが、FDAは前者が適切な対照試験ではないことなどから薬効が確立したとは言えないと判定した。

MTXはリウマチ性関節案やある種の癌に加えてPVRLやPVR向けに調剤薬局製硝子体注射用製剤がオフレーベルで使用されている模様。放置すると死亡する可能性もあるため、同社は偽薬対照試験の実施は困難として、FDAと相談した上で、申請に踏み切った。それだけに、意外感がある。

MTXは需給がひっ迫していることや、PVR安全性試験で網膜剥離の副作用発生率が調剤薬局製品の文献データより低かったことなどから、希望する医師に未承認薬の使用を認めるExpanded Accessプログラムの認可を求める考え。

リンク: 同社のプレスリリース


F2Gの抗真菌薬も承認されず
(2023年6月19日発表)

英国の未上場新薬開発企業であるF2G Ltd.はF901318(olorofim)を侵襲性真菌感染症のサルベージ・セラピーとしてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加的なデータや解析を求められた由。後期第2相単群試験の当初100人のデータに基づき申請したが、全203人の組入れ完了済みなので、追加提出する考え。第3相実薬対照試験も進行中で24年後半に結果が判明する見込み。

orotomidesという新クラスの抗真菌薬で、ピリミジン合成経路を阻害し殺菌作用を発揮する。上記試験では第42日応答率が44%だった。但し、8%の患者で薬物誘導性肝障害が発生した。

十分な治療手段が乏しい感染症に使う薬の承認のハードルを引き下げる、Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugsという制度に基づく申請なので、FDAは不十分なエビデンスを学会や論文でも公表されないような細部まで検討した上で可否を決することになる。勿論、常にそうなのだが、当局の裁量の幅が大きければ大きいほど水面下のデータの重要性が増すので、当方のような第3者には予想もつかない結果になりがちだ。

リンク: 同社のプレスリリース(GLOBE NEWSWIRE)


EU、アッヴィの片頭痛用薬などに肯定的意見
(2023年6月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アッヴィのQulipta(atogepant monohydrate)は経口CGRP(calcitonin-gene-related peptide)受容体拮抗剤。月4日以上片頭痛を経験する患者の再発予防薬で、反復性片頭痛患者を組入れた臨床試験では60%前後の患者が再発頻度半減に成功した(偽薬群は29%)。発生頻度が高い慢性片頭痛試験では半減奏効率が41%だった(同26%)。米国では既に承認済み。

GSKのJesduvroq(daprodustat)はHIF-PH(hypoxia-inducible factor prolyl hydroxylase)阻害剤。透析依存慢性腎疾患の成人の症候性貧血を治療する。20年に日本で、今年2月には米国でも、承認された。

一方、Amylyx(Nasdaq:AMLX)のAlbrioza(sodium phenylbutyrate、taurursodiol)は否定的意見となった。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬として欧米で承認申請され、米国では昨年9月に承認されたが、CHMPは、臨床試験において進行抑制効果が十分に示されなかったことや、データの収集や解析方法が万全でないため延命効果が確立したとは言えないことなどを指摘した。

適応拡大では、まず、ベーリンガー・インゲルハイムのSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)。二型糖尿病の有無を問わず、慢性腎疾患に用いることが支持された。EMPA-KIDNEY試験で腎臓病の進行などのリスクを28%抑制した。日米でも承認審査中。

大鵬薬品が創製し欧州ではセルビエが開発販売しているLonsurf(trifluridine、tipiracil)は、成人の転移結腸直腸癌で主力3剤及びVEGF阻害剤歴を持つ患者にbevacizumabと併用することが支持された。SUNLIGHT試験でメジアン生存期間が10.8ヶ月と、Lonsurfだけを投与した群の7.5ヶ月を上回った。米国でも適応拡大申請中。

ギリアド・サイエンシズの抗TROP-2抗体薬物複合体、Trodelvy(sacituzumab govitecan)は切除不能/転移ホルモン受容体陽性her2陰性乳癌で内分泌療法と進行後に二種類以上の全身的療法歴を持つ成人に用いることが支持された。TROPiCS-02試験でメジアン生存期間が14.4ヶ月と、医師が選んだ薬を投与した群の11.2ヶ月を上回った。

アストラゼネカはImjudo(tremelimumab)とImfinzi(durvalumab)を化学療法と併用で転移非小細胞性肺癌の一次治療に用いることが支持された。実質的には昨年12月に肯定的意見、今年2月に承認されているが、当時はImjudoではなくTremelimumabというGE薬のような製品名だった。

【承認】


第二の円形脱毛症用JAK阻害剤が承認
(2023年6月23日発表)

ファイザーは、FDAがLitfulo(ritlecitinib)を12歳以上の重度円形脱毛症の治療薬として承認したと発表した。日欧でも承認審査中。

JAK3やTEC(肝細胞腫発現チロシン・キナーゼ)ファミリーの酵素を阻害する経口剤。病歴6ヶ月以上10年以内で、SALT(頭皮脱毛率)が88~93の患者を組入れた試験で、SALTが20以下に低下した患者の比率が23%と偽薬群の1.6%を上回った。JAK阻害剤ではイーライリリーのOlumiant(baricitinib)が昨年6月に承認されているが、未成年者に承認されたのはLitfuloが初めて。

JAK阻害剤のクラス枠付き警告が付されている(入院や死につながるかもしれない深刻感染症、類薬の関節リウマチ試験で死亡者が増加、悪性腫瘍の増加、類薬の関節リウマチ試験で主要有害心血管イベントがTNF阻害剤より増加、血栓症)。CYP3A4などを阻害するため併用注意。

リンク: 同社のプレスリリース


DMD遺伝子療法が加速承認
(2023年6月22日発表)

FDAはSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬として加速承認した。4~5歳の、DMD遺伝子に変異が確認されている、歩行可能な患者が適応になる。DMDの遺伝子療法や遺伝子療法の加速承認は初。価格は320万ドルと、UniQure社のB型血友病遺伝子療法の350万ドルに次ぐ第2の高嶺の花となるようだ。

DMDの多くはジストロフィンの遺伝子の機能低下・喪失変異を持ち、進行性の運動障害や、致死的な呼吸/心臓疾患を合併する。類似した疾患であるベッカー型筋ジストロフィー患者のジストロフィンは万全ではないがある程度機能することに着目してNationwide Children's Hospitalが開発したのが今回承認されたrAAVrh74.MHCK7.マイクロジストロフィンで、分子量を138kDaとジストロフィンの1/3まで小さくしてアデノ随伴ウイルス74型に組込むことを可能にし、筋細胞選択的に発現させるもの。

第3相試験では症状スコアが偽薬比有意に改善しなかった。4~5歳のサブグループ分析は有意だったが、6~7歳の数値が偽薬群より悪かったことが響いた。このため、マイクロジストロフィン発現という代理マーカーに基づき4~5歳限定で加速承認された。もう一本の第3相症状改善試験が年内に開票見込みで、この試験や別の試験のデータ次第で本承認切替や年齢制限解除、歩行不能患者追加、裏目に出たら加速承認返上を、申請することになるだろう。

尚、ジストロフィンの変異箇所がエクソン8や9である患者は臨床試験で免疫反応のリスクが見られたため禁忌。事前検査で抗rAAVrh74抗体高力価だった患者は薬効が低下する可能性があるため投与は推奨されない。重要な有害事象は急性深刻肝障害や免疫調停性筋肉炎、心筋炎など。

米国外の権利はロシュが取得、日本は子会社の中外製薬がサブライセンスした。

SareptaのDMD治療薬といえば16年に米国で加速承認されたExondys 51(eteplirsen)の承認経緯が広く知られている。CDER(小分子薬などを担当)のヘッドであったJanet Woodcockが審査担当部署の意見を退け、当時も委員長だった尊敬すべき心臓学者、Robert Callifの支持を得て加速承認させた。今回も、担当部署は後ろ向きだったがCBER(生物学的製剤などを担当)のヘッドであるPeter Marksが諮問委員会を招集するよう推奨、票決は賛成8人反対6人と分かれたが、加速承認させた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース


ヴィフガートの皮下注用新製剤が承認
(2023年6月20日発表)

オランダのargenx SE(Eironext/Nasdaq:ARGX)はFDAがVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc)を抗アセチルコリン受容体抗体を持つ全身性重症筋無力症用薬として承認したと発表した。21~22年に米日欧で承認された点滴静注用薬の皮下注用製剤で、抗FcRn抗体efgartigimod alfaを1008mg、ヒアルロン酸を分解して薬剤の吸収を高めるHalozymeのrHuPH20を11200単位の混合液を30~90秒かけて皮下注する(自己注は認められていない)。静注用と同様に、週一回、4回投与する。必要に応じて繰り返すことができる。価格は同程度に設定される模様。

欧州や日本でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


コルヒチンが冠動脈疾患に承認
(2023年6月20日発表)

スロバキアの製薬会社であるAgepha Pharmaの米国子会社は、FDAがLodoco(colchicine)をアテローム硬化性疾患や心血管疾患高リスク患者に用いることを承認したと発表した。オーストラリアやオランダなどの施設で安定性冠動脈疾患の患者5522人を組入れた第3相研究者主導試験、LoDoCo2で、心血管疾患死/心筋梗塞/虚血性卒中/虚血による冠動脈血行再建術の複合評価項目の発生率が6.8%と偽薬群の9.6%を下回り、ハザードレシオ0.69(95%信頼区間0.57-0.83)だった。各項目とも偽薬群を下回った。

0.5mg錠を一日一回経口投与する。スタチンなどと併用可。但し、CYP3A4やP-gpを阻害する薬は併用禁忌なので、一部のスタチンやARBはオフリミット。また、特に筋毒性を持つ薬と同時使用した時に筋毒性が見られるため、一部のスタチンやフィブレートは×。また、血球・血小板減少リスクがあるためこれらの病気を持つ人は禁忌。重度腎/肝障害も禁忌。

活性成分は元々はイヌサフランから抽出されたもので薬物としての使用歴は1000年を超えるらしい。米国で承認されたのは1961年で、痛風発作の治療に1.8mg/日、家族性地中海熱には1.2-2.4mg/日を投与する。冠動脈疾患における作用機序は明らかではないが、βチューブリンの重合を阻害し好中球などの活性化や移行を妨げる抗炎症作用が寄与と考えられている。

価格設定が難しそうだ。MTXの既存製品は既にGE化しており0.6mg含有品もあるので、オフレーベル使用される可能性があるからだ。大金を投じて薬効や安全性を確認した企業に報いるべきと言いたいところだが、Agepha Pharmaは上記試験の資金や薬剤を提供した訳ではなさそうなので、肩を持ち難い。

リンク: Agepha社のプレスリリース


ファイザーのPARP阻害剤が前立腺癌に適応拡大
(2023年6月20日発表)

FDAはファイザーのTalzenna(talazoparib)の適応拡大を承認した。18年にBRCA有害変異を持つher2陰性の局所進行性/転移性乳癌用薬として承認したが、今回は一転して、HRR(相同組換修復)遺伝子変異のある転移去勢抵抗性前立腺癌に用いることを認めた。Xtandi(enzalutamide)、そして両側精巣摘出を受けていない患者はGnRH作用剤と、併用する。

PARP阻害剤は遺伝子の複製ミスを修復する上で必要な酵素を妨げ、活発に増殖するが故に複製ミスも起きやすい癌の拡大を抑制する。主なターゲットはBRCA変異のある癌だが、他の変異も含むHRR不全全体に対する効能を検討した様々試験が実施され、区々な結果になっている。そのため、FDAはPARP阻害剤の適応範囲を無暗に広げないよう腐心しているように感じられる。

今回の適応のエビデンスとなる第3相TALAPRO-2試験はHRR不全ではない患者も組み入れてXtandi・偽薬併用群とPFS(放射線学的無進行生存期間)を比較した。ハザードレシオは0.63で、HRR不全サブグループ分析では0.46、それ以外では0.70だった。HRR不問で良さそうに見えたが、承認されたのはHRR不全だけだった。今回初めて知ったが、BRCA変異型155人の探索的解析ではハザードレシオ0.20、それ以外のHRR不全では0.72だった。これを見ると、HRR不全ではなくBRCA変異に限定したほうが良いようにも感じられる。

Talzennaは16年に140億ドル(エクイティ・バリュー・ベース)で買収したMedivationがそれ以前にBioMarinから資産取得したもの。欧州では19年に承認、日本では今年2月に両適応症で承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース



【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年6~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23/6/23  Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
  • 23/6/27  Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
  • 23/6/30  Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)
  • 23年7月推 アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab、0歳児等のRSV下部気道感染症予防)
  • 23/7/6  エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb、本承認切替)
  • 23/7/23  Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
  • 23/7/24  第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固め)
  • 23/7/28 Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)


諮問委員会:
  • 23/6/28 EDAC:イプセンのpalovarotene(進行性骨化性線維異形成症)



今週は以上です。

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