【ニュース・ヘッドライン】
- キイトルーダ、her2陽性胃GEJ腺腫の適応範囲を制限へ
- 金製剤の第2相ALS試験でNfL抑制作用を発見
- スキリージの潰瘍性大腸炎維持療法試験が成功
- 反応性アルデヒド種調節剤のアレルギー性結膜炎試験が成功
- アストラゼネカ、AKT阻害剤を乳癌に承認申請
- 米国版タケキャブを再承認申請
- ロシュ、優しいCD20xCD3抗体が承認
- 心ミオシン・インヒビターが効能追加
- アラジール症候群に適応拡大
【新薬開発】
キイトルーダ、her2陽性胃GEJ腺腫の適応範囲を縮小へ
(2023年6月16日発表)
MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相KeyNote-811試験の共同主評価項目のうちPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を中間解析で達成したと発表した。既に加速承認されている適応・用法だが、効果が見られたのは専らPD-L1陽性(CPS≧1)だけだったため、適応範囲を限定する方向で承認審査機関と相談する考え。
この試験はher2陽性の進行胃・胃食道接合部腺腫の一次治療を受ける患者を対象に、化学療法とtrastuzumabのレジメンにKeytrudaを追加する便益を偽薬追加群と比較した。もう一つの主評価項目である全生存期間は中間解析の閾値に到達していない模様で、引き続き追跡する。
Keytrudaはこの試験の副次的評価項目の一つであるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)の中間解析が74%と偽薬追加群の52%を有意に上回り、メジアン反応持続期間も10.6ヶ月対9.5ヶ月で上回ったため、主評価項目の開票を待たずに21年に米国で加速承認された。やはり、ORRは当てにならず奏効率などと患者をミスリードする呼び方をすべきではないのだろう。
Opdivoの米国における同様な承認も加速承認で、他の試験で延命またはそれに準じる効果を挙証する必要がある。加速承認のエビデンスとなるデータもPD-1低発現サブグループの数値は今一つだったので、おそらく、クラスイフェクトなのだろう。
リンク: MSDのプレスリリース
金製剤の第2相ALS試験でNfL抑制作用を発見
(2023年6月15日発表)
米国ユタ州のClene(Nasdaq:CLNN)は、第2相HEALEY ALS試験で、CNM-Au8を投与した群の血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)水準が偽薬比有意に低下したことを明らかにした。主評価項目のALSFRS-Rスコアは22年にフェールしたが、同様な規模の試験で同様にALSFRS-RがフェールしたバイオジェンのQalsody(tofersen)がNfL抑制作用に基づいて4月に米国で加速承認された前例に倣って、当局と相談する考え。
CNM-Au8は金のナノクリスタル経口懸濁液。触媒活性を持ち、細胞のエネルギー生成を駆動して神経細胞やグリア細胞が病気のストレッサーから回復するのを助けることにより、神経保護や再ミエリン化を齎すとのこと。ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病、多発硬化症の第2相試験が実施された。
ALSは早期患者45人を組入れて30mg/日を投与したRESCUE-ALS試験が21年にフェールしたが、主評価項目はこの病気の試験ではあまり一般的ではなく、ALSFRS-Rなどの探索的解析はp値が0.01~0.04だった。ALSFRS-R応答率は偽薬群の倍以上高く、オープンレーベル試験で試験薬にスイッチした元偽薬群の患者の全生存期間は最初から試験薬群に割り付けられた患者の半分以下だった。いずれも頑強なエビデンスとは程遠いが、神経学領域の新薬開発には紆余曲折が付き物であり、悲観せずに諦めるにはまだ早いと自らを奮い立たせなかったら、永遠にゴールにたどり着けない。
HEALEY ALSはマサチューセッツ総合病院が主導して米国の68施設が参加しているプラットフォーム試験で、標準療法に追加する便益を様々な薬を使って検討している。CNM-Au8は30mgと60mgに60人ずつ割付けて偽薬群40人のデータと比較した。これも主評価項目はフェールしたが死亡リスクや症状評価の解析は望ましい方向を向いていた。今回発表されたNfLは、自然対数変換値がベースライン比0.024低下、偽薬群は0.076上昇で、差は-0.1000、p=0.040というもの。進行リスクが高いサブグループではもう少し大きな効果が見られた。
p値は胸を張れるほどではなく、データ収集や解析の質も明らかではない。Qalsodyのデータは変化率(半減)なので見比べることはできない。FDAがどう評価するか、相談結果が出るのを待つしかないだろう。
リンク: Cleneのプレスリリース
スキリージの潰瘍性大腸炎維持療法試験が成功
(2023年6月15日発表)
アッヴィは抗IL-23p19サブユニット抗体Skyrizi(risankizumab-rzaa)の第3相COMMAND試験が主評価項目と副次的評価項目を達成したと発表した。バイオ薬/JAK阻害剤/S1PR調節剤のうち一つ以上を含む既存治療に十分応答しない中重度活性期潰瘍性大腸炎の患者を組入れたINSPIREインダクション試験で応答した患者を再無作為化割付けして、静注ではなく皮下注射で180mgまたは360mgを52週間に亘り投与する効果を偽薬と比較したところ、主評価項目の臨床的寛解(Adapted Mayo Score基準)が各群40%、38%、25%となり、有意な差があった。用量間の差は副次的評価項目でも見られないので、180mgで足りそうだ。深刻有害事象発生率は各群5%、5%、8%で大差なし。主要有害心血管イベントやアナフィラキシー反応は見られなかった。
Slyriziは欧米でプラク乾癬や乾癬性関節炎、クローン病の治療に承認されている。潰瘍性大腸炎でも適応拡大申請されるのではないか。
リンク: 同社のプレスリリース
反応性アルデヒド種調節剤のアレルギー性結膜炎試験が成功
(2023年6月15日発表)
Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(rreproxalap点眼液)をドライアイ治療薬としてFDAに承認申請中だが、アレルギー性結膜炎も三本目の第3相が成功した。既存薬と比べた競争力に自信があれば承認申請に向かうのではないか。
免疫源の一つである有機アルデヒド遊離体に結合して炎症を抑制する画期的新薬。今回のINVIGORATE-2試験は、アレルギー性結膜炎患者131人の双方向クロスオーバー試験で、アレルゲン・チャンバーに約210分間入室させて目のかゆみ(0~4の尺度)を第110~210分の間に11回報告させた。主評価項目も、副次的評価項目の目の充血スコアも、有意に改善した。数値は未公表。
同様なデザインのINVIGORATE試験が21年に、評価項目が異なる第3相も19年に成功しているが、同社は、おそらく競争条件を踏まえて、ドライアイ用途を優先させている。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
アストラゼネカ、AKT阻害剤を乳癌に承認申請
(2023年6月12日発表)
アストラゼネカは米国でAZD5363(capivasertib)を局所進行性/転移性乳癌に承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は今年第4四半期とだけ開示している。ホルモン受容体陽性でher2受容体は陰性/境界域(IHC法で-、1+、または2+だがIn situハイブリダイゼーション法では陰性)、そして内分泌療法歴を持つ患者に、Faslodex(fulvestrant)と併用で、400mgを一日二回、4日オン、3日オフのスケジュールで経口投与する。
第3相CAPItello-291試験ではPFS(無進行生存期間、治験医評価)がメジアン7.2ヶ月とFaslodex・偽薬併用群の3.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.60だった。AKT阻害剤なのでPI3KCA/AKT1/PTEN経路に悪性変異を持つサブグループの解析も行われたが、各7.3ヶ月、3.1ヶ月、0.5となっており、持つ者でも持たざる者でも効果は大差なさそうだ。
Astex(13年に大塚製薬が買収)が英国の癌研究機関との共同研究を通じて発見、05年にアストラゼネカがライセンスしたもの。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
米国版タケキャブを再承認申請
(2023年6月12日発表)
Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)はvonoprazanをびらん性胃食道逆流症用薬として再承認申請し受理された。6ヶ月審査で期限は11月17日。
武田薬品のカリウムイオン競合型アシッドブロッカー、タケキャブの北米欧州における開発販売権をライセンスしたもので、抗生剤を同梱したピロリ菌除菌療法用薬Voqueznaトリプル/デュアル・パックとして昨年5月に承認された。ところが、癌原性が疑われるNVP(N-nitroso-vonoprazan)が微量検出されたことから、安定性試験を行って含有量が大きく増えないことを確認するまで販売を見送ることになった(FDAのオレンジ・ブックではdiscontinuedと記されている)。NDMA(N-nitrosodimethylamine)は薬品保管中に量が増える厄介な特性を持っているが、NVPも可能性があるのだろう。
このため、昨年3月にびらん性胃食道逆流症用薬として申請したvonoprazanだけの製品も審査完了通知を受領した。同社は3ヶ月間の安定性試験を実施、5月にトリプル/デュアル・パックの、今回は単剤製品の、再承認申請を行った。6ヶ月間の安定性データも追加提出する予定。有効期間は2年(日本は3年)なので3ヶ月で足りるのか良くわからない。
リンク: Phathom社のプレスリリース
【承認】
ロシュ、優しいCD20xCD3抗体が承認
(2023年6月16日発表)
ロシュはFDAがColumvi(glofitamab-gxbm)をリンパ腫の三次治療薬として加速承認したと発表した。難治再発のDLBCL NOS(別途分類されていないびまん性巨細胞型B細胞リンパ腫)や濾胞性リンパ腫から進展した巨細胞型B細胞リンパ腫が適応になる。臨床試験でORR(客観的反応率)が56%、完全反応率は43%だった。メジアン反応持続期間は18.4ヶ月。G3/4サイトカイン放出症候群の発生率は4%と低かったが命に係わる副作用であるため枠付き警告された。
CD20とCD3を架橋する二重特異性抗体で、近年の抗癌剤には珍しく、投与回数が12回までと固定されており、治療が順調に進んだら休薬が可能。同社のもう一つの抗CD20xCD3抗体、Lunsumio(mosunetuzumab-axgb)も同じだが、Columviは忍容性が比較的よいことに着目、リンパ腫でも悪性度が比較的穏やかな癌を適応としており、二つの意味で優しい製品といえるだろう。
類薬はジェンマブがアッヴィと共同開発したEpkinly(epcoritamab-bysp)が一足先に米国で先月、加速承認され、日欧でも承認申請中。適応範囲が少し異なるためデータを比較するのは難しい。ロシュの二剤は点滴静注用だがEpkinlyは皮下注用。
リンク: ロシュのプレスリリース
心ミオシン・インヒビターが効能追加
(2023年6月15日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブは、症候性閉塞性肥大性心筋症用薬Camzyos(mavacamten)のレーベル一部変更がFDAに承認されたと発表した。中隔縮小治療(SRT)が適応になる患者の代替的治療とするもので、第3相VALOR-HCM試験では、16週間の治療で82%の患者が適応ではなくなった(偽薬群は23%)。
心臓選択的にミオシンをアロステリックに阻害する経口剤。22年の初承認のエビデンスとなったEXPLORER-HCM試験はpLVOT(ピーク左心室流路)勾配が50mmHg以上の患者だけを組入れており、中隔縮小術が適応になるのは多くの場合50mmHg未満なので、今回の承認は実質的に適応拡大である(承認はpLVOT維持患者だけではなかったので形式上は治験データが追加されただけだが)。EUでもCHMPが4月に両方の用途で肯定的意見をまとめている。
リンク: 同社のプレスリリース
アラジール症候群に適応拡大
(2023年6月13日発表)
FDAはイプセンのBylvay(odevixibat)の適応を追加、アラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒の治療に用いることを承認した。臨床試験では0~17才の52人を偽薬と2:1割付けして掻痒評価スコアの改善を確認したが、承認は12歳以上の患者に限定された。欧州でも適応拡大申請中で今月にもCHMPの意見がまとまる見込みのようだ。
ナトリウム胆汁酸共輸送体を阻害する局所作用性薬品で、21年に欧米で進行性家族性管内胆汁鬱滞症(PFIC)用薬として承認された。胆汁酸の血清濃度を大きく下げる作用を持つ。有害事象は下痢や腹痛など。
08年にアストラゼネカからスピンアウトされたAlbireo Pharmaを今年、買収して入手したもの。
リンク: イプセンのプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA:
- 23年6月推 ファイザーのPF-06651600(ritlecitinib、12歳以上の円形脱毛症)
- 23年6~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
- 23/6/17 F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
- 23/6/20 argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
- 23/6/21 Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
- 23/6/22 Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
- 23/6/22 Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
- 23/6/23 Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
- 23/6/27 Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
- 23/6/30 Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)
- 23年7月推 アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab、0歳児等のRSV下部気道感染症予防)
- 23/7/6 エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb、本承認切替)
- 23/7/23 Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
- 23/7/24 第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固め)
- 23/7/28 Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)
諮問委員会:
- 23/6/28 EDAC:イプセンのpalovarotene(進行性骨化性線維異形成症)
今週は以上です。
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