【ニュース・ヘッドライン】
- ジェコビデンのEUAを取消
- EHA:抗C5抗体不十分応答にD因子阻害剤を追加
- EHA:本家の抗C5リサイクリング抗体が先輩並みの効果
- 家ダニの減感作療法の小児試験が成功による
- ASCO:エンハーツが様々なher2陽性癌に良績
- オンデキサの市販後薬効確認試験が成功
- ASCO:IDH阻害剤はIDH変異型グレード2神経膠腫に有効
- ASCO:新患cHLの多剤併用療法にオプジーボ追加が有効
- ASCO:キイトルーダは二勝一敗
- ASCO:豪華な併用レジメンが卵巣がんの一次治療に有効
- 抗CTGF抗体のDMD試験がフェール
- 遺伝子編集薬が米国でも承認申請
- MSD、キイトルーダを胆道癌に承認申請
- GSK、抗PD-1抗体をdMMR/MSI-H内膜腫に承認申請
- ASCO:カービクティを二次治療に適応拡大申請
- FDA諮問委員会、レカネマブの本承認にGo!
- FDA諮問委員会、新規RSV感染症予防薬の承認を支持
- Rubracaの適応拡大は承認されず
- プレバイマスが腎移植レシピエントに適応拡大
【今週の話題】
ジェコビデンのEUAを取消
(2023年6月2日発表)
FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen BiotechのCOVID-19ワクチンのEUA(非常時使用認可)を取消した。メーカー側が自発的返上を要請してきたため。このアデノウイルス26型をベクターとするワクチンは21年に米国でEUA、EUでも条件付き承認、22年には日本でも承認され、初回接種に一回筋注だけで効果があることが評価された一方で、予防効果はmRNAワクチンに見劣りし、極稀だが深刻な有害事象も見られたことから、需要が伸び悩んだ。米国政府が保有する在庫有効期限が失効し追加調達の計画もないこと、そして、JNJは現在の流行の中心であるXBB株に対応したワクチンを開発する意思がないことから、取消しに至った。
EUAは公衆衛生上の緊急事態宣言に対応するもので、宣言が終了した今日では、いつ取り消されても不思議はない。
リンク: FDAのプレスリリース
【新薬開発】
EHA:抗C5抗体不十分応答にD因子阻害剤を追加
(2023年6月9日発表)
アストラゼネカはEHA(欧州血液学会)でdanicopanの第3相ALPHA試験の成績を発表した。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は同社のSoliris(eculizumab)やUltomiris(ravulizumab)のような抗C5抗体が有効だが、1~2割の患者は血管内ではなく脾臓や肝臓など血管外で臨床的に重要な溶血が起き、貧血などの症状を発現する。このような患者に経口D因子阻害剤を追加投与する便益を検討したところ、中間解析で目的達成した。主評価項目の第12週ヘモグロビン値はベースライン値の7.7g/dLから2.94g/dL上昇、偽薬群の0.5g/dL上昇を有意に上回った。副次的評価項目の輸血回避奏効率(各群83%と38%)や疲労の臨床評価スコアも有意に改善した。有害事象は頭痛、悪心、関節痛、下痢など。
子会社のAlexionが20年にAchillion Pharmaceuticalsを買収して入手したパイプライン。承認申請する予定。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
EHA:本家の抗C5リサイクリング抗体が先輩並みの効果
(2023年6月9日発表)
ロシュはEHAでRG6107(SKY59、crovalimab)の第3相COMMODORE 2試験の結果を発表した。欧州、日本を含むアジア、そして中南米の施設で補体阻害剤歴を持たない発作性夜間ヘモグロビン尿症患者200人を組入れて、初回は静注、翌日以降は皮下注射で週一回投与を4回繰り返し、その後は倍量を4週毎に投与する用法で、25週間の輸血回避奏効率と第5-25週の溶血管理奏効率(LDH量で評価)をeculizumab(静注用)と比較したところ、前者は65.7%対68.1%、後者は79.3%対79.0%となり、非劣性認定された。深刻感染症の発生率は3%と7%、点滴関連反応の発生率は16%と13%だった(オープンレーベル試験なので試験薬の後者の数値は初回投与時のものだろう)。
中国ではCOMMODORE 3単群試験がすでに成功し、承認審査中。欧米日本では今回の試験と、補体阻害剤歴を持つ患者がスイッチする安全性を検討したCOMMODORE 1試験のデータで申請するものと推測される。米国の施設が参加したのはCOMMODORE 3だけのようであることが気になるところだ。
crovlimabは中外製薬のリサイクリング抗体技術を適用し抗原に繰り返し結合できるようにしたもの。アストラゼネカのUltomirisも似たような技術を用いている模様で、特許紛争を経て和解金を得ることに成功した。
リンク: ロシュのプレスリリース
家ダニ減感作療法の小児試験が成功による
(2023年6月8日発表)
デンマークのALK社は、第3相小児塵ダニ性アレルギー性鼻炎試験が成功したと発表した。欧米の5~11歳の患者1458人を組み入れて、欧州ではAcarizax、米国ではOdactra、日本ではライセンシーの鳥居薬品がミティキュア名で販売している減感作療法用舌下錠の効果を12ヶ月に亘り検討したところ、TCRS鼻炎尺度が偽薬比22%改善し、95%下限は12%となりFDAが示唆した閾値の10%を上回った。一部変更申請に向かうと推測される。日本では18年に12歳未満にも承認されたが、EUは18歳以上、米国は12歳以上に現在も限定されている。
リンク: 同社のプレスリリース
ASCO:エンハーツが様々なher2陽性癌に良績
(2023年6月6日発表)
第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の第2相DESTINY-PanTumor02試験の中間解析結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。様々な部位のher2陽性癌を再発治療する単群試験で、267人中37%がcORR(確認客観的反応率)、うちIHC検査で3+の75人では61%、2+の125人でも27%だった。部位別では子宮頸癌が50%、内膜腫が57.5%(17.5%は完全反応)、卵巣癌が45%だった(解析対象は夫々40人程度)。
発生部位ではなく遺伝子発現プロファイルに基づく適応は、MSDのKeytruda(pembrolizumab)が高マイクロサテライト不安定性やミスマッチ修復不全と判定された腫瘍に承認されている。加速承認された時点では別途承認された結腸直腸癌を除く症例数は59、ORRは46%、部位毎では内膜腫の14例が最大でORRは36%、ORRがこれを上回ったのは胃・胃食道接合部癌(9例中56%)と膵癌(6例中83%)だけだった。その後、本承認に切り替わった時の症例数は380、部位別に40例以上の実績があるのは内膜腫(94例中50%)と胃・胃食道接合部癌(51人中39%)だけだった。
こうしてみるとEnhertuの症例数は決して見劣りせず、もしher2検査やORR評価の客観性に問題がなく、ORRで承認を取る時に求められる反応持続期間のデータも揃っているならば、今回のデータで承認/加速承認を獲得する可能性があるのではないか。
リンク: 両社のプレスリリース(和文、pdfファイル)
オンデキサの市販後薬効確認試験が成功
(2023年6月5日発表)
アストラゼネカはAndexXa(andexanet alfa)のANNEXA-I試験が中間解析で目的達成したことを発表した。apixabanやrivaroxabanのようなXa阻害剤を服用中に頭蓋内出血を発症した成人患者を15時間以内に組み入れて投与し、止血効果や症状転帰を通常医療(4因子含有プロトロンビン複合体など)と比較したもので、米国で加速承認、EUで条件付き承認された時のフェーズIVコミットメント試験でもあるため、順当な結果になって一安心というところだろう。
2002年にCor TherapeuticsがMillenium Pharmaceuticalsに買収された時にスピンアウトされたPortola Pharmaceuticalsが16年後に実用化したXa阻害剤結合剤で、20年に企業買収したAlexionを21年にアストラゼネカが買収した。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
ASCO:IDH阻害剤はIDH変異型グレード2神経膠腫に有効
(2023年6月4日発表)
セルビエは3月にIDH(Isocitrate dehydrogenase-1)1/2阻害剤vorasidenibの第3相試験成功を公表したが、ASCOで詳細が明らかにされた。グレード2神経膠腫の8割程度で見られる、IDH1/2変異型を対象とした試験で、切除術を受けたが残余病変がある、または再発した、薬物治療未経験の患者を組入れて、偽薬または40mgを一日一回経口投与したところ、rPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価委員会方式)のハザードレシオが0.39、各群のメジアン値は11.1ヶ月と27.7ヶ月と、良好な結果になった。G3以上の有害事象発現率は各群13.5%と22.8%、G3以上のALT上昇はゼロと9.6%だった。
20年にAgios Pharmaceuticalsから買収した腫瘍学ポートフォリオの一つ。承認申請するのではないか。
リンク: Mellinghoffらの治験論文抄録(NEJM)
ASCO:新患cHLの多剤併用療法にオプジーボ追加が有効
(2023年6月4日発表)
米国の共同臨床試験グループであるNCTNが実施した古典的ホジキン型リンパ腫(cHL)の一次治療試験、S1826の結果がASCOで発表された。12歳以上のステージIII/IVの新患976人をBV-AVD群(brentuximab vedotin、adriamycin、vinblastine、dacarbazine)またはN-AVD群(brentuximab vedotinに代えてnivolumabを使用)に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したもので、事前に計画されていた中間解析で後者に軍配が上がった。ハザードレシオ0.48、片側p値は0.0005、1年PFS率は各群86%94%だった。有害事象は末梢神経症はBV-AVD群が、甲状腺機能低下/亢進やG3以上の血液学的有害事象はN-AVD群が、上回った。メジアン12ヶ月の追跡で各群4人と11人が死亡し、うち有害事象によるものは3人と7人だった。
Seagen(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin)は18年に米国で、19年にはEUでも、成人の新患cHL向けに承認された。小児も承認されているがadriamycin、vincristine、etoposide、prednisone、cyclophosphamideと併用するので今回のレジメンとは若干異なる。
BMSのOpdivo(nivolumab)は再発cHLに承認されているが新患にも有効であることが明らかになった。類薬ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)が難治再発cHLの第3相でPFSがAdcetrisを上回り、21年に米国で承認された。
リンク: SWOGのプレスリリース
リンク: ASCO抄録(2023ASCO LBA4)
ASCO:キイトルーダは二勝一敗
(2023年6月3日発表)
MSDは2~3月にKeytruda(pembrolizumab)の第3相試験二本の成功と一本のフェールを発表したが、データをASCO(米国臨床腫瘍学会)で公表した。
KeyNote-671試験は切除可能なステージII/IIIA/IIIBの非小細胞性肺癌を組入れて、術前に白金ベース化学療法と併用で、術後にはKeytrudaだけを投与する群のEFS(無イベント生存期間)と全生存期間を、Keytrudaの代わりに偽薬を投与する群と比較した。EFSはハザードレシオ0.58、メジアン25.2ヶ月追跡しても試験薬群はメジアン未達、偽薬群は17ヶ月だった。2年EFS率は各群62.4%と40.6%だった。全生存期間は未成熟だが、ハザードレシオ0.73と好ましい方向を向いている。
EFS延長効果はPD-L1発現の多寡を問わず観察されたが、TPS<1%のサブグループはハザードレシオは0.77だが95%上限は1.07なのでエビデンスが万全とは言い難く、例え未成熟であっても全生存期間の点推定値を見てみたいものだ。
KeytrudaはステージIBからIIIAの非小細胞性肺癌を切除し白金ベースの術後化学療法を終えた患者に用いることが米国で承認されている。今回の用法は3月に申請受理され、審査期限は10月16日。
類薬ではアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)が類似したAEGEAN試験でEFSのハザードレシオ0.68、メジアン値は未達対25.9ヶ月と、まあまあ似たような成績を上げた。一方、BMSのOpdivo(nivolumab)はステージIBからIIIAまでを対象としたCheckMate-816試験で化学療法併用で術前だけ投与したところ、EFSハザードレシオが0.63、メジアン値は31.6ヶ月対20.8ヶ月だった。術前だけで同様な成果が上がるなら幸便なので、ステージ毎のサブグループ分析データを今回の試験と比較してみる余地がありそうだ。
何れにせよ、長期生存の可能性もある患者層なのでEFSだけでなく全生存期間のサブグループ分析も見てみたいものだ。
もう一本はカナダの共同臨床試験グループが主導した第2/3相IND.227/KEYNOTE-483試験。切除不能進行/転移悪性胸膜中皮腫の一次治療における標準療法であるpemetrexedと白金薬のレジメンに追加で3週毎、最大35サイクル投与したオープンレーベル試験で、主評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.79、両側p値は0.0324、メジアン生存期間は17.3ヶ月で対照群の16.1ヶ月を僅かに上回った。PFSもハザードレシオ0.80、p=0.0372、メジアン値は各群7.13ヶ月と7.16ヶ月だった。G3/4治療関連有害事象発現率は27%と15%だった。
同様な患者を組入れたCheckMate-743試験では、OpdivoとYervoy(ipilimumab)を併用した群のメジアン生存期間は18.1ヶ月と化学療法群の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.74だった。併用するならYervoyのほうが良さそうだ。こちらの試験でもPFSはハザードレシオ1.0、メジアン値は6.8ヶ月と7.2ヶ月で見劣りしており、全生存期間のほうがアテになりそうだ。この併用は米国で承認された。
一方、KeyNote-789試験はフェールした。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤歴を持つEGFR変異陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌(被験者の半分がTagrisso(osimertinib)歴あり)を組入れて、pemetrexedと白金薬のレジメンに追加する効果を検討したが、偽薬追加群を少し上回っただけだった。共同主評価項目のうちPFSは第2次中間でハザードレシオ0.80、p=0.0122となり、閾値の片側0.0117をクリアできなかった。メジアン値は5.6ヶ月で偽薬追加群の5.5ヶ月と大差ない。全生存期間の最終解析もハザードレシオ0.84、p=0.0362で閾値の0.0118をクリアできなかった。メジアン値は15.8ヶ月と14.7ヶ月で大差なかった。全生存解析結果はPD-L1陽性グループも陰性グループも同程度だった。一方、G3以上の治療関連有害事象発生率は43.7%対38.6%で上回り、G5は0.4%と0.8%で大差なかった。
Keytrudaの米国における肺癌適応は、EGFR変異陽性が少ない扁平上皮腫を除いて、EGFRやALKに癌原性変異を持たない患者に限定されている。治験の除外条件だからそうなっただけで実際は有効なのではないかと思っていたが、思い違いだった。
リンク: MSDのプレスリリース(671試験)
リンク: Wakeleeらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: MSDのプレスリリース(483試験)
リンク: YangらのASCO抄録(789試験)
ASCO:豪華な併用レジメンが卵巣がんの一次治療に有効
(2023年6月3日発表)
アストラゼネカは、日本も参加したグローバル第3相進行ハイ・グレード上皮性卵巣癌一次治療試験、DUO-Oの結果をASCOで発表した。導入療法として白金ベースの化学療法とbevacizumab、維持療法としてbevacizumabを施行する標準療法を対照群として、Imfinzi(durvalumab)の導入・維持療法とLynparza(olaparib)の維持療法を追加する群と、Imfinziの導入・維持療法だけを追加する群の便益を検討したもので、LynparzaはBRCA有害変異陽性癌の一次治療に応答した患者の維持療法として既に承認されているため、腫瘍細胞にBRCA有害変異(tBRCAm)がないコフォートを解析対象とした。
主評価項目はまず、HRD(相同組換不全)サブグループのPFS(無進行生存期間、治験医評価)。ハザードレシオ0.49、メジアン値は37.3ヶ月対23.0ヶ月と大変良い結果が出た。シーケンシャルに行われたコフォート全体の解析もハザードレシオ0.63、24.2ヶ月対19.3ヶ月と良好。奇妙なことに、HRD陰性だけの事前に設定された探索的解析でもハザードレシオ0.68、95%上限0.86、メジアン20.9ヶ月対17.4ヶ月と良績を上げている。
一方、副次的評価項目であるImfinziだけ追加した群はコフォート全体のハザードレシオ0.87、95%上限1.04、20.6ヶ月対19.3ヶ月となり、フェールした。
深刻有害事象発現率は二剤追加群が39%、Imfinzi追加群が43%、対照群が34%だった。
良く分からないのは、Lynparzaだけ追加では足りないのか?バイオ薬三剤の併用は高価なので、価格に見合った便益が欲しいものだ。
リンク: 同社のプレスリリース
抗CTGF抗体のDMD試験がフェール
(2023年6月7日発表)
FibroGen(Nasdaq:FGEN)はFG-019(pamrevlumab)の第3相デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)試験がフェールしたことを明らかにした。LELANTOS-1試験に12歳以上のステロイド治療を受けている歩行不能な患者99人を組入れて、35mg/kgを2週毎に52週間静注して主評価項目であるPIL(Performance of the Upper Limb)2.0総スコアの変化を偽薬と比較したが、有意な差がなかった。
もう一本、歩行可能な6~11歳の70人を組入れて効果をNSAA(North Star Ambulatory Assessment)総スコアで評価する試験の結果が第3四半期に判明する見込み。また、IPF(特発性肺線維症)の第3相も第3四半期と24年に成否判明する見込み。
CTGF(結合組織成長因子)をブロックする抗体で、組織の線維化やリモデリングの抑制が期待されている。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
遺伝子編集薬が米国でも承認申請
(2023年6月9日発表)
CRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)と開発販売パートナーのVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、CTX-001(exagamglogene autotemcel、通称exa-cel)を鎌状赤血球病と輸血依存ベータ・サラセミアの治療薬として米国で承認申請し、受理された。承認されれば遺伝子編集薬で初となる。前者の適応は優先審査を受け、審査期限は12月8日。後者は標準審査で来年3月30日。欧州では昨年12月に承認申請、今年1月に受理されている。
CRISPR社は、古細菌がバクテリオファージから身を守る仕組みに着眼したCRISPR-Cas9遺伝子編集技術の代表的な企業で、ノーベル化学賞を受賞したEmmanuelle Charpentierらが設立した。Vertexは15年に共同研究提携を結び、17年にCTX-001をライセンスした。患者から採取したCD34陽性造血幹・前駆細胞の遺伝子を編集し、本来は胎児にしか発現しない胎児ヘモグロビンを赤血球に発現させる。どちらの用途も第1/2/3相試験が中間解析で目的達成したことが今回、EHAで発表された。
鎌状赤血球病試験は欧米の施設で35人を組入れた。中間解析対象の17人のうち16人は12ヶ月以上連続で血管閉塞性クリーゼ(VOC)が発生しなかった。また、17人全員が、12ヶ月以上連続でVOCによる入院がなかった。
輸血依存ベータ・サラセミア試験は48人中27人が解析対象で、88.9%の患者が12ヶ月以上連続で輸血不要だった。患者自身の評価も良好だった。
遺伝子編集された赤血球の比率は安定的で、順調に定着していることが示唆された。治療関連深刻有害事象はベータ・サラセミア試験で2名で発生したが全て解消、鎌状赤血球病試験では発生しなかった。
これらの疾患の遺伝子療法は、bluebird bio(Nasdaq:BLUE)がレンチウイルスをベクターとしてex vivoで導入するZynteglo(betibeglogene autotemcel)を開発、19年にEUで、22年には米国でも、輸血依存ベータ・サラセミア用薬として承認取得した(CTX-001のこの用途が優先審査にならなかったのはこれが理由と推測される)。同社は鎌状赤血球病でもlovotibeglogene autotemcelを4月に承認申請した。
尚、Zyntegloは欧州では薬価交渉が難航し、承認返上となった。メーカー側は年30万ユーロ余を5年払い、但し効果がなくなったら支払い中止、という水準を狙ったが、ドイツでは半額程度に値切られた模様だ。米国では280万ドル、但し輸血依存が解消しなかったら8割を返還、という取り決めになった模様。貧乏患者は麦を食え。
リンク: 両社のプレスリリース(米国承認申請)
リンク: 同(EHA発表)
MSD、キイトルーダを胆道癌に承認申請
(2023年6月8日発表)
MSDはKeytruda(pembrolizumab)を局所進行切除不能/転移胆道癌に適応拡大申請し受理された。審査期限は来年2月7日。
胆道癌は肝臓癌の15%を占める、肝細胞腫に次いで多い癌。Keytrudaは一次治療を受ける患者1069人を組入れてgemcitabine及びcisplatinに追加する便益を検討したKeyNote-966試験でメジアン生存期間が12.7ヶ月と偽薬追加群の10.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.83だった。2年生存率では24.9%対18.1%ともう少し見栄えのする数値が出ている。G3/4治療関連有害事象の発生率は70%対69%で大差なかった。
リンク: 同社のプレスリリース
GSK、抗PD-1抗体をdMMR/MSI-H内膜腫に承認申請
(2023年6月6日発表)
GSKは米国でもJemperli(dostarlimab-gxly)をdMMR(ミスマッチ修復不全)/MSI-H(高マイクロサテライト不安定性)の原発性進行難治子宮内膜腫に承認申請し受理されたと発表した。審査期限は9月23日。欧州でも4月に受理された。
同社は一時期、腫瘍学から撤退していたが、トップ交代と共に復帰を宣言し、19年にTesaroを買収した。収穫の一つがこの抗PD-1抗体で、21年に欧米で白金レジメン歴を持つdMMR陽性の難治進行内膜腫用薬として承認取得した。今回は化学療法と共に早期段階で使用する。第3相RUBY試験ではPFS(無進行生存期間、治験医評価)のハザードレシオが化学療法・偽薬併用群比で0.28、24ヶ月PFS率は61.4%対15.7%だった。この試験はdMMR/MSI-Hに該当しない患者も組入れており、副次的評価項目である全被験者のPFSハザードレシオは0.64、dMMR/MSI-Hではない患者だけの解析でも0.76と良好だった。全生存期間の解析は未成熟だが大変好ましい方向を指している。治療時発現有害事象による投与中止発生率は17.4%対9.3%で上回った。
類薬ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)もNRG-GY018試験で良好な成績を上げた。
リンク: 同社のプレスリリース
ASCO:カービクティを二次治療に適応拡大申請
(2023年6月5日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalはCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)の第3相CARTITUDE-4試験の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。成人の1~3次治療歴を持ちlenalidomide抵抗性の多発骨髄腫419人を組入れて、PFS(無進行生存期間)を標準療法(PVdまたはDPdレジメン)と比較したもので、1月に中間解析が成功した。事前にリークされていたように、ハザードレシオは0.26、メジアン値は16ヶ月追跡時点でも未達、標準療法群は11.8ヶ月だった、12ヶ月PFS率は各群76%と49%だった。
各群210人前後のうち39人と46人が死亡、うち有害事象によるものは10人と5人だった。
Carvyktiの適応は米国では4次以上、EUでは3次以上の治療歴を持つ患者。FDAが4次以上に限定したのはエビデンスとなる試験は3次治療歴の患者も組込んだが少数に留まったことが原因のようだ。今回の結果を受けて、EUでは5月に、米国は今月、適応拡大申請した。多発骨髄腫は治療の選択肢が増えて最初から惜しみなく多剤併用するケースが増えたため、2次治療と3次、4次治療の違いが分かりにくくなった。米国における目標適応は、成人の再発難治多発骨髄腫でプロテアソーム阻害剤と免疫調停薬を含む1次以上の治療歴を持ち、lenalidomide抵抗性の患者となっており、結局、主力三剤全てを使い果たした患者ということになる。
リンク: JNJのプレスリリース(ASCO発表)
リンク: JNJのプレスリリース(承認申請)
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会、レカネマブの本承認にGo!
(2023年6月9日発表)
FDAは末梢中枢神経系用薬諮問委員会を招集し、1月に仮承認したエーザイとバイオジェンの抗アミロイド・ベータ抗体、Leqembi(lecanemab-irmb)を本承認する当否について意見を聞いた。6人の委員全員が支持したので、審査期限の7月6日までに切り替えられるだろう。米国の高齢者医療制度であるメディケアはアミロイド・ベータ削減作用だけでは満足せず臨床的便益が確立し本承認されたら保険還元する方針を示しており、今より多くの患者が利用できるようになるだろう。年26500ドルと高額なので、保険料の引き上げも必須だろう。
MRI検査で脳アミロイドの蓄積が認められた軽度アルツハイマー病(AD)とADによる軽度認知障害の患者1795人を組入れて、2週毎1時間点滴静注を18ヶ月間反復した第3相CLARITY AD試験で、CDR-SBの悪化が偽薬比27%小さかった。ベースライン値は3.2で、試験薬群の修正変化は1.21なので大雑把に言えば18ヶ月間に37%悪化、偽薬群は53%悪化したことになる。CDR-SBは6項目について各5段階評価するものなので、試験薬群は1~2段階悪化、偽薬群は2~3段階悪化したものと推測される。
主な有害事象は点滴箇所反応(試験薬群の発生率26%、偽薬群は7%)、アミロイド関連造影異常-出血(17%と9%)、アミロイド関連造影異常-浮腫(12%と1%)など。
リンク: 両社のプレスリリース(和文、pdfファイル)
FDA諮問委員会、新規RSV感染症予防薬の承認を支持
(2023年6月8日発表)
FDAは抗微生物薬諮問委員会を招集し、アストラゼネカが幼児のRSウイルスによる下部気道感染症を予防する用途で承認申請したMEDI8897(nirsevimab)について意見を聞いた。最初のRSV流行期を迎える生後12ヶ月未満の乳幼児に関しては21人の委員全員が便益が危険を上回ると判定。2回目の流行期を迎える重症化リスク因子を持つ24ヶ月までの幼児についても19人が支持した。昨年11月に承認されたEUに続き、米国でも承認されそうだ。審査期限は第3四半期とのみ公表されている。日本でも承認申請された。
同社が2007年に子会社化したメディミューンの出世製品で四半世紀の市販歴を持つSynagis(palivizumab)とは異なった部位に結合する抗RSV融合前F蛋白抗体。重症化リスク因子を持たない乳児や、低体重出生児や慢性心臓疾患、慢性肺疾患など感染すると重症化の恐れがある幼児は2年目も使える点が重要な違い。初年度は体重5kg未満は50mg、以上は100mg、2年目は200mgを各一回、筋注する。
疫学研究によるとRSV感染症による入院の過半は重症化リスク因子を持たない乳幼児。また、慢性心臓疾患、慢性肺疾患の2~5歳児はRSV疾患のリスクが高い。アストラゼネカは第3相MELODY試験で在胎35週以上の健康な1歳未満においてもRSV性下部気道感染症による医療介入を74%抑制できることを確認した(罹患率1.2%、偽薬群は5.0%)。2年目の予防効果の裏付けは2年目の投与における薬物動態データで、罹患率に関するエビデンスはない。
承認後はアストラゼネカが生産、サノフィが販売する予定。Synagisの米国事業を買収したSobiが米国売上に関するロイヤルティ権を持っている。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
Rubracaの適応拡大は承認されず
(2023年5月26日発表)
Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は米国証券取引委員会に提出した適時開示資料の中で、FDAがPARP阻害剤Rubraca(rucaparib)の適応拡大を認めなかったことを明らかにした。同社は破産裁判所にチャプター11の適用を申請しRubraca事業をPharma& Schweiz GmbHに売却してしまったので事業面での影響は小さいが、承認されていたら貰えたはずの達成報奨金や需要・売上拡大に伴うロイヤルティ収入の上乗せが見込めなくなった。
今回の申請は白金感受性卵巣癌の二次以降の白金薬治療に応答した患者の維持療法。PFSが偽薬比有意に改善したが、PARP阻害剤のPFSは延命効果に繋がらない可能性があるため、FDAは全生存期間の最終解析結果が出るまで承認しない姿勢を示した。
リンク: Clovisのフォーム8-K
【承認】
プレバイマスが腎移植レシピエントに適応拡大
(2023年6月6日発表)
MSDのPrevymis(letermovir)の適応拡大がFDAに承認された。17~18年に米欧日で承認された抗CMV薬で、オリジナルの適応・効能であるCMV抗体陽性の成人他家造血幹細胞移植レシピエントにおけるCMV再活性化予防に加えて、今回、CMV陽性ドナーの腎移植を受けたCMV陰性レシピエントのCMV感染予防に用いることが認められた。臨床試験では、acyclovir併用でPrevymisを移植後200日まで一日一回静注/経口投与した群の1年CMV疾患発症率が10%となり、valganciclovirと、acyclovirに対応する偽薬を併用した群の12%と非劣性だった(差は-1.4、その95%下限は-6.5で閾値の-10をクリア)。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA:
- 23年6月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
- 23/6/15 イプセンのBylvay(odevixibat、アラジール症候群に適応拡大)
- 23/6/16 GSKのmomelotinib(骨髄線維症)
- 23/6/16 BMSのCamzyos(mavacamten、閉塞性肥大性心筋症における中隔縮小治療の必要性の抑制に適応拡大)
- 23/6/17 F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
- 23/6/20 argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
- 23/6/21 Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
- 23/6/22 Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
- 23/6/22 Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
- 23/6/23 Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
- 23/6/27 Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
- 23/6/30 Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)
諮問委員会:
- 23/6/15 VRBPAC:2023-24シーズンのCOVID-19ワクチン配合株について
- 23/6/28 EDAC:イプセンのpalovarotene(進行性骨化性線維異形成症)
今週は以上です。
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