【ニュース・ヘッドライン】
- ノバルティスのCDK4/6阻害剤も乳癌術後薬物療法試験が成功
- 抗生剤の新規組み合わせが難治感染症に有効
- ファイザー、新種の血友病用薬の第3相が成功
- アストラゼネカは抗IL-23抗体の開発を中止
- BMSもROS1阻害剤を承認申請
- 中華抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤を米国でも承認申請
- バフセオを米国で再申請へ
- AmylyxのALS用薬、CHMPからネガティブなフィードバック
- リムパーザがBRCA変異前立腺癌に適応拡大
- ファイザーの高齢者RSVワクチンも承認
【新薬開発】
ノバルティスのCDK4/6阻害剤も乳癌術後薬物療法試験が成功
(2023年6月2日発表)
ノバルティスは3月にKisqali(ribociclib)の第3相NATALEE試験が中間解析で目的達成した旨明らかにしたが、詳細をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。年内に欧米で適応拡大申請する予定。日本での開発は6年前に何故か打ち切られている。
ステージIIとIIIのホルモン受容体陽性、her2陰性の乳癌を切除した約5100人を組入れて、内分泌療法に加えて400mgを21日連続服用し7日休薬するスケジュールで3年間投与する効果を内分泌療法のみの群と比較したところ、iDFS(侵襲的再発なく生存)のハザードレシオが0.748と、統計的にも臨床的にも有意な結果になった。全生存期間の中間解析も0.759と好ましいトレンドが見られた。
iDFSのサブグループ分析では、ステージIIが0.76、IIIは0.74、と癌やリンパ節転移の進行がそれほど進んでいない症例でも同様な効果が見られた。リンパ節転移のない患者も600人程度組入れられ、0.63と有意ではないが好ましい数値が出た。
用量を転移癌における600mgから減らしたが、肝機能検査値異常などによる服用中止が散見された。
イーライリリーのCDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)は一足先にステージIII限定のmonarchE試験が成功、米日欧で適応拡大が認められた。ハザードレシオは0.653なので、Kisqaliの数値はやや見劣りする。一方で、ステージIIも承認されれば潜在的な対象患者数はVerzenioの2倍以上に拡大し、服用期間は単純計算で1.5倍なので、標的となる市場規模は3倍以上となる。
リンク: ノバルティスのプレスリリース
抗生剤の新規組み合わせが難治感染症に有効
(2023年6月1日発表)
ファイザーは、グラム陰性菌による深刻感染症のサルベージ療法としてaztreonam(略称ATM)とavibactam(同AVI)を併用した第3相試験二本がポジティブな結果になったと発表した。23年下期に欧州中国米国などで承認申請する考え。
REVISIT試験はグラム陰性菌による複雑腹腔内感染症(cIAI)又は院内感染肺炎(HAP)/人工呼吸器関連肺炎(VAP)で他に治療手段がない又は限られる患者を組入れて、両剤(cIAIの場合はmetronidazoleも追加)を点滴静注する効果をmeropenem(現地の治療方針に応じてcolistinも追加可)群と比較した。cIAIにおける治癒率(intent-to-treatベース)は各群76.4%と74.0%となり、群間差の95%下限は-12.4だった。非劣性検定と推測されるが閾値は記されていない。28日死亡率は各群1.9%と2.9%だった。HAP/VAPでは前者が45.9%と41.7%で群間差の95%下限は-23.6%、後者は10.8%と19.4%だった。非劣性検定が成功したのかどうかは明記されていない。深刻有害事象の発生率は両群大差なく、試験薬群では治療関連深刻有害事象は発生しなかった。
ASSEMBLE試験ではメタロ・ベータ・ラクタマーゼ産生グラム陰性菌感染者12人に投与したところ5人がテスト・オブ・キュア受診で治癒認定された。最善治療施行群では3人中ゼロだった。
ATMはスクイブが米国で1986年に承認取得したモノバクタム系グラム陰性菌用薬。AVIはアベンティスからスピンアウトしたNovexelのベータ・ラクタマーゼ阻害剤で、第3世代セフェム系抗菌剤のceftazidimeとの配合剤を、米国ではライセンシーのフォレストが15年にAvycaz名で、欧州などではNovexelを買収したアストラゼネカが16年にZavicefta名で、承認を取得した。どちらも新規活性成分ではないが、新たな組み合わせで多剤耐性菌に立ち向かう。
ファイザーは16年にアストラゼネカからZaviceftaの北米外の権利を承継、4月に日本でも承認申請した。北米の権利はフォレストが数回の合併を経て合流したアッヴィが保有しているが、ファイザーがスポンサーとなった今回の試験には米国の一部の施設も参加していることや、プレスリリースの書きぶりから、北米での販売もファイザーが主導するつもりではないかと感じられる。
リンク: ファイザーのプレスリリース
ファイザー、新種の血友病用薬の第3相が成功
(2023年5月30日発表)
ファイザーはPF-06741086(marstacimab)の第3相A型/B型血友病治療試験で、インヒビターを持たないコフォートの目的達成を公表した。持つコフォートの開票は24年遅くの見込みとのことなので、承認申請はその後なのかもしれない。
活性化第VII因子とTFの複合体による第X因子の活性化を抑制する、天然のTFPI(tissue factor pathway inhibitor)のKunitz 2ドメインを標的とする抗体医薬。このBASIS試験は12~74歳の重度A型血友病またはFIX活性が2%以下の稍重度/重度B型血友病の患者145人を組み入れる同一患者間対照試験で、負荷用量300mg、維持用量150mg(300mgに増量可)を週一回、皮下注射する皮下注する、12ヶ月の治療期間における出血頻度(年率)を、治験参加前の治療法を継続する6ヶ月間のリード・イン期間と比較するもの。インヒビターを持たないコフォート(116人)のうち、リード・イン期間中に血液凝固因子の予防的投与を受けていなかったサブグループでは出血頻度が92%減少。受けたサブグループでも35%減少した。血栓塞栓イベントは見られなかった。
類薬ではノボ ノルディスクが同じドメインに結合するNN7415(concizumab)を米日などでインヒビターを持つA型B型血友病用薬として承認申請中で、カナダでは4月にB型限定で承認されたが、米国は、ペン型ディバイスに関する理由で、同月、審査完了通知を受領した。
リンク: 同社のプレスリリース
アストラゼネカは抗IL-23抗体の開発を中止
(2023年6月1日発表)
アストラゼネカの抗IL-23抗体brazikumabはクローン病で後期第2相/第3相、潰瘍性大腸炎で後期第2相段階だが、開発中止が決まった。安全性懸念が生じたわけではなく、開発の遅れや競合状況が原因のようだ。紆余曲折があったが、一応の決着を見ることになる。
12年にアムジェンから共同開発権を取得した抗IL-17受容体A抗体brodalumabなど5品目の一つだが、アムジェンが最初に降り、アストラゼネカも16年にアラガンに世界開発販売権を供与した。アラガンがアッヴィと合併した時に反トラスト法上の理由で返還されたが、代償として上記適応における臨床試験の費用等を肩代わりさせることができたので、アストラゼネカにとっては、特別な思い入れも重荷感もないプロジェクトだっただろう。
競合品はジョンソン・エンド・ジョンソンの抗IL-12/23p40サブユニット抗体Stelara(ustekinumab)が09~11年に欧米日で承認、ベーリンガー・インゲルハイムがアッヴィと共同開発した抗IL-23抗体Skyrizi(risankizumab)が19年に日欧米で承認と、だいぶ先行している。brazikumabの臨床試験はロシアのウクライナ侵略の煽りも食った。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
【承認申請】
BMSもROS1阻害剤を承認申請
(2023年5月30日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブはBMS-986472(repotrectinib)をROS1再編成のある局所進行/転移非小細胞性肺癌用薬として米国で申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は11月27日。Turning Point Therapeuticsをエクイティ・バリュー41億ドルで買収して入手したコンパウンドでROS1、TRK、ALKなどを阻害する経口剤。ファースト・イン・ヒューマン試験でもある第1/2TRIDENT-1試験のROS1阻害剤治療歴を持たない非小細胞性肺癌を組み入れたコフォートで高いcORR(確認客観的反応率)を示した。
類薬では19年にロシュのRozlytrek(entrectinib)が日米で同様な適応に承認された。
リンク: BMSのプレスリリース
自家腫瘍浸潤リンパ球を黒色腫に承認申請
(2023年5月26日発表)
Iovance Biotherapeutics(Nasdaq:IOVA)は米国でlifileucelをPD-1/PD-L1阻害剤歴と標的療法歴を持つ進行黒色腫用薬として承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は11月25日。切除した腫瘍から抽出したリンパ球を培養した細胞療法で、リンパ除去後に投与する。臨床試験では87人中3人が完全反応、22人が部分反応し、メジアン反応持続期間は41.4ヶ月だった。
リンク: 同社のプレスリリース
中華抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤を米国でも承認申請
(2023年5月17日発表)
米国ニュー・ハンプシャー州のElevar Therapeutics(旧称LSK BioPharma)は米国でVEGFR2阻害剤rivoceranibと抗PD-1抗体camrelizumabを新薬承認申請した。切除不能肝細胞腫に併用する。米中欧亜露ウクライナなど13ヶ国で実施された一次治療実薬対照試験で効果がsorafenibを上回った。主評価項目のPFS(無進行生存期間)はハザードレシオ0.52、メジアン値は各5.6ヶ月と3.7ヶ月、副次的評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.62、各22.1ヶ月と15.2ヶ月となり、まず中国で2月に承認された。
Jiangsu Hengrui Medicine(江蘇恒瑞医薬、上海:600276)からのライセンス品で、中国では夫々、他の適応・用法でも承認されている。
リンク: Elevarのプレスリリース
【承認審査・委員会】
バフセオを米国で再申請へ
(2023年5月30日発表)
Akebia Therapeutics(Nasdaq:AKBA)はHIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害剤vadadustatを腎性貧血治療薬として開発し、20年に日本のライセンシーである田辺三菱製薬が承認を取得、EUでも23年にAkebiaが承認を取得して提携解消した大塚製薬の後釜であるMedice Arzneimittel Pütterが年内に発売予定となっているが、米国は昨年3月に審査完了通知を受領した。Akebiaは公式紛争解決手続きを開始するよう要求していたが、今回、OND(新薬部)の不服申立て担当者が、請求は却下したものの、新たな臨床試験を実施しないで再申請する道筋を示した。
FDAの審査担当部門は貧血治療薬の心血管安全性に懸念を持っており、vadadustatはリスクがEPOと非劣性であることが確認されなかったことや、薬物誘導性肝障害の懸念から、追加臨床試験の実施を提案した。しかし、同じONDの不服申立て担当者は、血栓塞栓症例はバスキュラー・アクセス関連が中心でリスクはそれほど高くなくレーベルで警告すれば足りる可能性があり、薬物誘導性肝障害も透析時に肝機能検査を受けるので発見・対処できるとの同社の主張を認知したとのこと。日本で発売後2年間に治療を受けた数万人のデータ(薬物誘導性肝障害は1例もなし)も価値を認めた。
このため、同社はタイプA会議を経て7月以降に再申請する考え。
リンク: 同社のプレスリリース
AmylyxのALS用薬、CHMPからネガティブなフィードバック
(2023年5月30日発表)
Amylyx(Nasdaq:AMLX)はフェニル酪酸ナトリウムとタウロオルソデオキコール酸の合剤を筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬として開発し、米国では昨年9月に承認されたが、EUは、専門家委員会であるCHMPの傾向投票がネガティブな結果になった旨の連絡を受けた。6月に正式な否定的意見がまとまる可能性があり、その場合、再審請求をする考え。
第2相試験の成績は決して良くはなかったが、ALSは効果の高い治療薬が存在しない難病であり、効果や安全性に不確かなところがあっても患者が受け入れる可能性があることから、承認基準を引き下げる余地がある。米国ではFDAが異例の二回目の諮問委員会を招集し、アルツハイマー病薬の承認を牽引したことで有名な審査担当者がALSのような難病の薬にはフレキシビリティが必要と説得、メーカー側も第3相試験がフェールしたら承認返上も含めて患者に最善な対応を行うと語って、一回目の反対多数を覆した。難しい問題なので欧米で意見が異なっても不思議はないし、結論は真逆でも評価の違いはそれほど大きくないだろうから、EUでも境界線のどちらに転がるか分からないだろう。
リンク: Amylyxのプレスリリース
【承認】
リムパーザがBRCA変異前立腺癌に適応拡大
(2023年6月1日発表)
アストラゼネカと開発販売パートナーのMSDは、FDAがPARP阻害剤Lynparza(olaparib)の適応拡大を承認したと発表した。成人の転移去勢抵抗性前立腺癌で、BRCAに有害変異(疑い例も含む)を持つ患者に、ジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤abiraterone及びprednisoneと併用するもの。エビデンスとなる第3相PROpel試験ではLynparzaではなく偽薬を併用する群と比較したところ、被験者の11%を占めたBRCA有害変異サブグループにおける事後的分析では、rPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザードレシオが0.24、全生存期間は0.30だった。
この試験はBRCA変異や相同組換え修復不全の有無を問わず組み入れたが、BRCA有害変異のない54%の患者では延命効果が見られず、血液検査法と組織検査法のどちらかで判定不能だった35%でも十分な効果は見られなかった。
リンク: 同社のプレスリリース
ファイザーの高齢者RSVワクチンも承認
(2023年5月31日発表)
ファイザーのAbrysvoが60歳以上のRSウイルスによる下部気道疾患を予防するワクチンとしてFDAに承認された。先に承認されたGSKのArexvyとの違いはA型だけでなくB型ウイルスもカバーする二価ワクチンであることと、免疫刺激アジュバントが添加されていないこと。第3相試験成績の比較はデザインがやや異なるので難しいものの、Arexvyのほうが予防効果が高いように感じられる。どちらも一回筋注。6月21日にACIP(ワクチン接種勧奨委員会)が両ワクチンについて接種勧奨の是非を決める予定。おそらく、効果の違いには目を瞑って配給された製品を黙って接種せよと勧告するだろう。日欧でも承認申請中。ファイザーは妊婦が接種して新生児のRSV疾患を予防する用法も日米欧で申請中。
米国では65歳以上の6~16万人が一年間にRSV疾患で入院し、6000~1万人が死亡するが、これまで、予防薬がなかった。今秋以降は、インフルエンザ・ワクチンとCOVID-19ワクチン(XBB.1系統の抗原が採用されるようだ)、そしてRSVワクチンを一緒に、またはタイミングをずらして、接種することになる。インフルエンザ・ワクチンは昔からあるので多くは安価だが他の二種類は夫々100~200ドル程度になりそうなので、一気に費用がかさむ。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA:
- 23年6月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
- 23/6/5 MSDのPrevymis(letermovir、腎移植後CMV感染症予防に適応拡大)
- 23/6/15 イプセンのBylvay(odevixibat、アラジール症候群に適応拡大)
- 23/6/16 GSKのmomelotinib(骨髄線維症)
- 23/6/16 BMSのCamzyos(mavacamten、閉塞性肥大性心筋症における中隔縮小治療の必要性の抑制に適応拡大)
- 23/6/17 F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
- 23/6/20 argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
- 23/6/21 Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
- 23/6/22 Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
- 23/6/22 Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
- 23/6/23 Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
- 23/6/27 Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
- 23/6/30 Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)
諮問委員会:
- 23/6/8 AMDAC:アストラゼネカのnirsevimab(RSV下部気道感染症予防)
- 23/6/9 PCNSDAC:エーザイ/バイオジェンのLeqembiのアルツハイマー病本承認
- 23/6/15 VRBPAC:2023-24シーズンのCOVID-19ワクチン配合株について
今週は以上です。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。