2022年1月15日

第1033回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ensovibepの第2/3相外来試験、第3相へ 
  • その他の領域: 
  • メディケアもアデュカヌマブの保険適用に慎重 
  • バイオマリン、A型血友病遺伝子療法の出血事故抑制効果を確認 
  • JAK阻害剤二剤がアトピーに承認 
  • 第3のオレキシン受容体アンタゴニストが承認 


【COVID-19関連】


ensovibepの第2/3相外来試験、第3相部分開始へ
(2022年1月10日発表)

チューリッヒ大学のスピンアウトであるスイスのMolecular Partners(SIX:MOLN)と開発販売パートナーのノバルティスは、MP0420(ensovibep)の第2/3相軽中等症COVID-19外来治療試験を実施中だが、第2相に当たるパートAの解析が成功したと発表した。第3相部分の組入れを開始する予定。

Molecular Partnersは天然のアナリキン・リピート蛋白由来のDARPin蛋白を組み合わせて抗体医薬のように標的に結合させる技術を持っている。MP0420はSARS-CoV-2の受容体結合領域の異なった部位に結合する三種類のDARPinを結合した。パートAは18歳以上で二種類以上の軽中等症状を示し発症7日以内の患者407人を組入れて、75mg、225mg、600mgの何れかを一回、点滴静注する群の第8日ウイルス負荷を偽薬群と比較した。データは未公表だが、副次的評価項目である入院/ER入室リスクは、偽薬群が99人中6人、6.0%であったのに対して、試験薬群は301人中4人、1.3%だった。このうち、死亡者は2人対ゼロだった。

第3相のパートBでは1700人を組入れて75mgをテストする。また、両社はパートAのデータに基づくEUA(非常時使用認可)について当局と相談する考え。

MP0420はNIH(米国立衛生研究所)が実施したACTIV-3重症入院患者試験が中間で無益認定となった。やはり、抗ウイルス剤は感染の早い段階に用いる方が真価を発揮するのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

【今週の話題】


メディケアもアデュカヌマブの保険適用に慎重
(2022年1月11日発表)

米国の公的高齢者医療制度などを管轄するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、FDAが21年6月に軽度認知障害/軽度アルツハイマー症用薬として加速承認したバイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab-avwa)などの抗アミロイド・ベータ抗体について、医療費給付を適格臨床試験に参加する患者に限定する案を公表した。パブコメを経て4月に最終決定する予定。

Aduhelmは第3相試験二本が中間解析で無益認定されたが、フォローアップ分析で高用量群に日常生活機能や認知機能の悪化を遅らせる可能性が示された。しかし、エビデンスは頑強ではなく、また、治療効果が十分なのか議論の余地があった。忍容性面でも、アミロイド関連画像異常がしばしば発生し、多くは無症状/軽症だが例外もあった。このため、FDA諮問委員会では誰一人として承認に賛成しなかった。にも関わらず承認されたため、諮問委員だけでなく、承認審査担当部署からも、辞職者が輩出した。各種学会も民間の医療保険も臨床試験以外で使用するのは時期尚早という意見が多かった。米国外ではEUも日本も承認を見送った。

今回、CMSも同様な結論に達した。最終決定後の流れは、おそらくバイオジェン/エーザイが、新規第3相試験のプロトコルをCMSに提出し審査を受ける。適格認定を得るためには、無作為化割付対照試験であること、生活機能や認知機能の悪化を遅らせる臨床的に重要な便益を評価する検出力を持つこと、有害事象を把握すること、などの条件を満たす必要がある。治験施設が病院などに限定されるなど、ハードルは高そうだ。また、CMSは対照群の一例として最良標準療法を挙げており、臨床試験に参加しても偽薬群に割付けられる可能性がありそうだ。尚、NIH(米国衛生研究所)がスポンサーとなる試験は適格として扱われる。

Aduhelmの市販後薬効確認試験の結果が判明するのは26年頃と遅い。一方、両社が第2相試験のデータに基づいてローリング承認申請手続きを開始したはBAN2401(lecanemab)の第3相の結果は本年内に判明する見込み。イーライリリーがローリング承認申請手続きを開始したLY3002813(donanemab)の第3相の開票は23年の見込み。もしこれら二剤の第3相が統計的かつ臨床的に成功しFDAに承認されたら、CMSは評価を見直し広範なカバレッジに踏み切るだろう。もしフェールなら、抗アミロイドベータ抗体に対する期待が薄れるだろう。どちらのケースでも、Aduhelmは主役の座を降りることになる。

リンク: CMSのプレスリリース
リンク: 抗アミロイド・ベータ抗体の医療費給付(案)

【新薬開発】


バイオマリン、A型血友病遺伝子療法の出血事故抑制効果を確認
(2022年1月9日発表)

BioMarin Pharmaceuticals(Nasdaq:BMRN)はBMN 270(valoctocogene roxaparvovec)の第3相重症A型血友病試験で治療を必要とする出血イベントがベースライン比85%減少したと発表した。効果の持続性は不透明であるものの、少なくとも2年間は維持されることが明らかになり、投与実績も増えたため、欧米で承認される可能性が出てきた。

BMN 270は遺伝子療法。A型血友病で欠乏する第VIII因子の遺伝子を遺伝子組換え5型アデノ随伴ウイルスに導入し、患者の肝臓で発現させる。欧米で希少疾患用薬指定とRMAT(再生医療高度治療)/BT(ブレークスルー・セラピー)/PRIME(EMAが優先的に取り扱うべき医療)指定を受けている。

19年12月に欧米で承認申請したが、承認されなかった。症例数が少ないことや便益の持続性が曖昧であることに加えて、FDAは、市販用のバッチと臨床試験で用いられたバッチの同等性や、主評価項目が第VIII因子活性の上昇というサロゲート・マーカーで、出血傾向を抑制する臨床的な便益が確立していないことなどを指摘した。

今回の第3相は、過去の臨床試験で治療を受けた112人を追加組入れして、年率出血率(ABR)を2年間追跡した。プレスリリースには様々な数値が記載されているが解析対象症が区々なので、ABR(上記112人の解析)だけ記すと、ベースライン時点の平均4.8から初年度は0.9、2年目は0.7、2年間平均では0.8に、有意に低下した。メジアン値は2.8からゼロに低下。

インヒビターや腫瘍、血栓塞栓イベントは見られなかった。主な有害事象は点滴箇所反応や臨床症状を伴わない軽中度の肝臓酵素上昇。

3年以上追跡した症例のデータも開示されたが、少数であることに加えて、初年度や2年目の数値が記されていないため、主要関心事項である効果の持続性は不明。これまでに発表されたデータによると、第VIII因子活性は2年目に大きく低下し3年目も下げ止まらない。

遺伝子療法は一回の投与で済む点が長所だが、2~3年しか持続しないなら、潜在的危険の許容限度が低下する。ウイルスベクターに対する抗体ができるかもしれないので、繰り返し施行した場合の有効性も検討すべきだ。まあ、COVID-19ワクチンを引き合いに出すまでもなく、全ての答えが出るのを待っていたらキリがなく、続かないなら何回でも施行するしかないのだが、こんな筈ではなかった感を持たざるを得ない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


JAK阻害剤二剤がアトピーに承認
(2022年1月14日発表)

FDAはJAK阻害剤の安全性に強い警戒感を持っていて、多くの適応拡大/新薬承認審査が長期化・遅延していたが、昨年12月にメーカー側が副作用警告強化に応じたのを機に、滞っていたパイプラインが流れ始めた。

1月14日には、アトピー性皮膚炎で二件の承認が発表された。アッヴィのRinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)の適応拡大と、ファイザーのCibinqo(abrocitinib、和名サイバインコ)の新薬承認だ。

前者は日欧では昨年8月に承認。後者は昨年9月に英日で、12月にはEUでも、承認されている。米国のレーベルの特徴は、第一に、バイオ薬を含む既存の全身性治療薬で管理不良または不適な患者に限定されていること。Rinvoqは直接比較試験で効果がリジェネロン/サノフィのDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)を有意に上回ったが、Dupixentのような薬より先に使うことはできなくなった。

第二は、Cibinqoにも他のJAK阻害剤と同様なクラス枠付警告が導入されたこと。微生物感染症リスク、他のJAK阻害剤の臨床試験でバイオ薬より死亡リスクが高かったこと、腫瘍リスク、心血管死/心筋梗塞/卒中リスク、血栓症リスクだ。

Rinvoqは欧日と同様に12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎の患者に15mg(効果不十分なら30mgに増量可)を一日一回経口投与することが認められた。一方、Cibinqoは成人の中重度アトピー性皮膚炎に100mg(効果不十分なら200mgに増量可)を一日一回、経口投与となった。臨床試験では12~17歳も組入れており、日本ではこの年齢層に用いることも承認されたが、欧米は認められなかった。

リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース


第3のオレキシン受容体アンタゴニストが承認
(2022年1月10日発表)

スイスのイドルシア(SIX:IDIA)は、FDAがQuviviq(daridorexant)を成人の不眠症用薬として承認したと発表した。覚醒剤指定を経て5月に上市する予定。OX1RとOX2Rの二種類のオレキシン受容体を拮抗する経口剤で、25mgまたは50mgを就寝前に服用する。臨床試験では総睡眠時間や睡眠後覚醒時間が偽薬比有意に改善し、50mg群は日中機能の向上も見られた。

類薬としては8年前にMSDのBelsomra(suvorexant)が、2年前にエーザイのDayvigo(lemborexant)が承認されている。前者の21年1-9月期の売上高は2.4億ドル、前年比微減に留まっている。

リンク: イドルシアのプレスリリース




今週は以上です。

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