2021年11月27日

第1027回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • WHO、今月発見されたばかりの変異株をVOCに指定 
  • MSD、RdRp阻害剤の効果が下方修正? 
  • mRNAワクチンの追加接種、全ての18歳以上に 
  • その他の領域: 
  • オブジーバ、GnRH受容体アンタゴニストを米国でも承認申請 
  • ギリアド、デルタ型慢性肝炎治療薬を米国でも承認申請 
  • 難治CMV治療薬が承認 
  • 血管周囲類上皮細胞腫瘍用薬が承認 
  • 軟骨無形成症用薬が米国でも承認 
  • 一型糖尿病にフォシーガを使うな 


【COVID-19関連】


WHO、今月発見されたばかりの変異株をVOCに指定
(2021年11月26日発表)

WHOはB.1.1.529系統をVOC(Variant of Concern:懸念される変異株)に追加し、Omicron(オミクロン:ギリシャ文字でアルファベットのOに相当する文字の呼称)と命名した。今月9日に南アフリカで採取された検体から発見されたばかりだが、ヨハネスブルグ周辺で過去に例がないほど急速に感染例に占める割合(シェア)が高まっている。感染力や病原性に係る変異を数多く持っていてワクチンや抗SARS-CoV-2抗体の効果が減弱する可能性もあることから、迅速に対応した。WHOは低中所得国の経済に配慮して渡航制限に消極的な傾向が見られるが、欧米などは南アなどの国との渡航禁止を決めた。

南アでは5月に流行株がベータからデルタにシフトしたが、11月に入ってB.1.1.529が急増、11月14日から23日の期間にはシェアが7割を超えた。デルタが出現してから主流になるまで2~3ヶ月かかったことを考えると、感染力がデルタよりさらに高い可能性がある。南アはワクチン接種率が低いことや免疫力が低下するHIV感染者が比較的多いこともあり、今後の拡大が懸念されている。また、他の国でも南ア渡航者などの感染例が散見されている。

南アでSARS-CoV-2のゲノム研究を担うNGS-SA(Network for Genomics Surveillance in South Africa )によると、オミクロン株は△69-70、△105-107、G142D、R203K、G204R、K417N、T478K、E484A、N501Y、D614G、H655Y、N679K、P681Hなど、宿主細胞侵入時の効率や、インターフェロンに係る免疫、全体的な感染力などに係ると推測されるアミノ酸置換/欠損を持っている。

NGS-SAの主要メンバーであるNICD(南ア国立伝染病研究所)は、感染やワクチン接種により獲得する免疫力が低くなる可能性があるものの、ワクチンの入院・死亡抑制効果は高水準で維持されると推測している。但し、根拠は明確ではない。

69-70欠損を持っているため、広く用いられているPCRアッセイの一つ(私のゲスはTaqPath)で一次スクリーニングすることができるようだ。PCRはゲノムの2~3ヶ所をチェックするが、ヌクレオカプシドやRNA依存性RNAポリメラーゼの遺伝子は変化していないため、PCRや迅速抗原検査の感度には影響しないと推測しているが、要確認とのこと。

南アでは変異速度がVOC株の2倍というC.1.2株が発見されているが、シェアは数パーセントに留まっていて、オミクロンは独自に発展した株と推測されている。

症状面では特に変わったところは見られず、無症状例もあるようだ。

リンク: WHOのプレスリリース
リンク: VOCなどの一覧表(WHO)
リンク: NICDのFAQ
リンク: NGS-SAの週報(変異株のゲノム分析結果など、pdfファイル)



MSD、RdRp阻害剤の効果が下方修正?
(2021年11月26日発表)

COVID-19のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)阻害剤、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)を共同開発しているMSDとRidgeback Biotherapeuticsは、軽中等症非入院患者を対象とした第3相MOVe-OUT試験のアップデート値を公表した。中間解析では入院・死亡リスクを48%抑制したが、全被験者の解析では30%に低下した。追加症例だけ見ると試験薬群のほうが悪く、原因究明が望まれる。

MK-4482は、Veklury(remdesivir)やアビガン(ファビピラビル)と同様に、ウイルスの増殖に必要なRdRpを誤作動させる。今月、英国で条件付き承認された。米国でもEUA(非常時使用認可)され、11月30日の抗微生物薬諮問委員会に上程される予定。

第2相で入院患者に対する効果が見られなかったため、第3相は発症5日以内の軽中等症だが重症化リスク因子を持つ、ワクチン未接種の外来患者に限定して、800mgを一日二回、5日間投与する効果を検証した。中間解析で成功認定基準をクリアし、新規組入れ打ち切りとなった。

中間解析では、主評価項目の29日入院・全死亡は偽薬群が377人中53人(14.1%)であったのに対して、試験薬群は385人中28人(7.3%)となり、絶対差6.8ポイント、相対リスクは0.52(95%信頼区間0.33-0.80)だった。

一方、今回発表された数値は偽薬群が699人中68人(9.7%)、試験薬群は709人中48人(6.8%)で、絶対差3.0ポイント、相対リスクは0.70(同0.49-0.99)だった。

統計解析としては中間解析が正式な結果である。また、絶対差も相対リスクも95%信頼区間はオーバーラップしているので、二つの解析が矛盾した結果になったわけではない。

しかし、試みに、今回追加された数値だけを取り出して29日入院・全死亡率を算出すると、偽薬群(n=322)は4.7%、試験薬群(同324)は6.2%となり、相対リスクは1.33と逆転する。

尤も、偽薬群の数値が中間解析よりかなり低下しており、流行がピークを過ぎたせいかもしれないが、他の要因が影響した可能性も否定できない。

何れにせよ、一部でゲームチェンジャーとも呼ばれる薬の効果がこんなに変化したのは驚きだ。精査が望まれる。

リンク: 両社のプレスリリース



mRNAワクチンの追加接種、全ての18歳以上に
(2021年11月19日発表)

FDAはBioNTech/ファイザーとModerna(Nasdaq:MRNA)のmRNAワクチンに関して追加接種の適応対象を18歳以上の全員に拡大するEUA(非常時使用認可)一部変更を行った。8月にバイデン大統領が打ち出した構想が予定より2ヶ月遅れで実現した。

当初のEUAが高齢者や基礎疾患のある人などに限定された主因は、VRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会)で全人口を対象とすることに懐疑的な意見が大多数を占めたことだが、今回の変更は諮問委員会を経ずに断行されており、異例だ。

これを受けて、CDC(疾病管理予防センター)は、緊急招集したACIP(ワクチン接種諮問委員会)の意見を確認した上で、50歳以上の全員と、18~49歳の長期介護施設入居者に関しては接種すべき(should)、それ以外の18歳以上は接種してもよい(may)と推奨した。

対象変更の理由は明確ではないが、ACIPではファイザーが実施した1万人規模の追加接種試験で症候性感染を偽薬比95%予防したことが報告されており、一因となったものと推測される。尚、この試験では被験者の65%が二回目接種の10~12ヶ月後に追加接種しており、厳密にいえば、承認内容である6ヶ月後以降とは整合しない。

もう一つの理由は、メッセージを伝わりやすくすることであったようだ。治療薬は医師が処方するが、ワクチンは、かかりつけ医など相談できる相手がいる場合を除いて自分で判断しなければならないので、専門用語の羅列や細分化を避けて、できるだけ単純にしたほうがよい。

上層部が変更を求めた可能性もある。バイデン大統領がブースター接種構想を発表した日、支持する共同声明をFDAやCDC、NIH(米国立衛生研究所)、HHS(保健福祉省)などのトップが出した。一方、現場では、承認申請すらされていない段階で開始日まで決定したことに反発したのか、ワクチンの承認審査担当部署で二名が辞任を表明、9月と10月の諮問委員会には出席したが、その後、退職した。

何れにせよ、適応範囲や接種タイミングはエビデンスが少なく科学的に判断するのが困難であり、政治判断するしかない。便益と危険は定量的に判断する必要があり、便益は新規感染率に左右されるので、今年1月のピークと6月のボトムでは話が変わってくるし、言うまでもなく、一日3万人の米国と100人の日本では大きく異なる。専門家が科学的に評価し、政府が政治的に判断し、それを参考に個人が決定することになる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CDCのプレスリリース
リンク: ACIPプレゼン資料等
リンク: CDCのブースター接種勧奨

【承認申請】


オブジーバ、GnRH受容体アンタゴニストを米国でも承認申請
(2021年11月22日発表)

スイスのObsEva(Nasdaq:OBSV)は、FDAがlinzagolixの新薬承認申請を受理したと発表した。審査期限は22年9月13日。欧州では昨年11月に申請しており、順調ならCHMPが12月にも意見をまとめる見込み。

キッセイ薬品から欧米市場などでライセンスした経口ゴナドトロピン放出ホルモン受容体アンタゴニストで、閉経前女性の子宮筋腫関連月経過多の治療に用いる。第三相試験は二本とも有意な改善効果を示した。ホルモン薬のアドバック・セラピー(副作用を緩和するためにエストロゲンとプロゲスチンを併用する)と200mgを併用することも、ホルモン薬禁忌/忌避の患者は奏効率は低下するものの100mgを単剤服用することも、可能になる見込み。

リンク: 同社のプレスリリース



ギリアド、デルタ型慢性肝炎治療薬を米国でも承認申請
(2021年11月19日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Hepcludex(bulevirtide)を成人の代償性デルタ型慢性肝炎の治療薬として米国で承認申請したと発表した。

デルタ型やB型の肝炎ウイルスは肝細胞のNTCP(ナトリウムタウロコール酸共輸送体ポリペプチド)に結合して細胞内に侵入する。bulevirtideはB型肝炎ウイルスのNTCP結合部位に由来するアミノ酸47基の脂肪酸結合ペプチドで、侵入を妨げる。2mgを一日一回、皮注する。

第3相試験の24週中間解析では、ウイルス学的・生化学的複合反応率が36.7%と観察群の0%を有意に上回った。10mg群も設定されたが、28%だった。深刻な有害事象や有害事象による治験離脱は発生しなかった。NTCPは胆汁酸の輸送体でもあるため10%以上の患者で血中胆汁酸塩が増加したが、症状を伴う症例はなかった。

この試験の主評価項目は48週時点の複合反応率なので、おそらく、加速承認を申請したものと推測される。また、小分子薬ではなく生物学的製剤としてBLAした。

ドイツのMyr社が開発、昨年7月にEUで条件付き承認を取得した。ギリアドは今年3月に11億ユーロで同社を買収した。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


難治CMV治療薬が承認
(2021年11月23日発表)

FDAは武田薬品のLivtencity(maribavir)を造血幹細胞/臓器移植後難治/抵抗性CMV(サイトメガロウイルス)感染症治療薬として承認した。12歳以上、体重35kg以上の患者が適応になる。抵抗性変異の有無は問わない。既存薬に応答しない患者に使える薬が承認されたのは初めて。第3相試験では200mg錠二個を一日二回、8週間に亘って経口投与したところ、奏効率(ウイルスDNAが検出不能)が56%と、医師が選んだ既存薬を投与した群の24%を有意に上回った。主な有害事象は味覚異常や悪心嘔吐、下痢、疲労。

03年にViroPharmaがグラクソ・スミスクラインから開発販売権を取得してから18年、100mgを一日二回投与した第3相移植後CMV疾患予防試験がフェールしてから12年を経て、遂に実用化された。この間には13年にシャイアがViroPharmaを買収、そのシャイアを19年に武田が買収と看板も変遷した。

リンク: FDAのプレスリリース



血管周囲類上皮細胞腫瘍用薬が承認
(2021年11月23日発表)

Aadi Bioscience(Nasdaq:AADI)は、FDAがFyarro(sirolimus、アルブミン結合)を局所進行性切除不能/転移悪性PEComa(血管周囲類上皮細胞腫瘍)用薬として承認したと発表した。

mTOR阻害剤をヒト血清アルブミンと結合しアモルファス状のナノパーティクル化した新製剤で、21日サイクルで第1日と第8日に100mg/m2を30分点滴静注する。第2相試験ではORR(客観的反応率、第3者評価、n=31)が39%だった。完全反応も2例あった。メジアン反応持続期間は未達だが2年以上。G3以上の有害事象は骨髄抑制、感染症、口内炎、高血糖、低カリウム血症、ラッシュなど。

悪性PEComaは子宮や胃腸、肺、腎肝泌尿器などの軟組織肉腫の一種で、米国で年100~300人が罹患する超希少疾患。TSC1/TSC2遺伝子の変異によるmTOR経路の活性化がしばしば見られる。

Aadi社の創設者兼CEOであるNeil Desaiはアルブミン結合ナノパーティクル技術の発明者で、Abraxis BioScience在籍中にAbraxane(nab-paclitaxel)の開発にも携わった。

リンク: 同社のプレスリリース



軟骨無形成症用薬が米国でも承認
(2021年11月19日発表)

FDAはバイオマリン(Nasdaq:BMRN)のVoxzogo(vosoritide)を軟骨無形成症用薬として加速承認した。5歳以上で、成長板が未閉鎖で身長が伸びる可能性のある患者が適応になる。EUでは8月に承認され、フランスでは年3000万円程度で販売されているようだ。日本やブラジル、オーストラリアでも承認申請中。

軟骨無形成症は骨の成長を抑制するFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)の機能獲得変異により身長が伸び悩む。有病率は25000人に一人とされる。8割は遺伝ではなく突然変異による。

vosoritideは、FGFR3とは逆に骨の成長を刺激するC型ナトリウム利尿ペプチドの安定化アナログで、15mgを一日一回、皮注する。52週間の臨床試験ではAGV(身長の年率成長速度、ベースライン値は年4.2cm)が年1.4cmと偽薬群(年▲0.1cm)を有意に上回った。主な有害事象は注射箇所反応、嘔吐、血圧低下など。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


一型糖尿病にフォシーガを使うな
(2021年11月11日発表)

EMAは、アストラゼネカがSGLT2阻害剤Forxiga(dapagliflozin、米名Farxiga、和名フォシーガ)のEUにおける適応の一つである、一型糖尿病を返上したことを明らかにした。同社のDHCPレター(医療従事者向け通知)によると、臨床試験で被験者の1%以上で糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)が発生したとのこと。頻度はともかく、一型糖尿病にSGLT2阻害剤を併用するとDKAが発生する可能性があること自体は周知の事実なので、なぜこのタイミングなのか唐突感が残る。

EUの医薬品審査機関であるEMAは多くの加盟国の利害が絡むせいか融通が効かないところがあり、COVID-19の治療薬やワクチンの承認が他国と比べて遅い。法制の問題なので変えれば良いはずだが、実現していない。独自に承認する加盟国も増えてきている。

Forxigaの承認撤回も、アストラゼネカがEMAのPRAC(市販後監視委員会)とDHCPの文言に関して合意してから発出まで、他の部門との手続きなどで2ヶ月を費やしている。

一型糖尿病は米国ではDKA懸念から承認されなかったが、EUと日本では19年に承認された。

リンク: アストラゼネカのDHCPレター(pdfファイル)





今週は以上です。

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