【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19関連:
- ファイザー、抗ウイルス薬の承認申請を開始
- NIHの入院患者試験がまたまたフェール
- その他の領域:
- 慢性疼痛を治療するVRコンテンツが承認
- 住血吸虫症の第3相が成功
- ジャディアンスを駆出率保持心不全にも申請
- Aduhelm、EUは承認しない方向
- FDA、キイトルーダを腎細胞腫術後アジュバントに承認
【COVID-19関連】
ファイザー、抗ウイルス薬の承認申請を開始
(2021年11月16日発表)
ファイザーはPAXLOVIDの承認申請手続きを開始した。米国でEUA(非常時使用認可)を申請し、英豪新韓などでローリング承認申請を開始した。
プレスリリースを読むと、PAXLOVIDは配合剤ではなく二種類の錠剤の同梱製品のようだ。ウイルスの複製に必要な非構造蛋白を切り出す3CLシステイン・プロテアーゼを阻害するPF-07321332は150mg錠2錠、その代謝を阻害して効果を長持ちさせるritonavirは100mg錠1錠を、一日二回ずつ、5日間、服用する。軽中等症COVID-19感染で入院はしていないがリスク因子を持つ成人を発症から5日以内に組入れた第2/3相試験で入院・死亡リスクが偽薬比85%小さかった。
ファイザーは米国政府と1000万治療コース分を52.9億ドルで供給することで合意した。MSDも310万治療コース分のRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤MK-4482(molnupiravir)を約22億ドルで供給合意済みだが、規模が3倍以上に膨らみ、その分、単価は25%引きとなった。
同社は、世界人口の53%を占める低中所得国95ヶ国に向けて、Medicines Patent Poolとライセンス合意した。GE薬メーカーが自社生産してこれらの国で販売することが可能になる。MSDも同様なライセンス合意を行っている。
リンク: 同社のプレスリリース(承認申請)
NIHの入院患者試験がまたまたフェール
(2021年11月16日発表)
チューリッヒ大学発の医薬品開発ベンチャーであるMolecular Partners(SIX:MOLN)は、MP0420(ensovibep)のACTIV-3試験が中間解析で無益認定されたと発表した。ACTIV-3はNIH(米国立衛生研究所)が主導するCOVID-19マスター・プロトコル試験の一つで、入院患者を対象に、様々な開発品を次から次へとテストしているが、5日後の症状改善という主評価項目が厳しすぎるのか、試験薬が抗ウイルス剤に偏っていて重症患者には手遅れなのか、今回で5連敗となった。その中には外来治療試験が成功してEUAされた薬もあるので、MP0420も、開発販売パートナーであるノバルティスが主導している第2/3相外来治療試験が成功する期待が残っているだろう。
先にフェールした4剤は何れも抗SARS-CoV-2抗体で、イーライリリーのLY-CoV555(bamlanivimab)、Vir Biotechnology(Nasdaq:VIR)/GSKのVIR-7831(sotrovimab)、中国のBrii BiosciencesのBRII-196とBRII-198のカクテル、そしてアストラゼネカのAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)だ。MP0420はDARPin(designed ankyrin repeat protein)と呼ばれる高分子薬で、ankyrinを組み合わせてウイルスの異なった部位に結合する三種類のDARPinを作成、結合したもの。分子量はPEG化後で34kDa程度と抗体医薬より小さい。
ノバルティスの第2/3相試験の第2相部分は軽中等症で診断から7日以内の成人400人を組入れて、病状悪化・入院リスクを偽薬と比較しており、22年始めに結果が出る見込みだ。
尚、ACTIV-3試験のほうは、ファイザーの静注用3CLプロテアーゼ阻害剤、PF-07304814と、人工呼吸器装着など危機的な状態の患者を組入れるACTIV-3クリティカル・ケア・プロトコルで採用されたRelief TherapeuticsのZyesami(aviptadil)の試験がまだ生き残っている。
リンク: 同社のプレスリリース
【今週の話題】
慢性疼痛を治療するVRコンテンツが承認
(2021年11月16日発表)
FDAはAppliedVR社のEaseVRxを18歳以上の慢性疼痛の治療機器として承認した。医師の処方が必要だが、在宅治療可能。VRヘッドセットを装着して一本2~16分の3-D認知行動療法プログラムを毎日、8週間に亘って、受講する。プログラムは56セッション用意されている。ディープ・リラックスのセッションでは深呼吸音をマイクで拾い、プラクティスできているかどうかモニターする。
176人の患者を組入れた臨床試験では、30%疼痛緩和成功率が66%と、2-D非認知行動療法プログラムを視聴した群の41%を上回った。50%疼痛緩和成功率も46%対26%と上回った。治療終了後の持続性もあったようだ。
有害事象は9.7%の患者が乗り物酔いと悪心を報告した。Pico G2 4Kヘッドセットが用いられたが、将来、もっと遅延の小さいハードが開発されれば、改善していくだろう。
被験者はオピオイド治療を受けていたようなので、難治性の患者に適しているのかもしれない。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Garciaらの臨床試験論文(Journal of Medical Internet Research、フリー・アクセス)
【新薬開発】
住血吸虫症の第3相が成功
(2021年11月16日発表)
Pediatric Praziquantel Consortiumは、arpraziquantelの第3相幼小児住血吸虫症試験が成功したと発表した。この官民コンソーシアムを主導するメルクKGaAがEUの域外使用薬審査制度を利用して承認申請し、EMAの肯定的意見を得た上で、住血吸虫症が流行している国やWHOに承認を求める計画。
住血吸虫症はアフリカなどの風土病。治療はメルクが開発したpraziquantelが用いられているが、適応となるのは6歳以上で、錠剤や大きく、味が苦いなど、世界で5000万人とされる未就学児感染者には適していない。このため、薬効を持つ左旋性異性体のarpraziquantelを活性成分とする経口分散錠が開発された。
今回の第3相はコート・ジ・ボワールとケニアの3ヶ月児から6歳までの患者288人を組入れて、治癒率(寄生虫の卵が便又は尿から検出されない)をpraziquantel(錠剤を砕いて服用)と比較した。異性体薬は50mg/kg、ラセミ薬は40mg/kgを一回投与したが、ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)感染者のコフォートは成績が今一つだったため途中で60mg/kgに変更された。
結果は、このコフォートもマンソン住血吸虫のコフォートも90%以上が治癒した由だ。
このコンソーシアムにはアステラス製薬も参加しており、幼小児用口腔内急崩壊錠の開発を進めていたはずだが、プレスリリースが出ていないので、第3相は異なった製剤が採用されたのかもしれない。
後日付記:アステラス製薬はラセミ体の口腔内急崩壊錠の第3相を実施、成功したためEUに承認申請すると11月25日に発表した。
リンク: Pediatric Praziquantel Consortiumのプレスリリース(pdfファイル)
ジャディアンスを駆出率保持心不全にも申請
(2021年11月11日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)は、二型糖尿病の血糖治療と心血管疾患リスク抑制、そして左心駆出率(LVEF)が低下した慢性心不全の入院・死亡リスク抑制の適応効能が承認されているが、後者の駆出率低下限定を解除すべくFDAに申請し、優先審査指定されたことが発表された。
LVEFが40%超を維持しているクラスII-IVの慢性心不全に10mgを一日一回、経口投与したEMPEROR-Preserved試験で、心血管死/心不全入院の発生率が13.8%と偽薬群の17.1%を下回り、ハザードレシオ0.79、p<0.001だった。40%未満を組入れたEMPEROR-Reducedのハザードレシオは0.75だったので、Jardianceは駆出率を問わず有効、ということになる。但し、数値が高いほど便益が低下する可能性が残る。
ノバルティスのARB/NEP阻害剤Entresto(sacubitril/valsartan、和名エンレスト)も最初は駆出率低下限定で承認されたが、維持型を組入れた試験が成功し限定解除された。諮問委員会のブリーフィング資料などによれば、FDAはこの二つを分けて考えることに疑問を感じつつあるようだ。LVEFは正常値が十分に確立しておらず、また、同じ患者でも数値が変化するため、適応を定義する指標としては頼りない。このため、50%以下とか60%以下とか閾値を設けるのではなく、担当医が臨床的に判断すべきと考えているようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
Aduhelm、EUは承認しない方向
(2021年11月17日発表)
バイオジェンとエーザイが共同開発している抗アミロイド・ベータ抗体、Aduhelm(aducanumab)は、米国ではアルツハイマー病用薬として6月に加速承認されたが、EUは承認しない方向であることが明らかになった。医薬品専門家委員会であるCHMPのtrend voteが否定的な結果になったため。
Trend voteはCHMPの議長が委員の見解を打診するために非公式に行う。様々な段階で行うことができるが、今回は、CHMPが指摘した問題点に対するメーカー側の口頭説明を11月9日に受けたことを踏まえて、採決したもの。12月のCHMPで否定的意見がまとまる可能性が高く、その前に申請撤回されるかもしれない。
尚、最終評価に関するtrend voteなら一ヶ月待たずに公式採決すればよいようにも思われるが、事前に決定していた議題しか公式採決できない模様だ。意見が異なる委員が欠席した時に抜き打ち採決するような事態を回避する趣旨のようだ。CHMPの委員は各加盟国から送り込まれており、医療風土や価値観が異なる国が不利な扱いを受けないよう、配慮したのかもしれない。
Aduhelmの最近の話題は、カナダの75歳女性がARIA-Eを発症、癲癇重積状態になり死亡したと報じられたこと。ARIAは抗アミロイド抗体の臨床試験でしばしば発生する有害事象で、アミロイド関連造影異常というあまり深刻には聞こえない診断名の略称だ。実際、多くは症状を伴わない由だが、例外もある。今回の症例と薬の関係はまだ検討中とのことだが、これまでに何人に投与したのか(発生確率の点推定値はどれくらいか)くらいは公表すべきなのではないか。
さて、昨年12月に承認申請された日本はどのような判断を下すだろうか。COVID-19ワクチンのブースター接種をプライマリー接種完了の8ヶ月以上後に定めたのはバイデン米国大統領の尻馬に乗ったのだろうが、FDAやCDCが6ヶ月以上後で承認・勧奨した後も変更せず、譲歩(自治体の判断で変更しても良い)に留めるなど、意思決定が遅く判断の根拠も問答無用にする国なので、Aduhelmも審査の内容よりスピードを優先するのだろうか?
リンク: 両社のプレスリリース
FDA、キイトルーダを腎細胞腫術後アジュバントに承認
(2021年11月17日発表)
FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を腎細胞腫の摘出術後アジュバント療法に用いる適応拡大を承認した。再発リスクがintermediate-highまたはhigh、あるいは転移があり完全切除を受けた患者が適応になる。
エビデンスはKEYNOTE-564試験。中間解析でDFS(無病生存)率が22%と偽薬群の30%を下回り、ハザードレシオ0.68(95%信頼区間0.53-0.87)、p=0.001だった。両群ともメジアン値に到達していない。全生存の解析も死亡率が両群合わせて5%と低く、まだ成熟していない。
リンク: FDAのプレスリリース
今週は以上です。
リンク: Pediatric Praziquantel Consortiumのプレスリリース(pdfファイル)
【承認申請】
ジャディアンスを駆出率保持心不全にも申請
(2021年11月11日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)は、二型糖尿病の血糖治療と心血管疾患リスク抑制、そして左心駆出率(LVEF)が低下した慢性心不全の入院・死亡リスク抑制の適応効能が承認されているが、後者の駆出率低下限定を解除すべくFDAに申請し、優先審査指定されたことが発表された。
LVEFが40%超を維持しているクラスII-IVの慢性心不全に10mgを一日一回、経口投与したEMPEROR-Preserved試験で、心血管死/心不全入院の発生率が13.8%と偽薬群の17.1%を下回り、ハザードレシオ0.79、p<0.001だった。40%未満を組入れたEMPEROR-Reducedのハザードレシオは0.75だったので、Jardianceは駆出率を問わず有効、ということになる。但し、数値が高いほど便益が低下する可能性が残る。
ノバルティスのARB/NEP阻害剤Entresto(sacubitril/valsartan、和名エンレスト)も最初は駆出率低下限定で承認されたが、維持型を組入れた試験が成功し限定解除された。諮問委員会のブリーフィング資料などによれば、FDAはこの二つを分けて考えることに疑問を感じつつあるようだ。LVEFは正常値が十分に確立しておらず、また、同じ患者でも数値が変化するため、適応を定義する指標としては頼りない。このため、50%以下とか60%以下とか閾値を設けるのではなく、担当医が臨床的に判断すべきと考えているようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
Aduhelm、EUは承認しない方向
(2021年11月17日発表)
バイオジェンとエーザイが共同開発している抗アミロイド・ベータ抗体、Aduhelm(aducanumab)は、米国ではアルツハイマー病用薬として6月に加速承認されたが、EUは承認しない方向であることが明らかになった。医薬品専門家委員会であるCHMPのtrend voteが否定的な結果になったため。
Trend voteはCHMPの議長が委員の見解を打診するために非公式に行う。様々な段階で行うことができるが、今回は、CHMPが指摘した問題点に対するメーカー側の口頭説明を11月9日に受けたことを踏まえて、採決したもの。12月のCHMPで否定的意見がまとまる可能性が高く、その前に申請撤回されるかもしれない。
尚、最終評価に関するtrend voteなら一ヶ月待たずに公式採決すればよいようにも思われるが、事前に決定していた議題しか公式採決できない模様だ。意見が異なる委員が欠席した時に抜き打ち採決するような事態を回避する趣旨のようだ。CHMPの委員は各加盟国から送り込まれており、医療風土や価値観が異なる国が不利な扱いを受けないよう、配慮したのかもしれない。
Aduhelmの最近の話題は、カナダの75歳女性がARIA-Eを発症、癲癇重積状態になり死亡したと報じられたこと。ARIAは抗アミロイド抗体の臨床試験でしばしば発生する有害事象で、アミロイド関連造影異常というあまり深刻には聞こえない診断名の略称だ。実際、多くは症状を伴わない由だが、例外もある。今回の症例と薬の関係はまだ検討中とのことだが、これまでに何人に投与したのか(発生確率の点推定値はどれくらいか)くらいは公表すべきなのではないか。
さて、昨年12月に承認申請された日本はどのような判断を下すだろうか。COVID-19ワクチンのブースター接種をプライマリー接種完了の8ヶ月以上後に定めたのはバイデン米国大統領の尻馬に乗ったのだろうが、FDAやCDCが6ヶ月以上後で承認・勧奨した後も変更せず、譲歩(自治体の判断で変更しても良い)に留めるなど、意思決定が遅く判断の根拠も問答無用にする国なので、Aduhelmも審査の内容よりスピードを優先するのだろうか?
リンク: 両社のプレスリリース
【承認】
FDA、キイトルーダを腎細胞腫術後アジュバントに承認
(2021年11月17日発表)
FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を腎細胞腫の摘出術後アジュバント療法に用いる適応拡大を承認した。再発リスクがintermediate-highまたはhigh、あるいは転移があり完全切除を受けた患者が適応になる。
エビデンスはKEYNOTE-564試験。中間解析でDFS(無病生存)率が22%と偽薬群の30%を下回り、ハザードレシオ0.68(95%信頼区間0.53-0.87)、p=0.001だった。両群ともメジアン値に到達していない。全生存の解析も死亡率が両群合わせて5%と低く、まだ成熟していない。
リンク: FDAのプレスリリース
今週は以上です。
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