2021年9月5日

第1015回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ECDCはワクチンの追加接種に否定的 
  • 米国はイーライリリーの抗体医薬の出荷を再開 
  • PRAC、COVID-19ワクチンの安全性監視状況をアップデート 
  • その他の領域: 
  • 抗タウ抗体の第2相アルツハイマー試験が一部成功 
  • ESC:バイエル、Kerendiaの二本目の糖尿病性腎症試験も成功 
  • ファイザー、JAK1阻害剤新薬の直接比較試験が成功 
  • 武田、NEDD8阻害剤の第3相がフェール 
  • HIV感染予防ワクチンの後期第2相がフェール 
  • 上海君実、米国で抗PD-1抗体を承認申請 
  • FDA、百済神州のbtk阻害剤をWM症候群に適応拡大 
  • キイトルーダ、膀胱癌一次治療が結局、本承認に 
  • FDA、JAK阻害剤の規制を強化 
  • PRAC、イムブルビカ・リツキシマブ併用とACE阻害剤の相互作用懸念を公表 


【COVID-19関連】


ECDCはワクチンの追加接種に否定的
(2021年9月1日発表)

EU版疾病予防管理センター、ECDCは、COVID-19ワクチンの追加接種に関する暫定的な評価を明らかにした。米国と異なり否定的だが、ワクチンの信頼性や世界的な供給不足に与える影響にも配慮していることが特徴だ。

まず、免疫不全の人の追加接種と、人口全般のブースター接種は意味合いが違うことを強調した。今回、ワクチンの専門家はブースター・ショットの定義から議論を始めることが多く、東電福島原発の事故でメルトダウンが危惧された時、原子力の専門家は『もしこれをメルトダウンと呼ぶならば、』と最初に定義を問うことが多かったことを思い起こす。ワクチンで十分な免疫を獲得できない人がもう一回接種するのはプライマリー接種の継続であり、免疫を獲得した人が経時的な低下を補うためにするのがブースター接種とのことだが、私にとって重要なのは、定義や名称が何であろうが、私たちに危害や便益を及ぼすか否かなので、無視したい。

ブースター接種の便益については、現時点のエビデンスは、EUで承認されているワクチンの入院、重症感染、死亡予防効果が高いことを示しており、急いで追加接種する必要はないと指摘した。ワクチンの主目的は重症感染症を防ぐことなので、もっと軽い感染症を予防する効果がもし低下したとしても慌てるな、という訳だ。

ブースターが有益であることを示すエビデンスも不十分で、接種タイミングや、サブグループ毎の便益など、明確でない事項が多い。

一方、ブースター接種導入のリスクは、ワクチンに対する公衆の信頼や接種意欲の低下、そして、低所得国など接種が遅れている国がたくさんある中で、供給不足が一層ひどくなることが懸念される。

ブースター接種に前向きなイスラエルや米国でBioNTech/ファイザーのワクチンを3回接種した人と2回止まりな人の感染リスクを比較した疫学研究草稿が査読前論文サーバーで公開された。高い効果がありそうだが、追跡期間が短い難点がある。メーカーが示唆するように毎年接種が必要なのかどうかも含めて、only time will tell。

リンク: ECDCのプレスリリース



米国はイーライリリーの抗体医薬の出荷を再開
(2021年9月2日発表)

8月27日、米国連邦保健福祉省(HSS)傘下のASPR(事前準備対応次官補局)とFDAは、軽中等症COVID-19感染者の外来治療薬としてEUA(非常時使用認可)を受けているイーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体カクテル、LY-CoV555(bamlanivimab)とLY-CoV016(etesevimab)の併用に関して、対象を見直し、一部の州政府に対する連邦政府の出荷を再開したと発表した。更に、9月2日、対象を全ての州に広げると発表した。

このカクテルとbamlanivimab単剤は、シュードウイルス試験の所見から一部の変異ウイルスの感受性が低いことが判明。リジェネロン(Nasdaq:REGN)の抗体カクテルにはこのような問題はないことなどから、bamlanivimab単剤のEUAは取り消され、6月には、二剤併用の出荷も中止された。

今回のレーベル変更・出荷再開は新しい知見によるものではなさそうだ。デルタ株の流行でリジェネロンやVir/GSKの抗体医薬の需要が8月に急増したと報じられており、供給を増やす一助として、イーライリリーのカクテルが有効な株と不適な株を明確にし、兆候や症状ではなく州で線引きする実務的な対応を行った。上記試験ではベータ株、ガンマ株、ミュー株、デルタ株の派生でK417N変異を持つAY.1やAY.2(通称デルタ・プラス)などの感受性が野生株より低下したが、圧倒的なウェートを占めるデルタ株などは低下しなかった。上記の低感受株は抗体抵抗性変異の一つであるK417変異を持っている。

そこで、抵抗性を持つ株による感染者の比率が5%以上である州の感染者(その州に旅行中に感染またはその州からの旅行者の濃厚接触者を含む)は適応外であることをファクトシートに明記することによって、5%未満の州で利用することを可能にした。ファクトシートには該当する州としない州が列記されており、8月27日段階では、イリノイ、オハイオ、ミシガンなどで利用可能だった。9月2日に発表された見直しは直近の変異株調査に基づくもので、ほとんどの州はデルタ株だけで95%を超えている。

イーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体の売上高は、20年第4四半期の8.7億ドル、21年第1四半期の8.1億ドルから第2四半期には1.5億ドルに激減した。今回の出荷再開でどれくらい回復するだろうか。

リンク: ASBR・FDAのプレスリリース(8/27付)
リンク: 同(9/2付)
リンク: CDC COVID Data Tracker(州別変異株別構成比)



PRAC、COVID-19ワクチンの安全性監視状況をアップデート
(2021年9月3日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAのPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は、COVID-19ワクチンの市販後安全性報告の検討状況をアップデートした。比較的新しい事項は、まず、BioNTech/ファーザーのComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)における多臓器炎症症候群。デンマークの17歳の青年で発生したが全快した。他のワクチンでも報告されているようだ。プレスリリースには発生頻度は記されておらず、重要性が伝わらない。

COVID-19流行前の推定では20歳未満の人口10万人当たり罹患率は年2~6人とのことなので、頻度がこれを大きく上回れば副作用が疑われることになる。厄介なのは、有害事象の発生時期の設定次第でこの数値が大きく変わってくることだ。副作用のうち8割は接種後10日以内に発生、9割は30日以内、一番遅い症例は60日後というような場合、ワクチンを接種しなくても罹患するリスクは10万人当たりで各0.05~0.17人、0.16~0.49人、0.33~0.99人と、最大値は最小値の20倍に達する。

PRACはヤンセンの26型アデノウイルス・ベクター・ワクチンの静脈血栓塞栓リスクについても検討している。ヤンセンとオックスフォード大/アストラゼネカのCOVID-19ワクチンは稀な有害事象として血小板減少性血栓症候群が報告されているが、それとは異なる由。承認申請用試験でリスクが浮上し、市販後監視を進めている。

COVID-19ワクチンはウイルスが流行し始めてから1年足らずで大規模接種が始まるという快挙を達成した。接種人数も多いので10万人に一人の副作用でも世界で70億人が接種すれば被害者は7万人に及ぶ。ワクチン開発技術だけでなく、安全性監視・評価技術も飛躍させるために、ごく稀な有害事象を補足し原因を追及して開発にフィードバックする努力が必要だ。

リンク: EMAのプレスリリース


【新薬開発】


抗タウ抗体の第2相アルツハイマー試験が一部成功
(2021年8月31日発表)

スイスのAC Immune(Nasdaq:ACIU)は、ライセンス先のジェネンテックが実施したRG6100(semorinemab)の第2相アルツハイマー試験で共同主評価項目の一つが成功したと発表した。もう一つの主評価項目や副次的評価項目はフェールしており、一本目や他の抗タウ抗体の臨床成績が今一つであることも考えると、現時点では慎重に受け止めたい。

このLAURIET試験は、PETまたはCSF検査でアミロイド・ベータ42陽性の軽中度アルツハイマー病患者272人を組入れて、第49週の認知機能(ADAS-cog11で評価)と日常生活機能(ADCS-ADLで評価)の変化をオープンレーベルで偽薬と比較した。結果は、前者では悪化が43.6%小さく、p<0.0025と有意な差があったが、ADCS-ADLや副次的評価項目のMMSEやCDR-SBは有意差がなかった。詳細は11月にCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表する考え。

アミロイド・ベータ42陽性の前駆・軽度アルツハイマー病を組入れた一本目の第2相は、主評価項目のCDR-SBも、副次的評価項目のADAS-cog13やADCS-ADLもフェールした。この、AC Immuneがジェネンテックとの共同研究を通じて発見した抗体は、タウが広がっていくのを妨げるためにN端末を標的にしている点で他の抗タウ抗体と異なるが、臨床成績の面では大差ないとも言えるだろう。

観察期間が抗アミロイド・ベータ抗体の試験ほど長くないので治療効果が表面化しにくいのかもしれないが、第3相の結果が出るまで何とも言えないだろう。

リンク: AC Immuneのプレスリリース



ESC:バイエル、Kerendiaの二本目の糖尿病性腎症試験も成功
(2021年8月28日発表)

バイエルは、ESC(欧州心臓学会)とNew England Journal of Medicines誌でのKerendia(finerenone)のFIGARO-DKDアウトカム試験のデータを発表した。今年7月の米国承認の根拠となったFIDELIO-DKD試験と同様な結果になった。

非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤で、二型糖尿病で慢性腎障害を合併する成人の腎機能低下や心血管疾患リスクを抑制する薬として米国で承認、欧州でも審査中。二本とも日本の施設も参加しているので、おそらく日本でも承認審査中だろう。

一本目のFIDELIO-DKD試験では主評価項目の腎臓アウトカムのハザードレシオ(HR)が0.82で、特に、持続的eGFR低下が偽薬比少なかった。Number-needed-to-treat(以下、NNT:3年間の数値)は29。今回の試験では筆頭副次的評価項目で、HR0.87で、有意水準には達しなかった。偽薬群の発生率が10.8%と一本目の21.1%の半分に留まったことも影響したのだろう。

今回の試験の主評価項目である心血管アウトカムのHRは0.87で、特に心不全入院が0.71と良好だった。NNTは(42ヶ月)は47。一本目(副次的評価項目)のHRは0.86だったので、中身は若干異なるものの、複合評価項目全体としては同様な結果になった。

今回の試験は対象が一本目より広く、早期や進行した患者も組入れたとされる。治験登録の記載を見ると、一本目は基準値が明記されているのに対して、二本目は定性的だが、実態の違いを反映しているとは限らない。何が違うのか、明確にしてもらいたいものだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: PittらFIGARO-DKD研究員の治験論文(NEJM)



ファイザー、JAK1阻害剤新薬の直接比較試験が成功
(2021年8月30日発表)

ファイザーは新開発のJAK1阻害剤、PF-04965842(abrocitinib)を欧米で12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として日米欧で承認申請中だが、発売後のライバルになり得る、リジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィの抗IL-4Rアルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)との直接比較試験の成功を発表した。

200mgを一日一回、経口投与する群の効果を300mgを二週毎皮注する群と比較したダブル・ダミー二重盲検試験で、共同主評価項目である、第2週の掻痒スケール(PP-NRS4)と第4週のEASI-90がいずれも有意に上回った。

承認申請用試験では12週時点のIGA奏効率とEASI-75を共同主評価項目とした。今回、慢性疾患であるにも関わらず敢えて2~4週の数値を選択したのは、オンセットの速さをセールスポイントにできると踏んだのだろう。アッヴィが中重度アトピー性皮膚炎に適応拡大申請したRinvoq(upadacitinib)も直接比較試験で1~2週後の数値が良かった。

ファイザーの試験では試験薬群で2名が死亡したが、治験医は薬品との関連はないと判定した。一人はCOVID-19感染によるもの、一人は頭蓋内出血から心肺停止に至ったもの。プレスリリースには組入れ数が記されていないので死亡率の見当が付かないが、治験登録では728人と記されているので、0.5%程度だろう。

JAK1阻害剤は感染症や腫瘍、血栓塞栓症などの懸念がある(後述)が、本試験では発生しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース



武田、NEDD8阻害剤の第3相がフェール
(2021年9月2日発表)

武田薬品は、TAK-924(pevonedistat)の第3相PANTHER試験がフェールしたと発表した。データは未発表。21~22年に発売を期待する主要パイプラインの一つだが、他のプロジェクトも含めて、順調には進んでいない。13年前に買収したミレニアム・ファーマシューティカルズがMLN4924として開発していたもので、当時は期待のパイプラインだったが、長い間パイプに詰まっていたことを考えれば、急にバラ色に変わるものでもないだろう。

この試験は、高リスクMDS(骨髄異形成症候群)、CMML(慢性骨髄単球性白血病)、そして低芽球性AML(急性骨髄性白血病)の一次治療として、azacitidineと併用する効果をazacitidineだけの群とオープン・レーベルで比較した。主評価項目はEFS(無イベント生存期間)で、低芽球性AMLは死亡のみ、それ以外は死亡かAML(WHO基準)移行のどちらか早いほうをカウントした。

第2相試験はフェールしたが、高リスクMDSサブグループはメジアン生存期間が23.9ヶ月とazacitidine群の19.1ヶ月を上回り、客観的反応率も79.3%対56.7%だった。第3相でも同様なサブグループ分析が行われるのか、学会発表が待たれる。

リンク: 同社のプレスリリース



HIV感染予防ワクチンの後期第2相がフェール
(2021年8月31日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、サブサハラ・アフリカで実施したHIVワクチンの後期第2相試験がフェールしたと発表した。ワクチン群は感染者が25%少なかったが統計学的に有意ではなかった。欧米でもやや異なったワクチンの第3相が進行中。

このAD26.Mos4.HIVワクチンは、26型アデノウイルスをキャリアとしてHIVの4種類の抗原の遺伝子を導入するもの。このキャリアは同社のCOVID-19ワクチンにも使われている。一年かけて4回、筋注するが、3回目と4回目は、HIVのC系統群に対応したgp140とアルミ・アジュバントを併用する。

HIV陰性の女性2600人を組入れて3回目投与の1ヶ月後から18ヶ月間追跡したところ、試験薬群は1079人中51人、偽薬群は1109人中63人が感染し、ワクチン効率は25.2%、95%信頼区間は-10.5%から49.3%だった。このため、本試験は中止された。

第3相MOSAICO試験は、欧米の施設で男とセックスする男やトランスジェンダー3800人を組入れる。欧米豪州ではB系統群が多いため、3、4回目は複数の種類のgp140を混合したものを使っている。被験者や地域、試験薬の違いが異なった結果を生むかもしれないが、HIVワクチン開発のトラック・レコードはフェールの連続なので、楽観はしにくい。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認申請】


上海君実、米国で抗PD-1抗体を承認申請
(2021年9月1日発表)

Junshi Biosciences(上海君実生物医薬、HKSE:1877)とCoherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)は、toripalimabを上咽頭癌用薬として米国で承認申請したと発表した。目標適応は進行難治または転移性の上咽頭癌の一次治療にgemcitabine・cisplatin併用と白金ベース化学療法後の二次治療。

中国では同国企業初の抗PD-1抗体として18年に悪性黒色腫に承認を獲得。21年には上咽頭癌の三次治療と白金レジメン歴のある尿路上皮腫に条件付き承認、上記の一次治療と食道扁平上皮腫に承認申請と、積極的に適応拡大を進めている。一方、米国では今回が初めての承認申請。

類薬は数多いので、北米市場の権利を持つCoherus社は、価格で差別化する考えも持っているようだ。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


FDA、百済神州のbtk阻害剤をWM症候群に適応拡大
(2021年9月1日発表)

FDAはBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE)のBrukinsa(zanubrutinib)をワルデンシュトレームマクログロブリン血(WM)症に適応拡大した。btk阻害剤の先輩であるImbruvica(ibrutinib)と直接比較した試験で優越性解析がフェールしたが、FDAのプレスリリースによると、「非対称的評価」に基づき承認した。、

WM症候群は形質細胞の悪性腫瘍。第3相は、Imbruvica応答性が比較的高い、MYD88遺伝子にL265P変異を持つ患者を組入れたImbruvica対象コフォートと、野生型の単群コフォートに分けて施行し、前者は主評価項目のVGPR率(修正IWWM-6基準)が28.4%とImbruvica群の19.2%を上回ったが有意な差はなかった。部分反応も含む反応率は77.5%だった、野生型は症例数が少ないとはいえ反応率は50%だった。

この試験では160mgを一日二回、経口投与したが、FDAは320mg一日一回も承認したため、服用回数が多いハンデは生じなかった。

リンク: FDAのプレスリリース



キイトルーダ、膀胱癌一次治療が結局、本承認に
(2021年8月31日発表)

MSDは、FDAがKeytruda(pembrolizumab)を尿路上皮癌の一次治療に用いることを承認したと発表した。局所進行性/転移性で全ての白金薬に不適な患者が適応になる。

17年に一次治療と二次治療に承認されたが、一次治療は加速承認なので、市販後薬効確認試験で臨床的効能を確立しなければいけなかった。しかし、白金薬レジメン併用に加えてモノセラピーの全生存期間やPFS(無進行生存期間)も検討したKeyNote-361試験がどちらもフェールし、モノセラピー群は寿命が短縮する懸念も浮上と、失望的な結果になってしまった。

加速承認取消が危ぶまれたが、4月に開催された、加速承認後の薬効確認試験がフェールした抗PD-1/PD-L1抗体の様々な適応症に関する諮問委員会では、他の試験二本の結果が25年と27年に出るまで結論を先送りすべきとの意見が5対3で上回った。

今回、一転して本承認が下りたのはサプライズだが、361試験の対照群はgemcitabineをcisplatinまたはcarboplatinと併用するレジメンを施行しており、加速承認の対象であった白金レジメン不適とは異なっている。代表的な一次治療が適応にならない患者にやむを得ず使うという位置付けが否定されたわけではないのだ。

とはいえ、サプライズであることに変わりはない。上記の他の試験の結果が前倒しで判明したのかもしれない。

尚、cisplatinに不適なPD-1陽性(CPS≧10)にも加速承認されていたが、今回、削除された。

リンク: MSDのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、JAK阻害剤の規制を強化
(2021年9月1日発表)

FDAは、リウマチ性関節炎などに承認されているJAK阻害剤三剤について、枠付警告を強化し、適応をTNFブロッカー不応不耐に限定し、ファイザーのJAK3阻害剤Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)に関しては、高用量の10mg一日二回だけでなく5mg一日二回も血栓や死亡リスクがTNFブロッカーより高いという新発見を追加するレーベル変更をメーカーに要請したと発表した。

ファースト・イン・クラスであるXeljanzの長期安全性試験のデータに基づく措置だが、JAK阻害剤は元々、様々な副作用リスクがあり、三剤とも深刻な感染症、リンパ腫などの腫瘍、深静脈血栓や肺塞栓、動脈血栓などが枠付警告されているので、審査に時間がかかった割には、新しい情報は少ない。

枠付警告では、動脈血栓ではなく心臓関連イベントという、よりダイレクトな表現に変わりそうな印象だ。

サルベージ限定は、現在でもTNFブロッカーの次に使う薬という位置付けが一般的なようなので、実質的に大きな影響はないのではないか。

FDAは従来同様、喫煙者(止めた人も含む)や心血管リスク因子を持つ人、腫瘍またはその既往(悪性ではない皮膚癌は除く)は特に注意するよう呼びかけた。上記試験で喫煙者/経験者の肺がんリスクがTNFブロッカーより高かった。

XeljanzだけでなくイーライリリーのJAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)とアッヴィのJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)も規制強化の対象となった。一方、骨髄線維症などに承認されているJAK阻害剤、Jakafi (ruxolitinib)とやInrebic (fedratinib)は、対象外。用途が異なるので別途、検討が必要とのことだ。

JAK阻害剤は人気があり、米国外ではGalapagos(Nasdaq:GLPG)/ギリアド・サイエンシズのJyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)やアステラス製薬のスマイラフ(peficitinib)も承認されている。また、RinvoqやファイザーのPF-04965842(abrocitinib)は中重度アトピー性皮膚炎に承認/承認申請中、Concert Pharmaceuticals(Nasdaq:CNCE)のCTP-543(deuterated ruxolitinib)やファイザーのPF-06651600(ritlecitinib)は円形脱毛症で第3相段階と、用途も拡大している。

命に係わらない疾患ほどリスクとベネフィットのバランスが危うくなる。今現在、多くの適応拡大/新薬承認申請の審査が滞っているが、どのような転機になるか、注目される。また、Xeljanzの10mg1日2回投与をリウマチなどでも承認するなど、鷹揚なスタンスを取っているEUが、考え方を変えるかどうかも注目だ。

リンク: FDAの安全性通知



PRAC、イムブルビカ・リツキシマブ併用とACE阻害剤の相互作用懸念を公表
(2021年9月3日発表)

EUの薬品安全性監視委員会であるPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は、Pharmacyclics(アッヴィの子会社)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発販売しているBTK阻害剤、Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)について、DHPC(direct healthcare professional communication)発出を検討していることを公表した。CLL(慢性リンパ性白血病)やマントル細胞腫、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症などに用いられているが、CLLにrituximabと併用した試験の中間解析で、ACE阻害剤を服用していた患者の突然死・心臓死が標準療法群(fludarabine、cyclophosphamide、rituximabのFCRレジメン)より高かった。PRACは、まだ分析中としながらも、予防的な措置として、CLLでACE阻害剤を服用している患者は他のレジメンに切り替えるよう推奨した。症例数や発生頻度は記されていない。

ImbruvicaはBTK阻害剤の先駆けだが、二番手以降の製品と比べて心血管リスクが比較的高い。G3以上の高血圧症の発生率が対照群より5%程度高く、心房細動や心不全、出血なども報告されている。先日、Journal of Clinical Oncology誌で刊行されたカナダでの疫学研究でも心房細動、心不全、出血リスクが高かった。

尤も、なぜACE阻害剤の服用と関連するのか、分からない。常識的には抗癌剤レジメンを変えるより降圧剤を変える方が容易であるように感じられるが、ARBや利尿剤、Ca拮抗剤服用者のデータはどうなのだろうか?そもそも、高血圧患者全体のリスクが高いのではないだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Abdel-Qadirらの疫学研究論文(Journal of Clinical Oncology)




今週は以上です。

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