【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19関連:
- Humanigen、抗GM-CSF抗体のEUA取れず
- その他の領域:
- アストラゼネカ、SABA・ICS合剤の喘息症第3相が成功
- アストラゼネカ、抗PD-L1抗体と抗CTLA4抗体の併用試験がやっと成功したが
- C3阻害剤の第3相地図状萎縮試験は一勝一敗
- サノフィ、BTK阻害剤の第3相天疱瘡試験がフェール
- MacroGenics、Margenzaの延命効果確認できず
- レルゴリクス合剤が米国で適応拡大申請
【COVID-19関連】
Humanigen、抗GM-CSF抗体のEUA取れず
(2021年9月9日発表)
Humanigen(Nasdaq:HGEN)はKB003(lenzilumab)をCOVID-19肺炎の治療薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに求めていたが、認められなかった。今後に向けてFDAからどのようなフィードバックがあったのかは開示されていない。様々な新興企業が治験で良績を上げEUA申請したが、プレス発表の勇ましさとは裏腹の結果になることが少なくない。
lenzilumabはGM-CSFに結合するIgG1型ヒト化抗体。第3相は米国と南米の施設で肺炎の画像所見があり酸素投与(ハイフロー酸素も含む)を受けているが人工呼吸器装着までは悪化していない患者約500人を組入れて、標準療法(8割の被験者がdexamethasone、6割がremdesivirを使用)に追加する効果を偽薬と比較した。結果は、28日間人工呼吸器フリー生存のハザードレシオが1.54、p=0.0365と高度ではないが有意な差があった。人工呼吸器装着または死亡のカプラン・マイヤー推定率は15.6%で偽薬群の22.1%より低く、検出力不足で有意ではないが死亡率も9.6%対13.9%と良好だった。
結果発表時のプレスリリースで一つだけ気になるのは、無作為化割付512人のうち33人は投与を受けなかったことだ。現場はバタバタしているだろうから責められないし、一部の施設がキチンと執行しない前例も偶には見られるが、もしかしたら、インプリメンテーション自体が厳格でなかったのかもしれない。
lenzilumabは昨年10月にNIAID(米国立炎症・アレルギー疾患研究所)がACTIV-5/Big Effect Trial-B試験に採用、人工呼吸器装着・死亡リスク抑制効果を検討しているので、もし成功なら再申請の道が開けるかもしれない。
Humanigenの前身はKaloBios Pharmaceuticals。15年にMartin Shkreliが買収、CEOに就任したが証券不祥事で逮捕され、会社更生手続きを経て16年に新社名で復活した。
リンク: 同社のプレスリリース
【新薬開発】
アストラゼネカ、SABA・ICS合剤の喘息症第3相が成功
(2021年9月9日発表)
アストラゼネカはPT027(albuterolとbudesonideの吸入用合剤)の第3相試験二本が成功したと発表した。一本は4歳以上の中等症から重症の喘息症3132人を組入れて、喘息発作時のレスキュー・メディケーションとしての効果をalbuterol群やbudesonide群と比較した。もう一本は4歳以上の軽症から中等症の喘息症1001人を組入れて、一日4回、12週間に亘り吸入する効果をalbuterol群、budesonide群、そして偽薬群と比較した。PT027の用量は高用量(各180mcgと160mcg)と低用量(180mcgと80mcg)をテストした。
中重症試験は両用量とも主評価項目の重度増悪が各単剤群より有意に少なかった。軽中等症試験は両用量とも主評価項目のFEV1(一秒量)が各単剤群や偽薬群より有意に改善した。データは未発表。22年に承認申請する予定。
同社が13年に子会社化したPearl Therapeuticsの開発品で、18年に英国のリスク志向型CROであるAvillionが開発販売権を取得、アストラゼネカは米国で商業化するオプションを保有している。今回、Avillionとは別々にプレスリリースを出したところを見ると、行使を考えているのだろう。Avillionにとっては、ファイザーの慢性骨髄性白血病薬Bosulif(bosutinib)に続く成功例になりそうだ。まあ、アストラゼネカが行使しなかったら別の製薬会社にライセンスしても成功例に変わりはないが。
喘息増悪時のレスキュー・メディケーションは短期作用性ベータ2作用剤であるalbuterol(USAN)/salbutamol(INN)/サルブタモール(JAN)が長年の標準療法で、PT027はレスキューにおけるありそうでなかったステップアップ・セラピーという位置付けになるようだ。維持療法のベータ2作用剤は長期作用性のsalmeterolなどが一般的ではないかと思わるが、敢えてalbuterolを使うメリットは何だろう?吸入薬は生産・製品保存時の湿気対策が難しく、経口剤ほどGE薬との競争が激しくないが、昔からある薬同士の合剤に新薬としての価格を付けるのはチャレンジングだろう。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
アストラゼネカ、抗PD-L1抗体と抗CTLA4抗体の併用試験がやっと成功したが
(2021年9月9日発表)
アストラゼネカはファイザーから抗CTLA4抗体CP-675,206(tremelimumab)をインライセンスして抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)との併用レジメンを様々な癌に試験してきた。難治SCCHN(頭頚部扁平上皮腫)、SCCHN一次治療、非小細胞性肺癌で第3相に進み、何れもフェールと失望続きだったが、遂にPOSEIDON試験が成功した。但し、WLCで発表されたデータを見ると、類薬との販売競争は容易ではなさそうだ。
転移性非小細胞性肺癌の一次治療として、Imfinziと化学療法(以下、三剤併用)、または、Imfinzi、tremelimumabと化学療法(四剤併用)を施行する効果を化学療法群と比較したもので、主評価項目である三剤併用のPFSはハザードレシオ0.74と良好な結果になったが、共同主評価項目である全生存期間はフェールした。点推定値自体が見栄えのしない水準だ。
一方、副次的評価項目である四剤併用はPFSのハザードレシオが0.72、メジアン値は6.2ヶ月と化学療法群の4.8ヶ月を1ヶ月余上回った。オープンレーベル試験なので主観バイアスの入りにくい全生存の解析が注目されたが、今回、ハザードレシオ0.77、メジアン値は14.0ヶ月対11.7ヶ月、2年生存率は32.9%対22.1%であることが発表された。
主評価項目がフェールしたので通常は副次的評価項目の解析は仮説形成的な位置付けになるが、本試験では、両方のレジメンのPFS解析が成功したら、四剤併用群の全生存解析も仮説検証的になることが事前にプロトコルで定められていた由だ。
類薬の同じ用途での成績を見ると、BMSの抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)を化学療法と併用するレジメンは全生存期間の化学療法比ハザードレシオが0.69なので大きくは違わない。MSDのKeytruda(pembrolizumab)と化学療法の併用は扁平上皮腫ではハザードレシオ0.64、それ以外では0.49と、抗CTLA抗体を使わないのに一番良い数値を叩き出している。新薬を二剤使う贅沢なレジメンに相応しい効果が欲しいものだ。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
C3阻害剤の第3相地図状萎縮試験は一勝一敗
(2021年9月9日発表)
Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)はpegcetacoplanの第3相地図状萎縮試験が成功したと発表した。加齢性黄斑変性に地図状萎縮を合併した1258人を二本の試験に組入れて、15mg/0.1mLを2ヶ月毎または毎月、硝子体注射する効果を、対応するシャム(注射する振り)二群のプール・データと比較した試験で、主評価項目はFAF(眼底自発蛍光)撮影による12ヶ月間の病変拡大。OAK試験では2ヶ月毎投与群の相対リスク削減率が16%、毎月投与群は22%でどちらも統計的に有意だったが、DERBY試験は各群11%と12%でどちらも有意ではなかった。
有害事象では滲出の新規発生率が各群4.1%と6.0%となりシャム群の2.4%を若干上回った。試験薬を合計で6331回投与して眼内炎は13件(0.21%)、感染性眼内炎は確認例が2件、疑い例が1例とそれほど多くはなく、発症しても臨床的に重要な視力変化は見られなかった。22年上期に承認申請の予定。承認されれば地図状萎縮の適応を持つ初めての医薬品になる。
治験登録を見る限りでは、二本の試験はデザインも実施地域も大差なく、なぜ再現されなかったのか不思議だが、第2相のFILLY試験(2ヶ月毎群は相対リスク削減率20%、毎月群は29%)のデータが使えるならば、通算2勝1敗となるので、承認される可能性がありそうだ。
pegcetacoplanはC3補体阻害剤。21年に米国で皮注用製剤が夜間ヘモグロビン尿症治療薬Empaveliとして承認された。髄膜炎など深刻感染症が枠付警告されている。C3糸球体症や寒冷凝集素症などにも開発されている。
リンク: 同社のプレスリリース
サノフィ、BTK阻害剤の第3相天疱瘡試験がフェール
(2021年9月9日発表)
サノフィは、rilzabrutinibの第3相尋常性/落葉性天疱瘡試験がフェールしたと発表した。世界19ヶ国の施設で中重症患者131人を組入れて完全寛解率を偽薬と比べたが残念な結果になった。
20年に37億ドルで買収したPrincipia Biopharmaのリード・コンパウンドで、天疱瘡とITP(特発性血小板減少性紫斑症)でFDAからファースト・トラック指定と希少疾患用薬指定を受けている。ITPでも第3相段階。
リンク: サノフィのプレスリリース
MacroGenics、Margenzaの延命効果確認できず
(2021年9月7日発表)
MacroGenics(Nasdaq:MGNX)は、第3相SOPHIA試験におけるMargenza(margetuximab-cmkb)の全生存期間の解析がフェールしたと発表した。昨年12月に本試験のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)データに基づきher2陽性転移性乳癌の3次治療薬として米国で承認されたばかりだが、1次治療や2次治療に展開する期待が低下した。尚、加速承認ではないし、3次治療になると選択肢が限られてくるので、承認を取消される可能性は低いだろう。
抗hers2抗体のFc領域を改変し、CD16A(Fcガンマ受容体IIIa)結合力を高めCD32B(Fcガンマ受容体IIb)結合力を弱めることによりADCC(抗体依存性細胞傷害)活性などを増強したもの。CD16Aのアミノ酸に158F変異を持つ患者は抗her2抗体の旗幟であるtrastuzumabの応答性が低いことに注目した。
SOPHIA試験はher2陽性転移性乳癌でtrastuzumab及びロシュのPerjeta(pertuzumab)による治療歴を持ち被験者の9割はKadcyla(ado-trastuzumab emtansine) 歴もある536人を組入れて、capecitabineなどの化学療法薬と併用する効果をtrastuzumab・化学療法併用と比較した。主評価項目のPFSはハザードレシオ(以下、HR)が0.76と良い数値が出たが、p=0.033なので高度に有意とは言えず、メジアン値は各5.8ヶ月と4.9ヶ月で1ヶ月強の差しかなかった。
発表から2年半が経ち、シーケンシャルな主評価項目である全生存期間の最終解析結果が公表されたが、HR0.95、メジアン値は各21.9ヶ月と21.6ヶ月で大差なかった。
探索的に実施されたCD16Aの対立遺伝子別解析を行ったところ、158Fアレル(被験者の82%を占めた)ではHR0.86、メジアンは23.3ヶ月と20.8ヶ月とまずまずの結果になり、中でも158Fホモ接合型(36%)では各0.72、23.6ヶ月、19.2ヶ月だった。一方、片親から158F、もう片親から158Vを継承したヘテロ接合型(46%)では0.96、21.3ヶ月、22.0ヶ月と大差なく、158Vホモ接合(13%)では1.77、22.0ヶ月、31.1ヶ月と悪かった。
trastuzumabの苦手を克服するという開発者の狙い通りの結果だが、CD16A多型は階層化因子ではないので患者背景に偏りがあるかもしれず、上位解析がフェールしたこともあり、解析の信頼性はあまり高くないのが残念なところだ。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
レルゴリクス合剤が米国で適応拡大申請
(2021年9月9日発表)
大日本住友製薬の子会社であるMyovant Sciencesとファイザーは、子宮筋腫による過剰出血の治療薬、Myfembree(relugolix、estradiol、norethindrone)を子宮筋腫に伴う中重度疼痛の治療に用いる適応拡大を米国で申請し、受理されたと発表した。審査期限は来年5月6日。
武田薬品からライセンスしたGnRH受容体拮抗剤、relugolixの合剤で、GnRH受容体拮抗剤が持つ望ましくない作用をエストロゲンおよびプロゲスチンで相殺するアド・バック・セラピーを一日一回一錠服用するだけで施行することができる。GnRH阻害剤を子宮筋腫に用いる場合、安全性に配慮して短期使用に留める必要があるが、Myfembreeは最長24ヶ月間治療することが承認されている(日本で販売されている、合剤ではないレルミナは6ヶ月間)。
ファイザーは北米市場で共同開発販売提携している。
リンク: 両社のプレスリリース
今週は以上です。
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