2021年8月28日

第1014回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • コミナティが米国で承認 
  • Modernaも米国で承認申請 
  • 中国発の抗体カクテルの外来第3相が成功 
  • アストラゼネカ、抗体カクテルの感染予防試験が成功 
  • その他の領域: 
  • 早産防止薬の承認取消前に公聴会開催へ 
  • ESC:ジャディアンスが駆出率保持心不全の再入院を2割抑制 
  • 銅キレーター新薬のウィルソン病試験が成功 
  • ユルトミリスのALS試験はフェール 
  • キムリアのアグレッシブB-NHL二次治療試験がフェール 
  • ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬が承認申請 
  • TCR・抗CD3抗体融合蛋白をブドウ膜黒色腫に承認申請 
  • バース症候群の初認申請を断行 
  • オレンシアをaGvHDに適応拡大申請 
  • オプジーボとヤーボイを食道癌に適応拡大申請 
  • ロシュ、米国でテセントリクのTNBC承認を返上 
  • FDA、TibsovoをIDH1変異陽性再発胆管癌に承認 
  • 週一回投与型成長ホルモンが承認 
  • イグザレルト、下肢血行再建術後投与が承認 
  • 透析患者の掻痒緩和薬が承認 
  • オプジーボが膀胱がんのアジュバントに承認 


【COVID-19関連】


コミナティが米国で承認
(2021年8月23日発表)

ファイザーとドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、Comirnaty(tozinameran、コミナティ)がFDAに承認されたと発表した。16歳以上がCOVID-19感染症の予防を目的に3週間隔で二回筋注する。BioNTechが創製したリピッド・ナノパーティクル封入mRNAワクチンで、米国では昨年12月にEUA(非常時使用認可)されたが、これは正式な承認ではなく、非常時でなくなれば消滅する。12~15歳は未だEUAだけだが、臨床試験の6ヶ月追跡データがまとまった段階で一部変更申請を行う予定。

3回目接種に関しては、12歳以上で臓器移植レシピエントなど免疫不全にEUAされたところだが、両社は16歳以上の一般人口に広げるためのローリング申請に着手した。18~55歳で2回目接種から4.8~8ヶ月経った306人を組入れた第3相試験で野生株に対する中和抗体価が2回目接種後の3.3倍に増加した。ブースターが必要なのは免疫が低下することが前提なので確認のために3回目の前の中和抗体価も知りたいところだ。

米国連邦政府は9月20日の週から逐次、3回目接種を開始する予定だが、間隔は2回目の8ヶ月後となっているので、ファイザーの試験も8ヶ月経ったサブグループのデータが重要だ。尤も、8ヶ月というのは謂わば腰だめの数字で、一部では6ヶ月後に変更されるとも報じられている。8ヶ月後だとすると9月20日時点では人口の0.7%が対象になるが、6ヶ月後なら12.9%と大幅に増える。大変だが、4月のピーク時のペースなら2週間で達成できるはずだ(OurWorldInDataのデータから試算)。

興味深いのは、正式承認を機に、従業員・職員等に接種を義務付ける動きが一段と活発化していることだ。事情があれば免除されるのだろうが、他の国でもアメだけでなくムチも導入されるのだろうか?

リンク: 両社のプレスリリース(米国承認)
リンク: 同(ブースターショットrBLA着手、8/25付)



Modernaも米国で承認申請
(2021年8月25日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA)は米国でCOVID-19ワクチンのローリング承認申請を完了した。18歳以上を対象とする予定。12~15歳についてはEUAを申請した。昨年12月に第3相試験の2ヶ月追跡データに基づき18歳以上の接種がEUAされたが、今回、6ヶ月データを提出した。ワクチン効率は93%とのことなので、2ヶ月データの94%と大差ない。尤も、何れもデルタ株が流行する前のデータだろうから、今日では減衰している可能性が高い。

リンク: 同社のプレスリリース



中国発の抗体カクテルの外来第3相が成功
(2021年8月25日発表)

中国のBrii Biosciences(2137.HK)は、二種類の抗SARS-CoV-2抗体(BRII-196とBRII-198)のカクテルの外来治療試験が成功したと発表した。NIAID(米国アレルギー感染症研究所)の主導で様々なCOVID-19用薬候補をテストしているACTIV試験のうち、外来患者を組入れるACTIV-2試験が中間解析で主目的を達成、独立データ監視委員会が公表を許可した。

これらの抗体は、COVID-19感染から回復しつつある患者の血清から特定した抗体を改変して抗体依存的疾病増強リスクを抑制し、半減期を長期化したもの。Tsinghua University(清華大学)及びShenzhen Third People’s Hospital(深圳第3人民病院)と共同開発した。シュードウイルス試験ではアルファ、ベータ、ガンマ、エプシロン、デルタ、ラムダにも活性を示した。

ACTIV-2試験のBRII抗体カクテル・コフォートは、外来治療可能だが高齢や持病などリスク因子を持つ837人を組入れて、入院・死亡リスクを偽薬と比較した。被験者の69%を占める、28日の追跡期間を終えた患者の中間解析で、ハザードレシオが0.78と、他の抗SARS-CoV-2抗体カクテルと遜色ないリスク抑制効果を示した。入院患者は12人(偽薬群は45人)、死亡は1人(同9人)だった。G3以上の有害事象発生率は3.8%(13.4%)、薬物関連深刻有害事象はなかった。

この試験は発症後10日以内の患者を対象としたが、5日以内と6日以上のサブグループ分析を行う予定。

さて、Briiの抗体カクテルも中等症入院患者(発症後13日未満)を組入れたACTIV-3試験がフェールしている。感染症が進行し免疫が異常亢進する段階に至った患者には抗ウイルス薬よりは免疫抑制剤のほうが急務なのかもしれない。あるいは、抗体補充療法は自力で抗体を獲得できた人には無用の長物なのかもしれない。リジェネロン(Nasdaq:REGN)のREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)の入院患者試験は、二本とも、抗体陰性サブグループには死亡や人工呼吸器装着リスク抑制効果が見られたが、陽性サブグループには無効だった。

日本でも承認されたが、免疫力や進行度によって応答する人と無効な人がいる可能性を忘れずに、適応範囲をファインチューンする努力を続けるべきだろう。

リンク: 同社のプレスリリース



アストラゼネカ、抗体カクテルの感染予防試験が成功
(2021年8月20日発表)

アストラゼネカは、AZD7442(tixagevimab、cilgavimab)の第3相曝露前COVID-19感染予防試験、PROVENTが成功したと発表した。リジェネロンの類薬の予防試験は濃厚接触者の感染リスクを予防する、考え方としては感染確認前に治療を開始する『見込み治療』試験だったが、この試験はワクチン代替を目指すもので、ワクチンに十分応答しない可能性がある、あるいは、感染リスクが高い場所で就労/居住する、感染歴もワクチン接種歴もない約5100人をAZD7442群と偽薬群に2:1割付して、半年間の症候性感染リスクを比較した。

結果は、試験薬群の感染リスクは偽薬比77%小さかった。重症感染はゼロ、偽薬群は3人でうち2人は死亡した。承認申請に向かうだろう。

AZD7442は、米国テネシー州のVanderbilt University Medical Centerが回復期血漿から同定した二種類の抗体を、アストラゼネカの技術で装飾し、半減期を最長12ヶ月に長期化すると共に、Fc受容体親和性を抑制して抗体依存的疾病増強(ADE)のリスクを緩和したもの。in vitro中和試験ではでデルタ株にも有効性を示した。

米国政府から5億ドル近い生産・治験補助金を受けており、承認を前提に、21年に70万回分を7億ドル超で供給することに合意している。

リンク: 同社のプレスリリース


【今週の話題】


早産防止薬の承認取消前に公聴会開催へ
(2021年8月19日発表)

スイスのCovis Groupは、FDAがMakena(hydroxyprogesterone caproate)とそのGE薬の承認を取消す前に公聴会を開くことを決定したと発表した。結論が変わる可能性があるのかどうか、良く分からないが、何れにせよ、切迫早産のリスク抑制に承認されている唯一の処方薬の命運を決めるカウントダウンが始まる。

最初にこれまでの経緯をまとめよう。Makenaの活性成分はプロゲスチンの一種。65年前にスクイブ(当時)が安全性データを元に販売認可を取得、別の用途で発売したが、2000年に承認返上した。03年にNIH(米国衛生研究所)主導試験で早産予防効果が認められ、調剤薬局品がオフレーベル使用されるようになったが、流産や死産の懸念も指摘されていたため、FDAが今日の基準に即した臨床試験を行って改めて承認申請するようメーカーに呼びかけ、KV Pharmaceuticalsが06年に承認申請、5年後に、37週より前の単胎自然早産歴を持つ女性の単体早産予防薬としての加速承認を取得した。

FDAの要請に応じて古い薬の薬効・安全性確認試験を行い承認を取得した会社は独占販売権を獲得するが、Makenaの場合は価格が100倍と高く設定されたこともあり、政治家が介入して調剤薬局が販売を継続できるようにした。KVは半値に値下げしたが売れず、承認の1年後に会社更生手続き(破産法第11条)の適用を申請した。14年にMakenaなどの事業を分割買収したAMAG Pharmaceuticalsを20年に買収したのが、2011年にCerberus Capital Managementが設立した製薬会社、Covisで、吸入ステロイドAlvesco(ciclesonide、和名オルベスコ)など経年薬の事業権を取得して事業拡大するビジネスモデルを採用している。

加速承認を得た会社は市販後試験で薬効や安全性を確認しなければならないが、Makenaは、PROLONG試験で、共同主評価項目である35週未満早産率(11%対偽薬群の12%)も新生児の疾病死亡リスク(5.4%対5.2%)も偽薬並みだった。但し、NIH試験では流産・死亡率が4.8%と偽薬群の3.9%を上回ったが、PROLONG試験では1.7%対1.9%と大差なかった。

19年10月に開催された諮問委員会では、9人の委員が承認取消に賛成したが、残りの7人はもう一回薬効確認試験のチャンスを与えるべきと主張した。産婦人科医は6人中5人が後者だった。ACOG(米国産婦人科学会)もPROLONG試験はイベント数が前提より少なく検出力不足になったことを指摘、再試験を支持した。

FDAの判断が注目されたが、20年10月、自発的に承認を返上するようメーカーに要求した(FDAは承認を取消す権限を持っているが、法廷闘争に時間を費やし好ましくない状態が何年も続く事態を避けるため、通常は自主返上要求の形をとる)。

対岸の火事だが、やがて日本の医療にも飛び火するだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


ESC:ジャディアンスが駆出率保持心不全のCV死・HF入院を2割抑制
(2021年8月27日発表)

ベーリンガー・インゲルマイムと開発販売パートナーのイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス) のEMPEROR-Preserved試験の結果をESC(欧州心臓学会)やNew England Journal of Medicine誌で発表した。左室駆出率が保持(LVEF40%以上)されたクラスII-IVの心不全患者5,988人を組入れて、標準療法にJardiance(10mgを一日一回経口投与)を追加する群と偽薬追加群の心血管死・心不全入院をメジアン26.2ヶ月間追跡したところ、発生率は各13.8%と17.1%、ハザードレシオは0.79、p<0.001だった。効果は専ら心不全入院で、心血管死は数値上、少なかったものの有意水準には達していない。

Jardianceは二型糖尿病の血糖治療薬として承認されているが、本試験では二型糖尿病ではない患者にも効果が見られた。駆出率低下型(40%未満)心不全にもEMPEROR-Reduced試験に基づき承認されたが、本試験の成功により、対象患者拡大の道が開けた。65%以上のサブグループにおける効能は明確ではなかったが、元々、低下型と保持型の境界線は曖昧だ。最終的には、症例毎に医師の判断に委ねる格好になるのではないか。

前例では、ノバルティスのアンジオテンシンⅡ受容体・ネプリライシン阻害剤、Entresto(sacubitril/valsartan、和名エンレスト)は駆出率保持(45%以上)の心不全を組入れたPARAGON-HF試験で、ベースライン時点のメジアン駆出率である57%を下回るサブグループにしか効果が見られなかったが、FDAは慢性心不全適応における駆出率低下型限定を解除した。レーベルによると、駆出率は変動するので使うかどうかは臨床的に判断すべきである。

SGLT2阻害剤は血液中のグルコースが腎臓で一旦濾し取られた後に血中に戻るのを妨げ、糖尿を促進する。尿道の糖が細菌の栄養になるのか感染症の副作用があり、本試験でも非複雑性性器/尿道感染症が増加した。排尿が増えるせいか、低血圧症も見られた。

本試験ではベースライン時点でAXE阻害剤またはARB服用者が8割超、ベータブロッカー服用者も8割超、いた。他にも様々な薬を併用しているだろうし、忍容性や腎機能の状況、他の病気などに応じて用量の増減や薬の見直しなども必要になるだろう。上記のEntrestoも選択肢になったので、嬉しいとばかりも言えない悲鳴が増えそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース



銅キレーター新薬のウィルソン病試験が成功
(2021年8月26日発表)

アストラゼネカは、ALXN1840の第3相ウィルソン病試験が成功したと発表した。データは未公表。承認申請に向かうのではないか。

ウィルソン病はATP7B遺伝子変異による常染色体性劣性遺伝疾患。銅が排泄されず臓器に沈着して肝臓や腎臓の機能障害や神経精神症状を合併する。治療は銅の摂取を避け、銅キレーターや亜鉛を服用する。米国の罹患率は新生児3万人に一人。ALXN1840は一日一回経口投与する新世代銅キレーター。

今回のFoCus試験は、12歳以上でSOC歴がゼロから10年以上までの214人を組入れて、48週間のdNCC(セルロプラスミン非結合銅)をSOCと比較した。ウィルソン病では、体内の主要な銅結合蛋白であるセルロプラスミンの血中/尿中濃度が著しく低いことが多いが、本試験はセルロプラスミンに結合していない銅を直接測定法で計測し、AUEC(効果時間曲線下面積)の日次平均を主評価項目とすることで、銅を組織から動員する効果を調べた。

結果は、SOCより有意に優れた改善を示した。主な有害事象は可逆的なトランスアミラーゼの上昇など。

今年7月におよそ400億ドルで買収したアレクシオン・ファーマシューティカルズが18年にスウェーデンのWilson Therapeuticsを約8億ドルで買収して入手したコンパウンド。アストラゼネカにとってはアレクシオン系パイプラインの初の第3相成功だ。

リンク: 同社のプレスリリース



ユルトミリスのALS試験はフェール
(2021年8月20日発表)

アストラゼネカの希少疾患用薬子会社であるアレクシオン・ファーマシューティカルズは、 Ultomiris(ravulizumab、和名ユルトミリス)の第3相ALS(筋委縮性側索硬化症)試験を中止すると発表した。運動性症状が表れてから36ヶ月以内の特発性/家族性患者382人を欧米アジアの治験施設で組入れてALSFRS-R機能評価スケールの変化を比較したが、独立データ監視委員会が、中間解析で、続行しても主目的を達成する可能性は極めて低いと無益性認定したため。

Ultomirisは長時間作用型C5阻害剤。PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)やaHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)の治療に承認されており、全身性筋無力症の第3相試験も成功した。

リンク: 同社のプレスリリース



キムリアのアグレッシブB-NHL二次治療試験がフェール
(2021年8月24日発表)

ノバルティスは、Kymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)の第3相BELINDA試験がフェールしたと発表した。一次治療不応・再発のアグレッシブB細胞非ホジキン型リンパ腫を組入れてEFS(無イベント生存期間、盲検独立評価委員会方式)をサルベージ化学療法(応答なら幹細胞移植へ進む)と比較した試験で、対象がやや異なるものの、複数の類薬のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の二次治療試験が成功したことを考えると、意外だ。

KymriahはCD19を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体)療法。ペンシルバニア大学からライセンスした。前駆B急性リンパ性白血病やびまん性大細胞型B細胞型リンパ腫のうち難治性または二次以上の治療歴を持つ患者に使うことが承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬が承認申請
(2021年8月17日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、AG-348(mitapivat)の承認申請が欧米で受理されたと発表した。米国は優先審査を受け、審査期限は22年2月17日。

ピルビン酸キナーゼ(PK)の欠乏により赤血球が変形能を失い脾臓でスクラップされてしまう希少遺伝子疾患の経口治療薬で、輸血依存ではない患者を組入れた第3相試験ではヘモグロビン増加奏効率が40%と偽薬群の0%を上回った。輸血依存の単群試験では輸血量減少奏効率が37%、22%の患者は24週間に一度も輸血しないで済んだ。

リンク: 同社のプレスリリース



TCR・抗CD3抗体融合蛋白をブドウ膜黒色腫に承認申請
(2021年8月24日発表)

英国のImmunocore(Nasdaq:IMCR)は、IMCgp100(tebentafusp)を欧米で承認申請し受理されたと発表した。どちらも加速審査を受け、米国の審査期限は22年2月23日となった。HLA-A*02:01型の患者の転移ブドウ膜黒色腫に用いる。

親和性増強可溶性T細胞受容体と抗CD3単鎖可変領域フラグメントを細部融合した二重特異性融合蛋白で、患者のHLA(ヒト白血球抗原)型に応じて標的とする腫瘍関連抗原を選択する。IMCgp100はカフカス人種の5割を占めるA*02:01型に対応するためにgp100を選択した。尚、日本人では1割しか占めない。

第3相試験は初めて治療を受ける患者を組入れて全生存期間を医師が選んだ治療法(Keytrudaが82%を占めた)と比較したところ、ハザードレシオが0.51、p<0.0001となった。

Immunocoreはオックスフォード大学におけるT細胞受容体の研究に基づき1999年に設立された。

リンク: 同社のプレスリリース



バース症候群の初認申請を断行
(2021年8月24日発表)

Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は、elamipretideをバース症候群治療薬としてFDAに承認申請した。FDAは申請前会議で挙証不十分であり改めて対照試験を行うようアドバイスしたが、BSF(バース症候群財団)に背中を押されて、断行した。最初の関門は受理されるかどうかだ。

バース症候群は新生児20~40万人に一人の希少X染色体性遺伝子疾患で、ミトコンドリア機能不全により心不全や不整脈、敗血症、筋力低下などを合併する。elamipretideはミトコンドリアのcardiolipinに作用すると考えられており、ミトコンドリア機能不全による様々な疾患の第2相、第3相が実施されたが、何れもフェールした。

今回の申請は12人のバース症候群を組入れた第3相TAZPOWER試験のオープンレーベル延長試験のデータを自然歴と比較したSPIBA-001試験に基づく。elamipretide(40mg)を一日一回、皮注した群は6分歩行テストが80m以上改善したが、傾向スコアがマッチする19人の自然歴では1m未満に留まった(p=0.0005)。

TAZPOWER試験自体は6分歩行テスト改善効果を確認できずフェールしたのでFDAが追加試験を求めたのは合理的と感じられるが、BSFが4200人を超える署名を集めて承認を請願したことや、FDAも同社も追加試験のデザイン決定に難渋したことから、承認申請に至った。

近年はFDAの大盤振る舞いが目立ち、バイオジェン/エーザイのアルツハイマー病薬Aduhelm(aducanumab-avwa)やノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)の駆出維持型慢性心不全適応はFDA側がメーカーの肩を押したとされる。サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Exondys 51(eteplirsen)はFDA上層部が審査担当部署の反対を押し切って承認させた。最初の二件は臨床試験の主評価項目が曖昧な結果になったにも関わらず、様々な補助的解析を行って『有効性』を挙証している。Exondys 51承認の立役者であるJanet Woodcock氏がFDA長官代行である今のうちなら、チャンスがあるかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース



オレンシアをaGvHDに適応拡大申請
(2021年8月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Orencia(abatacept、和名オレンシア)を他家幹細胞移植後の急性移植片対宿主病(aGvHD)リスクを抑制する用途でFDAに適応拡大申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月23日。

OrenciaはCTLA-4とIgG1を細胞融合した抗体類似薬。中重度リウマチ性関節炎治療薬として米欧日で承認されている。

今回の申請は第2相のABA2試験に基づくもの。ClinicalTrials.govに結果概要が届け出されているが、カルシニューリン阻害剤とMTXにOrenciaまたは偽薬を追加投与したところ、HLA(組織適合性抗原)が8/8マッチする142人の二重盲検コフォートでは移植後100日間の重度aGvHD発生率が6.8%と偽薬群の14.8%を下回った。7/8マッチ(1抗原不適合)の43人では2.2%と、外部対照群であるCIBMTRレジストリーにおける実績の30.2%を大きく下回った。

副次的評価項目のうち全死亡率は各群26.0%、34.7%、25.5%、na、だった。深刻有害事象は各70%、66.7%、70%、na、だった。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 治験登録(ClinicalTrials.gov)



オプジーボとヤーボイを食道癌に適応拡大申請
(2021年8月17日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、切除不能進行/難治/転移食道扁平上皮腫の一次治療にOpdivo(nivolumab)をYervoy(ipilimumab)あるいは化学療法(fluorouracil+cisplatin)と併用する適応拡大をEUに承認申請し受理されたと発表した。おそらく米国でも申請済みだろう。

CheckMate-648試験に基づくもので、主評価項目の一つであるPD-L1陽性患者におけるメジアン生存期間が化学療法群は9.1ヶ月、Opdivo・Yervoy併用群は13.7ヶ月(ハザードレシオ0.64)、Opdivo化学療法併用群は15.4ヶ月(同0.54)だった。Intent-to-treatベースでも各10.7ヶ月、12.8ヶ月(0.78)、13.2ヶ月(0.74)だった。G3/4薬物関連有害事象発生率は各36%、32%、47%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


ロシュ、米国でテセントリクのTNBC承認を返上
(2021年8月27日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の数多くの適応のうち、PD-L1陽性(IC≧1%)の切除不能局所進行性/転移性トリプル・ネガティブ乳癌をFDAに自主撤回することを決めた。18年にIMpassion130試験のPFS(無進行生存期間)データに基づき加速承認されたが、承認後薬効確認試験であるIMpassion131試験がフェールし、検出力不足なので断定はできないものの全死亡が増加する可能性も浮上、20年9月にFDAがアラートを発出する意外な展開になってしまった。

今年4月のFDA腫瘍学諮問委員会では9人の委員のうち7人が他の試験の結果が出るまで加速承認を維持すべきと判断したが、7月にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が同様な適応(CPS≧10なので若干狭い)で本承認されたことで状況が急転。FDAの要請もあり、自主返上を決めた。

尚、日本や欧州での承認は返上しない。

130試験と131試験は併用薬が異なり、後者で採用されたオリジナルのpaclitaxel製剤は過敏反応リスクを緩和するため免疫抑制剤を併用する。効果は一時的とは言え、免疫強化療法である抗PD-L1抗体と併用するなら、日を変えたり前者で採用されたnab-paclitaxelを使ったほうが良いのかもしれない。Keytrudaの同様な試験は医師が選ぶことができたので、もし製剤毎のサブグループ分析が可能なら、結果を見てみたいものだ。

似たような薬が特定の癌に関しては片方は有効だがもう片方は有害、とは俄かには考えられないが、抗PD-1/PD-L1抗体では時々見られるので、一々検討していたら切りがない。エビデンスが確立した薬があるのに敢えて曖昧な薬を使う必要はない、と割り切って、トリアージを断行するしかないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


FDA、TibsovoをIDH1変異陽性再発胆管癌に承認
(2021年8月25日発表)

FDAは、セルビエのTibsovo(ivosidenib)を治療歴のあるIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)変異陽性局所進行性/転移性胆管癌に用いる適応拡大を承認した。コンパニオン診断薬としてLife TechnologiesのOncomine Dx Target Testも承認した。

1~2次の治療歴を持つ患者に500mgを一日一回経口投与した第3相試験で、PFS(無進行生存期間、独立評価)のメジアン値が2.7ヶ月と偽薬群の1.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.37だった。偽薬群の70%が進行後にTibsovoにクロスオーバーしたせいか、全生存期間はハザードレシオ0.79、p=0.093と有意な差は出なかった。G3以上の治療時発現有害事象は腹水、貧血、ビリルビン値上昇など。

Tibsovoは今年4月にAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)から買収した腫瘍学ポートフォリオの一つ。IDH1阻害剤で、IDH1変異を持つ急性骨髄性白血病(難治/再発と75歳以上または強化化学療法不適の一次治療)に承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース



週一回投与型成長ホルモンが承認
(2021年8月25日発表)

デンマークのAscendis Pharma(Nasdaq:ASND)は、FDAがSKYTROFA(lonapegsomatropin-tcgd)を承認したと発表した。1歳以上、体重11.5kg以上の成長ホルモン分泌不良による成長不全に用いる。リンカーによりキャリアと結合することで代謝を遅らせる技術を応用、毎日ではなく週一回皮注を実現した。小児が使える週一回型成長ホルモン製剤は初。

週一回型成長ホルモン製剤ではノボ ノルディスクが脂肪酸結合技術により作用を長期化したSogroya(somapacitan、和名ソグルーヤ)の承認を20~21年に日米で取得した。また、OPKO Healthが開発しファイザーがライセンスしたsomatrogonが日米欧で承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース



イグザレルト、下肢血行再建術後投与が承認
(2021年8月24日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、バイエルからライセンスして米国で開発販売しているXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の9番目の適応がFDAに承認されたと発表した。症候性末梢動脈疾患の下肢血行再建術後に2.5mg(一日二回)をアスピリン(100mg一日一回)と併用する。

下肢血行再建術後10日以内の患者約6,500人を組入れた第3相VOYAGER PAD試験では、主評価項目の主要有害下肢・心血管事象の発生率(3年間カプラン・マイヤー推定)が17.3%とアスピリン・偽薬併用群の19.9%を下回り、ハザードレシオ0.85、p=0.009だった。

アスピリンと抗血栓薬の併用は出血リスクも高まる。本試験では他の適応症より少量を用いたが大出血(TIMI定義)の発生率(3年間カプラン・マイヤー推定)が2.65%と対照群の1.87%を上回った。ハザードレシオは1.43で、p=0.07だが、検出力不足の可能性もあるだろうし、0.07も0.04も共感染近辺であることに変わりはない。

いずれにせよ、この用途におけるアスピリンと抗血栓薬の併用は20年以上オフレーベル使用されてきたとのことなので、よくデザインされた対照試験のエビデンスが確立しオンレーベル化されたのは前進だ。

Xareltoは末梢動脈疾患に関しては心血管疾患や急性下肢虚血のリスクを抑制する効果も承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース



透析患者の掻痒緩和薬が承認
(2021年8月23日発表)

Cara Therapeutics(Nasdaq:CARA)とVifor Pharmaは、FDAがKorsuva(difelikefalin)を慢性腎疾患で透析を受けている患者の掻痒緩和薬として承認したと発表した。メディケアの保険還元手続きを行って来年第1四半期にロンチする予定。

末梢作用性の静注用カッパ・オピオイド受容体アゴニストで、臨床試験では二本とも奏効率が偽薬群を有意に上回った。Vifor Pharmaは米国の透析チェーン大手であるフレゼニウスの子会社で、フレゼニウス向けの売上はCaraと利益を折半、それ以外はCaraが6割を得る取り決め。

リンク: 両社のプレスリリース



オプジーボが膀胱がんのアジュバントに承認
(2021年8月20日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を筋層浸潤尿路上皮癌の術後アジュバント療法に使うことを承認した。この用途の薬は初。また、局所進行性/転移性尿路上皮腫の加速承認を本承認に切り替えた。

CheckMate-274試験に基づくもので、PD-L1発現を問わないintent-to-treat分析で、メジアン無病生存期間が20.8ヶ月と偽薬群の10.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、p=0.0008だった。PD-L1≧1%のサブグループではハザードレシオ0.55、p=0.0005だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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