2021年1月30日

第984回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンがEUで承認 
  • COVID-19:JNJの一回接種ワクチンは効果がやや見劣り 
  • COVID-19:Novavaxのワクチンも南アで感染を予防 
  • COVID-19:Modernaのワクチンは南ア型の予防にも資する可能性 
  • COVID-19:ワクチン接種後のアナフィラキシーは百万接種当り数例 
  • COVID-19:リリーの抗体医薬、入院死亡を7割抑制 
  • COVID-19:リジェネロン/ロシュの抗体医薬も暴露後感染リスクを抑制 
  • COVID-19:MSD、二種類のワクチンの開発を中止 
  • アムジェン、KRAS-G12C阻害剤のORRは37% 
  • BeiGene、抗PD-1抗体のグローバル食道癌試験が成功 
  • 輸血依存型ピルビン酸キナーゼ欠乏症治療薬の試験が成功 
  • ロシュ、二重特異性抗体の加齢黄斑変性試験が成功 
  • アストラゼネカ、btk阻害剤の直接比較試験で心房細胞が少ない 
  • 抗PD-1抗体にヤーボイを追加してもPD-L1強発現非小細胞性肺癌には効かない 
  • ペネム系経口抗生剤の承認申請が受理 
  • 進行性家族性肝内胆汁鬱滞用薬の承認申請が受理 
  • FDA、バイオジェンのアルツハイマー病用薬の承認審査を延長 
  • voclosporinが遂に承認 
  • ゼルヤンツの心血管・腫瘍安全性試験がフェール 


【今週の話題】


COVID-19:アストラゼネカのワクチンがEUで承認
(2021年1月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、アストラゼネカのCOVID-19ワクチン(ChAdOx1-S、遺伝子組換え)を条件付き承認した。18歳以上に、4~12週間おいて二回、筋注する。55歳以上の症例数は限定的であるためドイツのワクチン委員会は65歳以上の接種を推奨しなかったが、EUは限定していない。妊婦は、動物試験では問題ないものの臨床データが限定的であることから医師と相談することを推奨。授乳に関しては、安全性が確認されたわけではないが危険は予想されない、としている。

EMAの分析によると、臨床試験におけるワクチン効率は60%だった。対照群の症候性感染は5210人中154人であったのに対してワクチン群は5258人中64人に留まった。

アメリカはトランプ前大統領が自国民の接種が終わるまで米国産COVID-19ワクチンの輸出を禁じた。欧州ではファイザーに続いてアストラゼネカも生産が計画を下回っており、業を煮やしたEUは、域外輸出を規制する(事前認可が必要)ことを決めた。日本のワクチンは一部を除いて欧州製と推測されるので、アストラゼネカのワクチンに関しては、JCR Pharmaに受託生産量を予定より増やすようネゴしたほうが良いだろう。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

COVID-19:JNJの一回接種ワクチンは効果がやや見劣り
(2021年1月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはCOVID-19ワクチンのJNJ-78436735(Ad26.COV2.S)の第3相試験結果を発表した。ワクチン効率は66%、米国だけの集計でも72%となっており、BioNTech/ファイザーやModernaのmRNAワクチンの94-95%と比べて見劣りする。この試験は一回接種して、接種後28日以降の中重症感染をカウントした。BioNTech/ファイザーの試験は21日おいて二回接種して、二回目の8日後以降、一回目から起算すると28日程度後以降の、軽中重症感染をカウントした。つまり、この二本の試験の効果計測開始タイミングはほぼ同じなので、直接比較することが可能なはずである。

この試験は接種14日後以降の中重症感染も主評価項目だった。予防効果があったようだが数値は公表されていない。先行三社のワクチンは一回接種してから二回目接種するまでの期間もある程度の予防効果があるので、もし一回接種後数週間の効果が同程度であったならば、2回目接種がない分、接種を受けた人が不利益を被ることになりかねない。

但し、JNJは軽症感染症をカウントしていない。アストラゼネカの英国試験データから推測すると、ワクチンの効果の少なくとも一部は、ウイルスの増殖を抑制して症状が出ない程度の感染に抑えることだ。このカテゴリーシフトは中重症から軽症へのシフトよりも、軽症から無症状へのシフトのほうが大きいと想定するのが自然だろう。だから、軽症が減る効果が反映されないJNJの試験のほうがデータが悪く出る可能性があるのではないか。

JNJのワクチンはアデノウイルス血清型26をベクターとしてスパイク蛋白の遺伝子を導入する。エボラウイルス疾患ワクチンで採用した技術だ。第3相は米国、中南米、南アフリカで43783人を組入れた。米国におけるワクチン効率は72%だったが、ラテンアメリカは66%、南アは57%だった。南アでは、自然感染やワクチンで誘導される抗体が効きにくいエスケープ変異を持つ、B.1.351系統のウイルスが新規感染の9割以上を占めているので、57%でも防げたのは朗報だ。ラテンアメリカでは少なくともブラジルでは、エスケープ変異を持つ可能性が高いB.1.1.248系統列が発見されており、治験成績に影響したかもしれない。

効果が見劣りしてもワクチンの供給不足が続く間はニーズはあるし、接種を受ける側の好き嫌いは許されないだろう。第3相の成功を受けて、JNJは欧米などで承認申請に向かうと予想される。

mRNAワクチンは低温保存が必要だが、JNJのワクチンは2~8℃で最大3ヶ月間、保存可能で、零下20℃なら2年間大丈夫。また、パンデミックが続くうちは利益ゼロで供給することをコミットしている。

スパイク蛋白のアミノ酸変異
英国型(B.1.1.7):H69欠損、V70欠損、Y144欠損、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118H
南ア型(B.1.351):L18F、D80A、D215G、L242欠損、A243欠損、L244欠損、R246I、K417N、E484K、N501Y、D614G、A701V
ブラジル型/日本型(B.1.1.248):L18F、T20N、P26S、D138Y、R190S、K417T、E484K、N501Y、D614G、H655Y、T1027I
カリフォルニア型:S13I、W152C、L452R、D614G

リンク: JNJのプレスリリース

COVID-19:Novavaxのワクチンも南アで感染を予防
(2021年1月28日発表)

米国メリーランド州の新興企業、Novavax(Nasdaq:NVAX)は、COVID-19ワクチンであるNVX-CoV2373の第3相試験を英国で、後期第2相を南アフリカで行った。両国ではワクチンの効果に影響しかねない遺伝子変異を持つウイルスが流行しているため注目されていたが、特に危惧された南ア型変異に対しても、インフルエンザ・ワクチンとそれほど変わらない程度の効果がありそうだ。

同社のワクチンは、SARS-CoV-2の融合前スパイク蛋白の遺伝子をバキュロウイルス・ベクターで昆虫細胞に導入して生産した抗原と、サポニン・ベースのアジュバントから成る。英国試験は18~84歳の15000人超を偽薬と試験薬(抗原5mcg+アジュバント50mcg)に無作為化割付して、3週置いて2回筋注し、2回目の7日後以降の症候性感染を観察した。ベースライン時点の血清検査で陽性だった、関連歴が疑われる人は主評価項目から除外した。最初の中間解析で各群の感染者数が56人と6人となり、ワクチン効率は89.3%(95%信頼区間75.2-95.4%)となった。重症例は少なく各1人とゼロだった。

感染者の変異型におけるワクチン効率を事後的に解析したところ、英国型変異は62例中32例で、ワクチン効率は85.6%。それ以外の型(24例)のワクチン効率は95.6%だったので10ポイント程度低下する勘定になる。尚、6例は不明だった。

忍容性は偽薬と同程度であった由。

南ア試験は4400人超を組入れて、ベースライン時点で血清陰性者の症候性感染リスクを比較した。HIV陰性(被験者の94%)のCOVID-19感染は偽薬群29人に対して試験薬群は15人で、ワクチン効率は60%(95%信頼区間19.9-80.1%)となった。重症例は各1人とゼロ。HIV陽性も含めたワクチン効率は49.4%(6.1-72.8%)だった。

HIV陰性の感染者44人中27人の分析では、25人が南ア型変異に感染していた。南ア型は、英国型が持つ、細胞侵入・感染力が高まるとされるN501Y変異に加えて、感染者やワクチン接種者が取得した抗体からエスケープできる可能性のあるK417N変異とE484K変異を持っている。そのような変異が蔓延していても感染者を6割減らすことができたのだから、感染症のワクチンとしては悪くない成績と言えるのではないか。

この試験ではベースライン時点で3分の1が血清陽性、即ち感染歴を持っているであろう人だった。疫学的には南ア型感染ではなかったと推測されるので、もしこの人たちの感染状況も追跡調査していたならば、エスケープ変異を持たないウイルスに感染し抗体を取得した人が南ア型に感染するリスクがどの程度なのか、貴重な情報を得ることができるだろう。もしこの人たちも試験に組入れられたのならば、自然感染による免疫がワクチンでどの程度増強できるのか、知ることができるだろう。残念ながら、現時点ではこのような試験を行ったのかどうかすら分からない。

NVX-CoV2373は英国で承認審査中。日本では武田薬品がライセンスした。通常の冷蔵庫で保管でき、液状のレディー・トゥー・ユース製剤なので使い勝手は良い。

リンク: 同社のプレスリリース(pdf)

COVID-19:Modernaのワクチンは南ア型の予防にも資する可能性
(2021年1月25日発表)

COVID-19のワクチンや抗SARS-CoV-2抗体は、ウイルスのスパイク蛋白を標的にするものが多い。ウイルスが細胞に侵入する第一歩はスパイク蛋白が細胞表面のACE2に結合することだからだ。スパイク蛋白のアミノ酸配列に置換や欠損が生じると、場合によっては、ワクチンや抗体医薬の効果が低下する可能性が出てくる。幸い、接種が始まった三種類のワクチンはインフルエンザなどのワクチンと比べて開発・生産スピードが速いので、もし効果が落ちるならば変異型に対応した塩基配列のワクチンを開発すればよい。流行が始まってから一年も経たずに最初のワクチンを実用化できたのだから、変異型にも数ヶ月で対応できるだろう。

mRNAワクチンを販売しているModerna(Nasdaq:MRNA)は、変異型に対するmRNA-1273ワクチンの効果に関する研究論文草稿を投稿し、論文草稿登録サイトに届け出たと発表した。遺伝子変異を導入したシュードウイルスとワクチン接種者の血漿を用いたin vitro中和試験に関するもので、結論は、英国型変異(B.1.1.7系統)はオリジナルの武漢型と中和抗体力価が大差なかった。南ア型(B.1.351系統)は6倍少なかったが、防御が期待できる水準はクリアしていたとのこと。

取り敢えず朗報だが、SARS-CoV-2におけるシュードウイルス中和アッセイの信憑性や、抗体水準と予防効果の関係性は確立していないだろうから、有効と断定できるほどではないのではないか。逆に、液性免疫が低下しても細胞性免疫が補ってくれる可能性もあり、結局、この段階では何とも言い難い。

プランBに関する朗報は、同社が南ア型に対するワクチンの開発を進めていること。現時点ではブースターとして自社あるいは他社のワクチンを補完することを考えている模様だ。 

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:ワクチン接種後のアナフィラキシーは百万接種当り数例
(2021年1月27日発表)

米国で12月中旬にCOVID-19ワクチンの接種が始まってから1ヶ月半が経った。これまでに2000万人以上が接種し、2回目を終えた人もいる。米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)にも9000件を超える症例が集まった。この種のデータは氷山の一角と言われるが、MSDが04年にrofecoxibの自主回収を発表した途端、有害事象報告数が急増したように、関心が高い薬剤の注目されている副作用に関しては比較的データが集まりやすい傾向がある。

FDAが1月27日にACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、COVID-19ワクチンの開発、接種、副作用報告状況についてアップデートした。CDC(米国疾病予防管理センター)のShimabukuro医学博士のプレゼンテーション用スライドによると、BioNTech/ファイザーのワクチン(以下、B/P社製)は約1215万人、Modernaのワクチン(以下、M社製)は約969万人が接種した(1月24日時点)。有害事象報告数は各7307件と1786件だった(1月18日時点)。性別では女性が約77%を占めた。接種者に占める割合は61%。他の国でも報告されている現象であり、また、他のワクチンでも見られるとのことだが、女性の方がリスクがやや高くなっている。

両ワクチン合計の百万接種当り報告数は、深刻有害事象が45件、深刻でないものが372件だった。

ワクチン接種直後に一番警戒しなければならないアナフィラキシーの症例数は、B/P社製が50例、M社製は21例だった。女性は各47人と21人で、9割以上を占めている。理由は不明。尚、アナフィラキシーではないが、臨床試験では美容目的で頬などに充填剤を入れた人が二人、深刻な顔面腫脹を発症しており、思い当たる人は気を付けた方が良いだろう。

百万接種当りのアナフィラキシー報告件数はB/P社製が5.0、Moderna製は2.8。発症時期は接種後30分以内が90%を占めた。発症者のメジアン年齢は約39歳、アレルギー/アレルギー反応歴を持つ人が8割以上を占めた。アナフィラキシー歴は24%で、食品などによるものを含めて、今回が初めてという人が少なくないことになる。

接種後の死亡報告(因果関係不問)はB/P社製が113人、M社製が83人で合計196人。うち129人は介護施設入居者で、ノルウェーでの報告と同様に、数が多い。介護施設入居者は130万人が接種したと推定されており、死亡頻度を試算するとおよそ1万人に一人。全米では10万人に一人なのでリスクは10倍となる。尤も、高齢者や介護施設入居者は元々、死亡リスクが高く、通常の死亡率と比べて接種後が特に高いとは考えられていない。

COVID-19ワクチンは妊婦における安全性が確立していない。危険と考える理由もないため、米国では医師とよく相談して決めるよう推奨している。米国はv-safeというスマホ・アプリで接種者から有害事象報告を受け付けたり、二回目の接種が近づいたら通知するようなシステムを導入し、200万人以上が登録しているが、うち妊婦は約15,000人だった。その殆どは医療従事者と推測されるが、多くの妊婦が接種しているようだ。

図表:ワクチン有害事象報告状況

BioNTech/PfizerModerna不明合計
米国の接種者数(1/24時点)12,153,5369,689,497-21,843,033
有害事象(VAERS、1/18時点)7,3071,78639096
うち、女性5,6281,36136,992
深刻有害事象5883901979
百万接種当り頻度:
深刻有害事象45
非深刻有害事象372
アナフィラキシー症例数5021
うち女性4721
メジアン年齢38.5歳39歳
15分以内の発症74%86%
30分以内の発症90%90%
アレルギー/アレルギー反応歴80%86%
アナフィラキシー歴24%24%
百万接種当りアナフィラキシー頻度5.02.8
接種後全死亡報告11383196
うち、介護施設入居者129
65歳未満43
接種者のうち女性61%
v-safe回答者数(1/20時点)997,0421,083,1742,080,216
(うち妊婦)8,6336,49815,131
出所:ACIPにおけるShimabukuro医学博士のプレゼン資料より作成


リンク: ACIP会合で用いられたプレゼンスライドのリンク

COVID-19:リリーの抗体医薬、入院死亡を7割抑制
(2021年1月26日発表)

イーライリリーは軽中等症COVID-19感染症で重症化リスクの高い患者の治療薬として昨年11月にLY-CoV555(bamlanivimab)のEUA(非常時使用認可)を取得したが、同月に、LY-CoV016(etesevimab)との併用もEUA申請している。今回、この併用法が第三相試験で良好な成績を挙げたことが発表された。

第3相BLAZE-1試験のパートCとして、新患の重症化リスクが高い軽中等症患者1035人を偽薬群と試験薬群(各剤2800mgずつを点滴静注)に無作為化割付して入院・死亡リスクを二重盲検で比較したところ、偽薬群のCOVID-19関連入院または死亡が36件(7.0%)あったのに対して、併用群は11件(2.1%)に留まり、相対リスク削減率70%、p=0.0004だった。死亡は10人対ゼロ、深刻有害事象は5人対7人、有害事象による死亡は2人対ゼロと、救命効果の面でも忍容性の点でも良好だった。

この試験ではbamlanivimabを単剤投与する時の推奨用量である700mgよりかなり大量に投与したが、もっと少量で足りる可能性があり、各剤700mgと1400mgを併用する試験も進行中。用量が減らせれば皮注の可能性も出てくるようだ。尚、EUAではbamlanivimabを60分かけて点滴することを推奨しているが、16分に短縮すべくFDAと相談している由。

bamlanivimabは米国のほかにカナダやドイツ、ハンガリー、イスラエル、サウジアラビアなどで承認されている。併用法も米国外で承認申請する考えだ。

今回のデータで若干残念なのは、相対リスク削減率70%というのはbamlanivimabが第2相モノセラピー試験で叩き出したCOVID-19入院・ICU入室リスク72%減と大差ないことだ。ウイルス量削減効果は併用のほうが減少ペースも期間も優れているので、臨床的な効果も高いと想像したが、第2相が実力以上だったのかもしれない。

もう一つ心配なのは、上記二剤は南ア型変異(B.1.351系統)やブラジル型変異(B.1.1.248系統)に対する効果が弱いと一部で指摘されていることだ。そのせいか、イーライリリーは、サンフランシスコのVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)がグラクソ・スミスクラインと共同開発しているSARS-CoV-2抗体、VIR-7831とbamlanivimabの併用試験の計画を発表した。

bamlanivimabは米国連邦政府が一括調達して州政府を通じて医療施設に配布する。20年第4四半期の売上高は8.71億ドルに上ったが、実需は伸び悩んでいる模様だ。抗SARS-CoV-2抗体は酸素・換気補助の必要な重症化した患者に対する効果や安全性が確立していないことや、自力で抗体を獲得できた患者には無益な可能性があること、そして、EUAを受けた適応症では、感染検査の結果が出るまで自宅待機していた患者にまたクリニックまで来てもらって点滴投与するという、ロジスティックの難が原因と言われている。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:リジェネロン/ロシュの抗体医薬も暴露後感染リスクを抑制
(2021年1月26日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGEN-COV(登録商標。casirivimabとimdevimabの併用)の第3相家庭内感染予防試験の初期解析結果を発表した。感染者の同居者を組入れて偽薬または1200mgを一回、皮注して、発症リスクを二重盲検で比較したところ、大きな予防効果が示された。予防ならワクチンが有効だが抗SARS-CoV-2抗体は即効性が高く、また、既に感染していた場合、速やかに治療することができるので、濃厚接触者等の暴露後予防には有効だろう。

今回は目標症例数2000例のうち400例程度の探索的解析。症候性感染者数は偽薬群が223人中8人(3.8%)、試験薬群は186人中ゼロだった。無症候性感染者を含めると各23人(10.3%)と10人(5.4%)で、予防効果が5割弱に低下した。

無症候性感染で一番問題となる、他者に感染するリスクも抑制できるのではないか。試験薬群の感染者はウイルス負荷のピーク値やウイルス排出期間、感染持続期間の何れをとっても偽薬群の感染者より良好だからだ。

COVID-19関連入院は各群1人対ゼロ、全死亡も1人対ゼロ。今回の解析ではイベント数が少なすぎて明確なことは分からない。

尚、同社はREGEN-COVが英国型変異や南ア型変異にも有効であることを示唆する試験結果を発表した。同社とコロンビア大学の研究者が別々に実施したin vitroシュードウイルス抗体力価試験で、imdevimabはどちらにも力価を維持した。casirivimabは南ア型に対する力価が低下したが、一定の水準は維持している模様だ。論文発表の予定。治療/予防効果を検証する試験もやってほしいものだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 変異株試験に関するプレスリリース(1/27付)

COVID-19:MSD、二種類のワクチンの開発を中止
(2021年1月25日発表)

欧米露におけるのCOVID-19ワクチンの開発は、ModernaやBioNTechのような新興企業の、核酸ワクチンという前例があまりない技術が先行した。グローバル・メジャーであるMSD、サノフィ、グラクソ・スミスクラインも他のワクチンで蓄積した技術や他社のノウハウを導入して様々なタイプのワクチンを開発しているが、今のところ、後塵を浴びている。MSDは二種類のウイルスベクター・ワクチンを臨床入りさせたが、どちらも開発中止した。第1相試験で免疫応答が自然感染や他社のワクチンより見劣りしたため。

一つは遺伝子組換え型弱毒化水胞性口炎ウイルスをベクターとするV590。昨年、非営利科学研究団体のIAVIとコラボを結んで開発を進めてきたもの。このウイルスベクターはコンゴ民主共和国や欧米で承認されているエボラ・ワクチン、Erveboに採用されたことで知られている。

もう一つは遺伝子組換え型弱毒化麻疹ウイルスをベクターとするV591。昨年、オーストリアのThernis Bioscienceを完全子会社化することで入手した。

サノフィがGSKのAS03アジュバントを用いて開発している遺伝子組換え型COVID-19抗原ワクチンも、第1/2相試験で49歳以上における免疫原性が十分でなかったため製剤や抗原量の見直しが必要になり、承認申請時期の想定が今年上期から下期に遅延している。

ワクチンは丼ものと同じで、お盆にご飯とみそ汁、漬物を乗せ、かつ丼ならカツ、親子丼なら卵と鶏肉、天丼ならてんぷらをご飯に乗せタレをかけたら出来上がり。開発生産販売のシナジーを享受できるグローバル・メジャーのほうがブティックより有利なはずだが、『新技術の脅威』を克服しないと、電動化時代を迎える自動車メーカーと同じ運命をたどることになりかねない。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: IAVIのプレスリリース


【新薬開発】


アムジェン、KRAS-G12C阻害剤のORRは37%
(2021年1月28日発表)

アムジェンはAMG 510(sotorasib)をKRAS-G12C変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として昨年12月に欧米で承認申請したが、根拠となる第2相試験の成績がWCLC(世界肺癌学会)のプレスリリースで公表された。ORR(客観的反応率、独立盲検中央評価)は126人中46人(37.1%)で、うち完全反応3人、部分反応43人。メジアン反応持続期間は10ヶ月だった。昨年、New England Journal of Medicine誌で論文刊行された第1/2相試験のデータと概ね同様な結果だ。有害事象による治験離脱率は7%、G3以上の治療時発現有害事象発生率は20%で内容は肝機能検査値異常や下痢など。

非小細胞性肺癌では遺伝子変異に基づく薬剤選択が広がってきた。KRAS-G12C変異は非小細胞性肺癌線維腫の13%程度で見られる模様。

リンク: IASLCのプレスリリース

BeiGene、抗PD-1抗体のグローバル食道癌試験が成功
(2021年1月27日発表)

中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)は、BGB-A317(tislelizumab)の第3相進行・切除不能/転移食道扁平上皮腫二次治療試験が成功したと発表した。北米欧州アジアの医療施設で512人を組入れて、200mgを3週毎点滴静注する群と化学療法(paclitaxel、docetaxel、irinotecanから選択)の群の全生存期間を比較したところ、統計的に有意で臨床的にも意味のある延命を中間解析で達成した。この解析はPD-L1陽性以外の患者も含むintent-to-treatベース。

tislelizumabはPD-1に結合する抗体医薬で、IgG4型であることと、マクロファージのFcガンマ受容体結合性を抑制すべく改変してあることが特徴。中国では古典的ホジキン型リンパ腫やPD-L1陽性尿路上皮腫に条件付き承認、進行扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用に本承認を受け、非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用と切除不能肝細胞腫の二次治療に承認審査中。

中国外での承認申請を企図したグローバル試験は、非小細胞性肺癌の二次治療モノセラピー試験もPD-L1不問で成功したが、今回の適応のほうが競合が少ない。承認申請に向かうだろう。

北米や欧州、日本などでの権利は先日、ノバルティスが取得した。

リンク: BeiGeneのプレスリリース(Business Wire)

輸血依存型ピルビン酸キナーゼ欠乏症治療薬の試験が成功
(2021年1月26日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はAG-348(mitapivat)をピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏症の治療薬として開発している。定期的な輸血が必要なほど悪化していない成人を組入れた第3相試験では被験者の4割でヘモグロビン濃度が1.5g/dL以上増加した(偽薬群は0%)。今回、輸血依存型27人を組入れた単群試験で被験者の37%で輸血量が33%以上減少したことが発表された。22%の患者は滴定期間後の24週間に一度も輸血しなかった。

PK欠乏症は希少遺伝性疾患で、ピルビン酸を作る酵素の欠乏によりATPの産生が低下、脱水により赤血球が変形能を失い、脾臓で分解され溶血性貧血を呈する。AG-348はPKのスプライシング多型のうちPKRのアロステリック・アクティベータとされる。第2相試験では深刻有害事象の発生率が20%近かった。第3相試験の学会・論文発表時の注目材料だ。

Agiosは今年第2四半期中に米国で、年央にはEUでも、承認申請する計画。

リンク: 同社のプレスリリース

ロシュ、二重特異性抗体の加齢黄斑変性試験が成功
(2021年1月25日発表)

ロシュは、RG7716(faricimab)の第3相加齢黄斑変性試験が二本とも成功したと発表した。新生血管を伴う加齢黄斑変性における最高矯正視力改善効果を実薬であるリジェネロン/バイエルのEylea(aflibercept)と比較したところ、非劣性だった。糖尿病性黄斑浮腫の第3相二本も非劣性解析が成功しており、承認申請が見込まれる。

RG7716はAngiopoietin-2とVEGFに結合する二重特異性抗体。EyleaはVEGF-AとPlGFに結合する融合蛋白で、作用機序的には前者の方が効きそうに聞こえるが、そうはいかないのがこの病気だ。RG7716も遡及ポイントは効果ではなく作用の持続性。の臨床試験での投与間隔は、最初はEyleaと同じで8週毎硝子体注射だが、経過に応じて12週毎または16週毎に延ばすことが許容され、1年経過時点では加齢黄斑変性試験では45%が、糖尿病性黄斑浮腫試験では過半が、16週毎に変更していた。

リンク: ロシュのプレスリリース

アストラゼネカ、btk阻害剤の直接比較試験で心房細胞が少ない
(2021年1月25日発表)

アストラゼネカは、 Calquence (acalabrutinib、和名カルケンス) とジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)のbtk阻害剤直接比較試験であるELEVATE-TNの結果を公表した。65歳以上で基礎疾患を持つ未治療の高リスク慢性リンパ性白血病を組入れて単剤投与によるPFS(無進行生存期間)を比較したところ、非劣性だった。

主要副次的評価項目である安全性に関しては、心房細動の発生率が有意に少なかった。シーケンシャルに行われたG3以上の感染症やリヒター症候群の発生状況は差がなかった。

全生存期間はキチンとした解析ではないようだが数値上好ましいトレンドが見られた由。

数値は未発表。Imbruvicaは未治療慢性リンパ性白血病にobinutuzumabと併用したiLLUMINATE試験で心房細動の発生率が12%(G3以上は5%)だった。chlorambucilをobinutuzumabと併用した対照群では0%だった。Calquenceのobinutuzumab併用試験では心房細動は主要有害事象として報告されていない。

リンク: 同社のプレスリリース

抗PD-1抗体にヤーボイを追加してもPD-L1強発現非小細胞性肺癌には効かない
(2021年1月29日発表)

MSDは、昨年11月、Keytruda(pembrolizumab、和名キートルーダ)にBMSのYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用する上乗せ効果を検討したKEYNOTE-598試験がフェールしたと発表したが、WCLC(世界肺癌会議)でデータを発表した。PD-L1強発現(TPS≧50%)でEGFRやALK変異のない転移性非小細胞性肺癌の一次治療試験で、全生存期間とPFS(無進行生存期間)が共同主評価項目だったが、中間解析で独立データ監視委員会が無益性認定した。メジアン生存期間は21.4ヶ月で単剤の21.9ヶ月と大差なく、PFSも8.2ヶ月対8.4ヶ月だった。治療関連の深刻有害事象発生率は27.7%で単剤の13.9%を大きく上回り、治療関連死亡は2.5%対ゼロだった。

YervoyはPD-L1陽性(≧1%)でEGFR/ALK変異のない転移非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)と併用することが昨年5月、米国で承認された。しかし、エビデンスとなるCheckMate-227試験は両剤併用と化学療法を比較しており、Opdivo単剤では足りないのか、という疑問には答えていない。

一方、単剤でも効果のあるKeytrudaとYervoyを併用したらもっと効くのではないか、という疑問には今回、少なくともPD-L1共発現に関しては、答えが出た。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


ペネム系経口抗生剤の承認申請が受理
(2021年1月25日発表)

Iterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)はsulopenemをキノロン系に感受しない非複雑尿路感染症の治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は7月25日。FDAは諮問委員会に上程する考え。

ファイザーが10年前に開発中止した広域ペネム系ベータラクタム、PF-03709270を5年前にライセンスして経口剤や点滴用製剤の第3相試験を行った。複雑腹腔内感染症と複雑尿路感染症試験はフェールしたが、成人女性の非複雑尿路感染症実薬対照試験でキノロン非感受サブグループに良績を残した。

具体的には、sulopenemの経口剤とprobenecid(尿酸排泄促進剤)の5日コースを受けた患者の第12日TOC(Test of Cure)奏効率が62.6%と、ciprofloxacinの3日コース群の36.0%を有意に上回った。

一方、キノロン感受サブグループに関しては各66.8%と78.6%となり、非劣性解析がフェールした。

リンク: 同社のプレスリリース

進行性家族性肝内胆汁鬱滞用薬の承認申請が受理
(2021年1月25日発表)

Albireo Pharma(Nasdaq:ALBO)はA-4250(odevixibat)を進行性家族性肝内胆汁鬱滞(PFIC)における掻痒の治療薬として昨年12月に欧米で承認申請したが、FDAが受理し優先審査指定したことを公表した。審査期限は7月20日。EUも加速審査を決定している。

PFICは希少遺伝子疾患で、胆汁が肝臓に留まり障害を与える。典型的な症状が掻痒。10歳までに肝硬変や肝不全を合併するリスクがある。A-4250はナトリウム胆汁酸共輸送体を回腸局所的に阻害する経口剤で、胆汁酸が肝臓に戻るのを妨げる。希少疾患指定、希少小児疾患指定、ファーストトラック指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA、バイオジェンのアルツハイマー病用薬の承認審査を延長
(2021年1月29日発表)

バイオジェンとエーザイは、FDAがBIIB037(aducanumab)の審査期限を6月7日に、3ヶ月先延ばししたことを発表した。FDAの要請に応じて追加資料を提出したところ、FDAが、審査期限が近づいた時点で申請内容の主要な変更が行われた場合は審査期間を最長3ヶ月延ばすことができる、という規定を適用した。

アミロイドベータの立体配座エピトープに結合する抗体医薬で、アルツハイマー病の第3相試験がフェールしたが、追加的・事後的分析で効果の兆しが窺われたため、FDAと相談の上、承認申請に進んだ。しかし、エビデンスが強固ではないことから、諮問委員会では11人中10人が薬効を肯定せず、残りの一人は棄権した。

審査完了通知(提出された資料の内容では承認できないことを伝えるレター)がコンセンサスだっただろうから、結論が先送りされたのは、イコール、事態が良い方向に向かっているのではないかという観測を招く。株式市場は変化率を重視するのでバイオジェンの株価が上昇したが、金儲けを望む人と治療を望む人の評価が一致するとは限らない。

BIIB037は欧州や日本でも承認中。

リンク: 両社のプレスリリース

CHMP、COVID-19ワクチンなどの承認を支持
(2021年1月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、アストラゼネカのCOVID-19ワクチンなどの承認に肯定的意見を纏めた。上記のようにこのワクチンは即日承認。他は、順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

CHMPも繁忙なのか、承認の詳細な内容は2月1日に発表するとのこと。新薬に関してはメーカー側がプレスリリースを出しているが、適応拡大については病名すら分からないので、次回改めて報告したい。

肯定的意見を得た新薬は、まず、ドイツのPAION(FSE:PA8)のByfavo(remimazolam、和名アネレム)。結膜鏡や気管支鏡による検査など、30分以内の処置を受ける成人の鎮静導入・維持に用いる。

08年にCeNeS Pharmaceuticalsを子会社化して入手したベンゾジアゼピン系麻酔薬で、オンンセットやオフセットが早く、体内のエステラーゼで不活化されるのでP450相互作用リスクがない。日本でムンディファーマが導入、昨年1月に今年1月に全身麻酔薬として製造販売承認を得た。米国ではAcacia Pharma(Euronext:ACPH)がライセンス、昨年6月に処置用鎮静剤として承認を取得し、今月、ロンチした。

リンク: PAIONのプレスリリース

ノバルティスのKesimpta(ofatumumab)は活性期再発型多発性硬化症の成人に用いる。ジェンマブ(OMX:GEN)からライセンスして開発し慢性リンパ性白血病用薬として販売している抗CD20抗体、Arzerra(和名アーゼラ)の活性成分を皮注できるようにしたもの。

第三相は20mgを月一回投与する群とサノフィの Aubagio(teriflunomide)を一日一回経口投与する群のARR(年率再発率)を比較したところ、相対リスク削減率が一本は50%、もう一本は58%で統計的に有意だった。

米国では昨年8月に承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のXpovio(selinexor)は、成人の難治性多発骨髄腫のサルベージセラピーとして条件付き承認することが支持された。四次以上の治療歴を持ち、二種類のプロテアーゼ阻害剤、二種類の免疫調停剤、そして抗CD38抗体に難治性で、最終治療抵抗性の患者にdexamethasoneと併用する。米国ではこの用途と再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の三次治療に加速承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

Arvelle TherapeuticsのOntozry(cenobamate)は韓国のSK Biopharmaceuticalsからライセンスした電位依存性カリウムチャネルブロッカー。二種類以上の抗癲癇薬による治療歴を持つ、焦点発作管理不良な癲癇の成人に追加投与する。米国ではXcopri名で19年に承認された。尚、Arvelle社はAngeliniに買収されることで合意している。

リンク: 同社のプレスリリース

インサイト(Nasdaq:INCY)のPemazyre(pemigatinib)はFGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)阻害剤。FGFR2融合/再編成遺伝子陽性の局所進行または転移性胆管癌用の薬として条件付き承認が支持された。

第二相試験でORR(客観的反応率、独立中央放射線学的評価)が36%で、内訳は完全反応2.8%、部分反応33%だった。メジアン反応持続期間は9.1ヶ月。米国では昨年4月に承認された。日本でも承認審査中。

リンク: 同社のプレスリリース

ノボ ノルディスクのSogroya(somapacitan)は遺伝子組換え型成長ホルモン。成長ホルモン分泌不全症の成人に用いる。同社がインスリンやGLP-1作用剤に応用している、脂肪酸を付加して血中のアルブミンに結合させることによって血中半減期を延長する技術を用いて、皮注頻度を従来の一日一回から週一回に軽減した。頭蓋内高血圧を誘導・悪化させる可能性があるので、治療開始前に兆候である視神経乳頭浮腫の有無をチェックするよう米国では推奨されている。

米国では昨年、日本では今月、承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

アマリン(Nasdaq:AMRN)のVAZKEPA(icosapent ethyl)は高純度EPA製剤。EMAのプレスリリースには心血管疾患のリスクが高い患者のリスク削減としか記されていないが、同社のリリースによると、トリグリセライド値が150mg/dL以上でスタチンを服用中の成人のうち、確立した心血管疾患、または、糖尿病を含む二つ以上の心血管リスク因子を持つ成人に用いることが想定されている。

米国では12年に高トリグリセライド血症治療薬Vascepaとして承認され、心血管アウトカム試験が成功したため期待が高まったが、GE化リスクが顕在化している。欧州では10年間の新薬排他権が得られるだろう。このアウトカム試験に基づく特許も所得する考えのようだ。

リンク: 同社のプレスリリース

適応拡大では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)、ジョンソン・エンド・ジョンソンの結核治療薬Sirturo(bedaquiline、和名サチュロ)、Emergent Netherlandsのコレラ・ワクチン、Vaxchoraが肯定的意見を得たが、内容は不詳。一方、ロシュのTecentriq(atezolizumab)は進行/転移尿路上皮腫の一次治療として白金薬と併用する適応拡大申請が撤回された旨、発表されたが、こちらも詳細は不明。


【承認】


voclosporinが遂に承認
(2021年1月22日発表)

Aurinia Pharmaceuticals(TSX:AUP、Nasdaq:AUPH)は、FDAがLupkynis(voclosporin)をループス腎炎の治療薬として承認したと発表した。経口剤は初めて。但し、GE化した類薬がオフレーベルで用いられている。

ロシュがIsotechnikaから導入し臓器移植後拒絶反応防止などの用途で開発したが08年に権利を返還。Isotechnikaは13年にAuriniaと合併した。

ループス腎炎の第3相試験では、mycophenolate mofetil及び低量ステロイドを服用している患者に偽薬または23.7mgを一日二回投与したところ、腎反応率(eGFRや尿蛋白クレアチニンレシオなどで評価)が各群22.5%と40.8%となり、統計的に有意な差があった。

EUや日本では大塚製薬が承認申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


【医薬品の安全性】


ゼルヤンツの心血管・腫瘍安全性試験がフェール
(2021年1月27日発表)

ファイザーは、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の市販後安全性確認試験がフェールしたと発表した。主要有害心血管イベント(MACE)や癌のリスクがTNF阻害剤より著しく高くはないことを確認しようとしたが、できなかった。リスク倍率自体は決して高くないが、今まで以上に、他剤不応不耐の患者だけにしか用いられなくなるのではないだろうか。クラス・イフェクトではないと考えるのは難しいので、類薬の需要にも影響する可能性がありそうだ。

このA3921133試験は、50歳以上で心血管リスク因子を一つ以上持つ中重度リウマチ性関節炎患者約4350人を、Xeljanzの承認用量である5mgを一日二回経口投与する群、10mg一日二回群、そして対照群として抗TNF-アルファ抗体(北米はHumira、それ以外はEnbrel)を皮注する群に無作為化割付して、MACEや腫瘍(黒色腫以外の皮膚癌は除く)のリスクを平均3~4年、追跡した。結果は、MACEの100人年当り発生率が各群0.91、1.05、0.73、ハザードレシオは5mg群が1.24、10mg群は1.43、両用量合計では1.33(95%信頼区間0.91、1.94)となり、95%上限が非劣性マージンの1.8を上回ったため、フェールした。MACEは心筋梗塞や脳梗塞が多かった。

腫瘍についても100人年当り発生率が各1.13、1.1、0.77、ハザードレシオは各1.47と1.48で両用量合計では1.48(95%信頼区間1.04、2.09)で、こちらも非劣性マージンの1.8をクリアできなかった。

尚、10mg群は肺塞栓や死亡が他の群より多かったため、19年にプロトコル変更し、5mgに減量した。

Xeljanzはインターロイキンなどの受容体の細胞内シグナル伝達に係るJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤。尋常性乾癬や強直性脊椎炎、日欧では潰瘍性大腸炎の治療に10mgを一日二回服用することも承認されている。米国では命に係わることもある感染症、肺塞栓などの血栓性疾患、リンパ腫などの腫瘍のリスクが枠付警告されている。


図表:Xeljanzの心血管・腫瘍安全性試験の結果

5 mg10 mg合計TNF阻害剤
解析対象1,4551,4562,9111,451
主要有害心血管イベント:
発症人数(発生率)47 (3.23)51 (3.50)98 (3.37)37 (2.55)
100人年当り0.911.050.980.73
ハザード比1.24 1.43 1.33
(95%信頼区間) (0.81, 1.91) (0.94, 2.18) (0.91, 1.94)
腫瘍イベント:
発症人数(発生率)62 (4.26)60 (4.12)122 (4.19)42 (2.89)
100人年当り1.131.13 1.130.77
ハザード比1.47 1.48 1.48
(95%信頼区間) (1.00, 2.18) (1.00, 2.19) (1.04, 2.09)


リンク: ファイザーのプレスリリース






今週は以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿