【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:抗血栓薬は標準用量より増やしたほうがよい
- COVID-19:抗SARS-CoV-2抗体医薬の暴露後予防試験が成功
- COVID-19:回復期血漿の試験がまたフェール
- COVID-19:CA州がModernaのワクチンの特定ロットを使用停止
- COVID-19:ノルウェーでワクチン接種後に30人が死亡
- Agios、TibsovoのIDH1変異胆管癌試験で延命効果は確認されず
- 独メルク、二重機能性融合蛋白の第2相が無益性認定に
- Biohaven、アルツハイマー病の第2/3相がフェール
- インサイトも抗PD-1抗体を承認申請
- ノボ、オゼンピックの高用量を承認申請
- ロシュ、Esbrietを適応拡大申請
- オプジーボを胃癌の一次治療に適応拡大申請
- アルジェニクス、筋無力症用薬を承認申請
- 新作用機序の心不全治療薬が米国で承認
- 月一回筋注用HIV治療薬が米国でも承認
- オプジーボとカボメティクスの併用が承認
【今週の話題】
COVID-19:抗血栓薬は標準用量より増やしたほうがよい
(2021年1月22日発表)
中重症COVID-19ではしばしば血栓性合併症が見られるためヘパリンなどの抗血栓薬で予防する手法が普及してきた。しかし、臨床試験のエビデンスは乏しく、用量や介入タイミングも確立していない。抗血栓薬は出血リスクが高まるので、便益と危険を秤にかけるためにはよくデザインされた対照試験の裏付けが必要だ。
このような問題意識で開始されたアダプティブ・デザイン試験の結果が発表された。NIH(米国立衛生研究所)が主導したACTIV-4試験など、5大陸300病院の『中等症』患者1000例超をカバーする三試験の中間解析で、入院患者の血栓症予防に用いる標準用量よりも、『フルドース』のほうが、換気・重要臓器サポートが必要になるリスクが小さかった。死亡リスクを抑制するトレンドも見られた由。数値は未発表。早急に論文発表する予定。
この試験は危機的患者(ICU入室または人工呼吸器装着)も組入れたが、効果がなくむしろ有害である可能性が浮上、昨年12月に打ち切りが発表された。今回の『中等症』は全被験者から危機的患者を除外したもの、即ち、重症患者も含んでいるものと推測される。
治験成功は朗報だが、現時点では分からないことが多い。抗血栓薬は様々な銘柄の未分画/低分子量ヘパリンから選択可能だったが、銘柄間の違いはないのだろうか。一部の銘柄は安静入院患者の血栓予防に用いることが欧米で承認されているが、弾性ストッキングなどの非薬物療法を優先する地域や医療施設もあるだろうから、標準用量がゼロという症例もあったのではないだろうか?『フルドース』が何なのかもはっきりしない。呼び方から想像すると血栓症治療時の用量かもしれないが、ACTIV-4試験の治験登録には単に標準用量より多い量としか記されていない。
一番重要な、出血リスクも分からない。論文刊行が待たれる。
リンク: NIHのプレスリリース
COVID-19:抗SARS-CoV-2抗体医薬の暴露後予防試験が成功
(2021年1月21日発表)
イーライリリーのLY3819253(bamlanivimab)は軽中等症のCOVID-19感染症治療薬として11月にFDAのEUA(非常時使用認可)を得ているが、新たに、介護施設で実施された予防試験が成功した。
予防はワクチンの開発が成功、高齢者にも高い効果を持っているが、効果がフルに発揮されるまで1ヶ月以上かかるため、クラスターが発生して他の入居者の感染が懸念されるような事態には、作用が早く、もし既に感染していた場合は治療にも役立つような手法のほうが好ましいかもしれない。
bamlanivimabはカナダのAbCellera Biologicsが米国やカナダの政府の支援を受けて開発した抗体医薬で、イーライリリーとの創薬提携の最初の成果だ。ウイルスは抵抗性変異が生じやすいため、イーライリリーは中国の君実生物医薬科技からライセンスしたLY3832479/JS016(etesevimab)との併用も開発中。
今回の第3相BLAZE-2試験は、過去7日間に感染者が発生した介護施設の入居者やスタッフを組入れて、4200mgを一回投与する効果を偽薬と8週間に亘って比較した。主評価項目はベースライン時点で感染検査が陰性だった965人の症候性COVID-19感染リスク。結果はオッズ比が0.43、p=0.0002となった。入居者だけのオッズ比は0.20でこちらも統計的に有意だった。各群の感染率は未公表。
米国の医療従事者向けファクトシートによると、bamlanivimabなどのモノクローナル抗体はハイフロー酸素や人工呼吸器患者の臨床的転帰を悪化させる可能性がある。実際、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導した入院患者のremdesivir併用試験は中間で無益が認定された。ワクチンにも言えることだが、感染リスクが低下してもいざ感染した時に重症になりやすくなることも考えられないことはないので、精査が必要だ。
今回の試験に関しては、ベースライン時点で陽性だった治療サブグループも含めて、入居者340人のうち偽薬群の死亡が11人、試験薬群は5人だった。うち、COVID-19による死亡は各8人とゼロだった。少なくとも、ADE(感染依存体増強)により死亡者が増加する兆候は見られなかったことになる。
イーライリリーはこの用途でもEUAを申請する考え。エビデンスが不十分であることや、隔離されるべき患者に点滴投与するロジスティクス面の難点から、現時点の需要は期待外れだ。介護施設の暴露後予防なら普及する可能性が残っている。但し、bamlanivimabは英国や南アで検出された変異型には効きにくいと一部で報じられている点が気がかりだ。
尚、EUAの用量は700mgなので今回は6倍を投与したことになるが、EUAの根拠となった試験では700mgから7000mgまでテストして用量反応相関は見られなかったので、予防に関しても最終的には700mg程度に落ち着くのではないか。
リンク: 同社のプレスリリース
COVID-19:回復期血漿の試験がまたフェール
(2021年1月15日発表)
英国で実施されているCOVID-19治療試験、RECOVERY試験の主任研究者達は、独立データ監視委員会の勧告に基づき、回復期血漿の試験に係る患者組入れを中止したと発表した。組入れ数10,406人、28日死亡1,873人という大規模な試験を行ったが、回復期血漿群の28日死亡率は18%で通常医療群の18%と有意な差がなかった。治験論文を早急に刊行する考え。
回復期血漿はFDAがEUA(非常時使用認可)を行ったがエビデンスは不十分。臨床試験の成績もインドやアルゼンチンで行われた試験で延命効果が見られなかった。COVID-19感染を乗り越えて軽快した患者の血漿には中和抗体が多く含まれているはずだが、量は個人差があり、また、経時的に低下していくので、同じ回復期血漿でも中身はムラがある。だから、治験がフェールしても回復期血漿全般が無効とは言えない。同時に、もし一つの臨床試験で好成績を上げたとしても、回復期血漿全般が有効とは言えない。困ったものだ。
RECOVERY試験はオックスフォード大学の主導で、様々な薬品の効能をアダプティブ・デザインで検討している。これまでに、dexamethasoneの有効性を確立し、hydroxychloroquineやazithromycin、lopinavir(ritonavirブースト)の無効性を明らかにする成果を上げた。
リンク: 主任研究者達の声明
COVID-19:CA州がModernaのワクチンの特定ロットを使用停止
(2021年1月17日発表)
カリフォルニア州はModerna(Nasdaq:MRNA)のCOVID-19ワクチン、mRNA-1273について、特定のロット(41L20A)の接種を停止した。あるコミュニティ・ワクチン・クリニックでアレルギー反応可能例が通常より多く発生したため、念のために、米国疾病予防管理センターやFDA、Moderna、CA州による調査が完了するまで待つ。
過去24時間に治療を必要としたのは10人未満とのこと。CA州全体では287施設に33万回分以上が供給されたが、他の施設ではクラスターは発生していないとのこと。
リンク: カリフォルニア州公衆衛生省のプレスリリース
COVID-19:ノルウェーでワクチン接種後に30人が死亡
(2021年1月21日発表)
ノルウェーの薬品庁はワクチン接種に係る有害事象を積極的に調査収集することで知られている。ワクチンが原因とは俄かには断定できない症例をバンビロに集計することで、未知の副作用を探知できるかもしれないからだ。接種が始まったBioNTech/ファイザーとModernaのCOVID-19ワクチンに関しては、週次で有害事象報告数を公表している。死亡例が多いことに驚かされる。
1月21日時点で71,971人が最初の接種を受けたが、有害事象疑い例は292例が報告され、うち104例が薬品庁の評価により認められた。尚、Modernaのワクチンは接種開始が遅かったため薬品庁の評価はBioNTech/ファイザーのワクチンに係るものだけだった。
104例の内訳を見ると、性別は女性75人、男性29人。年齢は80-89歳が33人と一番多く、90歳以上が29人、70-79歳が13人、69歳未満が25人、不明4人となっている。どの国でも医療従事者と高齢者、特に介護施設・長期療養施設入居者の接種を優先しているので、高齢者に偏っているのは当然のことだ。
重篤度では、死亡が30例、それ以外の重篤症例が16例、非重篤が58例となっている。死亡例は接種の1-9日後だった。
薬品庁によると死亡した人はたいへん脆弱で末期患者だった。ノルウェーの介護施設では一日45人が死亡するとのことであり、ワクチンと死亡の間に因果関係があるとは限らない。
リンク: ノルウェー薬品庁のCOVID-19ワクチン有害事象報告週報(1/21時点、pdfファイル)
【新薬開発】
Agios、TibsovoのIDH1変異胆管癌試験で延命効果は確認されず
(2021年1月17日発表)
Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はTibsovo(ivosidenib)の第3相ClarIDHy試験についてアップデートを行った。IDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)変異型胆管癌の二次・三次治療として500mgを一日一回、経口投与する効果を偽薬と比較した試験で、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)の解析が成功したことは19年9月に発表済み。ハザードレシオは0.37で統計的有意、6ヶ月無進行生存率は各群32%と0%、と良好な内容だったが、メジアン値は各群2.7ヶ月と1.4ヶ月で1ヶ月程度の差しかなかったので、副次的評価項目である全生存期間のデータが注目されていた。結果は、ハザードレシオは0.79と数値上は悪くないが有意ではなかった。メジアン値は各群10.3ヶ月と7.5ヶ月。
残念だが、偽薬群のクロスオーバー率が7割と高かったことが影響したようだ。本試験は偽薬に割付けられる患者に配慮して、試験薬の割付を2倍多くして、更に、偽薬群の患者はPFS後に試験薬を使うことが可能だった。クロスオーバーの影響を調整した感受性分析は良好な結果になった模様。
同社は今四半期中に適応拡大申請する予定。
TibsovoはIDH1阻害剤。米国でIDH1変異を持つ急性骨髄性白血病に承認されている。販売が低調なのか、同社は昨年12月に腫瘍学の医薬品と開発品をセルビエに売却することで合意している。今後は遺伝子疾患に集中する考え。
リンク: Agiosのプレスリリース
独メルク、二重機能性融合蛋白の第2相が無益性認定に
(2021年1月20日発表)
ドイツのメルクはPD-L1とTGFベータに結合する二重機能性融合蛋白、M7824(bintrafusp alfa)を様々な腫瘍に臨床試験中だが、第1相でなかなか良い成果を上げたPL-L1陽性進行非小細胞性肺癌一次治療の第2相Keytruda対照試験はフェールした。全生存期間向上が期待されたが、独立データ監視委員会が無益性を認定、打切りを勧告した。
TGFベータは癌細胞が発現し免疫細胞の活動を抑制する。抗PD-1/PD-L1抗体とのシナジーが期待されるターゲットの一つ。グラクソ・スミスクラインと共同開発している。
リンク: メルクのプレスリリース
Biohaven、アルツハイマー病の第2/3相がフェール
(2021年1月18日発表)
Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は、BHV-4157(troriluzole)の第2/3相軽中度アルツハイマー病試験がフェールしたと発表した。共同主評価項目のADAS-cog 11でもCDR-SBでも、副次的評価項目の海馬量でも、偽薬比有意な差がなかった。軽度患者では数値上良かったようだが、p値は低くなく、そもそも、この手のサブグループ分析はあてにならない。
筋萎縮性側索硬化症用薬riluzoleのプロドラッグで服用頻度が一日一回と少なく、食物影響が小さい。全般不安症の第3相が行われたがフェールした。強迫性障害の第2/3相がフェールしたが投与量を増やして再挑戦する意向。スラムダンクの安西先生ではないが、あきらめたら試合はそこで終了ですよ・・・という訳だ。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
インサイトも抗PD-1抗体を承認申請
(2021年1月21日発表)
インサイト(Nasdaq:INCY)は、INCMGA0012(retifanlimab)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は7月25日。目標適応は、局所進行/転移肛門菅扁平上皮腫で 白金薬レジメンによる治療歴を持つまたは不耐の患者で、承認されれば二次治療薬としては初。但し、MSDのKeytruda(pembrolizumab)などがオフレーベルのまま標準療法になっている模様だ。
17年にMacroGenics(Nasdaq:MGNX)からライセンスした抗PD-1抗体で、承認されれば抗PD-1/PD-L1抗体としては7-8番目になる。500mgを4週毎に点滴静注した第2相では、cORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が14%(完全反応1例、部分反応12例)でメジアン反応持続期間は9.5ヶ月だった。PD-L1陰性や肝転移、HIV感染者でも応答例があった。G3以上の治療時発現有害事象発生率は11.7%。
リンク: インサイトのプレスリリース
ノボ、オゼンピックの高用量を承認申請
(2021年1月21日発表)
ノボ ノルディスクは、二型糖尿病治療薬Ozempic(semaglutide、和名オゼンピック)の用量に2.0mgを追加するレーベル変更申請を米国で行った。EUでも昨年末に申請した由。用量を倍に増やしても効果がすごく高まるわけではないが、イーライリリーの競合品や開発品と宣伝競争を行う上で、僅差でも一番を保つことに意義があるのだろう。
Ozempicは週一回皮注型のGLP-1作用剤。現状では0.25mgで開始し、必要なら0.5mg、1.0mgと増量していく。このクラスは食欲抑制作用や催吐性があり血糖治療薬としては珍しく体重減少効果を持っており、semaglutideは12月に肥満症治療薬として2.4mg週一回皮注が欧米で承認申請されたところだ。
2mgのエビデンスとなるSUSTAIN FORTE試験では、経口剤を服用している二型糖尿病患者に2mgを40週間投与したところ、HbA1c(ベースライン値8.9%)低下が2.2%と1mg群の1.9%を有意に上回った。体重(ベースライン値99.3kg)減少も各群6.9kgと6.0kgとなり有意に大きかった。
0.2%、0.9kgの差がどのくらい重要か、という議論は置いておいて、ライバルであるイーライリリーのTrulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)や開発中のGIP/GLP-1受容体作用剤、LY3298176(tirzepatide)のデータと見比べてみよう。
Trulicityはノボが実施した直接比較試験でHbA1c低下作用がOzempicを有意に下回った。しかし、12月に米国で最大4.5mgまで増量することが認められたので、おそらく今、直接比較試験を行ったら、大差ないだろう。Ozempicの2mgが承認されれば、再び0.2%程度の差がつく可能性がある。
LY3298176は後期第2相試験で最大用量の15mgがTrulicityの1.5mgに大きな差(0.7%)を付けた。Trulicityの4.5mgと比べても勝つだろう。しかし、Ozempicの2mgとは大差ないと推測される。
Ozempicの用量追加はTrulicityだけでなく、22年頃の承認申請が見込まれるLY3298176の迎撃策でもあるのだろう。
リンク: ノボのプレスリリース
ロシュ、Esbrietを適応拡大申請
(2021年1月21日発表)
ロシュはEsbriet(pirfenidone、日本では塩野義製薬のピレスパ)をUILD(分類不能な間質性肺疾患)に適応拡大するようFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査で期限は5月。第2相試験でFVC(努力肺活量)の低下が偽薬より小さかった。
pirfenidoneは抗線維化作用を持ち特発性肺線維症用薬として日米欧で承認されている。間質性肺疾患は全身性強皮病によるものなど様々なタイプがあるが、原因が不明で分類できない症例も多く、UILDと呼ばれている。
リンク: 同社のプレスリリース
オプジーボを胃癌の一次治療に適応拡大申請
(2021年1月20日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を胃・胃食道接合部癌や食道線維細胞腫の一次治療に用いる適応拡大をFDAに承認申請し受理されたと発表した。白金薬およびfluoropyrimidine系抗癌剤と併用する。優先審査で審査期限は5月25日。
エビデンスとなるCheckMate-649試験では、FOLFOXまたはCapeOXレジメンに追加したところ、主評価項目であるPD-L1陽性(CPS≧5)サブグループのメジアン全生存期間が14.4ヶ月と、追加しなかった群の11.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.71、p値は0.0001未満だった。副次的評価項目である全集団の解析も各13.8ヶ月、11.6ヶ月、0.80、0.0002と良好な結果だった。但し、CPSが5未満のサブグループだけでも良好なのか、当方は承知していない。
胃癌での開発は日本が先行しており、一次治療化学療法併用も昨年5月に一変申請され、12月にはCheckMate-649試験のデータも提出された。
リンク: BMSのプレスリリース
アルジェニクス、筋無力症用薬を承認申請
(2021年1月8日発表)
オランダのアルジェニクス(Euronext:ARGX)は、ARGX-113(efgartigimod)を全身性重症筋無力症用薬としてFDAに承認申請したことを明らかにした。日本も参加した第3相試験で、抗アセチルコリン受容体抗体陽性サブグループの反応率が67%と偽薬群の30%を有意に上回った。全集団の解析でも有意差があった。今年上期(1-6月)に日本で、下期にはEUでも、承認申請する予定。
免疫グロブリンG(IgG)の細胞内分解を妨げる胎児性Fc受容体に結合・阻害する抗体のフラグメントで、IgGが係る免疫性血栓性血小板減少症や尋常性天疱瘡などでも承認申請用試験が進行中。点滴用だが皮注用製剤の開発も進んでいる。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
新作用機序の心不全治療薬が米国で承認
(2021年1月20日発表)
MSDは、FDAがVerquvo(vericiguat)を承認したと発表した。駆出率45%未満の慢性心不全で、増悪による入院または利尿剤静注歴を持つ成人に用いる。エビデンスとなるVICTORIA試験では、心血管死/心不全入院のハザードレシオが0.90、p=0.019だった。この数値自体はあまり見栄えしないが、メジアン10ヶ月余の追跡期間中の心血管死/心不全入院発生率は35.5%と偽薬群の38.5%より3ポイント低く、年率では4.2%の絶対差があった。心血管死だけの解析では有意差がなかったが数値上は偽薬群より低かった。
有害事象は低血圧、貧血などだが、偽薬群と比べて若干増加する程度。2.5mg(一日一回)で開始して5mg、10mgと増量していく滴定が効いているのかもしれない。
上記試験では最大血圧100 mmHg未満や硝酸薬服用は除外条件だった。しかし、レーベル上は特に禁忌にはなっていない。枠付警告は催奇性で、妊婦は禁忌。
可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤で、酸化窒素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイに介入し、酸化窒素とsGCの結合を強化する。バイエルから共同開発権を取得、米国ではMSDが、海外ではバイエルが、販売する。
リンク: MSDのプレスリリース
月一回筋注用HIV治療薬が米国でも承認
(2021年1月21日発表)
FDAは、CabenuvaをHIV-1感染症の治療薬として承認した。月一回、筋注する二種類の抗ウイルス薬のコ・パッケージで、他のレジメンによる治療によりウイルスを抑制できていて、過去に治療フェール歴がなく、個々の配合成分に抵抗性を持たない成人の患者がスイッチすることができる。最初の一ヶ月間は経口剤を一日一回服用して忍容性を確認する。
活性成分の一つはグラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアの長期作用性インテグラーゼ阻害剤、cabotegravir。Vocabria名で錠剤も承認された。もう一つはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンが開発した非核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine)の長期作用性製剤。HIV/AIDSの標準的治療方針は核酸系逆転写阻害剤二種類ともう一種類を併用するが、Cabenuvaは二剤だけ併用する。
米国はCMC(化学、製造、管理)面の理由で承認が遅れたが、EUでは12月に承認されている。米国と異なりEUでは2ヶ月毎投与も承認されている。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴのプレスリリース
オプジーボとカボメティクスの併用が承認
(2021年1月22日発表)
FDAは、BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とExelixis(Nasdaq:EXEL)のCabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)を併用で進行腎細胞腫の一次治療に用いることを承認した。効果をファイザーのSutent(sunitinib)と比較したCheckMate-9ER試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が各16.3ヶ月と8.3ヶ月となり、ハザードレシオは0.51、p<0.0001だった。全生存期間のハザードレシオは0.60、p=0.001。
抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤の併用は類薬も含めて進行腎細胞腫の標準療法になりつつある。
リンク: FDAのプレスリリース
今週は以上です。
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