【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:CHMPもComirnatyの隠れ容量を指摘
- COVID-19:アクテムラの成功した試験の論文草稿が公開
- COVID-19:ユルトミリスの第3相は組入れ停止に
- COVID-19:ウイルス変異がPCR検査に及ぼす影響
- COVID-19:EUもアストラゼネカのワクチンの承認審査を開始
- MSDも新開発の肺炎球菌ワクチンを米国で承認申請
- ジャディアンスの心不全適応拡大を米国でも申請
- FDA、エンハーツをher2陽性胃癌に承認
- FDA、ザーコリを小児ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫に承認
- ダラキューロがALアミロイドーシスに承認
【今週の話題】
COVID-19:CHMPもComirnatyの隠れ容量を指摘
(2021年1月8日発表)
EUの医薬品専門家委員会であるCHMPは、BioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチン、Comirnatyに関して、バイアル一瓶から6回分を得ることができる旨を製品情報に記載するよう勧告した。FDAもEUA(非常時使用認可)後に同様な発表をしている。現状では供給量が限られているので、たとえ2割でもより多くの人に提供できるなら朗報だ。
CHMPによると、小デッドスペース型(デッド・ボリュームが35mcL以下)のシリンジ且つ又針を使えば6回分を得ることができる。もし6回目に0.3mL未満しか取得できなかった場合は、他のバイアルの使い残しと混ぜるのではなく、廃棄する。
それにしても、なぜこのワクチンだけ、余得が大きいのだろうか?
リンク: EMAのプレスリリース
COVID-19:アクテムラの成功した試験の論文草稿が公開
(2021年1月7日発表)
査読中の論文草稿を公開するサーバー、medRxivで、COVID-19肺炎における抗IL-6受容体抗体の効果を検討したREMAP-CAP試験の論文草稿が公開された。過去の同様な試験の結果は区々で明暗が分かれた理由もはっきりしないが、少なくともこの試験では、大きな救命効果が示唆された。
REMAP-CAP試験は英国などの研究者が主導したCOVID-19肺炎のマスター・プロトコルで、様々な薬をアダプティブ・デザインで取っ替え引っ替え調べている。抗IL-6受容体抗体の試験は、重度肺炎を合併しICUで肺や心血管のサポートを開始してから24時間以内の患者803人を中外/ロシュのActemra(tocilizumab)またはリジェネロン/サノフィのKevzara(sarilumab)を投与する群と対照群に無作為化割付し、臓器サポート不要日数をオープンレーベルで比較した。
統計解析はベイズ確率に基づく。中間解析で成功認定されたためか、Kevzaraの症例数は45例と少ない。ベースライン時点で9割の患者がコルチコステロイドを、3割がremdesivieを、使用していた。
結果は、各群の臓器サポート不要日数(メジアン値)は10日、11日、0日、調整オッズ比はActemraが1.64、Kevzaraは1.76となり、どちらも優越性の事後確率が99.5%以上だった。副次的評価項目である院内死亡率は各28.0%、22.2%、35.8%で、調整オッズ比は1.64と2.01、事後確率はどちらも99.5%以上だった。
抗IL-6受容体抗体の第3相試験はロシュのCOVACTA試験がフェール、EMPACTA試験は成功したが副次的評価項目である28日死亡率は数値上悪かった。Kevzaraはメーカー主導試験が二本ともフェールしたが、一本では危機的肺炎サブグループで死亡率が数値上、低かった。当時、CRP値が特に高い患者だけなら効果があるのではないかとも想像したが、今回の試験では、CRP値と効果の関連性は見られなかったようだ。
COVID-19治療薬はremdesivirもWHO主導試験がフェールしており、成功した試験でも危機的肺炎サブグループにおける効果は明確ではなかった。dexamethasoneも一部のサブグループには有効ではなかった。明暗が分かれた理由を探求する必要がある。
リンク: REMAP-CAP研究グループの論文草稿(medRxiv、1/9公開のver.2)
COVID-19:ユルトミリスの第3相は組入れ停止に
(2021年1月13日発表)
アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Ultomiris(ravulizumab、和名ユルトミリス)の第3相重症COVID-19試験の組入れを停止すると発表した。人工呼吸器を必要とする危機的患者の29日生存率を改善する効果を検討したが、独立データ監視委員会が中間解析に基づき効果不十分と判定した。既に治療を開始した患者は継続する由。
Ultomirisは補体系のC5を標的とする抗体医薬。 発作性夜間ヘモグロビン尿症や非典型溶血性尿毒症症候群に承認されている。
アレクシオンはアストラゼネカが約390億ドルで買収する予定。
リンク: アレクシオンのプレスリリース
COVID-19:ウイルス変異がPCR検査に及ぼす影響
(2021年1月8日発表)
英国や南アで発見されたSARS-CoV-2の変異型は、宿主細胞に侵入する時に用いるスパイク蛋白の形状安定性が高く、細胞側のACE2に結合する能力が高いため感染力も高いと考えられている。実際、英国の調査では初めて検出された昨年9月以降、10月、11月と当該ウイルスに感染した患者の比率が高まっている(サンプル数はごく少ないが)。
ウイルスに変異は付き物だが感染力が高いとなると話は別だ。南アで発見された変異型は英国変異型と幾つかの変異箇所が重なっているが、どちらかから派生したものではなく、別々に起きた変異が継承されたものと考えられている。英国の感染爆発の一因がこの変異型だとしたら、米国や日本での感染爆発も、夫々の地域で発生した同様な変異型が寄与しているのかもしれない。
もう一つ、考えなければならないのは、ワクチンに及ぼす影響だ。BioNTech/ファイザーのワクチンは、N501Y変異を導入したウイルスを接種者の血清に曝露した試験などにより、英国のVUI 202012/01(2020年12月第1番の調査対象ウイルス、という意味)に有効である可能性が指摘されている。一方、南ア型に対する効果は不透明で、現時点では、効果が低下する可能性を指摘する声の方が目立っている。
また、英国では、ウイルス検査の検出力が低下する可能性を懸念する声も出ている。詳細は不明だったが、FDAが現時点での情報を提供した。三社のPCR検査キットに関して、ある種の変異があると検出力が低下する可能性があるが、ウイルスRNAの複数の箇所をチェックするので顕著な影響はなさそう、というものだ。
建前上はRT-PCRだろうが何だろうが検査に絶対はなく、結果を妄信せずに臨床判断で補う必要がある。検査結果に疑念があったら別の検査キットで再検査するべきだ。だから、変異によって検出力が少しくらい低下しても当局は『想定の範囲内』で済ませることができたはずだが、今回は、大統領や政府高官、FDA、医師のオピニオン・リーダーなどの見解が区々で何を(誰を)信じたらよいのか分からない状況だ。PCR検査不要論が出ないよう、FDAが先制的、防御的攻撃に打って出たと言えるだろう。
リンク: FDAのプレスリリース
COVID-19:EUもアストラゼネカのワクチンの承認審査を開始
(2021年1月12日発表)
EUの薬品承認審査機関であるEMAは、アストラゼネカがオックスフォード大学からライセンスして共同開発したCOVID-19ワクチン、ChAdOx1-S/AZD1222の承認申請を受理したと発表した。順調なら1月29日にも条件付き承認が決まる見込みだ。
このワクチンはチンパンジーに感染するアデノウイルスを不活化しSARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子を導入したもので、接種者の細胞に入り込みスパイク蛋白抗原を発現する。先に承認されたmRNAワクチンと比べた長所は、第一に、通常の冷蔵庫で最長6ヶ月、保存可能であること。第二に、オリジンがオックスフォード大学であるためか、アストラゼネカは儲けゼロで供給すること。第三に、二回接種の投与間隔が3週間とか4週間とかに限定されず、12週間おいて接種した症例もあること。自己負担ゼロで接種を推進する政府や医療施設にとって都合が良い。
一方、接種を受ける側にとっては不満もあるだろう。mRNAワクチンと比べて感染予防効果が見劣りするからだ。また、65歳以上の症例数が限定的であることも残念な点だ。
リンク: EMAのプレスリリース
【承認申請】
MSDも新開発の肺炎球菌ワクチンを米国で承認申請
(2021年1月12日発表)
MSDは、V114(通称PCV-15)を18歳以上の侵襲性肺炎球菌性疾患予防ワクチンとしてFDAに承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は7月18日。EUでも承認申請したとのこと。
肺炎球菌ワクチンは同社のPneumovax(通称PPSV23:23血清型をカバー)が主として高齢者に40年近い接種実績を持ち、ファイザーのPrevnarやPrevnar 13も乳幼児や高齢者に20年の実績を持つ。V114はPrevnar 13がカバーしていない22F型と33F型も含めて15種類の血清型をカバーしている点が長所。
ファイザーもPF-06482077(通称20vPnC)を開発、18歳向けに昨年10月に米国で承認申請した。こちらも優先審査で、審査期限は6月。カバレッジが広く、V114の15血清型に加えて、8、10A、11A、12F、15BCも含めて20血清型をカバーしている。
成人向けの承認申請はファイザーが1ヶ月先んじたが、Prevnar 13の主市場である乳幼児向けの開発はMSDが先行している模様で、先陣争いが注目される。
リンク: MSDのプレスリリース
ジャディアンスの心不全適応拡大を米国でも申請
(2021年1月11日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を駆出力低下を伴う心不全の治療に用いる適応拡大申請をFDAに行い受理されたと発表した。昨年11月に日本でも申請している。
エビデンスとなるEMPEROR-Reduced試験では、駆出率40%未満の心不全3730人を組入れて、10mg一日一回経口投与の効果を偽薬と比較したところ、主評価項目の心血管死/心不全入院の発生率が19.4%と偽薬群の24.7%を下回り、ハザードレシオ0.75、統計的に有意だった。Jardianceは二型糖尿病薬として発売されたが本試験では糖尿病ではない患者のハザードレシオが0.78、糖尿病サブグループは0.72と、糖尿病ではない患者にも有効だった。
駆出力を保持している心不全患者を組入れたEMPEROR-Preservedも進行中で、今年結果が出る見込み。
リンク: 両社のプレスリリース
【承認】
FDA、エンハーツをher2陽性胃癌に承認
(2021年1月15日発表)
FDAは、第一三共がアストラゼネカと共同開発販売しているEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki、和名エンハーツ)を局所進行性/転移性her2陽性胃・胃食道接合部腺腫に用いる適応拡大を承認した。trastuzumab歴を持つ患者が適応になる。日本でも昨年9月に承認。
日韓で実施された第2相三次治療試験では、メジアン生存期間が12.5ヶ月と化学療法群(irinotecanまたはpaclitaxel)の8.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、p=0.0097だった。
リンク: FDAのプレスリリース
FDA、ザーコリを小児ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫に承認
(2021年1月14日発表)
FDAは、ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を1歳以上の小児の難治再発性ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫に用いる適応拡大を承認した。280mg/m2を一日二回、経口投与する。
臨床試験(n=26)ではORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が88%でその39%は6ヶ月以上持続した。寛解率は81%。深刻有害事象の発現率は35%で、好中球減少症が感染症など。副作用に備えて制吐剤の併用や目の定期検査を推奨している。
XalkoriはALKやc-MET、ROS1などを阻害する小分子薬。ALK変異非小細胞性肺癌などに承認されている。
リンク: FDAのプレスリリース
ダラキューロがALアミロイドーシスに承認
(2021年1月15日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Darzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、和名ダラキューロ)をALアミロイドーシスの新患に用いる適応拡大がFDAに加速承認されたと発表した。Velcade(bortezomib)、dexamethasone、およびcyclophosphamideと併用する(D-VCdレジメン)。重い心臓疾患を合併している患者は適応外。
Darzalexはジェンマブからライセンスした抗CD38抗体でFasproは皮注用製剤。多発骨髄腫用薬として承認されている。ALアミロイドーシスは米国で年4500人程度が診断される希少疾患で、免疫グロブリンの軽鎖由来のアミロイドが臓器に蓄積する。臨床試験ではD-VCdレジメンの血液学的反応率が53%とVCdだけの18%を大きく上回った。
リンク: JNJのプレスリリース
今週は以上です。
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