2019年12月23日

2019年12月23日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • デキストロメトルファン合剤の大鬱病試験が成功 
  • アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型の第三相が成功 
  • ノバルティス、DP2受容体の第三相喘息症試験がフェール 
  • 原発性ミトコンドリア筋症の第三相がフェール 
  • ギリアド、JAK1阻害剤を米国でも承認申請 
  • ファイザー、ビラフトビをV600E変異陽性大腸癌に適応拡大申請 
  • BMS、JCAR017を承認申請 
  • GSK、抗BCMA抗体薬物複合体を多発骨髄腫に承認申請 
  • GISTの4次治療用KIT阻害剤が承認申請 
  • 小細胞性肺癌用薬が承認申請 
  • インターセプト社、NASH治療薬を欧州でも承認申請、米国は承認遅延へ 
  • ヴィーヴ、月一回筋注用HIV治療薬は審査完了に 
  • FDA諮問委員会が全員一致で類上皮肉腫用薬の承認を支持 
  • FDA諮問委員会、キイトルーダのNMIBC適応拡大を多数が支持 
  • FDA諮問委員会、リムパーザの膵癌適応拡大を多数が支持 
  • エーザイ、不眠症治療薬が米国で承認 
  • 第一三共、抗her2抗体薬物複合体が米国で承認 
  • MSDのエボラワクチンが米国でも承認 
  • シアトル・ジェネティクス/アステラスのADCが米国で承認 
  • イクスタンジが米国で転移性ホルモン感受性前立腺癌に適応拡大 


【新薬開発】


デキストロメトルファン合剤の大鬱病試験が成功
(2019年12月16日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、AXS-05の第三相大鬱病治療試験が成功したと発表した。第二相のデータと合わせて来年下期に米国で承認申請する考え。

AXS-05はdextromethorphanとbupropionの調整放出製剤。前者の効果持続時間を後者の2D6阻害作用で長期化するとともに、前者の持つNMDA受容体拮抗、シグマ-1受容体作動、そしてセロトニン及びノルエピネフィリンの輸送体阻害作用を後者のノルエピネフィリン及びドパミン再取込阻害作用とニコチン・アセチルコリン受容体拮抗作用で補完するアイディア。

第三相では米国の中重度大鬱病患者327人を組入れて一日二回(最初の3日は一回)、経口投与したところ、6週間後のMADRS(モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度)がベースライン値の33から16.6低下し、偽薬群の11.9低下より有意に大きかった。寛解率(MADRS≦10)も39.5%対17.3%で上回った。有害事象による治験離脱は各6.2%と0.6%だった。

同社は、難治性鬱病やアルツハイマー病の易怒性を治療する第三相も実施中。

リンク: Axsome社のプレスリリース

アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型の第三相が成功
(2019年12月17日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ALNY)は、ALN-GO1(lumasiran)の第三相試験成功を発表した。原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)で軽中度の腎障害を持つ6歳以上の患者約30人を組入れて、3mg/kgを最初の3回は月一回、その後は3ヶ月毎に皮注したところ、尿シュウ酸塩が偽薬比有意に減少した。二次的評価項目の検定もすべて成功した。重度あるいは深刻な有害事象は発生しなかった。

詳細は来年3月にアムステルダムで開催されるOIC(欧州高シュウ酸尿症コンソーシアムの国際会議)で発表する予定。20年初めに欧米で承認申請する計画。

原発性高シュウ酸尿症I型は常染色体劣性遺伝性疾患で、肝臓のペルオキシソームに存在するアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(alanine:glyoxylate aminotransferase: AGT)の欠損により、グリオキシル酸が蓄積する。尿路結石を繰り返し、腎不全のリスクもある。罹患率は世界で5.88万人に一人とされる。ALN-GO1はグリコール酸酸化酵素の遺伝子、 hydroxyacid oxidase 1を標的とするRNA介入薬。第三相の成績は未発表だが第1b/2相試験では尿シュウ酸塩が63%減少した。

アルナイラムはRNA介入薬のスペシャリスト。研究開発が一斉に開花しており、18年に欧米でTTR調停アミロイドーシス治療薬Onpattro(patisiran、和名オンパットロ)が承認されたのに続いて、今年は急性肝性ポルフィリン症治療薬Givlaari(givosiran)が米国で承認、高脂血症治療薬ALN-PCSsc(inclisiran)を年内に承認申請予定と、新薬輩出している。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

ノバルティス、DP2受容体の第三相喘息症試験がフェール
(2019年12月16日発表)

ノバルティスは、QAW039(fevipiprant)の第三相中重度喘息症試験が不満足な結果になったことを明らかにした。吸入ステロイドを含む二剤併用でも発作を十分に管理できない患者に52週間投与して発作頻度を偽薬と比較する試験を二本実施したが、150mcg群も450mcg群も二本のプール分析で偽薬比有意なな予防効果が見られなかった。一秒量を主評価項目とする第三相二本も先にフェールしており、同社は喘息症における開発を中止する考え。

QAW039はDP2受容体(別名CRTh2受容体)のアンタゴニスト。IgEにより活性化された肥満細胞が分泌するプロスタグランディンD2が好中球やTh2型リンパ球のDP2受容体に結合し、活性化・移行を促進するのを妨げる。近年、アレルギー分野でDP2受容体拮抗剤が注目されるようになったが、臨床成績は他社の開発品も含めパッとしない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

原発性ミトコンドリア筋症の第三相がフェール
(2019年12月20日発表)

Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は、MTP-131(elamipretide)の第三相原発性ミトコンドリア筋症(PMM)試験がフェールしたと発表した。218人を組入れて32週間治療し、6本歩行テストや疲労症状スコアの変化を偽薬と比較したが、目的を達成できなかった。

MTP-131はミトコンドリア膜の構造を正常化する作用が期待され、これまでにBirth症候群やLHONなどのミトコンドリア疾患の中期後期試験が実施されたが、概して失望的な結果になっている。

10月にアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)が共同開発オプションを取得したばかり。

リンク: Stealth社のプレスリリース


【承認申請】


ギリアド、JAK1阻害剤を米国でも承認申請
(2019年12月19日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は米国でfilgotinibを中重度リウマチ性関節炎治療薬として承認申請した。競合品が多いせいか、優先審査バウチャを使って早期承認を狙った。EUでは8月に、日本でも10月に申請済み。

JAK1選択的だがFDAは他社のJAK1阻害剤に関してJAK1/2阻害剤と同じクラス警告を付与しており、どの程度差別化できるか不明。また、前臨床で見られた男性生殖機能毒性がヒトにもリスクがあるのか、男性は200mgは避け100mg(一日一回)に限定するのか、などが注目される。

ベルギーのGalapagos(Nasdaq:GLPG)から共同開発販売権を取得したもの。

リンク: ギリアドのプレスリリース

ファイザー、ビラフトビをV600E変異陽性大腸癌に承認申請
(2019年月日発表)

ファイザーは、Braftovi(encorafenib、和名ビラフトビ)をV600E変異陽性転移性結腸直腸癌の二次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理された。審査期限は来年4月とのこと。第三相試験でcetuximabと併用でcetuximab・irinotecan併用群と比較したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)は20.4%対1.9%、生存期間はメジアン値が8.4ヶ月対5.4ヶ月、ハザードレシオは0.60、p=0.0003と、良好な成績を上げた。尚、この試験ではMEK阻害剤Mektovi(binimetinib)も併用するトリプレットもテストしたが、探索的解析の結果、二剤併用と効果は大差ないという結論になった。

BraftoviとMektoviはファイザーが7月に114億ドルで買収したArray BioPharmaの製品で、18年に欧米で、19年には日本でも、V600変異悪性黒色腫用薬として承認された。V600変異は悪性黒色腫の50%程度に見られるが、結腸直腸癌では10~15%程度。

欧州はPierre Fabreがライセンスしており、今年11月にV600E変異陽性結腸直腸癌に二種変申請した。日本はライセンシーの小野薬品が適応拡大試験中。

リンク: ファイザーのプレスリリース

BMS、JCAR017を承認申請
(2019年12月18日発表)

BMSは、lisocabtagene maraleucel(JCAR017)を再発性難治性大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬として米国で承認申請した。買収したセルジーンがJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)からライセンスしたキメラ抗原-T細胞(CAR-T)で、抗CD19抗体と4-1BBなどを結合したもの。第一相試験では255人のうち総合反応率73%(完全反応53%)、メジアン反応持続期間13.3ヶ月だった。

ノバルティスやギリアドのCAR-Tのデータと比べると、効果は同程度かそれ以上、CAR-Tに特徴的な神経毒性やサイトカイン放出症候群の発生率は低そうだ。

リンク: BMSのプレスリリース

GSK、抗BCMA抗体薬物複合体を多発骨髄腫に承認申請
(2019年12月16日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK2857916(belantamab mafodotin)を再発性難治性多発骨髄腫のサルベージ療法として米国で承認申請した。エビデンスとなるDREAMM-2試験の論文がLancet Oncology誌に刊行されたのと合わせて公表した。

形質細胞のBCMAに結合する、協和キリングループのBioWaの技術を導入して開発した抗体を、シアトル・ジェネティクスの技術でMMAF細胞毒やリンカーと結合したもの。DREAMM-2試験では再発性難治性の多発骨髄腫で免疫調停薬とプロテアソーム阻害剤に難治性、抗CD38抗体に難治/不耐だった患者に30分点滴静注したところ、2.5mg/kg群のORR(総合反応率)が31%、うちVGPR(最良部分反応率)は18%、メジアン反応持続期間は6ヶ月以上だった。G3/4有害事象は角膜症、血小板減少症、貧血症など。

GSKは14年にノバルティスとアセット・スワップを行い、腫瘍学の製品・開発品を譲渡したが、GSK2857916を含む初期のパイプラインは留保していた。

リンク: GSKのプレスリリース

GISTの4次治療用KIT阻害剤が承認申請
(2019年12月16日発表)

Deciphera Pharmaceuticals(Nasdaq:DCPH)は、DCC-2618(ripretinib)を進行消化管間質腫瘍(GIST)の4次治療薬として承認申請した。既存のKIT阻害剤(imatinib、sunitinib、regorafenib)による治療歴を持つ患者に用いる。150mgを一日一回投与した第三相試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価)がメジアン27.6週と偽薬群の4.1週を上回り、ハザードレシオ0.15、統計的に有意だった。共同主評価項目のORR(客観的反応率)は9.4%対ゼロだったが、p=0.0504で統計学的に有意ではなかった。二次的評価項目の全生存期間はメジアン15.1ヶ月対6.6ヶ月と上回り、ハザードレシオ0.36、p=0.0004となったが、主評価項目の一つがフェールした後なので、統計学的に有意とは言えない。

G3/4の治療時発現有害事象は貧血、腹痛、高血圧など。

ripretinibは広域KIT阻害剤とされ、既存のKIT阻害剤に反応しにくい変異にも作用することが特徴。FDAがリアルタイム・オンコロジー・リビューというパイロット・プログラムの対象に指定したので、早期の承認が期待される。

リンク: Decipheraのプレスリリース

小細胞性肺癌用薬が承認申請
(2019年12月17日発表)

スペインのPharmaMar(MSE:PHM)は、Zepsyre(lurbinectedin)を白金薬歴を持つ小細胞性肺癌用薬として加速承認するようFDAに申請した。第二相バスケット試験でORR(客観的反応率、独立評価委員会ベース)が105人中35%、メジアン反応持続期間は5.3ヶ月だった。

同社が創製しジョンソン・エンド・ジョンソンにライセンスしたYondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)の類縁体で、RNAポリメラーゼIIなどを阻害する。日本は中外製薬がライセンスした。

リンク: PharmaMarのプレスリリース

インターセプト社、NASH治療薬を欧州でも承認申請、米国は承認遅延へ
(2019年12月13日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、obeticholic acid(OCA)をNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)による肝線維症の治療薬としてEUで承認申請した。同時に、9月に承認申請した米国で、4月22日の諮問委員会に上程されることが決まり、審査期限(3月26日)までには承認されない可能性が高まったことも明らかにした。

OCAはウルソデオキシコール酸の類縁体でファルネソイドX受容体を作動する。原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocalivaとして16年に欧米で承認された。NASH肝線維症の臨床試験の中間解析では、原発性胆汁性肝硬変より高量の25mgを一日一回、18ヶ月間投与したところ、病気のステージが1段以上改善し、且つ、NASHが悪化しなかった患者の比率が23.1%と偽薬群の11.9%を有意に上回った。もう一つの主評価項目であるNASHが解消し且つ肝線維症が悪化しなかった患者の比率は11.7%で偽薬群の8%と大差なかった。この試験は組入れが予定より遅かったため、中間解析実施症例数を1400人から750人に減らす一方で、共同主評価項目の何れかで有意差が出れば成功と評価するプロトコル変更がなされている。

報道によると、米国で諮問委員会が審査期限の後になってしまったのは諮問委員のスケジュール調整が付かなったことが理由である模様。NASH治療薬は多くの会社が開発に鎬を削っているが失望的なニュースも多く、トップランナーであるOCAの審査結果が注目されている。

リンク: インターセプト社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


ヴィーヴ、月一回筋注用HIV治療薬は審査完了に
(2019年12月21日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーの抗HIV薬合弁、ヴィーヴヘルスケアは、インテグラーゼ阻害剤cabotegravirと非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineの筋注用製剤をHIV/AIDSの維持療法薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。CMC(化学、製造、管理)に関する情報が不十分と判定された模様だが、詳細は不明。

この二剤を併用するレジメンで、半減期が長く月一回の注射で済むことが特徴だが、合剤ではない。rilpivirineはジョンソン・エンド・ジョンソンのEdurantの活性成分で、持効化するためにJNJの独自技術を使っている関係でヴィーヴに手の内を明かさなかった。このため、二ヶ所に筋注しなければならないのが難点。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

FDA諮問委員会が全員一致で類上皮肉腫用薬の承認を支持
(2019年12月18日発表)

エピザイム(Nasdaq:EPZM)は、根治不能の転移/局所進行性類上皮肉腫用薬として承認申請したEPZ-6438(tazemetostat)に関してFDA腫瘍学薬諮問委員会が検討し、全員一致で便益が危険を上回ると結論した。FDAの審査担当者はやや慎重なスタンスのようなので不透明感が消えたわけではないが、来年1月23日の審査期限に向けて、展望が好転した。

類上皮肉腫は米国で年120人程度が診断される超希少な肉腫。9割の患者で見られるINI1蛋白の喪失が、遺伝子発現に係るヒストン・メチル基転換酵素の異常亢進、そして腫瘍抑制遺伝子の発現抑制に関与していると推測されている。EPZ-6438はヒストン・メチル基転換酵素を構成する蛋白の一つであるEZH2(enhancer of zeste homolog 2)を阻害する経口剤。INI1喪失型の転移/局所進行性類上皮肉腫62人を組入れた第二相試験で800mgを一日二回投与したところ、ORR(客観的反応率)が13%(全部部分反応)、メジアン反応持続期間は48週を上回った。

EZP-6438の臨床試験では725人中8人で二次性腫瘍が発生したが、類上皮肉腫の試験では観察されていない由。

FDA審査担当者はORRが低く95%信頼期間下限が数パーセントに過ぎないことなどを指摘したが、諮問委員会は、難治性腫瘍で有効な薬がないことを重視した。

エピザイムは、再発難治性濾胞性リンパ腫の三次治療薬として承認申請したことも明らかにした。第二相試験では、EZH2活性化変異型45人におけるORRが69%、野生型54人に対しても35%で、メジアン反応持続期間は各11ヶ月と13ヶ月だった。

エピザイムは遺伝子発現に係るエピジェネティクスに基づく新薬の研究開発に特化した会社。11年にエーザイがEZH2を標的とする薬の研究開発で戦略提携を結んだが、15年に見直され、エーザイの権利は日本の開発販売と、アジアにおける優先交渉権に縮小された。

リンク: エピザイムのプレスリリース

FDA諮問委員会、キイトルーダのNMIBC適応拡大を多数が支持
(2019年12月17日発表)

MSDは抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をBCG不応の高リスクNMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)に用いる適応拡大を米国で承認申請しているが、FDA腫瘍学薬諮問委員会で13人の委員中9人が承認に賛成、4人が反対した。審査期限は来年1月。

NMIBCは米国で年8万人診断される膀胱癌の75%を占める。高リスクでBCGに反応しない場合は膀胱の全摘が第一選択となるが、QOL面から嫌う患者も少ないない模様。Keytrudaの第二相試験では、3ヶ月完全反応率(中央評価)が102人中41.2%、メジアン反応持続期間は16ヶ月と良好な成績を上げたが、学会が求める水準(IBCGは12ヶ月完全反応率30%、AUAは18-24ヶ月完全反応率30%)には達していない。また、G3/4の治療時発現有害事象が13%の患者で発生した。

リンク: MSDのプレスリリース

FDA諮問委員会、リムパーザの膵癌適応拡大を多数が支持
(2019年12月17日発表)

アストラゼネカと共同開発販売者のMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)を転移性gBRCA悪性変異型膵癌の一次治療後維持療法薬として適応拡大申請しているが、FDA腫瘍学諮問委員会で承認賛成7人、反対5人と賛成が若干上回った。審査期限は19年第4四半期とのことなので間もなく承認される可能性があるが、FDA審査担当者は慎重であるように見えることや、反対も多かったことを考えると、不透明感が残る。

LynparzaはDNA修復に係る酵素であるPARPを阻害する薬で、ある種の卵巣癌や乳癌に承認されている。今回の適応・用法は、膵癌の5-7%を占めるBRCA遺伝子に生殖細胞系変異を持つタイプが対象で、白金薬レジメンによる一次治療を受け癌の進行が安定化または縮小した患者に、300mg錠を一日二回、経口投与する。第三相のPOLO試験ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン7.4ヶ月と偽薬群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.53、p=0.004だった。しかし、二次的評価項目の全生存期間の解析は点推定値が偽薬群と大差なかった。偽薬群の15%が進行後にPARP阻害剤による治療を受けたとはいえ、物足りない。

FDA審査担当者は、被験者が154人とあまり多くなく、患者背景の一部で群間の偏りが見られることや、通常の臨床試験では偽薬群のORR(客観的反応率)はゼロだが本試験ではLynparza群の20%に対して偽薬群は10%と高いことから、膵癌は進行判定が難しくPFSデータを過信すべきではないとの考えを示した。深刻有害事象の発生率が24%(偽薬群は15%)、G3~5の有害事象の発生率が39%(23%)と危険もあることも指摘した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認】


エーザイ、不眠症治療薬が米国で承認
(2019年12月23日発表)

エーザイは、FDAがDayvigo(lemborexant)を不眠症治療薬として承認したと発表した。14年に承認されたMSDのBelsomra(suvorexant、和名ベルソムラ)と同じオレキシン1/2受容体拮抗剤で、通常の睡眠薬と異なり、眠気を強化するのではなく過度の覚醒状態を緩和する。55歳以上の患者を組入れた第三相試験では、5mg群と10mg群の主観的睡眠潜時(寝入るまでの時間)がベースライン比で各22分と28分、改善し、偽薬群の11分を統計学的有意に上回った。

安全性確認試験では、服用中止後の不眠症状悪化(リバウンド)や離脱症状は見られなかった。服用の翌朝に自動車を運転させた試験では偽薬群と有意差はなかったが、10mg群の数名で運転能力の低下が見られた由。

覚醒剤規制の対象で、麻薬取締局によるスケジュール指定を経て発売の予定。BelsomraはスケジュールIV(zolpidemなどと同じ)。

Dayvigoは日本でも審査中で、11月に第一部会を通過した。

アルツハイマー病に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害でも開発されている。Belsomraは一足先に米国でアルツハイマー患者の不眠症に適応拡大申請中。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文、pdf)

第一三共、抗her2抗体薬物複合体が米国で承認
(2019年12月20日発表)

FDAは第一三共のENHERTU(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を加速承認した。her2に結合する抗体と、irinotecan系の抗癌剤をリンカーで結合した抗体薬物複合体で、切除不能/転移性her2陽性乳癌で転移後に二回以上の抗her2薬レジメン歴を持つ患者が適応になる。日米欧の施設で行われた臨床試験では、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が60%(うち完全反応4%)、メジアン反応持続期間は14.8ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は57%、有害事象による治験離脱は15%で間質性肺疾患によるものが多かった。

間質性肺疾患の発生率は9%で、被験者の2.6%が間質性肺疾患により死亡した。これと胚胎毒性が枠付警告されている。同じherファミリーの受容体であるEGFRを阻害する薬では欧米人より日本人の間質性肺疾患リスクが高いので、ENHERTUも要注意だろう。

承認申請受理が発表されたのは10月で審査期限は来年4-6月期だったので、かなりの前倒し承認。先に申請された日本より早く承認された。

適応拡大試験も各種進行しており、将来的には、ロシュのKadcyla(ado-trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)の有力な競争相手になりそうだ。

尚、ENHERTUとKadcylaはどちらも抗her2抗体のHerceptin(trastuzumab)と細胞毒を結合したもので、一般名の前半はtrastuzumabだが、FDAは取り違い事故を防ぐために接頭語を付けることを提唱・勧告している。ENHERTUの接尾語のnxkiは将来、バイオシミラーが発売された時に、製品を特定するためにFDAが付与しているもの。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 第一三共とアストラゼネカのプレスリリース(12月23日付、和文)

MSDのエボラワクチンが米国でも承認
(2019年12月19日発表)

FDAは、MSDのErveboをザイール種エボラウイルス疾患のワクチンとして承認した。18歳以上が対象。EUでも先月、承認されている。欧米で発症リスクがあるのは流行地域に渡航・滞在する医療関係者やジャーナリスト、旅行者などに限られるだろうが、欧米で承認されれば、現地政府が承認・採用したり、欧米で助成金や寄付を募る上で追い風になろう。

Erveboは弱毒化生ワクチン。一回、接種する。ギニアで14-16年に流行した時に感染者の接触者及びその接触者3537人を組入れた臨床試験では、即時接種群の2108人はその後10日間に誰も発症しなかったが、21日遅れで接種した1429人では10人が発症した。

MSDは熱帯疾患用薬を開発し承認を取得した会社に対するインセンティブである優先審査バウチャーを獲得した。これを使えば承認申請する時に優先審査指定を受けることができる。転売も可能。

リンク: MSDのプレスリリース

シアトル・ジェネティクス/アステラスのADCが米国で承認
(2019年12月18日発表)

FDAは、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)がアステラス製薬と共同開発したPADCEV(enfortumab vedotin-ejfv)を白金薬及び抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ局所進行性/転移性尿路上皮癌の薬として承認した。

転移性膀胱癌の93%で発現しているネクチン-4に結合する抗体と、細胞毒のMMAE(モノメチルアウリスタチンE)をリンカーで結合した抗体薬物複合体で、第二相試験で4週毎に最大3回投与したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価糖)が44%(完全反応率12%、部分反応率32%)で、メジアン生存期間は7.6ヶ月だった。主なG3以上の有害事象は骨髄抑制や疲労、高血糖、発疹、末梢神経障害、間質性肺疾患など。

シアトル・ジェネティクスは07年にAgensysと抗体薬物複合体の開発で提携し、11年にPADCEVの共同開発販売を決めた。アステラスは同年にAgensysを3.7億ドルで買収した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

イクスタンジが米国で転移性ホルモン感受性前立腺癌に適応拡大
(2019年12月16日発表)

FDAは、ファイザーがアステラス製薬と共同開発販売しているXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の適応拡大を承認した。米国で年38000人程度が診断される転移性ホルモン療法感受性前立腺癌に、アンドロゲン除去療法(ADT)と併用する。ADTと偽薬を併用する群と比較したARCHES試験ではPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザードレシオが0.39、p<0.0001となり、メジアンは未達、対照群は19.4ヶ月だった。G3/4有害事象の発生率は両群同程度だった。また、偽薬ではなく非ステロイド系抗アンドロゲンをADTと併用する群と比較したENZAMET試験ではハザードレシオ0.67、p=0.002となった。日欧でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アステラス製薬のプレスリリース(19日付、和文)





今週は以上です。

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