2019年12月15日

2019年12月15日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、テセントリクとゼルボラフのBRAF-v600変異陽性悪性黒色腫試験が成功 
  • SABCS:DS-8201はカドサイラの次に使う薬として有効 
  • SABCS:マクロジェニクスの抗her2抗体、中間解析で延命効果が見られず 
  • ASH:寒冷凝集素症の第三相が成功 
  • ASH:経口アザシチジンの第三相が成功 
  • ASH:JunoのCAR-Tも承認申請へ 
  • ジェネンテック、ゾレアを鼻ポリープに承認申請 
  • FDA諮問委員会、甲状腺眼症用薬の承認を支持 
  • FDA諮問委員会、心房細動洞調律薬の承認に反対 
  • CHMP、新薬二品の承認などを支持 
  • FDA、アマリンのEPA製剤の適応範囲を拡大 
  • サレプタ、DMDのエクソン53スキップ薬が米国で承認 


【新薬開発】


ロシュ、テセントリクとゼルボラフのBRAF-v600変異陽性悪性黒色腫試験が成功
(2019年12月12日発表)

ロシュは、第三相IMspire150試験が成功したと発表した。braf v600変異を持つ未治療の転移性/切除不能局所進行性黒色腫の欧米における標準的治療レジメンの一つである同社のBRAF阻害剤、Zelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)とMEK阻害剤のCotellic(cobimetinib、本邦未承認)に、更に偽薬またはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を投与してPFS(無進行生存期間、主評価は担当医評価だが副次的評価項目として独立評価委員会の査読を経たデータも解析)を比較したもの。データは学会発表の予定。承認審査機関との相談も計画している。

幾つかの癌種については、癌の増殖を牽引する遺伝子変異をターゲットとする分子標的薬と、抗PD-1/PD-L1抗体から選択することが可能だが、どちらが良いかは簡単には判断できない。反応率は分子標的薬のほうが圧倒的に高いが抵抗性変異を誘導するリスクがあり、反応持続期間は免疫療法のほうが良好だからだ。

そもそも、ロシュやファイザーのように両方の製品を販売している会社には、敢えて直接比較試験を行って雌雄を決する商業的なインセンティブが乏しい。結局、今回のように、ウィンウィンの試験ばかり行われることになる。

BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用がBRAF変異の有無を問わず未治療悪性黒色腫向けに承認されている。braf v600変異型の症例は限られるのだろうが、ロシュのトリプル・セラピーとどちらが効くのか、興味のあるところだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

SABCS:DS-8201はカドサイラの次に使う薬として有効
(2019年12月12日発表)

第一三共とアストラゼネカは、両社で共同開発しているDS-8201(trastuzumab deruxtecan)の承認申請用試験、DESTINY-Breast01の結果をSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で発表した。今年9月に日本で、10月には米国でも行った新薬承認申請の根拠となった試験だ。

her2陽性転移性乳癌でKadcyla(trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)による治療歴を持つ、患者を日米欧の施設で組入れて、5.4mg/kgを3週毎に点滴静注してORR(客観的反応率、独立中央査読)を調べた単群試験。Kadcyla以外のher2標的薬歴はHerceptin(trastuzumab)は全員、Perjeta(pertuzumab)とその他のher2標的薬は夫々過半を占めた。

結果は、ORRは61%(184人中112人)。完全反応が6%で部分反応が55%だった。反応持続期間はメジアン14.8ヶ月と良好。

治療時発現有害事象は57%の患者がG3以上を経験。15%の患者が有害事象で治験を離脱した。原因として多かったのが間質性肺疾患で、独立査読を経て一人がG3~4、4人(2.2%)がG5(死亡)と判定された。

DS-8201はHerceptinの活性成分である抗her2抗体とirinotecan類縁体をリンカーで繋いだ抗体薬物複合体。Kadcylaと似ているが、抗体に対する薬物の比率が倍以上高い。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)

SABCS:マクロジェニクスの抗her2抗体、中間解析で延命効果が見られず
(2019年12月11日発表)

マクロジェニクス(Nasdaq:MGNX)は、MGAH22(margetuximab)の第三相試験の全生存の中間解析結果をSABCSで発表した。2月に発表されたPFS解析のp値があまり低くなかったため注目されたが、メジアン値は2ヶ月足らずの差で有意差は出なかった。

同社は年末までに米国で承認申請する予定。実薬対照であることや一次治療ではなくサルベージ治療であることを考えれば、158F変異型限定で承認される可能性がありそうだ。

この試験は、her2陽性の転移性乳癌でHerceptin(trastuzumab)やPerjeta(pertuzumab)による治療歴を持ち9割はKadcyla(trastuzumab emtansine)歴も持つ536人を、化学療法とmargetuximabを併用する群と化学療法・Herceptin併用群に無作為化割付して、PFS(無進行生存期間、第三者評価)を比較したもの。ハザードレシオは0.76、p=0.033となり、前者は悪くないが、後者は、一本の試験で承認を取るには0.0025未満が欲しいところだ。

全生存期間はメジアン21.6ヶ月と対照群の19.8ヶ月を上回ったがハザードレシオは0.89、p=0.326とどちらも失望的。最終解析は20年後半の見込み。

margetuximabはher2を標的とする抗体で、固定領域を至適化して、抗her2抗体が効きにくいIgG1受容体の158F変異型に対する活性を増強したもの。今回の試験は158F変異型が85%と重点組入れしたが、このサブタイプに対するPFSハザードレシオは0.68、p=0.005と良好な結果が出ている。今回の全生存解析でも、158Vホモ接合型ではHerceptinが上回った。従って、承認されるとしても、158F変異を一つ以上持つ患者に限定されるのではないか。

リンク: マクロジェニクスのプレスリリース

ASH:寒冷凝集素症の第三相が成功
(2019年12月10日発表)

サノフィは、sutimlimabの第三相寒冷凝集素症(CAD)試験の結果をASH(米国血液学会)で発表した。反応率が高く、オンセットも早い。近い将来に米国で承認申請するのを皮切りに、欧州などでも承認申請する計画。欧米だけでなく、日本でも希少疾患用医薬品指定を受けている。

CADは古典的補体経路の異常により免疫が赤血球を攻撃する慢性自己免疫性溶血疾患。有病率は100万人当たり16人程度、日米欧で12000人程度が罹患と推測されている。

sutimlimabはC1セリンプロテアーゼを標的とする抗体医薬。サノフィが18年に116億ドルで買収したBioverativeが、その前年にオリジネイターのTrue North Therapeuticsを4億ドルで買収して入手したコンパウンドだ。

第三相は単群試験で、24人の患者(平均年齢71歳)に体重に応じて6.5gまたは7.5gを点滴静注した。最初の2回は隔週、その後は2週毎に、26週間に亘って投与した。主評価項目である反応率(複合評価)は54%だった。構成項目を見ると、ヘモグロビン回復(ベースライン比2g/dL以上の増加または12g/dL以上に改善)の達成率は62.5%、第5週以降輸血不要は71%だった。

ヘモグロビンの増加や、CADのもう一つの主訴である疲労の評価スコアの改善は第1週から見られた。

治療時発現有害事象は29%で見られたが、担当医は薬と関連するとは判定しなかった。

リンク: サノフィのプレスリリース

ASH:経口アザシチジンの第三相が成功
(2019年12月10日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブは、CC-486の第三相試験の結果をASHで発表した。急性骨髄性白血病の新患で集中化学療法に完全反応またはCRi(血球回復不十分な以外は完全反応)の患者の地固め療法として、偽薬または300mgを一日一回、14日オン、14日オフのスケジュールで投与したところ、メジアン生存期間が各14.8ヶ月と24.7ヶ月、ハザードレシオは0.69で統計的に有意だった。

有害事象による治験離脱発生率は各4%と13%。G3以上有害事象は骨髄抑制とその合併症である貧血症、感染症など。

20年上期に承認申請する計画。

CC-486は同社の皮注・静注用薬、Vidaza(azacitidine)の活性成分を経口投与できるようにしたもの。アップジョン社がazacitidineを米国で承認申請したのが82年、セルジーンが承認を取得したのは04年なので先代は長い開発市販歴を持っている。Vidazaは地固め療法には承認されていないので、GE薬とCC-486が競合する可能性は低そうだ。

今年11月に740億ドル相当で買収したセルジーンのパイプライン。代価には、開発品3品の全てが所定の地域で所定の日までに承認された場合に支払われる偶発的価値権(CVR)が含まれるが、CC-486はこの3品に含まれていない。

リンク: BMSのプレスリリース

ASH:JunoのCAR-Tも承認申請へ
(2019年12月7日発表)

BMSは、lisocabtagene maraleucelの第一相リンパ腫試験の結果をASHで発表するとともに、年内に米国で承認申請を完了する予定であることを明らかにした。

CAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)の御三家の開発品は、ペンシルバニア大学の開発品がノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel)として発売、Kite Pharma品はギリアドによる買収を経てYescarta(axicabtagene ciloleucel)として発売された。最後のJuno TherapeuticsのJCAR017もセルジーンそしてBMSによる買収を経て、実用化に前進することになる。

この第一相試験は再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の342人を組入れて、反応率を評価した。十分な量の薬を培養できなかったのが二人、不適合24人、死亡33人を除外して、268人に投与した。薬効評価対象255人の総合反応率は73%、反応持続期間はメジアン13.3ヶ月、完全反応率は53%と、競合薬に匹敵する効果を示した。

CAR-Tはサイトカイン放出症候群や神経毒性が難だが、lisocabtagene maraleucelは発現率が低いように感じられる。治療関連有害事象による死亡は4例だった。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


Kite、製法改良CAR-Tを米国申請
(2019年12月11日発表)

ギリアド・サイエンシズの子会社であるKite Pharmaは、KTE-X19をFDAに承認申請した。成人の再発難治マントル細胞リンパ腫に用いることを想定している。

KiteはCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)と呼ばれる新しいタイプの細胞療法に強みを持ち、2017年に第一号のYescarta(axicabtagene ciloleucel)が自家幹細胞移植不適の再発難治アグレッシブ非ホジキン型リンパ腫用薬として米国で承認された。

KTE-X19はYescartaの生産工程を変えて、T細胞選択とリンパ球増強を導入した。B細胞のCD19に結合する抗体とCD3ゼータ、CD28などを結合したものであることには変わりない。

今年のASH(米国血液学会)で発表された第二相試験では、BTK阻害剤に加えて平均二種類のレジメンによる治療歴を持つ60人に一回投与したところ、ORR(総合反応率、独立放射線学的評価委員会方式)が93%、完全反応だけでも67%と良好な成果を上げた。CAR-Tの特徴的な副作用であるサイトカイン放出症候群はG3以上のものが15%の患者で発生。神経学的イベントもG3以上が31%で発生した。どちらも致死例はなかった。

EUでも20年初めに承認申請の計画。

リンク: Kiteのプレスリリース

ジェネンテック、ゾレアを鼻ポリープに承認申請
(2019年12月10日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Xolair(omalizuma、和名ゾレア)を鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎の治療に用いる適応拡大申請を行い、受理されたと発表した。18歳以上の、点鼻ステロイドで十分に改善しない患者に用いる。審査期限は20年第3四半期とのことなので、優先審査にはならなかったわけだ。

Xolairはアレルギー反応に係るIgEに結合する抗体医薬。03年に米国で重度喘息症治療薬として初承認され、その後、難治性特発性蕁麻疹や日本では季節性アレルギー性鼻炎に適応拡大し、昨年、食物アレルギーでFDAにブレークスルー・セラピー指定された。

鼻ポリープによる慢性副鼻腔炎は、鼻の粘膜が成長して鼻の通りが悪くなる。今年6月にDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)が米国で、10月にはEUでも、適応拡大し、日本でも承認審査中。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、甲状腺眼症用薬の承認を支持
(2019年12月13日)

Horizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)は甲状腺眼症治療薬HZN-001(teprotumumab)を7月に米国で承認申請した。FDAは皮膚科眼科薬諮問委員会に上程されたが、全員一致で承認が支持された。優先審査を受けており、審査期限は来年3月8日と余裕があるので、前倒し承認もありそうだ。

teprotumumabはロシュがジェンマブ社と共同開発したIGF-1(インスリン様成長因子1)受容体を標的とする抗体医薬。難治性肉腫で第二相入りしたが、09年に開発中止。導出先を17年にHorizonが買収した。

甲状腺眼症は米国で年15000~20000人が罹患する希少疾患。活性期にはIGF-1受容体が過剰発現する。第三相では83人を組入れて偽薬または20mg/kg(初回は半量)を三週毎に点滴静注したところ、奏効率(眼球突出が改善し、もう片方の目は悪化しない)が83%と偽薬群の10%を大きく上回った。

リンク: Horizonのプレスリリース

FDA諮問委員会、心房細動洞調律薬の承認に反対
(2019年12月10日発表)

FDAは心血管腎臓薬諮問委員会を招集し、カナダのCorrevio Pharma(Nasdaq:CORV)が心房細動の迅速洞調律薬として承認申請しているvernakalant hydrochlorideについて意見を聞いた。賛成2人、反対11人の圧倒的多数が承認に反対した。審査期限は12月24日。諮問委員会から審査期限まで間がない場合は、しばしば、審査期間延長になるが、この薬はアステラス製薬が承認申請してから既に13年経つので、あっさり審査完了になるのではないか。

vernakalantは心房選択的なIKur/INa遮断薬。第三相試験で優れた薬効を示したが、375人中8人で投与後2時間以内に懸念すべき低血圧や不整脈、洞停止が発生と、リスクも高い。9年前に心原性ショックで一人死亡したことを受けてFDAが治験停止を命じた経緯があるが、驚いたことに、今日も解除されていない由だ。

面白いのは、欧州やカナダでは承認されていることだ。今回の申請は海外での市販後医薬品監視データを安全性のエビデンスとする狙いだったが、12年前の諮問委員会では8人中6人が賛成だったのだから、時を経てエビデンスが積み重なるにつれて、懸念が強化されたのだろう。

前述のように、03年に藤沢薬品(現、アステラス製薬)が北米などの権利を取得したが、11年にMSDに譲渡。欧州はMSDが承認を取得したが、現在は提携が切れている。カナダはCipher Pharmaに事業売却した。

臨床試験の実施すら禁止されている薬が承認されるはずもなく、最後の賭けだったのだろう。Correvioは元々はCardiome Pharmaという名前だったが、18年にリストラの一環で株式を13年に子会社化した会社の株式と交換、社名も変わった。諮問委員会を経て、身売りを含む戦略的選択肢の検討を始めた。

リンク: Correvioのプレスリリース(pdfファイル)

CHMP、新薬二品の承認などを支持
(2019年12月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、12月の会合で、新薬二品の承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

この二品は、まず、ノバルティスのBeovu(brolucizumab)。VEGF-Aを標的とするヒト化抗体の短鎖フラグメントで滲出型加齢黄斑変性の治療に用いる。同社がジェネンテックからライセンスして米国外で販売しているLucentis(ranibizumab)は分子量が48キロダルトン、リジェネロン/バイエルのEylea(aflibercept)は115キロダルトンと通常の抗体(150キロダルトン前後)より小さいが、Beovuはさらに小さい26キロダルトンであることが特徴。

月一回のペースで3回、硝子体注射したあと、反応を見ながら、2~3ヶ月に一回に頻度を減らすことができる。第三相では過半が3ヶ月毎に進むことができた。この辺りが最大のセールストークになりそうだ。

一時期、ノバルティスの子会社だったアルコンが09年にESBA Techを買収して入手したコンパウンド。米国では今年10月に承認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

次に、MSDのRecarbrio(imipenem、cilastatin、relebactam)。カルバペネム系抗生物質とデヒドロペプチダーゼ分解酵素阻害剤、そして新開発のベータラクタマーゼ阻害剤であるrelebactamの固定用量合剤。好気性グラム陰性微生物による感染症で、治療薬の選択肢が限られている成人に用いる。6時間毎に30分点滴静注する。

米国では7月に承認された。適応は、感受グラム陰性菌による複雑性尿路感染症または複雑性腹腔内感染症で、治療の選択肢が限られている成人に用いる。

EMAのプレスリリースでは感染部位を限定していないので、米国より適応が広くなるのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、まず、Vyndaqel(tafamidis、61mgカプセル)を野生型/変異型のトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATT-CM)の心血管疾患リスクを抑制する目的で使うことも支持された。現在はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)に承認されている。

尚、日本ではビンダケル(タファミジスメグルミン)が3月に適応拡大承認済み。この当初の規格は20mgを4カプセル、一日一回服用だが、Vyndaqel(tafamidis)は一日一回、一カプセル服用なので、服用やハンドリングがやや楽。

リンク: ファイザーのプレスリリース

残りは抗癌剤。まず、イーライリリーのCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)。EGFR活性化変異のある転移性非小細胞性肺癌の一次治療にTarceva(erlotinib)と併用することが肯定的意見を得た。第三相では偽薬とTarcevaの併用群と比べてPFSハザードレシオが0.59となり、初期のEGFR阻害剤に抵抗性を持つL858R変異にも有効だった。尤も、近年のEGFR阻害剤と比べてどうなのかは不明だ。

次に、ジョンソン・エンド・ジョンソンがジェンマブからライセンスして開発販売しているDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)。多発骨髄腫はこの二十年ほどに続々と新薬が登場したため併用レジメンも多種多様。今回の用法は、ASCT(自家幹細胞移植)を受ける新患の術前療法としてVelcade(bortezomib)、thalidomide、dexamethasoneと四剤併用するもの。臨床試験では厳格完全反応率が29%と三剤だけの群の20%を有意に上回った。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide、和名アーリーダ)の適応に転移性去勢感受性前立腺癌を追加することも支持された。両側精巣摘出後の患者以外はゴナドトロピン放出ホルモンを併用する。米国は9月に承認、日本でも審査中。


【承認】


FDA、アマリンのEPA製剤の適応範囲を拡大
(2019年12月13日発表)

FDAは、アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(icosapent ethyl)の適応範囲を拡大した。7年前の初承認は重度高TG症(トリグリセライド値が500mg/dL以上)だけだったが、150mg/dL以上で心血管疾患の再発・初発リスクを持つ患者に変更した。LDL-C値はスタチンなどでガイドラインに基づく治療法で管理されていることが前提。

アマリンにとっては、7年前、船に引き上げる直前に網から逃げ出した適応を遂に捕獲したことになる。最初にこの背景を説明しておこう。

FDAには特別プロトコル評価(SPA)という制度がある。医薬品の販売承認・承認内容変更を獲得するためには臨床試験で臨床的な効用と安全性を検証しなければならない。だが、FDAの要求を鵜呑みにしていたら予算、人員、時間が膨らむので承認申請者としては最小の努力で最大の利益を得る効率的フロンティアを探る必要がある。そこで、承認申請用試験のプロトコルを検討する段階でFDAと協議し、事前に同意と議事録を取得するのがSPAだ。

このSPAが反故にされた事例がVascepaだ。アマリンはSPAに基づいてTG≧200mg/dLの異脂血症患者のTG値を下げる臨床試験を行い、承認申請したが、諮問委員会が500mg/dL未満の患者に関してはTG値低下が心血管リスク削減につながるというエビデンスは確立していないと断定、FDAがSPAを撤回したのである。

確かに、他のEPA/DHA製剤の心血管アウトカム試験は概ねフェールしており、成功したのはエパデール(EPA製剤)だけ、しかし食生活や肥満度が異なる日本で実施された試験で、初発予防試験であったためか心筋梗塞などの発生率があまり高くなく、そのため、治療効果も相対リスク削減率ならともかくNumber-needed to treatで見るとそれほど大きくなかった。

そこで、アマリンが行ったのが、今回の適応拡大のユニバースを組入れたREDUCE-IT試験だ。結果は、既報の通り、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、冠再開通術、不安定狭心症による入院の複合評価項目)のリスクが鉱油入りの偽薬と比べて25%低下とクリーンヒットになった。

正直、成功するとは思わなかったが、それだけに、アマリンが重度TG血治療薬に甘んじずにキチンとした臨床試験を行った臨床的意義は大きい。早ければ来年にもGE薬が発売される可能性があるが、販促体制を強化するとともに、エパデールの持田製薬から新規高純度EPA製剤をライセンスするなど、証文の出し遅れを回避すべく注力している。

Vascepaが承認されているのは米国だけ。EUではEPA/DHA製剤が承認されており、この点をみても、EPAだけの製剤がいかに軽視されていたかがわかる。しかし、心血管アウトカム試験の成功を受けて、今月、EUでも販売承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アマリンのプレスリリース

サレプタ、DMDのエクソン53スキップ薬が米国で承認
(2019年12月12日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq: SRPT)のVyondys 53(golodirsen)がFDAにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として加速承認された。DMDはジストロフィンの遺伝子変異が関与する症例が多い。タイプは様々だが、Vyondys 53はエクソン53変異など、エクソン53スキップ薬に応答するタイプに用いる。米国患者の8%程度が該当する模様だ。

同社は3年前にExondys 51(eteplirsen)がエクソン51スキップ薬に応答するタイプのDMDに承認された。こちらは13%程度が該当する由。尚、エクソンxxスキップ薬に応答するタイプが適応というのは回文のようで意味不明だが、サレプタはウェブサイトで応答する遺伝子変異型列挙している。調査が進むにつれて増える可能性もあるので、包括的な表現を使っているのだろう。

どちらも核酸系のアンチセンス薬で、変異のあるエクソンの周辺に結合してスプライシングを狂わせる。毒を以て毒を制すような話だが、うまく嵌ると、野生型とはやや異なるがある程度機能するできあがったジストロフィンが作れる。変異エクソンの塩基配列が減少すると、アミノ酸の暗号は連続した塩基3個で一組となるので、減少が3の倍数でない限り、後ろのエクソンにも影響する。この、上手く嵌るのが、標的部位ではないが応答する遺伝子変異だ。

さて、Vyondys 53の承認はややサプライズだった。同社のExondys 51はFDAの審査チームや領域別組織の上役がジストロフィン量というサロゲートマーカーだけでは臨床的便益を判定できないとして加速承認しないことを勧奨した。他社の類似した作用メカニズムの薬で、ジストロフィンは増えたが臨床的評価項目を採用した第三相がフェールしたことがあるからだ。しかし、小分子薬全体のヘッドが他に適切な治療法のない難病であることを考慮し、鶴の一声でゴーサインを出し、当時のFDA長官の支持を経て加速承認に至った。尚、加速承認の場合は市販後に臨床的効能を検討する第三相を成功させなけらばならない。

Vyondys 53はFDA諮問委員会の意見も二分した。EUのCHMPは承認に否定的意見をまとめた。本当に効くのか分からない、それなのに価格は高い(体重次第だが臨床試験データから推定すると年30万ドル)、それでも使いたい、というジレンマの塊のような薬だ。

承認に反対したFDAスタッフのうち数人は、抗議の意か、直後に民間に転じた。私がVyondysの承認を危ぶんだのは、Exondys 51と同様に、ジストロフィン量に基づく加速承認を求めたからだ。FDAに残った人たちがExondysのトラウマにどう影響されるか分からなかったからだ。案の定、一旦は審査完了通知が出た。

今回、サレプタのプレスリリースで分かったのは、VyondysもFDAの一部が反対したという事実だ。但し、審査チームは承認に賛成した。Exondysの承認審査に際してジストロフィン量を算出するにはウエスタン・ブロット法が最良と判定したが、Vyondysは(日本新薬のNS-065も)同法を採用している。

FDAは今年初めに組織変更を行ったため前回とやや異なるが、主として心血管腎臓薬や血液学薬の承認審査を担当するOffice of Drug Evaluation Iが審査完了通知を決定した。サレプタは調停手続きに進み、Office of New Drugのディレクターが受け入れたため再申請、審査担当チームが承認したという経緯だ。一言でいえば、前回は領域別組織が現場も上役も反対したが、今回は上役だけだった。

なぜ反対したのかはサレプタのリリースには記されていない。審査完了通知受領当時のリリースによれば、静注の点滴ポート関連感染症のリスクや、この薬の臨床試験では発生していないが高量投与した前臨床や同社の他の開発品で見られた腎毒性などが指摘された模様だ。これらの懸念はレーベルにも記されているので、特に変わったわけではないだろう。

EUでは今月のCHMPのアジェンダに挙がっていたが、意見は出ていない。

サレプタは、Exondys 51と同程度の価格で販売する予定。希少小児疾患用薬の開発インセンティブである優先審査バウチャーも取得した。Exondysの時はギリアドに1.5億ドルで売却した。

リンク: サレプタのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

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