2019年9月22日

2019年9月22日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、エボラワクチンの承認申請をFDAが受理 
  • JNJ、トレムフィアを感染性関節炎に適応拡大申請 
  • CHMPがゾスパタなどの承認に肯定的意見 
  • 経口投与できるGLP-1作用剤が初承認 
  • JNJ、アーリーダが米国で適応拡大 
  • FDA、キイトルーダとレンビマの併用をスピード承認 
  • カナダ保険省、ラニチジンの出荷停止を要請 


【承認申請】


MSD、エボラワクチンの承認申請をFDAが受理
(2019年9月17日発表)

MSDは、エボラウイルス病の予防用ワクチン、V920をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は2020年3月14日。EUでも3月に承認申請が受理されている。また、WHOでも事前認証審査を受けている。

V920は水疱性口内炎ウイルスにザイール種エボラウイルスの遺伝子を導入し弱毒化したもので、2010年に米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)がカナダ公衆衛生庁から商業化権を取得、14年にMSDに世界独占開発生産販売権をサブライセンスした。

エボラはスーダンとザイール(現コンゴ民主共和国、以下DRC)で1976年に発生して以降、サブサハラ・アフリカ地域で数年おきに流行しており、今回は昨春からDRC中心に大流行、3000人以上が感染し2100人以上が死亡した。14-16年にギニア、リベリア、シエラレオネで28000人以上が感染し11000人以上が死亡したのに次ぐ、史上第2位の被害だ。

DRC政府は、発症者の家族など高リスク者を対象にV920の接種を行ったが、流行地域の政情不安定や住民のワクチンに対する無理解などから順調に進展していない。国境なき医師団の施設が襲撃を受け医療活動の中止を余儀なくされるなど、悲しい事態も生じた。

解決すべき課題は多いが、それでも、ワクチンの実用化は大きな前進だ。MSDはこれまでに24万本超をWHOに寄付・供給し、WHOの要請で流行地域に19万本超を出荷、向こう半年から1年半の期間に更に65万本を出荷する計画。DRC国民に受け入れられなかったとしても、他の国の流行に対応したり、もしもザイール種以外が流行した場合でも対応ワクチンを速やかに開発供給できるかもしれない。

リンク: MSDのプレスリリース

JNJ、トレムフィアを感染性関節炎に適応拡大申請
(2019年9月16日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Tremfya(guselkumab、和名トレムフィア)を成人の活性期乾癬性関節炎の治療に用いる適応拡大申請をFDAに行った。抗IL-23p19サブユニット抗体で、17年に欧米で、18年には日本でも中重度乾癬治療薬として承認された。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがゾスパタなどの承認に肯定的意見
(2019年9月20日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、9月の会合で、アステラス製薬のXospata(gilteritinib、和名ゾスパタ錠)の承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アステラスのXospataはFLT3/AXL阻害剤。再発難治性急性骨髄性白血病の25-30%で見られる、遺伝子内縦列重複変異(ITD)やチロシンキナーゼドメイン変異(TKD)陽性が適応になる。第三相試験ではメジアン生存期間が9.3ヶ月と救援化学療法群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.637、統計的に有意だった。

日本ではさきがけ審査指定を受け昨年9月に承認、米国でも11月に承認された。

リンク: CHMPのプレスリリース

Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)が緑内障・高眼圧症治療薬として承認申請したRhokiinsa(netarsudil)も肯定的意見を得た。米国では17年12月にRhopressa名で承認。

眼房水の排泄などに関与するRhoキナーゼを阻害する、新作用機序を持つ。眼圧引き下げ効果はtimololと同程度だが、一日二回ではなく一回の点眼で足りる。

リンク: CHMPのプレスリリース

新製剤ではアストラゼネカのQtrilmetが肯定的意見を得た。SGLT-2阻害剤のdapagliflozin、DPP-4阻害剤のsaxagliptin、そしてmetforminのトリプルコンビ薬。米国では今年5月にQternmet XR名で承認された。

リンク: CHMPのプレスリリース

適応拡大では、メルクKGaAがファイザーと共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)を根治切除不能/転移性腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。ファイザーのVEGFR阻害剤、Inlyta(axitinib)と併用する。

臨床試験では、メジアンPFS(無進行生存期間、中央査読)が13.8ヶ月とInlyta群の8.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、統計的に有意だった。G3/4肝毒性が9%の患者で発生、どちらかの薬の投与中止が7%で発生した。

リンク: CHMPのプレスリリース

リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発販売している抗IL-4Rアルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)を鼻ポリープを伴う重度慢性副鼻腔炎の治療に用いることも支持された。点鼻ステロイドに追加する。全身性ステロイドや手術を伴う鼻ポリープでは十分な疾病管理ができない患者が適応になる。

米国では今年6月に承認、日本は承認審査中。

DupixentはEUでは中重度アトピー性皮膚炎と、血中好酸球且つ又呼気一酸化窒素の上昇を示す二型炎症の重度喘息症のステップアップ療法に承認されている。

リンク: CHMPのプレスリリース

ロシュの抗VEGF抗体フラグメント、Lucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)をPDR(増殖性糖尿病性網膜症)の治療に用いることも支持された。

これまでにEUで承認された用途は、成人のwAMD(滲出型加齢性黄斑変性)の治療と、CNV(脈絡膜新生血管)、DME(糖尿病性黄斑浮腫)、またはRVO(網膜静脈閉塞)の二次性黄斑浮腫による視力障害の治療。更に、未熟児網膜症の一部に用いることも承認されている。

リンク: CHMPのプレスリリース

サノフィのTaxotere(docetaxel)を転移性ホルモン感受性前立腺癌に用いることも支持された。ADT(アンドロゲン枯渇療法)と併用する。更にprednisone/prednisoloneを追加することも可。

リンク: CHMPのプレスリリース

イーライリリーのGLP-1作用剤、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)は心血管アウトカム試験(REWIND)で二型糖尿病高リスク患者の心血管イベントを12%削減する効果を示した。CHMPはこの試験データを添付文書に記載するレーベル変更に肯定的意見をまとめた。効能を認めたのかどうかはレーベルが未公表であるため不明。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認】


経口投与できるGLP-1作用剤が初承認
(2019年9月20日発表)

FDAは、ノボ ノルディスクのRybelsus(semaglutide)を二型糖尿病の治療薬として承認した。同社の長期作用性GLP-1作用剤、Ozempic(和名オゼンピック)を経口剤化したもの。

GLP-1作用剤は血糖値や体重を引き下げる効果を持つが、これまでの製品は皮注用だった。ノボはEmisphere Technologies社のEligen技術を応用、サルカプロザートナトリウムをキャリアにすることによって胃における受動的細胞内移動により吸収されるようにした。

吸収を妨げないために、一日の最初の飲食や経口剤服用の30分以上前に服用することが必要。3mgで開始、30日間続けてから7mgに増量、更に30日間続けた後に必要なら14mgに増量可。

Ozempic(0.5mgを週一回、皮注)からスイッチする場合は最終投与後7日以内に7mgまたは14mgで開始する。Ozempicは1mgも承認されているが、経口剤には同等の用量はないとのこと。

臨床試験では偽薬だけでなく実薬と比べても高い血糖値・体重引き下げ効果を示した。心血管疾患予防効果については未だ承認審査中(ノボは優先審査バウチャを購入してFDAに優先審査を求めたが、この効能に関しては認められず標準審査となった)。

同社のVictozaやOzempicと同様、齧歯類の癌原性試験で甲状腺C細胞腫が増加したことが枠付警告された。人間におけるリスクは明確ではないが、甲状腺髄様腫の既往や家族歴を持つ人、及び、甲状腺髄様腫のリスクが高い多発性内分泌腫瘍症候群2型は使わないよう勧告した。警告は膵炎、糖尿病性網膜症、低血糖、急性腎障害、過敏反応などで、既知のもの。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

JNJ、アーリーダが米国で適応拡大
(2019年9月17日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide、和名アーリーダ)を転移性去勢感受性前立腺癌に用いる適応拡大を承認した。Real-Time Oncology Reviewパイロット・プログラムの対象となり、申請から承認まで5ヶ月と早かった。

両側精巣摘出患者以外はゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)薬と併用する。TITAN試験では、Erlead・GnRH薬併用群の全生存期間のハザードレシオが偽薬・GnRA薬併用群比で0.67、p=0.0053だった。両群ともメジアン生存期間は未達。24ヶ月生存率は各82.4%と73.5%だった。

Erleadaはアンドロゲン伝達阻害剤で、ファイザー/アステラス製薬のXtandi(enzalutamide)を創製した研究者がフォローオンとして開発し、会社ごとJNJに売却した。18年に米国で、19年に日欧で、非転移性去勢抵抗性前立腺癌に承認された。

期待の適応拡大だが、Xtandi陣営も同じ適応症でFDAに承認申請、審査期限は今年第4四半期とのことなので、Erleadaが需要を享受できる期間は限られる。当初の期待と異なり薬効は大差ないように見えるので、敢えて適応症の少ない新薬を使う理由はない。忍容性はErleadaのほうが良好のように見えるので、それをどれだけアピールできるかが鍵だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

FDA、キイトルーダとレンビマの併用をスピード承認
(2019年9月17日発表)

FDAは、エーザイがMSDと共同開発販売しているVEGFR阻害剤、Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)とMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を子宮内膜種に用いる適応拡大を加速承認した。全身的療法後に進行した、根治的手術/放射線療法不適の、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)やdMMR(ミスマッチ修復機構欠損)を有さない、進行子宮内膜種が適応になる。

KEYNOTE-146試験では、独立放射線学的評価委員会の判定に基づくORR(客観的反応率)が38.3%だった。10例が完全反応、26例は部分反応だった。

FDAは、Project Orbisイニシアティブの下、オーストラリアやカナダの承認審査機関と連携して同時申請・承認審査を進めた(オーストラリアも翌日付で承認を発表した)。また、Real-Time Oncology Reviewパイロット・プログラムの対象とした。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: オーストラリアTGA(医療製品管理局)のプレスリリース(9/18付)
リンク: エーザイのプレスリリース(9/18付、和文)


【医薬品の安全性】


カナダ保険省、ラニチジンの出荷停止を要請
(2019年9月17日発表)

FDAとEMA(欧州薬品庁)は、9月13日、Zantacという商標名で販売されている処方薬・OTC薬を含むranitidine製品に微量のNDMA(N-nitrosodimethylamine)が見つかったことを公表した。NDMAは発癌性が疑われており、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗剤)の一部のGE薬から検出されリコールに至ったことは記憶に新しい。

ranitidineの混入量は食品や水に含まれる程度の微量なので危害は小さく服用を続けても大丈夫とのことだったが、今週、新たな動きがあった。サンドがGE品のグローバル市場でのリコールを決めたのだ。

また、カナダ保健省は、全ranitidine製品に混入が認められたとして、国内での出荷を停止するようメーカーに要請した。

欧米と対応が異なる理由は明確ではない。カナダはリコールまでは要求しておらず、シロともクロとも付かないオフホワイト・ゾーンでの決断の『揺らぎ』が偶々異なった方向に振れただけかもしれない。何れにせよ、一般的に厳格な対応を取るFDAよりも更に慎重な企業や国が現れたことは、この問題の行方が楽観を許さないことを暗示している。

NDMA混入を早くから指摘していたのがValisure社だ。米国の38州で免許を持つオンライン・ファーマシーで、ISO 17025認定のアナリティカル・ラボラトリーで自ら品質検査を行い、検証した製品だけを検査費用を上乗せせず販売することを旨としている。同社によると、ranitidineは安定性が不十分でNDMAが経時的に増加する由であり、FDAのように工場で生産されたばかりの製品を検査するだけでは足りない。

今後、承認審査機関や製薬会社は、Valisure社の主張の妥当性も含めて、NDMA問題の評価を進めていくことになる。

リンク: ヘルスカナダのプレスリリース
リンク: Valisure社のプレスリリース
リンク: Valisure社がFDAに提出した市民請願(19年9月9日付、pdfファイル)
リンク: 再掲、FDAのプレスリリース(9/13付)




今週は以上です。

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