2018年11月18日

2018年11月18日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダ、食道癌の二次治療試験成功 
  • イミフィンジ、肺癌一次治療試験はやっぱりフェール 
  • イーライリリー、片頭痛治療薬を承認申請 
  • MSD、エボラワクチンを承認申請 
  • アストラゼネカ、リムパーザの卵巣癌維持療法を承認申請 
  • ロシュ、テセントリクをトリプルネガティブ乳癌に適応拡大申請 
  • CHMPがJNJの前立腺癌用薬などの承認を支持 
  • FDA、アドセトリスの適応拡大を2週間足らずで承認 
  • FDA、旅行者の下痢の治療薬を承認 
  • EMA、キノロン系抗生剤の規制強化を決定 


【新薬開発】


キイトルーダ、食道癌の二次治療試験成功
(2018年11月14日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)の第三相食道癌二次治療試験、KEYNOTE-181試験が成功したと発表した。末期/転移性食道・胃食道接合部腫瘍の患者をKeytruda群または化学療法群に無作為化割付して、PL-L1高発現(CPS≧10)サブグループの全生存期間を比較したところ、Keytruda群が有意に上回った。次に、扁平上皮種サブグループやIntent-to-treatベースの解析も行ったところ、方向は好ましかったが有意な差はなかった。詳細は学会発表の予定。

MSDは適応拡大申請する考え。Keytrudaは化学療法併用で食道癌一次治療試験も進行中。

リンク: MSDのプレスリリース

イミフィンジ、肺癌一次治療試験はやっぱりフェール
(2018年11月16日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)の非小細胞性肺癌一次治療試験の全生存解析がフェールしたと発表した。モノセラピーも、抗CTLA-4抗体CP-675,206(tremelimumab)併用群も、標準療法群を有意に上回ることができなかった。

このMYSTIC試験のデザインは期中に幾度が変更された。元々の主評価項目はPFS(無進行生存期間)だったが全生存期間を共同主評価項目とした。BMSのOpdivoの類似試験がフェールした後にモノセラピー群の割付数を増やし、PD-L1発現25%以上のサブグループの解析も行うことにした。

昨年7月、最初に結果が出た併用群のPFS解析がフェールしたことが発表された。事前に計画されていなかったモノセラピーのPFS解析は、数値自体もフェールだった。そして今回、全生存の解析もフェールした。PD-L1発現25%以上のサブグループでは併用群のハザードレシオ0.85、モノセラピー群は0.76でどちらも有意ではなかった。

モノセラピー群の点推定値は悪くなく、多くの解析を盛り込んだためアルファが分散されてハードルが高くなったことが敗因の可能性がありそうだ。様々な抗PD-1/PD-L1抗体の治験成績は必ずしも一致しておらず特に非小細胞性肺癌では取りこぼしが目立つが、実際の効能に差異があると考える理由はなく、治験のデザインや偶然によって差が出てしまったのかもしれない。

尚、tremelimumabはファイザーからライセンスしたもの。固定領域がIgG2型でBMSのYerviy(ipilimumab)のIgG1型ではないせいか、メラノーマの試験がフェールしてファイザーは開発中止。今回の試験でも併用群のハザードレシオのほうが数値が悪く、失望的だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


イーライリリー、片頭痛治療薬を承認申請
(2018年11月14日発表)

イーライリリーはlasmiditanを片頭痛発作の治療薬としてFDAに承認申請した。三叉神経パスウェイで発現する5-HT1F受容体に選択的なアゴニストで、ファースト・イン・クラス。選択性が高いためトリプタン系のような血管収縮リスクが小さい。第三相試験では奏効率が偽薬群を10-17%上回った。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

MSD、エボラワクチンを承認申請
(2018年11月13日発表)

MSDはエボラワクチンのrVSV-ZEBOVをFDAに承認申請した。コンゴ民主共和国などでは既に用いられているが、FDAが承認すれば米国の寄付金や助成金で購入・提供したり、承認審査機関を持たない国でも使えるようになったり、アベイラビリティが高まる。

水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一部の遺伝子をザイール種エボラウイルスの一つの遺伝子と置換した弱毒化生ワクチン。カナダ公衆衛生庁(PHAC)が開発、米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)がライセンスし、14年にMSDに世界独占開発生産販売権を供与したもの。

リンク: MSDのプレスリリース

アストラゼネカ、リムパーザの卵巣癌維持療法を承認申請
(2018年11月12日発表)

アストラゼネカはLynparza(olaparib、和名リムパーザ)を卵巣癌の一次治療後維持療法に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は19年第1四半期。

BRCAに有害変異を持つ末期卵巣癌で、白金レジメンによる一次治療に部分/完全反応した患者に300mg錠を一日二回、最長2年間にわたって投与したSOLO1試験では、PFSの偽薬比ハザードレシオが0.30、3年無進行生存率60.4%(偽薬群26.9%)と有意な差があった。最長2年という制限を患者に納得させるのは難しそうだが、終了時点で完全反応の患者は投薬を中止しても再発しなかった由。

LynparzaはPARP阻害剤。MSDと共同開発販売している。

リンク: 両社のプレスリリース

ロシュ、テセントリクをトリプルネガティブ乳癌に適応拡大申請
(2018年11月13日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を切除不能局所進行性転移性トリプルネガティブ(エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、そしてher2の何れも陰性)乳癌の一次治療薬として承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は来年3月12日。

Abraxane(nab-paclitaxel)と併用する。因みに、ロシュが通常のpaclitaxelではなくAbraxaneを様々な試験で用いているのは、溶剤による過敏反応リスクが小さいため、ステロイドによるプリトリートに伴う免疫抑制を回避できることが理由のようだ。

承認申請の根拠となったIMpassion130試験では、PFSがメジアン7.5ヶ月とAbraxaneだけの群の5.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62、95%信頼区間は0.49-0.78だった。PD-L1陽性サブグループの解析でもハザードレシオ0.62だった。

延命効果の解析は未だ中間段階でハザードレシオ0.84、p=0.0840と有意ではなかった。PD-L1陽性サブグループでは0.62、95%信頼区間0.45-0.86と良好な数字が出たが、これらはシーケンシャル解析なのでIntent-to-treatの解析がフェールした段階でその後の解析は仮説検証ではなく探索的な解析に留まる由。全生存の最終解析結果を待つ必要がある。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがJNJの前立腺癌用薬などの承認を支持
(2018年11月16日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、11月の会合で、ジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Erleada(apalutamide)はアンドロゲン伝達阻害剤。Xtandi(enzalutamide)を創製した医学者が第二世代として開発したもの。対象は、去勢抵抗性前立腺癌で、まだ転移は見られず症状も悪化していないがPSA値が急上昇し始めた、高リスク患者。臨床試験では無転移生存のメジアン値が40.5ヶ月と偽薬群の16.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.28、統計的に有意だった。全生存期間は中間解析だったがハザードレシオ0.45、pは0.0001を下回った。

米国では昨年10月に承認。日本では今年3月に承認申請された。米国承認段階では上記適応を持つ薬は初めてだったが、Xtandiも直ぐ追いついた。しばらくは適応拡大競争が続きそうだが、どこかの時点で薬効の優越性を示すことができない限り、後発の不利がありそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

サノフィが承認申請したFexinidazole Winthropはガンビアトリパノソーマという寄生虫によるアフリカ睡眠病の治療薬。サブサハラ・アフリカで集中的に発生する風土病。fexinidazoleはヘキストが1970年代に創製したが80年代に開発中止となった。21世紀に入ってDNDi(顧みられない病気のための新薬イニシアティブ)が病原虫に対する活性を発見、ヘキストの事業を受け継ぐサノフィと09年から共同開発した。

錠剤なので医療インフラが不十分な地域でも使いやすく、血液脳関門を通過して神経障害を起こす寄生虫にも効果がある経口剤は初めて。

リンク: サノフィのプレスリリース(pdf)

適応拡大で印象的なのは、一度は否定的意見を受けたが復活し今回、肯定的意見を獲得した二剤。まず、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用で中高度リスク末期腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。CHMPは当初、Yervoyの必要性が確立していないことに懸念を示したが、専門医の意見や他の癌の併用成績に基づき、便益が危険を上回ると判断した。

米国では今年4月、日本でも8月に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: BMSのプレスリリース

次に、アムジェンのBlincyto(blinatumomab、和名ビーリンサイト)。フィラデルフィア染色体陰性、CD19陽性の前駆B急性リンパ性白血病で一回目または二度目の完全寛解を達成したが少しだけ癌が残る(MRD:minimal residual disease)患者の治療に用いる適応拡大が一転して支持された。

癌が残るなら完全寛解ではないのではないかと突っ込みたくなるが、アムジェンのプレスリリースによると完全寛解とMRDは判定方法が異なるようだ。前者は顕微鏡検査で癌細胞の比率が20分の1未満だと検出できない可能性がある。後者は高感度検査に基づく判定で1万分の1でも検出できる。結局、完全寛解ではないことになる。

CHMPは当初、MRDを治療する臨床的な効用が確立していないことを危惧したが、専門医の意見や、MRDは再発リスクが高いにもかかわらず治療手段がないこと、BlincytoのMRD奏効率が高いこと、臨床試験の長期フォローアップ結果が出れば延命効果など臨床的な便益を確認することができることなどから、肯定的意見に転じた。

治療の意義は米国でもFDA諮問委員会の意見が賛成8人、反対4人と別れたが、FDAは3月に承認した。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: アムジェンのプレスリリース

一方、ロシュがTecentriq(atezolizumab)の適応拡大申請を10月に撤回していたことが公表された。Avastin併用でPD-L1発現1%以上の局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療に用いるというもの。IMotion151試験に基づく申請だが、ロシュの撤回通知を読むかぎりでは、宿題になっていた全生存などの解析が意外な結果だったのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: ロシュの申請撤回通知(pdf)

【承認】


FDA、アドセトリスの適応拡大を2週間足らずで承認、
(2018年11月16日発表)

FDAは、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を全身性未分化大細胞リンパ腫などのCD30陽性末梢T細胞リンパ腫の一次治療に用いる適応拡大を承認した。

ECHELON-2試験では、伝統的な標準療法であるCHOPレジメン(cyclophosphamide、doxorubicin、vincristine、prednisone)のvincristineをAdcetrisに代えたレジメンをCHOPレジメン群と比較したところ、PFS(担当医評価)のハザードレシオが0.71(p=0.011)、全生存は0.66(p=0.0244)と良好な結果だった。

驚かされるのは承認の早さだ。同社が承認申請を発表したのは今月5日、ブレークスルー・セラピー指定を受けたと発表したのは15日なので、光速承認といえる。7月に導入されたばかりのリアルタイム腫瘍学審査パイロット・プログラム(Real-Time Oncology Review Pilot Program)の寄与の模様だ。FDAが承認申請前にデータの大枠をチェックすることでその後の審査をスムーズに進めるというもの。Adcetrisは4例目とのことだ。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース
リンク: ブレイクスルー・セラピー指定時のプレスリリース(11/15付)
リンク: 承認申請時のプレスリリース(11/5付)

FDA、旅行者の下痢の治療薬を承認
(2018年11月16日発表)

FDAは、Cosmo Pharmaceuticals N.V.(SIX:COPN)の子会社が申請したAemcolo(rifamycin)を旅行者の下痢の治療薬として承認した。非侵襲性大腸菌を原因とする、発熱や血便を伴わない患者に、3-4日間経口投与する。広域半合成非吸収性抗生剤で、MMX技術を用いて胃や小腸での吸収・作用を抑制、大腸局所的に作用させる。

感染症治療薬の開発インセンティブであるQIDP指定されており、優先審査バウチャを獲得する。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、キノロン系抗生剤の規制強化を決定
(2018年11月16日発表)

EMAはキノロン系抗生剤の一部の承認を停止し、残りの製品も適応を制限すると発表した。承認停止はcinoxacin、flumequine、nalidixic acid、pipemidic acid。フルオロキノロンの適応停止は、自然治癒が見込まれるあるいは深刻でない感染症、非細菌性感染症、旅行者の下痢や下部尿路感染症の予防、軽中度細菌感染症(他の広く推奨されている抗菌剤が使えない場合を除く)。

規制強化の理由は、深刻且つ長期間続く不可逆的な副作用を伴うことが判明したため。腱炎、腱断裂、関節炎などである。フルオロキノロンによる深刻な副作用を経験した患者は使用を避けるべき。高齢や腎疾患、臓器移植、コルチコステロイドの同時使用も、腱傷害のリスクを高めるので、使用を避けるべき。

リンク: EMAのプレスリリース







今週は以上です。

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