2018年11月11日

2018年11月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AHA:EPAの心血管アウトカム試験の詳細が明らかに
  • トルリシティが心血管リスクを抑制 
  • アヴェオ、VEGFR阻害剤の腎細胞腫三次治療試験が成功 
  • 第一三共、FLT3阻害剤をEUでも承認申請 
  • SGEN、アドセトリスを適応拡大申請 
  • テラバンス、ネブライザ用LAMAが承認 
  • MSD、キイトルーダが肝細胞腫に承認 
  • BMS、エムプリシティが適応拡大 


【新薬開発】


AHA:EPAの心血管アウトカム試験の詳細が明らかに
(2018年11月10日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(icosapent ethyl)の心血管アウトカム試験、REDUCE-IT試験の詳細がAHA米国心臓協会科学部会とNew England Journal誌で発表された。リスクを25%削減、NNT(number-needed-to-treat)は102人/年という高い治療成果をを示した。

持田製薬のエパデールも日本の心血管アウトカム試験が成功しており、一方、EPA・DHA混合体の近年の同様な試験は一つも成功していない。結局、EPAだけを高量摂取することが重要なのだろう。

REDUCE-IT試験は、心血管疾患既往または糖尿病などのリスク因子を持ち、LDL-Cはスタチンで41-100 mg/dLにコントロールできているが空腹時トリグリセライド(TG)は135-499 mg/dLの患者8179人を、Vascepaを2gずつ一日二回服用する群と偽薬(ミネラルオイルが入っていた)群に無作為化割付して、心血管イベントの発生状況をメジアン4.9年間追跡した。主評価項目は心血管死、心筋梗塞、脳卒中、冠再血行術、不安定狭心症の複合評価項目。

結果は、Vascepa群の発生率が17.2%であったのに対して偽薬群は22.0%、ハザードレシオは0.75(95%CI:0.68-0.83)だった。二次的評価項目の三点MACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)も各11.2%、14.8%、HR0.74(0.65-0.83)と良好な結果になった。一方、有害事象では心房細動による入院(3.2%対2.1%)や深刻出血イベント(2.7%対2.1%)が増加した。

さて、学会発表も査読誌掲載も活発な意見交換の呼び水になる。REDUCE-IT試験にも慎重な意見が出た。ミネラルオイルが足を引っ張って、偽薬ではなく悪薬と比較する結果になってしまったのではないかという懸念だ。Vascepa群のLDL-Cは1年でメジアン3%上昇したが、偽薬群は10%も上昇したからである。ミネラルオイル自体の影響、あるいは、スタチンの作用を阻害したのかもしれない。

尤も、過去のアウトカム試験で見られたLDL-C低下幅とリスク削減効果の相関性を考えれば、7%程度の群間差では心血管リスクを25%も削減することはできないだろう。多少オーバーステートされているとしても、リアルと受け止めるべきではないか。

Vascepaは米国で2012年に承認されたが、適応は重度高TG血症(空腹時TGトリグリセライドが500 mg/dL以上)だけだった。その後、スタチンを服用してもTGが200~499 mg/dLの混合異脂血症にアドオンする適応拡大を申請したが、このユニバースにおける効用は確立していないため、REDUCE-IT試験が成功するまでお預けとなった。アマリンは19年初めに適応拡大申請する考え。

Vascepaは2030年までの特許があるがGE薬メーカーの特許挑戦を受けている。そのせいか、持田製薬から新規EPA製剤の導入を決めた。

リンク: アマリンのプレスリリース
リンク: Bhattらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

トルリシティが心血管リスクを抑制
(2018年11月5日発表)

イーライリリーは、GLP-1作用剤Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)の心血管アウトカム(CVO)試験、REWINDが成功し、リスクを偽薬比有意に抑制したと発表した。データは来年のADA米国糖尿病学会で発表される見込み。

REWIND試験は、二型糖尿病で心血管疾患(CVD)の既往またはリスク因子を持つ9901人をTrulicity群と偽薬群に無作為化割付して再発・初発リスクを比較したもの。主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合評価項目。解析計画は、偽薬群の発生率が年2%、試験薬群のハザードレシオは0.82、9600人を6.5年追跡して検出力90%。

ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤のVictoza(liraglutide)とOzempic(semaglutide)、そしてベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤のJardiance(empagliflozin)もCVD抑制効果を示している。本試験は初発予防が69%と他の試験と比べて多く、その分、長期間追跡しており、再発初発予防の必要性が高い二型糖尿病患者に適した薬のエビデンスが更に充実したことになる。

血糖治療薬の開発会社がCVO試験を行うようになったのはFDAや諮問委員会の要求によるもの。糖尿病患者はCVDで死亡する人が多いため、治療薬がリスクを高めないことを確認することが当初の目的だった。ところが、結果は意外の連続だった。それまでの試験ではインスリンもSU剤もmetforminも有意に抑制できなかったが、複数の製品が増やさないだけでなく減らすことに成功したのだ。

また、一部の薬では心不全や下肢切断が増加した。一方で、動物の毒性試験で浮上した懸念の幾つかについては、ある程度安心できる結果になった。糖尿病患者も人口全体と同様に癌で死亡する人が多い。癌のリスクを高めないことを確認するためには、CVO試験では足りずもっと多くの患者を長期間追跡する必要があるが、やらないよりはやった方がはるかに良い。検出力を高めた結果、ノイズを拾うリスクが高まってしまったが、これまでの成果を見て、FDAや諮問委員会の判断が正しかったと認めない医療従事者や患者はいないだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

アヴェオ、VEGFR阻害剤の腎細胞腫三次治療試験が成功
(2018年11月5日発表)

アヴェオ・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:AVEO)は、Fotivda(tivozanib)の高度難治性末期・転移腎細胞腫試験が成功したと発表した。主評価項目のPFS(無進行生存期間)がメジアン5.6ヶ月とNexavar(sorafenib)を投与した群の3.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.74、p=0.02だった。全生存の解析は未成熟だがハザードレシオ1.06。来年8月頃に行われる最終解析で正しい方向に転換するか、注目される。

FotivdaはEUでは17年に腎細胞腫の一次治療とVEGFR阻害剤歴を持たない患者の二次治療用途で承認されたが、米国は、PFSではsorafenibを有意に上回ったものの全生存ハザードレシオが1.245、p=0.105と、有意ではないものの悪い方向であったため、諮問委員会もFDAも支持しなかった。アヴェオは今回の試験のデータで一次治療から三次治療までの承認申請を行う考え。過去の経緯を考えると、もし全生存ハザードレシオの最終解析が1.06のままだったら、承認されるかどうか微妙だろう。

FotivdaはVEGFRの1、2、3とc-KIT、PDGFRなどを阻害する小分子薬。07年にキリンからアジア以外での権利を取得したもの。11年にアステラス製薬が共同開発販売権を取得したが、14年に返還。欧州ではEUSA Pharmaが販売している。

リンク: アヴェオのプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


第一三共、FLT3阻害剤をEUでも承認申請
(2018年11月6日発表)

第一三共は、quizartinibを再発難治性AML(急性骨髄性白血病)用薬としてEUで承認申請した。経口FLT3チロシンキナーゼ阻害剤でAMLの3割程度を占めるFLT3-ITD(遺伝子内縦列重複)変異を持つ患者が対象になる。日本では10月に申請された。米国でもローリング承認申請中。第三相試験ではメジアン生存期間6.2ヶ月と化学療法群(cytarabineなどを使用)の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、統計的に有意な差があった。有害事象ではQT延長が見られた。

米国のAmbit Biosciencesが創製し09年にアステラス製薬が共同開発商業化権を取得も13年に戦略上の理由で返還。その翌年、同社を第一三共が3.15億ドル及び後発債務0.95億ドルで買収した。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)

SGEN、アドセトリスを適応拡大申請
(2018年11月5日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)をCD30陽性末梢T細胞リンパ腫のフロントライン治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。
臨床試験では、代表的な一次治療法であるCHOPレジメンのうちvincristineをAdcetrisに代えたレジメンをCHOPと比較したところ、担当医評価PFSのハザードレシオが0.71、p=0.011、二次的評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.66、p=0.0244となった。

Adcetrisは抗CD30抗体と細胞毒を結合したADC。ホジキン型リンパ腫などに承認されている。北米以外では武田薬品が開発販売。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース


【承認】


テラバンス、ネブライザ用LAMAが承認
(2018年11月9日発表)

テラバンス・バイオファーマ(Nasdaq:TBPH)とマイラン(Nasdaq:MYL)は、FDAがYupelri(revefenacin)をCOPDの維持療法として承認したと発表した。一日一回で足りるネブライザ用気管支拡張剤はCOPDでは初めて。

同社はグラクソ・スミスクラインとCOPD/喘息症用薬で広範な共同研究開発提携を結んでおり、revefenacinも一旦はGSKがライセンスしたが、ドライパウダー・インヘイラーに適さないことなどから返還。そこで、吸入用ジェネリック薬の開発で実績のあるマイランと手を結び、17年11月に承認申請したもの。マイランが販売する。COPD患者の9%はネブライザを好むとのことであり、長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)を必要とする患者には貴重な選択肢になる。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、キイトルーダが肝細胞腫に承認
(2018年11月9日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を肝細胞腫の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。一次治療薬として承認されているNexavar(sorafenib)歴を持つ患者が適応になる。加速承認の根拠となった第二相試験ではORR(客観的反応率)が17%、うち完全反応率は1%だった。深刻有害事象の発生率は15%。治療成績は、昨年5月に同様な適応拡大が承認された、BMSのOpdivo(nivolumab)と同様だ。

リンク: MSDのプレスリリース

BMS、エムプリシティが適応拡大
(2018年11月6日発表)

BMSは、Empliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)を多発骨髄腫の三次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。セルジーンのPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと併用する。

Revlimid(lenalidomide)やプロテアソーム阻害剤による治療歴を持つ患者を組入れた第二相試験ではPFSが10.3ヶ月とPomalyst・dexamethasoneのPdレジメン群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54、統計的に有意だった。

EmplicitiはSLAM7(CS1糖タンパク)を標的とするヒト化抗体で、プロテイン・デザイン・ラボ(PDL)が創製、08年にBMSにライセンスした。PDLはその後、アッヴィに買収された。

リンク: BMSのプレスリリース








今週は以上です。

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