2018年9月30日

2018年9月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • EPAの心血管アウトカム試験が海外でも成功 
  • WCLC:テセントリクの肺癌試験二本のデータが発表 
  • WCLC:武田のALK阻害剤も一次治療でザーコリに勝つ 
  • 抗PD-1抗体がまた承認 
  • ファイザー、汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤が米国で承認 
  • PI3Kデルタ/ガンマデュアルインヒビターが米国で承認 
  • リリーの抗CGRP抗体も片頭痛に承認 


【新薬開発】


EPAの心血管アウトカム試験が海外でも成功
(2018年9月24日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)は、Vascepa(icosapent ethyl)の心血管アウトカム試験が成功したと発表した。EPA製剤としては日本のエパデールのJELIS試験に次ぐ成果で、心血管疾患を予防するにはDHAは不要でEPAを多く服用することが重要であることを示唆した。

Vascepaは2017年に米国でトリグリセライド値が著しく高い(500mg/dL以上)混合異脂血症の治療薬として承認された。アマリンは200~499mg/dLで心血管疾患リスク因子を持つ患者も含めるよう求めたが、諮問委員会もFDAもアウトカム試験の裏付けが必要と判定した。その後、アマリンはFDAと数々の点で対立したが、レーベルに記載されていない効能に関する情報を提供する『表現の自由』を司法が認めるなど、アマリンが優勢に推移している。

今回のアウトカム試験もアマリンの主張の正しさが立証された格好だが、何れにせよ、信念に基づく医療ではなくその裏付けとなるエビデンスを獲得したことに意義がある。

このREDUCE-IT試験は、スタチンで心血管疾患の再発・初発予防を行っている患者のうち、LDL-C値は100mg/dL以下(ベースライン時点のメジアンは75mg/dL)だがトリグリセライド値が150~499mg/dL(同216mg/dL)の患者8179人を偽薬群と4mg/日を投与する群に無作為化割付して、MACE(致死的心血管疾患、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠血行再建術、不安定狭心症による入院)のリスクをメジアン4.9年間比較したもの。

結果は、Vascepa群のリスクが25%小さく、p値が0.001未満であったことが発表された。詳細は11月のAHA米国心臓協会科学部会で発表される予定。

オメガ3脂肪酸の心血管アウトカム試験は欧米では失望的な結果が続き、スタチンが普及した後ではJELIS試験の成功がむしろ例外的であった。日本は欧米と医療風土や人種が異なり、今日のスタンダードからするとJELISのスタチンの用量は控えめで、また、日本ではその後、ARBの心血管アウトカム試験で不正が発覚したり、腎疾患にARBとACE阻害剤の併用効果を検討したLancet論文が撤回されたりした。このため、高力価スタチンがあればオメガ3脂肪酸は不要なのではないかとの意見も見られるようになった。

しかし、今回の試験を過去の知見と照らし合わせると、EPAの作用が用量依存的である可能性が浮上する。EPAの投与量は今回の試験、JELIS、EPA・DHA混合物の試験の順に多く、リスク削減効果の大きさも同じ順番だ。

Vascepaの米国年商は2億ドル足らずだが、今回の用途は対象人口が7000万人と現在の適応の20倍大きく、海外も含めれば40倍と更に膨らむ。特許は用法に関するものが2030年まであるがGE薬メーカーが『ダウト』を掛けており、裁判で敗訴すると2020年にGE化リスクがある。ヘッジの意図なのか、アマリンは持田製薬からエパデールの新製剤の米国開発販売権を取得した。EPA製剤を推進する日米連合群が誕生したことになる。

リンク: アマリンのプレスリリース

WCLC:テセントリクの肺癌試験二本のデータが発表
(2018年9月24日発表)

ロシュは、WCLC(世界肺癌会議)で抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の肺癌第三相試験二本の結果を発表した。非扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療のIMpower132試験と、進展型小細胞性肺癌一次治療のIMpower133試験で、どちらも成功した。

132試験はpemetrexedと白金薬を併用する標準療法に更にTecentriqを追加したところ、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、担当医評価)がメジアン7.6ヶ月とpemetrexed・白金薬だけの群の5.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.60、log-rank p値は0.0001を下回った。

共同主評価項目の全生存期間はまだ中間解析で、メジアン18.1ヶ月対13.6ヶ月、ハザードレシオ0.81、p=0.0797とわずかにフェールした。1年生存率は59.6%対55.4%で4ポイント改善。オープンレーベル試験なので担当医評価のPFSだけではエビデンスとしては弱いが、延命効果のトレンドが見られ数値も悪くない。来年の全生存期間の最終解析に期待してもよさそうだ。

忍容性は、治療関連死亡が各11例(被験者の4%)対7例(同3%)と大きな差はなかった。

133試験はcarboplatinとetoposideの標準療法にTecentriqまたは偽薬を投与してPFSと全生存期間を比較したところ、中間解析で成功認定。生存期間はメジアン12.3ヶ月と偽薬群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70、log-rank p=0.0069、PFSは各5.2ヶ月、4.3ヶ月、0.77、0.017だった。

肺癌の開発はMSDが先行していたが、他陣営も少しずつキャッチアップしてきた。

リンク: ロシュのプレスリリース(IMpower132)
リンク: ロシュのプレスリリース(IMpower133、9/25付け)

WCLC:武田のALK阻害剤も一次治療でザーコリに勝つ
(2018年9月26日発表)

武田薬品のALK阻害剤、Alunbrig(brigatinib)の非小細胞性肺癌フロントライン試験の結果がWCLCで発表された。ALK阻害剤未経験のALK陽性局所進行性/転移性非小細胞性肺癌275人を組入れて、Xalkori(crizotinib)とPFS(盲検独立評価委員会が査読)を比較したところ、ハザードレシオ0.49、p=0.0007と良い結果が出た。メジアンは未達、Xalkori群は9.8ヶ月、1年PFSは67%対43%だった。

XalkoriはALK陽性非小細胞性肺癌を標的とする治療薬の第一号。元々はc-MET阻害剤として臨床開発されていたが、非小細胞性肺癌の一部はALK遺伝子の転座が関与しているという日本の研究者の発見を受けて、ALK阻害剤として開発されることになった。米国承認から7年経ち、既に複数の競合薬が承認されており、何れも、Xalkoriより効果が高く、中枢神経転移に対する効果も持っていることが特徴。これら第2世代品の間の優劣は明確ではなく、Alunbrigもone of themとして競うことになりそうだ。

Alunbrigは武田が昨年、54億ドルで買収したアリアドの開発品で17年にXalkori歴を持つ患者に使う薬として米国で承認された。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認】


抗PD-1抗体がまた承認
(2018年9月28日発表)

FDAは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)を転移性、または根治的な手術や放射線療法が適応にならない局所進行性の皮膚扁平上皮癌の薬として承認した。臨床試験では薬効解析対象108例のORR(客観的反応率)は47.2%だった。皮膚扁平上皮癌の薬がFDAに承認されたのは初。

Libtayoはリジェネロン(Nasdaq:REGN)が創製した抗PD-1抗体。サノフィとの包括的提携の対象。3週毎の投与で、一回分のWAC(問屋取得価格)は9100ドル。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース

難治性MAC肺炎治療薬が承認
(2018年9月28日発表)

FDAは、Arikayce(amikacinリポゾーム吸入用懸濁液)をMAC(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス)による難治性肺炎の治療薬として承認した。標準療法に追加した臨床試験では、奏効率(6ヶ月以内に月次喀痰検査が3回連続で陰転)が29%と標準療法だけの群の9%を上回った。有害事象は過敏性肺臓炎、気管支痙攣、肺疾患増悪、喀血などが枠付き警告された。

一日一回ネブライザで吸入する。申請者のInsmed(Nasdaq:INSM)は一回分のWACを363ドルとする予定。

抗細菌薬は市場性が小さく製薬業界の開発意欲が低いため、米国は優先審査バウチャーの交付など様々なインセンティブを設けている。ArikayceはQIDP(認定感染症製品)指定を受けているため優先審査バウチャーを獲得できるが、同時に、適応を限定することと引き換えに臨床試験が小規模でも容認するLPADパスウェイ制度に基づく初めての承認でもある。市販後に別途、第三相試験を実施して臨床的効用を確認する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Insmedのプレスリリース

ファイザー、汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤が米国で承認
(2018年9月27日発表)

ファイザーは、Vizimpro(dacomitinib)がFDAに承認されたと発表した。選択的不可逆的汎ErbBチロシンキナーゼ阻害剤で、適応はEGFR遺伝子にエクソン19欠損またはエクソン21にL858R置換のある転移性非小細胞性肺癌の一次治療。欧州や日本でも承認審査中。

臨床試験では、PFSがメジアン14.7ヶ月とIressa(gefitinib)群の9.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59だった。

過去にはTarceva(erlotinib)との直接比較試験も実施されたがフェールしており、初期のEGFR阻害剤に抵抗性を持つタイプだけに的を絞ることで復活した格好。但し、最近のEGFR阻害剤は耐性変異に活性を持つものが多く、Tagirsso(osimertinib)なら中枢神経系転移にも有効だがVizimproは禁忌だ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

PI3Kデルタ/ガンマデュアルインヒビターが米国で承認
(2018年9月24日発表)

Verastem(Nasdaq:VSTM)は、FDAがCopiktra(duvelisib)を慢性リンパ性白血病(CLL)・小リンパ球性リンパ腫(SLL)及び濾胞性リンパ腫の三次治療薬として承認したと発表した。再発性難治性の患者に用いる。CLL/SLLの承認申請用試験は二次治療試験だったが、危険と便益のバランスに優れる三次治療以下に限定された。PI3Kのデルタとガンマを阻害するデュアル・インヒビターとしては初承認。

再発性難治性CLL/SLLの試験ではPFSがArzerra(ofatumumab)を有意に上回ったが、全生存はフェールした。再発性難治性濾胞性リンパ腫はORR(42%)に基づく加速承認。致死的なこともある深刻な感染症、下痢、大腸炎、皮膚反応、肺臓炎が枠付き警告されている。REMS(リスク評価・緩和戦略)を導入。WACは月11800ドル。

Infinity Pharmaceuticals(Nasdaq:INFI)が2010年にIntellikine(2年後にミレニアム・ファーマシューティカルズが買収)から権利を取得、当初はアッヴィと共同開発していたが非ホジキン型リンパ腫の第二相試験結果を受けてアッヴィが権利を返還。改めて16年にVerastemに世界開発販売権をライセンスしたもの。EUでも承認審査中。日本はヤクルトが今年6月に日本の開発販売権を取得した。

リンク: Verastemのプレスリリース

リリーの抗CGRP抗体も片頭痛に承認
(2018年9月27日発表)

イーライリリーは、FDAがEmgality(galcanezumab-gnlm)を片頭痛発作予防薬として承認したと発表した。CGRP(calcitonin gene-related peptide)に結合する中和抗体で、類薬が続々と承認されており競争は激しい。月一回皮注で、プリフィルド・シリンジの他にオートインジェクターも用意されている点が長所。WACは月$575の予定。

リンク: イーライリリーのプレスリリース







今週は以上です。

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