2018年9月9日

2018年9月9日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Delta-Fly、株式公開へ 
  • キイトルーダ、メルケル細胞がんに適応拡大申請 
  • ヌーカラ、COPD適応拡大ならず 
  • 大日本住友のADHD用薬はFDAに承認されず 
  • リルゾールの経口液が米国でも承認 
  • 汎erbB阻害剤がEUでも承認 
  • サノフィ、買収した企業のaTTP治療薬がEUで承認 


【今週の話題】


Delta-Fly、株式公開へ
(2018年9月6日発表)

徳島のDelta-Fly Pharmaは、10月12日に東京証券取引所マザーズ市場に上場すると発表した。新株発行で資金調達し、抗癌剤パイプラインの臨床開発に充てる。

メディシノバを連想させる変わり種で、他社が開発や新用途開拓を見送ったコンパウンドをあの手この手で再生させようとしている。代表取締役社長と専務、社外取締役の一人が大鵬薬品出身で、大鵬薬品が諦めたプロジェクトも複数開発している模様だ。

リードコンパウンドのDFP-10917はデオキシシチジン誘導体で、低量を2週間連続投与すると細胞周期をG2/M期で停止させ、アポトーシスを誘導する。09年頃に大鵬薬品がTAS-917という開発コードでMD Anderson Cencer Centerの主導による結腸直腸がんのフェーズIIを行ったが、有望な結果ではなかった模様で、開発権を返還。Delta-Flyが新たに取り組んだところ、MD Andersonの急性骨髄性白血病(AML)フェーズI/II試験でなかなか良い結果が出た。

フェーズIIポーションでは強化化学療法不適の再発難治AMLに6mg/m2/日の点滴静注を14日間連続投与して14日間休薬するスケジュールで施行したところ、総合反応率48%となった。内訳は、CR6例、CRi7例、CRp1例。メジアン生存期間は7.4ヶ月。G3以上の有害事象は骨髄抑制が中心。

09年のフェーズIIとの違いは、適応と、投与スケジュールが前回は14日連続点滴、7日間休薬と回復期が短かったこと。あの手この手で何とかしてシーズを生かそうと工夫する同社らしさが表れている。

17年3月に日本新薬に日本の独占開発権を供与。今年度は米国でフェーズIII、日本でもフェーズIを開始する予定。

類薬では、Cyclacel Pharmaceuticals(Nasdaq:CYCC)が第一三共からTAS-917の経口プロドラッグとされるsapacitabineを導入、高齢AML患者を対象にdecitabine併用フェーズIIIを実施したが、昨年、フェールした。完全反応率はdecitabine単剤投与群より改善したようなので、血液癌と言えども反応率だけで評価するのは危険という気もする。

次に、DFP-14323(ubenimex)は四半世紀の販売歴を持つ日本化薬の白血病補助療法薬ベスタチンの適応拡大。EGFR活性化変異を持つ末期非小細胞性肺癌に低量EGFR阻害剤と併用するフェーズIIを日本で実施している。ubenimexはEiger Pharmaceuticals(Nasdaq:EIGR)が米国でリンパ浮腫のフェーズIIを行っており、ドラッグ・リポジショニングの競演状態だ。

大鵬薬品のカラーが一番出ているのはDFP-11207。5-FUプロドラッグのEM-FUと5-FUの零落を遅らせるCDHP、そして5-FUの活性化を促進するリン酸化剤CTAを一つのモルキュールにした経口剤。分子が大きく吸収がゆっくりであるためTmax上昇に伴う血小板減少症のリスクが小さい可能性がある。米国でフェーズII準備中。

地味なプロジェクトが多い中で異彩を放っているのはDFP-10825。thymidylate synthaseの発現を抑制するショートヘアピンRNA介入で、前臨床段階。Delta-Flyは開発品の試験論文を積極的に発表しており、過去の論文を読むと、元々はアデノウイルスベクターで細胞に導入する、ティーエスワンの効果を増強する補助薬を想定していたようだ。その後、リポソーム法に変更し、卵巣癌や胃がんの腹膜播種転移を治療する方針にリポジショニングした。

大鵬薬品色が強い割には大鵬も大塚HDも出資していない。異色のバイオベンチャーであるだけでなく異色のスピンアウトかもしれないDelta-Flyがハエではなく谷底に突き落とされた獅子の子のように飛翔できるかどうかは、これらのパイプラインの成否に加えて、新たなパイプライン(リポジショニング・アイディア)の獲得も重要な課題になる。

リンク: Delta-Fly Pharmaのホームページ


【承認申請】


キイトルーダ、メルケル細胞がんに適応拡大申請
(2018年9月4日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を難治性局所進行性/転移性メルケル細胞がんの成人小児に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。第二相のKEYNOTE-017試験で観察されたORR(総合反応率)及び反応持続性に基づいて加速承認を求めたもので、優先審査指定され、審査期限は12月28日となった。

メルケル細胞がんと言えば、メルクとファイザーが共同開発販売している抗PD-L1完全ヒト化抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)のリード・インディケーションだ。今日では尿路上皮癌でも承認されているが、この適応は非小細胞性肺癌と並んで抗PD-1/抗PD-L1抗体の激戦区となっている。それだけに、Keytrudaが承認されたら脅威になりそうだ。

余談になるが、ドイツと米国のメルクは元々は本社と米国拠点という関係だった。米国は20世紀の二度の大戦中にドイツ企業の米国資産を差し押さえ、第二次大戦終了後も返還しなかっただけでなく、ドイツ本社の米国進出を一定期間、禁止して、奪取した知的財産を自国の産業育成の礎としたのである。ドイツのシエーリングの米国拠点は再編を経てシェリング・プラウそして米国メルクの一部となった。一方、シエーリングは米国で名を名乗ることが許されず、バーテックスとして活動していた。その後、同じく米国資産没収を受けたバイエルと合併した。

二人のメルクは、米国とカナダでは米国のメルクが、それ以外ではドイツのメルクが「メルク」を名乗り、もう片方は「MSD」を名乗る取り決めになった。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ヌーカラ、COPD適応拡大ならず
(2018年9月7日発表)

グラクソ・スミスクラインは重度好酸球性喘息症の維持療法薬のNucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を好酸球性COPD用薬として米国で適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。第三相試験は一本でp値が0.036とアルファの0.04ををぎりぎりクリアしたがもう一本はフェールした。このため、7月に開催されたFDA諮問委員会では薬効の挙証が不十分なので承認すべきではないと判定した委員が19人中16人と、圧倒的多数だった。

リンク: GSKのプレスリリース

大日本住友のADHD用薬はFDAに承認されず
(2018年9月1日発表)

大日本住友製薬は、米国子会社のサノビオンがADHD治療薬として承認申請したdasotralineがFDAに承認されなかったことを明らかにした。成人試験は第三相がフェールし追加試験中だが、6~12歳を組入れた試験は第2/3相と第3相の二本で4mg/日群が偽薬比有意な臨床スコア改善効果を示しており、どちらも承認されなかったのは意外感がある。

dasotralineは抗鬱剤Zoloft(sertraline)の活性代謝物の光学異性体で、当初はセレトニンやドパミン、ノルエピネフィリンのトリプル再取り込み阻害剤と考えられていたが、セレトニン・トランスポーターに対する占有率は低いことが判明。臨床開発も鬱病はPOC試験がフェールした。一方で、小児の第3相では不眠症の有害事象発生率が20%と偽薬の4%を上回っており、Zoloftやアミン系ADHD薬のAdderallやVyvance並みである。

薬物動態面の特徴は半減期が47~77時間と長いこと。一日一回投与で血中濃度が定常状態に達するまで2週間かかる由だ。となると、上記の小児試験の薬効評価が15日目というのは、効果がフルに発揮されないのではないか?逆に言えば、患者は長期間服用するのだから、用量を減らして当初の副作用リスクを緩和し、定常状態に達してから1~2週間後に評価すれば十分ではないか?

なぜ承認されなかったのか不明だが、敢えて邪推するなら、この点かもしれない。

リンク: 大日本住友のプレスリリース(和文、pdfファイル)


【承認】


リルゾールの経口液が米国でも承認
(2018年9月6日発表)

イタリアのItalfarmacoの米国子会社、ITF Pharmaは、Tiglutik(riluzole)がFDAに承認されたと発表した。筋委縮性側索硬化症治療薬Rilutekの新製剤で、錠剤ではなく経口液なので、病気が進行し嚥下障害の患者には適している。

リンク: ITF Pharmaのプレスリリース(pdfファイル)

汎erbB阻害剤がEUでも承認
(2018年9月4日発表)

Puma Biotechnology(NYSE:PBYI)は、不可逆的汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤のNerlynx(neratinib)がEUで早期乳癌の延長アジュバント用薬として承認されたと発表した。ホルモン受容体とher2が陽性でHerceptin(trastuzumab)ベースのアジュバント療法を完了してから1年以内の患者が適応になる。

第三相試験は成功したが、サブグループ分析の結果、ホルモン受容体陰性やHerceptin治療後1年以上間が空いた群のデータが見劣りしたため、先に承認された米国と同様に、限定的な適応となった。

neratinibは元々はワイスが第三相に進めたが同社を合併したファイザーが11年にPumaにライセンスした。PumaのCEO兼社長兼取締役会会長であるAlan Auerbchはウエルズ・ファーゴのアナリストから転じてCougar Biotechnologyを設立、前立腺癌用薬Zytiga(abiraterone acetate)の開発に成功し会社毎ジョンソン・エンド・ジョンソンに9.7億ドルで売却した実績を持つ。

リンク: Pumaのプレスリリース

サノフィ、買収した企業のaTTP治療薬がEUで承認
(2018年9月3日発表)

サノフィは、AblynxのCablivi(caplacizumab)がEUで後天性血栓血小板減少性紫斑症(aTTP)の治療薬として承認されたと発表した。von Willebrand因子と血小板の相互作用を阻害する二価抗体で、可変領域の軽鎖がないナノボディ。

第三相急性期治療試験では毎日血漿交換と免疫抑制剤に加えて初回は静注、その後は皮注したところ、血小板反応が偽薬群より早く、二次的評価項目である臨床的効能でも4項目中2項目で有意差があった。更に、aTTP関連死亡/再発/主要血栓塞栓イベントのリスクも74%小さかった。主な有害事象は鼻血や歯肉出血。

米国でも審査中で審査期限は来年2月6日。

Ablynxはサノフィがノボ ノルディスクなどとの競争に打ち勝って39億ドルで今年6月に子会社化した。

リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)





今週は以上です。

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