2018年9月16日

2018年9月16日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • バベンチオとインライタの併用はスーテントに勝る 
  • MSD、Zerbaxaの院内感染肺炎適応拡大試験が成功 
  • JNJ、点鼻用抗鬱剤を承認申請 
  • テバの抗CGRP抗体も承認 
  • FDAがアストラゼネカの有毛細胞白血病薬を承認 
  • キイトルーダ、EUで肺癌一次治療化学療法併用が承認 
  • カナグルの心血管保護効果がEUのレーベルに収載 
  • 中国製バルサルタンAPIに新たな不純物発見 


【新薬開発】


バベンチオとインライタの併用はスーテントに勝る
(2018年9月11日発表)

抗PD-L1抗体のBavencio(avelumab、和名バベンチオ)を共同開発販売しているドイツのメルクとアメリカのファイザーは、第三相末期腎細胞腫一次治療試験が成功したと発表した。Inlyta(axitinib、和名インライタ)と併用でPFS(無進行生存期間)を標準療法であるSutent(sunitinib、和名スーテント)と比較したところ、主評価項目であるPD-L1が1%以上で発現しているサブグループで有意に延長した。シーケンシャルに実施された第二の主評価項目である全ユニバースでの解析も成功した。

具体的な数値は未発表。もう一つの主評価項目である全生存期間はまだ熟していない模様だが、PFSデータで適応拡大申請に向かう考えだ。Bavencioは日米欧でメルケル細胞腫に、米国では尿路上皮癌にも、承認されている。

腎細胞腫の薬物療法は、VEGFR阻害剤が登場するまでアルファ・インターフェロンなどのサイトカイン系免疫強化療法が主流だったが、抗PD-1/PL-L1抗体も併用療法で特に良好な成績を上げている。併用法を巡る戦略は科学的、商業的に活発で、MSDはエーザイのVEGFR阻害剤の共同開発販売権を大金を払って取得。BMSは自社のYervoy(ipilimumab)との併用を最優先することで収益最大化を狙っている。ファイザーがBavencioの共同開発販売権を取得したのも、今振り返れば、Inlytaを活用する狙いがあったのだろう。

効果の面ではどの併用療法も大差ないように感じられるので、オフレーベル使用も含めて、様々なレジメンが並行して普及していくだろう。

尚、Inlytaはファイザーが2000年に合併したワーナー・ランバートがその前年に買収したアグロン社由来のVEGFR阻害剤、Sutentはファイザーが2002年に合併したファルマシアがそれ以前に買収したスジェン社由来のVEGFR阻害剤だ。強力なリーダーシップを背景に買収で相手をねじ伏せてきた会社だが、新薬開発に関しては「新宿支店の敵は新宿西口支店」戦略を長く続けていたため、このようなパイプラインの重複が珍しくなかった。

Inlytaが第三相ステージアップの段階で「待て」の状態になってしまったのは残念だったが、これも今振り返ると、時間差を付けることで出番を確保する狙いだったのかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、Zerbaxaの院内感染肺炎適応拡大試験が成功
(2018年9月11日発表)

MSDの静注用複合セファロスポリンであるZerbaxaは、14年に欧米で複雑性尿道感染症と複雑性腹腔内感染症の治療薬として承認されているが、院内感染細菌性肺炎(HABP)・人工呼吸器関連細菌性肺炎(VABP)の適応拡大試験も成功したことが発表された。上記の用量の倍に相当する3mgを8時間毎に8~14日間投与したところ、28日全死亡率と臨床的治癒率がmeropenem群比で非劣勢だった。欧米で適応拡大申請に向かう予定。

細菌性肺炎のような命に係わる感染症については救命効果を確認すべきというのがFDAの考え方で、今回のように、全死亡を主評価項目とする試験が増えてきた。

Zerbaxaはキュビスト社をTOBして入手したプロジェクトで、アステラス製薬のセファロスポリン、ceftolozaneと、元々は大鵬薬品が創製しZosynにも配合されているtazobactamの合剤。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、点鼻用抗鬱剤を承認申請
(2018年9月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、JNJ54135419(esketamine)を成人の難治性鬱病治療薬として米国で承認申請した。欧州でも申請予定。ケタミンのS異性体で、NMDA受容体を非競合的、活性依存的に拮抗し、ドパミンの再取込みを阻害するとされる。点鼻スプレー。5年前に米国でブレークスルー・セラピー指定された。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


テバの抗CGRP抗体も承認
(2018年9月14日発表)

テバ・ファーマシューティカルは、FDAがAjovy(fremanezumab -vfrm)を片頭痛予防薬として承認したと発表した。5月に承認されたアムジェン/ノバルティスのAimovig(erenumab-aooe)との違いは、抗CGRP受容体抗体ではなくCGRPの側に結合する抗体医薬であることと、月一回皮注だけでなく3ヶ月毎皮注も承認されたこと。第三相慢性片頭痛試験では偽薬、3ヶ月毎、月一回投与の各群の月平均片頭痛日数がベースライン比2.5日、4.3日、4.6日減少した。

AjovyのWAC(問屋取得価格)はAimovig並みに設定されるようだ。この二剤のほかに、イーライリリーの抗CGRP抗体LY2951742(galcanezumab)が昨年12月にFDAに申請された。更に、Alder(Nasdaq:ALDR)の抗CGRP抗体eptiezumabも来年初めに承認申請される予定と、競争が激しい。

fremanezumabは01年にジェネンテックからスピンアウトしたRinat社のパイプラインで、06年にRinatを買収したファイザーが12年に導出した相手先の会社を14年にテバが買収したもの。PDUFAは6月だったがAPI調達先のCelltrion社のcGMP問題が原因で承認が遅れていた。日本は大塚製薬が導入している。

リンク: テバのプレスリリース


FDAがアストラゼネカの有毛細胞白血病薬を承認
(2018年9月13日発表)

FDAはアストラゼネカのLumoxiti(moxetumomab pasudotox-tdfk)を有毛細胞白血病用薬として承認した。20年ぶり以上の新薬だ。再発性難治性でプリン類縁体を含む二次以上の前治療歴を持つ成人が適応になる。有毛細胞で高発現するCD22に結合する抗体の可変領域フラグメントに細胞毒のPE38(Pseudomonas exotoxin-A)を結合した抗体薬物複合体で、28日サイクルで第1、3、5日に0.04mg/kgを30分点滴静注する。

有毛細胞白血病は米国で年1000人が診断される希少疾患で、一次治療なら長期寛解が見込めるが、30~40%は5~10年後に再燃する。Lumoxitiの第三相三次治療単群試験では、持続的完全反応率(血液学的寛解が180日超持続)が30%だった。枠付き警告は毛細管漏出症候群と溶血性尿毒症候群で、発生率は前者がG3が1.6%、G4は2%、後者は各3%と0.8%。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

キイトルーダ、EUで肺癌一次治療化学療法併用が承認
(2018年9月10日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)やBMSのOpdivo(nivolumab)の第三相が成功したり承認、申請されてもニュースとは言えないほど数多くのリリースが出ているが、今回は、Keytrudaを非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療にAlimta(pemetrexed)及び白金薬と併用することがEUで承認された。EGFR活性化変異やALK変異陽性ではない成人が適応になる。PD-L1発現は不問。

承認の根拠となったKEYNOTE-189試験では、Alimtaと白金薬だけを併用するこれまでの標準療法と比べて、全生存期間のハザードレシオが0.49だった。米国でも先月、承認されている。

リンク: MSDのプレスリリース

カナグルの心血管保護効果がEUのレーベルに収載
(2018年9月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、SGLT2阻害剤Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の心血管保護効果がEUのレーベルに記載されたと発表した。CANVAS試験で主要有害心血管イベントが対照群比14%少なかったことを販促できることになる。

rosiglitazoneの心筋梗塞リスク疑惑がきっかけで二型糖尿病薬の心血管アウトカム試験は承認を取得・維持するためのマストになったが、CANVAS試験が非劣性解析だけでなく優越性解析も成功したことは、血糖管理が小血管だけでなく大血管を保護する上でも重要であることを示唆する重要な発見だった。

尤も、14%という削減効果はスタチンなどと比べると小さく、臨床的にどの程度の価値があるのかは議論の余地があろう。それどころか、検出力の高い試験を行った結果、下肢切断のような稀だが重大な副作用の懸念も浮上した。

日本では長期大規模で費用の嵩む心血管アウトカム試験を行うことに懐疑的な意見も見られたが、FDAは心血管疾患だけを殊更に問題にした訳ではない。癌のような長期間フォローしなければ検出できないリスクも含めて、長期大規模な試験は二型糖尿病薬のような沢山の患者が長期間服用する薬には必須だろう。

リンク: JNJのプレスリリース


【医薬品の安全性】


中国製バルサルタンAPIに新たな不純物発見
(2018年9月13日発表)

EUと米国の薬品審査機関は、中国の大手原末製造会社であるZhejiang Huahai Pharmaceuticals(ZHP)が生産したvalsartan(元々はノバルティスが創製したアンジオテンシン受容体拮抗剤)のAPIから、新たな不純物が発見されたことを公表した。まだ調査が始まったばかりである模様で、FDAは、既にGE化して多くの会社が販売しているvalsartan製品を片っ端から検査する構えだ。検査方法を公開し、メーカー自身や他国の審査機関にも検査を促す考え。

この不純物は、N‑nitrosodiethylamine(NDEA)。一部製品の自主回収の原因となったN-Nitrosodimethylamine(NDMA)と類似した物質で、WHOが癌原性物質の可能性を指摘している。このため、日本であすか製薬が行った自主回収はクラスI、つまり、重篤な健康被害又は死亡の原因となりうる状況と分類されている。

尤も、少なくともNDMAに関しては、混入したvalsartanを数年間服用した患者でも実際に癌になるリスクはそれほど高くないようだ。肉や魚を焼く時の焼き焦げも癌原性物質とされるが、あまり懸念されていないことと似ている。

NDMAはZHP社が生産プロセスを変更した後のロットに混入していたが、NDEAは変更前であるようだ。変更自体が何年も前の話なので、結局、癌原性物質の混入が何年も放置されていたことになる。実際のリスクは小さいにしても、ヒヤリハットの段階でブレーキをかけないともっと深刻な事態になってからでは遅い。この機会に、徹底した調査が必要だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: EMAのプレスリリース







今週は以上です。

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