2018年9月2日

2018年9月2日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESC:ビンダケルがaTTR心筋症の転帰を改善 
  • ファイザー、抗ミオスタチン抗体の開発中止 
  • バイエル、TRK阻害剤を欧州で承認申請 
  • ApoC-IIIアンチセンス薬は審査完了に 
  • MSD、新規HIV/AIDS薬と合剤が承認 
  • 新規抗生剤が米国で承認 
  • バイエル、持効性第8因子が米国で承認 
  • ノバルティスとギリアドのCAR-TがEUで承認 
  • アルナイラムのsiRNA、欧州でも承認 
  • Ultragenyxのムコ多糖症VII型用薬がEUで承認 
  • タフィンラーとメキニストの併用がEUで黒色腫のアジュバントに承認 
  • FDA、SGLT2阻害剤のフルニエ壊疽リスクを警告 


【新薬開発】


ESC:ビンダケルがaTTR心筋症の転帰を改善
(2018年8月27日発表)

ファイザーは、Vyndaqel(tafamidis meglumine、和名ビンダケル)のaTTR-CM(トランスサイレチンアミロイド心筋症)試験の結果をESC欧州心臓学会とNew England Journal of Medicine誌で発表した。3年生存率が偽薬群を大きく上回る良好な内容だった。日欧で適応拡大申請に向かうとともに、米国で承認申請されるだろう。診断・認知されていない疾患なので医療従事者の啓蒙活動が重要だろう。

aTTR-CMはトランスサイレチン(TTR)機能不全の代表的な合併症。TTRを構成するテトラマーが遺伝子変異や加齢により分離しやすくなり、アミロイドとして蓄積してしまう。心筋症を合併すると死亡リスクが高まる。患者数は先進国合計で40~50万人、うち遺伝性は10000~15000人で、多くは60歳以上の男性。診断されているのは1%未満で、多くは原因不明の心臓疾患として扱われてしまう由。

VyndaqelはTTRに結合する天然の物質の類縁体で構造を安定化する。11年にEUで、13年には日本でも、TTR家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬として承認された。一方、米国は、FDAも諮問委員会も、進行抑制効果の挙証不十分と判定、審査完了となった。

今回の試験は、遺伝性と加齢性のaTTR-CM441人(平均年齢74歳)を偽薬、20mg、80mg群に2:1:2割付して、偽薬群と試験薬(二群のデータをプール)の30ヶ月間の全死亡・心血管関連入院リスクを比較した。Finkelstein-Schoenfeld法という方法を採用して、全死亡リスクに加重するとともに、通常のtime-to-first-event分析ではなく、複数回発生したイベントも考慮することによって検出力を高めた由。結果は、p=0.0006と有意な差があった。

もっと分かりやすい、全死亡だけの解析は偽薬群が42.9%、試験薬群は29.5%、Cox法によるハザードレシオは0.70、p=0.0259。心血管関連の入院は年0.70回対0.48回、ポアソン相対リスクレシオは0.68、p<0.00016だった。カプランマイヤーカーブを見ると、18ヶ月を過ぎた辺りから両群の曲線が解離し始めており、薬効が発揮されるまで時間がかかるようだ。心機能悪化が進んだ患者に対する効果は鮮明ではなかった。20mg群も80mg群も全生存や心血管入院改善効果は大差なさそうだ。

二次的評価項目の6分歩行テストやKCCQ-OSスコアでも有意な差があった。治療関連有害事象による治験の一時的離脱の発生率は26.0%対20.1%で、試験薬群のほうが少なかった。

Vyndaqelは今回の適応で欧米で希少疾患用薬指定されており、米国ではファーストトラックとブレークスルーセラピー指定、日本では先駆け審査指定されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: Mathew S. Maurerらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

ファイザー、抗ミオスタチン抗体の開発中止
(2018年8月30日発表)

ファイザーは、抗Myostatin(GDF-8)ヒト化抗体のPF-06252616(domagrozumab)をデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に用いる第二相試験を実施していたが、主評価項目でも二次的評価項目でも効果が見られず、開発を中止すると発表した。

Myostatinは筋細胞が過剰に成長しないよう制御する。ブレーキを外して筋力を増強するアイディアは以前からあり、ファイザーが買収したワイエスは、ケンブリッジ・アンチボディ社との共同研究の成果である抗GDF-8完全ヒト化抗体、MYO-029(stamulumab)でベッカー型など様々なタイプの筋ジストロフィーの臨床試験を行ったが、08年に開発中止した。

現在も、ロシュがBMSからライセンスしたMyostatin標的adnectin、RG6206/BMS-986089で第2/3試験を実施中。ペプチドリームも川崎医科大学とMyostatin標的ペプチドの共同研究を行っている。ワイスの失敗を何度も繰り返すのは愚かだ。ファイザーは臨床試験の結果や考察を適切な形で発表し教訓を残すべきだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認申請】


バイエル、TRK阻害剤を欧州で承認申請
(2018年8月27日発表)

バイエルは、LOXO-101(larotrectinib)を欧州で承認申請した。適応は、成人・小児のNTRK遺伝子融合を持つ局所進行性・転移性固形癌。米国コネチカット州のLoxo Oncology(Nasdaq:LOXO)から共同開発商業化権を取得したもので、米国は3月にローリング承認申請を完了、承認後は共同販促する。米国外はバイエルが独占販売。

NTRKはTRK(tropomyosin receptor kinases)を定義する遺伝子で、ETV6など他の遺伝子と融合してレガンド結合ドメインを喪失すると異常活性化して癌の原因になる。臨床試験では唾液腺腫、幼児線維肉腫、甲状腺、結腸、肺、黒色腫、紡錘細胞肉腫、胆管癌、筋周皮腫など様々な部位のNTRK遺伝子融合陽性癌に投与したところ、中央評価によるcORR(一定期間持続した客観的反応率)が75%と、良好だった。有害事象による投与量削減は13%の患者で実施、ほぼ全てが神経認知性有害事象によるものだった。

リンク: バイエルのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ApoC-IIIアンチセンス薬は審査完了に
(2018年8月27日発表)

Akcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)と親会社のIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)はApoC-IIIの発現を妨げるアンチセンス薬、Waylivra(volanesorsen)を家族性カイロミクロン血症候群の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。

臨床試験ではトリグリセライド値が大きく減少したが、グレード3以上の血小板減少症・出血が8例と、1割程度の患者で発生した。このため5月に開催された内分泌代謝薬諮問委員会は賛成12人、反対8人と意見が別れた。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


MSD、新規HIV/AIDS薬と合剤が承認
(2018年8月30日発表)

MSDが新開発したNNRTI(非核酸系逆転写阻害剤)、Pifeltro(doravirine)と一日一回一錠の服用で完結する三剤合剤、Delstrigo(doravirine、lamivudine、tenofovir disoproxil fumarate)がFDAにHIV/AIDS治療薬として承認された。新患も可。

臨床試験では治療効果が既存のNNRTIやプロテアーゼ阻害剤を用いるレジメンと非劣性だった。

NNRTIは交叉耐性があり、doravirineも例外ではない。CYP3Aを強力に誘導する薬の併用は禁忌。合剤は、lamivudineに過敏反応歴も禁忌。また、B型肝炎感染症の増悪リスクが枠付き警告されている。

リンク: MSDのプレスリリース

新規抗生剤が米国で承認
(2018年8月27日発表)

Tetraphase Pharmaceuticals(Nasdaq:TTPH)は、FDAがXerava(eravacycline)を18歳以上の複雑性腹腔内感染症の治療薬として承認したと発表した。テトラサイクリン系の全合成フルオロサイクリンで、CREなどのMDRにも活性を持つ。、臨床試験では効果が既存薬と非劣性だった。10月に発売予定。欧州でも7月にCHMPが肯定的意見を出している。複雑性尿路感染症でも第三相試験が実施されたがフェールした。

リンク: Tetraphase社のプレスリリース

バイエル、持効性第8因子が米国で承認
(2018年8月30日発表)

バイエルは、Jivi(damoctocog alfa pegol、和名ジビ)がFDAに承認されたと発表した。A型血友病のルーチン予防や出血治療に用いる。遺伝子組換え型血液凝固第8因子にポリエチレングリコールを結合して作用を長期化したもので、頻繁に出血する患者の予防目的でルーチン投与する場合は、最初は週二回、管理良好なら5日毎に延ばすことができる。欧州でも承認審査中。日本でも第二部会を通過した。

リンク: バイエルのプレスリリース

ノバルティスとギリアドのCAR-TがEUで承認
(2018年8月27日発表)

ノバルティスとギリアド・サイエンシズはCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞療法)の開発販売で鎬を削っているが、欧州では同時に承認を取得した。ノバルティスは供給体制の確立が遅れている模様で現状の売上高は見劣りするが、日本も含めて開発生産受託会社を活用する方針のようなので、巻き返しに期待したい。

ノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel)はペンシルバニア大学からライセンスしたCAR-Tで、B細胞特異的に発現するCD19に結合する抗体の短鎖可変領域とTCRの共刺激伝達領域であるCD137(4-1BB)及びCD3ゼータチェーンをスペーサーで繋げた遺伝子を、患者から採取したT細胞にレンチウイルスベクターを用いて導入。リンパ枯渇処理を行った患者に戻すと体内で増殖し癌細胞を攻撃する。

適応は、18~25歳の再発性難治性B細胞性急性リンパ性白血病と、成人の再発性難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫。米国では昨年8月に承認、日本でも今年4月に再生医療等製品として承認申請された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

一方、ギリアドのYescarta(axicabtagene ciloleucel)は昨年、Kite Pharmaを119億ドルで買収して入手した。抗CD19短鎖可変領域とCD28、CD3ゼータをリンカーで結合したもので、適応は再発性難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)。米国では昨年10月に承認。日本の製造開発販売権は第一三共が持っている。

リンク: ギリアドのプレスリリース

アルナイラムのsiRNA、欧州でも承認
(2018年8月30日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ALNY)のOnpattro(patisiran)がEUで遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスの成人のステージ1または2の多発性神経障害を治療する薬として承認された。米国でも同月に承認されており、siRNA(小分子介入RNA)という新しいタイプの薬が欧米で支持された。3週毎に点滴静注する。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

Ultragenyxのムコ多糖症VII型用薬がEUで承認
(2018年8月27日発表)

希少疾患用薬に特化した新興製薬会社、Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)は、Mepsevii(vestronidase alfa)がEUでムコ多糖症VII型の治療薬として承認されたと発表した。世界で150人未満の超希少疾患で、臨床試験ではグリコサミノグリカンデルマタン硫酸の排泄が6割減少し、様々な症状を評価するマルチ・ドメイン・レスポンダー・インデックスも改善傾向が見られた。米国では昨年11月に承認された。

リンク: Ultragenyxのプレスリリース

タフィンラーとメキニストの併用がEUで黒色腫のアジュバントに承認
(2018年8月29日発表)

ノバルティスのbraf阻害剤Tafinlar(dabrafenib、和名タフィンラー)とMEK1/2阻害剤Mekinist(trametinib、和名メキニスト)を併用で黒色腫の完全切除後のアジュバント療法として使うことがEUで承認された。ステージIIIのBRAF V600E/K変異を持つ癌が適応になる。臨床試験では無再発生存期間が有意に伸び、全生存期間の好ましいトレンドも見られた。米国では今年4月に、日本は6月に、承認済み。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、SGLT2阻害剤のフルニエ壊疽リスクを警告
(2018年8月29日発表)

FDAは、二型糖尿病治療薬の一種であるSGLT2阻害剤に関して、複数のフルニエ壊疽症例が報告されていることを公表した。第一号が承認された13年3月から今年5月の約5年間に12例。2017年にSGLT2阻害剤の処方を受けた患者は米国だけで170万人なので、発生頻度は極めて低い。二型糖尿病は皮膚の感染症リスクを伴うのでそれがフルニエ壊疽の原因であっても不思議はないが、他の二型糖尿病薬では34年間に6例とのことなので、SGLT2阻害剤の性器感染症リスクが影を落としているのだろう。医師や患者はこのリスクを意識して症状や兆候をモニターする必要がありそうだ。

リンク: FDAの発表






今週は以上です。

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