2018年8月26日

2018年8月26日


【ニュース・ヘッドライン】

  • アストラゼネカ、COPD薬の直接比較試験が期待外れの結果に 
  • BMS、エムプリシティを三次治療に適応拡大申請 
  • rhNGFが米国でも神経栄養性角膜炎治療薬として承認 
  • シャイア、遺伝性血管浮腫用薬が承認 
  • キイトルーダ、非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用が承認 
  • レンビマ、欧州でも肝癌承認 
  • イグザレルト、CAD/PADに適応拡大 


【新薬開発】


アストラゼネカ、COPD薬の直接比較試験が期待外れの結果に
(2018年8月23日発表)

アストラゼネカは、COPD維持療法薬の直接比較試験の結果を発表した。競合品に対する優越性を確立して販促面でも優位に立つことを狙ったが、目的を達成できなかった。

このAERISTO試験は、長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)のglycopyrroniumと長期作用性ベータ2作用剤(LABA)のformoterol fumarateの合剤であるBevespi Aerosphereと、グラクソ・スミスクラインのLAMA・LABA合剤であるAnoro Ellipta(和名アノーロエリプタ)の肺活量改善効果を比較した。

前者はDPI(ドライ・パウダー吸入器)で一日二回吸入、後者はpMDI(加圧噴霧式低量吸入器)と形状が異なるため、試験薬ともう一つの試験薬のダミーを吸入する、ダブルダミー方式の二重盲検を採用した。

結果は、FEV1(一秒量)のピーク値の非劣性解析は成功したが、優越性解析とトラフ値の非劣性解析はフェールとなった。ピーク値は専らLABAの寄与、トラフ値は専らLAMAの寄与と考えると、LABAは劣ってはいないが優れているかどうかは分からない、LAMAは劣っている可能性が否定できないことになる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


BMS、エムプリシティを三次治療に適応拡大申請
(2018年8月23日発表)

BMSは、Empliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)を多発骨髄腫の三次治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、期限は今年12月27日。

EmplicitiはPDL(後にアッヴィが買収)が開発してBMSにライセンスした抗SLAMF7ヒト化抗体。骨髄腫細胞やNK細胞で発現する表面分子に結合して抗体依存的細胞毒性を発揮する。15年に米国で、16年には日欧でも、再発難治多発骨髄腫の二次治療にRevlimid(lenalidomide)及び低量dexamethasoneと併用する薬として承認された。

新用法は、Revlimid、そしてVelcade(bortezomib)のようなプロテアソーム阻害剤を含む、二次以上の治療歴を持つ再発性難治性多発骨髄腫に、三次以降の代表的なレジメンであるPomalyst(pomalidomide、和名ポマリスト)および低量dexamethasoneと併用するもの。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン10.3ヶ月と、Pomalyst・dexamethasone二剤併用群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.54、統計的に有意な差があった。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


rhNGFが米国でも神経栄養性角膜炎治療薬として承認
(2018年8月22日発表)

FDAは、Oxervate(cenegermin-bkbj)を神経栄養性角膜炎の治療薬として承認した。イタリアのDompe farmaceuticiが開発し欧州では昨年7月に承認された遺伝子組換え型ヒト神経成長因子(rhNGF)で、rhNGFの承認も、神経栄養性角膜炎用薬の承認も、米国初。

神経栄養性角膜炎は三叉神経の損傷により角膜の感覚が低下、ヒーリングに必要な物質が分泌されにくくなる。重度だと失明のリスクを伴う。臨床試験では、Oxervateを一日6回点眼したところ、8週間後の完全角膜治癒率が70%と対照群の28%を大きく上回った。おもな有害事象は目の痛みや充血、炎症など。希少疾患用薬指定されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Dompeのプレスリリース

シャイア、遺伝性血管浮腫用薬が承認
(2018年8月23日発表)

シャイアは、FDAがTakhzyro(lanadelumab-flyo)を12歳以上の遺伝性血管浮腫の治療薬として承認したと発表した。血漿カリクレインを標的とする完全ヒト化抗体で、2週間または4週間に一回、皮注と、同じ用途で承認されている同社のCinryze(ヒトC1エステラーゼ・インヒビター)の週二回点滴静注より簡便。臨床試験では偽薬と比べて発作頻度が2週毎群が87%、4種毎群は73%、減少した。

16年に59億ドルで買収したDyax社のコンパウンドで、FDA承認達成マイルストンとして当時の株主にDyax一株当たり4ドル支払う(総額は6億ドル程度か)。

シャイアは今年5月に武田薬品が460億ポンドで買収することで合意した。

リンク: シャイアのプレスリリース

キイトルーダ、非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用が承認
(2018年8月20日発表)

MSDは、FDAが抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)を非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)の一次治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。ALK阻害剤が適応になるALK変異や、EGFR阻害剤が適応になるEGFR活性化変異を持たない癌ならPD-L1発現度は問わない。将来的にはALK変異やEGFR活性化変異にも使われるようになるだろう。

NSNSCLCの代表的な一次治療レジメンであるAlimta(pemetrexed)及び白金薬と併用する。KEYNOTE-189試験では、Alimtaと白金薬のみの群と比べて、全生存のハザードレシオが0.49と半減した。

抗PD-1/PD-L1は様々な新規作用機序の薬との併用研究が進行しているが、化学療法併用も有効というのは個人的に盲点だった。免疫性副作用のある薬はダメという先入観があったからだ。

将来的にはPD-L1やMSI(マイクロサテライト不安定性)、TMB(腫瘍変異負荷)に加えて様々な応答性予測因子が発見され、このタイプには単剤、このタイプにはこちらの薬と併用、あのタイプにはあの薬と併用、こっちのタイプには無効なので他の薬を選択、と、使い分けが可能になるだろう。その結果、治療効果が向上するだけでなく、高額で深刻な副作用も伴う薬の無駄打ちを今より減らすことができるだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

レンビマ、欧州でも肝癌承認
(2018年8月23日発表)

エーザイとMSDは、VEGFR拮抗剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を切除不能肝細胞腫の一次治療に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。日本では今年3月、米国でも今月、承認されている。

根拠となったREFLECT試験では、全生存期間がメジアン13.6ヶ月と標準療法であるNexavar(sorafenib)の12.3ヶ月を若干上回ったが、ハザードレシオは0.92に留まり、非劣性解析は成功したが優越性解析では有意差が出なかった。

一方、副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)ではメジアンが各群7.3ヶ月対3.6ヶ月と差が3ヶ月程度に広がり、ハザードレシオは0.66、95%信頼区間は0.57-0.77と上限が1を大きく下回った。ORR(客観的反応率)はmRECIST基準に則り盲検で行われた独立画像評価では41%対12%、RECIST1.1では19%対7%と、効果の差は指標によって区々だ。

優越的なのか、どっちも大差ないのか、どの指標を信じたら良いのか?考え方は簡単だ。第一に、本試験の主評価項目は全生存期間なので、これが一番信用できる。第二に、この試験は二重盲検ではなく、両剤は服用頻度が異なるので患者もどの群に割り当てられたか容易に知ることができる。このため、主観の入る余地のある薬効評価は慎重に受け止めたほうが良い。

第三に、PFSは評価を行うタイミングに左右されてしまうリスクがある。進行したら直ぐに医療施設に出頭して評価してもらえば良いのだが、ここでいう癌の縮小・進行は必ずしも症状の軽快・悪化を伴わないので本人には判断がつかない。このため、プロトコルに従って6週間毎とか12週間毎に来てもらってCT検査を行い、長辺の長さが一定以上長くなったら、その時期を推定して進行認定する。検査インターバルは4~6ヶ月が良いとされるが、本試験がどうだったのか、筆者には知識がない。

偽薬しか使わない群のある臨床試験のカプランマイヤーカーブを見て、いつも溜息を付くには、偽薬群のPFSは治験が始まるや否や下方に垂れ下がり始めるのに対して、試験薬群は第一回目の検査時期の直前まであまり下がらないことだ。何らかの方法で偽薬群に割り付けられたことを知った患者や医師が、心配して定期検査より前に検査を受けるような現象が起きているのではないかと疑ってしまう。試験薬にクロスオーバーが可能な試験では尚更だ。

PFSという指標はそれ自体は客観性が高いが、臨床試験のプロトコルや患者や医師の主観に左右される可能性がゼロではないのである。

本試験は実薬対照試験なのでNexavarを嫌う理由はないはずだが、それを言えば、京都府立医科大学や慈恵医大で行われたvalsartanの心血管アウトカム試験も実薬対照試験だった。高名な大学の高名な研究者の業績でもああいうことが起きうるのだから、研究もその評価も、厳格に行われなければならない。

リンク: 両社のプレスリリース

イグザレルト、CAD/PADに適応拡大
(2018年8月24日発表)

バイエルは、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を冠動脈疾患や末梢動脈疾患の治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。臨床試験では、アスピリン(100mg)を一日一回服用した群と比べて、Xareltoの2.5mgを一日二回服用した群のMACE(主要有害心臓イベント)は24%少なかった。

尚、この試験ではclopidogrelのような薬とアスピリンの併用が適応になる患者は除外している。

リンク: バイエルのプレスリリース






今週は以上です。

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