2017年10月1日

2017年10月1日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • フェンフルラミンのドラベ症候群試験が成功 
  • 5HT6アンタゴニストのアルツハイマー病試験がまたフェール 
  • ロシュ、パージェタのアジュバント適応拡大を申請 
  • FDA諮問委員会はPTCの筋ジストロフィー用薬を支持せず 
  • イーライリリーのCDK4/6阻害剤が早くも承認 
  • ノボ、アスパルトの新製剤が米国でも承認 
  • DupixentがEUでも承認 


【新薬開発】


フェンフルラミンのドラベ症候群試験が成功
(2017年9月29日発表)

米国カリフォルニア州の希少疾患用薬開発会社、Zogenix(Nasdaq:ZGNX)は、ZX008(fenfluramine hydrochloride)の第三相ドラベ症候群試験が成功したと発表した。もう一本進行中で、結果を見て18年下期に欧米で承認申請する計画。

ドラベ症候群は乳幼児期から痙攣発作を起こす。多くはナトリウムチャネル遺伝子の機能低下変異を持つ。fenfluramineは1990年代にダイエット薬としてブームになったが、心臓弁膜症や肺高血圧症のリスクが表面化、メーカーは数兆円のPL訴訟和解金を拠出した。当時の用量は一日60~120mg。ZX008は経口液で用量は小さい。今回の試験では一日0.8mg/kgと0.2mg/kgをテストしたところ、痙攣発作頻度が治療前(平均で40回/月)と比べて各72%と33%減少、両群とも偽薬群の17%減を有意に上回った。

二次的評価項目の多くも有意差があった由だ。深刻有害事象は各群12.5%、10.3%、10.0%。有害事象による治験離脱は各群39~40人のうち5人、ゼロ、ゼロとなっており、高用量は効果も高いが忍容性も若干悪化するようだ。尚、この試験は滴定を導入している。

上記のデータは、北米試験と欧豪試験の事前に計画された統合解析とのこと。治験登録によれば目標症例数はどちらも120人だが、統合解析対象は119人なので、患者組入れが進まず途中でプロトコルを変更したのかもしれない。

もう一本の第三相は、ドラベ症候群の標準的治療法であるstiripentol、valproate、そしてclobazamの三剤併用している患者に追加する効果を検討しており、こちらの方がハードルは高そうだ。薬物相互作用がある模様で、第1コフォートで薬物動態などを探索、モノセラピー時の0.8mg/kgに相当する0.5mg/kgを選択し、第2コフォートで偽薬対照試験を実施している。組入れは各群40例。

リンク: Zogenixのプレスリリース

5HT6アンタゴニストのアルツハイマー病試験がまたフェール
(2017年9月26日発表)

Axovant Sciences(Nasdaq:AXON)は、intepirdineの第三相軽中度アルツハイマー病試験がフェールしたと発表した。認知機能評価スコアであるADAS-Cogも、日常生活機能スコアであるADCS-ADLも偽薬群比有意な差が無かった。

intepirdineはスミスクライン・ビーチャムがSB742457として開発した5HT6アンタゴニスト。後期第二相試験がフェールし開発中止となったが、14年にAxovantの親会社であるRoivant Neurosciencesが開発販売権を取得、第三相を断行した。5HT6アンタゴニストはルンドベックのLu AE58054(idalopirdine)も第三相試験二本がフェールした。

intepirdineはレヴィ―小体性認知症の後期第二相試験も進行中で、年内に開票する見込み。アルツハイマー試験で用いた35mgに加えて、5-HT2A作用が増強される70mgもテストしている。

リンク: Axovantのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、パージェタのアジュバント適応拡大を申請
(2017年9月29日発表)

ロシュはPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)をher2陽性早期乳癌の切除術後アジュバント療法に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理された。優先審査で、期限は来年1月28日。

Perjetaはher2のHercetptin(trastuzumab)とは異なった箇所に結合する抗2C4ヒト化抗体で、her2がher1やher3とヘテロダイマーを形成するのを妨げる。これまでにher2陽性転移性乳癌の一次治療とher2陽性早期乳癌のネオアジュバント(切除前に腫瘍を小さくしておく)療法に承認されている。今回も含めて、Herceptin及び化学療法薬と併用するので費用が嵩む。

アジュバントにおける効用はAPHINITY試験で明らかにされた。浸潤性乳癌の再発・死亡のハザードレシオは0.81(95%信頼区間0.66~1.00)、p=0.045。3年浸潤性乳癌無再発生存率は94.1%と偽薬群の93.2%を上回った。統計的に有意だがギリギリセーフなので強いエビデンスとは言えず、治療効果自体もそれほど大きくない。薬にも限界効用逓減則が当てはまることを思い出させる。

全生存期間の解析は未成熟で、ハザードレシオ0.89、95%信頼区間は0.66~1.21となっている。方向性は悪くないが、乳癌の薬は心毒性を持つものが少なくなく、HerceptinもPerjetaも心臓有害事象が若干増加するので、リスクを明確に上回る便益が欲しいところだ。くどいようだが、費用が嵩むし。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はPTCの筋ジストロフィー用薬を支持せず
(2017年9月28日発表)

FDAの末梢中枢神経系薬諮問委員会は、PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)がデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬として承認申請したTranslarna(ataluren)を検討し、11人の委員のうち10人が薬効の確認が不十分と判定した。審査期限は10月24日。大方の予想通り、承認されないだろう。

DMDの多くはジストロフィンの遺伝子に欠損があり機能喪失・低下している。ストップコドンという翻訳中止箇所を示す塩基配列が出来てしまったタイプにアミノグリコシドを投与すると変異箇所をリードスルー(読み過ごす)、という発見を受けて長期投与できる物質を探索した結果、生まれたのがatalurenだ。話は似ているが、昨年米国で承認されたSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のExondys 51(eteplirsen)のような、核酸医薬ではない。

臨床成績は失望的で、第二相試験がフェール。それでも事後的サブグループ分析に基づいてEUに承認申請し、一旦は否定的意見を受けたものの、不服申し立てが奏功し、ジストロフィン遺伝子にナンセンス変異を持つ、5歳以上で歩行可能な患者に限定して条件付き承認を得ることができた。

米国はFDAが承認申請を認めなかったため第三相試験を開始してからローリング承認申請を開始したが、治験がフェールした。しかし、EU承認で強気になったのか、再び申請し、一旦は受理拒否となったものの、不服申し立てが奏功して受理させることができた。

もう一つ、PTCを勇気付けたであろうことはExondys 51の承認だ。FDAの承認審査担当部署は承認に反対したが、鶴の一声で逆転した。その後、担当部署のヘッドはFDAを去り、鶴女史は健在、米国大統領とFDA長官は規制緩和論者に交代した。エビデンスの弱い薬の承認を取ろうと思ったら、チャンスだ。

尤も、Exondys 51がジストロフィンを増やすことは確認されており、論点は、測定方法の妥当性と、臨床的な意義(筋力増強に結び付くかどうか)だった。atalurenはナンセンス型嚢胞性線維症の第三相試験もフェールしており、作用機序が疑わしくなっている。それだけに、神風が吹かない限り、承認されないだろう。


【承認】


イーライリリーのCDK4/6阻害剤が早くも承認
(2017年9月28日発表)

イーライリリーがホルモン受容体陽性her2陰性転移性乳癌用薬として申請したVerzenio(abemaciclib)がFDAに承認された。適応・用法は、ノバルティスのFemara(letrozole)のような内分泌療法の治療歴を持ち化学療法は未経験の患者にfulvestrant(アストラゼネカのFaslodex)と併用、または、内分泌療法及び化学療法を経験済みの患者にモノセラピーで用いる。承認申請が受理されたのは7月なのでスピード承認だ。

細胞周期進行に関わるCDK(サイクリン依存キナーゼ)4と6を阻害する経口剤で、前者の用途では150mgを、後者は200mgを、一日二回服用する。CDK4/6阻害剤は15年に米国で承認されたファイザーのIbrance(palbociclib)、今年3月承認のノバルティスのKisqali(ribociclib)に次ぐ三剤目。

CDK4/6阻害剤はin vitroでエストロゲンブロッカーとシナジーが見られ開発が活発化したがモノセラピー試験の成績は今一つで、好成績を上げて承認されたのはVerzenioが初。同じCDK4/6阻害剤でも力価が他の薬より4寄りであるため、好中球減少症のリスクが比較的小さく、休薬期なしに連続投与できることが寄与しているのかもしれない。

三剤の併用効果を比べると、まず、一次治療letrozole併用。Verzenioは未承認だが試験は既に成功しており早晩、承認申請されるだろう。PFS(無進行生存期間)をletrozole単剤群と比べたハザードレシオは、Ibranceが0.57、Kisqaliは0.55、Verzenioは0.54で大差なく、95%信頼区間はかなり重なっている。主戦場になりそうな一次治療に関しては三剤大差ないと考えておけば良さそうだ。

尚、Verzenioの試験はletrozoleの代わりにanastrozoleを用いることも可能だったが、単剤投与群のメジアンPFSは三試験とも14ヶ月余で同程度。

二次治療はIbranceがハザードレシオ0.46、Kisqaliは未承認、Verzenioは0.55。信頼区間はかなり重なっているが点推定値は結構違う。fulvestrant単剤投与群のメジアンPFSが各4.6ヶ月と9.3ヶ月で大きな差があり、この二本の試験を単純比較しないほうが良いかもしれない。

個性が出るのが副作用だ。Verzenio以外はG3以上の好中球減少症が高頻度で発生する。一方、Verzenioは他の二剤と異なりG3下痢の発生率が20%と高くG3血小板減少症が4%程度で発生する一方で、静脈血栓塞栓も観察されている。一次治療試験では有害事象による死亡が2.4%と対照群の1.2%を上回ったが、死因は肺感染症3例、塞栓2例、脳虚血1例などだった。

三剤とも、骨髄抑制をモニターするために治療開始前と治療中は全血球計算を行う。KisqaliとVerzenioは肝機能検査も必要。KisqaliはQT延長が見られるためECGも行う。

こうしてみると、最初に発売され適応患者数が一番多いIbranceの優位は、モノセラピー用途を除いて、揺るがないだろう。ノバルティスがFemaraを同梱したパッケージを割安な価格で発売したような、マーケティング面の工夫が必要だろう。

リンク: FDAのプレスリリース

ノボ、アスパルトの新製剤が米国でも承認
(2017年9月29日発表)

ノボ ノルディスクのFiaspがFDAに承認された。糖尿病の治療に用いるミールタイム・インスリンで、同社のインスリン・アスパルトにビタミンとアミノ酸を添加して薬力学・動態を食後のインスリン分泌に近づけた。EUでは今年1月に承認。

リンク: ノボのプレスリリース

AAAのGEP-NET用薬がEUで承認
(2017年9月29日発表)

フランスのAdvanced Accelerator Applications(Nasdaq:AAAP)のLutatheraがEUで承認された。ソマトスタチン様ペプチドにLu-177放射性核種を結合したもので、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)のうち、ソマトスタチン受容体陽性で、切除不能、転移性、進行性、G1/G2分化腫瘍の成人に用いる。

米国でも審査中で審査期限は来年1月26日。日本は富士フィルムRIファーマが権利を取得し、今月、ブリッジング試験を開始したところ。

AAAと言えば、GEP-NET用薬を複数ラインアップしているノバルティスがAAA社の買収を狙っていると一部で報道されている。

リンク: AAAのプレスリリース

DupixentがEUでも承認
(2017年9月28日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発した抗IL-4受容体アルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)がEUで承認された。中重度のアトピー性皮膚炎で全身性治療の対象者が適応になる。300mg(初回は600mg)を二週間に一回、皮注する。米国では今年3月に承認。日本は2月に承認申請された。 喘息症でも開発中。

米国では薬剤費が年間2~3万ドル前後の高価な薬だが、医薬品の費用対効果を査定するInstitute for Clinical and Economic Researchは年3万ドル相当と踏んでおり、効果や代替的治療法の少なさを考えると、贅沢は言えないのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース






今週は以上です。

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