2017年9月24日

2017年9月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • hATTRアミロイドーシス治療試験が成功 
  • bcl-2阻害剤のリツキサン併用試験が成功 
  • プレウロムチリン系抗生剤の最初の第三相が成功 
  • FDA諮問委員会、スーテントの適応拡大に意見分かれる 
  • JNJの抗IL-6抗体はFDA審査完了 
  • オプジーボ、米国は肝細胞腫を承認 
  • EUでバベンチオなどが承認 
  • Ocalivaは適正使用されていない? 


【新薬開発】


hATTRアミロイドーシス治療試験が成功
(2017年9月20日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq: ALNY)は、ALN-TTR02(patisiran)の第三相遺伝性ATTRアミロイドーシス試験が成功したと発表した。年内の米国を皮切りに世界で承認申請する予定。サノフィ・グループのジェンザイムが販売権を持つ日本の施設も第三相に参加しており、18年に承認申請予定。

AlnylamはsiRNA技術を元に遺伝子疾患の治療薬などを開発している。他の開発品で副作用が表面化し、patisiranの第三相試験のデータ監視委員会が続行の当否を検討するなど、心配な話が続いただけに、一安心だ。

この試験はポリニューロパチーを合併する患者225人を、試験薬群(0.3mg/kgを3週毎に70分点滴)と偽薬群に2対1割付してニューロパチー改善効果を検討した。主評価項目である18ヶ月間のmNISの変化でも主要な副次的項目であるQOL指標でも有意差が見られ、試験薬群は指標が改善した。データは未発表。

深刻有害事象発生率は36.5%で偽薬群の40.3%より低く、死亡率は4.7%対7.8%、有害事象による治験離脱も4.7%対14.3%と良好だった。病気の症状に関連する有害事象が少なかったのだろう。できすぎのような感じもするが...

リンク: Alnylamのプレスリリース

bcl-2阻害剤のリツキサン併用試験が成功
(2017年9月18日発表)

ロシュは、Venclexta(venetoclax、欧州名Venclyxto)の第三相再発性難治性CLL(慢性リンパ性白血病)試験が成功したと発表したRituxan併用で、PFS(無進行生存期間)を標準療法の一つであるRituxan(rituximab、和名リツキサン)とTreanda(bendamustine、和名トレアキシン)の併用と比較したところ、有意に上回った。データは未発表。

16年に欧米でCLL用薬として承認されたが、適応は17p欠損型など一部に限られていた。今回の用法が承認されれば市場が拡大する。

Venclextaは、CLLで過剰発現するアポトーシス抵抗性に係る酵素、bcl-2を阻害する。深刻有害事象は肺炎、熱性好中球減少症、自己免疫性溶血性貧血、腫瘍壊死症候群などで、少なくとも初回投与時は入院してモニターする必要がある。ロシュ・グループのジェネンテックとアッヴィの共同開発で、米国はこの二社が共同販売、海外はアッヴィが販売する。

リンク: ロシュのプレスリリース

プレウロムチリン系抗生剤の最初の第三相が成功
(2017年9月18日発表)

Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)は、BC-3781(lefamulin)の第三相市中細菌性肺炎試験が成功したと発表した。最初は静注用製剤、数日後に経口投与製剤にスイッチ可、という用法で、効果をmoxifloxacin(最初は静注、経口剤にスイッチ可、MRSA疑い例はlinezolidを追加)と比較したところ、奏効率が若干下回ったものの95%下限が閾値を上回り、非劣性解析が成功した。

抗生剤の薬効評価基準は米国とEUで異なるため本試験は両方解析した。米国基準であるECR(早期臨床的反応率)は87.3%対90.2%で2.9%下回ったが、95%下限は-8.5%となり非劣性マージンの-12.5%をクリアした。EU基準のCE-TOC(治療終了数日後の臨床的反応率)も点推定値が2~3%下回ったが95%下限は-8%強で非劣性マージンの-10%を上回った。

治療時発現有害事象は各群38%程度、治療時発現有害事象による治験離脱は2.9%対4.4%、死亡率は2.2%対1.8%で両群大差なかった。

もう一本、静注用製剤だけの第三相試験の結果が18年第1四半期に出た後で、承認申請する考え。

リンク: Nabrivaのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、スーテントの適応拡大に意見分かれる
(2017年9月19日発表)

FDA腫瘍学薬諮問委員会がファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)の適応拡大申請を検討した。腎細胞腫の摘出術を受けたが再発リスクが高い患者にアジュバント療法を施行して再発・死亡リスクを削減するもので、臨床試験は成功したが、諮問委員会の評価は賛成6人、反対6人と真っ二つに分かれた。

Sutentは末期腎細胞腫などに用いるVEGFR阻害剤。腎摘出術後アジュバント試験は北米の施設でSutentとバイエルのNexavar(sunitinib)をテストしたASSURE試験が中間解析で無益判定となった。受容体ではなくVEGFを標的とするロシュのAvastin(bavacizumab)も余命の長い疾患の試験が今一つだったので、アジュバントには適さないのかと思っていたが、Sutentを偽薬と比較したS-TRAC試験が成功した。

一日50mgを4週間服用して2週間休むスケジュールで1年間施行したところ、DFS(無病生存期間)がメジアン6.8年と偽薬群の5.6年を上回り、ハザードレシオは0.76、95%信頼区間0.59~0.97、p=0.03となった。5年無病生存率は59%対51%で、最低限望まれる治療効果の目安である10%に近い差が出ている。

全生存期間は元々十分な検出力がなく、現状ではイベント数が少ないために、ハザードレシオ0.92、95%信頼区間0.66~1.28、5年生存率81.4%対81.9%と、効くのか効かないのか分からない。

有害事象による永続的中止率は28%、原因は手掌足底発赤知覚不全症候群や高血圧など。偽薬群は5%だった。G3/4有害事象発生率は各60%と15%だった。

この試験の論点は、第一に、病状の放射線学的評価は腎細胞腫でも余命とリンクするか。他の癌とは異なり腎細胞腫では評価方法が確立していない模様だ。本試験の再発判定は殆どが放射線学的評価だった。全生存の解析結果と食い違ったのは、放射線学的評価手法が妥当ではないことを示しているのかもしれない。

第二に、エビデンスの頑強性。95%上限やp値は閾値とそれほど乖離しておらず、ボーダーライン上と言えなくもない。もう一本の試験はフェールしたのだから、真の治療効果はASSURE試験とS-TRAC試験の中間程度と考えるべきかもしれない。

第三は、副作用。高リスクとは言え今現在は完治し今後も再発しないかもしれない人に副作用の苦しみを与えるのはいかがなものか、First, Do not halmという意見だ。延命効果がないなら再発してから使っても遅くないかもしれない。

難しい問題だが、サブグループ分析で再発リスクが著しく高い人たちにも有効であったことが確認できるならば、適応拡大を承認して個々の患者に対する採否は医師に委ねるという方法もあるだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

JNJの抗IL-6抗体はFDA審査完了
(2017年9月22日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、CNTO 136(sirukumab)を中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として日米欧で承認申請していたが、米国に関しては審査完了通知を受領した。安全性に関する臨床データが不十分と判定されたようだ。

8月の関節炎諮問委員会でも13人の委員のうち12人が反対した。死亡リスクや心血管イベント、感染症、腫瘍などが高まる傾向が見られたからだ。ノイズに過ぎないかもしれないが、CNTO 136のIL-6と少し違うがIL-6受容体を標的とする抗体医薬(ロシュのActemra)が既に存在するので、承認を急ぐ必要はないと考えたのだろう。

CNTO 136は11年にグラクソ・スミスクラインが共同開発販売提携を結んだが、今年7月に権利返還を決定した。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


オプジーボ、米国は肝細胞腫を承認
(2017年9月22日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)を肝細胞腫の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。EUはCHMPが難色を示し申請撤回となったが、FDAは第二相試験の反応率データに基づいて加速承認した。バイエルのNexavar(sorafenib)による治療歴を持つ患者が適応になる。PD-L1の発現状況は不問。治験での反応率は14%だった。

臨床試験では3mg/kgを二週間毎に投与したが、承認された用量は240mgを3時間点滴静注で二週間毎に変わっている。バイアルは100mgと40mgなので複雑だが、例えば60kgの患者は使用量が増えることになる。

米国で承認されている用量用法を整理すると、多発骨髄腫にYervoyと併用する場合は3mg/kgを三週間毎、但し4回投与後の単剤維持療法は240mgを二週間毎。古典的ホジキン型リンパ腫や頭頚部扁平上皮腫は3mgを二週間毎。それ以外の、黒色腫、非小細胞性肺癌、腎細胞腫、肝細胞腫、尿路上皮細胞腫、そしてマイクロサテライト不安定性高/ミスマッチ修復不全結腸直腸癌は240mgを二週間毎と、覚えるのが大変だ。

リンク: BMSのプレスリリース

EUでバベンチオなどが承認
(2017年9月21日発表)

7月にCHMPが肯定的意見を纏めた新薬や適応拡大が、続々と承認された。

ドイツのメルクのBavencio(avelumab、和名バベンチオ)はPD-L1を標的とする完全ヒト化抗体で、転移性メルケル細胞腫という欧州で年に2500人が発症する希少疾患に用いる。PD-L1発現状況は不問、一次治療に用いることも可。ニッチだが他社がまだ手掛けていない疾患をリードインディケーションとすることで開発リードタイムを縮小、欧州に関してはロシュの抗PD-L1抗体であるTecentriq(atezolizumab)と同じタイミングで承認されたので、狙いが的中したと言えるだろう。

メルケル細胞腫は進行の早い皮膚癌で5年生存率は20%以下といわれる。臨床試験では二次治療の総合反応率が33%、一次治療は62%だった。米国では今年3月に承認。日本でも今月、第二部会を通過した。米国では再発性難治性尿路上皮細胞腫にも承認されている。ファイザーと開発販売提携。

リンク: ファイザーのプレスリリース(9/21付)

ノバルティスのRydapt(midostaurin)はFLT3阻害剤。適応は、FLT3変異陽性急性骨髄性白血病、侵襲性または血液学的新生物を伴う全身性肥満細胞症、そして肥満細胞白血病。cytarabine及びdaunorubicinと併用したmFLT3+急性骨髄性白血病試験ではメジアン生存期間が74.7ヶ月と偽薬群の25.6ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.77(95%信頼区間0.63~0.95)だった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(9/20付け)

ロシュは三件、承認された。Tecentriq(atezolizumab)はEU初承認。局所進行性/転移性の膀胱癌の二次治療(cisplatin不適は一次治療も可)と非小細胞性肺癌の化学療法後再発治療(ALKまたはEGFRに活性化変異のある患者はALK阻害剤またはEGFR阻害剤治療歴も必要)に用いる。米国で16年5月から17年4月にかけて三段階で取得した適応を一気にキャッチアップした。

リンク: ロシュのプレスリリース(9/22付け)

Gazyva(obinutuzumab)を濾胞性リンパ腫の導入療法・維持療法に用いる適応拡大も承認された。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.71とMabThera(rituximabの欧州での製品名)より有意に優れていた。

MabTheraと同じ抗CD20抗体だがマウス由来のアミノ酸が少なく、翻訳後装飾でフコースが付与されていないので抗体依存的細胞毒性が高い。既存の適応は、慢性リンパ性白血病でfludarabineが適さない患者の一次治療と、濾胞性リンパ腫の再発治療(bendamustine併用)。

リンク: ロシュのプレスリリース(9/22付け)

RoActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)を巨細胞性動脈炎の治療に用いることも承認された。米国では5月に承認。日本ではアジアや中近東に多い高安動脈炎と合わせて8月に承認。

抗IL-6受容体ヒト化抗体で、最近の話題は、CAR-Tと呼ばれる画期的な自家T細胞療法の副作用でサイトカイン放出症候群が発生した時の標準的治療法になっている。

リンク: ロシュのプレスリリース(9/22付け)

最後に、Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)のXermelo(telotristat ethyl)はカルチノイド症候群の治療薬。消化器官系神経内分泌腫瘍の合併症でセロトニンの過剰分泌により下痢などを発症する。Xermeloはセロトニン調律酵素であるTPH(トリプトファン水酸化酵素)1/2阻害剤で下痢を改善する。北米や日本以外ではイプセンが販売する。

リンク: Lexiconのプレスリリース(9/19付け)


【医薬品の安全性】


Ocalivaは適正使用されていない?
(2017年9月21日発表)

先週号のIntercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)のドクターレターに関する記事で、PBC(原発性胆汁性肝硬変)治療薬Ocaliva(obeticholic acid)の過剰投与副作用は病気が進行して肝機能が低下したことに気付く、あるいは、対処する前に発生してしまったのではないかと推測したが、性善説すぎたようだ。FDAが安全性情報を発出し、ある程度の症例情報を公表した。治療開始時点で既に中度以上の肝機能障害であったのに通常のスケジュール通りに投与した症例が少なくないようで、医療ミスが疑われる。

FDAによると、市販後の13ヶ月間に19人の死亡例が有害事象報告システムに報告された。死因が報告されている8例は病状悪化やCVDが原因とされているが、うち7例は中重度肝機能低下にも係わらず毎日5mgを服用していた。正しくは、5mgを週一回で開始して反応が不十分なら週二回、それでも不十分なら10mg週二回まで増量可、であり、この7人は倍量投与されたことになる。

深刻な肝臓障害は11例報告されており、うち6例はベースライン時点で中重度肝機能障害だったが、毎日5mg服用中に重度肝障害を発症し、3名が死亡した(上記19例に含む)。

発売以来、毎月一人以上が死亡しているというのは酷い話だ。対応をメーカーと協議中とのことなので、枠付き警告やREMS(リスク評価緩和戦略)を導入する考えかもしれない。

Ocalivaの用途で最も期待されているのはNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)だ。第三相試験中で、用量は一日10mgと25mgをテストしている。PBCでの標準用量(一日5mgで開始して10mgまで増量可)の倍以上なので、中重度肝機能低下以外の人でも肝毒性が高いかもしれない。PBC用途で適正使用を徹底させないと、NASH適応拡大も難しくなる。

Ocalivaは日本では大日本住友製薬がインライセンス、NASHの第二相試験はフェールしたが効果は概ね用量依存的だった由。この試験では10mg、20mg、40mgをテストした。

リンク: FDAの安全性情報




今週は以上です。

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