【ニュース・ヘッドライン】
- 大塚、アルツハイマー性激越治療試験は一勝一敗
- 回腸嚢炎治療用アンチセンス薬が承認申請
- ファイザー、ゼルヤンツを乾癬性関節炎に適応拡大申請
- Sunesis、vosaroxinの欧州承認申請を撤回
- エダラボン、米国でもALSに承認
- 5番目の抗PD-1/PD-L1抗体が承認
- 造骨型骨粗鬆症治療薬が承認
【新薬開発】
大塚、アルツハイマー性激越治療試験は一勝一敗
(2017年5月2日発表)
大塚製薬とルンドベックは、非定型向精神薬Rexulti(brexpiprazole、和名レキサルティ)の適応拡大試験結果を発表した。アルツハイマー性認知症の典型的な症状の一つである激越を改善する効果を検討したもので、一本は主評価項目(CMAIトータルスコアの変化)で偽薬比有意な差が出たものの副次的項目(CGI-Sの変化)はダメ、もう一本は真逆で主評価項目はフェール、副次的項目は有意だった。
両社は承認審査機関と今後の方針を相談する考え。家族や介護者にとってunmet medical needsであるため、多少効果が弱くても許容されるだろうが、そもそも、広くオフレーベル使用されている非定型向精神薬が正式に承認されていないのは突然死のリスクがあるからであり、Rexultiも治験データが精査されることになるだろう。
今回の適応拡大試験で意外なのは、二本しかやっていない模様であることだ。一般的に精神症状は客観的評価が難しく、状態が不安定で、偽薬効果が大きく出ることもあるため、偽陰性リスクに備えて臨床試験を三本実施することが珍しくない。また、評価期間は二本とも12週間だが、現実の医療では半永久的に用いるだろうから、長期安全性確認試験をやっても良かったのではないか。統合失調症では長期試験が行われたが、アルツハイマー病は突然死リスクを慎重に吟味する必要がある。
リンク: 大塚ホールディングスのプレスリリース(和文、pdfファイル)
【承認申請】
回腸嚢炎治療用アンチセンス薬が承認申請
(2017年5月1日発表)
英国のAtlantic Healthcare Limitedは、米国でalicaforsenの浣腸用製剤のローリング承認申請を開始した。適応は潰瘍性大腸炎の手術後に好発する回腸嚢炎の治療。
米国のIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製した、ICAM-1の発現を阻害するアンチセンス薬。POC試験では12人の患者に6週間に亘って毎晩浣腸したところ、PDAI(嚢炎疾病活動指数)がベースラインの11.42から6.83に改善した。臨床症状サブスケールも3.75から2.25に改善した。深刻な有害事象は見られなかった。138人を組入れた第三相試験が進行中で年内に成否が判明する見込み。
Ionisは最初のアンチセンス薬であるVitravene(fomivirsen)が98年にCMV治療薬として米国で承認され、前途洋々と見られたが、販売不振で承認返上となってしまった。しかし、13年にコレステロール治療薬Kynamro(mipomersen sodium)、16年には脊髄性筋萎縮症治療薬Spinraza(nusinersen)と、ここ数年は新薬が続々と承認されている。核酸医薬の難点であった薬物動態の改良が成果を出し始めた。
リンク: Atlantic社のプレスリリース
ファイザー、ゼルヤンツを乾癬性関節炎に適応拡大申請
(2017年5月3日発表)
ファイザーは、抗リウマチ薬として承認されているJAK阻害剤、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)を中重度活性期乾癬性関節炎の治療に用いる適応拡大申請を米国で行い受理されたことを発表した。12月に審査結果が出る見込み。臨床試験では10mgを一日二回投与する群も設定されたが、5mg一日二回と、11mg一日一回のXeljanz XRだけが申請された。
Xeljanzは元々は臓器移植後の拒絶反応防止薬として開発され、動物試験ではカルシニューリン阻害剤に引けを取らない強力な免疫抑制作用を示した。臨床入り後に自己免疫疾患の治療薬として開発の方向転換が行われたのだが、この用途では、カルシニューリン阻害剤と同様に、強すぎるきらいがある。FDAが乾癬の適応拡大を承認しなかったのは、関節炎ほど深刻な病気ではないため副作用リスクと釣り合いが取れないという判断なのだろう。一方、乾癬性関節炎はQOLに大きく影響するので、承認される可能性がありそうだ。
リンク: ファイザーのプレスリリース
【承認審査・委員会】
Sunesis、vosaroxinの欧州承認申請を撤回
(2017年5月1日発表)
Sunesis Pharmaceuticals(Nasdaq:SNSS)は、大日本住友製薬からインライセンスしたキノロン誘導体、vosaroxinを60歳以上の再発性急性骨髄性白血病の治療薬として2015年にEUで承認申請したが、撤回したことを公表した。CHMPが否定的意見を出す見込みであるため。
第三相のcytarabine併用試験はメジアン生存期間が7.5ヶ月と偽薬・cytarabine併用群の6.1ヶ月と大差なくフェールした。最初の30日間の死亡率が7.9%と偽薬群の6.6%を上回り安全性懸念も浮上した。ところが、事前に予定されていた60歳以上の患者451例だけの解析が、メジアン生存期間7.1ヶ月対5.0ヶ月、ハザードレシオ0.755、p=0.006、と良い結果になったため、EUではこのサブグループ限定で承認申請することが認められた。
一方、FDAは再試験を要求した。このような経緯があるため、今回の結果は意外ではない。
リンク: Sunesisのプレスリリース
【承認】
エダラボン、米国でもALSに承認
(2017年5月5日発表)
FDAは、田辺三菱製薬のRadicava(edaravone、和名ラジカット)をALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認した。日本で15年に効能追加されたことを知り、FDAがメーカーにアプローチした由だ。薬効と安全性のエビデンスも日本で行われた試験のようだ。
ALS Associationによると、上市は8月で一年分の価格は14.6万ドルとのこと。日本は数十万円、他にも特許切れした国があるようなので、並行輸入する動きもありそうだ。
日本で16年前に脳梗塞で発症から24時間以内の患者に使うことが承認された時は、臨床試験で24時間超の患者の転帰も有意に改善したことが信じられないというのなら24時間以内のデータも疑うべきではないかと思った。何れにせよ、そのうち治験論文が査読医学誌で刊行されれば真相に一歩近づくはずと思ったが、掲載されたのは私にとって聞いたことのない医学誌だった。抗血栓薬以外の脳梗塞治療試験が続々とフェールする中、唯一の快挙であったことを考えれば、NEJMやLancetでないのが意外だった。
何れにせよ、そのうち米国で臨床試験が行われれば白黒ハッキリするはずと思ったが、実現しなかった。
今回のALSのデータも盤石ではない。臨床試験の裏付けがあるのは状態が比較的良い患者だけだが、PDMAもFDAも適応を限定しなかったので、エビデンスレス・メディスンが行われるリスクがある。だが、ライフサイクルを考えると、改めて薬効確認試験が行われる可能性は低そうだ。
二人のALS患者がオランダで設立したTreeway社がedaravoneの経口投与用製剤、TW001を開発中で、欧米で希少疾患用薬指定を受けている。Radicavaは60分点滴静注で、28日サイクルで最初は14日間連続、その後のサイクルは10日間投与する。経口剤なら連続投与することで薬効をパワーアップできるかもしれない。また、Radicavaの深刻な有害事象として蕁麻疹や膨張、呼吸困難、添加物である亜硫酸水素ナトリウムに対するアレルギー反応が挙げられているが、この幾つかは経口剤なら回避できるかもしれない。
承認を取るだけだったら生物学的同等性試験を行えば十分だろうが、もし可能ならば、例えばALS治療薬として承認されている経口剤、Rilutek(riluzole)を活性対照薬として、改めて薬効を確認してほしいものだ(日本の試験は9割の患者がRilutekを服用していたので実質的にアドオン試験となっている)。
リンク: FDAのリリース
リンク: Radicavaの米国向け情報サイト
5番目の抗PD-1/PD-L1抗体が承認
(2017年5月1日発表)
アストラゼネカは、Imfinzi(durvalumab)が尿路上皮細胞腫用薬として米国で承認されたと発表した。白金薬治療歴を持つ患者の二次治療として、10mg/kgを二週間に一回、60分点滴静注する。
PD-L1発現状況に関係なく使用することができるが、薬効のエビデンスとなった第2相試験では、PD-L1高発現サブグループ(被験者のほぼ半分が該当)のORR(客観的反応率)は26%、判定不能例では21%、低・無発現サブグループでは4%となっており、コストや副作用を考えると高発現に限定したほうが良いのではないだろうか。
ImfinziはPD-L1を標的とするIgG1カッパ型完全ヒト化抗体で、抗PD-L1抗体としてはロシュのTecentriq(atezolizumab)、独メルク/ファイザーのBavencio(avelumab)に次ぐ三剤目、PD-L1の受容体であるPD-1を標的とするMSDのKeytruda(pembrolizumab)やBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)も含めれば5剤目。
膀胱癌は抗PD-1/PD-L1の得意分野で、5剤のうちTecentriqとOpdivoが既に承認、KeytrudaやBavencioは適応拡大申請中で審査期限は各6月と8月となっており、レッドオーシャン状態だ。
薬効を比較する上で厄介なのは、PD-L1発現検査の方法が異なること。Imfinziの試験はTecentriqと同様に、ロシュの子会社であるVentana Medical Systemsのアッセイを用いているが、高発現の評価方法が異なる模様であり、PD-L1サブグループだけのORRを比較することはできない。かといって、全ユニバースのORRは陰性患者の構成比に左右される可能性があり、使いたくない。何とかならないものか。
分かり易い違いは投与頻度。ImfinziとOpdivo、Bavencioは2週間に一回、ImfinziとTecentriqは3週間に一回。末期癌は元々のQOLが低いが、一次治療の患者が限られた日々を有効に過ごすことを考えると、医療施設に行く回数は少ない方が良い。
用量は尿路上皮細胞腫ではImfinziとBavencio以外は体重を問わず同一。体重に合わせて用量を変えるのは血中濃度を同一にするための工夫だが、太っている人は薬剤費が高くなり、また、使い残しが出やすいので、経済的には固定のほうが良い。抗PD-1/PD-L1抗体は用量反応相関があまり明確ではないので、統一する余地はありそうだ。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
造骨型骨粗鬆症治療薬が承認
(2017年4月28日発表)
Radius Health(Nasdaq:RDUS)はTymlos(abaloparatide)が閉経後骨粗鬆症治療薬としてFDAに承認されたと発表した。骨損壊リスクが高い患者に用いる。
甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)のアナログで、類似薬であるイーライリリーのForteo(teriparatide)と同様に、破骨細胞抑制というよりは造骨細胞を活性化するアナボリック作用を持つ。欠点もForteoと同様。レーベルには、癌原性試験でオスとメスのラットに臨床用量の4倍以上を投与したら骨肉腫が増加したと枠付き警告されている。マウスについては記されていないのでリスクがなかったと考えれば、二種類以上の動物で雄雌両方で増加という癌原性判定基準には該当しないことになるが、気持ち悪い。
Forteoと同様に、二年以上の連続投与は推奨しないことも枠付き警告された。
リンク: Radius社のプレスリリース
今週は以上です。
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