【ニュース・ヘッドライン】
- シャイアー、遺伝性血管浮腫用薬を承認申請へ
- アムジェン、片頭痛発作予防薬を承認申請
- バイエル、PI3K阻害剤を承認申請
- Aerie社、緑内障治療の新薬を再び承認申請
- CHMPが自家軟骨細胞療法などの承認を支持
- キイトルーダ、膀胱癌に承認
- FDA、Kalydecoの適応人口を更に拡大
- FDA、カナグルの下肢切断リスクを枠付き警告
【新薬開発】
シャイアー、遺伝性血管浮腫用薬を承認申請へ
(2017年5月18日発表)
シャイアーはlanadelumabの第三相HAE(遺伝性血管浮腫)発作予防試験が成功したと発表した。18年始めまでに承認申請する考え。
HAEは有病率が3万人に一人の希少疾患。補体系に係るC1エステラーゼの遺伝子欠損・変異により、皮膚や小腸、口、喉に痛みを伴う浮腫ができ、喉で起きた場合は命に関わることもある。
lanadelumabは血漿カリクレイン(pKal)を標的とする完全ヒト化抗体で、16年に59億ドルで買収したDyax社がDX-2930として開発したもの。特徴は投与方法が簡便であること。同社の血漿由来ヒトC1エステラーゼ・インヒビター、Cinryzeは週二回点滴静注だが、二週間あるいは四週間に一回の皮注で足りる。
第三相試験では、300mgを二週間毎に投与した群では発作が偽薬比87%少なかった。150mg四週間毎、300mg四週間毎の各群も偽薬比有意に減少した。主な有害事象は注射箇所痛。
リンク: シャイアーのプレスリリース
【承認申請】
アムジェン、片頭痛発作予防薬を承認申請
(2017年5月18日発表)
アムジェンは、AMG 334(erenumab)を片頭痛発作予防薬として米国で承認申請した。CGRP(calcitonin gene-related peptide)を標的とする完全ヒト化抗体で、慢性片頭痛や反復性片頭痛(月に4~14日発症)の患者に、月一回、皮注する。三本の薬効確認試験では、月間発症日数の減少が偽薬群より1~2日多かった。
イーライリリーも抗CGRPヒト化抗体、LY2951742(galcanezumab)の第三相試験が成功、下期に米国などで承認申請する予定。投与頻度や試験成績は両剤とも大差ない。
アムジェンはアルツハイマー病や片頭痛領域でノバルティスと共同開発提携を結んでおり、AMG 334の販売は米国は共同、海外(日本は除く)はノバルティスが販売する。
リンク: アムジェンのプレスリリース
バイエル、PI3K阻害剤を承認申請
(2017年5月17日発表)
バイエルは、BAY 80-6946(copanlisib)を米国で濾胞性リンパ腫の三次治療薬として承認申請し受理されたと発表した。希少疾患用薬指定とファーストトラック指定を持っており、優先審査を受ける。
再発性難治性低悪性度非ホジキン型リンパ腫の第二相試験に基づく加速承認申請で、濾胞性104例におけるORR(客観的反応率)は59%(うち14%は完全反応)、メジアン反応持続期間は52週間以上だった。G3以上の有害事象は高血糖が40%の患者で、高血圧症が23%で、発生した。
作用機序は、B細胞の活性化や生存、トラフィッキングに係るphosphoinositide-3 kinase(PI3K)の阻害。ファースト・イン・クラスであるギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のZydelig(idelalisib)は14年に米国で難治性濾胞性リンパ腫と再発性慢性リンパ性白血病用薬として承認された。copanlisibはPI3Kデルタだけでなくアルファも阻害する汎クラスI PI3K阻害剤であることが特徴。重篤感染症のリスクや肝毒性が小さいようなら長所になりうるのではないか。
PI3K阻害剤の開発は活発で、インフィニティ・ファーマスーティカルズやノバルティスも第三相試験中。
リンク: バイエルのプレスリリース
Aerie社、緑内障治療の新薬を再び承認申請
(2017年5月15日発表)
Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)は、Rhopressa(netarsudil)を緑内障治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年2月28日。眼球における液排出経路である小柱網を標的とする画期的新薬で、一日一回の点眼で足りる。臨床試験では、眼圧が26 mmHg未満のサブグループにおける効果がtimololの一日二回点眼と非劣性だった。
16年9月に承認申請したが、製造会社が承認前検査(新薬承認に際してFDAが行う工場査察)を受ける準備ができていないという理由で翌月に撤回した経緯がある。
リンク: Aerie社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
CHMPが自家軟骨細胞療法などの承認を支持
(2017年5月19日発表)
EUの薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、自家軟骨細胞療法などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域などで承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
まず、ドイツのco.don AG(FSE:CNWK)が承認申請したSpheroxは、ドイツで97年以来、販売されている自家軟骨細胞療法。患者の軟骨細胞の球状凝集体をex vivoで培養し関節鏡的に移植、欠損部位の再生を促す。症候性で10平方センチメートル以下の大腿顆・膝蓋骨軟骨欠損の治療に用いる。二本の臨床試験でKOOS(疼痛や生活機能、QOLに関する患者アンケート)が有意に改善した。副作用は創傷治癒の遅れや関節拘束など。
先端医療としてCommittee for Advanced Therapiesが審査、CHMPに肯定的意見を出すよう勧告したもの。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: co.don社のプレスリリース(5/18付)
イタリアのDompe farmaceutici S.p.A.が承認申請したOxervate(cenegermin)は遺伝子組換え型ヒト神経成長因子の点眼液。神経栄養性角膜炎の治療に用いる。この疾患は三叉神経に損傷があり角膜の感覚が低下・欠如しており、角膜細胞のヒーリングに必要な物質が分泌されにくくなっている。重度神経栄養性角膜炎は希少疾患だが失明のリスクがある。
リンク: EMAのプレスリリース
ハンガリーのゲデオン・リヒターのReagila(cariprazine)はD3/D2受容体パーシャル・アゴニスト。統合失調症の治療に用いる。米国ではアラガン(NYSE:AGN)がインライセンスし、15年にVraylarという製品名で承認を取得した。日本周辺は田辺三菱製薬が導入。
デンマークのレオ ファーマが承認申請したKyntheum(brodalumab、米国名Siliq、和名ルミセフ)は抗IL-17受容体A完全ヒト化抗体。中重度乾癬を治療する。アムジェンが創製しアストラゼネカと共同開発したが、臨床試験で自殺思慮・試行が見られたためアムジェンは離脱、アストラゼネカも権利を他社に譲渡した。欧州の権利を取得したのが今回のレオ ファーマだ。
米国ではValeant(NYSE:VRX)が今年2月に販売承認を取得したが、懸念された通り、自殺思慮・試行リスクが枠付き警告された。日本は協和発酵キリンが16年に発売。
リンク: レオ ファーマのプレスリリース(pdfファイル)
スイスのVifor Pharma Group(SIX:VIFN)のVeltassa(patiromer)は高カリウム血症の治療薬。経口液用粉末で、食中に服用すると、結腸でカリウムに結合、そのまま排泄される。主な有害事象は便秘、下痢、低マグネシウム血症など。様々な薬と結合するため、数時間、離して服用する必要がある。米国では15年に承認。
リンク: Viforのプレスリリース
一方、否定的意見となったのは、まず、Xbiotech(Nasdaq:XBIT)のXilonix。抗IL-1アルファ・ヒトモノクローナル抗体で、結腸直腸癌患者のリーンマスやQOLを改善する薬として承認申請され、加速審査を受けたが、支持されなかった。リーンマスで見てもQOLでも改善効果が明確ではなく、重大な感染症リスクがあり、臨床試験用と市販用の製品の同等性にも懸念があるため。
Xbiotechは4月に否定的意見が出るであろうことを公表済み。米国では承認申請が認められず第三相試験を実施中なので、その結果を待って今後を決めることになりそうだ。
ABサイエンスのMasipro(masitinib)は今度は全身性肥満細胞症の治療薬として承認申請されたが今後も否定的意見となった。治験施設査察時に深刻なGCP(治験実施基準)違反が判明しデータの信頼性が損なわれたこと、安全性データが限定的であること、好中球減少症のような副作用が懸念されること、の三点がボトルネックとなった。
主要な適応拡大は、ノバルティスのZykadia(ceritinib、ジカディア)をALK再編成陽性末期非小細胞性肺癌の一次治療薬として単剤投与することが支持された。Alimta(pemetrexed)及び白金薬の併用療法に追加する三剤併用を検討した第三相非扁平上皮性非小細胞性肺癌試験で、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が16.6ヶ月と二剤併用群の8.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.55、有意に優れていた。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース
【承認】
キイトルーダ、膀胱癌に承認
(2017年5月18日発表)
MSDのKeytruda(pembrolizumab)を末期・転移性尿路上皮細胞腫に用いる適応拡大がFDAに承認された。二次治療用途だが、cisplatin不適患者なら一次治療可。200mgを3週間毎に点滴静注する。
二次治療試験は中間解析で成功認定。メジアン生存期間が10.3ヶ月と医師が選んだ薬を投与した群の7.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、ログランクp=0.0022となった。共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間)は1.1ヶ月の差に留まりフェールした。
一次治療のエビデンスは第二相試験。16年のESMO発表によると、客観的反応率は24%だった。
抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は多くが膀胱癌の承認を取得・申請中だが、ロシュのTecentriq(atezolizumab)の市販後薬効確認試験がフェールしたため、反応率を評価するだけで足りるのか、一抹の不安が生じている。KeytrudaもPFS解析がフェールと紙一重だが、暗中模索している人には延命効果のエビデンスが燦然と輝いてみえる。
リンク: MSDのプレスリリース
FDA、Kalydecoの適応人口を更に拡大
(2017年5月17日発表)
FDAは、バーテックス・ファーマシューティカルズのKalydeco(ivacaftor)の適応拡大を承認した。CFTR遺伝子に特定の変異を持つ嚢胞性線維症の治療薬で、12年の初承認以降も対象となる変異型を増やしてきた。最初はG551D変異型だけだったが、14年2月にはG1244Dなど8種類の変異型が、同年12月にはR117H変異型が、今回、23種類の変異型が追加され、合計33種類となった。
カバレッジは広がったが米国の対象患者数は初回承認時の1000人が2000~3000人になった程度だ。バーテックスは15年にOrkambi(lumacaftorとivacaftorの合剤)が承認されたが、適応になるF508ホモ欠損型は8000人以上である。経済性だけを考えたら、Kalydecoの適応を100人、200人単位で積み上げるよりも他の新薬に開発資源を投入したほうが効率が良い。
だからこそ、直ぐには適応にならない少数の患者を見捨てずに開発を一歩ずつ進めてきたバーティックスの姿勢は称賛に値する。
FDAも、患者数が少ないため十分な規模の臨床試験を実施できない条件下で、in vitroのデータを元に臨床的効用を判定する手法を採用したことをアピールするプレスリリースを出している。新規23変異型のうち臨床試験データがあるのは8変異19例だけで、承認が1年遅れたのはこれが理由と推測されるが、既存の10変異型におけるin vitroと臨床データの相関を元に、上手くブリッジングできるモデルを構築できたのだろう。
リンク: ヴァーテックスのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース
【医薬品の安全性】
FDA、カナグルの下肢切断リスクを枠付き警告
(2017年5月16日発表)
FDAは、Invokana(和名カナグル)を始めとするcanagliflozin配合剤について、下肢切断リスクを添付文書で枠付き警告することを発表した。昨年、心血管アウトカム試験の中間安全性評価でリスクが表面化。EUのほうが情報提供も警告強化も一歩先行しているが、FDAは、少なくとも現時点では、対象をcanagliflozinだけに留めSGLT2阻害剤全体に広げていないことが印象的だ。大西洋の東西で見解が分かれることは珍しくないが、日本の当局や学会はどう考えているのだろうか?
米国は血糖治療薬の承認に際して心血管リスクが高まらないことを要求している。血糖治療の目的は大血管性合併症や腎障害や感染症、下肢切断などの小血管性合併症のリスクを削減することなので、もし副作用で増えてしまうとしたら話が違う。
規制の発端はPPARガンマ作動剤だ。第一号のトログリタゾンは肝毒性で販売中止になったが、第二号のロジグリタゾンは心不全や心筋梗塞、第三号のピオグリタゾンも心不全のリスクが発覚、警告が強化されるとともに、新薬の心血管リスク評価が厳しくなった。尚、グリタゾンは様々な病気の治療薬としての可能性を秘めていて開発品が数多くあったが、癌原性試験を経て開発中止になったものが少なくなく、今日ではすっかり人気のない開発分野になってしまった。
さて、血糖治療薬は長期間服用する薬なので通常の臨床試験より長い期間、効果の持続性や副作用を監視する必要がある。糖尿病の患者は多いので発生率が1000人年に1例でも多くの患者が被害を受けることになるため、大規模な試験で稀だが深刻な副作用を確認する必要がある。血糖治療薬は降圧剤と比べて忍容性に難のあるものが多いが、幸い、選択肢は多いので、より安全なものを使えばよい。
このような制度・環境の下、ジョンソン・エンド・ジョンソンと田辺三菱製薬はcanagliflozinの心血管アウトカム試験CANVASと腎障害予防効果を検討するCANVAS-R試験を実施している。下肢切断リスクはこの二本の安全性監視データから表面化したもので、巨額の予算を投じてでも長期大規模試験を行う価値がまたまた確認された格好だ。
進行中の試験なのでデータは集計時点により変動するが、今回のFDAの発表によると、CANVAS試験では偽薬、100mg、300mgの各群の下肢切断発生率(1000人年当り)は2.8回、6.2回、5.5回で、ハザードレシオは両用量とも2倍以上、95%信頼区間の下限1.2以上。CANVAS-R(100mgで開始、300mgまで増量可)でも偽薬群4.2回に対して7.9回、ハザードレシオ1.8以上、95%下限1.1以上となった。二つの大規模長期試験でリスクが再現されたのだから、疑う余地は小さそうだ。
FDAは、canagliflozinによる治療を行う前に下肢切断のリスク因子を評価するよう求めている。下肢切断歴、末梢血管疾患、神経症、糖尿病性足潰瘍などだ。治療中は感染症、疼痛、下肢潰瘍などの兆候や症状に注意し、発生したら投与を止める。患者にもcanagliflozinが切断リスク上昇と関連していることと、注意すべき兆候症状を伝える。
枠付き警告は重大な副作用を表しており、TV広告などを行う時でもキチンと伝えなければならない。医師は、患者にキチンと伝えないと後で医療過誤訴訟に巻き込まれる可能性がある。何かと制約があり、販促面で不利だ。
リンク: FDAの安全性情報
今週は以上です。
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