2015年5月31日

海外医薬ニュース2015年5月31日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ASCO:オプジーボも肺癌ではPD-L1発現だけ?
  • ASCO:KeytrudaはMMR不全型大腸がんに有効な可能性
  • ASCO:CAR-Tが引き続き良好なデータ
  • ASCO:アバスチンは中皮腫一次治療に有効
  • ASCO:Gazyvaの併用試験が成功
  • ASCO:Ibranceの乳癌二次治療併用試験が成功
  • ASCO:Imbruvicaの三剤併用試験が成功
  • MSD、HCV治療用コンビ薬を承認申請
  • FDAが二種類のIBS-D治療薬を承認
  • ラパリムスが米国でもリンパ脈管筋腫症に適応拡大
  • ベーリンガー、COPD用合剤が米国で承認

【新薬開発】


ASCO:オプジーボも肺癌ではPD-L1発現だけ?
(2015年5月29日発表)

BMSが小野薬品と共同開発している抗PD-1完全ヒト化抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第三相非扁平上皮非小細胞性肺癌二次治療試験の結果がASCO米国臨床腫瘍学会で発表された。標準療法薬の一つであるdocetaxelと比べて、全生存のハザードレシオ(HR)が0.73、95%信頼区間0.59~0.89、p=0.0015と良い結果だった。今年3月に扁平上皮型の非小細胞性肺癌の二次治療薬として米国で承認されたが、この試験に基づいて腺腫などそれ以外のタイプにも適応拡大されるのではないか。

意外だったのは、このCheckMate-057試験ではPD-L1(PD-1のレガンドの一つ)が発現していないタイプには効果が感じられないこと。閾値は三種類設定されたが、例えば1%以上発現症例(判定可能例の54%程度を占めた)ではHRが0.59、メジアン生存期間は17.2ヶ月とdocetaxel群の9.0ヶ月をかなり上回ったものの、1%未満では各0.90、10.4ヶ月対10.1ヶ月。また、10%以上発現サブグループ(同36%)では各0.40、19.4ヶ月対8.0ヶ月と大変良かったが10%未満では1.00、9.9ヶ月対10.3ヶ月だった。

docetaxelと同程度なら悪くはなく、忍容性はdocetaxelよりは良さそうだが、新薬の中でも高価な薬とGE化した薬の効果が大差ないのは悩ましい。Opdivoは超大型化が期待されている薬なので、全員が使うのか、それとも36%の患者だけなのかは重要な問題である(正確に言えば評価可能な78%の患者の36%なので28%)。

MSDの抗PD-1ヒト化抗体Keytruda(pembrolizumab)やロシュの抗PD-L1抗体RG7446/MPDL3280A(atezolizumab)の試験でもPD-L1発現と相関性が見られたので、今回の報告はそれ自体は首肯できるものだ。しかし、改めて不思議に思うのは、何故Opdivoの扁平上皮非小細胞性肺癌の第三相では相関がみられなかったのか、ということだ。HR0.59なので057試験の発現1%以上のデータと同程度の良い結果が、全ユニバースの解析で出ている。

抗PD-1抗体に関しては新しい応答性予測因子も浮上してきた(次項参照)。癌のタイプや様々な予測因子に基づいて適否を木目細かく検討する必要がありそうだ。

尚、BMSのプレスリリースでは057試験の主評価項目をPFS(無進行生存期間)と記しているが、Paz-Aresらの抄録や治験登録には全生存期間と記されているため、本稿では後者に従った。

リンク: Paz-Aresらの抄録(LBA109、2015ASCO)
リンク: BMSのプレスリリース

ASCO:KeytrudaはMMR不全型大腸がんに有効な可能性
(2015年5月29日発表)

抗PD-1抗体の応答性予測因子として、MMR(ミスマッチ修復)不全型が浮上した。Leらが行った第二相末期結腸直腸癌試験で、ORR(客観的反応率)が62%(13例中8例)と有効性が示唆された。一方、『堪能型(proficient)』の25例ではゼロだった。MSDは承認申請用の第二相試験を開始する予定。

MMR不全は細胞分裂時に発生する遺伝子複製ミスを修復する機能が弱い。この試験では平均1700ヶ所の変異があり、堪能型の70ヶ所より顕著に多かった。癌患者の5~20%がMMR不全で、進行した癌の方が比率が高いようだ。

MMR不全がなぜ予測因子になりうるのか?抄録著者らは、変異遺伝子が産生する変な蛋白が免疫応答を誘導するからと考えているようだ。

今回のASCOではOpdivoの肝細胞腫試験やKeytrudaの頭頸部癌試験の報告が行われているが、新しい切り口が見つかるにつれて用途が更に広がっていきそうだ。

リンク: Leらの抄録(LBA100、2015ASCO)
リンク: MSDのプレスリリース

ASCO:CAR-Tが引き続き良好なデータ
(2015年5月30日発表)

Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、キメラ抗原受容体Tセル療法(CAR-T)であるJACR015のALL(急性リンパ芽球性白血病)試験の結果をASCOで発表した。再発性または難治性のBセルALLを組入れた試験で、薬効評価が可能な38例中33例(87%)が完全寛解、メジアン生存期間は8.5ヶ月だった。

CAR-Tの難点は免疫を過度に刺激しサイトカイン放出症候群を誘導してしまうリスク。この試験では23%が重度サイトカイン放出症候群と判定されたが、全般的に可逆的だった模様だ。グレード3/4神経毒性の発生率は28%。毒性による死亡は39例中3例あったが、一例は試験薬とは無関係と評価された由。

Junoは承認申請用の試験を開始する考え。ノバルティスのCAR-Tとの開発競争が本格化する。

リンク: Junoのプレスリリース

ASCO:アバスチンは中皮腫一次治療に有効
(2015年5月30日発表)

ロシュは、フランスの共同治験グループが主導したMAPS試験の結果がASCOで報告されたと発表した。悪性胸膜中皮腫の一次治療として、Alimta(pemetrexed)とcisplatinを併用する標準療法と、更にAvastin(bevacizumab)を追加する三剤併用法を比較したもので、全生存のHRが0.76、p=0.0127、メジアン生存期間は18.8ヶ月と標準療法群の16.1ヶ月を上回った。グレード3~4の有害事象発生率は47.3%で標準療法群の49.6%と大差なかった。

治療効果はそれほど大きくないが、忍容性がそれほど悪化しないなら、選択肢の一つになりそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASCO:Gazyvaの併用試験が成功
(2015年5月30日発表)

ロシュは、Gazyva(obinutuzumab)の緩慢性非ホジキン型リンパ腫併用試験の結果がASCOで報告されたと発表した。Rituxan(rituximab、和名リツキサン)抵抗性の患者をbendamustine(和名トレアキシン)を投与する群とGazyvaを併用する群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間)を比較したもの。Gazyvaはbendamustineの投与が終わった後も維持療法として最長2年間、投与した。

結果は、HR0.55、p=0.0001と、併用群が有意に上回った。単剤群のメジアンPFSは14.9ヶ月、併用群は未だメジアンに到達していない。この解析は第三者の査読を受けたデータだが、治験医の評価に基づくメジアンPFSは各14.0ヶ月と29.2ヶ月と大きな違いを示した。グレード3~4の有害事象では、白血球減少症や点滴関連反応、熱性白血球減少症が増加した。

GazyvaはRituxanと同じ抗CD20抗体だがフコースを除去することにより免疫刺激力を強化している。米国で13年に慢性リンパ性白血病用薬として承認された。今回の適応症でも適応拡大申請される見込み。Rituxanは様々な疾患、用法が承認されている。適応症は緩徐が多く治験に時間が掛かるため中々追いつかないが、将来はRituxanに代わる第一選択薬になるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASCO:Ibranceの乳癌二次治療併用試験が成功
(2015年5月30日発表)

ファイザーは、CDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib)の乳癌試験のデータがASCOで明らかにされたと発表した。15年に米国で承認されているが、第三相対照試験で延命効果が確認されたのは初めて。

このPALOMA-3試験は、ホルモン受容体陽性her2陰性の転移性乳癌でホルモン療法に反応しなくなった患者をFemara(letrozole)単剤投与群とIbrance併用群に無作為化割付してPFSを比較したもの。結果は、HR0.42、pは0.000001未満、メジアンPFSは9.2ヶ月で単剤投与群の3.8ヶ月を上回った。深刻な有害事象の発生率は両群大差なかった。

Ibranceはin vitroでアロマターゼ阻害剤とシナジーが見られ、Femaraなどとの併用で臨床開発されている。一次治療も進行中。

リンク: Turnerらの抄録(LBA502、2015ASCO)
リンク: ファイザーのプレスリリース

ASCO:Imbruvicaの三剤併用試験が成功
(2015年5月30日発表)

Pharmacyclics(Nasdaq:PCYC)は、Imbruvica(ibrutinib)の第三相再発性難治性慢性リンパ性白血病/小細胞リンパ性白血病試験のデータがASCOで公表されたと発表した。Rituxan(rituximab)とbendamustineを併用する標準療法の一つと、更にImbruvicaも投与する三剤併用群のPFS(第三者が査読)を比較したもの。

結果は、中間解析でHR0.203、95%信頼区間0.15~0.276と大変良い結果になった。メジアン値は標準療法群が13.3ヶ月、三剤併用群は未達。

Imbruvicaはbtkを阻害する経口剤。Pharmacyclicsがジョンソン・エンド・ジョンソンと提携して開発し、13年にマントルセルリンパ腫二次治療に、14年には慢性リンパ性白血病/小細胞リンパ性白血病二次治療でも、米国で承認された。どちらもモノセラピーなので、今回の用法を追加承認申請することになるだろう。尚、Pharmacyclicsはアッヴィが買収する予定。

リンク: Pharmacyclicsのプレスリリース

【承認申請】


MSD、HCV治療用コンビ薬を承認申請
(2015年5月28日発表)

MSDは、汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤のgrazoprevirとNS5A複製複合体阻害剤のelbasvirを配合したコンビ薬を米国で承認申請したと発表した。慢性C型肝炎のうち、遺伝子型1型、4型、6型の治療に用いる。一日一回一錠を12週間、経口投与するだけなので簡便。但し、4型は16週間またはribavirin併用で12週間、6型はribavirin併用16週間の方が良さそうだ。一部の患者向けにブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認】


FDAが二種類のIBS-D治療薬を承認
(2015年5月27日発表)

FDAは二種類のIBS-D(下痢型過敏性腸症候群)治療薬を承認したと発表した。一つはアクタビス(NYSE:ACT)が昨年、フォレストを買収して入手したViberzi(eluxadoline)。元々はヤンセン(JNJ)からライセンスしたもの。オピオイド受容体のうち、ミューとカッパにはアゴニストとして、デルタにはアンタゴニストとして作用する。

オディ括約筋の痙攣を誘導するリスクがあり、FDAは総胆管や膵管に閉塞を持つ患者やアルコール飲料を一日三回超飲む人を禁忌とした。一日二回、経口投与する。麻薬指定を経て発売される見込み。

もう一つはバレアント(NYSE:VRX)がサリックスを買収して入手したXifaxan(rifaximin)。抗生剤の誘導体で、旅行者の大腸菌による下痢の治療や、顕性肝性脳症のリスク削減で承認されている。IBS-Dにおける作用機序は不明だが、胃腸の細菌の変化が関連すると考えられている。有害事象は悪心、ALT上昇など。一日三回、経口投与する。

リンク: FDAのリリース
リンク: アクタビスのプレスリリース
リンク: バレアントのプレスリリース

ラパリムスが米国でもリンパ脈管筋腫症に適応拡大
(2015年5月29日発表)

FDAは、ファイザーのRapamune(sirolimus、和名ラパリムス)をリンパ脈管筋腫症の治療に用いることを承認した。日本では世界に先駆けて昨年7月に承認されている。mTOR阻害剤で、腎移植後の拒絶反応予防などの用途で承認されている。

リンパ脈管筋腫症は米国の推定患者数が800人の希少疾患。平滑筋様細胞が異常増殖し、肺や腎臓、リンパ系に障害を齎す。再生産年齢の女性が多く、致死的なことも少なくない。平滑筋様細胞の増殖にmTORが関与していることから治験が行われた。

リンク: FDAのリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

ベーリンガー、COPD用合剤が米国で承認
(2015年5月26日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Stiolto RespimatがFDAにCOPD維持療法薬として承認されたと発表した。M3受容体拮抗剤のSpiriva(tiotropium、和名スピリーバ)と長期作用性ベータ2作用剤Striverdi(olodaterol)のコンビ薬で、一日一回吸入する。

COPDは疾病啓蒙活動が成功し治療を受ける患者が増加、それに伴い維持療法薬の市場も拡大した。SpirivaはM3受容体拮抗剤のベストセラーだがGSKやノバルティスなど他社も単剤、コンビ薬の開発・発売を活発化しており、Stioltoは重要な戦力になりそうだ。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース


今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿