2015年5月10日

海外医薬ニュース2015年5月10日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • アッヴィ、bcl-2阻害剤をCLLに承認申請へ
  • ヒュミラは非感染性ぶどう膜炎にも有効
  • ADA-SCIDの遺伝子療法がEUで承認申請
  • moxifloxacinが米国でペストに適応拡大
  • ノバルティス、ALK阻害剤がEUで承認


【新薬開発】


アッヴィ、bcl-2阻害剤をCLLに承認申請へ
(2015年5月6日発表)

アッヴィは、ロシュと共同開発しているbcl-2阻害剤、ABT-199/RG7601/GDC0199(venetoclax)を再発難治性慢性リンパ性白血病(CLL)用薬として欧米で承認申請する計画だ。FDAが17番染色体短腕(17p)欠損型にブレークスルー・セラピー指定したことを受けて公表した。急性骨髄性白血病などでも開発中。

bcl-2はリンパ球などのアポトーシスを抑制する蛋白で、CLLではしばしば過剰発現している。ジェンタがアベンティス(当時)と提携してoblimersenの第三相CLL試験を行ったことがあるが、惜しくもフェールした。oblimersenがblc-2の転写を阻害するアンチセンス核酸医薬であるのに対して、ABT-199は天然のアンタゴニストであるBH3蛋白の類縁体で経口投与が可能。アボット時代の07年にジェネンテックとbcl-2阻害剤やVEGFR阻害剤の共同開発を開始した。

13年に再発難治性CLLの第三相を開始。Rituxan(rituximab)併用で、標準的療法であるRituxanとTreanda(bendamustine、和名トレアキシン)の併用と効果を比較する。結果が判明するのは18年頃のようなので、今回の承認申請は昨年のASH(米国血液学会)で報告された後期第一相試験を薬効・安全性のエビデンスにするのだろう。

49人を組入れてRituxanと併用する時の至適用量を探索した試験で、ORR(客観的反応率)が88%、CR/CRi(完全反応又は血小板数など一項目を除いて完全反応)も31%と高い活性を示した。再発難治性CLLでは30~50%に17p欠損が見られ、治療応答性が低く予後が悪いとされるが、この試験では17p欠損型にも有効であった由。

腫瘍壊死症候群が1例発生したが、用量漸増のペースを少し遅らせるプロトコル変更の後は発生しなかった由。グレード3/4の有害事象は好中球減少症が47%、血小板減少症が16%、貧血が14%で発生した。メカニズム的に止むを得ないことだが骨髄抑制のリスクが高い。用量は200~600mg(一日一回)を試験したが、投与制限的毒性は発生せず、総合的判断で400mgが至適と判定した。症例数が少ないせいか効果も副作用も数値を見る限りでは用量相関していない。

今年3月にはファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)を210億ドルで買収する計画を発表。ジョンソン・エンド・ジョンソンと提携してImbruvica(ibrutinib)を開発販売している会社で、適応症の一つがCLLであり、17p欠損型に対する有効性が認められている。ABT-199と異なった作用機序でアポトーシスを誘導するBtk阻害剤なので、併用でシナジーを生むことができるかもしれない。少なくともマーケティング面のシナジーはありそうだ。

リンク: アッヴィのプレスリリース

ヒュミラは非感染性ぶどう膜炎にも有効
(2015年5月5日発表)

アッヴィは、Humira(adalimumab)の第三相非感染性ぶどう膜炎試験が成功したと発表した。年内に欧米で適応拡大申請する予定。抗TNFアルファ抗体が登場してから16年経ち、第一号であるジョンソン・エンド・ジョンソンのRemicade(infliximab)はバイオシミラーも出始めたが、用途の拡大は止まる処を知らない。

感染症以外の原因で発生するぶどう膜炎は自己免疫疾患と考えられており、治療はステロイドなどを用いる。今回の試験は全身性ステロイドを服用しても眼球内の炎症が治まらない中間部、後部、全ぶどう膜炎の患者を組入れて、治療がフェールするリスクを偽薬と比較したところ、メジアン5.6ヶ月と偽薬群の3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.5、統計的に有意だった。

もう一本、活性期ではない患者を組入れた試験も間もなく開票するとのことだ。

リンク: アッヴィのプレスリリース

【承認申請】


ADA-SCIDの遺伝子療法がEUで承認申請
(2015年5月5日発表)

グラクソ・スミスクラインはGSK2696273をEUで承認申請したと発表した。適応症はADA-SCID(アデノシンデアミナーゼ欠損症による重度複合型免疫不全症)で、HLA型適合ドナーが見つからない場合に限定される。患者の骨髄細胞から精製した造血前駆・幹細胞に、アデノシンデアミナーゼの遺伝子をレトロウイルスベクターを用いて導入し、体内に戻す遺伝子療法。

アイディアとしては昔からある遺伝子療法のクラシックな用途だが、ベクターの安全性が問題になったことがあるので、おそらくそれが理由で開発が遅れたのだろう。ex vivoで、Moloney Murine Leukaemia Virusという聞きなれないウイルスを使って遺伝子を送り込んでいる。

GSKはFondazione Telethon and Fondazione San Raffaeleから2010年に権利を取得。承認されたら先ずミラノのOspedale San Raffaeleで治療を開始する。

EUでは12年に西洋初の遺伝子療法であるGlybera(alipogene tiparvovec)が重度家族性リポプロテイン・リパーゼ欠乏症向けに例外的環境条項に基づいて承認された前例がある。こちらはアデノ随伴ウイルスをベクターとして筋細胞に注射する。アムステルダム大学発の製品で、EUなどではChiesi Farmaceuticiが販売する。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認】


moxifloxacinが米国でペストに適応拡大
(2015年5月8日発表)

FDAは、バイエルのフルオロキノロンであるAvelox(moxifloxacin、和名アベロックス)をペストの治療と曝露後予防に用いることを承認した。ペスト感染は世界で年1000~2000例と少ないが、バイオテロリズムを想定した承認のようだ。臨床試験の実施は困難なので、薬効は動物試験で確認した。具体的には、アフリカミドリザルに感染させ発熱の4時間後に投与したところ、偽薬群は10頭全てが死亡したがmoxifloxacin群は全て生存した。

12年にLevaquin(levofloxacin、和名クラビット)も同じ用途で承認されている。この二つのフルオロキノロンは肺炭疽にも承認されているが、切っ掛けは貿易センタービルのテロの後に炭疽菌を入れた封筒がTVキャスターなどに送付された事件であり、今回の承認はバイオテロリズム対策第二号と言える。

Aveloxは腱炎や腱断裂などの筋毒性が枠付警告されている。

リンク: FDAのリリース

ノバルティス、ALK阻害剤がEUで承認
(2015年5月8日発表)

ノバルティスは、Zykadia(ceritinib)がEUでALK陽性末期非小細胞性肺癌向けに条件付き承認されたと発表した。染色体転座で生じるEML4-ALK融合蛋白などを持つ、非小細胞性肺癌の2~7%程度を占める患者が対象で、同じALK阻害剤で先に承認されたXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を既に使った患者が適応になる。米国では14年に承認された。エビデンスとなった第二相試験では反応率が58%で、そのうちcrizotinib経験者では55%、メジアン反応持続期間は7.4ヶ月だった。

第三相は三次治療試験と一次治療試験が進行中。どちらも対照薬はcrizotinibではなく化学療法である点が残念。これらの試験で薬効が確認された段階で本承認に切り替わることになりそうだ。

ところで、EML4-ALK染色体転座は日本の学者が科学技術振興機構の支援を受けて行った研究で発見されたものだ。Nature誌に論文が刊行されたのが07年、Xalkoriの米国承認は11年なので、ベンチとベッドサイドが4年で繋がったことになる。Xalkoriはc-MET阻害剤として臨床開発されていたため上手く飛び乗れたという面もあるのだろうが、日本の研究が世界的な成果を生んだことはもっとアピールされて然るべきである。

ここでネックになるのが、実際に製品化したのが最初はファイザー、次がノバルティスで日本の製薬会社ではないことだ。内資系製薬会社にも頑張ってもらいたい。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


今週は以上です。

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