2015年5月2日

海外医薬ニュース2015年5月3日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、抗PCSK9抗体の諮問委員会を招集へ
  • バイオマリン、DMD治療薬の承認申請が完了
  • FDAが新種の多発性硬化症用薬の承認申請を受理
  • オプジーボ、悪性黒色腫一次治療の申請をFDAが受理
  • FDA諮問委員会が黒色腫遺伝子療法を支持
  • FDAはブリディオンを今回も承認せず
  • 米国で頤下脂肪治療薬が承認
  • MDCO、FDAが二製品を相次いで承認
  • レルベアが米で適応拡大
  • Lantus新製剤がEUで承認


【今週の話題】


FDA、抗PCSK9抗体の諮問委員会を招集へ

(2015年4月29日発表)

FDAは、6月9日と10日に内分泌代謝薬諮問委員会を招集してリジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィとアムジェンが夫々、承認申請した抗PCSK9完全ヒト化抗体について意見を聞くことを発表した。

PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)はLDL受容体の零落に関与する酵素。機能喪失変異を持つ人は心血管疾患のリスクが低いとされる。コレステロール治療薬はスタチンが世界で数千万人が服用するの超大型薬になり、また、高リスク患者を中心にLDL-C治療目標値が低下しているため、アドオン用薬として、あるいはスタチン不耐患者向けに、大型化が期待されている。

6月9日の会合はリジェネロン/サノフィが昨年承認申請したPraluent(alirocumab)を検討する。バイオマリン社から6750万ドルで購入した優先審査バウチャーを用いたため審査期限が7月24日と早いが、諮問委員会の後に1ヶ月以上あるので、大きな問題が浮上しない限り審査スケジュールには影響しないだろう。10日はアムジェンのRepatha(evolocumab)を検討する。承認申請は昨年8月と先だが標準審査なので審査期限は8月27日と1ヶ月遅い。

抗PCSK9抗体は心血管アウトカム試験が進行中で、治療目的である心筋梗塞などのリスクを削減する効果は確立していない。第三相試験などのメタアナリシスは良さそうなデータが出ているようだが、情報が断片的で鳥瞰が難しい。諮問委員会の2~3日前にブリーフィング資料が公開されれば全体像が明確になるだろう。

FDAは高脂血症/異脂血症治療薬の承認に際して心血管リスク削減効果のエビデンスを求めていない模様だ。作用機序が異なる薬でもLCL-Cが低下するならば心血管リスクも低下すると推定できると考えている。諮問委員会では、この仮説の妥当性や過去の臨床試験で稀に発生した神経認知障害や眼科系有害事象などに関する評価を議題にするのではないか。

リンク:FDAの公告(Praluent)

リンク:FDAの公告(Rapatha)

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


バイオマリン、DMD治療薬の承認申請が完了

(2015年4月27日発表)

米国の希少疾患用薬開発会社であるバイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、米国でdrisapersenのローリング承認申請を完了したと発表した。DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)の患者の13%程度を占めるエクソン51スキップ型の治療に用いる皮注用アンチセンス薬で、ジストロフィン遺伝子の翻訳が途中で終了してしまうのを防ぎ、短いがある程度の機能を持つジストロフィンを作れるようにする。

初期、中期の試験では6分歩行距離が31~35メートル改善したが、第三相試験では偽薬比10メートルしか改善せず、二次的評価項目である運動機能などでも有意な差は見られなかった。エビデンスは明確ではないが、希少疾患なので、効果が小さくても承認される可能性はありそうだ。

EUでは15年央に条件付き承認申請を行う予定。

リンク:バイオマリンのプレスリリース

FDAが新種の多発性硬化症用薬の承認申請を受理

(2015年4月29日発表)

バイオジェン(Nasdaq:BIIB)とアッヴィ(NYSE:ABBV)は、抗CD25ヒト化抗体Zinbryta(daclizumab)を再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。EUの申請も3月に受理されている。

この活性成分はPDLバイオファーマが創製、ライセンシーであったロシュが腎移植後の拒絶反応防止薬Zenapaxとして1997年に発売したが、売上が小さいため、09年に生産中止となった。両社は自己免疫疾患領域でも共同開発していたがロシュは離脱。PDLは生産プロセスを改良し、バイオジェンと共同で多発性硬化症の開発を進めた。アッヴィはPDLからスピンアウトされた新薬開発部門を買収、大手製薬会社同士の呉越同舟となった。

第三相試験ではベータインターフェロンより高い再発防止効果を示したが、深刻な皮膚毒性や肝機能検査値異常も見られた。過去の試験では自己免疫疾患も見られた。このため、承認審査では便益とリスクのバランスが論点になりそうだ。

リンク:両社のプレスリリース

オプジーボ、悪性黒色腫一次治療の申請をFDAが受理

(2015年4月29日発表)

BMSは、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を悪性黒色腫の一次治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査指定を受け、審査期限は8月27日。Opdivoは小野薬品との共同開発品で14年に二次治療薬として承認されている。

今回の申請は欧州やカナダで実施されたCheckMate-066試験に基づくもの。活性対照薬であるdacarbazineと比べて全生存のハザードレシオが0.42と有意に優れ、有害事象による治験離脱(6.8%対11.7%)も、グレード3以上の有害事象(11.7%対17.6%)も少なかった。

EUでは4月に一次治療と二次治療の両方でCHMPの肯定的意見を受けたが、前者はこの試験のエビデンスに基づいている。米国の申請が遅れたのは対照薬がdacarbazineであることがボトルネックなのだろう。同社のYervoy(ipilimumab)は11年に欧米で承認されたが、EUが二次治療に限定した(13年に解除)のに対してFDAは最初から一次治療も認めた。このため、米国ではYervoyが転移性進行性黒色腫一次治療の標準薬になっている。066試験に米国の施設が参加しなかったのはこのためだろう。

とは言え、Opdivoは小規模なYervoy対照試験でかなり良い反応率を示しており、様々な試験の結果を総合的に評価すれば、適応拡大を承認することが可能だろう。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が黒色腫遺伝子療法を支持

(2015年4月29日発表)

FDAの細胞・組織・遺伝子療法諮問委員会と腫瘍学薬諮問委員会の共催会議は、アムジェンが切除不能悪性黒色腫用薬として承認申請したT-VEC(talimogene laherparepvec)を検討し、22人対1人の大多数が承認を支持した。

T-VECは同社が11年に買収したBioVexの開発品で以前はOncoVEX(GM-CSF)と呼ばれていた。腫瘍細胞選択的に増殖するよう遺伝子操作したヘルペスウイルスにGM-CSFの遺伝子を組み込んだもので、黒色腫に直接注射するとウイルスが腫瘍を破壊し、腫瘍の各種抗原とGM-CSFに刺激された免疫細胞が他の黒色腫細胞も攻撃する、というアイディアだ。

第三相試験では主評価項目である持続的反応率が15.6%とGM-CSFだけを投与した群の1.4%を有意に上回ったが、全生存期間はメジアン23.3ヶ月対19.0ヶ月、ハザードレシオ0.79、p=0.051と有意な差が無かった。

FDAの評価はあまり良くないようだ。FDAは、通常、複数の独立した臨床試験で有意な治療効果を確認するよう求め、例外的に一本だけの時はp値が0.001とか著しく低いことを要求する。0.051では失格である。持続的反応率では大きな差があったが、オープンレーベル試験なので医師のバイアスが影響しているかもしれない。打切り例が多いこともこの影響かもしれない。それでも諮問委員が支持したのは、悪性黒色腫は難しい病気なので様々な治療オプションが必要という主張であるようだ。

この試験は一次治療の患者も含まれており、サブグループ分析では一次治療、内臓転移なし、腫瘍が小さい、などの患者の方が効果が高かったようだ。しかし、抗癌剤のサブグループ分析はあまりアテにならないので、これらの患者だけに承認するのは難しいだろう。

審査期限は10月27日。FDAがどのような結論を出すか、注目される。EUでは昨年9月に承認申請が受理された。

FDAはブリディオンを今回も承認せず

(2015年4月28日発表)

MSDは15年第1四半期の決算発表電話会議で、FDAからBridion(sugammadex、和名ブリディオン)の審査完了通知を受領したことを明らかにした。Bridionは筋弛緩剤の解毒剤で、術後の回復を早める。欧州で08年、日本での10年に承認され、特に日本で普及したようだ。米国は08年に承認申請したが過敏反応の懸念を指摘され、アレルギー感受性試験を実施することになった。13年に試験結果を提出したが、実施施設の査察で問題が発覚した模様で、再び審査完了通知を受領。

追加試験を実施して提出したが、ここでも査察で何か発覚した模様で、諮問委員会がキャンセルになり三度目の審査完了通知を受領することになった。

【承認】


米国で頤下脂肪治療薬が承認

(2015年4月29日発表)

FDAは頤下脂肪(二重顎)の治療薬を承認したと発表した。Kythera社(Nasdaq:KYTH)が開発したKybella(deoxycholic acid)で、天然の食物脂肪分解物質を化学合成したもの。顎の下の膨らんだ脂肪に注射すると細胞膜を破壊する。

脂肪を取る薬というと腹を凹ませることができないかとか、色々想像してしまう。FDAも乱用を気にしている模様で、顎以外の脂肪に対する効果や安全性は確立していないと警告している。承認された用途でも深刻な神経障害のリスクがあるようだ。医師は事前にトレーニング・プログラムを受講し、患者にリスクを伝えた上で施行する。治療は一回15~20分程度で終わるようだ。

リンク:FDAのリリース

リンク:Kytheraのプレスリリース

MDCO、FDAが二製品を相次いで承認

(2015年4月30日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は同じ日に二度、FDA承認を発表した。

一つはIONSYS。術後の入院患者が用いるフェンタニル供給器で、クレジットカード・サイズのディバイスを上腕部や胸に貼付け、必要な時にボタンを押すとフェンタニルが微弱電流に乗って経皮供給される。ベッドサイドに据え置くPCAと呼ばれる静注用機器と異なり、針が無いので患者や医療従事者に安全で、また、ベッドを離れる邪魔にならない。元々はジョンソン・エンド・ジョンソンが06年に承認取得したものだが、誤作動が原因で販売中止になった。その後、権利を取得して改良に成功したIncline社をMDCOが12年に買収した。

もう一つはRaplixaというフィブリンシーラント。術中に軽中度出血を止血できない場合に用いる。Ventura社の技術を用いてフィブリノーゲンとトロンビンを乾燥粉末化したもので、出血箇所で溶解・混合し血栓を形成する。吸収性ゼラチンスポンジと共に用いる。乾燥粉末製剤が承認されたのは米国で初めて。13年に買収したProFibrix社の開発品。

リンク:FDAのリリース

リンク:MDCOのプレスリリース(IONSYS)

リンク:同(Raplixa)

レルベアが米で適応拡大

(2015年4月30日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Breo(和名レルベア)を喘息症の維持療法として用いることが米国で承認されたと発表した。吸入用コルチコイドのfluticasone furoateと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolの合剤で、同社のAdvair(fluticasone propionateとsalmeterol xinafoateの合剤、和名アドエア)と似ているが、一日二回ではなく一回の吸入で済む。

13年にCOPD維持療法薬として承認されたが、FDAは喘息症患者に対する長期作用性ベータ2作用剤の安全性に懸念を持っているため承認が遅れた。18歳以上が対象で、12~17歳は審査完了通知となった。

リンク:グラクソ・スミスクラインのプレスリリース

Lantus新製剤がEUで承認

(2015年4月28日発表)

サノフィは、Toujeo(insulin glargine)がEUで糖尿病治療薬として承認されたと発表した。持効性インスリンのベストセラーであるLantusの新製剤で300単位/mlと濃度が3倍。薬物動態が若干異なるようで、Lantusからスイッチする場合は量を10~18%増やす。米国は2月に承認、日本は昨年7月に承認申請。

Lantusはバイオシミラーが承認申請されているため需要をToujeoにシフトさせたいところだが、米国では価格がLantusと大差ないようなので、難しいだろう。勿論、バイオシミラーの普及速度もスローなのだろうが。

リンク:サノフィのプレスリリース

今週は以上です。

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