2016年12月25日

2016年12月25日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 中外、A型血友病薬の第三相が成功 
  • Ionis、高TG血症治療薬の第三相が成功 
  • 二剤だけのHIV治療レジメン 
  • アッヴィ、汎遺伝子型抗HCV薬を米国申請 
  • Sarepta、筋ジストロフィー用薬をEUでも承認申請 
  • FDAが脊髄性筋萎縮症用薬を承認 
  • 第2のPARP阻害剤が米国で承認 



【新薬開発】


中外、A型血友病薬の第三相が成功
(2016年12月22日発表)

中外製薬とロシュは、ACE910/RG6013(emicizumab)の最初の第三相試験が成功したと発表した。第VIII因子インヒビターを持つA型血友病の患者109人を組入れて、それまでバイパス製剤によるルーチン予防を受けていた患者はACE910によるルーチン予防群に、受けていなかった患者はACE910によるルーチン予防を受ける群と受けない群に2対1割付けして、後二群の出血頻度を比較したもの。

有害事象では、血栓塞栓イベントが2例、血栓性微小血管症も2例、発生した。何れもルーチン予防群で、出血治療として活性化プロトロンビン複合体を投与した症例とのことなので、ACE910の副作用ではないかもしれない。転帰は悪くなさそうで、2例は投与を再開した。

どの程予防できたのかは未公表。インヒビターを持つ患者は第VIII因子が使えないので効果が小さくても意味はあるが、今後開票するインヒビターのない患者を対象とした試験は、長期作用性第VIII因子のルーチン予防試験と同程度の成績を上げないと、需要に響く。

血液凝固カスケードでは様々な凝固因子が連鎖反応的に活性化していって最後にフィブリンが形成される。その一つである第VIII因子が欠乏しているのがA型血友病で、出血時には遺伝子組換え型第VIII因子などを補充して止血する。頻繁に出血する患者は2~4日に一回、定期的に投与するルーチン予防療法を受ける。

補充療法を行ううちに第VIII因子に対する抗体(インヒビター)ができてしまうことがあり、その場合は、様々な凝固因子等の混合物であるバイパス製剤や活性化第VII因子を用いて治療する。

ACE910は活性化第IX因子と第X因子の両方に結合する二重特異性ヒト化抗体で、前者と後者をバイパスすることによって、第VIII因子がなくても第X因子を活性化できるようにする。週一回の皮注用薬なので投与も簡便。もう一本の第三相では二週間に一回投与もテストしている。中外製薬がロシュと共同開発している。

リンク: ロシュのプレスリリース

Ionis、高TG血症治療薬の第三相が成功
(2016年12月19日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)はアンチセンス薬の老舗で、最初の製品であるVitravene(fomivirsen)はあまり売れず販売中止になったが、 13年に高脂血症治療薬Kynamro(mipomersen sodium)が承認され、先週は後述の脊髄性筋萎縮症用薬が承認された。前後して、次のパイプラインであるISIS-APOCIIIRx(volanesorsen)の第三相高トリグリセライド(TG)血症試験成功が発表された。

血漿TGのクリアランスを制御する肝臓の蛋白、ApoC-IIIの生産を抑制するアンチセンス薬で、TGが減少しHDL-Cが増加する一方でLDL-Cは増加しないという特徴を持つ。

今回の第三相試験COMPASSは、TGが880mg/dLを超える重度高TG血症の患者114人を偽薬群と300mgを週一回皮注する群に無作為化割付して13週間治療したもの。偽薬群はTGが0.9%しか減らなかったが、試験薬群は71.2%減少し、有意に上回った。

有害事象による治験離脱は20%でその6割弱は注射箇所反応が原因。症状や不快感を伴わない疾患なので、コンプライアンスがあまり良くないようだ。

リンク: Ionisのプレスリリース

二剤だけのHIV治療レジメン
(2016年12月19日発表)

HIV/AIDSの治療は3種類以上の薬を併用するHAART(Highly Active Antiretroviral therapy)が一般的だ。ウイルスが一つの薬に耐性を獲得しても他の薬が攻撃するので耐性ウイルスの増殖を招きにくい。治療に成功しウイルスが検出不能になった後も副作用の多いHAARTを続けなければならないのか?どうもそのようだ。薬物療法を一定の期間休止するドラッグ・ホリディ手法を検討した試験の成績が芳しくないからである。

次の検討材料が、ジョンソン・エンド・ジョンソンとグラクソ・スミスクラインが共同開発している二剤併用による維持療法だ。前者の非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineと後者のインテグラーゼ阻害剤dolutegravirを用いる。三剤併用でウイルス抑制に成功した患者を組入れた、第三相スイッチ試験を二本実施していたが、両方成功し、ウイルス抑制成功率が3~4剤併用を続行した群と比べて非劣性であったことが発表された。両社はコンビ薬として承認申請する予定。

更に、長期作用性インテグラーゼ阻害剤cabotegravirとrilpivirineの筋注用ナノサスペンション製剤を併用する、4週間または8週間に一回の投与で足りるレジメンも開発中で、HIV感染予防用途で第三相入りした。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認申請】


アッヴィ、汎遺伝子型抗HCV薬を米国申請
(2016年12月19日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ABT-493(glecaprevir)とABT-530(pibrentasvir)の二剤併用レジメンを遺伝子型1~6型のC型肝炎ウイルス感染症の治療法として米国で承認申請した。前者はNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤、後者はNS5A複製複合体阻害剤。臨床試験でのSVR12(治療終了の12週間後における持続的ウイルス学的奏効率)は、肝硬変を伴わない患者の一次治療試験が8週間の投与で97.5%。重度慢性腎疾患を伴う患者を組入れた試験では12週間の治療で98%だった。

DAA(直接作用性抗ウイルス剤:プロテアーゼ阻害剤、NS5A複製複合体阻害剤、NS5Bポリメラーゼ阻害剤)による治療歴を持つ遺伝子型一型の治療法としてFDAがブレークスルー・セラピー指定している。ABT-493はEnanta Pharmaceuticalsから共同開発提携に基づきライセンスしたもの。

リンク: アッヴィのプレスリリース

Sarepta、筋ジストロフィー用薬をEUでも承認申請
(2016年12月19日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、Exondys 51(eteplirsen)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬としてEUで承認申請したことを発表した。米国では様々な議論を経て今年9月に承認されている。

DMDの多くは遺伝子変異が原因でジストロフィンが欠乏している。患者の13%程度は、遺伝子の51番目のエクソンに問題があり、そこで翻訳が終わるなどしてしまう。Exondys 51はこのエクソン51が翻訳されないように仕向けるエクソン・スキッピング薬。臨床的な効用は明確ではなく、投与症例数も十分とは言えないため、FDAは承認の条件として薬効確認試験の実施を求めた。

リンク: Sareptaのプレスリリース

【承認】


FDAが脊髄性筋萎縮症用薬を承認
(2016年12月23日発表)

FDAはSpinraza(nusinersen)を脊髄性筋萎縮腫(SMA)用薬として承認した。Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製しBiogen(Nasdaq:BIIB)と共同開発したアンチセンス・オリゴヌクレオチドで、髄腔内投与する。神経系組織での半減期が長く、当初の3回は2週間毎投与だが、4回目は30日後、その後は4ヶ月に一回で足りる。希少小児疾患用薬優先審査バウチャーが交付される。

SMAはSMN1遺伝子の欠損が関与していて、I型(生後6ヶ月までに発症)やII型(小児発症)では95%に欠失が見られる。キャリアは50人に一人と多いが、両親から引き継ぐと発症する。日米欧の患者数は3~3.5万人と推定されている。

SMN1と類似した遺伝子であるSMN2はエクソン7に問題がありそこで翻訳が止まるためSurvival Motor Neuronを生成できない。このSMN2のエクソン7をスキッピングさせるのがSpinrazaで、アンチセンス変異をアンチセンスすることでマイナスの札をプラスに変える、アンチセンス薬としても珍しい薬だ。

主としてI型患者を組入れた試験では中間解析で運動機能奏効率が40%となり、シャム(髄腔内投与は危険なので偽薬は使わず針で刺すだけ)群の0%を有意に上回った。死亡率は23%でシャム群の43%を下回った。尚、中間解析を行うよう要請したのはFDAであることが今回のリリースで明らかにされた。

深刻な有害事象では無気肺が見られた。血小板減少や腎毒性も警告されている。

この試験には日本の施設も参加しており、日本でも今月、承認申請された。

リンク: FDAのリリース
リンク: バイオジェンのプレスリリース

第2のPARP阻害剤が米国で承認
(2016年12月19日発表)

FDAは、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のRubraca(rucaparib)を卵巣癌用薬として承認した。審査期限は来年2月なので2ヶ月前倒しとなった。損傷や翻訳複製ミスによる遺伝子変異を修復する二つのメカニズムの一つに係る、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)を阻害する小分子薬で、300mgを一日二回、経口投与する。

適応となるのはBRCA遺伝子に有害変異を持つ末期卵巣癌の三次治療。BRCAはもう一つの修復メカニズムに関与しており、有害変異があると癌のリスクが高まる。癌細胞は活発に遺伝子翻訳・複製しているため複製ミスが発生しやすいが、PARPを阻害してやると修復できなくなる。変異は生殖細胞系(卵巣癌患者の18%を占める)でも癌細胞における体細胞性変異(7%を占める)でもよい。同時に承認されたFoundation Medicine(Nasdaq;FMI)のFoundationFocus CDx-BRCAコンパニオン・ダイアグノスティックで事前に検査する。

第二相試験では反応率が54%、反応持続期間はメジアン9.2ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は61%、有害事象による治験離脱は8%だった。

Clovisが11年にファイザーからライセンスしたコンパウンド。

PARP阻害剤はアストラゼネカのLynparza(olaparib)が欧米でBRCA変異陽性卵巣癌に承認されているので、Rubracaは第2号となる。第3号になりそうなのはTesaro(Nasdaq:TSRO)がMSDからライセンスしたMK-4827(niraparib)で、10月に米国で承認申請された。白金薬感受性卵巣癌の維持療法試験では、BRCA変異が陽性ではない癌にも有効だったことが注目される。

リンク: FDAのリリース
リンク: Clovisのプレスリリース
リンク: Foundation Medicineのプレスリリース





今週は以上です。

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2016年12月18日

2016年12月18日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アミノグリコシド系新薬の第三相が成功 
  • CHMPが抗リウマチ薬などに肯定的意見 
  • アトピーの新薬が承認 
  • MACIが遂に承認 
  • OcalivaがEUでも承認 
  • FDAが三つの課題に結論



【新薬開発】


アミノグリコシド系新薬の第三相が成功
(2016年12月12日発表)

Achaogen(Nasdaq:AKAO)はACHN-490(plazomicin)の第三相試験成功を発表した。17年に米国で、18年に欧州でも、承認申請する予定。

複雑性尿道感染症の患者609人をplazomicin群とmeropenem群に無作為化割付して治療効果を比較したもの。plazomicinは15mg/kgを一日一回、30分点滴静注した。両群とも、所定の条件を満たした患者はlevofloxacinの経口投与にステップダウン可。

FDAとEMAは抗生物質の薬効評価方法に関する見解が異なるため、この試験でも複数の解析が行われた。FDA向け主評価項目は、細菌学的修正intent-to-treat集団を対象とした、臨床的治癒且つ細菌学的駆除の奏効率。第5日時点では88.0%となり、meropenem群の91.4%を3.4%下回ったが、95%信頼区間下限が-10%とFDAと事前に合意した非劣性マージンである-15%を上回ったため、非劣性と認定された。

テスト・オブ・キュア時点の奏効率は81.7%対70.1%となり、差の95%下限は2.7%であったため、優越性認定された。EMA向けの主評価項目では優越性認定された。

plazomicinはアミノグリコシド系であるため腎機能や聴力に対する副作用が懸念される。腎治療時発現有害事象は3.6%対1.3%で上回った。蝸牛や前庭機能は各群1例のみだった。

カルバペネム耐性腸内菌による菌血症・院内感染細菌性肺炎・人工呼吸器関連細菌性肺炎の試験の結果も発表された。meropenemまたはtigecycline併用で28日死亡・重度合併症発生率をcolistinと比較したもので、360例の組入れが順調に進まずに途中打ち切りとなったため検出力が弱いのだが、23.5%対50.0%、28日死亡率11.8%対40.0%と数値上は良い結果になった。

リンク: Achaogenのプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


CHMPが抗リウマチ薬などに肯定的意見
(2016年12月16日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会議で、イーライリリーの抗リウマチ薬、ロシュの抗癌剤、MSDのクロストリジウム・ディフィシル感染症薬などの新薬に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

イーライリリーのOlumiant(baricitinib) は、中重度活性期リウマチ性関節炎で疾病装飾的抗リウマチ薬に十分に反応しない又は不耐の成人の治療に、単剤投与またはMTXと併用する。ノバルティスの骨髄線維症治療薬であるJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)と同じJAK1/2阻害剤で、何れもインサイト社からライセンスしたもの。欧州でリウマチ用JAK阻害剤が承認されれば初。米国でも承認審査中。

単剤投与試験ではMTXやHumira(adalimumab)より高い効果を示した。有害事象は高脂血症、悪心、上部気道感染症など。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

中外製薬が創製し海外ではロシュが開発販売するAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)は、ALK融合遺伝子陽性の切除不能非小細胞性肺癌でXalkori(crizotinib)による治療を既に受けた患者に用いる。Xalkoriと同じALK阻害剤で、染色体転座などにより自己リン酸化してしまうALKを阻害することによって、腫瘍細胞のALK依存的増殖を阻害する。条件付き承認となる見込み。14年に日本で、15年には米国でも、承認済み。

重篤有害事象は間質性肺疾患/肺炎、肝毒性、重度筋痛、CPK上昇、徐脈など。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

タイミングがずれたが11月22日付で肯定的意見が出たのがMSDのZinplava(bezlotoxumab)。クロストリジウム・ディフィシルのB毒素を中和する抗体医薬で、感染症治療効果はないが、再発を抑制し、持続的臨床的奏効率を向上する。心不全歴を持つ患者では深刻な心不全の発生率や死亡率が偽薬群を上回った。米国では10月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

アクテリオン(SIX: ATLN)と言えばジョンソン・エンド・ジョンソンが買収を断念し次はサノフィかと世間を賑わせているが、CHMPではLedaga(chlormethine)が菌状息肉腫型皮膚T細胞リンパ腫(MF-CTCL)用薬として肯定的意見を得た。活性成分自体は70年の歴史を持つがゲル製剤は初めて。薬局調剤品が存在する模様であり、発売は早くて17年末になるようだ。

リンク: アクテリオンのプレスリリース

適応拡大では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)を非小細胞性肺癌の一次治療に用いることを支持した。切除不能の末期癌で、TPS(PD-L1腫瘍比率スコア)が50以上なら適応になる。200mgを3週間に一回、点滴静注する。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)や全生存期間が白金レジメンを上回った。米国では10月に承認。

リンク: MSDのプレスリリース

ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab、和名イラリス)は周期熱症候群のうちマックル-ウェルス症候群MWSと家族性寒冷自己炎症性症候群の治療薬として承認されているが、家族性地中海熱、高IgD症候群/メバロン酸キナーゼ欠損症、そしてTNF受容体関連周期性症候群に用いることも支持された。米国では9月に承認、日本でも11月に第二部会通過。Ilarisはこのほかに、全身性小児特発性関節炎や活性期Still病などでも承認・承認申請されている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ノバルティスのmTOR阻害剤everolimusは様々な用途で承認されているが、その一つである結節性硬化症(TSC)では様々な合併症に対する効果も認められている。上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)、腎血管筋脂肪腫に続いて、CHMPは難治性癲癇発作の治療用途に肯定的意見を出した。臨床試験では発作頻度を30~40%抑制した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

アムジェンの抗PCSK9抗体、Repatha(evolocumab)は高いLDL-C低下作用を持つが、難点の一つは皮注用薬であること。140mgを2週間に一回、または月に一回140mgを3回投与するが、新たに420mg製剤が肯定的意見を得た。競合薬であるリジェネロン/サノフィのPraluent(alirocumab、和名プラルエント)は月一回投与が承認されていないので、420mgが承認されれば差を広げることができる。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認】


アトピーの新薬が承認
(2016年12月14日発表)

FDAはファイザーのEucrisa(crisaborole)を2歳以上の軽中度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認した。軟膏で一日二回塗布する。臨床試験では奏効率が31~32%となり偽薬群の18~25%を有意に上回った。プール分析では紅斑 、滲出 、擦過傷 、硬結、苔癬化などが改善した。有害事象による治験離脱は両群とも1.2%だった。深刻な有害事象は過敏反応。

今年6月に52億ドルで買収したAnacor PhamaceuticalsのPDE-4阻害剤。効果の面ではリジェネロン/サノフィの抗体医薬であるDupixent(dupilumab)のほうが良い数字が出ているが、塗り薬であることや忍容性、そしておそらく価格の面でも普及のハードルが低そうだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

MACIが遂に承認
(2016年12月14日発表)

Vericel Corporation(Nasdaq:VCEL)はMACIがFDAに承認されたと発表した。症候性の膝関節軟骨全層欠損の治療に用いる。第3世代の軟骨細胞療法で、患者から採取した軟骨細胞を培養し
ブタI/III型コラーゲン膜に播種、損傷場所に移植して再生を図る。欧州で実施された2年間の臨床試験では、マイクロフラクチャー術(微小な穴をあけて天然の再生プロセスをトリガーする)より奏効率が高かった(87.5%対68.1%)。

元々はVerigenの製品で98年に欧州の一部地域で発売されたが、規制変更や経営陣交代、販売不振などを経て販売中止となった。05年にジェンザイムがVerigenを買収、そのジェンザイムを買収したサノフィが14年に細胞療法・再生医療事業をVericeに譲渡。Vericelは米国なら売れると判断して開発を続行、18年ぶりに治療法として再生した。

リンク: Vericelのプレスリリース

OcalivaがEUでも承認
(2016年12月14日発表)

Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)はOcaliva(obeticholic acid)がEUで原発性胆汁性肝硬変の治療薬として承認されたと発表した。既存薬であるウルソデオキシコール酸の類縁体でファルネソイドX受容体(FXR)を作動する力価が著しく高い。アルカリフォスファターゼや総ビリルビンを改善する、代理マーカーに基づく条件付き承認であるため、改めて臨床的効用を確認しないと承認が取り消される可能性がある。

リンク: Interceptのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDAが三つの課題に結論
(2016年12月12日発表)

米国は大統領が代わると行政組織の上層部も大きく入れ替わる。だからということでもないのだろうが、FDAは、長年の検討課題であった三つの問題に結論を出した。Actos(pioglitazone)と膀胱癌の関連性、乳幼児や胎児の麻酔リスク、そして禁煙補助薬の精神学的副作用問題だ。

PPAR作動剤は90年代に承認される前から癌原性懸念があったが、三製品のうち二品は他の副作用が理由で一つは販売中止、一つは売上激減した。唯一の生き残りである武田薬品の二型糖尿病薬Actosは心不全のリスクを持つが、大規模アウトカム試験や疫学的試験で膀胱癌懸念が浮上、医療保険組織のデータベースを使った10年間の前向き疫学的試験が実施された。

この試験の5年中間解析ではハザードレシオが1.2倍とActosを服用しない患者より発症率が高かったが、95%信頼区間は1を跨いでおり、有意ではなかった。しかし、用量や服用期間との関連性が疑われた。その後、最終解析の結果が出たが、ハザードレシオは1.06、95%信頼区間0.89~1.26と、有意な関連性がないことが確認された。服用期間が長いとリスクが高まるトレンドが見られたが、有意性はなかった。PROACTIVE試験の観察的追跡試験では、ハザードレシオが1.00に低下した。

一方、英国の医療データベースを用いたTuccoriらの研究ではリスクが有意に増加した。これらを踏まえて、FDAは、pioglitazoneは膀胱癌のリスク上昇と関連している可能性があると判断した。

リンク: FDAの安全性通知(12/12付け)

乳幼児や妊娠後期の胎児に全身麻酔を行うと脳細胞に悪影響を及ぼすリスクがあることを示唆する前臨床試験や疫学的試験の論文は以前から存在しているが、FDAは、今回、麻酔薬や鎮静剤のレーベルに警告追加するよう製薬会社に要求した。リスクと便益を慎重に検討して、長時間の使用や複数回の施行に気を付けるよう促している。FDAも指摘しているように、麻酔のリスクより治療を行わないリスクの方が切迫しているかもしれないので、難しい問題だ。

リンク: FDAの安全性通知(12/14付け)

ファイザーの禁煙補助薬、Chantix(varenicline、和名チャンピックス)は米国のメディアが異常行動問題を大きく取り上げたことが発端で米国売上がピークアウトした。あまり報道されていない日本などでは引き続き伸びたが、米国はPL訴訟も盛んなので白黒決着が付くかどうかは経済的にも大きな問題だ。

FDAの要請でファイザーが行った市販後監視試験ではリスクが高まらなかった。9月に開催された諮問委員会は枠付き警告解除を支持した。FDAの最終判断が注目されたが、結局、従来疑われていたほどリスクは高くないと判断。今回、枠付き警告を止めて、気分、行動、思考に関する副作用警告箇所にこの試験の結果を掲載することを決めた。グラクソ・スミスクラインのZyban(bupropion)のレーベルにも同じ変更を行う。

リンク: FDAの安全性通知(12/16付け)




今週は以上です。

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2016年12月11日

2016年12月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:ロシュのGazyvaが一次治療でもリツキサンに勝つ 
  • WCLC:アストラゼネカ、タグリッソの直接比較試験が成功 
  • WCLC:ノバルティスのジカディアも直接比較試験が成功 
  • CTAD:イーライリリーの抗アミロイドベータ抗体は効果が限定的 
  • アストラゼネカ、抗PD-L1抗体を米国で承認申請 
  • Kite、CAR-Tのローリング承認申請を開始 
  • ギリアドが新たなC型肝炎治療薬を承認申請 
  • アトピー治療薬が欧州でも承認申請 
  • ロシュ、アバスチンがまた適応拡大 
  • アッヴィ、bcl-2阻害剤がEUでも承認 



【新薬開発】


ASH:ロシュのGazyvaが一次治療でもリツキサンに勝つ
(2016年12月5日発表)

ロシュは、ASH(米国血液学会)での学会発表に合わせてGazyva(obinutuzumab)の直接比較試験、GALLIUM試験の結果を公表した。CD20を標的とするフコース欠如ヒト化抗体であるGazyvaは、CD20を標的とする先輩格のキメラ抗体、Rituxan(rituximab、和名リツキサン)より優れた効果を過去の再発治療試験で示してきたが、今回、濾胞性非ホジキン型リンパ腫の一次治療薬としても上回ることが明らかになった。

この試験は、緩慢性非ホジキン型リンパ腫で初めて薬物治療を受ける1401人を組入れて、CHOP、CVP、またはbendamustineとRituxanを併用する標準療法と、Rituxanの代わりにGazyvaを用いる併用法のPFS(無進行生存期間)を比較したもの。主評価項目は被験者の8割を占める濾胞性非ホジキン型リンパ腫サブグループの治験医評価PFS。結果は、ハザードレシオ0.66、95%信頼区間0.51-0.85、3年PFS率80.0%対73.3%と、有意な差があった。

二次的評価項目の一つである第三者査読によるPFSもハザードレシオ0.71で有意差があった。全生存期間のハザードレシオは0.75だが未だ有意差は出ていない。G3以上の有害事象の発生率は74.6%対67.8%で上回り、骨髄抑制や点滴関連反応などが増加した。二次性新生物(4.7%対2.7%)や致死的有害事象(4.0%対3.4%)も増加した。

一次治療はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のRituxan対照CHOP併用試験が実施されたが、フェールしており、今回が初の成功となった。

リンク: ロシュのプレスリリース

WCLC:アストラゼネカ、タグリッソの直接比較試験が成功
(2016年12月6日発表)

アストラゼネカのTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)の第三相AURA3試験の結果がWCLC(世界肺癌会議)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌はEGFR阻害剤によく反応するが、T790M変異が発生して抵抗性を取得することがしばしば見られる。Tagrissoはこのような癌にも有効で、第二相試験の結果に基づいて15年に米国で、今年はEUや日本でも、承認された。

今回の第三相試験は、EGFR阻害剤治療歴を持つEGFR活性化変異陽性かつT790M陽性の非小細胞性肺癌患者をTagrisso群と白金薬ベースの二剤併用群に無作為化割付して治験医評価に基づくPFSを比較した。結果は、メジアン値が10.1ヶ月と白金レジメン群の4.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.30、pは0.001を下回った。脳転移を持つ患者でも好成績。グレード3以上の薬物関連有害事象発生率は6%対34%で少なかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

WCLC:ノバルティスのジカディアも直接比較試験が成功
(2016年12月6日発表)

非小細胞性肺癌では腫瘍の特徴に応じて最適な治療法を選択する手法が次々と登場している。ノバルティスのZykadia(ceritinib、和名ジカディア)もその一つで、数パーセントの患者で見られるALK遺伝子が別の遺伝子と融合してしまうALK再編成陽性の癌の二次治療薬として日米欧で承認されている。今回、一次治療試験の結果がWLCで発表された。

治験医評価PFSがメジアン16.6ヶ月と、Alimta(pemetrexed)と白金薬を併用した群の8.1ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.55、p値は0.001を下回った。脳転移のある患者でも好成績。全生存期間の解析は未だ成熟していないが良いトレンドが見られた由。

ALK阻害剤の第一号であるファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)もALK再編成陽性非扁平上皮性非小細胞性肺癌の直接比較試験でAlimta・白金薬併用群に対してハザードレシオ0.45という良い成績を上げている。今回の試験で、このタイプにはALK阻害剤が第一選択であることが再確認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

CTAD:イーライリリーの抗アミロイドベータ抗体は効果が限定的
(2016年12月8日発表)

イーライリリーの抗アミロイドベータ抗体、LY2062430(solanezumab)は12年に二本の第三相軽中度アルツハイマー病試験がフェールした。軽度患者には良さそうなデータが出たため、軽度アルツハイマー病でアミロイドベータ蓄積のある患者だけを対象に再挑戦したが、フェールした。今回、CTAD(アルツハイマー病臨床試験)学会とプレスリリースでデータが公表された。

主評価項目のADAS-cog14の悪化は偽薬群より11%小さかったが、p=0.095で有意ではなかった。前回の第三相試験のプール分析では34%小さかったが、期待外れの結果になった。二次的評価項目ではMMSE(悪化が13%小さい)やCDR-SB(15%小さい)、ADCS-iADL(14%小さい)などでp値が0.05を下回ったが、主評価項目がフェールしているので統計的に有意とは言えない。MMSEは医療現場では広く用いられているが、治療効果を測定する手段としては適切ではない。

そもそも、この試験は例えばAricept(donepezil)の第三相と比べて大規模・長期間なので検出力が高く、小さな差でも有意差が出てしまう。Ariceptの第三相軽中度アルツハイマー病試験の薬効評価項目の一つであったADAS-cogは偽薬群では半年で2ポイント悪化したがAricept群は1ポイント改善した。solanezumabのデータを無理やり当てはめると1.8ポイント悪化になるので、周りの人には、効いているのかいないのか差が分からないだろう。

アミロイドベータを標的とする抗体には様々な種類がある。solanezumabは可溶性モノマーを標的としており、この試験でも可溶性モノマーは減少したが、アミロイドベータのプラクは改善しなかった。プラクを攻撃すると血管原性浮腫のリスクが高まるので善し悪しだが、アミロイド仮説には未だ希望が少し残っていることになる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


アストラゼネカ、抗PD-L1抗体を米国で承認申請
(2016年12月9日発表)

アストラゼネカは、MEDI4736(durvalumab)を米国で承認申請し受理されたと発表した。局所進行性/転移性の尿路上皮細胞腫で白金薬による治療歴を持つ患者の二次治療に用いる。優先審査を受け来年第2四半期に結論が出る見込み。

薬効のエビデンスは第1/2相の1108試験。10mg/kgを二週間に一回投与したところ、ORR(客観的反応率)は31%、PD-L1高発現型では46%だった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Kite、CAR-Tのローリング承認申請を開始
(2016年12月4日発表)

Kite Pharma(Nasdaq:KITE)は、KTE-C19(axicabtagene ciloleucel)のローリング承認申請を開始した。CD19に結合する抗体短鎖フラグメントをT細胞の活性化を刺激する分子と結合したCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法で、再発性難治性のアグレッシブなB細胞性非ホジキン型リンパ腫で自家幹細胞移植が適応にならない患者に用いる。

CAR-T療法はノバルティスやJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)/セルジーンなども開発しているが、承認申請は今回が初めて。来年にはノバルティスがCTL019を承認申請する見込みだ。

薬効のエビデンスはZUMA-1試験の第二相ポーションの中間解析で、化学療法難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫51人のORR(客観的反応率)は76%だった。但し、3ヶ月後の評価は39%に低下した模様であり、一般的な指標である確認ORRは39%と考えたほうがよさそうだ。

グレード3以上の有害事象発生率は、サイトカイン放出症候群が13%、神経学的毒性29%、その他に好中球減少症、貧血、血小板減少症、脳症など。治療時発現有害事象による死亡は3例だった。

リンク: Kiteのプレスリリース

ギリアドが新たなC型肝炎治療薬を承認申請
(2016年12月8日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)は抗ウイルス薬の新薬と合剤を次々と開発・発売している。今回はトリプルコンビ薬を米国で慢性C型肝炎の二次治療薬として承認申請した。直接作用性抗ウイルス薬(DAA)による治療歴を持つ、遺伝子型1型から6型までの患者が対象。

一次治療薬として今年欧米で承認されたEpclusaの配合成分であるNS5Bポリメラーゼ阻害剤のsofosbuvirと汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤のvelpatasvirに、更に汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤のvoxilaprevirを加えたもの。第三相試験では、12週間の治療で奏効率(SVR12)が97%だった。

リンク: ギリアドのプレスリリース

アトピー治療薬が欧州でも承認申請
(2016年12月8日発表)

リジェネロン(Nadaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab)をEUに承認申請し受理されたと発表した。IL-4受容体のアルファ・サブユニットを標的とするトランスジェニックマウス抗体で、軽中度アトピー性皮膚炎の治療に用いる。米国では9月に申請受理されている。

二本の第三相試験では、グローバル評価(5段階)が0または1に改善した患者の比率が36~38%と偽薬群の8~10%を大きく上回った。有害事象は注射箇所反応や結膜炎など。皮注薬で、臨床試験では週一回と二週間に一回の投与頻度をテストしたが二週毎で十分のようだ。

サノフィの工場でcGMP問題が発生しており、承認が遅れる可能性もありそうだ。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認】


ロシュ、アバスチンがまた適応拡大
(2016年12月7日発表)

ロシュは、FDAがAvastin(bevacizumab)の適応拡大を承認したと発表した。これで6種類の癌に9種類の用法が認められたことになる。適応拡大は久しぶりだが、実際は、米国だけ遅れていた用途がやっと承認された。

難治性の白金薬感受性卵巣癌に、carboplatinとpaclitaxelまたはgemcitabineと三剤併用する。第三相は二本実施され、どちらもPFSが二剤併用と比べて有意に増加したが、全生存の解析は一本がフェール。もう一本は階層化の方法次第で有意差があったともなかったとも言える。結局、延命効果が確立しているとは言い難い。

リンク: ロシュのプレスリリース

アッヴィ、bcl-2阻害剤がEUでも承認
(2016年12月8日発表)

アッヴィは、Venclyxto(venetoclax、米国の製品名はVenclexta)がEUで承認されたと発表した。再発性難治性慢性リンパ性白血病の治療薬で、化学療法とB細胞受容体パスウェイ阻害剤(Rituxanなど)による治療歴を持つ患者が対象。但し、化学療法が効き難い17番染色体短腕(17p)欠損型やTP53変異型の場合はB細胞受容体パスウェイ阻害剤不応・不適だけで足りる。

第二相試験に基づく承認で、17p欠損型107人を組入れた試験ではORRが79%だった。

アッヴィとジェネンテックの共同研究の成果で、米国は両社で共同販売、生産と米国外はアッヴィが担当する。

リンク: アッヴィのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年12月4日

2016年12月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:抗Pセレクチン抗体が鎌状赤血球症の疼痛クリーゼを抑制 
  • ASH:ペン大がCAR-TのALLデータ発表 
  • メルク/ファイザーの抗PD-L1抗体が優先審査に 
  • MSD、キイトルーダで二つの適応拡大申請 
  • GSK、COPDのトリプルコンビを欧州でも承認申請 
  • FDAがジャディアンスの心血管死抑制効果を認定 



【新薬開発】


ASH:抗Pセレクチン抗体が鎌状赤血球症の疼痛クリーゼを抑制
(2016年12月3日発表)

ノバルティスの抗Pセレクチン抗体、SEG101(crizanlizumab)の第二相試験結果がASH(米国血液学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。鎌状赤血球症患者の血管閉塞性疼痛クリーゼ(危機)のリスクを偽薬比45%削減した。

鎌状赤血球症はヘモグロビン遺伝子変異による遺伝性疾患で、赤血球の酸素運搬能力が低い。アフリカに多いとされる。慢性的溶血や血管閉塞性疼痛、多臓器不全などを合併する。

SEG101は抗Pセレクチン・ヒト化抗体で、内皮細胞のPセレクチンに結合して鎌状赤血球が接着するのを妨げる。ノバルティスが先月、買収オプションを行使したSelexys Pharmaceuticalsの開発品。

今回の第二相試験は、過去12ヶ月間に血管閉塞性疼痛クリーゼを2~10回経験した患者198人を偽薬、5mg/kg、2.5mg/kgの三群に割付けて発生頻度を観察した。結果は、主評価項目である5mg/kg群の年率発生回数が1.63、偽薬群は2.98となり、リスクが45.3%低下、p=0.010だった。2.5mg/kg群も2.01対3.00と少なかったがp=0.180。

既存薬ではヒドロキシウレアが用いられているが、それほど普及していない模様である。患者がアフリカに多いとなると、価格が高く冷凍保存が必要な遺伝子組換え薬は必ずしも適していないのではないかと思われるが、有望な新薬が現れなかったらそんな心配もできない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: Atagaらの治験論文(NEJM、オープンリリース)

ASH:ペン大がCAR-TのALLデータ発表
(2016年12月4日発表)

ノバルティスは、キメラ抗原受容体-T細胞療法(CAR-T)であるCTL019の第二相青少年B細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)試験の結果を発表した。ライセンス元であるペンシルバニア大学の研究者がASHのプレスブリーフィングで公表したもの。

CTL019は、B細胞特異的に発現するCD19に結合する抗体の単鎖可変領域の遺伝子をTCR共刺激伝達領域である4-1BB及びCD3ゼータ鎖の遺伝子そしてスペーサーで繋いだものを、患者から採取したT細胞に導入し、培養・活性化する。fludarabineやcyclophosphamideでプリトリートして患者のリンパ球を枯渇した後に投与すると、抗原提示がなくてもB細胞を攻撃する。

今回のELIANA試験は欧米や日本などの施設で3~25歳の再発性難治性患者50人に投与したところ、客観的反応率(血球数の回復が不十分だが完全寛解の症例も含む)が82%となった。CAR-Tの泣き所であるグレード3、4のサイトカイン放出症候群が48%の患者で発生し、人工心肺や透析を必要とする低血圧も発生したが、死亡例はなかった。グレード3の神経学的イベント・精神学的イベント(脳症やせん妄など)の発生率は15%だった。

ノバルティスは17年初めに米国で、欧州でも同年中に、承認申請する考え。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認申請】


メルク/ファイザーの抗PD-L1抗体が優先審査に
(2016年11月29日発表)

ドイツのメルクと共同開発パートナーであるファイザーは、抗PD-L1完全ヒト化抗体であるMSB0010718C(avelumab)を米国で転移性メルケル細胞腫用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。PDUFA審査期限は不明。承認されれば抗PD-L1ではロシュのTecentriq(atezolizumab)に次ぐ第二の新薬、抗PD-1も含めればBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)などに次ぎ4番目となる。

メルケル細胞腫は皮膚がんの一種で進行が速い。米国で年2500人が発症、10月に承認申請されたEUでも同数の、希少疾患だ。

開発競争の激しい分野ではリード・インディケーションの選択が重要だ。選択の余地が大きい腫瘍学では、承認までの開発リードタイムを少しでも短縮し承認審査機関から加速審査や優先審査を受けるために色々な工夫がなされている。抗PD-1/PD-L1ではBMS/小野とMSDが様々な癌でつばぜり合いしているが、ロシュは膀胱癌を、MSD/ファイザーは希少疾患を最初の適応症に選んだ。勿論、将来は肺癌のような大市場で全面対決する覚悟だろう。

一方、アストラゼネカの抗PD-L1であるMEDI4736(durvalumab)は、肺癌や頭頸部癌でサロゲートマーカーに基づく加速承認申請する作戦だったが、治験結果が出る前に他社が適応拡大してしまったため、中々申請できないでいる。彼我の距離やスピード、夫々の適応症の得失を正しく測定評価する能力が問われている。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、キイトルーダで二つの適応拡大申請
(2016年11月28日発表)

抗PD-1抗体の開発販売で激突しているBMS/小野(Opdivo)とMSD(Keytruda)の両陣営は、適応拡大の手綱も緩めていない。先週はMSDが米国で二つの適応拡大申請を相次いで行った。一つは古典的ホジキン型リンパ腫で、Opdivoが既に承認されているので意外感はないが、優先審査指定され審査期限が来年3月15日と早いのが驚き。四次治療または難治性の患者を対象にしていてOpdivoより遅い段階での、いわゆるサルベージセラピーとしての用途であることが理由だろう。

もう一つの用途は末期マイクロサテライト高不安定性(MSI-H)腫瘍の再発治療。MSI検査は、同じ塩基配列が続いていて複製エラーが起きやすい遺伝子部位を調べることによって、ミスマッチを修復するメカニズムがどの程度機能しているかを調べるもの。リンチ症候群の患者が発症する遺伝性結腸直腸癌はミスマッチ修復遺伝子の先天的な変異と後天的な変異が重なってMSI-Hになることが多いようだが、結腸直腸癌以外では後天的な変異だけのケースもあるようだ。

着眼の経緯はNew England Journal of Medicine誌の治験論文に記されている。バイオマーカーに基づいて応答性を予測する手法がまた一つ、増えそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース(cHL、12/1付け)
リンク: 同(MSI-H腫瘍、11/28付け)
リンク: Leらの治験論文(NEJM)

GSK、COPDのトリプルコンビを欧州でも承認申請
(2016年12月2日発表)

グラクソ・スミスクラインは三種類の活性成分を配合したClosed Triple CombinationをCOPD治療薬として欧州で承認申請した。米国でも11月に申請済み。

COPDの増悪予防は患者の反応を見ながら薬を増量・追加していく。今回のトリプルコンビ薬は、コルチコイドのfluticasone furoate、長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤のumeclidinium、そして長期作用性ベータ2作用剤のvilanterolを配合したもので、Ellipta吸入器で一日一回、吸入する。夫々の成分や二剤配合薬は既に実用化されているので併用可能だが、1個で済めば手間が省ける。

Innoviva(Nasdaq:INVA)との共同開発プロジェクトの対象で、GSKは売上の6.5~10%をロイヤルティとして支払い、Innovivaはその85%を14年にスピンアウトしたTheravance Biopharma(Nasdaq:TBPH)に支払う。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認】


FDAがジャディアンスの心血管死抑制効果を認定
(2016年12月2日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の新しい適応・効能を承認した。二型糖尿病且つ心血管疾患の成人患者が心血管疾患で死亡するリスクを削減する、というもの。

CDC(米国疾病管理予防センター)によると、糖尿病成人は心血管疾患で死亡するリスクが1.7倍高いので、血糖治療薬が心血管疾患リスクを高めるのか下げるのかは重要な問題だ。米国は未承認用途・効能に関する情報提供の規制が厳しいので、正式承認の意義は大きい。

Jardianceは腎臓細管のグルコース・トランスポーターであるSGLT-2を阻害して、グルコースが血中に戻るのを防ぐ。利尿を促進する面もあり、血圧低下の便益がある一方で低血圧やケトアシドーシスのリスクがある。独特の副作用は尿道や性器の感染症。尿道に付着するグルコースが栄養になるようだ。

今回の承認のエビデンスとなったEMPA-REG OUTCOME試験では、心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的卒中の複合評価項目の偽薬比ハザードレシオが0.86、95.02%信頼区間0.74~0.99となり、非劣性解析だけでなく優越性解析も成功した。心血管死はハザードレシオ0.62、95%信頼区間0.49~0.77。1000人に1年間投与すると心血管疾患で死亡する人を7.7人減らすことができる計算だ。

長期大規模試験とは言え一件だけで効能を認めるのは妥当か?心臓腎臓薬諮問委員会が招集されたが、YESが12人、NOが11人と票が分かれた。僅差でも、大統領選と同じで、勝者は全てを獲得する。

リンク: FDAのリリース
リンク: EMPA-REG OUTCOME Investigatorsの治験論文(NEJM誌オープンアクセス)




今週は以上です。

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2016年11月27日

2016年11月27日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • GSK、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の適応拡大試験成功 
  • イーライリリーのsolanezumabはやっぱりフェール 
  • GSK、COPDのトリプルコンビを承認申請 
  • 抗CD38抗体、多発骨髄腫二次治療としても承認 
  • ランタス・リキスミア・プリミックスが承認 
  • 武田のNinlaroがEUで承認 
  • オプジーボがEUでcHLに承認 


【新薬開発】


GSK、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の適応拡大試験成功
(2016年11月23日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を難治性好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の治療に用いる適応拡大試験が成功したと発表した。ステロイド治療を受けている患者に300mgを4週間毎に皮注して、寛解(Birmingham Vasculitis Activity Scoreが0かつステロイド使用量がprednisolone換算で4mg/日以下)の導入効果を比較したもの。

共同主評価項目の一つである24週間以上寛解率が28%(偽薬群は3%)、もう一つの第36週且つ第48週寛解率が32%(同3%)と、何れも有意な差があった。GSKは17年に適応拡大申請する考え。

EGPAは好酸球が著しく増加して血管炎が発生し、様々な臓器・器官に障害を生じる。多くの患者が喘息症や副鼻腔ポリープ、好酸球増加症を併発している。有病率は百万人につき14~45人。難病情報センターによると日本で治療を受けている患者数はおよそ1900人と推定されている。

リンク: GSKのプレスリリース

イーライリリーのsolanezumabはやっぱりフェール
(2016年11月23日発表)

イーライリリーは、LY2062430(solanezumab)の第三相軽度アルツハイマー病試験がフェールしたと発表した。残っている試験は発症前の高リスク患者を対象としたものだけとなった。

solanezumabはアミロイド・ベータ(11-20)を標的とするヒト化モノクローナル抗体。アルツハイマー病患者の脳にはアミロイド・ベータの蓄積が見られること、壮年期に発症する若年性アルツハイマー病の患者の多くがアミロイド・プリカーサー・プロテイン(APP)やそれを切り出す酵素の遺伝子に変異を持っていることなどから、アミロイド・ベータを防止・除去すれば加齢性アルツハイマー病を予防・治療できると考える、アミロイド仮説に基づく開発品の一つだ。

7年前に軽中度アルツハイマー病の治療で第三相入り。二本ともフェールしたが、最初に終了した試験では軽度患者(MMSEで20~26)の事後的サブグループ分析で認知機能評価スコアであるADAS-cog14の悪化を有意に遅らせる可能性が浮上したため、3年前に改めて軽度患者だけの第三相を開始した。組入れ数は最初の二本の軽度患者数合計と大差ないが、MRIまたはCSF検査でアミロイドベータが確認された患者だけに絞り込む工夫を行った。

結果は、偽薬群との差のp値が0.095となり、フェールした。やはり、事後的サブグループ分析は当てにならない。相互に独立した複数の試験で結果が再現されることが重要だ。この試験の結果は、12月8日に CTAD(Clinical Trials on Alzheimer's Disease)のミーティングで発表される予定。ウェブキャストも開催されるようだ。

上記のように、若年性アルツハイマー病はAPPやセクレターゼの遺伝子変異が見られるので、アミロイド・ベータ治療薬に適している可能性がある。但し、全員が数年内に発症するわけではないので、臨床試験で予防効果を検出するのは簡単ではないだろう。最後の戦場である予防試験も楽観できないだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


GSK、COPDのトリプルコンビを承認申請
(2016年11月21日発表)

グラクソ・スミスクラインは、三種類の活性成分を配合したClosed Triple CombinationをCOPD治療薬として米国で承認申請した。欧州でも数週間内に申請する予定。

COPDの増悪予防は患者の反応を見ながら薬を増量・追加していく。今回のトリプルコンビ薬は、コルチコイドのfluticasone furoate、長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤のumeclidinium、そして長期作用性ベータ2作用剤のvilanterolを配合したもので、Ellipta吸入器で一日一回、吸入する。夫々の成分や二剤配合薬は既に実用化されているので併用可能だが、1個で済めば手間が省ける。

Innoviva(Nasdaq:INVA)との共同開発プロジェクトの対象で、GSKは売上の6.5~10%をロイヤルティとして支払い、Innovivaはその85%を14年にスピンアウトしたTheravance Biopharma(Nasdaq:TBPH)に支払う。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認】


抗CD38抗体、多発骨髄腫二次治療としても承認
(2016年11月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Darzalexを多発骨髄腫の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。セルジーンのRevlimid(lenalidomide)またはジョンソン・エンド・ジョンソン/武田薬品のVelcade(bortezomib)をdexamethasoneと併用する、RdレジメンまたはVdレジメンと併用する。

Rdレジメンに追加した二次治療試験では、Rdレジメンだけの群と比べてPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.37(95%信頼区間0.27~0.52)、Vdレジメンに追加した三次治療試験ではVdだけと比べて0.39(0.28~0.53)だった。

DarzalexはCD38を標的とする完全ヒト化抗体。15年に多発骨髄腫の四次治療薬として単剤投与することが米国で承認された。デンマークのGenmab (Nasdaq Copenhagen:GEN)からライセンスしたもの。

リンク: JNJのプレスリリース

ランタス・リキスミア・プリミックスが承認
(2016年11月21日発表)

サノフィは、持効性インスリンLantus(insulin glargine、和名ランタス)とGLP-1作用剤Lyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)の活性成分を配合した固定比率合剤、Soliquaが米国で二型糖尿病薬として承認されたと発表した。Retrophinから2億4500万ドルで取得した優先審査バウチャーを利用して早期承認取得を図ったが、結局、承認まで11ヶ月かかった。

遅延の理由は用量を調整できないこと。インスリンは血糖値に応じて用量を変えるが、GLP-1作用剤は滴定の余地が小さく増やすと副作用リスクだけが高まってしまう。サノフィはインスリンとGLP-1作用剤の比率が異なる三種類の規格を用意。欧州ではCHMPがglargine 100単位/ml、lixisenatideは33mcg/mlと50mcg/mlの二種類に肯定的意見を出したところだが、FDAは取り違え事故を懸念したのか33mcgしか承認しなかった。

lixisenatideはZealandから開発販売権を取得したもの。

リンク: サノフィのプレスリリース

武田のNinlaroがEUで承認
(2016年11月24日発表)

武田薬品は、Ninlaro(ixazomib cirate)がEUで再発性多発骨髄腫に承認されたと発表した。同社のVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤だが経口投与できることが特徴。

リンク: 武田のプレスリリース

オプジーボがEUでcHLに承認
(2016年11月22日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)をクラシック・ホジキン型リンパ腫の治療に用いることがEUで承認されたと発表した。自家造血幹細胞移植とAdcetris(brentuximab vedotin)による治療に反応しなくなった患者に用いる。臨床試験ではORR(客観的反応率)が66%だった。

リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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2016年11月20日

2016年11月20日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AHA:心房細動・ステントのトリプルセラピー 
  • AHA:PCSK9RNA介入薬は効果が長期間持続 
  • AHA:レパーサのIVUS試験成功 
  • アムジェン、抗CGRP受容体抗体の二本目の第三相も成功 
  • ギリアドのJAK阻害剤は第三相が一本成功 
  • ノバルティス、CAR-Tの第二相データを発表へ 
  • ノバルティス、FLT3阻害剤の承認申請が受理 
  • HEPLISAVは承認されず 
  • Qapzolaも承認されず 
  • FDAが外陰膣萎縮症用薬を承認 
  • AHA:セレコックスの安全性試験がやっと終了 



【新薬開発】


AHA:心房細動・ステントのトリプルセラピー
(2016年11月14日発表)

AHA(米国心臓協会)の科学部会で、PIONEER AF-PCI試験の結果が発表された。冠動脈PCIでステント留置術を受けた患者はアスピリンとclopidogrelのような抗血小板薬を併用するデュアル・アンチプレイトレット・セラピー(DAPT)を施行するのが一般的だが、抗血栓薬を服用していて出血リスクが高い非弁性心房細動患者にも有益なのか?単純にDAPTを追加するより良い方法はないのか?

このような問題意識の下に、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を使って新レジメンを検討したのが本試験だ。26ヶ国の施設で2124人の患者を以下の三群に無作為化割付して、臨床的に重要な出血のリスクを比較した。

  • rivaroxaban(15mg一日一回)と抗血小板薬(clopidogrel、prasugrel、ticagrelor)の12ヶ月コース(以下、二剤群)。
  • rivaroxaban、アスピリン、そして抗血小板薬を1~12ヶ月用いるコース(用量調整群)。三剤併用期間中はrivaroxabanの用量を2.5mg一日二回に減量する。
  • 対照群はビタミンK拮抗剤、アスピリン、そして抗血小板薬を1~12ヶ月用いるコース。


結果は、二剤群の出血率が16.8%と対照群の26.7%を大きく下回り、ハザードレシオ0.59、統計的に有意だった。用量調整群も18.0%に留まり、ハザードレシオ0.63、有意だった。

心血管イベントの発生数は大差なかったが、非劣性解析を行うには組入れ数が一桁足りず、増えなくてよかったとしか言えないので消化不良だ。抗血栓薬も抗血小板薬も血栓性疾患の予防効果と出血リスクのトレードオフがあるからだ。

尚、この試験の論文はNew England Journal of Medicineに刊行されたが、全死亡解析は別途、Circulationに掲載されている。一つのデータセットで複数の解析を行うと偶然に有意差を拾ってしまうリスクがあるため、ここでは割愛する。

リンク: Gibsonらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

AHA:PCSK9RNA介入薬は効果が長期間持続
(2016年11月15日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)とAlnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-PCSsc(inclisiran)の第二相試験途中経過をAHAで発表した。一回投与でLDL-Cが60日後に59%低下、180日時点でも43%低かった。90日置いて二回投与した症例では120日時点で57%低下。抗PCSK9抗体と同じ皮注用だが、3ヶ月に一回で足りるなら簡便だ。効果が優れていることはこれで分かった。今後の注目は、副作用の軽重だろう。

inclisiranはRNA介入に特化した新薬開発型新興企業であるAlnylamが創製したRNA介入薬で、PCSK9の合成を阻害する。メカニズムは異なるが、抗PCSK9抗体と同様に、血中LDL-Cを取り込むべき肝臓のLDL受容体にPCSK9が結合して零落するを妨げる。

今回の第二相は、アテローム性心血管疾患またはそれと同等のリスクを持ち、LDL-C治療薬の最大耐容量を服用しても十分に低下しない患者501人を組み入れた、用量変動試験。治療時発現有害事象は筋痛や肝機能検査値異常。どちらもコレステロール治療薬を開発する上で重要なチェックポイントだ。致死的な心筋梗塞も一例あった模様であり、RNA介入薬のクラス・イフェクトではないことも確認すべきだろう。

メディスンズ・カンパニーは13年にAlnylamと開発提携、今回の第二相から主導している。

リンク: 両社のプレスリリース

AHA:レパーサのIVUS試験成功
(2016年11月15日発表)

その抗PCSK9抗体では、アムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)のIVUS試験の結果もAHAで発表された。冠動脈アテロームの量と冠動脈疾患のリスクがダイレクトに相関するものなのかどうか、まだ結論は出ていないので先走るべきではないが、心血管アウトカム試験の結果に希望が持てるくらいのことは言っても良いだろう。

このGLAGOV試験は、冠動脈造影術を受ける、最大耐容量スタチンを服用している患者を偽薬またはRepatha(420mg)を月一回皮注する群に割付けて、78週間後のPAV(%アテローム量)の変化の群間差を比較した。LDL-Cのベースライン値は93mg/dLで、Repatha群は78週後に36mg/dLに低下した。PAVはベースライン(36.4%)から0.95%低下、偽薬群は37.2%から0.05%上昇、有意な群間差があった。

二次的評価項目のnTAV(正常化総アテローム量)は5.8立方mm減少、偽薬群は0.9立方mm減でこれも有意。心血管アウトカムを比較する検出力はないが、発生率は12.2%と偽薬群の15.3%より低く、変な結果ではなかった。

コレステロール治療薬の冠動脈アテローム抑制効果を検討するIVUS試験はまだ件数が少なく、分からないことも多い。一割以上の患者が二回目のIVUS検査を受けないというドロップアウトの多さも難点だ。
今回のデータで見ると、PAVの治療効果である1.0%は臨床的に重要なのか?もし重要なら、ベースライン時点での0.76%の群間差は軽視できるのか?ベースライン値で4分位に分けたサブグループ分析を見たいものだ。

Repathaの心血管アウトカム試験は昨年、2万人を超える患者の組み入れを完了。結果は17年のACC辺りで発表と目されているようだ。

リンク: アムジェンのプレスリリース
リンク: Nichollsらの治験論文(Journal of American Medical Association、オープンアクセス)

アムジェン、抗CGRP受容体抗体の二本目の第三相も成功
(2016年11月16日発表)

アムジェンは、AMG 334(erenumab)の二本目の第三相片頭痛予防試験が成功したと発表した。月に8日ほど発症するepisodicな患者を組入れて、偽薬、70mg、140mgの何れかを月一回、24週間に亘って皮注し、最後の4週間の発症日数をベースライン値と比較したところ、各1.8日、3.2日、3.7日の減少となり、両用量とも偽薬比有意な差があった。70mgだけを試験したもう一本の第三相が既に成功しており、月に18日発症と慢性的な患者を組入れた第二相試験のデータと合わせて、来年承認申請される見込み。

AMG 334は片頭痛発作時に増加し鎮静化すると減少するcalcitonin gene-related peptide(CGRP)の受容体を標的とする抗体。ノバルティスが開発に相乗りしており、北米や日本以外での販売を担当する。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ギリアドのJAK阻害剤は第三相が一本成功
(2016年11月16日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)はGS-0387(momelotinib)の第三相骨髄線維症試験二本の結果を発表した。Jakavi(ruxolitinib)対照試験は成功、主評価項目である脾臓反応率は26.5%、対照群は29.0%で、非劣性であることが確認された。二次的評価項目のTSS(総合的症状スコア)は非劣性ではなかった。有害事象では末梢神経症の発生率が10%対5%で高かった。

Jakavi治療歴がある患者(不応だった患者は除く)を組入れた試験では、脾臓反応率が6.7%、対照群(最適な代替的治療を施行・・・88%がJakaviを継続)は5.8%で優越性解析がフェールした。TSSは数値上は有意な差があったが、主評価項目がフェールしたのでそれ以降の解析は統計学的に意味がない。

ギリアドは当局と今後を相談する予定。Jakaviと同じJAK1/2阻害剤なので、効果が特に優れているわけではなく有害事象で見劣りする点もあるとなると、承認されたとしてもどの程度の出番があるのかよくわからない。

リンク: ギリアドのプレスリリース

ノバルティス、CAR-Tの第二相データを発表へ
(2016年11月16日発表)

ノバルティスは、ペンシルベニア大学の研究者からCART-19の開発販売権を取得、話題の新技術であるキメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T)療法に参入した。米国で再発性難治性急性リンパ性白血病の青少年を対象に実施している第二相試験のデータが12月のASH(米国血液学会)で発表される予定。学会サイトで公開された抄録によると、過去の試験と同様な良い結果が出たようだ。CAR-Tの泣き所であるサイトカイン放出症候群が多くの患者で発生し、半分近くがグレード3、4だったが致死例はなかった由。

リンク: ノバルティスの学会発表演題リリース

【承認申請】


ノバルティス、FLT3阻害剤の承認申請が受理
(2016年11月14日発表)

ノバルティスはPKC412(midostaurin)を欧米で承認申請し受理されたことを発表した。米国は優先審査を受ける。適応は、FLT3変異のある急性骨髄性白血病(初治療を含む)と進行全身性肥満細胞症。Invivoscribe TechnologiesのFLT3コンパニオン検査もPMA(販売前申請)が行われた。

急性骨髄性白血病の第三相試験では、cytarabine及びdaunorubicinと併用で導入療法を行い、完全寛解ならサイクル追加、その後はPKC412だけで維持療法を行ったところ、完全寛解率は59%でPKC412の代わりに偽薬を投与した群の54%と比べて有意な差がなかったものの、全生存のハザードレシオは0.77と有意に優れていた。5年生存率は50.9%、偽薬群は43.9%。

進行全身性肥満細胞腫はNEJMに今年、掲載された第二相単群試験に基づくもので、総合反応率60%だった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


HEPLISAVは承認されず
(2016年11月14日発表)

ダイナバクス(Nasdaq:DVAX)は、HEPLISAV-BをB型肝炎予防用ワクチンとして12年にFDAに承認申請したが、今回、2回目の審査完了通知を受領した。安全性に関する追加情報を要求された模様。追加試験を行ったり、好ましくないデータに関して追加情報や専門家の意見を提出したりしたが、結局、承認されなかった。ダイナバクスは諦めてはいない模様だが、ワクチンは高い安全性が求められ、B型肝炎ワクチンは既に広く用いられている製品が存在するので、安全性懸念を十分に払拭しないまま承認を得るのは困難なのではないか?

リンク: ダイナバクスのプレスリリース

Qapzolaも承認されず
(2016年11月17日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(Nasdaq:SPPI)はQapzola(apaziquone)をTUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後の補助療法として米国で承認申請していたが、FDAから審査完了通知を得た。二本実施された第三相試験が何れもフェールしたので止むを得ないところ。2年再発率が一本は38%対44.6%、もう一本は40.4%対46.6%と数値上は希釈液だけを投与した群より高かったのだが、測定値には精度というものがある。同社は第三相試験を実施していたが組入れを中止、改めて小規模な試験を行う考え。

リンク: Spectrumのウェブサイト(Statusのところに審査完了通知受領が記されている)

【承認】


FDAが外陰膣萎縮症用薬を承認
(2016年11月17日発表)

FDAは、Intrarosa(prasterone)を承認した。閉経に伴う外陰膣萎縮の症状である、中重度性交痛の治療に用いる。prasteroneは新規活性成分だが、DHEA(dehydroepiandrosterone)として健康食品などにも用いられているアンドロゲンを製剤化したもの。カナダのEndoCeutics社の製品。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


AHA:セレコックスの安全性試験がやっと終了
(2016年11月13日発表)

Celebrex(celecoxib、和名セレコックス)の心血管安全性試験、PRECISIONの結果がやっと、AHAとNew England Journal of Medicine誌で発表された。04年にMSDのVioxx(rofecoxib)が心血管副作用を理由に販売中止になったことが発端で06年にFDAの要請に基づいて開始されたもの。

当初は11年にも結果が判明する見込みだったが、イベント発生率が想定より低く治験離脱が多かったため、ハードルを引き下げたにも関わらず結局10年かかった。Celebrexは既に米国ではGE化しており、結果がどちらでもファイザーの収益影響は小さい。

この試験は、変形性/リウマチ性関節炎で心血管疾患又はリスク因子を持つ患者23081人を、Celebrex(100mgを一日二回)、naproxen(375mg一日二回)、 ibuprofen(600mg一日三回)の三群に割付けて、主要有害心血管イベント(心血管疾患による死亡、心筋梗塞、脳卒中)のリスクを比較したもの。

各群の発生率は2.3%、2.5%、2.7%となり、Celebrexはnaproxenと比べてハザードレシオ0.93、95%信頼区間0.76~1.13、統計的に非劣性だった。ibuprofen対比でもそれぞれ0.85、0.70~1.04となっている。サプライズではないが、胃腸イベントはCelebrex群が一番少なく、腎臓イベントはibuprofenが多かった。

この試験の難点は、被験者の心血管疾患のリスクがあまリ高くないこと、期中に服用を止めた患者が68%と多いこと、追跡打ち切り例が27%もあることなど。当時のCox-II阻害剤バッシングを考えると、心血管疾患のリスクが高い患者を多数組入れるのは難しかっただろう。鎮痛剤なので状態の良い時は飲まないだろうしほかの薬にスイッチするために治験を離脱した人も多かっただろう。結局、このような結果になるのは止むを得ないことであり、10年前に危惧されたことなのだが、

それでも行うことに意義がある

と私は思う。

リンク: Nissenらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)




今週は以上です。

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2016年11月13日

2016年11月13日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • 脊髄性筋萎縮症の第三相試験が成功 
  • キイトルーダによる膀胱癌二次治療の延命効果は化学療法を凌ぐ 
  • エマウス、鎌状赤血球症治療薬を承認申請 
  • CHMP、CSLベーリングのA型血友病薬などに肯定的意見 
  • BMSのオプジーボが米国で頭頸部癌の二次治療に適応拡大 
  • ギリアド、ベムリディが米国で承認 
  • ファイザー、IbranceがEUで承認 
  • アムジェン、パーサビブがEUで承認 


【新薬開発】


脊髄性筋萎縮症の第三相試験が成功
(2016年11月7日発表)

バイオジェンとIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、Spinraza(nusinersen)の第三相II型脊髄性筋萎縮症試験が成功したと発表した。I型用に承認申請中だが、FDAから前倒しで結論を出す旨の連絡があったことも明らかにした。年末あるいは来年第1四半期の発売に向けて準備を進めている由だ。

脊髄性筋萎縮症のうち、生後3週間から7ヶ月までの時期に発症するI型とそれ以降の幼児期に発症するII型は、脊髄神経細胞の機能に必要なSurvival Motor Neuronの遺伝子、SMN1の欠損が関与していることが多い。キャリアは50人に一人だが、両方の親から引き継ぐと発症する。日米欧の患者は30000~35000人と推定されている。

nusinersenは、SMN2遺伝子のスプライシングを変えることによって翻訳が途中で終わるのを防ぎ、Survival Motor Neuronを発現させる。アンチセンス薬のスペシャリストであるIonisが創製し、バイオジェンがライセンスした。

第三相はI型の試験が先に成功、今年9月に米国でローリング承認申請が完了。加速審査だが審査期限は公表されていない。EUも承認申請が受理され、加速審査を受ける。この試験は日本の施設も参加した。

今回のII型試験は、2~12歳の歩行不能患者126人を組入れて15か月間治療したところ、HFMSE(Hammersmith Functional Motor Scale Expanded)が4ポイント改善。シャム群(髄腔内投与なので偽薬は用いず投与するふりをしただけ)は1.9ポイント悪化し、統計的に有意な差があった。このスケールは3ポイント以上の差があれば臨床的に意味がある由で、臨床的にも合格点を取ったことになる。

バイオジェンはグローバルなEAPを開始する予定。承認を待つ間、規制当局の許諾を得た上で患者に投与することが可能になる。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

キイトルーダによる膀胱癌二次治療の延命効果は化学療法を凌ぐ
(2016年11月12日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の第三相尿路上皮腫瘍二次治療試験のデータをSITC(Society for Immunotherapy of Cancer)年次会議で発表した。全生存期間が化学療法を有意に上回る、良い結果だった。

このKEYNOTE-045試験は、切除不能・転移性尿路上皮腫瘍で白金薬による一次治療を既に受けた患者を組入れて、200mgを3週間に一回投与する群と、paclitaxel、docetaxel、vinflunineの中から医師が選んだ薬を使う化学療法群の全生存期間とPFS(無進行生存期間)を比較したもの。独立データ監視委員会が全生存期間の中間解析で成功認定したことが10月に発表されている。

ハザードレシオは0.73、p=0.0022、メジアン生存期間は10.3ヶ月で化学療法群は7.4ヶ月だった。PFSの中央値の差は1.1ヶ月のみであまり大きくない。このデータは全ユニバースの解析だが、PD-L1陽性患者だけの全生存解析はハザードレシオ0.57、p=0.0048、メジアン生存期間8.0ヶ月対5.2ヶ月となっている。陽性患者のほうが恩恵が大きそうだが陰性に効果がないようには見えない。

尿路上皮腫瘍は抗PD-1/PD-L1抗体の代表的な用途になった。ロシュのTecentriq(atezolizumab)はこの二次治療で初承認。BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)も第二相二次治療試験のデータに基づいて欧米で承認申請された。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


エマウス、鎌状赤血球症治療薬を承認申請
(2016年11月8日発表)

米国のエマウスライフサイエンスは、L-グルタミンを鎌状赤血球症治療薬として承認申請しFDAに受理されたと発表した。優先審査か否かは未連絡。EUでも承認申請の計画。

経口液用粉末で、NutreStoreという製品名で、短腸症候群の治療に遺伝子組換え型成長ホルモンと併用することが米国等で承認されている。米国の医療施設で実施された鎌状赤血球症の第三相試験では、鎌状赤血球クリーゼや入院の頻度を減らすことに成功した由だ。

リンク: エマウスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、CSLベーリングのA型血友病薬などに肯定的意見
(2016年11月11日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議でCSLベーリングのAfstylaなどの新薬に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

CSLベーリングのAfstyla(lonoctocog alfa)は遺伝子組換え型ヒト単鎖第VIII因子。A型血友病の出血の治療や予防に用いる。既存の全長第VIII因子よりもvWF親和性が高く、安定的。Afstylaをルーチン予防に用いる場合は週2~3回の投与で済む。米国では今年5月に承認された。

血友病では出血リスクの高い患者に予防目的でルーチン投与する手法が普及した。市場が大きいため投与頻度の少ない新薬が続々と開発・発売されている。類薬では、ノボ ノルディスクのNovoEight(turoctocog alfa)が週2~3回、バイエルのKovaltryやシャイアが買収したバクスアルタのAdynovateは週2回、バイオジェンのEloctate(efmoroctocog alfa)が3~5日に一回、となっている。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのFiasp(insulin aspart)も肯定的意見を受けた。即効性インスリンNovoRapidの新製剤で、添加剤(ビタミンとアミノ酸)を加えることにより初期の吸収速度や血糖降下作用の発現を向上、食中食後の投与を可能にした。管理放出型とミールタイム用の二種類を用いる患者のミールタイム用途や、インスリン・ポンプでの使用を想定している模様。

リンク: ノボのプレスリリース

サノフィのSuliqua(lixisenatideとinsulin glargine)も肯定的意見。GLP-1作用剤Lyxumiaと管理放出性インスリンLantusの活性成分のプリミックスで、二型糖尿病の血糖治療に用いる。インスリンは血糖管理の状況を見ながら用量を加減するのが本来の使い方だが、プリミックスは細かな調整ができないのが難点。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)のVemlidy(tenofovir alafenamide fumarate、略称TAF)はB型肝炎治療に肯定的意見を得た。HIVやHBVの治療に用いられているViread(tenofovir disoproxil fumarate、略称TDF)の親戚で、どちらも体内でtenofovirに変換されて活性化するプロドラッグだが、TAFのほうが安定性や分布がよいため投与量は10分の1で足りる。腎臓や骨の副作用リスクも緩和された。

リンク: ギリアドのプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスのArzerra(ofatumumab)を再発性慢性リンパ性白血病(CLL)の二次治療にfludarabine及びcyclophosphamideと三剤併用することも支持された。ジェンマブが創製した抗CD20完全ヒト化抗体で、グラクソ・スミスクラインが承認を獲得、発売したが、後にノバルティスに腫瘍学部門を売却した。

最初の承認はfludarabineとalemtuzumabに反応しなかった難治性CLLに単剤投与、次の承認はCLLの一次治療を受ける、fludarabineベースのレジメンが適さない患者に、chlorambucilまたはbendamustineと併用。最初と最後が先に承認されたことになる。

リンク: EMAのプレスリリース

さて、PTC Therapeutics(Nasdaq: PTCT)のTranslarna(ataluren)はデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として14年にEUで条件付き承認されたが、第三相試験がフェールしたため、販売許可が更新されるかどうか注目されていた。今回、CHMPはPTCにセカンドチャンスを与えることを発表した。もう一度臨床試験を行って結果を2021年第1四半期までに提出する。前回の第三相試験は2013年開始、15年に結果が判明したので、5年間の猶予は潤沢だ。

リンク: PTCのプレスリリース

【承認】


BMSのオプジーボが米国で頭頸部癌の二次治療に適応拡大
(2016年11月10日発表)

BMSのOpdivo(nivolumab)を難治性・転移性頭頸部扁平上皮腫の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認された。第三相試験の中間解析では、メジアン生存期間が7.5ヶ月と実薬対照群(cetuximab、MTX、docetaxelなどの中から医師が選択)の5.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70、統計的に有意だった。頭頸部癌の一部はヒトパピローマウイルス(HPV)感染との関連が疑われているが、HPV陽性患者ではハザードレシオ0.56、陰性でも0.75と、どちらも点推定値は1を下回った。ただし、陰性患者の95%上限は1を超えるので、有意性は明確ではない。

Opdivoは小野薬品が日韓台で実施した第三相胃癌サルベージ試験も成功したことが発表された。データは未発表。

リンク: BMSのプレスリリース

ギリアド、ベムリディが米国で承認
(2016年11月10日発表)

ギリアド・サイエンスはVemlidy(tenofovir alafenamide fumarate)が米国で慢性B型肝炎の治療に承認されたことを発表した。上記のように、Vireadの類薬だが用量が10分の1で足り分布が良いため腎臓や骨の副作用が小さい。米国ではVireadと同じ価格で発売されるようだ。日本でも承認申請済み。

リンク: ギリアドのプレスリリース

ファイザー、IbranceがEUで承認
(2016年11月10日発表)

ファイザーは、Ibrance(palbociclib)がEUで承認されたと発表した。FDAは第二相試験のデータに基づいて15年にエストロゲン受容体陽性her2陰性の閉経後末期乳癌の一次治療薬としてletrozoleと併用することを承認したが、EUは第三相試験の結果を待って、この用途と二次治療にfulvestrantを併用する用法を閉経を問わずに承認した。

細胞周期進行に関与するCDK4、CDK6というキナーゼを阻害する経口剤。前臨床でアロマターゼ阻害剤などの効果をブーストする作用が見つかり、展望が開けた。一次治療の第三相試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン24.8ヶ月とletrozoleだけの群の14.5ヶ月を上回り、二次治療試験では11.2ヶ月とfulvestrantだけの4.6ヶ月を上回った。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アムジェン、パーサビブがEUで承認
(2016年11月11日発表)

アムジェンはParsabiv(etelcalcetide、和名パーサビブ)がEUで二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬として承認されたと発表した。透析期慢性腎疾患の患者に用いる。カルシウム感受受容体を作動する小分子薬で、副甲状腺ホルモンの分泌を抑制し、血清リン濃度を低下させる。週3回静注。透析が終わった後に投与できるので簡便。

同社のSensipar(cinacalcet、和名レグパラ)と比較した臨床試験では、副甲状腺ホルモン抑制奏効率が非劣性だった。治療時発現有害事象は症候性低カルシウム血症や心不全が若干多かった。

米国でも申請されたが審査完了通知を受領した。日本は小野薬品が導入、10月に第一部会を通過した。

リンク: アムジェンのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年11月6日

2016年11月6日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティスがCDK4/6阻害剤を承認申請 
  • メルク、抗PD-L1抗体をEUでメルケル細胞腫に承認申請 
  • 皮注用リツキサンを米国でも承認申請 
  • FDA諮問委員会、solithromycinの評価は分かれた 


【承認申請】


ノバルティスがCDK4/6阻害剤を承認申請
(2016年11月1日発表)

ノバルティスはLEE011(ribociclib)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。ファイザーのIbrance(palbociclib)と同じCDK4/6阻害剤で、細胞周期進行に関わる酵素の機能を妨げることによって癌細胞の増殖を抑制、アポトーシスを誘導する。適応はホルモン受容体陽性、her2陰性の進行性転移性閉経後乳癌。一次治療薬として、アロマターゼ阻害剤Femara(letrozole)と併用で600mgを一日一回、3週間経口投与して1週間休む。

第三相試験ではPFS(無進行生存期間)をletrozole単剤投与群と比較したが、中間解析でハザードレシオ0.556、p=0.000003、サブグループ全てで改善し、独立データ監視委員会が成功認定した。グレード3以上の主な有害事象は骨髄抑制と肝機能検査値異常上昇。軽度の不整脈も見られるようだ。

乳癌用薬の市場は早期乳癌の術後補助療法向けが一番大きいが、切除が成功し治癒した患者が対象なので高い安全性が求められる。LEE011はどうだろうか。

LEE011はノバルティスがAstex Pharmaceuticals(後に大塚製薬が買収)と行った細胞周期制御に関する共同研究の成果。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

メルク、抗PD-L1抗体をEUでメルケル細胞腫に承認申請
(2016年10月30日発表)

ドイツのメルクと米国のファイザーは、MSB0010718C(avelumab)を転移性メルケル細胞腫用薬としてEUに承認申請し、受理されたと発表した。メルケル細胞腫は進行性の皮膚癌の一種で、5年生存率は20%以下といわれる。希少疾患でEUの推定患者数は2500人。

avelumabはPD-L1を標的とする完全ヒト化抗体。承認申請の根拠となった第二相の二次治療試験では、88人に10mg/kgを二週間に一回投与したところ、独立放射線学委員会の査読に基づく確認客観的反応率(cORR)が31.8%、完全反応8人、部分反応20人だった。深刻な治療関連有害事象は腸炎、点滴反応、アミノトランスフェラーゼ上昇、軟骨石灰化症、滑膜炎、間質性腎炎など。尚、この試験はPD-L1陽性でない患者も組み入れた。

この二社は2年前からPD-1/PD-L1を標的とする抗体医薬のパイプラインを持ち寄って共同研究・開発を行っている。巨大な経営資源を生かして、非小細胞性肺癌や胃癌、腎細胞腫、卵巣癌、尿路上皮癌など多数のavelumabの第三相試験を実施中。

リンク: 両社のプレスリリース

皮注用リツキサンを米国でも承認申請
(2016年11月3日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Rituxan(rituximab、和名リツキサン)の皮注用新製剤を米国で承認申請し受理されたことを発表した。Rituxanは米国で97年に承認された抗CD20キメラ・モノクローナル抗体で、非ホジキン型リンパ腫や慢性リンパ性白血病、リウマチ性関節炎などの治療に用いられる。血液癌では維持療法も承認されているが、点滴静注に2時間以上かかることがネックだ。皮注用は5分で、ready-to-useなので利便性が高い。

皮膚は強力な外敵排除機構が存在するため高分子薬を投与してもブロックされてしまう。皮注用RituxanはHalozyme(Nasdaq:HALO)が開発した遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロン酸分解酵素、rHuPH20を同時に投与することで速やかな吸収を可能にした。EUでは14年に承認。her2陽性乳癌用薬Herceptin(trastuzumab)もrHuPH20を用いる皮注用製剤が13年にEUで承認された。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、solithromycinの評価は分かれた
(2016年11月4日発表)

Cempra(Nasdaq:CEMP)はCEM-101(solithromycin)を市内感染細菌性肺炎の治療薬として欧米で承認申請中。FDAは11月4日に抗微生物薬諮問委員会を招集したが、賛成7人、反対6人と意見が分かれた。効果があることでは全員一致したが、肝毒性の検討が不十分であることも一人を除く全員が同意した。

経口剤と静注用の二製剤が承認申請され前者の審査期限は12月27日、後者は28日となっているが、Ketek(telithromycin、和名ケテック)の苦い経験があるので、FDAは慎重なスタンスを取るのではないか。

Ketekはアベンティスが創製した抗生薬で、マクロライド系の派生であるケトライド系の第一号とされた。01年にドイツ、03年に日本、04年に米国で市中感染肺炎や急性気管支炎、急性副鼻腔炎などの治療に承認されたが、疫学研究で他の抗生薬より肝不全リスクが高い疑いが浮上、意識喪失などの深刻な有害事象も見られっため、用途が限定された。

FDAの承認がEUや日本より遅かったのは、肝毒性を懸念してアベンティスに2万例以上の大規模な臨床試験を行わせてリスクが既存薬と比べて著しく高くないことを確認させたからだが、この試験に多くの患者をエントリーした医師が不正報告を行い真実を覆い隠してしまった。アベンティス側は早い段階で不正に気付いていたがFDAに報告しなかった、という報道を当時、読んだことがある。

ひどい話だ。バルサルタンは特別な長所がないだけでARBとしての効能は確立している。それに対して、深刻な副作用の隠蔽は人類全体、後世も含めれば何十億人、何百億人に対する犯罪であり、罪ははるかに重い。

solithromycinはOptimer Pharmaceuticalsからライセンスしたフルオロケトライド系の抗生物質。日本は富山化学が導入し第三相試験中。リボソームの結合箇所がマクロライド系は一ヶ所、Ketekは二ヶ所であるのに対して、三ヶ所あり、マクロライド耐性菌にも効果が期待できる。力価自体もin vitroでazithromycinの16倍と高いようだ。

第三相市中感染細菌性肺炎試験ではフルオロキノロンのmoxifloxacinを対照薬として細菌学的反応率や臨床的奏効率が非劣性だった。治療関連有害事象の発生率は34%対13%で高かったが、マクロライド系と同様に点滴箇所痛が目立ったようだ。肝機能検査値異常の発生率も若干高く、FDAの分析によると、Ketekと比べても高い。このため、FDAは、Ketekと同様な大規模な試験の実施を求める可能性がありそうだ。

画期的な抗生薬が登場してもしばらくすると耐性菌が見つかる、という状態なので新薬のニーズは高い。しかし、深刻な副作用があるならば、メリットも確実であることが望まれる。上記のように抗生剤の臨床試験は非劣性試験が多いが、もしmoxifloxacin耐性菌が多いならば、新薬のほうが奏効率が高くなるはずだ。本当にキノロンやマクロライドが効かない菌に有効なのか?奏効率が同じだということは、キノロンやマクロライドほど効かない菌もあるのだろうか?

リンク: Cempraのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年10月30日

2016年10月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗PD-L1抗体が治験許可部分停止に 
  • GSK、帯状疱疹ワクチンを米国で承認申請 
  • 脊髄性筋萎縮症用薬が欧州でも承認申請 
  • PortolaもXa阻害剤を承認申請 
  • Tesaro、PARP阻害剤をEUで承認申請 
  • アクテムラのライバルは審査完了に 
  • キイトルーダ、肺癌一次治療に承認 


【新薬開発】


抗PD-L1抗体が治験許可部分停止に
(2016年10月27日発表)

アストラゼネカは、MEDI4736(durvalumab)の頭頸部扁平上皮腫試験がパーシャル・クリニカル・ホールドになったことを公表した。第三相試験二本で出血リスクの増加が見られたため、FDAが治験許可を部分的に停止、この用途の試験は単剤投与も併用も、新規患者組入れを禁じた。

MEDI4736はロシュのTecentriq(atezolizumab)と同様にPD-L1を標的とする抗体医薬。頭頸部癌のほかに非小細胞性肺癌などでも第三相試験中で、ファイザーからライセンスした抗CTLA4抗体のCP-675,206(tremelimumab)との併用も試験している。血液癌ではセルジーン(Nasdaq:CELG)が開発権を取得、セルジーンの薬との併用などを検討する。先行品に追い付くために併用法を重視しているのだろう。

昨年も間質性肺疾患の有害事象が原因で非小細胞性肺癌試験が中断されたことがあったが、EGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)と併用しており、Tagrissoは単剤でも間質性肺疾患のリスクがあるので、MEDI4736が悪い訳ではないかもしれない。今回の第三相頭頸部癌試験は単剤投与群とtremelimumab併用群が設けられているが、どちらの群でリスクが高まったのかは明らかでない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


GSK、帯状疱疹ワクチンを米国で承認申請
(2016年10月24日発表)

グラクソ・スミスクラインはShingrixをFDAに承認申請した。帯状疱疹ウイルスの糖タンパクEを抗原、AS01-Bをアジュバントとする遺伝子組換え型帯状疱疹予防用ワクチンで、50歳以上が対象。2~6ヶ月おいて2回、筋注する。第三相試験では帯状疱疹リスクが90%以上、削減された。ヘルペス後神経痛も90%前後、削減された。

同社はワクチン領域で世界三大企業の一つ。低所得国における感染症対策やワクチンの普及に熱心に取り組んでいる。

リンク: GSKのプレスリリース

脊髄性筋萎縮症用薬が欧州でも承認申請
(2016年10月28日発表)

バイオジェンは、nusinersenを脊髄性筋萎縮症用薬としてEUに承認申請し、受理されたと発表した。加速審査を受ける。米国でも9月にローリング承認申請が完了、受理された。優先審査を受けるが、審査期限は公表されていない。製品名はSpinrazaとなる見込み。

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスしたアンチセンス・オリゴヌクレオチド。脊髄性筋萎縮症は神経筋の成長や機能に係るSurvival Motor Neuronの遺伝子、SMN1の欠損が関与していて、両親から継承すると発症する。nusinersenはSMN1と似ているSMN2遺伝子のスプライシングを変えて、Survival Motor Neuronを発現できるようにする。

髄腔内投与。幼児発症型の患者122人を組み入れた第三相試験(日本の施設も参加)では中間解析で奏効率がシャム群を有意に上回った。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

PortolaもXa阻害剤を承認申請
(2016年10月25日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT054021(betrixaban)を急性疾患入院患者の静脈血栓塞栓予防薬として米国で承認申請した。リスクとベネフィットのバランスが難しい分野であり、第三相試験のデザインも結果も万全とは思えないので、全てのデータを踏まえて総合的な判断が必要だだろう。

第三相のAPEX試験では、心不全や脳卒中、感染症、肺疾患などで入院した静脈血栓塞栓のリスク因子(75歳以上、D-ダイマーが通常上限の2倍以上など)を持つ患者7513人を組入れて、標準的薬物療法(enoxaprin 40mgを一日一回、6~14日間に亘って皮注)とbetrixaban(80mgを一日一回、35~47日間経口投与)の発生状況を比較した。主評価項目は三つ、シーケンシャルに行った。

最初のD-ダイマー上昇コフォート(全集団の62%を占めた)の解析は、相対リスク0.806、p=0.054でフェール。次に、D-ダイマー上昇または75歳以上のコフォート(91%)は0.800、p=0.029。最後に、全集団の解析は0.76、p=0.006となった。大出血や致死的出血のリスクは大差なかった。頭蓋内出血は増加したが有意ではない。

この試験の問題は、第一に、解析計画。最初の解析に全てのアルファ(0.05)を付与しているので、二番目以降の解析のp値が幾つであったとしても統計学的には意味がなく、仮説検証試験としてはフェール以外の何物でもない。このような解釈を受け入れるつもりがないなら、三つの解析全てにアルファを配分すべきだった。

次に、便益の大きさ。症候性深静脈血栓・肺塞栓・深静脈血栓による死亡の発生率の群間差は0.6ポイント程度で決して大きくない。enoxaparin投与期間中の差はもっと小さく、予防効果の差の一部は投与期間の違いが寄与しているのだろう。

betrixabanはXa阻害剤。既存のXa阻害剤との違いは、半減期が19~25時間と長く一日一回服用に適していること。迅速な解毒が必要な時は同社のAndexXa(andexanet alfa)を使えばよい。また、代謝されずに主として便と一緒に排出されるため、腎機能やCYP相互作用の制約が小さい。上記の試験では重度腎障害やP糖タンパク強阻害剤を併用する患者は半量を投与した。

リンク: Portolaのプレスリリース


Tesaro、PARP阻害剤をEUで承認申請
(2016年10月27日発表)

Tesaro(Nasdaq:TSRO)は、欧州薬品庁(EMA)がniraparibの承認申請を受理したと発表した。白金薬感受性の難治性卵巣癌で白金薬ベースの化学療法に反応した患者の維持療法に用いる。米国でもローリング承認申請中。

遺伝子修復に関与するPoly (ADP-ribose) ポリメラーゼを阻害する、PARP 1/2阻害剤。同様な作用機序を持ち14年に欧米で卵巣癌の四次治療薬として承認されたアストラゼネカのLynparza(olaparib)や、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)がファイザーからライセンスして開発し8月に米国で承認申請したCO-338/PF-01367338(rucaparib)との違いは、第三相試験で生殖細胞性BRCA変異のない患者にも有効であったこと。

変異のある患者ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が21.0ヶ月で偽薬群の5.5ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.27、p<0.0001。ない患者では9.3ヶ月対3.9ヶ月、ハザードレシオ0.45、p<0.0001だった。

niraparibはMSDのMK-4827をライセンスしたもの。

リンク: Tesaroのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アクテムラのライバルは審査完了に
(2016年10月28日発表)

リジェネロン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィはREGN88/SAR153191(sarilumab)を中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として欧米で承認申請していたが、米国はFDAから審査完了通知を受領した。承認を得るためにはサノフィの充填製剤工場におけるcGMPに係る欠陥の是正が必要で、サノフィは是正計画を提出済み。

sariumabは中外/ロシュのActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)と同様にIL-6受容体を標的とする抗体医薬。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


キイトルーダ、米国で肺癌一次治療に承認
(2016年10月24日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をPD-L1強陽性の非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。コンパニオン診断キットであるDAKO社のPD-L1 IHC 22C3 pharmDXで腫瘍標本を検査して、PD-L1発現腫瘍比率スコア(TPS)が50%以上であった場合に適応になる。

二次治療では体重1kg当り2mg、75kgの患者なら150mgを三週間に一回投与するが、一次治療は体重に関わらず200mgを三週間に一回。第三相試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン10.3ヶ月と白金ベースの併用療法を施行した群の6.0ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.50、95%信頼区間0.37~0.68となり、全死亡リスクも有意に低かった。

抗PD-1抗体は免疫を強化するため免疫調停的有害事象のリスクも高まる。化学療法薬では見慣れない副作用なので注意が必要だ。深刻な有害事象は肺炎、結腸炎、肝炎、内分泌疾患、腎炎など。命に係る点滴反応のリスクもある。

日本では9月に悪性黒色腫に承認され、非小細胞性肺癌も審査中。日本肺癌学会などが今回の用途で早期承認の要望を行った。

リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年10月23日

2016年10月23日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • GSK、米国でサーバリックスの販売を中止 
  • PTCの筋ジストロフィー用薬の審査状況 
  • MSD、CMV予防薬の第三相が成功 
  • ギリアドがまたまたHCVの新コンビ薬 
  • MSD、キイトルーダの膀胱癌試験が成功 
  • fostamatinibの二本目の第三相はフェール 
  • リジェネロンは抗NGF抗体の開発を続ける計画 
  • MSD、CDI再発予防薬が米国で承認 
  • イーライリリー、新規抗癌剤が承認 
  • ロシュ、抗PD-L1抗体の適応拡大承認 


【今週の話題】


GSK、米国でサーバリックスの販売を中止
(2016年10月21日報道)

グラクソ・スミスクラインがCervarix(和名サーバリックス)の米国での販売を8月に中止していたことが判明した。FiercePharmaの報道によるもので、下記のページにGSKが8月に発出した販売中止通知のリンクもある。安全性や薬効面で問題が浮上した訳ではなく、純粋に商業上の理由、つまり、売れなくて採算が取れないからのようだ。

Cervarixは子宮頸癌の原因になりうるヒトパピローマウイルスのうち16型と18型の遺伝子組換え型抗原を配合した、子宮頸癌予防用ワクチン。既に持続感染している人に対する効果が明確でないため感染リスクの小さい9~10歳前後の時に接種するのがベストだが、キャッチアップ需要もあるため、他の年代の人が接種することも認められている。テイラーメイド・メディスンの観点からは事前に感染検査したほうが良いのではないかと思われるが、義務付けられていない。費用や手間、感染と診断された時の心理的ダメージに配慮したのだろう。

MSDのGardasilは遺伝子型のカバレッジが広いという重要な長所を持つが、上記の弱点・事情は同じだ。この二薬は06年以降、各国で逐次、承認・発売されてきたが普及率は国によってかなり異なる。健康保険のカバレッジ、医師の取り組み、国民の教育水準、副作用問題に対する当局や学会、報道機関の対処などの違いが影響したのだろう。欧州の一部の国では接種回数を三回から二回に減らすことで手間やコストを引き下げた。米国もGardasilの二回接種を認める方向のようだ。しかし、普及を促進するためにはこれだけでは不十分だろう。

一昔前だったら、米国の大統領選や予備選挙の時期になるとどの候補が製薬業界に一番有利か、話題になった。今日では、製薬業界に好意的な候補は直ぐ選挙戦から脱落するので、問題は、誰が大統領になったら一番不利かだ。子宮頸癌ワクチンのような一般大衆が自己の判断で接種する製品を普及させるためには、製薬会社のイメージをもっと向上する必要があるのではないだろうか。

リンク: FiercePharmaの記事

PTCの筋ジストロフィー用薬の審査状況
(2016年10月17日発表)

米国のPTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)は、ナンセンス変異型デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬Translarna(ataluren)の承認審査状況についてアップデートした。米国は承認されなかったことに対する不服申立てが認められなかった。次の再検討請求手続きに向かう考え。

不服申立て中にSarepta Therapeutics(Nasdaq: SRPT)のExondys 51(eteplirsen)が承認された。審査チームの評価は否定的だったが、FDAの小分子薬評価研究センターのヘッドが鶴の一声を発した。財務面で厳しい状態にあるPTCにとっては天から降りてきた蜘蛛の糸に見えるだろう。

だが、見通しが明るくなったわけではないだろう。FDAはExondys 51を前例としない考えだからだ。先日、FDAのホームページにExondys 51の臨床成績を説明する新設のページを発見した。審査チームのモチベーションはまだ下がっていないのだろう。

一方、14年に承認されたEUでは、年次更新手続き中。条件付き承認なので第三相試験などを行って薬効や安全性を確認する必要があり、PTCは第三相のACT試験を行ったが15年にフェールしてしまった。このため、EUはもう一度試験を行うことを条件に販売許可を更新するか、承認を取り消すか、どちらかを選ぶことになるだろう。PTCは前者を期待しているようだ。

日米欧の何れも条件付き承認制度を導入しているが、欧米は承認後に行われる第三相試験で薬効や安全性が確認されなかった場合、承認を取り消すことができる。患者が欲しているのは新薬ではなく自分に効果があってそこそこ安全な薬であることを考えれば、当然の措置だが、今回のように欧州と米国で判断が異なる場合もあるので運用は難しい。結果論でいえば、EUはFDAと同様に第三相試験の結果が出るまで承認するべきではなかったのだが、効くと効かないは紙一重なので話は単純ではない。。

リンク: PTCのプレスリリース

【新薬開発】


MSD、CMV予防薬の第三相が成功
(2016年10月19日発表)

MSDは、MK-8228(letermovir)の第三相試験成功を発表した。成人同種造血幹細胞移植を受けるサイトメガロウイルス(CMV)抗体陽性の患者を組入れて、CMVの再活性化を予防する効果を検討したもの。データは今後の学会で発表される予定。

MK-8228は、バイエルが感染症用薬部門をスピンアウトして設立したドイツのAiCuris HmbHから12年に権利を取得したもの。quinazolinesという新しいクラスの抗ウイルス剤で、既存のCMV治療・予防薬と異なり、terminase複合体を阻害する。この試験では、移植後約14週間に亘って一日一回、静注または錠剤で投与して、臨床的に重要なCMV感染症の発生を24週間、追跡した。

ClinicalTrials.govによると第3相はこの試験だけ。おそらく、第二相試験のデータと合わせて承認申請に向かうのではないか。

リンク: MSDのプレスリリース

ギリアドがまたまたHCVの新コンビ薬
(2016年10月20日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)はHIVやHCVの抗ウイルス薬分野で次々と新薬と新コンビ薬を開発・投入している。今回は、プロテアーゼ阻害剤の新薬をポリメラーゼ阻害剤及び複製複合体阻害剤と組み合わせた慢性C型肝炎治療用コンビ薬の第三相試験結果を発表した。既存の自社製品と直接比較した試験もあり、臨床上の位置付けが分かり易い。遺伝子型一型(GT1)は既存薬で十分なので、難治性患者や他の遺伝子型に用いることになるのだろう。また、遺伝子型検査が普及していない国にはこちらのほうが向いているだろう。

この新コンビ薬は、Epclusaの配合成分であるsofosbuvir(NS5Bポリメラーゼ阻害剤、単剤でもSovaldiとして販売)とvelpatasvir(汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤)に更にvoxilaprevir(汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤)を加えたトリプルコンビ。第三相試験はGT1からGT6までの6遺伝子型を対象に、一次治療、NS5A阻害剤経験者の二次治療、それ以外の二次治療などに分けて実施された。

結果は、まず二次治療試験二本では12週間の治療で奏効率(SVR12:投与完了後12週経った段階でウイルス不検出)が96~97%。NS5A阻害剤経験者試験の対照群は偽薬で奏効率は0%、それ以外の二次治療試験は対照群がEpclusaで90%だった。この二本の被験者は4割が肝硬変合併。

直接的抗ウイルス剤(DAA)による治療を初めて受ける患者の一次治療試験は、8週間の治療で奏効率95%。Epclusaを12週間投与した群は98%で、主評価項目である非劣性解析がフェールした。フェールはこの試験だけ。GT3感染で肝硬変を合併する患者を組入れた試験では8週間の治療で96%、Epclusa群は12週間投与で96%となり、非劣性解析が成功した。

二次治療は治療期間が3ヶ月から2ヶ月に短縮するのは良いが薬が二剤から三剤に増えるので副作用も増えるだろう。効果が大差ないならどちらも良し悪しで、値段次第だろう。一方、一次治療は期間が短く、効果が若干高いので、価格が著しく高くない限り、良さそうだ。

リンク: ギリアドのプレスリリース

MSD、キイトルーダの膀胱癌試験が成功
(2016年10月21日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の尿路上皮腫瘍の第三相試験、KEYNOTE-045が成功したと発表した。二次治療、三次治療を受ける患者を組入れて、3週間毎に200mgを投与する群と、paclitaxelなど三剤の中から担当医が選んだ薬を投与する群の延命効果を比較した試験で、独立データ監視委員会が中間解析結果に基づいて成功認定したもの。

データは未発表。主評価項目は全生存期間とPFS(無進行生存期間)の二つだが、今回は中間解析であるためか全生存期間の解析が成功したことしか記されていない。

リンク: MSDのプレスリリース

fostamatinibの二本目の第三相はフェール
(2016年10月20日発表)

Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)は、R788(fostamatinib disodium)の二本目の第三相慢性/持続性免疫性血小板減少症(ITP)試験がフェールしたと発表した。当局と今後を相談する考え。

R788はマスト細胞やマクロファージ、B細胞などのIgG受容体の細胞内シグナル伝達に係わるSYK(spleen tyrosine kinase)を阻害する経口剤。リウマチ性関節炎などの自己免疫疾患をターゲットに開発され、6年前にアストラゼネカがライセンスしたが返還。RigelがITP用途の開発を進めてきた。

第三相試験では100mgを一日二回投与する群の安定的血小板反応率(最後の6回の検査のうち4回以上で血小板数が5万個/uL以上であった患者の比率)を偽薬と比較した。9月に結果が出た一本目は18%対0%で、著効という感じはないが、p=0.026で統計学的には有意だった。今回の二本目は18%対4%でp=0.152とフェールした。

実数を見ると、R788群は一本目が51人中9人反応、二本目は50人中9人反応で、大差ない。偽薬群は25人中ゼロと24人中一人で、反応者数の違いは倍率では無限大だが差はたった一人だ。臨床試験成績の有意性を議論する時にしばしば用いられる、もし奏功者が一人多かったり少なかったりしたらどうなるか、というテスト方法の例題そのものである。

結局、効くにせよ効かないにせよボーダーライン上、と受け止めるのが妥当だろう。

リンク: Rigelのプレスリリース

リジェネロンは抗NGF抗体の開発を続ける計画
(2016年10月17日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発パートナーのテバ・ファーマシューティカル(NYSE:TEVA)は、REGN475(fasinumab)の後期第二相慢性腰痛試験を中止したことを明らかにした。高用量で関節毒性が見られたことから、FDAがクリニカルホールド(治験許可停止)を告げた。

REGN475はNGFを標的とする完全ヒト化抗体。NGFは神経成長因子で、ジェネンテックが発見しALSなどの神経性疾患での用途を探索したが、疼痛感受性が高まる副作用が発覚。一転して、抗NGF抗体を鎮痛剤として開発することになった。その後、スピンアウトされた中枢神経系部門を買収したファイザーがtanezumabの第三相変形性関節炎試験を行ったが、病状の急速な悪化や無腐性骨壊死などのリスクが表面化、2010年に複数の会社の開発品が治験停止となった。

その後は行ったり来たりで、FDAが2012年に招集した諮問委員会では21人全員が開発続行を支持。しかし、某社が行った前臨床毒性試験で末梢神経性有害事象が見られたため末期癌患者の疼痛緩和など一部の用途を除いて再び治験停止に。その後、毒性確認試験が良い結果になったのか、15年3月に解除され、ファイザーがイーライリリーとリスク・シェアリングして開発を再開。リジェネロンは15年に田辺三菱製薬に日本周辺の開発販売権を、16年9月にテバにそれ以外の地域の権利を供与して開発をステップアップした。

一方、ジョンソン・エンド・ジョンソンと武田薬品は、夫々が地域別に保有するAMG 403(fulranumab)の開発販売権をアムジェンに返還しており、抗NGF抗体に対する評価は分かれているように感じられる。

副作用の原因は明らかではないが、痛みを感じなくなると前より活発に動くようになりがちだから、関節損傷が進んでも不思議はない。神経成長因子をブロックすることが骨の新陳代謝に悪影響を与える可能性も考えられるだろう。

副作用リスクがあるのは明らかなので、開発の成否は用量を減らすことでどれだけ緩和できるかだろう。REGN475の変形性関節炎試験では、偽薬、1mg、3mg、6mg、9mgを4週間に一回、皮注したが、各群の関節症発生率は1%、2%、5%、7%、12%だった。慢性病の薬なので、リスクが投与年数と相関しないかどうかも確認すべきだろう。

リジェネロンとテバは、低用量で第三相試験に向かう考え。腰痛用途では変形性関節炎を併発する患者は除外する考え。変形性関節炎試験も行うのだから変な話だが、もしもこちらの用途がダメだった場合でも慢性腰痛で承認が取れるように、ヘッジを掛けるのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


MSD、CDI再発予防薬が米国で承認
(2016年10月21日発表)

MSDは、FDAがZinplava(bezlotoxumab)をクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の再発リスクを削減する薬として承認したと発表した。

重い下痢などの症状を起こす細菌で、抗生物質乱用の弊害なのか、深刻な院内感染が年々、増加している。Zinplavaはこの細菌が産生するB毒素の中和抗体で、治療は抗菌剤で行う。再発リスクの高い患者を組入れた二本の第三相試験では、偽薬群の12週再発率が25~27%であったのに対して、Zinplavaを一回点滴投与した群は15~17%だった。尚、A毒素の中和抗体を単剤投与と併用する二群も設けられたが、効果がなかった。

投与後4週間の深刻有害事象は偽薬群と大差なかったが、心不全歴を持つ患者では深刻な心不全増悪が12%で発生(偽薬群は4%)、死亡率も19%と高かった(偽薬群12%)。

この抗体医薬はマサチューセッツ医科大学の研究者がメダレックス(後にBMSが買収)と共同開発、09年にMSDに世界開発販売権を供与したもの。MSDは来春までに発売する計画。EUでも承認審査中。

リンク: MSDのプレスリリース

イーライリリー、新規抗癌剤が承認
(2016年10月19日発表)

イーライリリーが08年に65億ドルで買収したイムクローン・システムズは、抗EGFR抗体Erbitux(cetuximab)の後も多くの抗体医薬を生み出した。創業者がインサイダー取引事件で逮捕されなければ買収されることもなかっただろうし、ジェネンテックとは言わないまでも、抗体医薬系新興医薬品開発企業の代表格の一つになっていただろう。

今回、FDAが承認したLartruvo(olaratumab)もイムクローンがIMC-3G3として開発した抗PDGFRアルファ完全ヒト化抗体。適応はPDGFRアルファが高発現・過活動している軟組織肉腫で、治癒的放射線療法・切除術に適さない進行癌のうち、アントラサイクリン系の抗癌剤が適切と判定された場合に、doxorubicinと併用する。

第二相試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン6.6ヶ月とdoxorubicinだけの群の4.1ヶ月より長く、ハザードレシオ0.672、p=0.0615なので一般的な解釈では有意ではない。全生存期間の中間解析は26.5ヶ月対14.7ヶ月、ハザードレシオ0.463で統計的に有意だった。G3以上の有害事象は好中球減少症、感染症、点滴反応など。

加速承認で、第三相試験が別途進行中。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

ロシュ、抗PD-L1抗体の適応拡大承認
(2016年10月19日発表)

ロシュは、抗PD-L1ヒト化抗体のTecentriq(atezolizumab)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。非小細胞性肺癌の二次治療(EGFR活性化変異又はALK変異を持つ癌の場合はそれぞれの分子標的薬を用いた後)に用いる。第三相試験では全生存期間がdocetaxelを有意に上回った。扁平上皮腫でも、それ以外でも、PD-L1陽性でも陰性でも、docetaxelを上回った。

抗PD-1抗体の非小細胞性肺癌適応拡大レースでは、MSDのKeytrudaがPD-L1高度発現型だけだが二次治療に承認、一次治療試験も成功と先行している。一方、BMS/小野のOpdivoは二次治療にPD-L1不問で承認され悪性黒色腫だけでなく非小細胞性肺癌でもトップシェアとなったが、一次治療試験がフェールしたため、MSDやロシュにも逆転の可能性が出てきた。

リンク: ロシュのプレスリリース



今週は以上です。

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2016年10月16日

2016年10月16日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:MSDの抗PD-L抗体は肺癌一次治療試験成功 
  • ESMO:オプジーボの一次治療試験はフェール 
  • ESMO:ロシュの抗PD-L1抗体は二次治療試験成功 
  • ESMO:Cabometyxがスーテントに勝つ 
  • ESMO:スーテントのアジュバント試験成功 
  • ESMO:custirsenの第三相はフェール 
  • Alnylam、patisiranの第三相は続行 
  • サノビオン、ネブライザー用LAMAを米国で申請 
  • CHMP、Ocalivaなどに肯定的意見 


【新薬開発】


ESMO:MSDの抗PD-L抗体は肺癌一次治療試験成功
(2016年10月9日発表)

PD-L/PD-L1標的薬はこれまで様々な腫瘍の臨床試験で似たような成果を上げてきたが、どういう訳か非小細胞性肺癌はメーカーの開発方針も、治験結果も、食い違いが見られる。ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表された三剤のデータを順に見てみよう。

まず、MSDの抗PD-L抗体、Keytruda(pembrolizumab)。非小細胞性肺癌では二次治療に使うことが米国で承認されているが、PD-L1陽性癌である点がBMSのOpdivo(nivolumab)との違いだ。ESMOでは第三相一次治療試験の結果が発表されたが、このKEYNOTE-024試験もPD-L1高発現(Tumor Proportion Scoreが50%以上)だけが対象。

200mgを三週間に一回、点滴静注する群とプラチナ薬ベースの標準療法群のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、メジアン値は各10.3ヶ月と6.0ヶ月、ハザードレシオ0.50、95%CI0.37~0.68と大変良い結果が出た。全生存期間はどちらもメジアンに到達していないがハザードレシオ0.60、統計的に有意だった。

MSDは欧米で一次治療の適応拡大申請中。米国の審査期限は12月24日。Keytrudaの売上高はBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)に差を付けられているが、非小細胞性肺癌の一次治療では逆転するだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:オプジーボの一次治療試験はフェール
(2016年10月9日発表)

Opdivoも非小細胞性肺癌二次治療で承認されているが、Keytrudaとの違いは、投与頻度が二週間に一回であることと、PD-L1陰性でもある程度の効果が見られたためステータス不問、検査不要であること。Keytrudaが陰性癌に効かないというよりは両社の開発方針違いが反映されている。

Opdivoの一次治療試験であるCheckMate-026試験ではPD-L1陽性癌(1%以上)だけを組入れて、白金薬ベースの標準療法と施行する群とPFSを比較した。主評価項目はPD-L1発現5%以上のサブグループのみの解析。BMSも一次治療に関してはPD-L1発現度が反応予測因子になると考えているのだろう。

8月7日号で報告したように、この試験はフェールした。ESMOで詳細が発表されたが、メジアン4.2ヶ月と標準療法群の5.9ヶ月を下回り、ハザードレシオは1.15だった。主観バイアスのない客観的な指標である全生存期間のハザードレシオも1.02だった。二次的評価項目である全患者のPFSのハザードレシオも1.17で駄目。驚いたことにPD-L1高発現(50%以上)の症例だけの解析でも1.07と1を上回った。

高発現癌にも効果がないというのはKEYNOTE-024試験と大きく食い違うが、合理的に説明するのは難しそうだ。偶々フェールしたのかもしれない。いずれにせよ、別の試験が成功するまでは、非小細胞性肺癌の一次治療にOpdivoを使うのは困難になった。

MSDとBMSのPD-L1検査アッセイはメーカーは同じだが用いている抗体が異なるので、検査結果が食い違う可能性があるのではないか?誰かに検証してもらいたいものだ。

リンク: BMSのプレスリリース

ESMO:ロシュの抗PD-L1抗体は二次治療試験成功
(2016年10月9日発表)

ロシュのTecentriq(atezolizumab)はPD-1のレガンドであるPD-L1を標的としている点がKeytrudaやOpdivoとの違い。ロシュといえば分子標的薬の標的分子の発現状況を調べるコンパニオン・ダイアグノスティックスの大手でもあるが、Tecentriqの臨床試験で用いられているPD-L1検査アッセイも独自開発で、腫瘍細胞(TC)だけでなく腫瘍浸透細胞(IC)の発現度も調べている。

ESMOで発表された非小細胞性肺癌二次/三次治療試験は、PD-L1ステータス不問で組み入れたが発現度毎の解析も行われた。主評価項目の全生存期間はメジアン13.8ヶ月でdocetaxelを投与した対照群の9.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、95%信頼区間0.62~0.87と有意差が確認された。扁平上皮腫でもそれ以外でも0.73だった。

PD-L1発現度との相関性では、TCもICも1%未満(TC0/IC0)であった379例ではメジアン生存期間が各12.6ヶ月と8.9ヶ月、ハザードレシオ0.75で95%CI0.59~0.96。どちらかが1以上(TCまたはICが1/2/3の何れか)の463例では各15.7ヶ月、10.3ヶ月、ハザードレシオ0.74、95%CI0.58~0.93となっており、結局、大差ない。

尤も、評価最高値であるTC3/IC3の症例では20.5ヶ月対8.9ヶ月、ハザードレシオ0.41であったようなので、やはり、一番反応するのは高発現型なのだろう。

Tecentriqは再発性難治性尿路上皮癌向けに米国で承認。非小細胞性肺癌は二次治療向けに米国で申請済みで、審査期限は10月19日。申請の根拠となった第二相試験はPD-L1陽性患者が対象だったが、陰性患者も承認される可能性があるのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース

ESMO:Cabometyxがスーテントに勝つ
(2016年10月10日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)のVEGF受容体拮抗剤、Cabometyx(cabozantinib)が切除不能末期腎細胞腫の一次治療試験でファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)より高い効果を示したことがESMOで発表された。数あるVEGF受容体拮抗剤の中で一次治療薬として抜群の評価を得ているSutentを負かしたのだから、実力を見直さなければならないだろう。

このCABOSUN試験は同社とNCI(米国立がん研究所)の開発提携に基づいて実施された第2相試験で、中度・高度リスクの患者157人を組み入れたもの。成功したことは5月に発表済みだが今回、詳細が明らかになった。PFSはメジアン8.2ヶ月とSutentの5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、95%CIは0.48~0.99。ORR(客観的反応率)も46%対18%で上回った。

全生存期間の解析は未成熟だがメジアン30.3ヶ月対21.8ヶ月、ハザードレシオ0.80、信頼区間は1を跨いでいるが、正しい方向を向いている。

cabozantinibは12年に米国でCometriqカプセルの活性成分として甲状腺髄様癌向けに承認。他の用途の開発は難航したが、腎細胞腫二次治療試験が成功、Cabometyx錠として今年4月に承認された。今回のデータを用いて一次治療に適応拡大申請される見込み。VEGF受容体拮抗剤の本命用途である腎細胞腫が後回しになったのは、既に多くの薬が承認されていて出番が少ないからだが、今回の結果を見ると、もっと早く取り組むべきだったのかもしれない。

リンク: Exelixisのプレスリリース

ESMO:スーテントのアジュバント試験成功
(2016年10月10日発表)

そのSutentは、腎細胞腫切除術後アジュバント試験の成功がESMOで発表された。再発リスクが高い615人を組入れて50mgを一日一回、4週間連続服用して2週間休む末期腎細胞腫と同じ用法で1年投与したところ、DFS(再発・二次性腫瘍・死亡の何れかが発生するまでの期間)がメジアン6.8年と偽薬群の5.6年を上回り、ハザードレシオ0.761、95%信頼区間0.594~0.975だった。適応拡大申請に向かうのではないか。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ESMO:custirsenの第三相はフェール
(2016年10月13日発表)

OncoGenex Pharmaceuticals(Nasdaq:OGXI)は、custirsenの第三相非小細胞性肺癌二次治療試験がフェールしたと発表した。細胞のサバイバルに係るclusterinの発現を阻害するアンチセンス薬でdocetaxelのキモセンシタイザーとしての効果を期待したが、併用群のメジアン生存期間は9ヶ月とdocetaxelだけの群の7.9ヶ月と大差なく、ハザードレシオ0.915、有意差はなかった。

効果がこの程度でも大規模な試験なら有意差が出せるはずだが、先に開始した前立腺癌試験がフェールし運転資金が心許なくなったため、プロトコルを見直して前倒しで答えを出さざるをえなかった。

かって共同開発パートナーであったIonys Pharmaceuticalsもテバも去っていった。OncoGenexは代替戦略、即ち身売りを検討している模様だ。

リンク: OncoGenexのプレスリリース

Alnylam、patisiranの第三相は続行
(2016年10月10日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTR02(patisiran)の第三相遺伝性TTR調停アミロイドーシス性ポリニューロパシー試験のデータ監視委員会が治験続行を推奨したことを発表した。

10月9日号で書いたように、同社のrevusiranは第三相試験で死亡数に群間の偏りがあったことから開発中止となった。patisiranも作用機序が類似しているため、Alnylamがデータ監視委員会を招集、検討を依頼したという経緯。

リンク: Alnylamのプレスリリース

【承認申請】


サノビオン、ネブライザー用LAMAを米国で申請
(2016年10月14日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるサノビオンは、SUN-101/eFlowを中重度COPDの維持療法薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年5月29日。12年に買収したElevation社の開発品で、長期作用性ムスカリン阻害剤(LAMA)のglycopyrrolateをドイツのPari GmbHのeFlowという電子制御ネブライザーで吸入するもの。ネブライザー用のLAMAは初。

リンク: 大日本住友製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認審査・委員会】


CHMP、Ocalivaなどに肯定的意見
(2016年10月14日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会合でインターセプト社の胆汁性肝硬変治療薬やアッヴィの抗癌剤などの新薬と、BMSのオプジーボなどの適応拡大に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)のOcaliva(obeticholic acid)は原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療薬。ウルソデオキシコール酸(UDCA)だけでは足りない患者に追加で、あるいは不耐患者に単剤で投与する。胆汁酸誘導体で、FXR(ファルネソイドX受容体)アゴニストとしての力価がUDCAより高い。非アルコール性脂肪性肝炎でもフェーズIII段階。

PBCは主として40~60代の女性が発症する自己免疫疾患で、胆管が徐々に破壊され肝臓内に胆汁が滞留、肝障害を合併する。UDCAの奏効率は5割とされる。Ocalivaの第三相試験では、46%の患者がアルカリフォスファターゼ値正常化に成功した。偽薬群の成功率は10%だった。主な有害事象は掻痒や疲労、肝機能検査値異常など。稀に非代償性肝障害のリスクが見られたが、第三相の用量である一日10mgを超えて投与した症例が主だった。

代理マーカーを改善する効果に基づく条件付き承認なので、インターセプトは別途、臨床試験を行って臨床的な効用や安全性を確立する必要があり、結果次第では承認取消となる。

米国でも5月に同様な条件で加速承認され、患者一人当たり年6~7万ドルの価格で発売された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: インターセプトのプレスリリース

アッヴィとジェネンテックは07年にbcl-2阻害剤やVEGF受容体拮抗剤分野で共同開発提携を開始した。その最初の成果がbcl-2阻害剤のvenetoclaxで、今年4月に米国でVenclexta名で承認、EUでも今回、Venclyxto名でCHMPが肯定的意見を出した。第二相試験の反応率データに基づく条件付き承認の予定。

慢性リンパ性白血病用薬で、Bセル受容体パスウェイ阻害剤と化学免疫療法による治療がフェールした患者に用いる。17p欠損型やTP53変異型の患者は、化学免疫療法があまり有効ではないため、Bセル受容体パスウェイ阻害剤不応不適だけで使用できる。

主な深刻有害事象は肺炎、熱性好中球減少症、自己免疫性溶血性貧血、腫瘍壊死症候群など。少なくとも初回の投与は入院させて副作用を監視する必要がある。

米国は共同販売だが米国外はアッヴィが単独販売する。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース

Cystadrops(mercaptamine)も肯定的意見を獲得した。Orphan Europeという、イタリアのRecordatiグループの希少疾患用薬会社が承認申請した、シスチン症の治療に用いる点眼薬。角膜に蓄積したシスチン結晶をシステインなどに変換する。主な副作用は目の痛み、充血、痒み、霞み。

リンク: EMAのプレスリリース

診断薬で肯定的意見を得たのがSomaKit TOC(edotreotide)。GEP-NET(膵消化管神経内分泌腫瘍)の診断に用いるPET造影剤で、放射性核種で標識して投与するとソマトスタチン受容体に結合し、この受容体が過剰発現する腫瘍を浮き彫りにする。フランスのAdvanced Accelerator Applications社が承認申請したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を再発性古典的ホジキンリンパ腫(ホジキンリンパ腫の95%を占める)に用いることが支持された。自家造血幹細胞移植とAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を施行後に進行・再発した患者に用いる。臨床初期中期試験ではORR(客観的反応率)が65%、完全反応率は7%、反応持続期間はメジアン8.7ヶ月だった。米国では5月に加速承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

さて、新薬ではないがmetforminの禁忌を緩和することも決まった。二型糖尿病治療薬として長い歴史を持つが、腎機能低下患者は深刻な副作用であるラクティック・アシドーシスのリスクが高まるので注意が必要だ。EUでは中度以上(GFRが59 ml/分以下)が禁忌となっているが、科学的文献や臨床データ、疫学試験、学会などの治療ガイドラインを改めて検討した結果、重度(GFRが30 ml/分未満)だけに絞り込んだ。

リンク: EMAのプレスリリース

10月2日号で報じたように、アストラゼネカはRecentin(cediranib maleate)の承認申請を撤回したが、EMA側も経過を公表した。不当に不利益を与えたわけではないことを明確にすることによって行政手続きの透明性を担保する手段であり、FDAやPMDAも見習う余地があるのではないか。本稿の主題とは何の関係もないが、日本将棋連盟も倣うべきである。

EMAは薬効や安全性のエビデンスが不十分と考えているようだ。再発性プラチナ薬感受性卵巣癌を組み入れたICON6試験の結果に基づいてEUで承認申請されたのだが、第一に、医療施設の立ち入り調査で、GCPが十分に遵守されていない疑いが生じた。第二に、PFS(無進行生存期間)の延長効果が限定的。第三に、疲労や下痢による投与中止が多く、忍容性に疑問がある。アストラゼネカは、当面、承認は取れないと判断して撤回したのだろう。

米国では承認申請されていない模様。

cediranibはVEGF受容体拮抗剤。結腸直腸癌や非小細胞性肺癌など様々な用途で第三相が実施されたが、なぜか良い結果が出ていない。尚、製品名はRecentinではなくZemfirzaとして承認申請されていたことが判明した。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年10月9日

2016年10月9日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:ノバルティスのCDK4/6阻害剤も第三相が成功 
  • ESMO:PARP1/2阻害剤がBRCA変異のない卵巣癌にも有効 
  • ESMO:Clovis、PARP阻害剤のP2データを発表 
  • ESMO:キイトルーダの膀胱がんデータ発表 
  • Alnylam、RNAiの一つの開発を中止 
  • ブリリンタ、もう一つの適応拡大試験もフェール 
  • 点滴用カルバマゼピンが米国で承認 
  • C型肝炎治療薬がB型肝炎ウイルスを活性化するリスク 


【新薬開発】


ESMO:ノバルティスのCDK4/6阻害剤も第三相が成功
(2016年10月8日発表)

ノバルティスのCDK4/6阻害剤、LEE011(ribociclib)の第三相試験結果がESMO(欧州臨床腫瘍学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。閉経後のHR陽性her2陰性末期・転移性乳癌の一次治療薬としてletrozoleと併用投与したもので、今年5月に中間解析で目的を達成したことが公表された。

主評価項目であるPFS(無進行生存期間)はletrozole単剤投与群に対するハザードレシオが0.556、p=0.000003。中間解析で成功認定するための基準はハザードレシオが0.56以下、pは0.0000129未満なので、ギリギリでクリアしたことになる。PFSのメジアン値は未達、letrozole群は14.7ヶ月。

PFSハザードレシオは先輩格であるファイザーのCDK4/6阻害剤、Ibrance(palbociclib)と大差ない。有害事象による治験離脱(7.5%、letrozole単剤投与群は2.1%)はIbranceより若干多いが、直接比較試験ではないので小さい差を重視すべきではない。経口剤で一日一回、21日服用して7日休む用法はどちらも同じ。全体的に大差ないことを考えると、米国では昨年2月に承認されEUでも年内承認が見込まれるIbranceのほうが先行者利益があるそうだ。

LEE011はAstex Pharmaceuticals(現在は大塚製薬の子会社)との細胞周期制御分野における共同研究の成果で、細胞周期進行に関わるキナーゼを阻害する。因みにIbranceもファイザーが敵対的に買収したワーナー・ランバートとアムジェンの子会社になったOnyxの共同研究の成果である。

CDK4/6阻害剤ではイーライリリーもLY2835219(abemaciclib)の第三相試験を実施中。忍容性に優れ休薬期を設ける必要がないため効果の高さが期待されているが、fulvestrant併用二次治療試験の中間解析はハードルをクリアできず、17年上期に予想される最終解析の結果待ちだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: Hortobagyiらの治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

ESMO:PARP1/2阻害剤がBRCA変異のない卵巣癌にも有効
(2016年10月8日発表)

TESARO(Nasdaq:TSRO)がMSDからライセンスして開発しているPARP1/2阻害剤、MK-4827(niraparib)の第三相卵巣癌試験の結果がESMOとNEJM誌で発表された。類薬ではアストラゼネカのLynparza(olaparib)が14年に欧米で承認されているが、 今回の試験は生殖細胞系BRCA(gBRCA)変異のない患者にも有効であることを示唆している点が画期的だ。

BRCAとPARPは夫々、別々の遺伝子変異修復メカニズムに関与している。両親から受け継いだBRCA遺伝子が共に変異している人は卵巣癌や乳癌のリスクが比較的高いが、発症した時にPARPも阻害してやると、癌細胞で発生しがちな遺伝子複製ミスの修復を妨げ、アポトーシスを誘導できる可能性がある。

今回のENGOT-OVA16/NOVA試験は、難治性卵巣癌で白金薬による治療に反応した患者をniraparibを一日一回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したもの。PFSは第三者が査読した。主評価項目の解析対象はgBRCA変異を持つ201人のコフォートと変異はないが類似したフェノタイプであるHRD型(相同組換え不全)コフォートで、後者が成功した場合はHRD型以外も含めたgBRCA非変異型345人全員のシーケンシャル解析を行うプロトコル。

結果は、gBRCA変異コフォートのハザードレシオが0.27、メジアンPFSは21.0ヶ月で偽薬群は5.5ヶ月。HRD型コフォートは各0.38、12.9ヶ月、3.8ヶ月。非変異コフォート全体では0.45、9.3ヶ月、3.9ヶ月となり、何れも統計的に有意だった。サブグループ分析でも偏りは見られなかった。G3以上の有害事象は骨髄抑制が増加した。

リンク: TESAROのプレスリリース
リンク: Mirzaらの治験論文(NEJM誌)

ESMO:Clovis、PARP阻害剤のP2データを発表
(2016年10月7日発表)

米国コロラド州の新興薬品開発会社であるClovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、ESMOでCO-338(rucaparib)の二本の第二相試験のプール分析データを発表した。何れもBRCA変異型卵巣癌の三次治療試験で、600mgを一日二回、経口投与した症例106例をプール分析したもの。RECIST基準のORR(客観的反応率)は54%で、完全反応が9例、部分反応が48例。メジアン反応持続期間は9.2ヶ月間だった。

G3以上の治療時発現有害事象発生率は61%。8%の患者が有害事象により治験を離脱、理由は疲労、小腸閉塞、悪心など。2%の患者が有害事象により死亡した。

ファイザーがAG-014699/PF-01367338などのコードで開発していた小分子薬で、PARP-1、PARP-2、PARP-3を阻害する。Clovisはこれらのデータに基づいて米国で今年6月に承認申請した。優先審査で、PDUFAは来年2月23日。

二本目の試験のデータは今回が初お披露目だったが、株式市場の反応は厳しかった。アストラゼネカのLynparza(olaparib)と比べて特によいデータではなかったことや、新薬のニーズが高い白金薬抵抗性患者に対するORRがゼロであったことが嫌気されたようだ(後者は症例数がたった7例なのであてにならないが)。

リンク: Clovisのプレスリリース

ESMO:キイトルーダの膀胱がんデータ発表
(2016年10月8日発表)

MSDは抗PD-1モノクローナル抗体であるKeytruda(pembrolizumab)の第二相切除不能・転移性尿路上皮腫瘍一次治療試験の中間データをESMOで発表した。cisplatinに適さない患者を組入れて、体重に関わらず200mgを3週間に一回投与した試験で、目標症例数350人中100人のデータが出そろった段階でPD-L1の閾値を決定する目的で中間解析を行ったもの。

結果は、ORR(客観的反応率)が24%、完全反応率6%。ORRはPD-L1発現が1%未満のサブグループでは18%、1%以上10%未満では15%、10%以上では37%だった。

PD-1やPD-L1を標的とする抗体医薬はPD-L1高発現癌のほうが効果が高いように感じられるが、低発現でも効かないわけではなさそうだ。難しいのは、効くと効かないの境界線が曖昧で、そもそも、どの程度効けば合格なのかという基準もあまり客観的とは言えないこと。有効な薬がなければORR10%でも良いが、30%の薬が増えれば10%では物足りなくなる。

尿路上皮腫瘍では、この用途で最初に承認されたTecentriq(atezolizumab)は二次治療試験でPD-L1高発現癌のほうがORRが高かったが低発現に使うことも承認されており、検査不要だ。欧州で適応拡大承認審査中であるBMSのOpdivo(nivolumab)も二次治療試験のORRが発現度1%未満グループで16%、5%以上は28%となっている。

非小細胞性肺癌では二次治療と一次治療で結論が異なる可能性が浮上したが、今回のデータを見ると、尿路上皮腫瘍に関しては二次治療でも一次治療でもPD-L1不問ということになりそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース

Alnylam、RNAiの一つを開発中止
(2016年10月5日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTRsc(revusiran)の開発を中止すると発表した。

同社はRNAi(RNA介入)技術を元にアミロイドーシスやRSVなどの治療薬を開発している。revusiranはTTR調停家族性心臓アミロイドーシスを治療する第三相試験が進行していたが、第二相で末梢神経症の発症や悪化が発見されたことからデータ監視委員会が盲検解除されたデータを精査、末梢神経症については問題なかったが、死亡者数に群間の偏りがあったため、中止を勧告した。

新しい技術だけに、深刻な懸念が浮上すると、その技術や作用機序に付随するクラス・イフェクトではないのかという疑惑も浮上する。Alnylamは否定的に考えている模様。他の開発品は新しい技術を用いているため用量や曝露が小さくて済むことが根拠だ。

それでも、もし著高量で深刻な副作用が発生する懸念があるならば、セイフティマージンを確保できているか十分に検討しなければならないだろう。

リンク: Alnylamのプレスリリース

ブリリンタ、もう一つの適応拡大試験もフェール
(2016年10月4日発表)

アストラゼネカは、ADP受容体拮抗剤Brilinta(ticagrelor)の適応拡大試験、EUCLIDがフェールしたと発表した。症候性末梢動脈疾患の患者13885人を組み入れて心血管アウトカムをclopidogrelと比較したもの。データは11月のAHA科学部会で発表される予定。

3月には急性脳卒中/TIAに対するモノセラピー、アスピリン対照試験もフェールしている。特許切れまでは超大型薬であったPlavix(clopidogrel)に代わる大型薬候補として期待された抗血小板薬だが、この分野でも、もうそろそろ、限界収穫逓減減少が見られるようになった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


点滴用カルバマゼピンが米国で承認
(2016年10月8日発表)

ルンドベックは、Carnexiv(carbamazepine)がFDAに承認されたと発表した。特定のタイプの癲癇の患者が、一時的な理由で経口剤を使えない時に、最長7日間まで使うことができる。

活性成分の経口剤はノバルティスのTegretolとして長い市販歴を持ち既に特許切れしたが、点滴静注用は今回が初。経口剤の7割の量を一日4回に分けて6時間毎に30分点滴する。

09年に買収したOvation Pharmaceuticalsの開発品。

リンク: ルンドベックのプレスリリース

【医薬品の安全性】


C型肝炎治療薬がB型肝炎ウイルスを活性化するリスク
(2016年10月4日発表)

C型肝炎の治療は、DAA(直接作用性抗ウイルス剤)の登場で様変わりした。C型肝炎ウイルスの遺伝子に含まれる再生産に必要な酵素を阻害する薬で、奏効率や治療期間、忍容性を大きく改善した。ところが、不思議なことに、DAA治療を受ける患者の一部でB型肝炎の再燃が報告されるようになった。FDAによると、今年7月までの31ヶ月間に24例がFDAや文献に報告され、うち2例は死亡、1例は肝臓移植が施行された。このため、FDAは警告を発出すると共に、レーベルで枠付き警告することを決めた。

医療従事者は、治療開始前にB型肝炎検査を行う。感染歴のある患者は医師に伝える。治療中に肝炎の症状兆候が現れたら直ぐに医療従事者に伝える。服用中の患者は医師に相談せずに勝手に止めてはいけない。

対象は、販売されているDAAの全て。MSDのVictrelis(boceprevir)とバーテックスのIncivek(telaprevir)は米国では商業上の理由で販売が中止されたためリストに収載されていないが、この二剤はインターフェロンやribavirinと併用するレジメンなので、もし販売されていたとしても例外扱いされたかもしれない。

再燃増悪の原因は不明。臨床試験では発生していない。B型肝炎ウイルス感染経験は除外条件なので、発生しなくて当たり前である。

リンク: FDAの安全性警告



今週は以上です。

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2016年10月2日

2016年10月2日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Kite、CAR-Tの承認申請をFDAと相談へ 
  • アムジェン、抗CGRP受容体抗体の片頭痛予防試験が成功 
  • 抗IL-23p19抗体が第三相でヒュミラに勝った 
  • 経口カンナビジオールの第三相がまた成功 
  • 第三のMEK阻害剤・BRAF阻害剤併用法が浮上 
  • カイプロリス、今度はベルケイドに勝てず 
  • バイオジェン、脊髄性筋萎縮症用薬を承認申請 
  • リジェネロンとサノフィがまた新薬承認申請 
  • JNJ、イムブルビカを辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請 
  • アストラゼネカ、Recentinの欧州申請を撤回 
  • ステラーラをクローン病に用いることが承認 


【新薬開発】


Kite、CAR-Tの承認申請をFDAと相談へ
(2016年9月26日発表)

Kite Pharma(Nasdaq:KITE)は、KTE-C19の第2相リンパ腫試験の事前に計画されていた中間解析が良好な結果になったことを明らかにした。承認申請に向けてFDAと相談する考え。

KTE-C19はCD19に結合する抗体の可変領域と膜貫通ドメイン、そしてT細胞に活性化刺激を送るCDゼータとCD28をリンカーで繋げたもの。B細胞リンパ腫のようなCD19発現腫瘍に対するT細胞の攻撃を強化する。

今回の中間解析は第1/2相ZUMA-1試験のフェーズIIポーションが対象。コフォートが二つあり、一つは化学療法難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、もう一つは転換濾胞性リンパ腫(TFL)と原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)で、この三種類に承認申請する意図だ。

DLBCLコフォート51人ではORR(客観的反応率)76%、完全寛解率47%だった。3ヶ月経過時点では各39%と33%となっており、こちらの方が適切な数値かもしれない。TFLとPMBCLのコフォート11人ではORR91%、完全寛解率73%、3ヶ月経過時点の評価はどちらも64%。

両コフォートの合計でグレード3以上の有害事象は好中球減少症(熱性を含む)、貧血、血小板減少症、脳症、サイトカイン放出症候群、神経学的毒性など。有害事象による死亡は2例で、血球貪食性リンパ組織球症と心停止だった。

リンク: Kiteのプレスリリース

アムジェン、抗CGRP受容体抗体の片頭痛予防試験が成功
(2016年9月28日発表)

アムジェンは、AMG 334(erenumab)の第三相片頭痛予防試験、ARISEが成功したと発表した。70mg皮注を4週間毎に12週間に亘って投与したところ、片頭痛発生日数(最後の4週間の集計、ベースライン値は8日)が2.9日減少し、偽薬群の1.8日減少より有意に優れていた。

AMG 334は、片頭痛発作時に増加し鎮静化すると減少する、calcitonin gene-related peptideの受容体を標的とする完全ヒト化抗体。中枢神経領域におけるノバルティスとの共同開発提携の対象で、ノバルティスは北米・日本以外の販売権を持っている。

リンク: アムジェンのプレスリリース

抗IL-23p19抗体が第三相でヒュミラに勝った
(2016年10月1日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ウイーンで開催されたEuropean Academy of Dermatology and Venereologyで、CNTO 1959(guselkumab)の第三相中重度プラク乾癬試験の結果を発表した。偽薬群だけでなく、実薬であるアッヴィのHumira(adalimumab)と比べても有意に優れていた。

CNTO 1959は、ドイツのMorphoSys社がHuCALヒト・コンビナトリアル抗体ライブラリーを用いて発見した、IL-23のp19サブユニットを標的とするHuCAL抗体。今回のVOYAGE 1試験では、100mgを8週間毎(但し2回目は4週間後)に皮注したところ、主評価項目である16週間後のIGA有効率が85.1%と偽薬群の6.9%を上回り、共同主評価項目であるPASI90達成率も73.3%対2.9%でどちらも有意に優れていた。

二次的評価項目としてHumira群との比較が行われた。IGA有効率65.9%、PASI90は49.7%に留まり、CNTO 1959が有意に優れていた。

深刻な有害事象の発生率は2.4%で、偽薬群の1.7%、Humira群の1.8%より少し高い。試験薬とHumiraは最長48週間投与したが、心筋梗塞は両群1例、癌はCNTO 1959群で2例発生した。この試験だけでは何とも言えないが、後期第二相でも主要有害心血管事故が3例、癌が1例発生しており、全対照試験のプール分析結果が注目される。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

経口カンナビジオールの第三相がまた成功
(2016年9月26日発表)

英国のGW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)は、Epidiolexの第三相レノックス・ガストー症候群試験の成功を発表した。既にもう一本の試験とDravet症候群試験も成功しており、来年上期に米国で承認申請する予定。

Epidiolexは大麻の成分の一つであるカンナビジオール(CBD)を経口剤化したもの。今回の試験では、平均で3種類の抗癲癇薬を併用しても発作を十分に防げないでいる患者225人を偽薬、一日10mg/kg、同20mg/kgの三群に割付けて14週間治療したところ、失立発作頻度(4週間当り、ベースライン値はメジアン85回)が各群17%、37%、42%減少し、両用量とも偽薬比有意に優れていた。

有害事象による治験離脱は各群1人、1人、6人。深刻な有害事象は8人、13人、13人で発生し、治療関連と判定されたのは0、2人、5人。高用量は忍容性が悪化するように見える。

リンク: GW社のプレスリリース

第三のMEK阻害剤・BRAF阻害剤併用法が浮上
(2016年9月26日発表)

米国コロラド州のArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)とフランスのPierre Fabreは、BRAF阻害剤LGX818(encorafenib)とMEK阻害剤MEK162(binimetinib)の第三相併用試験が成功したと発表した。

BRAF-V600変異陽性の末期切除不能・転移性黒色腫に対するPFS(無進行生存期間)延長効果を検討したもので、LGX818(450mg一日一回)とMEK162(45mgを一日二回)を経口投与した群はメジアン14.9ヶ月、活性対照薬であるロシュのZelboraf(vemurafenib)を投与した群は7.3ヶ月で、ハザードレシオは0.54(95%信頼区間0.41-0.71)となり有意に上回った。一方、LGX818モノセラピー(300mg一日一回)は9.6ヶ月となり、この比較では併用しても効果が有意に高まらなかった。

MEK162は今年6月にモノセラピーで承認申請済み。LGX818は、300mgとMEK162の併用試験の結果が出てから承認申請することになるのではないか。今回のデータを見る限りでは有効ではあるがそれほど有望には見えない。BRAF-V600変異陽性悪性黒色腫にBRAF阻害剤とMEK阻害剤を併用する手法は既にロシュとノバルティスが実用化しており、併用で単剤に勝つだけではアピールが弱い。

Array社は元々、ノバルティスと共同開発していたが、ノバルティスがグラクソ・スミスクラインとアセットスワップを行ってBRAF阻害剤やMEK阻害剤などの腫瘍学ポートフォリオを取得したため、反トラスト局の命令により権利を返還した。

リンク: Array社のプレスリリース

カイプロリス、今度はベルケイドに勝てず
(2016年9月27日発表)

アムジェンは、Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)の第三相一次治療試験がフェールしたと発表した。実薬対照優越性試験がフェールしたという話なので有効性が否定された訳ではないが、開発段階で期待されたほどの薬ではないというエビデンスがまた積み重ねられた。今回の併用レジメンは忍容性があまりよくない可能性がありそうだ。

この試験は、造血幹細胞移植に不適な多発骨髄腫の一次治療としてKyprolis、melphalan、prednisoneを併用するKMPレジメンを、先輩格の類薬である武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)を用いる代表的なVMPレジメンと比較したもの。Kyprolisはレジメンによって様々な用量、増量ペース、投与サイクルが採用されているが、KMPではdexamethasoneを併用するKdレジメンより低量を用いている。

結果は、PFS(無進行生存期間)が22.3ヶ月、VMPは22.1ヶ月でハザードレシオは0.91(95%CI:0.75-1.10)となり、大差なかった。全生存期間の解析はイベント数がまだ所定に達しておらず未成熟だが、ハザードレシオ1.21(95%CI:0.90-1.64)で成功しそうな感じはない。有害事象データを見ると、致死的な治療時発現有害事象の発生率が6.5%とVMPの4.3%を上回っている。

優越性試験で有意差が出ないことは非劣性試験で有意差が出ないのとは意味が違うので、この試験だけに基づいて適応拡大申請しても承認されないだろう。幸い、臨床腫瘍学ではオフレーベル使用が盛んであり権威のあるコンペンディアやガイドラインに収載されていれば医療保険の対象になることが多い。KMPの人気は低下するだろうが、多発骨髄腫は次々と新薬、新レジメンが登場しており、VMP自体が米国では減ってきている様子だ。

従って、忍容性に関してこれ以上ネガティブな話が出ない限り、需要に与える影響は限定的だろう。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


バイオジェン、脊髄性筋萎縮症用薬を承認申請
(2016年9月26日発表)

バイオジェン(Nasdaq:BIIB)とIonis(Nasdaq:IONS)は、 脊髄性筋萎縮症(SMA)用薬IONIS-SMN Rx(nusinersen)のローリング承認申請が完了したと発表した。FDAには優先審査も求めた。EUでも承認申請の予定で、既に加速審査が決まっている。

SMAは神経筋の成長・機能に係るSurvival Motor Neuronの遺伝子、SMN1の欠損が関与している。キャリアは50人に一人と多いが、ホモ接合型が発症する。nusinersenは、SMN2遺伝子のエクソン7をスキップさせスプライシングを変えることによって、本来は作れないはずのSurvival Motor Neuronを作らせるもの。月齢7ヶ月未満の幼児発症型を対象とした第三相試験(日本の施設も参加)が中間解析で成功、今回の承認申請に至った。

Ionis(ISISから社名変更)が創製、バイオジェンが今年8月にオプト・イン・オプションを行使してライセンスした。

リンク: 両社のプレスリリース

リジェネロンとサノフィがまた新薬承認申請
(2016年9月26日発表)

抗体医薬に係る基礎技術を持つ会社の強みは、多くのパイプラインを創製できることだ。バイオ薬の特許は製法に係るものが多く、全く異なる方法で作る技術があれば、他社と同じような薬を開発できる。

リジェネロン(Nasdaq:REGN)はそのような会社の一つで、08年に抗IL-1受容体抗体Arcalyst(rilonacept)が初承認された後も、11年にVEGF受容体融合蛋白Eylea(aflibercept)が承認、12年に同じ活性成分が抗癌剤Zaltrap(ziv-aflibercept)として承認、15年に抗PCSK9抗体Praluent(alirocumab)が承認。

今年に入って抗IL-6受容体アルファ・サブユニット抗体REGN88(sarilumab)を承認申請し、更に今回、抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体のDupixent(dupilumab、開発コードREGN668/SAR231893)をアトピー性皮膚炎の治療薬として米国で承認申請し受理されたことを発表した。審査期限は来年3月29日。

管理不良中重度アトピー性皮膚炎の第三相試験の論文もNew England Journal of Medicine誌に刊行された。二本の試験で奏効率が36~38%と偽薬群の8~10%を大きく上回った。有害事象は注射箇所反応や結膜炎。感染症は増えなかった。皮注用で負荷用量600mg、維持用量は300mg。投与頻度は週一回と二週に一回の二つがテストされたが、効果は大差なさそうだ。

リンク: 両社ののプレスリリース
リンク: E. Simpsonらの治験論文(New England Journal of Medicine、フリーアクセス)

JNJ、イムブルビカを辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請
(2016年9月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)を辺縁帯(マージナル・ゾーン)リンパ腫の二次治療薬として米国で適応拡大申請した。第二相試験に基づくもので、データは今後、学会発表される見込み。辺縁帯リンパ腫はリンパ節や唾液腺、肺などの辺縁帯に発生するもので、非ホジキンリンパ腫の12%を占める由。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アストラゼネカ、Recentinの欧州申請を撤回
(2016年9月21日発表)

アストラゼネカはVEGFR阻害剤Recentin(cediranib)を再発性白金薬感受性卵巣癌向けにEUで承認申請していたが、撤回したことを公表した。申請はICON6試験に基づくもので、Lancetに治験論文も刊行されているのだが、忍容性に問題があったのかもしれない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


ステラーラをクローン病に用いることが承認
(2016年9月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはFDAが抗IL-12/23p40抗体Stelara(ustekinumab、和名ステラーラ)の適応拡大を承認したと発表した。中重度クローン病で免疫調停剤やステロイドに不応不耐の患者に用いる。臨床試験はTNF阻害剤経験者や未経験者の34~56%が奏功した。奏功者に対する維持療法も有効だった。導入は点滴静注、維持療法は皮注が可能。

乾癬や感染性関節炎で承認されている。クローン病用途はEUでも9月にCHMPが肯定的意見を出した。日本でも3月に承認申請。

MedarexがUltiMab技術を用いて創製したもの。BMSが買収したためあまり表面に出てこなくなったが、Regeneronに負けずに多くの抗体医薬を世に出している。

リンク: JNJのプレスリリース





今週は以上です。

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