2016年12月4日

2016年12月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:抗Pセレクチン抗体が鎌状赤血球症の疼痛クリーゼを抑制 
  • ASH:ペン大がCAR-TのALLデータ発表 
  • メルク/ファイザーの抗PD-L1抗体が優先審査に 
  • MSD、キイトルーダで二つの適応拡大申請 
  • GSK、COPDのトリプルコンビを欧州でも承認申請 
  • FDAがジャディアンスの心血管死抑制効果を認定 



【新薬開発】


ASH:抗Pセレクチン抗体が鎌状赤血球症の疼痛クリーゼを抑制
(2016年12月3日発表)

ノバルティスの抗Pセレクチン抗体、SEG101(crizanlizumab)の第二相試験結果がASH(米国血液学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。鎌状赤血球症患者の血管閉塞性疼痛クリーゼ(危機)のリスクを偽薬比45%削減した。

鎌状赤血球症はヘモグロビン遺伝子変異による遺伝性疾患で、赤血球の酸素運搬能力が低い。アフリカに多いとされる。慢性的溶血や血管閉塞性疼痛、多臓器不全などを合併する。

SEG101は抗Pセレクチン・ヒト化抗体で、内皮細胞のPセレクチンに結合して鎌状赤血球が接着するのを妨げる。ノバルティスが先月、買収オプションを行使したSelexys Pharmaceuticalsの開発品。

今回の第二相試験は、過去12ヶ月間に血管閉塞性疼痛クリーゼを2~10回経験した患者198人を偽薬、5mg/kg、2.5mg/kgの三群に割付けて発生頻度を観察した。結果は、主評価項目である5mg/kg群の年率発生回数が1.63、偽薬群は2.98となり、リスクが45.3%低下、p=0.010だった。2.5mg/kg群も2.01対3.00と少なかったがp=0.180。

既存薬ではヒドロキシウレアが用いられているが、それほど普及していない模様である。患者がアフリカに多いとなると、価格が高く冷凍保存が必要な遺伝子組換え薬は必ずしも適していないのではないかと思われるが、有望な新薬が現れなかったらそんな心配もできない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: Atagaらの治験論文(NEJM、オープンリリース)

ASH:ペン大がCAR-TのALLデータ発表
(2016年12月4日発表)

ノバルティスは、キメラ抗原受容体-T細胞療法(CAR-T)であるCTL019の第二相青少年B細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)試験の結果を発表した。ライセンス元であるペンシルバニア大学の研究者がASHのプレスブリーフィングで公表したもの。

CTL019は、B細胞特異的に発現するCD19に結合する抗体の単鎖可変領域の遺伝子をTCR共刺激伝達領域である4-1BB及びCD3ゼータ鎖の遺伝子そしてスペーサーで繋いだものを、患者から採取したT細胞に導入し、培養・活性化する。fludarabineやcyclophosphamideでプリトリートして患者のリンパ球を枯渇した後に投与すると、抗原提示がなくてもB細胞を攻撃する。

今回のELIANA試験は欧米や日本などの施設で3~25歳の再発性難治性患者50人に投与したところ、客観的反応率(血球数の回復が不十分だが完全寛解の症例も含む)が82%となった。CAR-Tの泣き所であるグレード3、4のサイトカイン放出症候群が48%の患者で発生し、人工心肺や透析を必要とする低血圧も発生したが、死亡例はなかった。グレード3の神経学的イベント・精神学的イベント(脳症やせん妄など)の発生率は15%だった。

ノバルティスは17年初めに米国で、欧州でも同年中に、承認申請する考え。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認申請】


メルク/ファイザーの抗PD-L1抗体が優先審査に
(2016年11月29日発表)

ドイツのメルクと共同開発パートナーであるファイザーは、抗PD-L1完全ヒト化抗体であるMSB0010718C(avelumab)を米国で転移性メルケル細胞腫用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。PDUFA審査期限は不明。承認されれば抗PD-L1ではロシュのTecentriq(atezolizumab)に次ぐ第二の新薬、抗PD-1も含めればBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)などに次ぎ4番目となる。

メルケル細胞腫は皮膚がんの一種で進行が速い。米国で年2500人が発症、10月に承認申請されたEUでも同数の、希少疾患だ。

開発競争の激しい分野ではリード・インディケーションの選択が重要だ。選択の余地が大きい腫瘍学では、承認までの開発リードタイムを少しでも短縮し承認審査機関から加速審査や優先審査を受けるために色々な工夫がなされている。抗PD-1/PD-L1ではBMS/小野とMSDが様々な癌でつばぜり合いしているが、ロシュは膀胱癌を、MSD/ファイザーは希少疾患を最初の適応症に選んだ。勿論、将来は肺癌のような大市場で全面対決する覚悟だろう。

一方、アストラゼネカの抗PD-L1であるMEDI4736(durvalumab)は、肺癌や頭頸部癌でサロゲートマーカーに基づく加速承認申請する作戦だったが、治験結果が出る前に他社が適応拡大してしまったため、中々申請できないでいる。彼我の距離やスピード、夫々の適応症の得失を正しく測定評価する能力が問われている。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、キイトルーダで二つの適応拡大申請
(2016年11月28日発表)

抗PD-1抗体の開発販売で激突しているBMS/小野(Opdivo)とMSD(Keytruda)の両陣営は、適応拡大の手綱も緩めていない。先週はMSDが米国で二つの適応拡大申請を相次いで行った。一つは古典的ホジキン型リンパ腫で、Opdivoが既に承認されているので意外感はないが、優先審査指定され審査期限が来年3月15日と早いのが驚き。四次治療または難治性の患者を対象にしていてOpdivoより遅い段階での、いわゆるサルベージセラピーとしての用途であることが理由だろう。

もう一つの用途は末期マイクロサテライト高不安定性(MSI-H)腫瘍の再発治療。MSI検査は、同じ塩基配列が続いていて複製エラーが起きやすい遺伝子部位を調べることによって、ミスマッチを修復するメカニズムがどの程度機能しているかを調べるもの。リンチ症候群の患者が発症する遺伝性結腸直腸癌はミスマッチ修復遺伝子の先天的な変異と後天的な変異が重なってMSI-Hになることが多いようだが、結腸直腸癌以外では後天的な変異だけのケースもあるようだ。

着眼の経緯はNew England Journal of Medicine誌の治験論文に記されている。バイオマーカーに基づいて応答性を予測する手法がまた一つ、増えそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース(cHL、12/1付け)
リンク: 同(MSI-H腫瘍、11/28付け)
リンク: Leらの治験論文(NEJM)

GSK、COPDのトリプルコンビを欧州でも承認申請
(2016年12月2日発表)

グラクソ・スミスクラインは三種類の活性成分を配合したClosed Triple CombinationをCOPD治療薬として欧州で承認申請した。米国でも11月に申請済み。

COPDの増悪予防は患者の反応を見ながら薬を増量・追加していく。今回のトリプルコンビ薬は、コルチコイドのfluticasone furoate、長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤のumeclidinium、そして長期作用性ベータ2作用剤のvilanterolを配合したもので、Ellipta吸入器で一日一回、吸入する。夫々の成分や二剤配合薬は既に実用化されているので併用可能だが、1個で済めば手間が省ける。

Innoviva(Nasdaq:INVA)との共同開発プロジェクトの対象で、GSKは売上の6.5~10%をロイヤルティとして支払い、Innovivaはその85%を14年にスピンアウトしたTheravance Biopharma(Nasdaq:TBPH)に支払う。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認】


FDAがジャディアンスの心血管死抑制効果を認定
(2016年12月2日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の新しい適応・効能を承認した。二型糖尿病且つ心血管疾患の成人患者が心血管疾患で死亡するリスクを削減する、というもの。

CDC(米国疾病管理予防センター)によると、糖尿病成人は心血管疾患で死亡するリスクが1.7倍高いので、血糖治療薬が心血管疾患リスクを高めるのか下げるのかは重要な問題だ。米国は未承認用途・効能に関する情報提供の規制が厳しいので、正式承認の意義は大きい。

Jardianceは腎臓細管のグルコース・トランスポーターであるSGLT-2を阻害して、グルコースが血中に戻るのを防ぐ。利尿を促進する面もあり、血圧低下の便益がある一方で低血圧やケトアシドーシスのリスクがある。独特の副作用は尿道や性器の感染症。尿道に付着するグルコースが栄養になるようだ。

今回の承認のエビデンスとなったEMPA-REG OUTCOME試験では、心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的卒中の複合評価項目の偽薬比ハザードレシオが0.86、95.02%信頼区間0.74~0.99となり、非劣性解析だけでなく優越性解析も成功した。心血管死はハザードレシオ0.62、95%信頼区間0.49~0.77。1000人に1年間投与すると心血管疾患で死亡する人を7.7人減らすことができる計算だ。

長期大規模試験とは言え一件だけで効能を認めるのは妥当か?心臓腎臓薬諮問委員会が招集されたが、YESが12人、NOが11人と票が分かれた。僅差でも、大統領選と同じで、勝者は全てを獲得する。

リンク: FDAのリリース
リンク: EMPA-REG OUTCOME Investigatorsの治験論文(NEJM誌オープンアクセス)




今週は以上です。

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