2016年11月20日

2016年11月20日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AHA:心房細動・ステントのトリプルセラピー 
  • AHA:PCSK9RNA介入薬は効果が長期間持続 
  • AHA:レパーサのIVUS試験成功 
  • アムジェン、抗CGRP受容体抗体の二本目の第三相も成功 
  • ギリアドのJAK阻害剤は第三相が一本成功 
  • ノバルティス、CAR-Tの第二相データを発表へ 
  • ノバルティス、FLT3阻害剤の承認申請が受理 
  • HEPLISAVは承認されず 
  • Qapzolaも承認されず 
  • FDAが外陰膣萎縮症用薬を承認 
  • AHA:セレコックスの安全性試験がやっと終了 



【新薬開発】


AHA:心房細動・ステントのトリプルセラピー
(2016年11月14日発表)

AHA(米国心臓協会)の科学部会で、PIONEER AF-PCI試験の結果が発表された。冠動脈PCIでステント留置術を受けた患者はアスピリンとclopidogrelのような抗血小板薬を併用するデュアル・アンチプレイトレット・セラピー(DAPT)を施行するのが一般的だが、抗血栓薬を服用していて出血リスクが高い非弁性心房細動患者にも有益なのか?単純にDAPTを追加するより良い方法はないのか?

このような問題意識の下に、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を使って新レジメンを検討したのが本試験だ。26ヶ国の施設で2124人の患者を以下の三群に無作為化割付して、臨床的に重要な出血のリスクを比較した。

  • rivaroxaban(15mg一日一回)と抗血小板薬(clopidogrel、prasugrel、ticagrelor)の12ヶ月コース(以下、二剤群)。
  • rivaroxaban、アスピリン、そして抗血小板薬を1~12ヶ月用いるコース(用量調整群)。三剤併用期間中はrivaroxabanの用量を2.5mg一日二回に減量する。
  • 対照群はビタミンK拮抗剤、アスピリン、そして抗血小板薬を1~12ヶ月用いるコース。


結果は、二剤群の出血率が16.8%と対照群の26.7%を大きく下回り、ハザードレシオ0.59、統計的に有意だった。用量調整群も18.0%に留まり、ハザードレシオ0.63、有意だった。

心血管イベントの発生数は大差なかったが、非劣性解析を行うには組入れ数が一桁足りず、増えなくてよかったとしか言えないので消化不良だ。抗血栓薬も抗血小板薬も血栓性疾患の予防効果と出血リスクのトレードオフがあるからだ。

尚、この試験の論文はNew England Journal of Medicineに刊行されたが、全死亡解析は別途、Circulationに掲載されている。一つのデータセットで複数の解析を行うと偶然に有意差を拾ってしまうリスクがあるため、ここでは割愛する。

リンク: Gibsonらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

AHA:PCSK9RNA介入薬は効果が長期間持続
(2016年11月15日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)とAlnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-PCSsc(inclisiran)の第二相試験途中経過をAHAで発表した。一回投与でLDL-Cが60日後に59%低下、180日時点でも43%低かった。90日置いて二回投与した症例では120日時点で57%低下。抗PCSK9抗体と同じ皮注用だが、3ヶ月に一回で足りるなら簡便だ。効果が優れていることはこれで分かった。今後の注目は、副作用の軽重だろう。

inclisiranはRNA介入に特化した新薬開発型新興企業であるAlnylamが創製したRNA介入薬で、PCSK9の合成を阻害する。メカニズムは異なるが、抗PCSK9抗体と同様に、血中LDL-Cを取り込むべき肝臓のLDL受容体にPCSK9が結合して零落するを妨げる。

今回の第二相は、アテローム性心血管疾患またはそれと同等のリスクを持ち、LDL-C治療薬の最大耐容量を服用しても十分に低下しない患者501人を組み入れた、用量変動試験。治療時発現有害事象は筋痛や肝機能検査値異常。どちらもコレステロール治療薬を開発する上で重要なチェックポイントだ。致死的な心筋梗塞も一例あった模様であり、RNA介入薬のクラス・イフェクトではないことも確認すべきだろう。

メディスンズ・カンパニーは13年にAlnylamと開発提携、今回の第二相から主導している。

リンク: 両社のプレスリリース

AHA:レパーサのIVUS試験成功
(2016年11月15日発表)

その抗PCSK9抗体では、アムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)のIVUS試験の結果もAHAで発表された。冠動脈アテロームの量と冠動脈疾患のリスクがダイレクトに相関するものなのかどうか、まだ結論は出ていないので先走るべきではないが、心血管アウトカム試験の結果に希望が持てるくらいのことは言っても良いだろう。

このGLAGOV試験は、冠動脈造影術を受ける、最大耐容量スタチンを服用している患者を偽薬またはRepatha(420mg)を月一回皮注する群に割付けて、78週間後のPAV(%アテローム量)の変化の群間差を比較した。LDL-Cのベースライン値は93mg/dLで、Repatha群は78週後に36mg/dLに低下した。PAVはベースライン(36.4%)から0.95%低下、偽薬群は37.2%から0.05%上昇、有意な群間差があった。

二次的評価項目のnTAV(正常化総アテローム量)は5.8立方mm減少、偽薬群は0.9立方mm減でこれも有意。心血管アウトカムを比較する検出力はないが、発生率は12.2%と偽薬群の15.3%より低く、変な結果ではなかった。

コレステロール治療薬の冠動脈アテローム抑制効果を検討するIVUS試験はまだ件数が少なく、分からないことも多い。一割以上の患者が二回目のIVUS検査を受けないというドロップアウトの多さも難点だ。
今回のデータで見ると、PAVの治療効果である1.0%は臨床的に重要なのか?もし重要なら、ベースライン時点での0.76%の群間差は軽視できるのか?ベースライン値で4分位に分けたサブグループ分析を見たいものだ。

Repathaの心血管アウトカム試験は昨年、2万人を超える患者の組み入れを完了。結果は17年のACC辺りで発表と目されているようだ。

リンク: アムジェンのプレスリリース
リンク: Nichollsらの治験論文(Journal of American Medical Association、オープンアクセス)

アムジェン、抗CGRP受容体抗体の二本目の第三相も成功
(2016年11月16日発表)

アムジェンは、AMG 334(erenumab)の二本目の第三相片頭痛予防試験が成功したと発表した。月に8日ほど発症するepisodicな患者を組入れて、偽薬、70mg、140mgの何れかを月一回、24週間に亘って皮注し、最後の4週間の発症日数をベースライン値と比較したところ、各1.8日、3.2日、3.7日の減少となり、両用量とも偽薬比有意な差があった。70mgだけを試験したもう一本の第三相が既に成功しており、月に18日発症と慢性的な患者を組入れた第二相試験のデータと合わせて、来年承認申請される見込み。

AMG 334は片頭痛発作時に増加し鎮静化すると減少するcalcitonin gene-related peptide(CGRP)の受容体を標的とする抗体。ノバルティスが開発に相乗りしており、北米や日本以外での販売を担当する。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ギリアドのJAK阻害剤は第三相が一本成功
(2016年11月16日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)はGS-0387(momelotinib)の第三相骨髄線維症試験二本の結果を発表した。Jakavi(ruxolitinib)対照試験は成功、主評価項目である脾臓反応率は26.5%、対照群は29.0%で、非劣性であることが確認された。二次的評価項目のTSS(総合的症状スコア)は非劣性ではなかった。有害事象では末梢神経症の発生率が10%対5%で高かった。

Jakavi治療歴がある患者(不応だった患者は除く)を組入れた試験では、脾臓反応率が6.7%、対照群(最適な代替的治療を施行・・・88%がJakaviを継続)は5.8%で優越性解析がフェールした。TSSは数値上は有意な差があったが、主評価項目がフェールしたのでそれ以降の解析は統計学的に意味がない。

ギリアドは当局と今後を相談する予定。Jakaviと同じJAK1/2阻害剤なので、効果が特に優れているわけではなく有害事象で見劣りする点もあるとなると、承認されたとしてもどの程度の出番があるのかよくわからない。

リンク: ギリアドのプレスリリース

ノバルティス、CAR-Tの第二相データを発表へ
(2016年11月16日発表)

ノバルティスは、ペンシルベニア大学の研究者からCART-19の開発販売権を取得、話題の新技術であるキメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T)療法に参入した。米国で再発性難治性急性リンパ性白血病の青少年を対象に実施している第二相試験のデータが12月のASH(米国血液学会)で発表される予定。学会サイトで公開された抄録によると、過去の試験と同様な良い結果が出たようだ。CAR-Tの泣き所であるサイトカイン放出症候群が多くの患者で発生し、半分近くがグレード3、4だったが致死例はなかった由。

リンク: ノバルティスの学会発表演題リリース

【承認申請】


ノバルティス、FLT3阻害剤の承認申請が受理
(2016年11月14日発表)

ノバルティスはPKC412(midostaurin)を欧米で承認申請し受理されたことを発表した。米国は優先審査を受ける。適応は、FLT3変異のある急性骨髄性白血病(初治療を含む)と進行全身性肥満細胞症。Invivoscribe TechnologiesのFLT3コンパニオン検査もPMA(販売前申請)が行われた。

急性骨髄性白血病の第三相試験では、cytarabine及びdaunorubicinと併用で導入療法を行い、完全寛解ならサイクル追加、その後はPKC412だけで維持療法を行ったところ、完全寛解率は59%でPKC412の代わりに偽薬を投与した群の54%と比べて有意な差がなかったものの、全生存のハザードレシオは0.77と有意に優れていた。5年生存率は50.9%、偽薬群は43.9%。

進行全身性肥満細胞腫はNEJMに今年、掲載された第二相単群試験に基づくもので、総合反応率60%だった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


HEPLISAVは承認されず
(2016年11月14日発表)

ダイナバクス(Nasdaq:DVAX)は、HEPLISAV-BをB型肝炎予防用ワクチンとして12年にFDAに承認申請したが、今回、2回目の審査完了通知を受領した。安全性に関する追加情報を要求された模様。追加試験を行ったり、好ましくないデータに関して追加情報や専門家の意見を提出したりしたが、結局、承認されなかった。ダイナバクスは諦めてはいない模様だが、ワクチンは高い安全性が求められ、B型肝炎ワクチンは既に広く用いられている製品が存在するので、安全性懸念を十分に払拭しないまま承認を得るのは困難なのではないか?

リンク: ダイナバクスのプレスリリース

Qapzolaも承認されず
(2016年11月17日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(Nasdaq:SPPI)はQapzola(apaziquone)をTUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後の補助療法として米国で承認申請していたが、FDAから審査完了通知を得た。二本実施された第三相試験が何れもフェールしたので止むを得ないところ。2年再発率が一本は38%対44.6%、もう一本は40.4%対46.6%と数値上は希釈液だけを投与した群より高かったのだが、測定値には精度というものがある。同社は第三相試験を実施していたが組入れを中止、改めて小規模な試験を行う考え。

リンク: Spectrumのウェブサイト(Statusのところに審査完了通知受領が記されている)

【承認】


FDAが外陰膣萎縮症用薬を承認
(2016年11月17日発表)

FDAは、Intrarosa(prasterone)を承認した。閉経に伴う外陰膣萎縮の症状である、中重度性交痛の治療に用いる。prasteroneは新規活性成分だが、DHEA(dehydroepiandrosterone)として健康食品などにも用いられているアンドロゲンを製剤化したもの。カナダのEndoCeutics社の製品。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


AHA:セレコックスの安全性試験がやっと終了
(2016年11月13日発表)

Celebrex(celecoxib、和名セレコックス)の心血管安全性試験、PRECISIONの結果がやっと、AHAとNew England Journal of Medicine誌で発表された。04年にMSDのVioxx(rofecoxib)が心血管副作用を理由に販売中止になったことが発端で06年にFDAの要請に基づいて開始されたもの。

当初は11年にも結果が判明する見込みだったが、イベント発生率が想定より低く治験離脱が多かったため、ハードルを引き下げたにも関わらず結局10年かかった。Celebrexは既に米国ではGE化しており、結果がどちらでもファイザーの収益影響は小さい。

この試験は、変形性/リウマチ性関節炎で心血管疾患又はリスク因子を持つ患者23081人を、Celebrex(100mgを一日二回)、naproxen(375mg一日二回)、 ibuprofen(600mg一日三回)の三群に割付けて、主要有害心血管イベント(心血管疾患による死亡、心筋梗塞、脳卒中)のリスクを比較したもの。

各群の発生率は2.3%、2.5%、2.7%となり、Celebrexはnaproxenと比べてハザードレシオ0.93、95%信頼区間0.76~1.13、統計的に非劣性だった。ibuprofen対比でもそれぞれ0.85、0.70~1.04となっている。サプライズではないが、胃腸イベントはCelebrex群が一番少なく、腎臓イベントはibuprofenが多かった。

この試験の難点は、被験者の心血管疾患のリスクがあまリ高くないこと、期中に服用を止めた患者が68%と多いこと、追跡打ち切り例が27%もあることなど。当時のCox-II阻害剤バッシングを考えると、心血管疾患のリスクが高い患者を多数組入れるのは難しかっただろう。鎮痛剤なので状態の良い時は飲まないだろうしほかの薬にスイッチするために治験を離脱した人も多かっただろう。結局、このような結果になるのは止むを得ないことであり、10年前に危惧されたことなのだが、

それでも行うことに意義がある

と私は思う。

リンク: Nissenらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)




今週は以上です。

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