2016年10月30日

2016年10月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗PD-L1抗体が治験許可部分停止に 
  • GSK、帯状疱疹ワクチンを米国で承認申請 
  • 脊髄性筋萎縮症用薬が欧州でも承認申請 
  • PortolaもXa阻害剤を承認申請 
  • Tesaro、PARP阻害剤をEUで承認申請 
  • アクテムラのライバルは審査完了に 
  • キイトルーダ、肺癌一次治療に承認 


【新薬開発】


抗PD-L1抗体が治験許可部分停止に
(2016年10月27日発表)

アストラゼネカは、MEDI4736(durvalumab)の頭頸部扁平上皮腫試験がパーシャル・クリニカル・ホールドになったことを公表した。第三相試験二本で出血リスクの増加が見られたため、FDAが治験許可を部分的に停止、この用途の試験は単剤投与も併用も、新規患者組入れを禁じた。

MEDI4736はロシュのTecentriq(atezolizumab)と同様にPD-L1を標的とする抗体医薬。頭頸部癌のほかに非小細胞性肺癌などでも第三相試験中で、ファイザーからライセンスした抗CTLA4抗体のCP-675,206(tremelimumab)との併用も試験している。血液癌ではセルジーン(Nasdaq:CELG)が開発権を取得、セルジーンの薬との併用などを検討する。先行品に追い付くために併用法を重視しているのだろう。

昨年も間質性肺疾患の有害事象が原因で非小細胞性肺癌試験が中断されたことがあったが、EGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)と併用しており、Tagrissoは単剤でも間質性肺疾患のリスクがあるので、MEDI4736が悪い訳ではないかもしれない。今回の第三相頭頸部癌試験は単剤投与群とtremelimumab併用群が設けられているが、どちらの群でリスクが高まったのかは明らかでない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


GSK、帯状疱疹ワクチンを米国で承認申請
(2016年10月24日発表)

グラクソ・スミスクラインはShingrixをFDAに承認申請した。帯状疱疹ウイルスの糖タンパクEを抗原、AS01-Bをアジュバントとする遺伝子組換え型帯状疱疹予防用ワクチンで、50歳以上が対象。2~6ヶ月おいて2回、筋注する。第三相試験では帯状疱疹リスクが90%以上、削減された。ヘルペス後神経痛も90%前後、削減された。

同社はワクチン領域で世界三大企業の一つ。低所得国における感染症対策やワクチンの普及に熱心に取り組んでいる。

リンク: GSKのプレスリリース

脊髄性筋萎縮症用薬が欧州でも承認申請
(2016年10月28日発表)

バイオジェンは、nusinersenを脊髄性筋萎縮症用薬としてEUに承認申請し、受理されたと発表した。加速審査を受ける。米国でも9月にローリング承認申請が完了、受理された。優先審査を受けるが、審査期限は公表されていない。製品名はSpinrazaとなる見込み。

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスしたアンチセンス・オリゴヌクレオチド。脊髄性筋萎縮症は神経筋の成長や機能に係るSurvival Motor Neuronの遺伝子、SMN1の欠損が関与していて、両親から継承すると発症する。nusinersenはSMN1と似ているSMN2遺伝子のスプライシングを変えて、Survival Motor Neuronを発現できるようにする。

髄腔内投与。幼児発症型の患者122人を組み入れた第三相試験(日本の施設も参加)では中間解析で奏効率がシャム群を有意に上回った。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

PortolaもXa阻害剤を承認申請
(2016年10月25日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT054021(betrixaban)を急性疾患入院患者の静脈血栓塞栓予防薬として米国で承認申請した。リスクとベネフィットのバランスが難しい分野であり、第三相試験のデザインも結果も万全とは思えないので、全てのデータを踏まえて総合的な判断が必要だだろう。

第三相のAPEX試験では、心不全や脳卒中、感染症、肺疾患などで入院した静脈血栓塞栓のリスク因子(75歳以上、D-ダイマーが通常上限の2倍以上など)を持つ患者7513人を組入れて、標準的薬物療法(enoxaprin 40mgを一日一回、6~14日間に亘って皮注)とbetrixaban(80mgを一日一回、35~47日間経口投与)の発生状況を比較した。主評価項目は三つ、シーケンシャルに行った。

最初のD-ダイマー上昇コフォート(全集団の62%を占めた)の解析は、相対リスク0.806、p=0.054でフェール。次に、D-ダイマー上昇または75歳以上のコフォート(91%)は0.800、p=0.029。最後に、全集団の解析は0.76、p=0.006となった。大出血や致死的出血のリスクは大差なかった。頭蓋内出血は増加したが有意ではない。

この試験の問題は、第一に、解析計画。最初の解析に全てのアルファ(0.05)を付与しているので、二番目以降の解析のp値が幾つであったとしても統計学的には意味がなく、仮説検証試験としてはフェール以外の何物でもない。このような解釈を受け入れるつもりがないなら、三つの解析全てにアルファを配分すべきだった。

次に、便益の大きさ。症候性深静脈血栓・肺塞栓・深静脈血栓による死亡の発生率の群間差は0.6ポイント程度で決して大きくない。enoxaparin投与期間中の差はもっと小さく、予防効果の差の一部は投与期間の違いが寄与しているのだろう。

betrixabanはXa阻害剤。既存のXa阻害剤との違いは、半減期が19~25時間と長く一日一回服用に適していること。迅速な解毒が必要な時は同社のAndexXa(andexanet alfa)を使えばよい。また、代謝されずに主として便と一緒に排出されるため、腎機能やCYP相互作用の制約が小さい。上記の試験では重度腎障害やP糖タンパク強阻害剤を併用する患者は半量を投与した。

リンク: Portolaのプレスリリース


Tesaro、PARP阻害剤をEUで承認申請
(2016年10月27日発表)

Tesaro(Nasdaq:TSRO)は、欧州薬品庁(EMA)がniraparibの承認申請を受理したと発表した。白金薬感受性の難治性卵巣癌で白金薬ベースの化学療法に反応した患者の維持療法に用いる。米国でもローリング承認申請中。

遺伝子修復に関与するPoly (ADP-ribose) ポリメラーゼを阻害する、PARP 1/2阻害剤。同様な作用機序を持ち14年に欧米で卵巣癌の四次治療薬として承認されたアストラゼネカのLynparza(olaparib)や、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)がファイザーからライセンスして開発し8月に米国で承認申請したCO-338/PF-01367338(rucaparib)との違いは、第三相試験で生殖細胞性BRCA変異のない患者にも有効であったこと。

変異のある患者ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が21.0ヶ月で偽薬群の5.5ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.27、p<0.0001。ない患者では9.3ヶ月対3.9ヶ月、ハザードレシオ0.45、p<0.0001だった。

niraparibはMSDのMK-4827をライセンスしたもの。

リンク: Tesaroのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アクテムラのライバルは審査完了に
(2016年10月28日発表)

リジェネロン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィはREGN88/SAR153191(sarilumab)を中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として欧米で承認申請していたが、米国はFDAから審査完了通知を受領した。承認を得るためにはサノフィの充填製剤工場におけるcGMPに係る欠陥の是正が必要で、サノフィは是正計画を提出済み。

sariumabは中外/ロシュのActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)と同様にIL-6受容体を標的とする抗体医薬。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


キイトルーダ、米国で肺癌一次治療に承認
(2016年10月24日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をPD-L1強陽性の非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。コンパニオン診断キットであるDAKO社のPD-L1 IHC 22C3 pharmDXで腫瘍標本を検査して、PD-L1発現腫瘍比率スコア(TPS)が50%以上であった場合に適応になる。

二次治療では体重1kg当り2mg、75kgの患者なら150mgを三週間に一回投与するが、一次治療は体重に関わらず200mgを三週間に一回。第三相試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン10.3ヶ月と白金ベースの併用療法を施行した群の6.0ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.50、95%信頼区間0.37~0.68となり、全死亡リスクも有意に低かった。

抗PD-1抗体は免疫を強化するため免疫調停的有害事象のリスクも高まる。化学療法薬では見慣れない副作用なので注意が必要だ。深刻な有害事象は肺炎、結腸炎、肝炎、内分泌疾患、腎炎など。命に係る点滴反応のリスクもある。

日本では9月に悪性黒色腫に承認され、非小細胞性肺癌も審査中。日本肺癌学会などが今回の用途で早期承認の要望を行った。

リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

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