2024年12月28日

第1187回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、米国でジーンプラバの販売を中止へ 
  • BMS、ソーティクツの乾癬性関節炎試験が成功 
  • Nuvation、ROS1阻害剤を承認申請 
  • Dato-DXdはEUでも肺癌のみ承認申請撤回 
  • sotagliflozinは糖尿病には承認されず 
  • オプジーボ皮下注が承認 
  • BeiGene、一番に向けて適応拡大 
  • 住友ファーマ、専ら女性の薬を男性にもアピールできるのでは 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


MSD、米国でジーンプラバの販売を中止へ
(2024年12月23日届出)

MSDはZinplava(bezlotoxumab)の販売を25年1月31日をもって打ち切るとFDAに届け出た。理由は不明。

Clostridium difficile感染症の抗生剤治療を受けた後に再燃抑制目的で投与する抗体医薬。米国で16年に、EUや日本でも17年に、承認された。抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)などの開発で知られるMedarexがマサチューセッツ医科大学と共同で研究開発し09年にMSDにライセンスしたもの。心不全歴のある患者では命に係わる心不全のリスクが上昇するので注意する必要がある。

リンク: FDAの掲示

【新薬開発】


BMS、ソーティクツの乾癬性関節炎試験が成功
(2024年12月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはSotyktu(deucravacitinib)の第3相乾癬性関節炎試験二本で主目的を達成したと発表した。成人の活性期乾癬性関節炎のうちPOETYK PsA-1試験はバイオ薬未経験者を、同2試験は更にTNF阻害剤歴を持つ患者も、組入れて16週間治療後のACR20を偽薬群と比較した。後者は安全性被殻目的でapremilast参考群も設定されている。データは未発表。適応拡大申請に向かうだろう。

22~23年に米日欧で中重度プラク乾癬治療薬として承認された経口TYK2アロステリック阻害剤。apremilastは同社が買収したセルジーンがアムジェンと共同開発したPDE4阻害剤だが、BMS買収時に提携契約に則り、アムジェンが完全取得した。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認申請】


Nuvation、ROS1阻害剤を承認申請
(2024年12月23日発表)

米国のNuvation Bio(NYSE:NUVB)はROS1阻害剤taletrectinibをROS1陽性進行非小細胞性肺癌に承認申請しFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年6月23日。

エビデンスはTRUST-I(中国で実施)とTRUST-II(日韓中米などで実施)の第2相試験二本。中国試験ではチロシン・キナーゼ阻害剤歴のない(ナイーブ)106人におけるcORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が91%、crizotinib歴のある(経験者)67人では52%だった。グローバル試験では、ナイーブ54人では85%、経験者47人では62%だった。いずれの試験でも、頭蓋内転移部位においてある程度の効果が見られた。主な有害事象は肝機能検査値異常、下痢、眩暈、味覚異常など。

同社は、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)をアステラス製薬と共に開発し16年にファイザーに買収されたMedivationの共同創立者かつ買収時のCEOであるDavid Hungが設立。第一三共からtaletrectinibをライセンスしたAnHeart Therapeuticsを3月に買収した。中国では導出先のInnovent Biologicsが今月、まず経験者向けに、承認を取得した。日本は日本化薬が23年に権利取得した。

リンク: Nuvationのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Dato-DXdはEUでも肺癌のみ承認申請撤回
(2024年12月24日発表)

第一三共はDS-1062(datopotamab deruxtecan、通称Dato-DXd)を米欧日で承認申請しているが、米欧の予定適応症のうち非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)は、米国に続きEUでも取下げとなった。CHMP(医薬品科学的評価委員会)のフィードバックに基づくもの。乳癌は引き続き承認申請中。

TROP2に結合する抗体薬物複合体。日本では化学療法歴のあるホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌の適応で第二部会を通過したところだ。米欧では局所進行/転移NSNSCLCの再発治療にも申請されていたが、エビデンスとなるべきTROPION-Lung01試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の解析に成功したものの、共同主評価項目である全生存期間が全体の解析も、非扁平上皮腫サブグループの探索的解析もフェールした。docetaxel対照試験なので数値が上回っていれば大目に見ても良いのではないかとも思われたが、精査の結果があまりよくなかったのかもしれない。

米国では代わりにEGFR阻害剤歴を持つEGFR変異陽性非小細胞性肺癌に承認申請したが、EUは承認審査中に別の申請を行うことを認めないと言う話を聞いたことがある。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)


sotagliflozinは糖尿病には承認されず
(2024年12月21日発表)

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)はZynquista(sotagliflozin)を慢性腎疾患を合併した一型糖尿病の併用薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。11月にリストラ発表した時の見込み通り。活性成分は23年に心不全用薬として承認されているが、将来性を見限り、プロモーション活動を中止して希望する患者に販売するだけに留める。

SGLT阻害剤は不要な糖を尿と一緒に排出させるが、糖尿病性ケトアシドーシスを誘導するリスクがある、製薬会社はSGLT-1選択性を持たせることで対処したが、一型糖尿病に用いるとリスクが高まる。sotagliflozinはSGLT-2も阻害するので、競合他社の未開拓分野であるとはいえ、ハードルが高かった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


オプジーボ皮下注が承認
(2024年12月27日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ スクイブの点滴静注用抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab)の皮下注バージョンを承認した。製品名と一般名は、Opdivo Qvantig(nivolumab and hyaluronidase-nvhy)。静注用の適応のうち、Yervoy(ipilumab)併用による導入療法以外で用いることができる。nivolumabは600mg、遺伝子組換え型ヒアルロン酸分解酵素は10000単位を2週毎、または両方とも1.5倍の量を3週毎、乃至は2倍の量を4週毎に投与する。進行/転移淡細胞型腎細胞腫に4週毎3~5分皮下注した治験で28日平均血清濃度や最低血清濃度定常値が点滴静注用と非劣性だった。ORR(客観的反応率)も各24%と18%で非劣性。FDAのプレスリリースによると安全性プロファイルは同程度だった。

リンク: FDAのプレスリリース


BeiGeneの抗PD-1抗体が適応拡大
(2024年12月27日発表)

中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:06160)はFDAが抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab-jsgr)の適応拡大を承認したと発表した。3月に成人の全身性化学療法歴があり抗PD-(L)1抗体歴はない切除不能/転移食道扁平上皮腫に承認されたばかりだが、新たに成人のPD-L1陽性(1以上)の切除不能/転移her2陰性胃/胃食道接合部腺腫に用いることが可能になった。

エビデンスとなるRATIONAL 305試験ではPD-L1陰性の癌も組み入れたが、EU同様に、陽性限定の承認となった。Ventana PD-L1(SP263アッセイ)で腫瘍と腫瘍関連免疫細胞を検査して1以上と判定された885人の解析によると、化学療法と併用した群のメジアン生存期間が15.0ヶ月と化学療法だけの群の12.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78だった。CPS(複合傾向スコア)で1以上と判定された854人の事後的解析でも概ね同様だった。カプラン・マイヤー・カーブを見ると二本の曲線がある程度以上乖離するのは1年経った辺りからだ。

尚、同社は米国などにおける社名をBeOne Medicines、Nasdaqチェッカー・シンボルをNasdaq:ONCに変更する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


住友ファーマ、専ら女性の薬を男性にもアピールできるのでは
(2024年12月23日発表)

住友ファーマの米国法人は、Gemtesa(vibegron)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。選択的ベータ3アドレナリン受容体作動剤で20年に成人の過活動膀胱(OAB)治療薬として承認されているが、新たに、良性前立腺肥大の薬物治療を受けている男性のOABに用いることが認められた。用量用法は75mg一日一回経口投与で従来と同じ。排尿回数などの改善という効能も同じ。

GLP-1作用剤における肥満・閉塞性睡眠時無呼吸と似たような話で、新用途と言えるのか悩ましいが、この薬に関しては現実的な意義がある。OABは女性に多い病気でGemtesaの第3相では8割以上を占めた。良性前立腺肥大は男性の疾患なのでOAB薬は関係ない、と思われるかもしれないが、同社によると、米国の患者数推定1400万人のうち、最大で75%がOAB症状を経験しているという。OABは我慢しがちな病気なので患者が医師に訴求しなければ治療が始まらない。男性向けにTVCMなどを行うことで潜在需要を顕在化できるかもしれない。Gemtesaは薬物相互作用リスクが小さいのでアルファ1a受容体拮抗剤などの良性前立腺肥大治療薬と同時使用しやすい。

19年に子会社化したUrovant Sciencesが17年にMSDからライセンスした選択的ベータ3アドレナリン受容体作動剤。日本は杏林製薬が14年にMSDからライセンスし、18年にベオーバ名で承認取得した。欧州ではPierre FabreがUrovantからライセンス。

リンク: Sumitomo Pharma Americaのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリ症候群)
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
25/2/8大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)
25/2/14GSKの髄膜炎菌A/B/C/W-135/Yワクチン
25/2/14Bavarian NordicのCHIKV VLP(チクングニア熱ワクチン)
25/2/17小野薬品のvimseltinib(腱滑膜巨細胞腫)
25/2/28SpringWorks Therapeuticsのmirdametinib(神経線維腫症1型)
諮問委員会
25/1/10AADPAC:生化学工業のSI-6603(腰椎椎間板ヘルニアに伴う根性痛)
25/2/5DSRMAC/ADPAC:オピオイド過剰摂取に関する疫学研究成果について



今週は以上です。

2024年12月21日

第1186回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ノボの減量用合剤の第3相が成功したが... 
  • MSD、HIV合剤の第3相が成功 
  • Omeros、TA-TMA治療薬を再承認申請へ 
  • 抗IGF-1R抗体の二本目の甲状腺眼症試験が成功 
  • MSD、TIGHTとLAG-3の抗体の開発を中止 
  • GSKの抗PD-1抗体も卵巣癌一次治療試験で延命できず 
  • イムブルビカを欧州でMCL一次治療に適応拡大申請 
  • MSD、抗RSV抗体を承認申請 
  • Zealand社のGLP-2作用剤は承認されず 
  • 皮下注用amivantamabの承認はお預け 
  • オンデキサの本承認切替は成らず 
  • アレモが米国でも承認 
  • 対象患者数が多い嚢胞性線維症用薬が承認 
  • ビラフトビがBRAF-V600E変異大腸癌の一次治療に適応拡大 
  • FDAはGIP/GLP-1作用剤を閉塞性睡眠時無呼吸に承認 
  • 初の家族性カイロミクロン血症候群用薬が承認 
  • ALK阻害剤が承認 
  • テムセルが米国で粘り勝ち承認 
  • ブイタマーが米国でもアトピーに承認 
  • 抗IL-31RA抗体がアトピーに適応拡大 
  • デンマーク薬品庁、EMAにセマグルチドのNAIONリスク評価を要請 
  • FDA、アステラスのVMS用薬の肝毒性を枠付き警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ノボの減量用合剤の第3相が成功したが...
(2024年12月20日発表)

ノボ ノルディスクはCagriSema(アミリン類縁体cagrilintideとGLP-1作用剤semaglutideの固定用量合剤)の最初の第3相肥満症試験の結果を発表した。偽薬比大きく低下したが、会社側が期待していた25%低下には届かなかったため、株価が2割以上下落した。

このREDEFINE 1試験は肥満症やリスク因子を持つオーバーウェートの患者3400人を合剤群(各2.4mg配合)、偽薬群、cagrilintide群、semaglutide群に無作為化割付けして週一回皮下注を68週間反復した。主目的は合剤群と偽薬群の体重減少率と5%削減奏効率。製薬会社にとって重要なtrial product estimandでは体重が各群22.7%、2.3%、11.8%、16.1%低下し、合剤群は偽薬比有意だった。共同主評価項目の25%減量奏効率は各群40.4%、0.9%、6.0%、16.2%で合剤は偽薬比有意。FDAや医療従業者、患者にとって有用なtreatment policy estimandベースの解析では、各群の体重減少率は20.4%、3.0%、11.5%、14.9%だった。25%減量奏効率は言及されていない。有害事象は胃腸系など。

treatment policy estimandは被験者が投与を止めたり、プロトコルで認められている場合は別の薬を追加したりスイッチしたりした後のデータも解析対象にする。試験薬のパワーが十分に反映されなかったり誇張されたりするリスクがあるが、どんなに効果が高くても忍容性が悪くて多くの患者が止めてしまう薬では困るし、現実の医療では、効果が不十分な時は他の薬の追加を検討実施するだろうから、期待値に即したデータを取得できるメリットがある。

効果が若干高く出ることが多いtrial product estimand/efficacy estimandベースでも減量が25%に届かなかった一因は、忍容性のようだ。用量滴定を認めるプロトコルが採用されていたこともあり、68週時点で最大用量を使用していた患者の比率は合剤群が57.3%、cagrilintide群が82.5%、semaglutide群は70.2%だった。

第3相はこのほかに、糖尿病も合併する患者を組入れた試験や、心血管疾患高リスク患者の心血管アウトカム試験、肥満症においてイーライリリーの競合薬Zepbound(tirzepatide)と減量作用を比較する試験などが進行中。semaglutide群をどれだけ上回ることができるか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


MSD、HIV合剤の第3相が成功
(2024年12月19日発表)

MSDは二種類の逆転写阻害剤の配合錠をテストした第3相HIV/AIDSスイッチ試験二本で主目的を達成したと発表した。初めて治療を受ける患者を組入れた第3相も進行中で、成功なら承認申請に向かおう。

このMK-8591Aは、ヌクレオシド系逆転写酵素転移阻害剤MK-8591(islatravir)と18~20年に米欧日で承認された非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤Pifeltro(doravirine)の活性成分を各0.25mgと100mg配合したもので、HIV/AIDS治療では一般的な3剤以上の併用より1剤少なくなっている。スイッチ試験は他のレジメンでウイルス増殖を抑制できている患者を組入れて一日一回経口投与し、管理失敗(RNA量が50コピー/mL以上に増加)するリスクを一本は従来治療継続群と、もう一本はギリアドのBiktarvy(bictegravir、emtricitabine、tenofovir)と、比較したところ、どちらも非劣性解析が成功した。Biktarvy対照試験は優越性解析も行われたがフェールした。安全性主評価項目(有害事象発生率と有害事象投与打切り率)も達成した。

islatravirは大類洋博士らがヤマサ醤油および、世界初の抗HIV/AIDS薬zidovudineを発見した満屋裕明国立国際医療研究センター研究所長と共同で研究開発したファースト・イン・クラスの開発品。別の非ヌクレオシド系逆転写阻害剤開発品と併用した試験でリンパ球やCD4陽性T細胞の減少が見られためMK-8591Aの臨床試験も一次、停止されたが、主犯は併用薬だった模様で、islatravirの用量(中止された試験では週一回20mg)を減らしてMK-8591Aの第3相を再開した経緯がある。

リンク: MSDのプレスリリース


Omeros、TA-TMA治療薬を再承認申請へ
(2024年12月19日発表)

米国ワシントン州シアトルの医薬品開発会社Omeros(Nasdaq:OMER)は、OMS721(narsoplimab)の自然歴対照試験が良好な結果となったことを発表した。TA-TMA(造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症)における治療効果を検討した第3相単群試験の生存期間解析と、患者レジストリーから抽出した100例以上の類似患者データを比較したところ、ハザードレシオ0.32(95%信頼区間0.23-0.44)、p<0.00001だった。EAP(FDAの認可の元に承認前の開発品を患者に供給するプログラム)のデータでも同様な研究を行って、FDAに再承認申請する考え。

OMS721は補体系が活性化する経路の一つであるレクチン経路に介入する、抗MASP-2抗体。20年に承認申請したが、治療効果が確立していないとして審査完了通知を受領、再試験を促された。公式紛争調停手続きを経て、全生存期間の自然歴対照研究などを実施して追加提出することを決めた。

同種幹細胞移植は欧米で年3万件実施されるが、TA-TMAの発生率は4割と推定され、重症例は死亡リスクが高い。承認されている治療薬はないので新薬のニーズは高い。

リンク: 同社のプレスリリース


抗IGF-1R抗体の二本目の甲状腺眼症試験が成功
(2024年12月16日発表)

米国マサチューセッツ州の医薬品開発会社、Viridian Therapeutics(Nasdaq:VRDN)は、VRDN-001(veligrotug)の二本目の第3相試験、THRIVE-2で主目的を達成したと発表した。慢性甲状腺眼症の患者188人を10mg/kgを3週毎点滴静注する群と偽薬群に2対1割付けして15週治療し、眼球突出応答率(突出が2mm以上減少し反対側の目は2mmg以上増加しなかった患者の比率)を比較したところ、各群56%と8%となり大きな差があった。突出減少幅や複視解消率などの解析も成功した。

活性期甲状腺眼症113人を組入れたTHRIVE試験でも眼球突出応答率が70%対5%と大きな差を実現しており、25年下期に承認申請する考え。

米日で承認されている類薬であるHorizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)のTepezza(teprotumumab)は聴力低下が警告・事前注意事項となっている。臨床試験では聴力障害の発生率が10%と偽薬群の0%を上回った。VRDN-001はリスクが小さいことが期待されているが、今回の試験における発生率は12.8%(偽薬群3.2%)、THRIVE試験では16%(同10.5%)と、大きく変わるようには見えない。尤も、偽薬群の発生率がかなり違うので定義が異なる可能性があり、比較すべきではないのかもしれない。

Viridianは、結合部位が同じで半減期を延長した皮下注用のVRDN-003も第3相試験中で、26年上期に成否判明する予定。8週毎または4週毎と投与頻度も低く、オートインジェクターも用意されるので、Tepezzaとの戦いはこちらが担うことになりそうだ。

リンク: Viridian社のプレスリリース


MSD、TIGHTとLAG-3の抗体の開発を中止
(2024年12月16日発表)

MSDは抗TIGHT抗体MK-7684(vibostolimab)と抗LAG-3抗体MK-4280(favezelimab)の開発中止を発表した。どちらもKeytruda(pembrolizumab)との配合剤を用いて第3相試験中だが、前者は進展型小細胞性肺癌一次治療試験と黒色腫術後アジュバント試験に続き、非小細胞性肺癌の一次治療試験二本が中間解析で無益認定され、進行中の同時化学放射線療法併用試験も総合的な判断により中止を決定した。後者は9月に転移結腸癌試験がフェールし、古典的ホジキン型リンパ腫試験の組入れを総合的判断により中止決定した。既に組入れられた被験者は望めば継続投与を受けることができる。

PD-(L)1標的薬の爆発的な成功を受けて、シナジーが期待できるTIGHTやLAG-3標的薬の開発が多くの会社で進められたが、BMSの抗LAG-3抗体relatlimab-rmbwなどを除いて、成功より失敗が目立っている。MK-7684の場合は有害事象による投与中止が比較的多かった模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース


GSKの抗PD-1抗体も卵巣癌一次治療試験で延命できず
(2024年12月20日発表)

GSKは進行卵巣癌の一次治療に抗PD-1抗体Jemperli(dostarlimab-gxly)を追加する便益を検討した第3相試験で主目的のPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。偽薬追加群比で統計的に有意に上回ったが、同社がしばしば言及する、『臨床的に意味のある』という形容は記されていない。全生存期間の解析はフェールしており、100点満点とは言えなそうだ。数値は未発表。

この、GSKとフランスの研究者共同治験組織であるGINECOが実施したFIRST-ENGOT-OV44試験は、carboplatinとpaclitaxelによる導入療法と同社のPARP阻害剤Zejula(niraparib)による維持療法の両方にJemperliを追加する群を偽薬追加群を比較した。尚、当初はZejulaと偽薬を比較するための群も設定されたが期中に適応拡大したため打ち切られた。ZejulaはBRCAなどの特徴的な変異を持たない卵巣癌にも承認されているが、エビデンスとなる試験でPFSを達成したものの全生存期間はフェールした。この試験が全群、続行していれば、違った答えが出たかもしれないので、残念だ。

卵巣癌は抗PD-(L)1抗体の苦手分野だ。今月、MSDも、BRCA変異の無い進行卵巣癌の一次治療化学療法試験で、PFSは達成したが全生存期間の解析はフェールしたことを公表している。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認申請】


イムブルビカを欧州でMCL一次治療に適応拡大申請
(2024年12月18日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、傘下のJanssen-Cilag InternationalがEUにBTK阻害剤Imbruvica(ibrutinib)の二種変更を申請したと発表した。自家幹細胞移植が適応になる成人の未治療マントル細胞腫における標準的導入療法であるR-CHOPに追加し、自家幹細胞移植(ASCT)に進んだか否かを問わず、維持療法としても2年間単剤投与するもの。Imbruvicaは慢性リンパ性白血病などに承認されており、マントル細胞腫ではEUで再発難治治療に、日本では限定なしに、承認されている。

今回のエビデンスはEuropean MCL NetworkのTRIANGLE試験。18-65歳の870人をR-CHOPまたはR-DHAPによる導入療法後にASCTを施行するA群、これにImbrubicaを追加するA+I群、Imbrubicaを追加しASCTは施行しないI群に無作為化割付けして転帰を比較したもの。分かりやすい指標である3年生存率を見ると、各群86%、91%、92%となっている。主評価項目(フェールなく生存した期間)の解析も似たような結果で、A+I群がA群を上回るという仮説が立証されると共に、A群がI群を上回るという仮説は立証されなかった(むしろI群のほうが数値は良い)。

G3以上の有害事象発生率はA+I群がかなり上回っている。

ASCTをオミットできる選択肢が生まれそうだ。今年のASH(米国血液学会)でも、米国で実施されたやや異なった試験でASCTを割愛できる可能性が示された。ECOG-ACRIN EA4151試験で最初の導入療法によりMRD(微小残存病変)が10のマイナス5乗レベルで陰性となった18~70歳のマントル細胞腫患者500人余をASCT施行後にrituximabによる3年間の維持療法を行う群とrituximab維持療法だけを行う群に無作為化割付けして全生存期間を比較したところ、第3次中間解析で無益水準に達した。intent-to-treatベースのハザードレシオは1.11、3年生存率は82.1%と82.7%、治療を受ける前に離脱した患者を除外した解析でも各1.00、86.2%、84.8%だった。尚、この試験は導入でも維持でもBTK阻害剤はほとんど使われなかった。

抄録(Fenskeら、LBA-6)を読む限りでは非劣性試験では無さそうだし、ASCT群は維持療法開始時期が遅れるだろうからその影響もあるかもしれず、何れにせよ特定の条件下だけに当てはまる話だが、治療成果に応じて選択肢が生まれるのは良いことだ。

リンク: JNJのプレスリリース


MSD、抗RSV抗体を承認申請
(2024年12月17日発表)

MSDはMK-1654(clesrovimab)を0歳児のRSV感染症予防薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は25年6月10日なので、順調なら秋には投与が始まることになる。

RSウイルスのF蛋白に結合するIgG1型抗体。H鎖の一部置換により半減期を延長、シーズンに一回の筋注で足りるようにした。最初のRSVシーズンを迎える健康な早産児や正期産児を組入れた試験では、150日間のRSVによる下部気道感染症受診が偽薬比60%減少した。重度のものに関しては91%減。RSV感染すると重症化するリスクのある最初のRSVシーズンを迎える乳幼児を組入れた試験では、安全性がアストラゼネカの月一回投与型類薬、palivizumabと同程度で、RSV関連株気道感染症受診も同程度だった。尚、アストラゼネカが開発しサノフィが販売しているBeyfortus(nirsevimab-alip)はシーズンに一回の筋注で足りるので、現実の医療では競争相手になる。筆者も付き添ったことがあるが、風邪の患者も多い待合室で月一回とは言え長時間過ごすのは決して良い気分ではない。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Zealand社のGLP-2作用剤は承認されず
(2024年12月19日発表)

デンマークのZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)は米国でZP 1848(glepaglutide)を非経口栄養補給を受けている短腸症候群の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。市販を予定する用量に関するエビデンス不足を指摘されたため、二本目の第3相を実施して再申請する考え。欧州は予定通り25年に、他の地域は二本目の成功後に、申請する予定。

長期作用性GLP-2作用剤で既存類薬である武田薬品のGattex(teduglutide)が一日一回皮下注であるのに対して、第3相では10mg週一回と同週二回の皮下注をテストした。後者は非経口栄養量が偽薬比有意に減少したが前者は若干多く減った程度だった。当然、10mg週二回を承認申請したものと思っていたが、今回の発表を見ると、違うのかもしれない。

リンク: Zealandのプレスリリース(GlobeNewswire)


皮下注用amivantamabの承認はお預け
(2024年12月16日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗EGFRxMET二重特異性抗体amivantamabの皮下注用新製剤を欧米で承認申請しているが、米国は審査完了通知を受領した。製造施設の承認前査察で指摘事項があったため。

最近よくある遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼと組み合わせた製品。EGFRにエクソン19欠損またはL858R置換を持つ局所進行/転移性非小細胞性肺癌を組入れてlazertinib併用時の作用を静注用と比較した第3相PALOMA-3試験で、ORR(客観的反応率)と薬物動態が非劣性、注射箇所反応の発生率は5分の1だった。

リンク: 同社のプレスリリース


オンデキサの本承認切替は成らず

アストラゼネカのAndexXa(inactivated-zhzo)はXa阻害剤を服用している患者が事故や手術などの理由で作用を止めなければならない時の解毒剤として米欧日で承認されている。米欧は加速承認/条件付き承認なので市販後に追加試験で臨床的便益などを確認する必要があり、順調なら本承認に切り替わる見込みだったが、一部報道によると、今回、FDAは本承認切替を認めなかったようだ(アストラゼネカは審査完了通知を受領したと発表していないが、メディアの照会に回答した)。

脳内出血を発症した、apixabanまたはrivaroxabanを服用している患者を組入れたANNEXA-1試験で止血奏効率が67%と通常医療群の53%を上回ったが、11月の諮問委員会資料によると、虚血性脳卒中などの血栓性イベントが増加し、血栓関連死亡率も2.5%と対照群の0.9%を上回った。

【承認】


アレモが米国でも承認
(2024年12月20日発表)

FDAはノボ ノルディスクのAlhemo(concizumab-mtci)を12歳以上のインヒビターを持つA型またはB型血友病のルーチン出血予防薬として承認した。一日一回、皮下注する。臨床試験では年率出血リスが投与しなかった群と比べて86%低下した。有害事象は注射箇所反応や蕁麻疹など。血栓リスクが高まる。

血友病は欠乏する凝固因子の補充療法が有効だが、A型血友病の3割、B型の1割前後で抗体が生じ、無効になる。Alhemoは体内のTFPI(組織因子経路インヒビター)をブロックする抗体で、TFPIが血液凝固第X因子の活性化を妨げるのを防ぐ。日本では23年に承認、今年6月にはインヒビターを持たない患者にも使用が認められた。欧州では10月にCHMPが肯定的意見を纏めた。

リンク: FDAのプレスリリース


対象患者数が多い嚢胞性線維症用薬が承認
(2024年12月20日発表)

米国のVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、FDAがAlyftrek(通称vanza triple、vanzacaftor、tezacaftor、deutivacaftorの合剤)を6歳以上のこの薬に応答する変異を一つ以上保有する嚢胞性線維症の治療薬として承認したと発表した。同社は嚢胞性線維症財団の支援を受けて多くの嚢胞性線維症用薬を開発発売してきた。Alyftrekは5年前に承認されたTrikafta(elexacaftor、tezacaftor 、ivacaftorの合剤)と効果は大差ないが、適応になる変異が多いため米国の対象患者数が推定150人増え、一日二回ではなく一回の経口投与で足り、脂肪接種に制約がない。また、他社に支払う売上ロイヤルティ率が既存製品より低い模様。

リンク: 同社のプレスリリース


ビラフトビがBRAF-V600E変異大腸癌の一次治療に適応拡大
(2024年12月20日発表)

FDAはファイザーの子会社であるArray BioPharmaのBraftovi(encorafenib)をBRAF-V600E変異のある転移結腸直腸癌の一次治療に用いることを加速承認した。抗EGFR抗体cetuximab及びmFLOFOXレジメンと併用で、75mgカプセル4個を一日一回、経口投与する。エビデンスとなるBREAKWATER試験の中間解析でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が61%、メジアン反応持続期間が13.9ヶ月となり、cetuximab・mFOLFOX6併用などの標準療法を施行した群の40%、11.1ヶ月を上回った。有害事象は末梢神経症や悪心嘔吐など。リパーゼ上昇や好中球減少も見られた。

試験は続行中で、市販後コミットメントとして、メーカー側はPFSや全生存期間の解析を行って提出する必要がある。

Braftoviは同社のMEK阻害剤Mektovi(binimetinib)と併用でBRAF-V600変異を持つ切除不能/転移黒色腫などに用いることが米欧日で承認されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース


FDAはGIP/GLP-1作用剤を閉塞性睡眠時無呼吸に承認
(2024年12月20日発表)

FDAはイーライリリーのGIP/GLP-1作用剤Zepbound(tirzepatide)の適応を成人の肥満患者における中重度閉塞性睡眠時無呼吸に拡大した。カロリー制限や身体運動増加と併用する。標準的治療法であるPAP(気道陽圧療法)を使用している患者としていない患者を組入れたそれぞれの試験でAHI(無呼吸低呼吸指数)が偽薬比大きく減少した。GLP-1作用剤は適応外用途も含めて人気があるためか、FDAのプレスリリースは、便益について16行解説した後、副作用の説明に22行を割いている。

EUではCHMPが、肥満症は既承認用途なので適応拡大は認めないという意見を纏め、治験成績をレーベルに記載するだけに留めるよう求めた。エビデンスとなる試験は肥満症を併発する患者だけを対象にしており、そもそも閉塞性睡眠時無呼吸患者の過半が肥満と言われているので、適応拡大というよりは効能追加と呼ぶ方がしっくり来る。勿論、FDAもCHMPもしっくりと来るかどうかではなく法令に則り判断したのだろうか。

リンク: FDAのプレスリリース


初の家族性カイロミクロン血症候群用薬が承認
(2024年12月19日発表)

FDAはIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)のTryngolza(olezarsen)を家族性カイロミクロン血症候群(FCS)治療薬として承認した。トリグリセライド(TG)の代謝を抑制する、ApoC-IIIの発現を妨げるアンチセンス薬。低脂肪食とともに、80mgを月一回皮下注する。第3相試験では空腹時TG値(ベースライン平均は2630mg/dL)が半年後に偽薬比42.5%低下した。低脂肪食を励行した症例では深刻な合併症である激性膵炎の発生が減少した。主な有害事象は過敏反応などの注射箇所反応や血小板減少など。報道によると、価格は年59.5万ドルで設定される。

同社は欧州などで類薬のWaylivra(volanesorsen)を販売しているが、米国でFCS用薬が承認されたのは他社も含めて初。GalNAc結合技術を採用し、Waylivraより低量、低頻度の投与を実現した。

リンク: FDAのプレスリリース


ALK阻害剤が承認
(2024年12月18日発表)

FDAはXcovery HoldingsのEnsacove(ensartinib)を成人のALK陽性局所進行/転移非小細胞性肺癌用薬として承認した。他のALK阻害剤による治療歴を持たない患者が適応になる。第3相の一次治療試験で、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が25.8ヶ月と、実薬であるcrizotinibを投与した群の12.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.56だった。全生存期間のハザードレシオは0.88だったがp=0.45で有意には成らなかった。有害事象はラッシュ、筋骨格痛、便秘など。

中国では親会社のBetta Pharmaceuticals(貝達薬業)が20年に承認取得している。

リンク: FDAのプレスリリース


テムセルが米国で粘り勝ち承認
(2024年12月18日発表)

FDAはMesoblast(ASX:MSB、Nasdaq:MESO)のRyoncil(remestemcel-L-rknd)を2ヶ月児以上の小児のステロイド抵抗性急性移植片対宿主病(SR-aGVHD)用薬として承認した。承認申請から足掛け4年、日本でJCRファーマがテムセル名で承認を得てから9年を経たが、FDAが要請した追加試験が実現しないまま、承認に至った。

他家間葉系幹細胞を医薬品化したもの。54人の単群試験で28日反応率が70%、うち完全反応は30%、部分反応41%だった。メジアン反応持続期間は54日。有害事象は感染症など。これらの数値は6年前に第3相成績が発表された時の数値と大差ない。

リンク: FDAのプレスリリース


ブイタマーが米国でもアトピーに承認
(2024年12月16日発表)

オルガノンはFDAがVtama(tapinarof)を2歳以上のアトピー性皮膚炎に適応拡大を認めたと発表した。アリル炭化水素受容体モジュレーターのクリーム製剤で一日一回、患部に薄く塗布する。審査期間中に長期延長試験のデータを提出したため審査期間が3ヶ月延長されたが、結局、元々の審査期限の数日遅れで承認された。22年に尋常性乾癬治療薬として承認されている。今回も、枠付き警告や警告・事前注意が無いクリーンなレーベルになっている。

日本ではライセンシーの日本たばこが6月に両適応症で承認を取得した。

リンク: オルガノンのプレスリリース


抗IL-31RA抗体がアトピーに適応拡大
(2024年12月14日発表)

ガルデルマはFDAがNemluvio(nemolizumab-ilto)を12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎に適応拡大したと発表した。局所性処方薬に十分応答しない患者に、局所性コルチコステロイド且つ又カルシニューリン阻害剤と併用する。8月に承認された結節性掻痒と一緒に申請されたが、優先審査ではないために今になった。

中外製薬からライセンスしたIL-31受容体アルファに結合する抗体医薬。日本ではマルホがライセンス、ミチーガ名で22年にアトピー用薬として、今年3月には結節性掻痒にも、承認取得した。

リンク: ガルデルマのプレスリリース

【医薬品の安全性】


デンマーク薬品庁、EMAにセマグルチドのNAIONリスク評価を要請
(2024年12月16日発表)

デンマーク薬品庁はEMAのPRAC(医薬品リスク評価委員会)にGLP-1作用剤semaglutideのNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)リスクを評価するよう要請すると発表した。南デンマーク大学が実施した疫学研究二本でsemaglutideによる治療を受けている糖尿病患者のリスク上昇が見られ、一本ではハザード比が2.81だった。薬品庁が調査したところ、7月から12月10日までに19件の有害事象が報告された。

semaglutideはハーバード大学のコフォート研究でも二型糖尿病患者におけるハザード比が4.28、肥満症患者では7.64だった。

NAIONの罹患率は低く、semaglutide群でも10000人に2人程度のようだ。

リンク: デンマーク薬品庁のプレスリリース


FDA、アステラスのVMS用薬の肝毒性を枠付き警告
(2024年12月16日発表)

FDAはアステラス製薬のVeozah(fezolinetant)の肝臓副作用警告を枠付き警告に格上げした。閉経に伴う中重度血管運動神経症状の治療薬として米欧で承認されているが、市販後も肝臓副作用例が報告されているため。内容は従来とほぼ同じで、処方開始前や初年度は所定のタイミングで肝機能検査を行い、閾値以上なら水準によって投与を中止、または検査頻度を上げる。

肝機能検査値を元に肝障害のリスクを評価する方法としてはHyの法則が有名だが、Veozahの例を見ると、アミノトランスフェラーゼと総ビリルビンのどちらかだけでも大きく上昇した場合は対処が必要なようだ。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)
諮問委員会
25/1/10AADPAC:生化学工業のSI-6603(腰椎椎間板ヘルニアに伴う根性痛)



今週は以上です。

2024年12月16日

第1185回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 早期ハンチントン病の遺伝子療法に加速承認の筋道 
  • FDA、抗SARS-CoV-2抗体6品のEUAを取消し 
  • SABCS:イブランスはHR+her2+MBCの維持療法にも有効 
  • 治療抵抗性糖尿病の2割強がクッシング症候群だった 
  • SABCS:リリー、新規SERDの第3相が成功 
  • PPARガンマ作動剤の小児cALD試験が成功 
  • 限局性前立腺癌のウイルス療法が成功 
  • アッヴィ、パーキンソン病薬の3本目の第3相も成功 
  • キイトルーダとリムパーザの併用試験、今度は成功した? 
  • ASH:サークリサの移植可能骨髄腫試験が成功 
  • ASH:ジャイパーカのCLL/SLL試験が成功 
  • ASH:ビーリンサイトのB-ALL一次治療併用試験が成功 
  • テコビリマトのエムポックス試験がまたフェール 
  • 爪真菌症薬の第3相がフェール 
  • Crinetics社、先端巨大症用薬の承認申請が受理 
  • GSK、ヌーカラを好中球性COPDに再申請 
  • アルファ/ベータ・サラセミア用薬を承認申請 
  • 12月のCHMP意見 
  • 新規抗PD-L1抗体が承認 
  • 先天性副腎過形成用薬が承認 
  • FDA、オベチコール酸の肝移植リスクを警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】



早期ハンチントン病の遺伝子療法に加速承認の筋道
(2024年12月10日発表)

アムステルダム大学発ベンチャーのuniQure biopharma(Nasdaq:QURE)は、AMT-130の加速承認申請計画に関してFDAと合意したと発表した。進行中の第1/2相試験のcUHDRS(複合的統合ハンチントン病評価尺度)の自然歴比較を中間的エビデンス、CSF-NfL(脳脊髄液ニューロフィラメント軽鎖)を支持的エビデンスとするもので、25年上期に解析計画やCMC(化学、製造、管理)についても相談する考え。

AMT-130は、変異したハンチントン遺伝子を沈黙させるマイクロRNAをアデノ随伴ウイルス・ベクターで送り込む遺伝子療法。MRIで分布を確認しながら尾状核や被殻に持続陽圧下投与する。欧米で合計39人を組入れた二本の第1/2相試験の24ヶ月中間解析で、高用量群のcUHDRS低下が0.2に留まり、自然歴154人の傾向加重値である1.0比p=0.007だった。低用量群は0.7でp=0.21。高用量群は運動認知機能もベースラインに近い水準で推移した。

同社は途中経過を適宜、公表しているが、CSF-NfLが当初は増加する現象が公表されたり、高用量群で予期されていなかった重度有害事象疑い例が発生し組入れを一時的に停止したり、不確かな現象も散発した。今回のリリースは承認申請時期について言及していないが、申請が近づけば、薬効や安全性の全体像が明らかになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA、抗SARS-CoV-2抗体6製品のEUAを取消し
(2024年12月13日発表)

FDAは、COVID-19用薬としてEUA(非常時使用認可)した抗SARS-CoV-2抗体6製品の認可を取消した。政権交代でCOVID-19用薬の効用に懐疑的な医学者がFDA長官に就任する予定であるため、ではなく、流通ロットの有効期間満了を期にメーカー側が取消しを申請したため。現在流行しているウイルスには効かないため、医療の妨げにはならないだろう。製薬会社の皆様、ご苦労様でした。

EUA取消となったのは、Regeneron PharmaceuticalsのREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、EUAは20年11月)、Janssen Biotechのbamlanivimabとetesevimabの併用(同21年2月)、GSKのXevudy(sotrovimab、同21年5月)、アストラゼネカのEvusheld(tixagevimab、cilgavimab、同21年12月)、イーライリリーのbebtelovimab(22年10月EUA)。

リンク: EUA取消となった製品に関するFDAの情報サイト

【新薬開発】


SABCS:イブランスはHR+her2+MBCの維持療法にも有効
(2024年12月12日発表)

ファイザーのCDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib)を転移性乳癌一次治療後維持療法に併用した試験の結果がサン・アントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)で発表された。

このPATINA/AFT-38試験は、米国の共同治験グループ三団体が合併して創設した、NCI(米国癌研究所)が資金援助する共同治験グループ、Alliance for Clinical Trials in Oncologyの傘下のAlliance Foundation Trialsがスポンサーとなって、ホルモン受容体陽性(HR+)、her2陽性(her2+)の転移性乳癌で一次治療後に進行しなくなった患者518人を組入れて、内分泌療法とtrastuzumab(pertuzumab併用可)の標準的維持療法にIbranceを追加する便益を非盲検下で検討したもの。

主評価項目のPFS(無進行生存期間、治験医評価)はハザードレシオが0.74、非階層化片側p値は0.0074となり、メジアン値は44.3ヶ月対29.1ヶ月で1年以上の差があった。全生存期間の解析は未成熟で、5年生存率は74.3%対69.8%と良好だが有意水準には達していない。有害事象は好中球減少症がG3は各群63.2%対32.0%、G4は4.6%対0%と多く、G3疲労や口内炎、下痢も増加した。

乳癌の薬物臨床試験は、HR+かつher2-か、her2+かつHR-を対象とすることが多いが、HR+かつher2+も1割程度を占めるとのこと。見過ごされてきたサブグループ専用の試験が成功した意義は大きそうだ。her2+専用薬のほうでもher2低発現とか極低発現とかカテゴリー・キラー的な薬が出現しており、新たなフロンティアになっている。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: MetzgerらのSABCS抄録(pdfファイル)


治療抵抗性糖尿病の2割強がクッシング症候群だった
(2024年12月12日発表)

Corcept Therapeutics(Nasdaq:CORT)はKorlym(mifepristone)の第4相CATALYST試験で主目的を達成したと発表した。治療抵抗性二型糖尿病とクッシング症候群を合併する患者を組入れて24週間治療したところ、HbA1cが1.47%低下し、偽薬群の0.15%低下と大きな差があった。2012年に米国で、まさにこの用途・効能で承認された薬なので全く驚きではないが、興味深いのはスクリーニング時のデータだ。治療してもHbA1cが7.5%を上回る患者1057人の副腎皮質ホルモンを検査したところ、23%が過剰と判定された。このことは、治療で十分な成果が上がらなかったらクッシング症候群を疑った方がよいかもしれないことを示唆している。

Korlymはグルココルチコイド受容体タイプII拮抗剤。300mg錠。活性成分の200mg錠は薬物的妊娠中術薬として他社製品がフランスで1980年代に、米国でも2000年に、承認され、GE薬も発売されている。

尚、同社は11日にCORT-113176(dazucorilant)の第2相筋萎縮性側索硬化症試験がフェールしたことも発表した。150mgまたは300mgを24週間、経口投与したが、ALSFRS-R(機能評価尺度)は偽薬と大差なかった。一方で、偽薬群は82人中5人が死去したが300mg群は83人中ゼロだった(p=0.02)。継続追跡して25年3月を目標に死亡リスクの解析を行う予定。

リンク: 同社のプレスリリース(クッシング症候群)
リンク: 同(ALS、12/11付)


SABCS:リリー、新規SERDの第3相が成功
(2024年12月11日発表)

イーライリリーのLY3484356(imlunestrant)の第3相EMBER-3試験における成績がSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)とNew England of Journal誌で発表された。アロマターゼ阻害剤(±CDK4/6阻害剤)による治療歴を持つエストロゲン受容体陽性、her2陰性の進行乳癌患者874人を単剤投与群(以下、モノ)、標準的内分泌療法群(SOC)、imlunestrantとCDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)の併用群(併用)に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間、治験医評価)を比較したもので、共同主評価項目のうち、ESR1変異癌(256人)におけるモノとSOCの比較は、ハザードレシオ0.62で統計的に有意、各群のメジアン値は5.5ヶ月と3.8ヶ月だった。intent-to-treatにおける併用とモノの比較はハザードレシオ0.57で有意、メジアンは9.4ヶ月対5.5ヶ月だった。一方、intent-to-treatベースのモノとSOCの比較は0.87、5.6ヶ月対5.5ヶ月となりフェールした。

副次的評価項目の全生存期間は未成熟。G3以上の有害事象発生率はモノが17.1%、SOC群20.7%、併用群は48.6%だった。

試験薬は経口中枢神経浸透性SERD(選択的エストロゲン受容体零落剤)。既存薬に抵抗性を持つESR1変異にも活性を持つ。第3相もESR1変異陽性癌には単剤だけでも有効という結果になったが、陰性癌にはVerzenioを併用したほうが良さそうだ。但し、陽性癌にも併用は有効だろうし、陰性癌はVerzenioだけでは足りないのか、という疑問が残る。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Jhaveriらの治験論文抄録(NEJM)


PPARガンマ作動剤の小児cALD試験が成功
(2024年12月11日発表)

スペインのMinoryx Therapeuticsは、MIN-102(leriglitazone)の小児cALD(脳副腎白質ジストロフィー)試験、NEXUSで主目的を達成したと発表した。解析対象20人のうち35%が、96週時点(造血幹細胞移植に進んだ場合は施術前)で臨床的/放射線学的に進行抑制(arrested disease)と評価された。自然歴対照群は10%に留まった。治療関連深刻有害事象や治験関連有害事象による治験離脱は発生しなかった。25年央に欧州で小児と成人のcALD用薬として再申請する考え。

X染色体性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)は、中枢神経系における脱髄や神経細胞変性 、副腎機能不全を特徴とするX染色体性遺伝病で、男性が重症化する。10万出生に6-8人の希少疾患。cALDは重篤で平均寿命3-4年と言われる。MIN-102は中枢神経浸透性PPARガンマ作動剤。X-ALDのもう一つの表現型であるAMNを組入れて96週間投与した第2/3相試験で主評価項目の6分歩行テストがフェールした。サブグループ向けに22年にEUで承認申請されたが、途中で目標適応症を変えた模様で、CHMPがcALD用途で否定的意見を出した。

米州では第3相CALYX試験で死亡、寝たきり、または永続的呼吸補助に進展するリスクを偽薬と比較している。26年に結果が出る見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


限局性前立腺癌のウイルス療法が成功
(2024年12月11日発表)

米国のCandel Therapeutics(Nasdaq:CADL)は、CAN-2409(aglatimagene besadenovec)の第3相新患限局性前立腺癌試験で主目的を達成したと発表した。中重度リスクの患者745人を組入れて放射線療法にvalacyclovirと共に追加して投与し、メジアン50ヶ月追跡したところ、DFS(無病生存期間:生存、再発なし、かつ放射線療法の2年後に実施する生検で陰性)のハザードレシオが0.7、p=0.0155だった。癌以外の理由による死亡を除外するとハザードレシオ0.6、p=0.0046と更に向上する。報道によると、26年の承認申請を考えている模様。

CAN-2409は、ヘルペス治療薬valacyclovirの毒性を強化する単純ヘルペス・ウイルス・チミジン・キナーゼの遺伝子を複製不能アデノウイルスに組入れて、癌細胞に注入する。valacyclovirが癌細胞のDNA合成/修復を阻害し、ウイルス・カプシドが免疫応答を惹起するなどの作用機序が提唱されている。

リンク: 同社のプレスリリース


アッヴィ、パーキンソン病薬の3本目の第3相も成功
(2024年12月9日発表)

アッヴィはtavapadonの第3相TEMPO-2早期パーキンソン病試験が成功したと発表した。他の二本がすでに成功しており、25年に承認申請する考え。

8月に買収したCerevel TherapeuticsがファイザーのドパミンD1/D5選択的部分作動剤、PF-06649751をライセンスして第3相に進めたもの。今回の試験では、効果や忍容性に応じて5~15mgの間で用量を調節するフレックス法を採用し、一日一回、26週間投与し、MDS-UPDRSのパートII(運動症状の患者評価)とパートIII(同、医師評価)の複合評価尺度の改善を偽薬と比較した。各群10.3点と1.2点改善し、有意な差があった。もう一本の早期パーキンソン病試験、TEMPO-1では5mgと15mgを偽薬と比較したところ、各9.7点低下、10.2点低下、1.8点上昇となり、両用量群とも偽薬比有意だった。

レボドパで治療しても運動症状の日中変動が見られる患者を組入れたアドオン試験、TEMPO-3では、5-15mgフレックス群のジスキネジアを伴わないオンタイム(パーキンソン症状のない時間)が1.7時間/日増加し、偽薬の0.6時間/日を有意に上回った。

同社は、既存のドパミン作動剤と比べて鎮静や衝動制御障害のリスクが小さいことを期待している。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダとリムパーザの併用試験、今度は成功した?
(2024年12月9日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)とアストラゼネカのPARP-1/2阻害剤Lynparza(olaparib) を卵巣上皮癌の化学療法に追加する便益を検討した第3相KEYLYNK-001試験で主目的のPFS(無進行生存期間、治験医評価)を達成したと発表した。化学療法と二剤を併用した群は化学療法・偽薬併用群と比べて統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。データは未発表。一方、副次的評価項目の全生存期間はフェールした。プレスリリースでは、intent-to-treatにおけるKeytrudaの役割は現時点では不確かなまま、という曖昧な表現をしている。

この試験は、BRCA変異の無い進行卵巣上皮癌の一次治療を受ける患者を組入れて、化学療法(5サイクル)に偽薬またはKeytrudaを追加し、Keytruda群は第7サイクルからLynparzaを追加する群と偽薬を追加する群に無作為化割付けした。主評価項目はCPS≧10サブグループと全体のPFS。プレスリリースには明記されていないが、おそらく、両方とも有意だったのだろう。intent-to-treatにおける便益が不確かというのは、CPS≧10サブグループの全生存期間は望ましい方向で推移しているが全体が良くなかった、というふうに聞こえるが、どうなのだろうか。

尚、Keytrudaと偽薬を追加した群の解析は未成熟のようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ASH:サークリサの移植可能骨髄腫試験が成功
(2024年12月9日発表)

サノフィの抗CD38抗体、Sarclisa(isatuximab-irfc)を新患移植可能多発骨髄腫の治療に用いた第3相GMMG-HD7試験の結果がASHとJournal of Clinical Oncologyで発表された。ドイツの施設で662人を組入れてRVdレジメン(Revlimid、Velcade、dexamethasoneの三剤併用)による移植前導入療法に追加したところ、追加しなかった群と比べたPFS(無進行生存期間)ハザードレシオが0.70、p=0.0184だった。メジアン約4年追跡したがPFSは未だメジアンに達していない。この試験では移植後の地固め療法としてRevlimidにSarclisaを追加する群とRevlimidだけの群に再無作為化割付けして転帰を比較したが、どちらの場合でも、導入療法におけるSarclisaの便益が見られた。但し、具体的な数値は記されていない。おそらく、別の論文で発表されるのだろう。

Sarclisaは新患移植可能多発骨髄腫の第3相IsKia試験でもMRD(微小残像病変、閾値10^-5)ベース反応率が77%と、Revlimid、Kyprolis、dexamethasoneだけの群の67%を有意に上回ったが、昨年のASHで結果発表された時点では、メジアン追跡期間が20ヶ月とそれほどでもなかったせいか、PFSは両群とも95%だった。

多発骨髄腫の治療は3剤、4剤併用が普及するにつれて、更に一剤追加する便益をPFSで確認するのに長期間かかるようになった。今後はMRD反応率のようなサロゲート・マーカーで承認の是非を判断し、PFSで確認する方法が一般的になりそうだ。

リンク: Maiらの治験論文(Journal of Clinical Oncology、オープン・アクセス)


ASH:ジャイパーカのCLL/SLL試験が成功
(2024年12月9日発表)

イーライリリーは非共有結合性BTK阻害剤Jaypirca(pirtobrutinib)の第3相BRUIN CLL-321試験の結果をASHで発表した。BTK阻害剤歴のあるCLL/SLL(慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫)の成人238人をJaypirca群と医師が選んだレジメン(Zydelig(idelalisib)またはbendamustinをrituximabと併用)に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を比較したところ、ハザードレシオ0.54(95%信頼区間0.39-0.75)、メジアン値は各群14.0ヶ月と8.7ヶ月だった。

副次的評価項目の全生存期間はハザードレシオが1.09だったが、クロスオーバー(偽薬群の患者が進行後にJaypircaによる治療を受ける)を修正すると手法により0.89または0.77となった。

クロスオーバー修正値が同程度以下なら大きな問題ではなく、承認された前例もある。但し、BTK阻害剤はPFS延長が必ずしも延命に繋がらないので、厳密な分析が必要だろう。

リンク: 同社のプレスリリース


ASH:ビーリンサイトのB-ALL一次治療併用試験が成功
(2024年12月7日発表)

アムジェンのBlincyto(blinatumomab)をB前駆細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の一次治療に用いた第3相AALL1731試験の成績がASHとNew England Journal of Medicine誌で発表された。NIH(米国立衛生研究所)などの資金拠出を得て米加豪新の施設で新患スタンダード・リスクB-ALLの小児を組入れて、標準的化学療法と、Blincytoを2サイクル追加するレジメンのDFS(無再発・二次性腫瘍生存期間)を比較したもので、第1次中間解析でデータ監視委員会が繰上げ完了を勧告した。

解析対象1440人(組入れ時のメジアン年齢4.3歳)の3年DFS率は96.0%、化学療法のみの群は87.9%、ハザードレシオは0.39(95%信頼区間0.24-0.64)だった。再発リスクがアベレージと評価されたサブグループでは各97.5%と90.2%、高リスクサブグループでは94.1%と84.8%だった。Blincytoを投与していた時期のサイトカイン放出症候群や敗血症は稀だった。アベレージ再発リスク・サブグループでは非致死的敗血症やカテーテル関連感染症が顕著に増加した。

尚、紛らわしいので整理すると、NCI(米国立癌研究所)のB-ALL予後予測分類は、年齢や白血球数などに基づきStandardとHighに分け、それぞれについて遺伝子変異特徴などに基づき、favorable、average、highに分類している。

Blincytoは抗CD19短鎖抗体と抗CD3短鎖抗体をポリペプチドで結合した二重特異性抗体。米欧日で難治/再発B-ALLなどに単剤投与することが承認されている。アムジェンのプレスリリースによると、NCIがFDAに結果を報告するとのこと。適応拡大申請はしないのだろうか?

リンク: Guptaらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: アムジェンのプレスリリース


テコビリマトのエムポックス試験がまたフェール
(2024年12月10日発表)

SIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)のTPOXX(tecovirimat)のエムポックスにおける便益を検討した第3相STOMP試験がフェールした。アメリカ中心に南米や日本、タイの施設が参加して、18歳以上でクレードII型エムポックスによる軽中度感染症の患者を組入れて病変治癒までの期間を偽薬と比較したが、データ安全性監視委員会が、75%組入れ時の中間解析結果に基づき、続行しても主目的を達成する確率は1%以下と判定、追加組入れ中止となった。副次的評価項目の疼痛改善もフェールした。

NIAID(米国立衛生研究所傘下のアレルギー・感染症研究所)のスポンサーで行われたもう一つの試験、第3相PALM 007試験も8月にフェールした。死亡率が比較的高いクレードI型が流行していたコンゴ民主共和国の施設で小児・成人患者を入院治療したが、病変治癒がメジアン7日と偽薬群より1日早いだけだった。

他にはカナダでPLATINUM-CAN試験、スイス南米でUNITY試験、EUでEPOXI試験が進行中だが、SIGA Technologiesは、内容が類似しているため同様な結果になりそうとプレスリリースに記している。

TPOXXは、非ヒト霊長類の薬効試験とヒトの安全性試験に基づいて、エムポックスよりも深刻な疾患である天然痘などの治療薬として18年に米国で承認され、22年にはEUで例外的条項に基づき天然痘、エムポックス、牛痘など、そして、天然痘ワクチン接種後のワクシニアウイルス増殖による合併症の治療薬として承認された。日本では日本バイオテクノファーマが申請し、今月、EUと同じような適応範囲で第2部会を通過したところだ。米国ではエムポックスには承認されていないが、CDC(米国立疾病管理予防センター)がexpanded access制度に基づき提供している。CDCは今回の発表を受けて対象を見直し、免疫低下、アトピーなどの持病、妊婦や未成年、命に係わる状態などに限定した。

エムポックスは天然痘より重症化リスクが低いため治療効果が発揮されないのかもしれないが、効かないというエビデンスがないから効くはずだ、とはバカボンのパパでも言わないだろう。米国のレーベルには、免疫低下患者はTPOXXの効果が低下すると記されている。カジュアルなデザインでも臨床試験で便益を確認する必要があるのではないか?

リンク: NIAIDのプレスリリース
リンク: SIGAのプレスリリース


爪真菌症薬の第3相がフェール
(2024年12月10日発表)

スウェーデンのMoberg Pharma AB(OMX:MOB)は、北米で実施されたMOB-015の第3相爪真菌症試験がフェールしたと発表した。同社は米国での開発を断念し、バイエルは戦略的理由で欧州における発売を断念しライセンスを返還した。

アリルアミン系抗真菌剤terbinafineの局所性新製剤で、EUの非中央手続きを経て加盟国のうち13ヶ国で承認を取得、今年2月にスウェーデンで発売し4割以上のシェアを獲得した。尚、EUの人口上位5ヶ国のうちドイツとポーランドでは承認されておらず(申請しなかったのかもしれない)、フランスやスペインなど6ヶ国では処方薬、イタリアやスウェーデンなど7ヶ国ではOTC薬として承認されている。

EUでは一日一回投与で承認されたが、北米試験は9週目からは週一回に減らす新スケジュールをテストした。第52週の足指爪完治率は1.5%に留まり、対照群の0%を有意に上回らなかった。

リンク: Moberg社のプレスリリース


【承認申請】


Crinetics社、先端巨大症用薬の承認申請が受理
(2024年12月9日発表)

米国カリフォルニア州の医薬品開発会社、Crinetics Pharmaceuticals(Nasdaq:CRNX)は、CRN00808(paltusotine)を成人の先端巨大症(アクロメガリー)の長期維持療法としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は25年9月25日。FDAは現時点で諮問委員会上程を考えていない。

非ペプチド系SST2(ソマトスタチン受容体2型)アゴニストで、一日一回、経口投与する。第3相のうち、注射用薬のoctreotideまたはlanreotideによる治療が奏功した(IGF-1値が通常値上限以下)患者を組入れたメンテナンス試験で83%が奏功を維持したが、偽薬にスイッチした群は4%に留まった。治療を受けていない患者を組入れた試験では奏効率が56%と偽薬群の5%を上回った。

日本は三和化学がライセンスした。

リンク: Crinetics社のプレスリリース


GSK、ヌーカラを好中球性COPDに再申請
(2024年12月9日発表)

GSKは2017年に米国で抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)を好中球性COPDに適応拡大申請したが、便益に関するエビデンスが確立していないとして審査完了通知を受領した。今回、第3相MATINEE試験のデータを追加提出し受理された。審査期限は25年5月7日。

MATINEEは既存薬に十分応答しない患者に追加投与した104週間の試験。統計的有意且つ臨床的に意味のある中重度増悪抑制効果が見られたとのこと。データは学会で発表される。

リンク: GSKのプレスリリース


アルファ/ベータ・サラセミア用薬を承認申請
(2024年12月8日発表)

米国マサチューセッツ州のAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はmitapivatを成人の輸血依存/非依存のアルファ/ベータ・サラセミアの治療薬として欧米などで承認申請したと発表した。22年に米欧でピルビン酸キナーゼ欠乏症患者の溶血性貧血治療薬Pyrukyndとして承認されたピルビン酸キナーゼRアロステリック・アクティベイターの新用途。輸血依存患者を組入れて100mgを一日二回経口投与した第3相では輸血削減奏効率が30.4%と偽薬群の12.6%を有意に上回った。非輸血依存患者を組入れた第3相ではヘモグロビン増加奏効率が42.3%と偽薬群の1.6%を有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


12月のCHMP意見
(2024年12月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

CSL BehringのAndembry(garadacimab)は抗XIIa抗体。カリキレン・キニン・カスケードを活性化する活性化XII因子のカタリティック・ドメインに結合し、遺伝性血管浮腫における発作傾向を抑制する、新規作用機序を持つ。12歳以上に月一回、皮下注する。米国でも1年前に承認申請が受理されたが、どうなったのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース

BridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)のBeyonttra(acoramidis、米国のブランド名はAttruby)はTTR安定化剤。成人のATTR-CM(心筋症を合併するトランスサイレチン型アミロイドーシス、トランスサイレチン変異の有無は問わない)に用いる。バイエルが欧州の販売権を保有。米国は11月に承認、日本はアストラゼネカの子会社がライセンスした。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのKavigale(sipavibart)は抗SARS-CoV-2抗体。12歳以上、体重40kg以上の免疫低下者のCOVID-19曝露前予防に用いる。現在流行しているKP.3などの株のほとんどはF456L変異を持っていて無効。日本では今月、第二部会を通過した。報道を読む限りでは免疫低下者限定ではないようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのKostaive(zapomeran)は、日本では昨年承認されたCOVID-19のmRNAレプリコン・ワクチン。抗原の雛形となるmRNAと、それを複製するRNAレプリカ―ゼを結合、先行するmRNAワクチンより少量で効果を発揮するようにした。18歳以上が対象。エビデンスはベトナムと日本の試験などである様子。

リンク: EMAのプレスリリース

ガルデルマのNemluvio(nemolizumab)は抗IL-31受容体アルファ抗体。12歳以上の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎と、成人の全身性治療が適応になる中重度結節性掻痒に用いる。日本ではマルホが22年にミチーガ名で前者の適応に承認取得、今年3月に後者に拡大した。オリジンは中外製薬。

リンク: EMAのプレスリリース

米国カリフォルニア州のGeronが申請したRytelo(imetelstat)はオリゴヌクレオチド・テロメラーゼ阻害剤。細胞分裂可能回数のカウントダウンを担うテロメアを補填して分裂回数を増やす、癌細胞や幹細胞などで発現する酵素を阻害する。成人の超低、低、中程度リスクのMDS(骨髄異形成症候群)における輸血依存性貧血の治療薬で、エリスロポイエチン系治療薬に応答不十分または不耐な患者に単剤投与する。5q欠失型は適応外。米国で6月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズのSeladelpar Gilead(seladelpar seladelpar lysine dihydrate)は経口PPARデルタ・アゴニスト。条件付き承認が支持された。成人の肝硬変を伴わない又は代償性肝硬変(Child-Pugh A)を伴う、原発性胆汁性胆管炎(掻痒を含む)の治療薬。ウルソデオキシコール酸に対して応答不十分な場合に追加投与、または、不応の場合に単剤投与する。米国では8月に承認。日本は科研製薬がライセンスした。オリジンはOrtho-McNeil(ジョンソン・エンド・ジョンソン)。ギリアドは2月にCymaBayを買収して入手した。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのWelireg(belzutifan)は経口HIF-2アルファ阻害剤。条件付き承認が支持された。成人のPD-(L)1阻害剤と二種類以上のVEGF標的薬を含む2次以上の治療後に進行した淡明細胞腎細胞腫と、成人の局所性治療(摘出、放射線療法など)が適さないフォン・ヒッペル・リンドウ疾患関連の局所性腎細胞腫、CNS血管芽腫、または膵神経内分泌腫瘍に、どちらも単剤投与する。米国では21年にLivdelzi名で初承認、日本でも申請中。19年にPeloton Therapeuticsを買収して入手した。

リンク: EMAのプレスリリース

Rare Thyroid Therapeutics International ABのEmcitate(tiratricol)は、生まれつきのMCT8(モノカルボン酸トランスポーター8)欠乏症(別名Allan-Herndon-Dudley症候群)を適応とする、初めての薬。MCT8欠乏症は超希少なX染色体性遺伝子疾患。最も重要な甲状腺ホルモンであるT3を脳細胞内に運ぶトランスポータが欠乏し、知能発達や運動機能に障害を示す。tiratricolはフランスでは1974年以来、甲状腺ホルモン抵抗性症候群やや分化甲状腺癌における甲状腺分泌ホルモン抑制剤として承認されているT3甲状腺ホルモン類縁体で、MCT8に頼らずに脳細胞内に移行することができる。臨床試験で血清T3濃度が63%低下し、全被験者で体重、心拍数、収縮期血圧のうち一つ以上が改善した。但し、神経発達遅延は改善しなかった。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応・用法追加も肯定的意見を受けた。

  • アムジェンのBlincyto(blinatumomab)・・・1ヶ月児以上のCD19陽性フィラデルフィア染色体陰性のB細胞性急性リンパ性白血病。米国では6月に承認。
  • GSKのJemperli(dostarlimab)・・・成人の全身性治療が適応になる原発性進行又は難治性内膜腫に対するcarboplatin・paclitaxel併用一次治療における、dMMR/MSI-H限定解除。米国では8月に承認。
  • イーライリリーのOmvoh(mirikizumab)・・・成人の中重度活性期クローン病(伝統的治療薬またはバイオ薬に応答不十分または不耐の場合)。

  • EMAは武田薬品がAlofisel(darvadstrocel)の承認返上を決定したことも公表した。同種異系脂肪由来の幹細胞療法で、18年に成人の非活動性または軽度活動性の管腔クローン病における複雑瘻孔の二次治療薬として承認されたが、グローバル第3相試験がフェールし、武田薬品は米国での承認申請を断念した。日本では22人の単群試験に基づき21年に承認された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    また、イーライリリーがMounjaro(tirzepatide)を閉塞性睡眠時無呼吸の治療に適応拡大申請したことに対して、承認はしないがレーベルに治験データを収載することには同意した旨、明らかにした。米州豪独中日などで実施された第3相SURMOUNT-OSA試験でAHI(無呼吸低呼吸指数)が偽薬比有意に減少したが、肥満を伴う患者を組入れたせいか、現行の適応範囲内と判定された。尚、米日と異なりEUでは二型糖尿病用も肥満用もブランド名はMounjaro。

    【承認】


    新規抗PD-L1抗体が承認
    (2024年12月13日発表)

    FDAはCheckpoint Therapeutics(Nasdaq:CKPT)のUnloxcyt(cosibelimab-ipdl)を成人の皮膚扁平上皮腫用薬として承認した。転移性、または、治癒的切除/放射線療法不適な局所性の場合に適応になる。前者は臨床試験ではORR(客観的反応率、独立中央評価)が47%、メジアン反応持続期間は未達、後者は各48%と17.7ヶ月だった。

    用法は1200mg3週毎投与となっているが、レーベル記載のように、臨床試験では800mgを3週毎投与した。レーベルによると、1200mgは活性成分換算では240mgとなる。良く分からない。

    Fortress(Nasdaq: FBIO)が2015年にDana-Farber Cancer Instituteからライセンスし、Checkpoint Therapeutics(Nasdaq:CKPT)を設立して開発したもの。抗PD-(L)1抗体の価格破壊を目指す考えを表明していたが、実現しただろうか。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: 同社のプレスリリース


    先天性副腎過形成用薬が承認
    (2024年12月13日発表)

    FDAはNeurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)のCrenessity(crinecerfont)を4歳以上の古典的CAH(先天性副腎過形成)用薬として承認した。CRF1(コルチコトルピン放出因子受容体1)拮抗剤で、第一選択薬であるグルココルチコイド(GCS)の用量抑制を可能にする。100mgを一日二回、経口投与する。一本の試験では血清アンドロステンジオン値の管理を損なわずにGCSの投与量を27%削減できた(偽薬群は10%)。もう一本では18%削減した(同6%)。警告事項は急性副腎不全/副腎クリーゼ(副腎不全患者でコルチゾール需要が高まった時にGCSが不足すると発症)や過敏反応など。Neurocrineは希少小児疾患優先審査バウチャを取得した。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    FDA、オベチコール酸の肝移植リスクを警告
    (2024年12月12日発表)

    FDAは、AlfasigmaグループのIntercept Pharmaceuticalsが販売する原発性胆汁性肝硬変治療薬、Ocaliva(obeticholic acid)に関するプレスリリースを発出した。16年に代理マーカー(ALP値)を改善する作用に基づき、ウルソデオキシコール酸による治療に十分応答しない、あるいは不耐な患者向けに加速承認されたが、非代償性肝硬変に進展した患者などで特に肝毒性が高いことが判明し、21年に禁忌が増えた。市販後のレーベル変更は見落とされ易いが、Ocalivaの場合も、その後に肝移植や順番待ち、肝臓関連死が20例ほどFDAに報告されている。

    市販後薬効確認試験がフェールしEUは条件付き承認を取消した。FDAは本承認切替を承認しなかったが仮承認自体は維持しているため、この試験の安全性データを継続評価したところ、現在の適応範囲に該当するサブグループでは試験薬群81人のうち7人が肝移植に至った。偽薬群は68人のうち1人で発生したが、移植の2年前に市販されているOcalivaの服用を開始していたので、純粋な偽薬例ではない。この8人に加えて、死亡者が各群4人と1人発生しており、死亡または肝移植のハザードレシオは4.77(95%信頼区間1.03-22.09)だった。

    FDAは肝機能検査の頻度を増やすよう勧告している。但し、現行のデータに基づくと、役に立つかどうか明らかではないと指摘している。

    リンク: FDAの安全性情報

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
    25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
    25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
    25/1/2Vertexのvanzaトリプル(vanzacaftor、tezacaftor、deutivacaftor、嚢胞性線維症)
    25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
    25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
    25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
    25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
    25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
    25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)




    今週は以上です。

    2024年12月7日

    第1184回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • DS-1062の申請データが明らかに 
    • ノバルティス、ファビハルタのスイッチ試験が成功 
    • 膀胱癌のウイルス療法試験が成功 
    • ゼップバウンドがガチンコで勝利 
    • Relmada社、抗鬱剤が第3相で3連敗 
    • イミフィンジを筋層浸潤膀胱癌に承認申請 
    • ロシュ、抗CD20/CD3抗体をより早期のDLBCLに承認申請 
    • イミフィンジが小細胞性肺癌に適応拡大 
    • Merus社のNRG1標的薬が承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    DS-1062の申請データが明らかに
    (2024年12月5日発表)

    第一三共はアストラゼネカと共同開発販売している抗TROP2抗体医薬複合体、DS-1062(datopotamab deruxtecan)を米欧日で承認申請中だが、適応範囲が若干異なる。ホルモン受容体陽性her2陰性乳癌は共通するが、欧州では成人の治療歴のある局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌にも申請している。米国でも両適応を求めたが、後者は申請後の全生存期間の解析で対照群のdocetaxelを有意に上回ることができず、結局、11月に申請撤回になってしまった。第一三共は、代わりに、成人の前治療歴(EGFR標的薬を含む)のある局所進行/転移非小細胞性肺癌という初耳の用途で加速承認申請したが、エビデンスとなるデータがESMO Asia 2024で公表された。

    第3相TROPION-Lung01の症例のうち、EGFR変異のある39例と、白金薬と分子標的薬による治療歴を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌を組入れた第2相TROPION-Lung05試験のうちEGFRのある78人のプール解析を行ったところ、cORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が42.7%(完全反応5人、部分反応45人)、メジアン反応持続期間は7.0ヶ月だった。メジアン生存期間は15.6ヶ月だが対照群が設定されていないので参考値。被験者はメジアンで3次治療歴を持ち、82%がアストラゼネカのEGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib)を一次治療や再発治療で経験していたが、このサブグループのデータもcORR44.8%、反応持続期間6.9ヶ月と同程度だった。

    グレード3以上の治療関連有害事象発生率は23%、特別関心有害事象(作用機序的に特にチェックすべき副作用)に設定された口内炎/口腔粘膜炎が69%で発生したがG3以上は9%だった。G3以上の査読薬物関連間質性肺疾患は発生しなかった。

    リンク: 両社のプレスリリース(Business Wire)
    リンク: ESMO Asia Congress 2024 - Conference Calendar(LBA7の箇所に抄録あり)


    ノバルティス、ファビハルタのスイッチ試験が成功
    (2024年12月6日発表)

    ノバルティスは経口可逆的B因子阻害剤Fabhalta(iptacopan)の後期第3相APPULSE-PNH試験がポジティブな結果になったと発表した。抗C5抗体(eculizumabまたはravulizumab)による治療を受けてヘモグロビン値が10g/dL以上に維持できている、赤血球輸血も受けなくてすんでいるPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)患者52人を欧米韓の施設で組入れて24週間投与した試験で、ヘモグロビン値が開始前より改善した。データは学会などで発表する考え。

    23~24年に米欧日でPNH用薬として承認された。エビデンスとなった第3相では一本は未治療患者、もう一本は先輩薬であるアレクシオン社の抗C5抗体、Soliris(eculizumab)またはUltomiris(ravulizumab)で治療してもヘモグロビン値が10g/dL以上に回復しない患者を対象とした。そのためか、日本では、抗C5抗体で十分な効果が得られない場合に限定されているが、米欧では限定されなかった。FDAやEUが認めても保険組織や加盟国が保険還元を認めないようなこともあるだろうから意味があるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    膀胱癌のウイルス療法試験が成功
    (2024年12月5日発表)

    米国カリフォルニア州のCG Oncology(Nasdaq:CGON)はCG0070(cretostimogene grenadenorepvec)の第3相試験成績をSUO(泌尿器癌学会)年次総会で発表した。25年下期に承認申請する考え。

    増殖性アデノウイルスにGM-CSFとE2F-1プロモータを結合して免疫刺激性を強化し腫瘍細胞選択発現性を持たせた腫瘍溶解性ウイルス療法。このBOND-003試験は、BCGに応答しなかった高リスク非筋層浸潤上皮内膀胱癌(NMICB CIS)の患者を組入れて、週一回のペースで6回投与し、反応なら維持療法に移行、不応の場合は導入療法を繰り返した。66人の中間解析では完全反応率75.7%、105人の解析では75.2%だったが、今回の110人の解析は74.5%となった。反応持続期間はまだメジアンに未達、24ヶ月反応持続率は56.6%だった。G3以上の治療関連有害事象や治療関連有害事象による投与中止は発生しなかった。

    尚、上記はcomplete response at any timeと呼ばれているので、通常の、反応が一定期間持続したものだけをカウントする確認完全反応率とは異なるのかもしれない。

    日本ではキッセイ薬品が開発販売権を取得、上記試験に参加している。

    リンク: CG Oncologyのプレスリリース


    ゼップバウンドがガチンコで勝利
    (2024年12月4日発表)

    イーライリリーはGLP-1/GIP作用剤Zepbound(tirzepatide)の後期第3相SURMOUNT-5試験で体重低下作用がノボ ノルディスクのGLP-1作用剤Wegovy(semaglutide)を有意に上回ったと発表した。夫々の偽薬対照試験の成績から予想されたことではあるが、直接比較試験で確認したのは意義がある。但し、優越に係わるもう一つの重要な指標である、忍容性の比較は言及されていない。

    米国の施設で肥満、または一つ以上の体重関連リスク因子を持つオーバーウェイトで、糖尿病ではない患者751人を組入れたオープンレーベル試験。承認最大用量を目標に滴定し、最大忍容量(Zepboundは10または15mg、Wegovyは1.7または2.4mg)で総計72週間治療したところ、体重が各群20.2%と13.7%低下し、有意な差があった。

    尚、この二社が治験成績を発表する時はefficacy estimandベースの数値を主、米国のレーベルに記載されるtreatment policy estimand(treatment regimen estimand)ベースを補足として記述することが多いが、上記の数値は後者で前者は開示されていない。後者は投与を止めたり他剤を追加した症例も最後まで追跡するので、忍容性もある程度反映される。

    両剤は用量漸増段階が異なり、Zepboundは2.5mgで開始、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgと6段階ある。米国のレーベルでは維持用量は5mg、10mg、または15mgを進めているが、上記試験では5mgが欠けている。Wegovyは0.25mgで開始、5段階で15mgに到達し、推奨維持用量は上記試験と同じ1.7mgまたは2.4mg。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース


    Relmada社、抗鬱剤が第3相で3連敗
    (2024年12月4日発表)

    米国フロリダ州の医薬品開発会社、Relmada Therapeutics(Nasdaq:RLMD)は、REL-1017(esmethadone)の第3相Reliance II試験で独立データ監視委員会が無益認定し、続行しても主目的達成する可能性は低いと判定したことを公表した。第3相は既に二本フェールしており、もう一本がもうそろそろ判明するはずだが、期待しにくい。

    methadoneのS異性体でNMDA受容体阻害作用は持つがオピオイド作用は小さい。第3相は初日に75mg、2日目以降は25mgを一日一回経口投与し4週後のMADRS10改善を偽薬と比較したReliance III単剤投与試験とReliance I追加投与試験がフェール。今回は負荷用量なしで追加投与したが、3連敗となった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    イミフィンジを筋層浸潤膀胱癌に承認申請
    (2024年12月6日発表)

    アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を米国で筋層浸潤膀胱癌に適応拡大申請し受理されたと発表した。全摘術の前に化学療法と併用で、術後に単独で、投与する。優先審査を受け、審査期限は25年第2四半期。欧日でも申請中。

    術前化学療法と比較した第3相NIAGARA試験で、EFS(無イベント生存期間)のハザードレシオが0.68だった。副次的評価項目の全生存期間のハザードレシオは0.75、2年生存率は82.2%、化学療法群は75.2%だった。G3/4やG5の治療関連有害事象発生率は両群大差なかった。

    尚、共同主評価項目であるpCR(病理学的完全反応率)は、6月の学会発表時も、今回も、プレスリリースに記されていない。pCR達成なら術後投与は必要か、という議論があったが、データはどうなっているのだろう?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ロシュ、抗CD20/CD3抗体をより早期のDLBCLに承認申請
    (2024年12月5日発表)

    ロシュは米国でColumvi(glofitamab-gxbm)の適応拡大を申請し受理されたと発表した。一次治療歴を持つ自家造血幹細胞移植不適の再発/難治DLBCL(びらん性大細胞型B細胞リンパ腫)にgemcitabine及びoxaliplatinのレジメンと併用するもの。gemcitabine、oxaliplatin及びrituximabを併用するレジメンと比較した第3相STARGLO試験で全生存期間のハザードレシオが0.59、p=0.011、メジアン値は未達、対照群は9ヶ月だった(23年3月カットオフ値)。審査期限は25年7月20日。

    B細胞のCD20と細胞毒性T細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。23年に米欧で、成人の再発/難治DLBCLの3次治療に単剤投与することが加速承認/条件付き承認された。今回、延命効果が確認できたので通常承認に切り替わるのではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    イミフィンジが小細胞性肺癌に適応拡大
    (2024年12月4日発表)

    FDAはアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を限局型小細胞性肺癌に用いることを承認した。同時化学放射線療法を受け疾病安定化以上の応答があった患者の維持療法として持ちいる。抗PD-(L)1抗体がこの用途で承認されたのは初めて。

    第3相ADRIATIC試験でメジアン生存期間は55.9ヶ月と偽薬群の33.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.73、p=0.01だった。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオは0.76、p=0.016だった。G3/4有害事象発生率は両群24%強。

    日本でも適応拡大申請中。

    リンク: FDAのプレスリリース


    Merus社のNRG1標的薬が承認
    (2024年12月4日発表)

    FDAは、オランダのMerus(Nasdaq:MRUS)のBizengri(zenocutuzumab-zbco)をNRG1遺伝子融合のある非小細胞性肺癌と膵腺腫に加速承認した。全身性治療中または後に進行した進行、切除不能、転移癌が適応になる。単群試験で非小細胞性肺癌64人のcORR(確認客観的反応率)が33%、メジアン反応持続期間は7.4ヶ月、膵腺腫30人ではcORR40%、反応持続期間のレンジは3.7~16.6ヶ月だった。枠付き警告は胚胎毒性、警告事前注意事項は点滴関連反応、間質性肺疾患、左心室機能不全。

    NRG1はher3のレガンドであるneuregulin 1の遺伝子で、非小細胞性肺癌や膵臓腺癌の1%前後で他の遺伝子と癌原性融合が見られる。Bizengriはher2とher3に結合する二重特異性抗体で、両受容体のヘテロダイマーカー化を阻害してPI3K/AKT/mTOR経路の活性化を抑制すると共に、抗体依存的細胞毒性を発揮する。米国法人と同じくマサチューセッツ州を本籍とする未上場企業、Partner Therapeuticsが米国単独販売権を持っている。審査期限より2ヶ月早い承認なので上市準備が大変だ。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年12月推Zealand PharmaのZP 1848(glepaglutide、短腸症候群
    24年12月推ガルデルマのNemluvio(nemolizumab-ilto、アトピー性皮膚炎)
    24年12月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、胃・GEJ腺腫一次治療追加)
    24/12/20Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、一型糖尿病)
    24/12/27Soleno Therapeuticsのdiazoxide choline(プラダー・ウィリー症候群)
    24/12/28XcoveryのX-396(ensartinib、ALK陽性非小細胞性肺癌)
    24/12/29BMSのOpdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤
    24/12/29Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfontカプセル、古典的先天性副腎過形成)
    24/12/30Neurocrine BiosciencesのNBI-74788(crinecerfont経口液)
    25Q1推第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan、her2低/極低転移性乳癌追加)
    25Q1推アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib、未治療マントル細胞腫追加)
    25年1月ノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide、FLOW糖尿病性腎症アウトカム試験追加)
    25/1/2Vertexのvanzaトリプル(vanzacaftor、tezacaftor、deutivacaftor、嚢胞性線維症)
    25/1/15Atara Biotherapeuticsのtabelecleucel(リンパ増殖性疾患)
    25/1/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌追加)
    25/1/25エーザイのLeqembi(lecanemab、維持用量用量追加)
    25/1/29第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、HR陽性her2陰性切除不能/転移乳癌)
    25/1/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/1/30VertexのVX-548(suzetrigine 、急性疼痛)
    25/1/31Axsome TherapeuticsのAXS-07(急性片頭痛)



    今週は以上です。