【ニュース・ヘッドライン】
- グリセリンが多すぎるスラッシーに要注意
- BMS、抗IL-13抗体の第3相好酸球性食道炎試験が成功
- ファイザー、A型血友病の遺伝子療法試験が成功
- リン脂質放射性核種複合体のピボタル試験が成功
- MSDも抗RSV抗体の幼児試験が成功
- Sage/バイオジェン、本態性振戦用薬の後期第2相がフェール
- JNJ、点鼻用抗鬱剤のモノセラピーを申請
- Atara社、リンパ増殖性疾患のT細胞療法を米国でも承認申請
- KalVista社、経口HAE治療薬を承認申請
- GSK、BlenrepをEUで再承認申請
- FDA諮問委員会、NSCLC周術期治療試験の見直しを勧告
- CHMP、レケンビに否定的意見
- 円形脱毛症用JAK阻害剤がまた承認
- CLN2病薬が3歳未満でも使用可能に
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【今週の話題】
グリセリンが多すぎるスラッシーに要注意
(2024年7月24日報道)
MedPage Todayの報道を読んで初めて知ったが、英国で昨年来、スラッシー(クリーム状の飲料)による幼児の事故が問題になっているようだ。氷結を防ぎ甘味を与えるために一部の製品で使用されているグリセリンの過剰摂取が原因である模様。FSA(英国食品基準庁)は昨年8月に、4歳以下は飲まないよう表示し販売しないことや、お代わり無料サービスを10歳以下に提供しないことを勧奨したが、強制はしなかった。そのせいか、その後も散発している模様。
BBCで報道された昨年10月の発症例では、4歳児がイチゴ味の氷入りスラッシーを飲んでしばらくした後、顔をひっかいたり幻覚のような言動・症状を示したりし、病院で検査を受けたところ、低血糖や徐脈が認められ、最終的にグリセリン不耐と診断された。同様な飲料を飲んだことは過去に何回もあったが発症は初めてとのこと。
FSAが、ワースト・ケース・シナリオであるグリセリン濃度が50000mg/Lのスラッシーを350mL飲んだ場合で試算したところ、4歳以下の子供では有害事象が発生する閾値を超過してしまった。年齢で区切ったのは話を単純化する意図であるようで、厳密には体重と相関する模様だ。グリセリン不耐者に限定してはいないので、おそらく一般人の限度量であり、グリセリン不耐者はもっと少量でもリスクがあるのかもしれない。
MedPageには米国の医師がSNSで注意を呼び掛けていることが記されているが、グリセリンが使用されているかどうか分からないスラッシーも多いようだ(コーンスターチなどを使っている製品もあるらしい)。その場で練り上げるタイプの日本でも人気のアイスクリームがグリセリンを含有しているようだが、含有量が多いかどうか分からない。過量使用の危険性に関する情報が広がって事業者が見直したり、情報開示を迫られるような事態が望まれる。
リンク: MedPage Todayの報道
リンク: FSAの発表(23/8/9公開、9/21最終更新)
リンク: BBCの報道(24/2/9付)
【新薬開発】
BMS、抗IL-13抗体の第3相好酸球性食道炎試験が成功
(2024年7月26日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブは、cendakimabの第3相好酸球性食道炎試験で共同主評価項目を両方とも達成したと発表した。承認申請については言及されていないが、後期第2相試験のデータが使える場合以外は、第3相がもう一本必要だろう。
19年に740億ドルで買収したセルジーンが15年に72億ドルで買収したReceptosが、13年にアッヴィからライセンスした抗IL-13抗体で、アルファ1とアルファ2の共通のエピトープに結合する。第3相では360mgを週一回皮下注し、嚥下障害日数と好酸球抑制奏効率を偽薬と比較した。データは未発表。
この適応ではRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)のDupixent(dupilumab)が22年に米国で、23年にはEUでも、適応拡大されている。第3相二本で嚥下障害評価尺度が偽薬より大きく改善し、共同主評価項目である好酸球抑制奏効率も偽薬を大きく上回った。
リンク: BMSのプレスリリース
ファイザー、A型血友病の遺伝子療法試験が成功
(2024年7月24日発表)
ファイザーはPF-07055480(giroctocogene fitelparvovec、Sangamoの開発コードはSB-525)の第3相A型血友病試験のトップラインを公表した。承認申請されるのではないか。
Sangamo Therapeutics(Nasdaq:SGMO)からライセンスした遺伝子療法で、アデノ随伴ウイルス6型のカプシドを用いてBドメインを除去したヒト血液凝固第8因子の相補的DNAを導入する。第3相AFFINE試験は中程度重度/重度のA型血友病患者75人を組入れて、リード・イン期間で第8因子のルーチン予防的投与を6ヶ月以上施行した後に3e13vg/kgを投与し、術前と術後の出血率年率(ABR)を比較した。6ヶ月以上のリード・インを完了した50人の平均ABRは4.73から1.24に改善し、非劣性検定と優越性検定が成功した。
深刻有害事象の発生率は20%、治療関連深刻有害事象は13%だった。本試験では第8因子水準が一時的に正常値の150%を超える有害事象が観察され、FDAが治験許可を一時停止した経緯がある。最終的に5割弱の患者で発生したが薬効や安全性には大きな影響はなかった模様。
類薬ではバイオマリンのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec-rvox)が22年にEUで条件付き承認され、23年には米国でも承認されたが、リスト・プライスが米国で290万ドル、ドイツでは最大手医療保険がネゴしたが約90万ドルで契約と、高価であるためか、あるいは、ファイザーも承認申請している異なったメカニズムの新薬が存在するせいか、低調のようだ。ファイザーは今年4月にB型血友病の遺伝子療法が米国で承認されており、両剤の売れ行きが注目される。
リンク: ファイザーのプレスリリース
リン脂質放射性核種複合体のピボタル試験が成功
(2024年7月23日発表)
米国のCellectar Biosciences(Nasdaq:CLRB)はCLR 131(iopofosine iodine-131)の第2相ワルデンストローム・マクログロブリン血症(WaM)試験の結果を公表した。二次以上の治療歴を持つ患者55人において、ORR(客観的反応率)が80%、MRR(大反応率)が56.4%となり、MYD88野生型やp53変異型の患者にも同様な成果が見られた。第4四半期に承認申請する考え。
腫瘍細胞ではリン脂質を分解するフォスフォリパーゼDの活性が低下していることに着目し、放射性核種をリン脂質と結合して投与して腫瘍細胞選択的に作用を増強したもの。
リンク: 同社のプレスリリース
MSDも抗RSV抗体の幼児試験が成功
(2024年7月23日発表)
MSDはMK-1654(clesrovimab)の後期第2相/第3相幼児RSV感染症予防試験で主目的達成を発表した。データは未発表だが、既存薬と遜色ないなら承認申請に向かおう。
RSVのFタンパクを標的とする抗体医薬。一部のアミノ酸を置換し半減期を延長したもの。今回の日本も参加した試験では、初めてのRSVシーズンを迎える健康な早産児と正期産児に試験薬または偽薬を一回筋注し、RSVによる下部気道感染症を発症して受診するリスクを150日間追跡した。
類薬ではアストラゼネカのSynagis(palivizumab)や同社が生産しサノフィやSOBIが販売するBeyfortus(nirsevimab-alip)が日米欧などで承認されている。また、ファイザーのAbrysvoワクチンは妊婦に接種して胎児の出生後の感染症を予防する用法も承認されている。
リンク: MSDのプレスリリース
Sage/バイオジェン、本態性振戦用薬の後期第2相がフェール
(2024年7月24日発表)
Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)と開発販売パートナーのバイオジェンは、SAGE-324/BIIB124の後期第2相本態性振戦治療試験がフェールしたと発表した。この用途での開発は中止する。
両社は23年に米国で産後鬱の短期治療薬として承認されたSageのGABA A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータ、Zurzuvae(zuranolone)とSAGE-324の開発販売で提携している。60mgを毎朝経口投与した第2相試験でTETRAS-PS4(Essential Tremor Rating Assessment Scale-Performance Subscale Item 4)という上肢振戦の評価スコアが36%減と偽薬群の21%減を上回り、p=0.049とギリギリだが有意な差があった。
今回は、忍容性向上を狙って、60mg群に用量漸増を採用し、15mgと30mgの低用量群も設定し、朝ではなく夕方服用する手法を採用したが、同スコアに用量反応相関がみられず、各用量群と偽薬群の有意差もなく、日常生活機能にも有意差がなかった。
リンク: 両社のプレスリリース
【承認申請】
JNJ、点鼻用抗鬱剤のモノセラピーを申請
(2024年7月22日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソンは米国でSpravato(esketamine)の追加的申請を行ったと発表した。成人の治療抵抗性鬱病に単剤投与するもの。
Spravatoは管理物質(CIII)であるケタミンのS異性体を点鼻スプレイで投与するもの。19年に米欧で成人の難治性鬱病に承認、20~21年に自殺思慮・行動を示す成人鬱病に適応拡大した。どちらも標準的治療薬併用で、モノセラピーは初。
リンク: JNJのプレスリリース
Atara社、リンパ増殖性疾患のT細胞療法を米国でも承認申請
(2024年7月17日発表)
米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)は、tabelecleucelを2歳以上の小児と成人のエプスタイン・バー・ウイルス(ESV)陽性の移植後リンパ増殖性疾患用薬として米国で承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は25年1月15日。
ドナー由来のT細胞をESVに感染させたB細胞と会合させた上で培養した、他家T細胞療法。第3相ALLELE試験でrituximabが(臓器移植レシピエントの場合は化学療法も)フェールした患者に投与したところ、ORR(客観的反応率)が48.8%だった。EUではライセンシーのPierre Fableが22年に例外的環境条項に基づく承認を取得したが、米国はFDAがアカデミアの臨床試験で用いられたバッチと量産品の同等性を確認するよう求めたため、遅延した。
リンク: Atara社のプレスリリース
KalVista社、経口HAE治療薬を承認申請
(2024年7月11日発表)
KalVista Pharmaceuticals(Nasdaq:KALV)は、4月期決算の発表に合わせて、6月に米国でKVD900(sebetralstat)を12歳以上の小児・成人のHAE(遺伝性血管浮腫)の発作治療薬として承認申請していたことを明らかにした。経口剤が承認されれば初。7~9月に欧州で、10~12月には日本でも、承認申請する考え。
血漿カリクレイン阻害剤。第3相KONFIDENT試験では偽薬、300mg群、600mg群の症状改善までのメジアン時間が各6.72時間、1.61時間、1.79時間となり、有意な治療効果が示された。重症度緩和効果や24時間完解率の解析も成功した。治療関連有害事象発生率は各群4.8%、2.3%、2.2%と大差なく、治療関連深刻有害事象は発現しなかった。
リンク: 同社のプレスリリース
GSK、BlenrepをEUで再承認申請
(2024年7月19日発表)
GSKはEUでBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)を難治/再発多発骨髄腫の二次以降の治療薬として承認申請した。bortezomib及びdexamethasoneと併用したDREAMM-7試験と、pomalidomide及びdexamethasoneと併用したDREAMM-8試験でPFS(無進行生存期間)が標準的3剤併用レジメンの一つを有意に上回った。米日でも申請予定。
BCMAを標的とするポテリジェント抗体と薬物の複合体。20年に米欧で加速承認/条件付き承認されたものの、市販後薬効確認試験であるDREAMM-3試験がフェールし、承認取消となってしまった。ところが、前後して上記二試験が成功、復活の目途が立った。初承認用途は4種類の代表的な治療薬がフェールした患者に単剤投与するものだったが、市販後薬効確認試験でメジアンPFSが11.2ヶ月とpomalidomideとdexamethasoneを併用した群の7ヶ月を上回ったものの、ハザードレシオは1.03で有意に上回らなかった。全生存の解析は未成熟だがメジアン値はほぼ同じ、ハザードレシオは1.14だった。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会、NSCLC周術期治療試験の見直しを勧告
(2024年7月25日発表)
FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、切除可能非小細胞性肺癌(NSCLC)の切除術付随試験のあり方について、意見を求めた。術前のネオアジュバント療法と術後のアジュバント療法を別々ではなく一度にテストするペリアジュバント(周術期)療法試験が増えているが、本当に両方必要なのか、過剰な治療により徒に副作用を増やしていないか、判別できるような第3相試験を行うべき、というFDA側の問題意識に11人の委員全員が賛成した。
発端はアストラゼネカが承認申請した抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)だ。ステージIIAからIIIBまでの切除可能NSCLCでEGFRやALKに特定の変異を持たない患者を組入れた第3相AEGEAN試験で、化学療法によるネオアジュバント療法に追加し、術後にもモノセラピーを追加する効果を検討したところ、EFS(無イベント生存期間)の偽薬追加群比ハザードレシオが中間解析で0.68、p=0.004となり、メジアン値は各群未達と25.9ヶ月だった。ネオアジュバント後のpCR(病理学的完全反応率)も17.2%対4.3%と有意に向上した。
良く分からないのが、術前又は術後どちらかだけでは足りないのか、ということだ。諮問委員会で示されたFujiwaraらの研究(Lancet Oncol 2024; 25:62-75)によると、免疫チェックポイント阻害剤の固形癌におけるアジュバント試験13本のメタアナリシスで、G3/4有害事象のオッズ比は対照群の5.58倍、G5は4.85倍で、どちらも95%下限が1を超えていた。一方で、ネオアジュバント試験11本のメタアナリシスはオッズ比が各1.17と1.11で信頼区間が1を跨いでいるが、両群とも化学療法を併用しているため目立ち難くなっているだけかもしれない。少なくともアジュバントに関しては危険が増加するのだから便益がそれ以上に増加しないと釣り合わない。FDAはAEGEAN試験が始まる前の段階でアストラゼネカに術前と術後それぞれの便益を検討するようアドバイスしたが、受け入れられなかった。
Imfinzi自体の適応拡大申請に関する採決は行われなかった。委員会では、再試験を求めると承認が遅れ患者が困るので今回はやむを得ないという意見が多かった模様だ。おそらく、Imfinziも、同様な適応拡大申請の審査期限が10月8日であるブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)も、承認されるのではないか。
筆者が良く分からないのは、FDAはなぜ今になって諮問委員会の議題に挙げたのかという点だ。MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)は昨年10月に今回と同様な用途用法で承認されているからだ。KeyNote-671試験でEFSだけでなく全生存期間の解析も成功しているが、AEGEAN試験の全生存の解析がフェールしたという話は聞かないので、決定的な違いのようには感じられない。
FDAは、Imfinziの研究者主導試験、ADJUVANT BR.31で主評価項目であるPD-L1≧25%のサブグループにおけるDFSがフェールしたことに言及している。術後に単剤又は化学療法併用で投与しても便益は限定的であることが示唆されたことになるが、治験がフェールしても薬のフェールとは限らないし、KeytrudaやロシュのTecentriq(atezolizumab)は類似した試験が成功したので、Imfinziだけ効かないとは考え難い。そもそも、FDAが諮問委員会上程を発表したのはBR.31のフェールが発表される何ヶ月も前のことだ。
もう一つ分からないのは、FDAや諮問委員会が提唱した4群試験(術前群、術後群、周術群、対照群)の実施は現実的なのか?抗PD-(L)1抗体を使わないレジメンを対照群に設定した場合、4群中3群はKeytrudaを使う周術期療法より強度が下がることになる。Keytrudaを使うレジメンが標準療法と考えている医師や患者は、このような試験には参加しないのではないか?
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
CHMP、レケンビに否定的意見
(2024年7月26日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
今回の最大のサプライズは、エーザイ/バイオジェンが早期アルツハイマー病治療薬として承認申請したLeqembi(lecanemab)が否定的意見となったことだ。23年1月の米国における加速承認を皮切りに、9月には日本で、24年には中国、韓国、香港、イスラエルでも承認されたが、CHMPは認知機能低下を遅らせる便益が小さくARIA(アミロイド関連造影異常)という潜在的に深刻な有害事象の危険と釣り合わない、両親からApoE4遺伝子を受け継いだ患者はアルツハイマ-病のリスクが高いがARIAのリスクも高い、ことを指摘した。両社は再審請求する考え。CHMPが米国などのように承認のハードルを引き下げるか、注目される。
LeqembiはSkyキャッスル(韓国版)の住人向きの高額医療で需要の中心は米国と考えられている。従って、EUで承認されなくとも収益影響はそれほどでもないだろう。但し、オリジンであるBioArctic Neuroscience(Nasdaq Stockholm: BIOA B)は北欧でエーザイと共同商業化する計画だったので、失望しているだろう。
リンク: EMAのプレスリリース
肯定的意見を受けたのは、まず、LEO PharmaのAnzupgo(delgocitinib 20mg/gクリーム)。 活性成分は日本たばこからライセンスした汎JAK阻害剤で、日本では20年に中重度アトピー性皮膚炎用薬のコレクチム軟膏 0.5%として承認されたが、LEOは中重度慢性手湿疹の治療薬として開発した。局所ステロイドに不応不適な成人に用いる。
リンク: EMAのプレスリリース
イプセンのIqirvo(elafibranor)はPPARアルファ/デルタ阻害剤。成人のPBC(原発性胆汁性胆管炎)の治療薬で、標準療法はUDCA(ウルソデオキシコール酸)だが、十分応答しない患者に追加で、または不耐に単剤を、毎朝経口投与する。サロゲート・マーカーであるALP(アルカリフォスファターゼ)やビリルビンが減少するため肝線維化を遅らせることが期待される。Genfit(Nasdaq:GNFT)からライセンス、米国では6月に承認された。
リンク: EMAのプレスリリース
同じくイプセンのKayfanda(odevixibat)は12歳以上のアラジール症候群における胆汁鬱血性掻痒を治療する。胆汁を肝臓に戻すiBAT(回腸胆汁酸輸送体)を局所的に阻害し、胆汁蓄積を抑制する。この製品は進行性家族性肝内胆汁鬱滞症(PFIC)の治療薬Bylvayとして21年に欧米で承認され、米国では23年6月にアラジール症候群に適応拡大された。EUでも10月にCHMPが肯定的意見をまとめたが、希少疾患用薬委員会がアラジール症候群を希少疾患と認めるのを止めたため、製品名を変えて改めて承認申請した。EUには希少疾患用薬とそれ以外の薬は活性成分が同じでも製品名を変えなければならないというルールがあるようだ。バタバタしたしわ寄せなのか、今回は通常の承認ではなく、例外的環境条項に基づく承認が支持された。
23年に買収したAlbireo(もともとはアストラゼネカのスピンアウト)のコンパウンド。
リンク: EMAのプレスリリース
Loqtorzi(toripalimab)は、成人の難治、治癒的手術放射線療法不適、又は転移性の上咽頭癌の一次治療にcisplatin及びgemcitabineと併用、あるいは、成人の切除不能進行、難治、転移性の食道扁平上皮腫の一次治療にcisplatin及びpaclitaxelと併用することが支持された。Junshi Biosciences(HKSE:1877、上海君実生物医薬)が18年に中国で中華抗PD-1抗体の第1号として黒色腫二次治療に条件付き承認を取得、米国でも23年に上記のうち上咽頭癌の一次治療と単剤による二次治療が承認された。承認申請者はCROのTMC Pharma (EU) Limited名義になっている。
リンク: EMAのプレスリリース
Vevizye(ciclosporin)はドイツのNovaliqが開発した点眼液で、成人の人工涙液不応な中重度ドライアイ疾患の治療薬。米国では昨年5月に承認を取得、24年5月にレーベルの記載がNovaliq製造販売からHarrow Eye流通に変更された。Novaliqは10年前に参天製薬が子会社化したNovagaliや、参天が一部製品ポートフォリオをHarrowに事業譲渡したことと関係あるのではないかと思いネットサーチしたが、手掛かりは見当たらなかった。
リンク: EMAのプレスリリース
アステラスのVyloy(zolbetuximab)は抗CLDN18.2抗体。この膜貫通型接着分子を発現しher2は陰性の局所進行切除不能/転移胃・胃食道接合部腺腫の一次治療に化学療法と併用する。16年にBioNTechの創設者夫妻から買収したGanymed Pharmaceuticals AGの開発品で、日本で3月に承認、米国は製造委託先の関係で一度は審査完了通知を受領したものの再申請し、審査期限は11月9日となっている。
リンク: EMAのプレスリリース
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen-Cilag Internationalが申請したYuvanciはエンドテリンA/B受容体拮抗剤macitentanとPDE5阻害剤tadalafilの合剤。成人のWHO機能クラスIIまたはIIIの肺動脈高血圧症で、この二剤を併用している患者がスイッチできる。一日のピルバーデンが3個から1個に減少する。米国ではOpsynvi名で3月に承認された。日本でも申請中。
リンク: EMAのプレスリリース
適応拡大に肯定的意見を受けたのは以下の通り。
尚、飛ぶ鳥も撃ち落とすGLP-1作用剤、Wegovy(semaglutide)は、心血管アウトカム試験SELECTが成功し米国では3月に心血管疾患を持ち肥満またはオーバーウェイトの患者の心血管イベントを抑制する適応・効能が承認されたが、CHMPは、既に承認されている適応に含まれるため適応追加は認めず、レーベルに追加情報を記載することだけを勧告した。
【承認】
円形脱毛症用JAK阻害剤がまた承認
(2024年7月25日発表)
インドのSun Pharmaceutical Industries(BSE:524715)はFDAがLeqselvi(deuruxolitinib)を成人の深刻な円形脱毛症の治療薬として承認したと発表した。8mg錠を一日二回、経口投与する。臨床試験で頭皮の毛髪カバー率がベースライン時点では平均で13%程度だったが、24週間の治療で被験者の3割以上で80%以上になった。JAK阻害剤なので各種の深刻な副作用が枠付き警告されている。CYP2CP poor metabolizersや中強度CYP2C9阻害剤を服用している患者は禁忌。
インサイト(Nasdaq:INCY)がノバルティスと共同開発販売している骨髄線維症などの治療薬、Jakafi/Jakavi(ruxolitinib)の重水素化類縁体。23年にConcert Pharmaceuticalsを5億ドル余で買収して入手した。
リンク: Sunのプレスリリース
CLN2病薬が3歳未満でも使用可能に
(2024年7月24日発表)
バイオマリン・ファーマシューティカルは、FDAがBrineura(cerliponase alfa)の適応拡大を認めたと発表した。17~19年に米欧日で承認された小児CLN2病(セロイドリポフスチン症2型)の酵素補充療法で、米国では2歳以下の患者における効果や安全性が確立していないとされていたが、広範な年齢層を組入れた第2相試験に基づき、3歳以上という限定が解除された。欧日では最初から年齢制限されていない。
CLN2病はTPP1遺伝子変異による深刻な神経変性疾患。20万人に一人の超希少疾患で、バイオマリンの事業地域における患者数は1200~1300人と推定されている。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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24年7月推 | JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加) |
24年7月 | BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加) |
24年8月推 | ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎) |
24年8月推 | ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント) |
24年8月推 | JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)の併用 |
24/8/4 | Adaptimmuneのafamitresgene autolecel(滑膜肉腫) |
24/8/10 | Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術) |
24/8/11 | Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS |
24/8/13 | Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫) |
24/8/14 | CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎) |
24/8/14 | アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症) |
24/8/20 | セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ) |
24/8/22 | Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫) |
24/8/23 | GSKのJemperli(dostarlimab-gxly、内膜腫フロントライン) |
24/8/28 | Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L) |
24年9月推 | JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法) |
24年9月 | ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症) |
24/9/5 | Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替) |
24/9/18 | Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺) |
24/9/21 | Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型) |
24/9/24 | IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型) |
24/9/26 | Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症) |
24/9/26 | Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病) |
24/9/27 | リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)・・・3か月延期 |
24/9/27 | サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用) |
諮問委員会 | |
24/8/2 | GeMDAC:Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型) |
今週は以上です。