2024年7月27日

第1065回

【ニュース・ヘッドライン】

  • グリセリンが多すぎるスラッシーに要注意 
  • BMS、抗IL-13抗体の第3相好酸球性食道炎試験が成功 
  • ファイザー、A型血友病の遺伝子療法試験が成功 
  • リン脂質放射性核種複合体のピボタル試験が成功 
  • MSDも抗RSV抗体の幼児試験が成功 
  • Sage/バイオジェン、本態性振戦用薬の後期第2相がフェール 
  • JNJ、点鼻用抗鬱剤のモノセラピーを申請 
  • Atara社、リンパ増殖性疾患のT細胞療法を米国でも承認申請 
  • KalVista社、経口HAE治療薬を承認申請 
  • GSK、BlenrepをEUで再承認申請 
  • FDA諮問委員会、NSCLC周術期治療試験の見直しを勧告 
  • CHMP、レケンビに否定的意見 
  • 円形脱毛症用JAK阻害剤がまた承認 
  • CLN2病薬が3歳未満でも使用可能に 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


グリセリンが多すぎるスラッシーに要注意
(2024年7月24日報道)

MedPage Todayの報道を読んで初めて知ったが、英国で昨年来、スラッシー(クリーム状の飲料)による幼児の事故が問題になっているようだ。氷結を防ぎ甘味を与えるために一部の製品で使用されているグリセリンの過剰摂取が原因である模様。FSA(英国食品基準庁)は昨年8月に、4歳以下は飲まないよう表示し販売しないことや、お代わり無料サービスを10歳以下に提供しないことを勧奨したが、強制はしなかった。そのせいか、その後も散発している模様。

BBCで報道された昨年10月の発症例では、4歳児がイチゴ味の氷入りスラッシーを飲んでしばらくした後、顔をひっかいたり幻覚のような言動・症状を示したりし、病院で検査を受けたところ、低血糖や徐脈が認められ、最終的にグリセリン不耐と診断された。同様な飲料を飲んだことは過去に何回もあったが発症は初めてとのこと。

FSAが、ワースト・ケース・シナリオであるグリセリン濃度が50000mg/Lのスラッシーを350mL飲んだ場合で試算したところ、4歳以下の子供では有害事象が発生する閾値を超過してしまった。年齢で区切ったのは話を単純化する意図であるようで、厳密には体重と相関する模様だ。グリセリン不耐者に限定してはいないので、おそらく一般人の限度量であり、グリセリン不耐者はもっと少量でもリスクがあるのかもしれない。

MedPageには米国の医師がSNSで注意を呼び掛けていることが記されているが、グリセリンが使用されているかどうか分からないスラッシーも多いようだ(コーンスターチなどを使っている製品もあるらしい)。その場で練り上げるタイプの日本でも人気のアイスクリームがグリセリンを含有しているようだが、含有量が多いかどうか分からない。過量使用の危険性に関する情報が広がって事業者が見直したり、情報開示を迫られるような事態が望まれる。

リンク: MedPage Todayの報道
リンク: FSAの発表(23/8/9公開、9/21最終更新)
リンク: BBCの報道(24/2/9付)

【新薬開発】


BMS、抗IL-13抗体の第3相好酸球性食道炎試験が成功
(2024年7月26日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、cendakimabの第3相好酸球性食道炎試験で共同主評価項目を両方とも達成したと発表した。承認申請については言及されていないが、後期第2相試験のデータが使える場合以外は、第3相がもう一本必要だろう。

19年に740億ドルで買収したセルジーンが15年に72億ドルで買収したReceptosが、13年にアッヴィからライセンスした抗IL-13抗体で、アルファ1とアルファ2の共通のエピトープに結合する。第3相では360mgを週一回皮下注し、嚥下障害日数と好酸球抑制奏効率を偽薬と比較した。データは未発表。

この適応ではRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)のDupixent(dupilumab)が22年に米国で、23年にはEUでも、適応拡大されている。第3相二本で嚥下障害評価尺度が偽薬より大きく改善し、共同主評価項目である好酸球抑制奏効率も偽薬を大きく上回った。

リンク: BMSのプレスリリース


ファイザー、A型血友病の遺伝子療法試験が成功
(2024年7月24日発表)

ファイザーはPF-07055480(giroctocogene fitelparvovec、Sangamoの開発コードはSB-525)の第3相A型血友病試験のトップラインを公表した。承認申請されるのではないか。

Sangamo Therapeutics(Nasdaq:SGMO)からライセンスした遺伝子療法で、アデノ随伴ウイルス6型のカプシドを用いてBドメインを除去したヒト血液凝固第8因子の相補的DNAを導入する。第3相AFFINE試験は中程度重度/重度のA型血友病患者75人を組入れて、リード・イン期間で第8因子のルーチン予防的投与を6ヶ月以上施行した後に3e13vg/kgを投与し、術前と術後の出血率年率(ABR)を比較した。6ヶ月以上のリード・インを完了した50人の平均ABRは4.73から1.24に改善し、非劣性検定と優越性検定が成功した。

深刻有害事象の発生率は20%、治療関連深刻有害事象は13%だった。本試験では第8因子水準が一時的に正常値の150%を超える有害事象が観察され、FDAが治験許可を一時停止した経緯がある。最終的に5割弱の患者で発生したが薬効や安全性には大きな影響はなかった模様。

類薬ではバイオマリンのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec-rvox)が22年にEUで条件付き承認され、23年には米国でも承認されたが、リスト・プライスが米国で290万ドル、ドイツでは最大手医療保険がネゴしたが約90万ドルで契約と、高価であるためか、あるいは、ファイザーも承認申請している異なったメカニズムの新薬が存在するせいか、低調のようだ。ファイザーは今年4月にB型血友病の遺伝子療法が米国で承認されており、両剤の売れ行きが注目される。

リンク: ファイザーのプレスリリース


リン脂質放射性核種複合体のピボタル試験が成功
(2024年7月23日発表)

米国のCellectar Biosciences(Nasdaq:CLRB)はCLR 131(iopofosine iodine-131)の第2相ワルデンストローム・マクログロブリン血症(WaM)試験の結果を公表した。二次以上の治療歴を持つ患者55人において、ORR(客観的反応率)が80%、MRR(大反応率)が56.4%となり、MYD88野生型やp53変異型の患者にも同様な成果が見られた。第4四半期に承認申請する考え。

腫瘍細胞ではリン脂質を分解するフォスフォリパーゼDの活性が低下していることに着目し、放射性核種をリン脂質と結合して投与して腫瘍細胞選択的に作用を増強したもの。

リンク: 同社のプレスリリース


MSDも抗RSV抗体の幼児試験が成功
(2024年7月23日発表)

MSDはMK-1654(clesrovimab)の後期第2相/第3相幼児RSV感染症予防試験で主目的達成を発表した。データは未発表だが、既存薬と遜色ないなら承認申請に向かおう。

RSVのFタンパクを標的とする抗体医薬。一部のアミノ酸を置換し半減期を延長したもの。今回の日本も参加した試験では、初めてのRSVシーズンを迎える健康な早産児と正期産児に試験薬または偽薬を一回筋注し、RSVによる下部気道感染症を発症して受診するリスクを150日間追跡した。

類薬ではアストラゼネカのSynagis(palivizumab)や同社が生産しサノフィやSOBIが販売するBeyfortus(nirsevimab-alip)が日米欧などで承認されている。また、ファイザーのAbrysvoワクチンは妊婦に接種して胎児の出生後の感染症を予防する用法も承認されている。

リンク: MSDのプレスリリース


Sage/バイオジェン、本態性振戦用薬の後期第2相がフェール
(2024年7月24日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)と開発販売パートナーのバイオジェンは、SAGE-324/BIIB124の後期第2相本態性振戦治療試験がフェールしたと発表した。この用途での開発は中止する。

両社は23年に米国で産後鬱の短期治療薬として承認されたSageのGABA A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータ、Zurzuvae(zuranolone)とSAGE-324の開発販売で提携している。60mgを毎朝経口投与した第2相試験でTETRAS-PS4(Essential Tremor Rating Assessment Scale-Performance Subscale Item 4)という上肢振戦の評価スコアが36%減と偽薬群の21%減を上回り、p=0.049とギリギリだが有意な差があった。

今回は、忍容性向上を狙って、60mg群に用量漸増を採用し、15mgと30mgの低用量群も設定し、朝ではなく夕方服用する手法を採用したが、同スコアに用量反応相関がみられず、各用量群と偽薬群の有意差もなく、日常生活機能にも有意差がなかった。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


JNJ、点鼻用抗鬱剤のモノセラピーを申請
(2024年7月22日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは米国でSpravato(esketamine)の追加的申請を行ったと発表した。成人の治療抵抗性鬱病に単剤投与するもの。

Spravatoは管理物質(CIII)であるケタミンのS異性体を点鼻スプレイで投与するもの。19年に米欧で成人の難治性鬱病に承認、20~21年に自殺思慮・行動を示す成人鬱病に適応拡大した。どちらも標準的治療薬併用で、モノセラピーは初。

リンク: JNJのプレスリリース


Atara社、リンパ増殖性疾患のT細胞療法を米国でも承認申請
(2024年7月17日発表)

米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)は、tabelecleucelを2歳以上の小児と成人のエプスタイン・バー・ウイルス(ESV)陽性の移植後リンパ増殖性疾患用薬として米国で承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は25年1月15日。

ドナー由来のT細胞をESVに感染させたB細胞と会合させた上で培養した、他家T細胞療法。第3相ALLELE試験でrituximabが(臓器移植レシピエントの場合は化学療法も)フェールした患者に投与したところ、ORR(客観的反応率)が48.8%だった。EUではライセンシーのPierre Fableが22年に例外的環境条項に基づく承認を取得したが、米国はFDAがアカデミアの臨床試験で用いられたバッチと量産品の同等性を確認するよう求めたため、遅延した。

リンク: Atara社のプレスリリース


KalVista社、経口HAE治療薬を承認申請
(2024年7月11日発表)

KalVista Pharmaceuticals(Nasdaq:KALV)は、4月期決算の発表に合わせて、6月に米国でKVD900(sebetralstat)を12歳以上の小児・成人のHAE(遺伝性血管浮腫)の発作治療薬として承認申請していたことを明らかにした。経口剤が承認されれば初。7~9月に欧州で、10~12月には日本でも、承認申請する考え。

血漿カリクレイン阻害剤。第3相KONFIDENT試験では偽薬、300mg群、600mg群の症状改善までのメジアン時間が各6.72時間、1.61時間、1.79時間となり、有意な治療効果が示された。重症度緩和効果や24時間完解率の解析も成功した。治療関連有害事象発生率は各群4.8%、2.3%、2.2%と大差なく、治療関連深刻有害事象は発現しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


GSK、BlenrepをEUで再承認申請
(2024年7月19日発表)

GSKはEUでBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)を難治/再発多発骨髄腫の二次以降の治療薬として承認申請した。bortezomib及びdexamethasoneと併用したDREAMM-7試験と、pomalidomide及びdexamethasoneと併用したDREAMM-8試験でPFS(無進行生存期間)が標準的3剤併用レジメンの一つを有意に上回った。米日でも申請予定。

BCMAを標的とするポテリジェント抗体と薬物の複合体。20年に米欧で加速承認/条件付き承認されたものの、市販後薬効確認試験であるDREAMM-3試験がフェールし、承認取消となってしまった。ところが、前後して上記二試験が成功、復活の目途が立った。初承認用途は4種類の代表的な治療薬がフェールした患者に単剤投与するものだったが、市販後薬効確認試験でメジアンPFSが11.2ヶ月とpomalidomideとdexamethasoneを併用した群の7ヶ月を上回ったものの、ハザードレシオは1.03で有意に上回らなかった。全生存の解析は未成熟だがメジアン値はほぼ同じ、ハザードレシオは1.14だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、NSCLC周術期治療試験の見直しを勧告
(2024年7月25日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、切除可能非小細胞性肺癌(NSCLC)の切除術付随試験のあり方について、意見を求めた。術前のネオアジュバント療法と術後のアジュバント療法を別々ではなく一度にテストするペリアジュバント(周術期)療法試験が増えているが、本当に両方必要なのか、過剰な治療により徒に副作用を増やしていないか、判別できるような第3相試験を行うべき、というFDA側の問題意識に11人の委員全員が賛成した。

発端はアストラゼネカが承認申請した抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)だ。ステージIIAからIIIBまでの切除可能NSCLCでEGFRやALKに特定の変異を持たない患者を組入れた第3相AEGEAN試験で、化学療法によるネオアジュバント療法に追加し、術後にもモノセラピーを追加する効果を検討したところ、EFS(無イベント生存期間)の偽薬追加群比ハザードレシオが中間解析で0.68、p=0.004となり、メジアン値は各群未達と25.9ヶ月だった。ネオアジュバント後のpCR(病理学的完全反応率)も17.2%対4.3%と有意に向上した。

良く分からないのが、術前又は術後どちらかだけでは足りないのか、ということだ。諮問委員会で示されたFujiwaraらの研究(Lancet Oncol 2024; 25:62-75)によると、免疫チェックポイント阻害剤の固形癌におけるアジュバント試験13本のメタアナリシスで、G3/4有害事象のオッズ比は対照群の5.58倍、G5は4.85倍で、どちらも95%下限が1を超えていた。一方で、ネオアジュバント試験11本のメタアナリシスはオッズ比が各1.17と1.11で信頼区間が1を跨いでいるが、両群とも化学療法を併用しているため目立ち難くなっているだけかもしれない。少なくともアジュバントに関しては危険が増加するのだから便益がそれ以上に増加しないと釣り合わない。FDAはAEGEAN試験が始まる前の段階でアストラゼネカに術前と術後それぞれの便益を検討するようアドバイスしたが、受け入れられなかった。

Imfinzi自体の適応拡大申請に関する採決は行われなかった。委員会では、再試験を求めると承認が遅れ患者が困るので今回はやむを得ないという意見が多かった模様だ。おそらく、Imfinziも、同様な適応拡大申請の審査期限が10月8日であるブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)も、承認されるのではないか。

筆者が良く分からないのは、FDAはなぜ今になって諮問委員会の議題に挙げたのかという点だ。MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)は昨年10月に今回と同様な用途用法で承認されているからだ。KeyNote-671試験でEFSだけでなく全生存期間の解析も成功しているが、AEGEAN試験の全生存の解析がフェールしたという話は聞かないので、決定的な違いのようには感じられない。

FDAは、Imfinziの研究者主導試験、ADJUVANT BR.31で主評価項目であるPD-L1≧25%のサブグループにおけるDFSがフェールしたことに言及している。術後に単剤又は化学療法併用で投与しても便益は限定的であることが示唆されたことになるが、治験がフェールしても薬のフェールとは限らないし、KeytrudaやロシュのTecentriq(atezolizumab)は類似した試験が成功したので、Imfinziだけ効かないとは考え難い。そもそも、FDAが諮問委員会上程を発表したのはBR.31のフェールが発表される何ヶ月も前のことだ。

もう一つ分からないのは、FDAや諮問委員会が提唱した4群試験(術前群、術後群、周術群、対照群)の実施は現実的なのか?抗PD-(L)1抗体を使わないレジメンを対照群に設定した場合、4群中3群はKeytrudaを使う周術期療法より強度が下がることになる。Keytrudaを使うレジメンが標準療法と考えている医師や患者は、このような試験には参加しないのではないか?

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


CHMP、レケンビに否定的意見
(2024年7月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

今回の最大のサプライズは、エーザイ/バイオジェンが早期アルツハイマー病治療薬として承認申請したLeqembi(lecanemab)が否定的意見となったことだ。23年1月の米国における加速承認を皮切りに、9月には日本で、24年には中国、韓国、香港、イスラエルでも承認されたが、CHMPは認知機能低下を遅らせる便益が小さくARIA(アミロイド関連造影異常)という潜在的に深刻な有害事象の危険と釣り合わない、両親からApoE4遺伝子を受け継いだ患者はアルツハイマ-病のリスクが高いがARIAのリスクも高い、ことを指摘した。両社は再審請求する考え。CHMPが米国などのように承認のハードルを引き下げるか、注目される。

LeqembiはSkyキャッスル(韓国版)の住人向きの高額医療で需要の中心は米国と考えられている。従って、EUで承認されなくとも収益影響はそれほどでもないだろう。但し、オリジンであるBioArctic Neuroscience(Nasdaq Stockholm: BIOA B)は北欧でエーザイと共同商業化する計画だったので、失望しているだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

肯定的意見を受けたのは、まず、LEO PharmaのAnzupgo(delgocitinib 20mg/gクリーム)。 活性成分は日本たばこからライセンスした汎JAK阻害剤で、日本では20年に中重度アトピー性皮膚炎用薬のコレクチム軟膏 0.5%として承認されたが、LEOは中重度慢性手湿疹の治療薬として開発した。局所ステロイドに不応不適な成人に用いる。

リンク: EMAのプレスリリース

イプセンのIqirvo(elafibranor)はPPARアルファ/デルタ阻害剤。成人のPBC(原発性胆汁性胆管炎)の治療薬で、標準療法はUDCA(ウルソデオキシコール酸)だが、十分応答しない患者に追加で、または不耐に単剤を、毎朝経口投与する。サロゲート・マーカーであるALP(アルカリフォスファターゼ)やビリルビンが減少するため肝線維化を遅らせることが期待される。Genfit(Nasdaq:GNFT)からライセンス、米国では6月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

同じくイプセンのKayfanda(odevixibat)は12歳以上のアラジール症候群における胆汁鬱血性掻痒を治療する。胆汁を肝臓に戻すiBAT(回腸胆汁酸輸送体)を局所的に阻害し、胆汁蓄積を抑制する。この製品は進行性家族性肝内胆汁鬱滞症(PFIC)の治療薬Bylvayとして21年に欧米で承認され、米国では23年6月にアラジール症候群に適応拡大された。EUでも10月にCHMPが肯定的意見をまとめたが、希少疾患用薬委員会がアラジール症候群を希少疾患と認めるのを止めたため、製品名を変えて改めて承認申請した。EUには希少疾患用薬とそれ以外の薬は活性成分が同じでも製品名を変えなければならないというルールがあるようだ。バタバタしたしわ寄せなのか、今回は通常の承認ではなく、例外的環境条項に基づく承認が支持された。

23年に買収したAlbireo(もともとはアストラゼネカのスピンアウト)のコンパウンド。

リンク: EMAのプレスリリース

Loqtorzi(toripalimab)は、成人の難治、治癒的手術放射線療法不適、又は転移性の上咽頭癌の一次治療にcisplatin及びgemcitabineと併用、あるいは、成人の切除不能進行、難治、転移性の食道扁平上皮腫の一次治療にcisplatin及びpaclitaxelと併用することが支持された。Junshi Biosciences(HKSE:1877、上海君実生物医薬)が18年に中国で中華抗PD-1抗体の第1号として黒色腫二次治療に条件付き承認を取得、米国でも23年に上記のうち上咽頭癌の一次治療と単剤による二次治療が承認された。承認申請者はCROのTMC Pharma (EU) Limited名義になっている。

リンク: EMAのプレスリリース

Vevizye(ciclosporin)はドイツのNovaliqが開発した点眼液で、成人の人工涙液不応な中重度ドライアイ疾患の治療薬。米国では昨年5月に承認を取得、24年5月にレーベルの記載がNovaliq製造販売からHarrow Eye流通に変更された。Novaliqは10年前に参天製薬が子会社化したNovagaliや、参天が一部製品ポートフォリオをHarrowに事業譲渡したことと関係あるのではないかと思いネットサーチしたが、手掛かりは見当たらなかった。

リンク: EMAのプレスリリース

アステラスのVyloy(zolbetuximab)は抗CLDN18.2抗体。この膜貫通型接着分子を発現しher2は陰性の局所進行切除不能/転移胃・胃食道接合部腺腫の一次治療に化学療法と併用する。16年にBioNTechの創設者夫妻から買収したGanymed Pharmaceuticals AGの開発品で、日本で3月に承認、米国は製造委託先の関係で一度は審査完了通知を受領したものの再申請し、審査期限は11月9日となっている。

リンク: EMAのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen-Cilag Internationalが申請したYuvanciはエンドテリンA/B受容体拮抗剤macitentanとPDE5阻害剤tadalafilの合剤。成人のWHO機能クラスIIまたはIIIの肺動脈高血圧症で、この二剤を併用している患者がスイッチできる。一日のピルバーデンが3個から1個に減少する。米国ではOpsynvi名で3月に承認された。日本でも申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大に肯定的意見を受けたのは以下の通り。

  • GSKのArexvy・・・RSVワクチンの適応にリスク因子を持つ50~59歳を追加。米国では6月に承認、日本でも申請中。
  • Pierre FabreのMektovi(binimetinib)とBraftovi(encorafenib)・・・成人のBRAF V600E変異のある転移非小細胞性肺癌に併用。米国ではライセンス元のファイザーが昨年10月に適応拡大。
  • MSDのKeytruda(pembrolizumab)とアステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin)・・・成人の切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療に併用。米国は昨年12月に承認、日本でも申請中。
  • Janssen-Cilag InternationalのRybrevant(amivantamab)・・・EGFRエクソン19欠損またはL858R変異を持ち、EGFR-tk阻害剤を含む前治療がフェールした、成人の局所進行/転移非小細胞性肺癌。日本でも申請中。。
  • フランスのRAD Neurim PharmaceuticalsのSlenyto(melatonin)・・・2~18歳の異常日周メラトニン分泌かつまた夜間覚醒を伴う神経学的障害(但し、睡眠衛生が有効でない場合)。スミス・マギニス症候群という文言は削除。
  • ベーリンガーインゲルハイムのSpevigo(spesolimab)・・・12歳以上の小児と成人の汎発性膿疱性乾癬の予防。治療の適応年齢も12歳以上に引き下げる。
  • ロシュのTecentriq(atezolizumab)・・・成人の白金治療が不適な進行非小細胞性肺癌の一次治療単剤投与。エビデンスは記されていないが、ECOGが2以上または持病を持つ70歳以上の患者(ステージIIIb/IVの4割を占める)を組入れた第3相IPSOS試験かもしれない。全生存期間の化学療法群比ハザード・レシオが0.78、メジアン値は10.3ヶ月対9.2ヶ月だった。

  • 尚、飛ぶ鳥も撃ち落とすGLP-1作用剤、Wegovy(semaglutide)は、心血管アウトカム試験SELECTが成功し米国では3月に心血管疾患を持ち肥満またはオーバーウェイトの患者の心血管イベントを抑制する適応・効能が承認されたが、CHMPは、既に承認されている適応に含まれるため適応追加は認めず、レーベルに追加情報を記載することだけを勧告した。

    【承認】


    円形脱毛症用JAK阻害剤がまた承認
    (2024年7月25日発表)

    インドのSun Pharmaceutical Industries(BSE:524715)はFDAがLeqselvi(deuruxolitinib)を成人の深刻な円形脱毛症の治療薬として承認したと発表した。8mg錠を一日二回、経口投与する。臨床試験で頭皮の毛髪カバー率がベースライン時点では平均で13%程度だったが、24週間の治療で被験者の3割以上で80%以上になった。JAK阻害剤なので各種の深刻な副作用が枠付き警告されている。CYP2CP poor metabolizersや中強度CYP2C9阻害剤を服用している患者は禁忌。

    インサイト(Nasdaq:INCY)がノバルティスと共同開発販売している骨髄線維症などの治療薬、Jakafi/Jakavi(ruxolitinib)の重水素化類縁体。23年にConcert Pharmaceuticalsを5億ドル余で買収して入手した。

    リンク: Sunのプレスリリース


    CLN2病薬が3歳未満でも使用可能に
    (2024年7月24日発表)

    バイオマリン・ファーマシューティカルは、FDAがBrineura(cerliponase alfa)の適応拡大を認めたと発表した。17~19年に米欧日で承認された小児CLN2病(セロイドリポフスチン症2型)の酵素補充療法で、米国では2歳以下の患者における効果や安全性が確立していないとされていたが、広範な年齢層を組入れた第2相試験に基づき、3歳以上という限定が解除された。欧日では最初から年齢制限されていない。

    CLN2病はTPP1遺伝子変異による深刻な神経変性疾患。20万人に一人の超希少疾患で、バイオマリンの事業地域における患者数は1200~1300人と推定されている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
    24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
    24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
    24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
    24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)の併用
    24/8/4Adaptimmuneのafamitresgene autolecel(滑膜肉腫)
    24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
    24/8/11Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS
    24/8/13Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫)
    24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
    24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
    24/8/20セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ)
    24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    24/8/23GSKのJemperli(dostarlimab-gxly、内膜腫フロントライン)
    24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
    24年9月推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
    24年9月ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
    24/9/5Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替)
    24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
    24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
    24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)・・・3か月延期
    24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
    諮問委員会
    24/8/2GeMDAC:Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)



    今週は以上です。

    2024年7月20日

    第1064回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • Nuzyraの市販後薬効確認試験が成功 
    • バイエル、ニュベクオの新併用法試験が成功 
    • アッヴィ、リンヴォックでまたまた適応追加申請 
    • 小野の子会社がTGCT用薬を承認申請 
    • 欧州でオプジーボとヤーボイを未治療肝細胞腫に申請 
    • EMAが6年前に却下した承認申請を再検討へ 
    • アメリカン・タケキャブが非びらん性GERDに適応拡大 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    Nuzyraの市販後薬効確認試験が成功
    (2024年7月18日発表)

    米国のケンブリッジのParatek Pharmaceuticalsは、Nuzyra(omadacycline)の第3相OPTIC-2試験で主評価項目と副次的評価項目を達成したと発表した。死亡率に偏りはなかった。FDAとレーベル変更について相談する考え。エビデンスが二本になったため欧州申請の可能性もあるのではないか。

    テトラサイクリン系の抗菌剤でテトラサイクリン耐性菌などにも活性を持つ。18年に米国で急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症(ABSSSI)と地域感染細菌性肺炎(CABP)の治療薬として静注用と経口剤が承認された(加速承認ではない)。EUでも申請されたが、他の選択肢もある中、CABPの薬効確認試験を一本しかやっていないことがネックとなり、申請撤回に至った。

    今回の試験は一本目と同様なデザインで、intent-to-treatベースのECR(治療開始の72-120時間後における早期臨床的応答率)をmoxifloxacinと比較した。結果は89.6%対87.7%で非劣性検定が成功した(信頼区間は未公表)。一本目の試験では81.1%対82.7%、群間差の95%下限は-7.1で非劣性だった。

    治療時発現有害事象発生率は27.7%対23.5%で上回ったが薬品関連に限定すると2.7%対6.9%で下回り、治療時発現有害事象による治験離脱率は両群2.7%だった。一本目の試験は全死亡率が2.1%対1.0%と偏りが見られ、原因は区々で対照群の死亡率が過去の試験より低かったことも影響した可能性があるが、レーベルに明記される結果になった。今回の試験では両群とも1.8%(6人)だった。おそらく、これが今回の試験の最大の収穫だろう。

    プレスリリースでは本試験はpost marketing studyと記されている。フェーズIVコミットメントなのか7月20日朝に確認を試みたが、FDAのDrug@FDAデータベースがアクセス不能となっていた(FDA Internet Application Site (Accessdata) Errorと表示)。今話題の、CrowdStrikeのFalconセンサーのバグの影響なのだろうか?サイト全体の検索は可能だった。
     
    (追記:7月22日朝時点ではアクセス可能だった。)

    リンク: 同社のプレスリリース


    バイエル、ニュベクオの新併用法試験が成功
    (2024年7月17日発表)

    バイエルはNubeqa(和名ニュベクオ、darolutamide)の第3相ARANOTE試験で主目的を達成したと発表した。転移ホルモン感受性前立腺癌の患者にアンドロゲン枯渇療法と並行して600mgまたは偽薬を一日二回経口投与したもので、放射線学的PFS(無進行生存期間)に有意な差があった。データは今後発表する。承認申請に向かうのではないか。

    Nubeqaは非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニスト。米日欧で、ホルモン抵抗性だが未転移の前立腺癌にゴナドトロピン放出ホルモン剤と併用、あるいは、転移ホルモン感受前立腺癌に化学療法及びアンドロゲン枯渇療法と併用、することが承認されている。今回は後者の適応において化学療法を除外したレジメンの有効性を確認したことになる。化学療法による副作用が緩和されるので受け入れやすいかもしれない。

    同様な適応・用法ではファイザー/アステラス製薬のXtandi(enzalutamide)が19~21年に米日欧で適応拡大している。

    リンク: バイエルのプレスリリース

    【承認申請】


    アッヴィ、リンヴォックでまたまた適応追加申請
    (2024年7月12日発表)

    アッヴィは欧米でRinvoq(upadacitinib)を巨細胞動脈炎に適応追加申請した。第3相SELECT-GCA試験で標準療法であるコルチコステロイド治療を受けている患者を組入れて、Rinvoq(7.5mgまたは15mgを一日一回経口投与)または偽薬を追加しステロイドは用量漸減する手法を検討したところ、15mg群の第12~52週の持続的寛解率が46%と偽薬追加群の29%を有意に上回った。有害事象による中止率は15%対21%で増加せず、深刻有害事象発現率は23%対21%と若干の上昇に留まった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    小野の子会社がTGCT用薬を承認申請
    (2024年7月19日発表)

    小野薬品は、6月に企業価値ベース24億ドルで買収したDeciphera Pharmaceuticalsが欧州でDCC-3014(vimseltinib)を腱滑膜巨細胞腫(TGCT)用薬として承認申請し受理されたことを公表した。米国で先に申請する予定だったので、おそらく既に申請済みで待期期間中(FDAが申請に不備がないか予備的検討を行う)なのだろう。

    TGCT発症のトリガーとなるCSF1遺伝子転座を標的とする、CSF1受容体阻害剤。手術不適のTGCT患者を組入れて30mgを一日二回、経口投与した第3相MOTION試験で、ORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が40%と偽薬群の0%を有意に上回った。類薬は19年に米国で第一三共のTuralio(pexidartinib)が初のTGCT用薬として承認されているが、vimseltinibは肝毒性が見られず枠付き警告を回避できるかもしれない。

    リンク: 小野のプレスリリース(和文)


    欧州でオプジーボとヤーボイを未治療肝細胞腫に申請
    (2024年7月19日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブは、切除不能肝細胞腫の初めての全身性治療としてOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用する効能・用法追加をEUに申請し受理されたと発表した。CheckMate-9DW試験で全生存期間を医師がsorafenibまたはlenvatinibから選んで投与する群と比較したところ、ハザードレシオが0.79、p=0.018、メジアン生存期間は各群23.7ヶ月と20.6ヶ月と、統計的に高度に有意な訳ではないが、意味のある延命効果が示された。グレード3/4の治療関連有害事象発生率は41%と42%で大差なかった。

    この併用は20年に米国でsorafenib歴を持つ肝細胞腫向けに加速承認された。今回の試験が市販後薬効確認試験なので、米国では本承認切替と適応拡大を申請することになるだろう(既に申請済みだろう)。欧州では肝細胞腫は未承認。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    EMAが6年前に却下した承認申請を再検討へ
    (2024年7月8日発表)

    スペインの製薬会社PharmaMar(MSE:PHM)は、欧州委員会から、Aplidin(plitidepsin)の承認申請に関するEMA(欧州薬品庁)の却下決定を無効化した旨の通知を受けたと発表した。6年前の評価が覆るかもしれない、異例の事態だ。Hopveus判決の余波かもしれない。

    同社は16年に難治/再発多発骨髄腫の4次治療薬としてEUに承認申請したが、CHMPはPFSが1ヶ月伸びる程度で延命効果に繋がるかどうか不確かであることや、深刻副作用が増加することなどから、否定的に評価し、承認されなかった。同社は専門家委員会における一部の委員の利益相反やエビデンス評価の不備を主張して欧州裁判所に提訴し、20年にEU一般裁判所(General Court)が承認拒否を無効決定したものの、(欧州委員会ではなく)エストニアやドイツが上訴、23年に欧州司法裁判所(European Court of Justice)が原審破棄・差戻しを決定した。今回、再び、振り子が大きく振れたことになる。

    欧州委員会が再審査を要求したのは、審査に関与した専門家の一部がAplidinと競合する可能性のある開発品の開発に携わっていたことが主因である模様。今更なぜと思うが、欧州裁判所のHopveus判決の余波かもしれない。EMAがHopveus(sodium oxybate)をアルコール依存治療薬として承認しなかったためフランスのDebrégeas et associés Pharma SASが提訴した判例で、上訴審が原審を覆し、利益相反に関するEMAの判断などを手続法違反と認定したもの。その後、EMAは、今年3月に予定されていたエーザイ/バイオジェンのアルツハイマー病用薬Leqembi(lecanemab)に関する質疑を先送りしたり、PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)の条件付き承認を更新しないよう勧告したCHMP審査の再審査を決定したり、異変が続いている。

    PharmaMarは海洋生物由来の抗癌剤、Yondelis(trabectedin)の開発 ・実用化で知られる。Aplidinも地中海の尾索動物由来の成分を製品化したもの。各地で中外製薬などと提携して開発したが、今のところ承認されたという話は聞かない。エビデンスが盤石ならほかの国で承認されるだろうし、自信があれば他の用途用法の臨床開発も進めているだろうから、今回の件で承認に一歩近づいたかどうかは明らかではない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    アメリカン・タケキャブが非びらん性GERDに適応拡大
    (2024年7月18日発表)

    Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)は、FDAがVoquezna(vonoprazan)を非びらん性胃食道逆流症(GERD)による胸やけの治療に適応拡大したと発表した。第3相試験で胸やけを経験しなかった日数が観察期間の46%と偽薬群の27%を有意に上回った。

    武田薬品からライセンスしたカリウムイオン競合型アシッド・ブロッカー。日本で14年に胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ピロリ菌除菌用薬タケキャブとして承認され、米国では22年にピロリ菌除菌用抗生剤同梱製品が承認。その後、ニトロソアミン問題で開発承認が遅延したものの、昨年11月にびらん性GERDの治療に適応拡大が認められた。びらん性では20mgを一日一回、最大8週間治療した後、必要に応じて10mg一日一回の維持療法を施行する。非びらん性では10mg一日一回を最大4週間治療する。薬価は10mgも20mgも同じ、治療期間は非びらん性のほうが短いが処方薬による治療を受けている米国の患者数は約1500万人と、びらん性の700万人の倍。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
    24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
    24年8月推Sun Pharmaceuticalのdeuruxolitinib(円形脱毛症)
    24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
    24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
    24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
    24/8/4Adaptimmuneのafamitresgene autolecel(滑膜肉腫)
    24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
    24/8/11Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS
    24/8/13Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫)
    24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
    24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
    24/8/20セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ)
    24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    24/8/23GSKのJemperli(dostarlimab-gxly、内膜腫フロントライン)
    24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
    24年9月推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
    24年9月ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
    24/9/5Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替)
    24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
    24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
    24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)・・・3か月延期
    24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
    諮問委員会
    24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)
    24/8/2GeMDAC:Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)



    今週は以上です。

    2024年7月13日

    第1063回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • LAG-3融合蛋白がPD-L1陰性癌にも良績 
    • ハンチントン病の遺伝子療法 
    • アウィクリは米国では承認されず 
    • 局所性PDE4阻害剤がアトピーにも承認 
    • PRAC、GLP-1作用剤とグラチラマー酢酸塩の注意事項を追加 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    LAG-3融合蛋白がPD-L1陰性癌にも良績
    (2024年7月12日発表)

    オーストラリアのLAG-3薬開発会社、Immutep(ASX:IMM)はIMP321(eftilagimod alpha)の後期第2相頭頚部扁平上皮腫(HNSCC)試験、TACTI-003/KeyNote-PNC-34のコフォートBの結果をESMO(欧州臨床腫瘍学会)の7月のVirtual Plenariesで公表した。CPS(腫瘍や腫瘍浸潤T細胞におけるPD-L1発現度の指標)が1未満、つまり陰性の難治/進行HNSCCの一次治療にMSDのKeytruda(pembrolizumab)と併用したところ、ORR(客観的反応率、RECIST1.1ベース、n=31)が35.5%、完全反応率は9.7%だった。進行したら投与を打ち切るプロトコルだが、応答者の過半は半年以上、投与を続けている由。CPS陰性例における抗PD-L1抗体のORRは5.4%程度なので良好な成績だ。G3以上の治療時発現有害事象の発生率は15.2%だった。当局と承認申請に向けた道筋を相談する考え。

    同社はLAG-3を発見したFrédéric Triebelが2001年に設立、現在もCSOを務めている。IMP321、別名LAG-3IgはLAG-3の四つの細胞外ドメインをIgG1のFc領域と結合した融合蛋白で、抗原提示細胞のMHCクラスIIの一部に結合・アゴニズムして細胞性免疫を活性化させる。

    上記試験のコフォートCでは二次治療におけるORR(RECIST1.1ベース、n=37)が24%だった。このコフォートのメインの解析であるiRECISTベースのORRは30%で、CPS≧20の症例では60%、20未満では12%だった。このほかに、CPSが1以上の一次治療患者のコフォートAも進行中。また、her2陰性/低発現またはトリプル・ネガティブの転移乳癌における化学療法併用第2/3相試験なども実施中。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ハンチントン病の遺伝子療法
    (2024年7月9日発表)

    uniQure biopharma(Nasdaq:QURE)は早期ハンチントン病の遺伝子療法であるAMT-130の第1/2相試験の中間解析結果をプレスリリース等で公表した。加速承認の申請に向けてFDAと相談する考え。もっと大規模かつ長期の試験を求められた場合は共同開発パートナーを探す考え。

    AMT-130はハンチントン病に関わる変異遺伝子のエクソン1をmicroRNAで沈黙させる、AAV5ベクター遺伝子療法。MRIでモニタリングしながら線条体に持続陽圧下投与する。第1/2相は米国と欧州で別々に、低量群(6x10^12vg)、高量群(6x10^13vg)、偽手術群に割付け、術後の経過を観察している。今回公表されたのは、欧米の試験の合計39人(低量12人、高量17人、偽手術10人)の24ヶ月cUHDRS(複合ハンチントン病疾病評価尺度)。cUHDRSはハンチントン病の確立した評価尺度であるUHDRSを改変して、疾病進行との相関性を高めたもので、疾病装飾薬の効果を検討するのに適するとされる。

    結果は、低量群が-0.7、高量群は-0.2、外部対照群である傾向加重自然歴群(154人)は-1.0で、高量群の低下は対照群比有意に小さかった(p=0.007)。

    新しい尺度なので0.8という治療効果がどの程度有難いのか良く分からない。文献検索でヒットしたTrundellらの学会発表抄録では1.2の違いは臨床的に意味があると述べているが、例えばアルツハイマー病のアセチルコリン・エステラーゼ阻害剤も、効果は医学者が臨床的に意味があると評価した水準より低かった。FDAは、当時から、アルツハイマー病薬に関しては統計的に有意なら臨床的な意味は問わないと言われていたが、近年は、難病治療薬の承認基準を緩和する姿勢を更に明確にしており、この程度でも加速承認される可能性がありそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: Dylan TrundellらのAAN抄録(Neurology、2019年)

    【承認審査・委員会】


    アウィクリは米国では承認されず
    (2024年7月11日発表)

    ノボ ノルディスクは週一回皮下注用インスリン、Awiqli(insulin icodec)を糖尿病薬として開発し、今年5~6月にEUと日本で承認を取得したが、米国は審査期間延長を経て審査完了通知を受領した。製造プロセスと一型糖尿病に関する追加情報を求められたが、年内の対応はできない見通しだ。

    ヒト・インスリンのアミノ酸配列を一部装飾し脂肪酸を結合することで終末半減期を196時間と大きく伸ばした。特に、多忙だったり旅行中だったりする時の利便性が、向上する。弱点は血中濃度の安定性がTresiba(insulin degludec)のような一日一回皮下注用インスリンほどではないこと。一型糖尿病のONWARDS 6試験では中重度低血糖の発生率が人年当り17.0件とTresiba群の9.2件の1.8倍だった。二型糖尿病のONWARDS 2試験でも0.73件対0.27件で大きく上回った。

    FDAは5月に内分泌代謝学薬諮問委員会を招集して、一型糖尿病に関して意見を求めたが、11人の委員中7人が便益が危険を上回るとは言えないと判定した。

    欧日は承認したが、特に一型糖尿病に用いる場合は低血糖リスクを十分に検討するよう求めている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    局所性PDE4阻害剤がアトピーにも承認
    (2024年7月9日発表)

    Arcutis Biotherapeutics(Nasdaq:ARQT)はFDAがZoryve 0.15%クリームを6歳以上の軽中度アトピー性皮膚炎用薬として承認したと発表した。一日一回塗布した第3相試験二本で、奏効率(第4週に疾病評価尺度が0(クリア)または1(ほぼクリア)となり、且つ、ベースライン比2段階以上改善)が一本では32.0%(偽薬群は15.2%)、もう一本では28.9%(同12.0%)だった。

    アストラゼネカからライセンスしたPDE4阻害剤の局所性製剤で、0.3%クリームが22年に米国で12歳以上のプラク乾癬に、毛の生えている部位にも塗りやすい0.3%フォーム製剤が同じく23年に9歳以上の中重度脂漏性皮膚炎に、承認されている。日本は佐藤製薬が両製剤の開発販売権を取得した。

    リンク: Arcutis社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    PRAC、GLP-1作用剤とグラチラマー酢酸塩の注意事項を追加
    (2024年7月12日発表)

    EMA(欧州薬品庁)のPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は、7月の会議で、GLP-1作用剤やglatiramer acetateの有害事象を添付文書に追加するよう勧告した。正式採用されたらメーカーが改訂を行う。

    GLP-1作用剤は食物の胃排出を遅らせ空腹感を感じにくくする作用も持っているが、滞留した消化物が逆流し胃食道逆流症を齎す副作用も知られている。今回、手術のために全身麻酔や深い鎮静を行うと逆流による誤嚥や誤嚥性肺炎を招きかねないため、胃が空ではない可能性に留意するよう注意を促す。薬との因果関係は確立していない模様だ。

    glatiramer acetateは多発性硬化症の治療薬でオリジネイターのテバはCopaxone名で販売している。アナフィラキシー反応のリスクが知られているが、今回、治療を開始してから何ヶ月も経ってから発現することがあり、致死例もあることを添付文書に記載するとともに、Dear Healthcare Professional Letterを発出することを勧告した。症状が注射関連反応とオーバーラップするので診断が遅れる懸念があるようだ。発現したら投与を止める。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
    24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
    24/7/19Phathom PharmaceuticalsのVoquezna(vonoprazan、症候性非びらん性胃食道逆流症を追加)
    24年8月推Sun Pharmaceuticalのdeuruxolitinib(円形脱毛症)
    24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
    24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
    24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
    24/8/4Adaptimmuneのafamitresgene autolecel(滑膜肉腫)
    24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
    24/8/11Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS
    24/8/13Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫)
    24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
    24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
    24/8/20セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ)
    24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    24/8/23GSKのJemperli(dostarlimab-gxly、内膜腫フロントライン)
    24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
    24年9月推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
    24年9月ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
    24/9/5Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替)
    24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
    24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
    24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)・・・3か月延期
    24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
    諮問委員会
    24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)



    今週は以上です。

    2024年7月7日

    第1062回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 抗TIGHT抗体の第3相がまたフェール 
    • 抗PD-L1抗体をcSCCに再承認申請 
    • 神経線維腫症1型用薬を承認申請 
    • 古典的先天性副腎過形成治療薬を承認申請 
    • 抗SARS-Cov2抗体を欧州で承認申請 
    • リリーのアルツハイマー病薬も承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    抗TIGHT抗体の第3相がまたフェール
    (2024年8月23日発表)

    ロシュはRG6058(tiragolumab)の第2/3相SKYSCRAPER-06試験についてアップデートした。未治療の局所進行切除不能/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌で一次治療を受ける542人を組入れて、pemetrexedとcisplatin/carboplatin、そしてKeytruda(pembrolizumab)の標準的レジメンと、Keytrudaに代えてTecentriq(atezolizumab)とtiragolumabを併用する群の便益を比較したが、PFS(無進行生存期間、治験医評価)のハザード・レシオは1.27(95%信頼区間1.02、1.57)とむしろ有害、全生存の第1中間解析は未成熟だがハザード・レシオ1.33(同1.02、1.73)と整合的であるため、臨床試験を中止する。

    活性化したT細胞やNK細胞の受容体であるTIGHTに結合して免疫抑制的刺激を受けないようにする抗体。抗PD-(L)1抗体とのシナジーが期待されたが、今までのところは各社苦戦している。Fc領域非装飾型のtiragolimabの場合、進展型小細胞性肺癌一次治療において化学療法とTecentriqのレジメンにtiragolumabを追加したSKYSCRAPER-02試験が22年にフェール、PFSを延長できなかった。同年にはPD-L1高発現非小細胞性肺癌においてTecentriqに追加したSKYSCRAPER-01試験もPFSがフェールした。但し共同主評価項目の全生存期間は第2次中間解析でまあまあなトレンドを示しており、最終解析が待たれる。

    アジアで実施された食道扁平上皮腫一次治療試験、SKYSCRAPER-08は成功し、共同主評価項目である全生存期間のハザード・レシオが0.70、p=0.0024、メジアン生存期間は15.7ヶ月、対照群は11.1ヶ月と、なかなか良かった。但し、この試験は化学療法二剤併用と、Tecentriq及びtiragolumabを加えた4剤併用を比較したものだ。Keytrudaだけを追加したKeyNote-590試験では、全生存期間のハザードレシオが0.73、メジアン生存期間は12.4ヶ月と9.8ヶ月となっており、抗TIGHT抗体も投与する上乗せがなんぼのものか、良く分からない。

    ロシュは今回の結果に基づき、tiragolumabの他の臨床試験について見直しが必要か検討する考え。

    リンク: ロシュのプレスリリース

    【承認申請】


    抗PD-L1抗体をcSCCに再承認申請
    (2024年7月2日発表)

    米国のマイアミの医薬品開発会社、Checkpoint Therapeutics(Nasdaq:CKPT)は、cosibelimabを治癒目的の切除術や放射線療法に適さない局所進行/転移皮膚扁平上皮腫(cSCC)に米国で再承認申請したと発表した。2015年にDana-Farber Cancer Instituteからライセンスした抗PD-L1抗体で、類薬が数多ありcSCCの適応を持つ先行品も複数存在するが、価格を2~3割安に設定してアピールする考え。まあ、米国の場合は薬価を下げるより医療保険/薬剤費給付組織に対するリベートを増やす方がシェア拡大に有効であるようだが。

    臨床成績は転移性のcSCC78人ではORR(客観的反応率、独立中央評価)が47%、局所進行性31人では55%だった。23年1月に承認申請したが、複数の会社の承認申請に関わる生産施設査察で指摘事項があったため、12月に審査完了通知を受領した。6月のFDA会合で年央に再申請することでFDA側と一致した由。

    リンク: 同社のプレスリリース


    神経線維腫症1型用薬を承認申請
    (2024年7月1日発表)

    米国コネチカット州のSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)は、mirdametinibを成人と青少年の切除不能NF1-PN(神経線維腫症1型関連叢状神経線維腫)の治療薬として米国で承認申請手続きを終えた。後期第2相試験で確認ORR(盲検独立中央評価)が2歳以上の青少年では52%、成人では41%だった。

    ファイザーからライセンスしたアロステリックMEK1/2阻害剤。NF1はMAPK経路のサプレッサーであるneurofibrominの遺伝子の変異による常染色体性優性遺伝性疾患で、年間罹患数は米国で約10万人。30-50%が叢状神経線維腫を合併する。アストラゼネカのMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)が20~22年に米欧日で承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース


    古典的先天性副腎過形成治療薬を承認申請
    (2024年7月1日発表)

    Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)は米国でNBI-74788(crinecerfont)を古典的CAH(先天性副腎過形成)用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限はカプセル剤が24年12月29日、経口液が12月30日。小児にも承認されれば小児希少疾患用薬優先審査バウチャを受領することができる。

    古典的CAHは常染色体性劣性遺伝性疾患。コルチゾールなどの生成に必要な21OHD(21水酸化酵素)が遺伝子変異により欠乏し、塩喪失や脱水などを招く。ステロイドが有効だが高量が必要。NBI-74788はCRF1(コルチコトルピン放出因子受容体1)拮抗剤。臨床試験ではアンドロゲン管理を悪化させずにステロイド服用量を抑制できた。血清アンドロステンジオン量も有意に減少した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    抗SARS-Cov2抗体を欧州で承認申請
    (2024年7月1日発表)

    アストラゼネカはAZD3152(sipavibart)を欧州で承認申請し受理されたと発表した。免疫力が低下する疾患や免疫抑制治療を受けている人の曝露後予防に、300mgを一回筋注する。臨床試験では同社のEvusheld(tixagevimab、cilgavimab・・・今日のウイルス型には無効)や偽薬を投与した群と比べて全変異株と、F456L変異を持たない変異株に関する症候性COVID-19感染症を有意に抑制した。データは未発表。オックスフォード大学発のベンチャー、RQ Biotechnologyからライセンスしたもの。

    主評価項目にも示されているように、F456L変異を持つウイルスには免疫回避されてしまう可能性があるため、このサブグループにおけるデータが注目される。当該変異株のうちEG.5.1(通称Eris)やFL.1.5.1(通称Fornax)は流行が一巡した様子だが、KP.3検出例はこの数ヶ月間に各地で急増している。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    リリーのアルツハイマー病薬も承認
    (2024年7月2日発表)

    FDAはイーライリリーのKisunla(donanemab-azbt)を成人の症候性アルツハイマー病として承認した。早期段階と診断され、MRI検査でアミロイド・ベータの蓄積が認めれられた患者に用いる。第3相試験でCDR-SB(Clinical Dementia Rating Scale。ベースライン値は3.90)が76週後に1.72低下し、偽薬群の2.42低下と比べて29%小さかった。主な有害事象はARIA(抗体関連造影異常)で、微小出血型の発生率が25%(偽薬群は11%)、脳表ヘモジデリン沈着型が15%(同3%)、浮腫型が24%(同2%)だった。2回目、3回目、4回目、7回目の投与前にもPET検査を行い、投与の当否を判定する。

    類薬であるエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)との違いは、効果はおそらく同程度、ARIAの発現率はLeqmebiのほうが低そうだ(異なった試験の副作用の発現率を比較するのは色々な問題があるが、抗アミロイド・ベータ抗体に特徴的な、そして注目されている有害事象だけに、判定基準が大きく異なっていたり、片方の試験だけ見落としが多発することは考え難い)。投与の手間暇は4週毎30分点滴静注のKisunlaのほうが2週毎30~60分点滴静注のLeqembiより負担が軽い。米国はMRIの普及率が日本ほどではないので遠距離通院となる患者が多いだろうから、軽視できない違いだ。薬剤費は一回当り695.65ドルで1年間治療した場合32000ドルとLeqembiの26500ドルより高い。但し、MRI検査でアミロイド・ベータが検出されなくなったら治療を止めるプロトコルが採用されている。第3相では被験者の47%が12ヶ月間の投与で終了しており、2年間の薬剤費の期待値はLeqembiを下回ることになる(Leqembiも早晩、同様な打切り基準が導入されると推測されるが)。

    日本でも承認申請中。

    ところで、アップルがVRゴーグルを発売するらしいが、スマホもスマートバンドも中国製の私にとっては朗報でも画期的でもない。異次元の話だ。なんにせよ、若い人たちは、医療費の自己負担だけで国民年金が吹っ飛びかねない時代が来たことを理解し、個人年金でもNISAでも自ら蓄財して不測に備える必要がある。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: イーライリリーのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    GLP-1作用剤と虚血性視神経症
    (2024年7月3日発表)

    ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤semaglutideとNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)の関連を示唆する後顧的研究論文がJAMA Ophthalmology誌のホームページで電子刊行された。

    ハーバード大学病院系のマサチューセッツ・アイ・アンド・イヤーで短期間に複数のNAION患者が診断され、全員semaglutideによる治療を受けていたことにレジデントが気付いたことを発端に、2017~23年に同病院で神経眼科的診断を受けた16827人のマッチドコフォート研究を行って、semaglutide群とGLP-1作用剤を使っていない群の36ヶ月超の期間におけるNAION累積発生率を比較したもの。結果は、二型糖尿病患者ではsemaglutide群(194人)中8.9%、対照群(516人)では1.8%、Cox比例ハザードモデルによるハザード・レシオは4.28(95%信頼区間1.62-11.29)、p<0.001だった。肥満またはオーバーウェイトでは各群361人中6.7%と618人中0.8%で、ハザード・レシオ7.64(2.21-26.6)、p<0.001だった。

    多施設の疫学研究や前向き研究で確認すべきだろう。

    NAIONは失明の原因として緑内障に次ぐ第2位。但し、4割程度は臨床的に意味のある改善を示すと言われている。50歳以上の一般集団における発症率は10万人当り年2~10人と推定されている。二型糖尿病や高血圧など、動脈硬化を齎す疾患との関連が指摘されている。薬との関係では不整脈治療薬amiodaroneやEDなどの治療に用いられるPDE5阻害剤でも報告されたことがある。二型糖尿病で強度血糖管理を行うと発症することもあるようだ。もし薬のせいだとしても、血糖管理の便益と秤にかける必要がある。

    リンク: Hathawayらの疫学試験論文(JAMA Ophthalmology、オンライン刊行)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
    24年7月推ノボ ノルディスクのNN1436(insulin icodec、週一回投与用インスリン)
    24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
    24/7/7/Arcutis BiotherapeuticsのZoryve(roflumilast、ADの適応追加)
    24/7/19Phathom PharmaceuticalsのVoquezna(vonoprazan、症候性非びらん性胃食道逆流症を追加)
    24年8月推Sun Pharmaceuticalのdeuruxolitinib(円形脱毛症)
    24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
    24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
    24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
    24/8/4Adaptimmuneのafamitresgene autolecel(滑膜肉腫)
    24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
    24/8/11Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS
    24/8/13Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫)
    24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
    24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
    24/8/20セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ)
    24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    24/8/23GSKのJemperli(dostarlimab-gxly、内膜腫フロントライン)
    24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
    諮問委員会
    24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)



    今週は以上です。