2024年7月7日

第1062回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗TIGHT抗体の第3相がまたフェール 
  • 抗PD-L1抗体をcSCCに再承認申請 
  • 神経線維腫症1型用薬を承認申請 
  • 古典的先天性副腎過形成治療薬を承認申請 
  • 抗SARS-Cov2抗体を欧州で承認申請 
  • リリーのアルツハイマー病薬も承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


抗TIGHT抗体の第3相がまたフェール
(2024年8月23日発表)

ロシュはRG6058(tiragolumab)の第2/3相SKYSCRAPER-06試験についてアップデートした。未治療の局所進行切除不能/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌で一次治療を受ける542人を組入れて、pemetrexedとcisplatin/carboplatin、そしてKeytruda(pembrolizumab)の標準的レジメンと、Keytrudaに代えてTecentriq(atezolizumab)とtiragolumabを併用する群の便益を比較したが、PFS(無進行生存期間、治験医評価)のハザード・レシオは1.27(95%信頼区間1.02、1.57)とむしろ有害、全生存の第1中間解析は未成熟だがハザード・レシオ1.33(同1.02、1.73)と整合的であるため、臨床試験を中止する。

活性化したT細胞やNK細胞の受容体であるTIGHTに結合して免疫抑制的刺激を受けないようにする抗体。抗PD-(L)1抗体とのシナジーが期待されたが、今までのところは各社苦戦している。Fc領域非装飾型のtiragolimabの場合、進展型小細胞性肺癌一次治療において化学療法とTecentriqのレジメンにtiragolumabを追加したSKYSCRAPER-02試験が22年にフェール、PFSを延長できなかった。同年にはPD-L1高発現非小細胞性肺癌においてTecentriqに追加したSKYSCRAPER-01試験もPFSがフェールした。但し共同主評価項目の全生存期間は第2次中間解析でまあまあなトレンドを示しており、最終解析が待たれる。

アジアで実施された食道扁平上皮腫一次治療試験、SKYSCRAPER-08は成功し、共同主評価項目である全生存期間のハザード・レシオが0.70、p=0.0024、メジアン生存期間は15.7ヶ月、対照群は11.1ヶ月と、なかなか良かった。但し、この試験は化学療法二剤併用と、Tecentriq及びtiragolumabを加えた4剤併用を比較したものだ。Keytrudaだけを追加したKeyNote-590試験では、全生存期間のハザードレシオが0.73、メジアン生存期間は12.4ヶ月と9.8ヶ月となっており、抗TIGHT抗体も投与する上乗せがなんぼのものか、良く分からない。

ロシュは今回の結果に基づき、tiragolumabの他の臨床試験について見直しが必要か検討する考え。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


抗PD-L1抗体をcSCCに再承認申請
(2024年7月2日発表)

米国のマイアミの医薬品開発会社、Checkpoint Therapeutics(Nasdaq:CKPT)は、cosibelimabを治癒目的の切除術や放射線療法に適さない局所進行/転移皮膚扁平上皮腫(cSCC)に米国で再承認申請したと発表した。2015年にDana-Farber Cancer Instituteからライセンスした抗PD-L1抗体で、類薬が数多ありcSCCの適応を持つ先行品も複数存在するが、価格を2~3割安に設定してアピールする考え。まあ、米国の場合は薬価を下げるより医療保険/薬剤費給付組織に対するリベートを増やす方がシェア拡大に有効であるようだが。

臨床成績は転移性のcSCC78人ではORR(客観的反応率、独立中央評価)が47%、局所進行性31人では55%だった。23年1月に承認申請したが、複数の会社の承認申請に関わる生産施設査察で指摘事項があったため、12月に審査完了通知を受領した。6月のFDA会合で年央に再申請することでFDA側と一致した由。

リンク: 同社のプレスリリース


神経線維腫症1型用薬を承認申請
(2024年7月1日発表)

米国コネチカット州のSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)は、mirdametinibを成人と青少年の切除不能NF1-PN(神経線維腫症1型関連叢状神経線維腫)の治療薬として米国で承認申請手続きを終えた。後期第2相試験で確認ORR(盲検独立中央評価)が2歳以上の青少年では52%、成人では41%だった。

ファイザーからライセンスしたアロステリックMEK1/2阻害剤。NF1はMAPK経路のサプレッサーであるneurofibrominの遺伝子の変異による常染色体性優性遺伝性疾患で、年間罹患数は米国で約10万人。30-50%が叢状神経線維腫を合併する。アストラゼネカのMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)が20~22年に米欧日で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


古典的先天性副腎過形成治療薬を承認申請
(2024年7月1日発表)

Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)は米国でNBI-74788(crinecerfont)を古典的CAH(先天性副腎過形成)用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限はカプセル剤が24年12月29日、経口液が12月30日。小児にも承認されれば小児希少疾患用薬優先審査バウチャを受領することができる。

古典的CAHは常染色体性劣性遺伝性疾患。コルチゾールなどの生成に必要な21OHD(21水酸化酵素)が遺伝子変異により欠乏し、塩喪失や脱水などを招く。ステロイドが有効だが高量が必要。NBI-74788はCRF1(コルチコトルピン放出因子受容体1)拮抗剤。臨床試験ではアンドロゲン管理を悪化させずにステロイド服用量を抑制できた。血清アンドロステンジオン量も有意に減少した。

リンク: 同社のプレスリリース


抗SARS-Cov2抗体を欧州で承認申請
(2024年7月1日発表)

アストラゼネカはAZD3152(sipavibart)を欧州で承認申請し受理されたと発表した。免疫力が低下する疾患や免疫抑制治療を受けている人の曝露後予防に、300mgを一回筋注する。臨床試験では同社のEvusheld(tixagevimab、cilgavimab・・・今日のウイルス型には無効)や偽薬を投与した群と比べて全変異株と、F456L変異を持たない変異株に関する症候性COVID-19感染症を有意に抑制した。データは未発表。オックスフォード大学発のベンチャー、RQ Biotechnologyからライセンスしたもの。

主評価項目にも示されているように、F456L変異を持つウイルスには免疫回避されてしまう可能性があるため、このサブグループにおけるデータが注目される。当該変異株のうちEG.5.1(通称Eris)やFL.1.5.1(通称Fornax)は流行が一巡した様子だが、KP.3検出例はこの数ヶ月間に各地で急増している。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


リリーのアルツハイマー病薬も承認
(2024年7月2日発表)

FDAはイーライリリーのKisunla(donanemab-azbt)を成人の症候性アルツハイマー病として承認した。早期段階と診断され、MRI検査でアミロイド・ベータの蓄積が認めれられた患者に用いる。第3相試験でCDR-SB(Clinical Dementia Rating Scale。ベースライン値は3.90)が76週後に1.72低下し、偽薬群の2.42低下と比べて29%小さかった。主な有害事象はARIA(抗体関連造影異常)で、微小出血型の発生率が25%(偽薬群は11%)、脳表ヘモジデリン沈着型が15%(同3%)、浮腫型が24%(同2%)だった。2回目、3回目、4回目、7回目の投与前にもPET検査を行い、投与の当否を判定する。

類薬であるエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)との違いは、効果はおそらく同程度、ARIAの発現率はLeqmebiのほうが低そうだ(異なった試験の副作用の発現率を比較するのは色々な問題があるが、抗アミロイド・ベータ抗体に特徴的な、そして注目されている有害事象だけに、判定基準が大きく異なっていたり、片方の試験だけ見落としが多発することは考え難い)。投与の手間暇は4週毎30分点滴静注のKisunlaのほうが2週毎30~60分点滴静注のLeqembiより負担が軽い。米国はMRIの普及率が日本ほどではないので遠距離通院となる患者が多いだろうから、軽視できない違いだ。薬剤費は一回当り695.65ドルで1年間治療した場合32000ドルとLeqembiの26500ドルより高い。但し、MRI検査でアミロイド・ベータが検出されなくなったら治療を止めるプロトコルが採用されている。第3相では被験者の47%が12ヶ月間の投与で終了しており、2年間の薬剤費の期待値はLeqembiを下回ることになる(Leqembiも早晩、同様な打切り基準が導入されると推測されるが)。

日本でも承認申請中。

ところで、アップルがVRゴーグルを発売するらしいが、スマホもスマートバンドも中国製の私にとっては朗報でも画期的でもない。異次元の話だ。なんにせよ、若い人たちは、医療費の自己負担だけで国民年金が吹っ飛びかねない時代が来たことを理解し、個人年金でもNISAでも自ら蓄財して不測に備える必要がある。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


GLP-1作用剤と虚血性視神経症
(2024年7月3日発表)

ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤semaglutideとNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)の関連を示唆する後顧的研究論文がJAMA Ophthalmology誌のホームページで電子刊行された。

ハーバード大学病院系のマサチューセッツ・アイ・アンド・イヤーで短期間に複数のNAION患者が診断され、全員semaglutideによる治療を受けていたことにレジデントが気付いたことを発端に、2017~23年に同病院で神経眼科的診断を受けた16827人のマッチドコフォート研究を行って、semaglutide群とGLP-1作用剤を使っていない群の36ヶ月超の期間におけるNAION累積発生率を比較したもの。結果は、二型糖尿病患者ではsemaglutide群(194人)中8.9%、対照群(516人)では1.8%、Cox比例ハザードモデルによるハザード・レシオは4.28(95%信頼区間1.62-11.29)、p<0.001だった。肥満またはオーバーウェイトでは各群361人中6.7%と618人中0.8%で、ハザード・レシオ7.64(2.21-26.6)、p<0.001だった。

多施設の疫学研究や前向き研究で確認すべきだろう。

NAIONは失明の原因として緑内障に次ぐ第2位。但し、4割程度は臨床的に意味のある改善を示すと言われている。50歳以上の一般集団における発症率は10万人当り年2~10人と推定されている。二型糖尿病や高血圧など、動脈硬化を齎す疾患との関連が指摘されている。薬との関係では不整脈治療薬amiodaroneやEDなどの治療に用いられるPDE5阻害剤でも報告されたことがある。二型糖尿病で強度血糖管理を行うと発症することもあるようだ。もし薬のせいだとしても、血糖管理の便益と秤にかける必要がある。

リンク: Hathawayらの疫学試験論文(JAMA Ophthalmology、オンライン刊行)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
24年7月推ノボ ノルディスクのNN1436(insulin icodec、週一回投与用インスリン)
24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
24/7/7/Arcutis BiotherapeuticsのZoryve(roflumilast、ADの適応追加)
24/7/19Phathom PharmaceuticalsのVoquezna(vonoprazan、症候性非びらん性胃食道逆流症を追加)
24年8月推Sun Pharmaceuticalのdeuruxolitinib(円形脱毛症)
24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
24/8/4Adaptimmuneのafamitresgene autolecel(滑膜肉腫)
24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
24/8/11Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS
24/8/13Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫)
24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/8/20セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ)
24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
24/8/23GSKのJemperli(dostarlimab-gxly、内膜腫フロントライン)
24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
諮問委員会
24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)



今週は以上です。

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