2024年3月2日

第1144回

【ニュース・ヘッドライン】

  • ACIP、RSVワクチンの有害事象報告を検討 
  • エボラ・ワクチンで濃厚接触者の死亡が半減 
  • Ironwood社、週一回投与型短腸症候群用薬の第3相が成功 
  • GSK、ナイセリア淋病治療試験が成功 
  • Palatinのドライアイ試験、今回も部分的には良績 
  • UCB、米国でもビンゼレックスを乾癬性関節炎などに適応拡大申請 
  • Minerva社のroluperidoneは案の定、承認されず 
  • 抗EGFRxMET抗体を一次治療に承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


ACIP、RSVワクチンの有害事象報告を検討
(2024年月日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)で、23年に初承認されたRSVワクチン2製品の有害事象に関する市販後アップデートがあった。承認時の懸案事項であったギランバレー症候群(GBS)などの深刻有害事象が報告されているものの、RSV感染による入院や死亡を抑制する便益のほうが大きいと結論された。

VAERS(ワクチン有害事象報告システム)に届出された60歳以上における深刻有害事象はGSKのArexvyが169件(100万回接種当り25.6)、ファイザーのAbrysvoは91件(同29.7)だった。内容は呼吸困難、無力症、疲労、歩行障害など。GBSは30件あり、このうちCDCが確認した症例の100万回当り発生率は各製品1.2と4.6だった。バックグラウンド発生率は文献によると5.2で、ワクチン接種により大きく増加するようには見えなかった(何れも42日間の発生率)。

一方、メディケアのデータを用いた65歳以上の分析ではArexvyが10、Abrysvoが25で、95%信頼区間はバックグラウンド・データとオーバーラップしているものの、数値上はワクチン接種後が上回った。

便益は、RSV感染による入院が2年間にArexvyで2400件、Abrysvoも2700件減少すると推定された。入院後の死亡も各120人と140人、減少する見込み。感染後のリスクは年齢と共に上昇するので、便益もArexyの場合で60~64歳はRSV入院の減少が100万回当り1100件だが、65~69歳は1500件、70~74歳は1900人、75~79歳は3200人、80歳以上は6000人と増加していく。年齢以外にも慢性肺疾患や心不全、免疫低下、長期療養施設入居などに該当する人は便益が大きいと予想される。

60歳以上におけるRSVワクチンの接種率は22%に留まっている。ACIPは接種勧奨を合併症リスクの高い人に限定しているが、懸案であった炎症性神経学的事象に関する市販後監視データが集積され大きな問題が浮上しなければ、限定を緩和するかもしれない。

リンク: ACIP2月28-29日会議のプレゼン・スライドのリンク頁


エボラ・ワクチンで濃厚接触者の死亡が半減
(2024年2月7日発表)

MSDが開発した弱毒化ザイール種エボラ・ウイルス・ワクチン、Ervebo(rVSV∆G-ZEBOV-GP)の後顧的疫学研究論文がLancet Infectious Diseases誌に刊行された。コンゴ民主共和国(旧ザイール)で流行した18年7月から20年4月に治療を受けた2279人の転帰を調べたところ、未接種者は1015人中570人、56%が死亡したのに対して、接種者は423人中106人、25%に留まった。接種から発症までの期間が長いほどハザードレシオが低かったが、2日以内のケースでも0.56と良好な成績が出た。年齢や性別による偏りは見られなかった。

コンゴ民主共和国では、18年の再流行時にMSF(国境なき医師団)が上記ワクチンの接種を提案し、政府も反対しなかったことから、MSDが30万回分を備蓄する計画を立てた。しかし、その時点では未承認であったことから東部地域などで反対意見が広がり、政府が接種を終了した。これほど効果が高いのに上記のワクチン接種者数が驚くほど少ないのは、偏見や無理解だけが原因ではないにしても、残念なことだ。エボラの致死率の高さは周知であったのだから、そして、全国民ではなくリスクが特に高い、感染者の濃厚接触者に限定して接種する計画だったのだから、もう少し何とかならなかったのだろうか。

今回の研究により、発症予防効果だけでなく大きな救命効果もあることが明らかになったので、次回の流行時には広く普及することが期待される。

リンク: Luqueroらの疫学論文抄録(Lancet Infectious Diseases)

【新薬開発】


Ironwood社、週一回投与型短腸症候群用薬の第3相が成功
(2024年2月29日発表)

Ironwood Pharmaceuticals(Nasdaq:IRWD)はapraglutideの第3相短腸症候群試験で主目的を達成したと発表した。しかし、結腸の機能が比較的悪化していないサブグループにおける便益が明確でなかったため、株価は下落した。

武田薬品のGattex(和名レベスティブ、teduglutide)と類似した皮下注用GLP-2類縁体。Gattexは投与頻度が一日一回、Zealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)が昨年12月に米国で承認申請したZP 1848(glepaglutide)は週二回であるのに対して週一回で足りる点が長所。

第3相のSTARS試験は腸管不全を伴う短腸症候群の成人164人を組入れて経静脈栄養依存の改善を図った。週間経静脈栄養量が24週間で25.5%減少、偽薬群の12.5%減比で有意な差があった。主要な副次的評価項目のうち、経静脈栄養サポートが必要な日数が1日以上減少した患者の比率は43.0%対27.5%、ストーマを有するサブグループにおける経静脈栄養量の減少率は25.6%対7.8%で有意差があったが、colon-in-continuityサブグループにおいて経静脈栄養サポートが必要な日数が1日以上減少した患者の比率は51.8%対44.4%、48週時点で腸自立を達成した患者の比率は12.5%(56人中7人)対7.4%(27人中2人)でどちらもトレンドに留まった。

評価項目が若干異なるので他の薬の成績と比較するのは難しいが、特に優れているようには見えない。

23年に買収したスイスのVectivBioの開発品で、元々は実質的な前身企業であるTherachonが18年にカナダのGLyPharma Therapeuticsを買収して入手したもの。日本は旭化成ファーマが開発販売権を取得した。

リンク: 同社のプレスリリース


GSK、ナイセリア淋病治療試験が成功
(2024年2月26日発表)

GSKは新規作用機序の抗菌剤、GSK2140944(gepotidacin)の第3相非複雑性泌尿生殖器ナイセリア淋病試験で目的を達成した。600人の男女を組入れたEAGLE-1試験で750mg錠4錠を医療施設で一回、10~12時間後に自宅で一回、服用した群の微生物学的奏効率が標準療法群(ceftriaxone筋注とazithromycin経口投与)比で非劣性だった。

nitrofurantoinに感受しそうな単純性尿路感染症の女性を組入れた第3相二本も750mg錠2錠を一日二回、5日間投与した群の臨床的・微生物学的奏効率がnitrofurantoin群(一日二回、5日コース)と非劣性で、一本では優越性解析も成功したことが昨年、学会発表されている。同社は今年下期に米国で承認申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


Palatinのドライアイ試験、今回も部分的には良績
(2024年2月28日発表)

Palatin Technologies(NYSE American:PTN)は、メラノコルチン受容体汎アゴニストPL9643の第3相MELODY-1試験のトップラインを発表した。第2相試験の時と同様に好成績であったかのような書きぶりだが、第2相試験の時と同様に共同主評価項目はどちらもフェールした。何れにせよ承認申請前にもう一本実施するだろうから、有効なのか一歩届かないのか、結論は持ち越しだ。

この試験は米国の施設でドライアイの患者575人を組入れて、一日3回点眼する効果を偽薬と比較した。主評価項目は12週間治療後の疼痛とリサミングリーン結膜染色。疼痛はp=0.03となったが閾値はクリアできなかった。年齢と性別の調整後では0.025を下回ったと記されているので、おそらく各主評価項目にアルファを0.025ずつ配分したのだろう。目の治療関連有害事象発生率は5.6%(偽薬群は6.3%)、治験中止率は7.0%(同11.1%)だった。

データを精査してFDAと次の第3相試験について相談する考え。パートナー探しも続ける予定。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

【承認申請】


UCB、米国でもビンゼレックスを乾癬性関節炎などに適応拡大申請
(2024年2月28日発表)

UCBはBimzelx(bimekizumab-bkzx)を以下の4疾患に用いる適応拡大をFDAに申請した。この抗IL-17A・抗IL-17-F二重特異性抗体はEUでは21年に、日本でも22年にプラク乾癬など治療薬として承認されたが、米国はCOVID-19流行に伴う連邦政府の渡航制限の影響で工場査察などができなかったことなどから、23年10月に遅れた。そのせいか、適応拡大申請もEUと比べて遅れ気味だ。

・乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎・・・EUでは23年6月、日本でも同年12月に承認
・化膿性汗腺炎・・・EUでは23年7月に、日本でも同年11月に適応追加申請受理

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Minerva社のroluperidoneは案の定、承認されず
(2024年2月27日発表)

Minerva Neurosciences(Nasdaq:NERV)はroluperidoneを統合失調症の陰性症状治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。承認申請前のタイプCミーティングでエビデンス不足を指摘され、承認申請を強行したが受理されず、タイプAミーティングで説得したが受け入れられず、不服申立てしたところ、審査担当者の疑義は承認審査で検討すべきもので受理を拒否する理由にはならないと認められ、やっと受理された。このような経緯なので、門前払いは避けられたが玄関で追い返される結末になった。もしこの薬が本当に価値があるなら、再試験を実施せず3年間を徒に費やした罪は重い。

roluperidoneは田辺三菱製薬からライセンスしたアルファ-1a、5-HT2A、そしてシグマ-2のアンタゴニスト。米国外で実施された後期第2相試験でPositive and Negative Syndrome Scaleの陰性症状に関わる二つのドメインが偽薬比有意に改善したが、米国の第3相はフェールした。専ら前者の試験に基づき申請したが、FDAはこの薬の治療効果の臨床的な重要性に疑問を呈し、また、モノセラピーとしての申請だがオフレーベルで使用される可能性があるため併用試験で安全性等を確認するよう求めた。更に、申請用量である64mgを12ヶ月以上投与した安全性症例数の不足も指摘した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


抗EGFRxMET抗体を一次治療に承認
(2024年3月1日発表)

FDAはJNJグループのJanssen BiotechのEGFRとMETを標的とする二重特異性抗体、Rybrevant(amivantamab-vmjw)の適応拡大を承認した。EGFR遺伝子にエクソン20欠損変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療にcarboplatinおよびpemetrexedと併用するもの。第3相PAPILLON試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン11.4ヶ月とcarboplatin・pemetrexed群の6.7ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.395だった。全生存期間の解析は未成熟だがESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によるとハザードレシオ0.67、p=0.106と、好ましい方向を指している。

21年にEGFR遺伝子にエクソン20欠損変異を持ち白金薬レジメンによる治療歴を持つ転移非小細胞性肺癌に単剤投与する薬として加速承認されたが、市販後薬効確認試験を兼ねるPAPILLON試験が成功したため、本承認に切替えられた。

ところで、carboplatinとpemetrexedの併用法は扁平上皮以外の非小細胞性肺癌に限定されているが、上記試験もRybrevantの適応も限定されていない。上記試験のデータは把握していないが、再発治療試験の患者背景を見ると95%が腺腫とのことなので、扁平上皮腫にはエクソン20欠損がほとんどなく改めて除外する必要がないのだろう。

エクソン20欠損は非小細胞性肺癌の2~3%を占める希少変異で、初期のEGFR阻害剤に抵抗性を持つ。PAPILLON試験の被験者の約半分は喫煙歴がなく、また、約半分はアジア人種と、かなり偏りがある。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24年3月推BeiGeneのBrukinsa(zanubrutinib、FL obinutuzumab併用)
24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
24年3月推アストラゼネカのFluMist(インフルエンザワクチン、自己噴霧解禁)
24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24/3/4Vanda PharmaceuticalsのHetlioz(tasimelteon、入眠障害追加)
24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
24/4/5BMSのOpdivo(nivolumab、尿路上皮腫化学療法併用一次治療)
24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
諮問委員会
24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



今週は以上です。

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