2024年3月16日

第1146回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アドセトリス、B細胞リンパ腫でも試験成功 
  • 抗IL-17A蛋白の乾癬性関節炎試験は結局、上手く行った? 
  • Nuplazid、最後の適応拡大試験もフェール 
  • トレムフィアを潰瘍性大腸炎にも申請 
  • FDA諮問委員会、BCMA標的CAR-Tの早期使用を支持 
  • FDA諮問委員会、テロメラーゼ阻害剤の承認を支持 
  • 初のNASH用薬が承認 
  • ブレヤンジがCLLに適応拡大 
  • 中華抗PD-1抗体が遂に米国で承認 
  • IBAT阻害剤が肝内胆汁鬱滞症に適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


アドセトリス、B細胞リンパ腫でも試験成功
(2024年3月12日発表)

ファイザーはAdcetris(brentuximab vedotin)の第3相ECHELON-3試験が良好な結果になったと発表した。成人の2次または3次治療歴を持ち幹細胞移植/CAR-T治療に適さないびまん性大細胞型B細胞リンパ腫をCD30発現の有無を問わずに組み入れて、lenalidomideとrituximabのレジメンに追加する便益を偽薬追加群と比較したところ、統計的に有意な、そして臨床的に意味のある延命効果が見られた。副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)の解析も成功した。適応拡大を申請する考え。数値は未発表。

Adcetrisは武田薬品と共同開発販売している抗CD30抗体薬物複合体。古典的ホジキン型リンパ腫における様々な用法や、全身性未分化大細胞リンパ腫などCD30陽性T細胞系リンパ腫に承認されているが、遂にB細胞リンパ腫にも進出してきた。

リンク: ファイザーのプレスリリース


抗IL-17A蛋白の乾癬性関節炎試験は、結局、上手く行った?
(2024年3月11日発表)

米国ロサンジェルスの新興医薬品開発会社、ACELYRIN(Nasdaq:SLRN)は、ABY-035(izokibep)の後期第2相/第3相乾癬性関節炎試験で主目的を達成したと発表した。試験薬配布ミスをどうカバーしたのかは明らかではない。

izokibepはIL-17Aに結合する、抗体医薬の10分の1と小さいドメインとアルブミン結合ドメインを持つ蛋白。今回の試験は一剤以上に十分応答しない乾癬性関節炎患者を偽薬群、80mg4週毎投与群、160mg隔週投与群、160mg毎週投与群に無作為化割付けして第16週のACR50奏効率を比較したもの。今回の発表によると、ACR50奏効率は160mg隔週群が43%、毎週群が40%となり、偽薬群の15%を有意に上回った。副次的評価項目のPASI90奏効率も各58%、64%、12%と良好な結果になった。忍容性はおおむね良好だった。治療関連深刻有害事象に大きな偏りは見られなかった。

二重盲検試験なので4週毎群や隔週群は試験薬と偽薬を交互に投与することになるが、CRO等のプログラミング・ミスにより順番の間違いがランダムに発生してしまったことが昨年11月に公表されている。どのようにしてこの瑕疵に対応したのかは明らかではない。もう一本第3相試験を行うだろうから、結果が出てから考えれば十分だろう。

同社は化膿性汗腺炎でも後期第2相/第3相試験を実施したがフェールした。偽薬群の奏効率が治験の前半と後半で大きく異なるなど奇妙な点があったため乾癬性関節炎試験の実施状況をチェックしたところ上記のミスが発覚したという経緯だが、化膿性汗腺炎試験に関しては、延長試験のデータが好調に推移している旨のアップデートを発表している。新興企業によくある、チェリーピックしがちなところがあるのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


Nuplazid、最後の適応拡大試験もフェール
(2024年3月11日発表)

Acadia Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)はNuplazid(pimavanserin)の三本目の統合失調症試験がフェールしたと発表した。オレンジ・ブック収載特許は既に失効しており、これ以上の開発は行わない考え。

2016年にパーキンソン病に伴う精神症状を治療する薬としてFDAに承認された選択的セロトニン・インバース・アゴニスト。アルツハイマー病などに伴う精神症状の治療にも開発・申請されたが承認されなかった。

統合失調症用途は19年に第3相ENHANCE試験で陽性症状改善効果が見られなかったが、PANSS陰性症状サブスケールは名目p値が0.0474と、効かないとは結論できないものだった。向精神薬治療で陽性症状は管理できているが陰性症状が改善しない患者403人を組入れた第2相ADVANCE試験では26週間の治療でNSA-16(陰性症状評価-16)の低下が10.4となり、偽薬群の8.5を上回った(p=0.043)。20mgで開始、最初の8週間中に34mgまたは10mgに滴定可能という用法だが、34mgでフィニッシュした患者(被験者の54%)では11.6対8.5とさらに大きな治療効果が示唆された。

今回の第3相ADVANCE-2も同様な患者454人を組入れて同様に26週間治療したが、NSA-16の低下は11.8対11.1で大差なかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


トレムフィアを潰瘍性大腸炎にも申請
(2024年3月11日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは米国でTremfya(guselkumab) を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に適応拡大申請した。第3相のQUASAR試験でバイオ薬やJAK阻害剤にも十分応答しない患者に投与したところ、第12週時点の臨床的治癒率が22.6%と偽薬群の7.9%を上回った。深刻有害事象の発生率は各群2.9%と7.1%だった。下記プレスリリースによると第44週の臨床的寛解率も良好な結果になった様子だ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、BCMA標的CAR-Tの早期使用を支持
(2024年3月15日発表)

FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、ジョンソン・エンド・ジョンソンとブリストル マイヤーズ スクイブ/bluebird bio社が夫々に承認申請したBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)の、現在承認されているより早い段階の多発骨髄腫における便益と危険について意見を聞いた。前者のCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)は11人の委員全員が、後者のAbecma(idecabtagene vicleucel)は8人が、便益が危険を上回ると判定した。前者の審査期限は4月5日と近いので、FDA内の手続きが間に合わない可能性がありそうだ。後者は昨年12月16日で、既に期限超過状態。

CAR-Tは患者自身の免疫細胞に敵を教え込んで攻撃させる。理由は理解できていないが、反復投与の必要がないのが長所だ。新しい治療法にはありがちなことだが、市販後に様々なリスクが表面化してきた。例えば、23年12月にFDAが多くのCAR-T製品について二次性血液学的腫瘍のリスクを枠付き警告させた。

今回の主題は、両剤の実薬対照試験でPFS延長効果が見られたものの、全死亡のカプラン・マイヤー・カーブ分析で最初の9~10ヶ月間の死亡率が実薬群を数値上、上回ったこと。Carvyktiは10ヶ月死亡率が14%、対照群は12%、Abecmaは9ヶ月死亡率が18%対11%となっている。メジアン生存期間はCarvyktiが未達対26.7ヶ月でハザードレシオは0.78、Abecmaは未だ目標死亡数の34%しか到来していない段階の解析だが32.8ヶ月対未達でハザードレシオ1.093と、PFSほど大きな差は出ていない。後者は対照群の患者の過半が進行後にCAR-T治療を受けたことで治療効果が希薄化されてしまった面もあるようだ。

CAR-Tは投与前のプロセスに時間がかかり、製造が成功するとも限らないので、本試験でも薬が届けられる前に亡くなった患者がいたようだ。また、前措置に用いる化学療法薬も深刻な副作用を招くことがある。当初9~10ヶ月の死亡率上昇はこれらが原因と考えられているようだ。造血幹細胞移植と同様に、患者は、早死にする危険もあるが延命の便益のほうが超過する、という条件を受け入れざるを得ない。

今回の適応拡大申請は、両剤ともEUでCHMPが肯定的意見をまとめ、Abecmaは日本とスイスで既に承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

FDA諮問委員会、テロメラーゼ阻害剤の承認を支持
(2024年3月14日発表)

米国カリフォルニア州のGeron(Nasdaq:GERN)は、多発骨髄腫に伴う貧血症の治療薬として承認申請したGRN163L(imetelstat)をFDA腫瘍学諮問委員会が検討し、14人の委員のうち12人が便益が危険を上回ると判定、2人が上回らないと判定したと発表した。FDAが用意したブリーフィング資料のトーンは警戒的だったが、承認に向けて一歩前進したのではないか。審査期限は6月16日。EUでも承認申請中。

GRN163Lはテロメラーゼの活性部位を標的とするオリゴヌクレオチドにリピッドを結合したもの。第3相試験ではIPSS(国際予後予測スコアリングシステム)でlowまたはintermediate-1と判定された多発骨髄腫の成人で、赤血球生成因子による貧血治療に不応/不適であるため輸血に依存している178人を組入れて、8週間輸血不要奏効率を偽薬群と比較したところ、39.8%対15.0%と有意に上回った。24週輸血不要奏効率も28.0%対3.3%と有意差があった。安全性面ではG3/4の血小板減少症が61.9%対8.5%、同好中球減少症が67.8%対3.4%と上回り、輸血しなかったせいか貧血症も19.5%対6.8%で上回った。FDAは骨髄抑制副作用を特に懸念しているように見えるが、諮問委員は、多発骨髄腫に血球減少は付き物であり対処可能であること、多くは一時的・可逆的であることから、QOL改善の便益のほうが大きいと判断した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


初のNASH用薬が承認
(2024年3月14日発表)

FDAはMadrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)のRezdiffra(resmetirom)をNASH(非アルコール性脂肪肝炎;欧米の関連学会はMASHに呼称変更している)の治療薬として承認した。NASHの病状の解消や線維症の組織学的評価に基づく加速承認で、54ヶ月の試験で臨床的便益を確認する必要がある。NASHの治療薬が承認されたのは初めて。本剤はロシュからライセンスした甲状腺ホルモン受容体ベータのアゴニストだが、類薬や様々な作用機序の新薬が第3相段階にあり、今後、ライバルが増えるだろう。

中重度の肝線維症を伴うが肝硬変には至っていない成人患者に、食事・運動療法と併用で、体重100kg以上は100mg、未満は80mgを一日一回、経口投与する。体重に関わらず80mg群と100mg群が設定された第3相試験では、52週間の治療後にNASH解消且つ線維症が悪化しなかった患者の比率が各群26~27%と24%~36%になり、偽薬群の9~13%を有意に上回った。幅があるのは二人の病理学者の評価を併記しているため。今回初めて見たが、10%強の違いを受け入れるべきだとしたら治療効果の10~20%をどう評価したらよいのか、悩むのは私だけだろうか。

線維症が改善しNASHが悪化しなかった患者の比率も各群23%と24~28%で偽薬群の13~15%を有意に上回った。

警告・注意事項は薬物誘導性肝毒性と胆嚢関連副作用。様々な代謝酵素やトランスポーターに関わる相互作用があり、また、LDL-C低下作用があるため一部のスタチンは用量を減らす必要がある。

NASH/MASHの診断でネックとなるのが生検だが、FDAは生検による診断を要求しておらず、非侵襲的な検査で足りそうだ。

同社は年47400ドルで発売する考え。米国の潜在患者数は600~800万人とも言われるが、同社は現在治療を受けている31万人を当初のターゲットとする考え。全員に普及すれば年商150億ドルの巨大市場になる。

リンク: FDAのプレスリリース


ブレヤンジがCLLに適応拡大
(2024年3月14日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)を慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性白血病(SLL)の治療に用いることを加速承認したと発表した。BTK阻害剤とBCL-2阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ成人の難治/再発CLL/SLLが適応になる。第2相試験で完全反応率が20%、反応持続期間はメジアン値未達(95%下限15ヶ月)だった。CAR-Tに付き物のG3サイトカイン放出症候群の発生率は9%でG4以上はなく、G3神経学的イベントは20%、G4は一人(1%未満)だった。

BreyanziはCD19標的型のCAR-T。米欧日で難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫に承認されており、米国で難治/再発性の濾胞性リンパ腫やマントル細胞腫に効能追加申請中。

リンク: BMSのプレスリリース


中華抗PD-1抗体が遂に米国で承認
(2024年3月14日発表)

BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE)はFDAがTevimbra(tislelizumab-jsgr)を成人のPD-(L)1阻害剤以外の全身性化学療法歴のある局所進行切除不能/転移食道扁平上皮腫用薬として承認したと発表した。米国のPD-(L)1阻害剤としては10番目。

エビデンスは中国、米国、日本、欧州など11ヶ国で実施した第3相RATIONAL 302試験。200mgを3週毎点滴静注した群のメジアン生存期間が8.6ヶ月と、paclitaxelまたはdocetaxelなどを用いた対照群の6.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。中国では22年に、EUでも23年に承認されたが、米国はCOVID-19関連の渡航制限により現地査察ができなかったため遅れていた。

FDAは中国だけで実施される臨床試験に疑義を抱いており、EUのCHMPが2月に肯定的意見をまとめた非小細胞性肺癌用途は米国では申請断念となった。一方、食道扁平上皮腫一次治療と胃・胃食道接合部腺腫一次治療化学療法併用はグローバル試験に基づき米国で申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


IBAT阻害剤が肝内胆汁鬱滞症に適応拡大
(2024年3月13日発表)

Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)はFDAがLivmarli(maralixibat)を5歳以上のPFIC(進行性家族性肝内胆汁鬱滞症)における胆汁鬱滞性掻痒の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。9.5mg/mLの経口液で、285mcg/kg一日一回で開始し、570mcg/kg一日二回を目標に漸増する(上限は一日38mg)。第3相MARCH試験でPFIC2型の31人における重度掻痒が偽薬比有意に改善、他の型も含む全64人の解析も成功した。深刻な治療時発現有害事象が10.6%の患者で発生した(偽薬群は6.5%)。

同社は2ヶ月児以上を対象に申請したが5歳以上に限定された。高濃度製剤を追加申請し年内の承認取得を目指す。

Livmarliは頂端側ナトリウム依存性回腸胆汁酸トランスポータ阻害剤。胆汁の排泄を促し、この薬自体も殆ど吸収されず排泄される。18年にシャイアからライセンス、21年に米国で1歳以上のアラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒の治療薬として承認され、22年にはEUでも承認された。日本はシャイアの親会社である武田薬品が21年にライセンスした。

リンク: Mirum社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)



今週は以上です。

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