2024年3月9日

第1145回

【ニュース・ヘッドライン】


  • ALS治療薬の薬効確認試験がフェール 
  • リリーの抗Abeta抗体は、急遽、諮問委員会上程へ 
  • GSKのADC、復活に向けて二の矢も構え 
  • テトラサイクリン系抗菌剤を肺炭疽に適応拡大申請へ 
  • セマグルチド、糖尿病性腎症の悪化を24%抑制 
  • ウコービの心血管リスク抑制作用が承認 
  • オプジーボが膀胱癌一次治療に適応拡大 
  • BTK阻害剤が適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 

  • 【今週の話題】


    ALS治療薬の薬効確認試験がフェール
    (2024年3月8日発表)

    Amylyx(Nasdaq:AMLX)は22年に米国とカナダで筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬として承認されたRelyvrio(sodium phenylbutyrateとtaurursodiolの合剤、カナダでの製品名Albrioza)の第3相試験がフェールしたと発表した。発症24ヶ月以内のALS患者664人を組入れて48週間投与し、ALSFRS-R(機能評価尺度)の悪化を偽薬群と比較したが、p=0.667と酷い結果になった。副次的評価項目も全て有意な差がなかった。同社は承認審査機関や患者コミュニティに対して治験結果や今後の方針(販売中止を含む)を説明する考え。

    配合成分のうちフェニル酪酸ナトリウムは尿素サイクル異常症の治療に、タウロウルソデオキコール酸は原発性胆汁性肝硬変の治療に、用いられているが、ALSにおいては前者は小胞体、後者はミトコンドリアから始まる神経変性経路を阻害し、神経細胞死を抑制すると考えられている。第2相のCENTAUR試験ではALSFRS-Rがベースラインの36から24週後に29に低下したが偽薬群の26.7低下より少なかった(治療効果2.32、p=0.03)。審査担当者はプロトコルや追跡状況、edaravoneなどの承認薬の使用状況の偏りなどに疑問を呈し、22年に召集された諮問委員会では10人の委員中6人が薬効が確立したとは言えないと判定した。

    しかし、当時の神経科学部門のヘッドだったBilly Dunn氏が難病用薬の承認審査にはフレキシビリティが重要と主張、半年後に再び諮問委員会を招集する異例の事態になり、AmylyxのCEOが第3相フェールなら承認返上も含めて患者にとって最善な対応を行うと明言したことや患者支援団体等の後押しもあり、9人中7人が承認に賛成という「十二人の怒れる男」並みの逆転劇が具現、承認に至った。カナダでは第3相試験の成功を条件とする条件付き承認だったが、FDAは本承認という大盤振る舞いだった。

    Billy Dunn氏が去った後のFDAが変わるか、変わらないか、注目されるところだが、FDAがどう判断したとしても、効果のない薬に年17万ドルも払う患者はいないだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    リリーの抗Abeta抗体は、急遽、諮問委員会上程へ
    (2024年3月8日発表)

    イーライリリーはアミロイド・ベータ(3-42)を標的とするIgG1型抗体医薬LY3002813(donanemab)を早期アルツハイマー病の治療薬として米国や日本で承認申請している。米国は今四半期中に審査結果が出るはずだったが、今になってFDAから諮問委員会召集を計画している旨の連絡を受けた。日程調整に1ヶ月以上、諮問委員会後の手続きに1ヶ月以上かかるだろうから、承認されるとしても5月以降に遅れるのではないか。

    同社は21年10月にローリング承認申請を開始、完了は22年第1四半期の予定だったが、一旦、年末に予定変更された後、同年8月に承認申請が受理された。優先審査指定されたが、12ヶ月曝露症例数の不足などから23年1月に審査完了通知を受領したため、同年第2四半期に第3相TRAILBLAZETR-ALZ2試験の継続追跡データを提出した。このような場合の審査期間は提出から半年だが3ヶ月延長され、今回、更に遅れることになった。

    イーライリリーのプレスリリースによると、FDAは、安全性や、上記試験のユニークなプロトコルと薬効の関係に関して理解を高めることを目的としている。前者は先に承認されたエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb)と比べてARIA(アミロイド関連造影異常)という抗アミロイド・ベータ抗体に特徴的な副作用の発現率が高いことに配慮しているのではないかと思われるが、異なった試験のデータを比較する時は真の差との誤差範囲を大きめに考える必要があり、承認を拒否するほど明確な差とは言えないように思われる。便益が不確かでも安全性が高ければ承認する余地があるので、リスクが偽薬並みではないことを併記しておく必要があっただけのことではないだろうか。

    上記試験のユニークな試みは、第一に、アミロイド・プラクが消失したら投与を中止すること。アミロイド・プラクを除去する薬なのだからリーズナブルな治療方針であり、これまでアルツハイマー病薬製薬会社が目を瞑っていた、いつ止めたらいいのかというunmet medical needに応え得る。一方で、何年かしたらまたプラクが蓄積するだろうから、離脱試験(プラクが消失した患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして転帰を比較する)を行って止めても大丈夫であることを確認すべきではないか、とも思われる。

    第二は、タウの凝集体蓄積量と薬効の関連性を意識していること。今回初めて気づいたが、治験論文の付表によると、スクリーニング対象8240人のうち1631人が基準より少ないという理由で除外されている。これは、アミロイド・プラクが基準以下で除外された患者数と大差ない。主評価項目は蓄積が軽中度である約1100人における症状評価尺度と、高度の患者も含む約1600人の同尺度。どちらも偽薬比有意な差があったが高度の患者だけ見ると大差なかったようだ。となると、医療現場でも、アミロイド・プラクだけでなくタウも事前に検査して軽中度の患者だけに使うほうが良いのかもしれない。一方で、もしそうなら、他の抗アミロイド・ベータ抗体は微小/高度タウ患者にも効くのか、という疑問がわく。

    FDAの側に注目すると、LeqembiやAduhelm(aducanumab-avwa)、そして上記Relyvrioの承認/加速承認を強力に後押ししたBilly Dunn氏がFDAを去ったのはネガティブな材料だ。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース

    【新薬開発】


    GSKのADC、復活に向けて二の矢も構え
    (2024年3月7日発表)

    GSKはBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)の多発骨髄腫二次治療試験、DREAMM-8が中間解析で主目的のPFS(無進行生存期間)を達成し、独立データ監視委員会の勧告に即して盲検解除したと発表した。データは未公表。再発売に向けて二つ目の良いニュースだ。

    多発骨髄腫の表面分子BCMAを標的とする抗体と細胞毒をリンカーで結合した抗体薬物複合体(ADC)。20年に米欧で主要4剤による治療歴を持つ再発/難治多発骨髄腫用薬として加速承認/条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験として位置付けられていたDREAMM-3試験がフェールしPFSがPdレジメン(pomalidomideと低量dexamethasoneの併用)に勝てなかったため、米国では23年2月に承認取消、EUでも承認が更新されない見込みだ。

    意外なことに、その後は朗報が続いた。昨年11月、二次治療のDREAMM-7試験が成功、Vdレジメン(bortezomibと低量dexamethasoneの併用)に追加する効果をdaratumumab追加と比較したところ、メジアンPFSが36.6ヶ月と対照群の13.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.41。全生存の中間解析はハザードレシオ0.57、p=0.00049と数値上は大変良い成績が出ているが、割り当てられたアルファが小さいため有意ではなく、継続追跡する。

    今回の試験も二次治療試験で、Pdレジメン(pomalidomideと低量dexamethasone)に追加する効果をbortezomibと比較した。比較するならBlenrep・bortezomib・低量dexamethasone vs. pomalidomide・bortezomib・低量dexamethasoneのほうが関心を呼ぶのではないかとも感じられるが、いずれにせよ、エビデンスは一本より二本のほうが良い。

    リンク: 同社のプレスリリース


    テトラサイクリン系抗菌剤を肺炭疽に適応拡大申請へ
    (2024年3月5日発表)

    米国ボストンのParatek PharmaceuticalsはNuzyra(omadacycline)の炭疽試験が良好な結果になり適応拡大申請に向けてFDAと相談する考えであることを発表した。肺炭疽は極めて稀だが致死性が高いためテロに用いられるリスクがある。治療はキノロン系抗菌剤のciprofloxacinや抗体医薬などが米国で承認されているが、バイオテロリストがこれらの薬に耐性を持つ細菌を開発するかもしれないので、複数の選択肢が必要だ。

    Nuzyraはテトラサイクリン系のaminomethylcyclineという新しいクラスに属し、テトラサイクリン抵抗菌にも活性を維持、グラム陽性、陰性、嫌気性菌など広いスペクトラムを持ち、経口剤と静注用がある。2018年に米国で本剤に感受する成人の地域感染細菌性肺炎と急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の治療薬として承認された。

    今回の試験は炭疽菌に曝露させた非ヒト霊長類に投与する、曝露後予防試験。偽薬群は全頭が10時間以内に死亡したが、試験薬群は全頭が30日以上生存し、60日生存率も90%超だった。

    肺炭疽は十分な症例数の臨床試験を行うのが困難で、且つ、偽薬対照試験は非倫理的であるため、動物試験に基づく承認申請が認められている(『アニマル・ルール』)。欧州のように動物愛護の観点から非ヒト霊長類の試験を禁じている地域もあり、実薬が存在するのだから、今後は実薬対照試験にシフトして犠牲を減らすことを検討しても良いのではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース


    セマグルチド、糖尿病性腎症の悪化を24%抑制
    (2024年3月5日発表)

    ノボ ノルディスクは、昨年10月、GLP-1作用剤semaglutideの後期第3相FLOW試験の独立データ監視委員会が目標達成を認定し繰上げ完了を推奨したことを公表したが、半年経って、ヘッドラインが判明した。

    この試験は慢性腎疾患を合併する二型糖尿病患者3533人を組入れて、標準療法にsemaglutide(1mgを週一回皮下注)を追加する便益を偽薬追加群と比較した。主評価項目は腎不全、eGFR半減、透析または腎移植、腎疾患死、心血管死の5項目の何れかが発生するリスク。同社のプレスリリースによると、リスクが24%小さかった。腎疾患関連の評価項目も心血管疾患関連もリスク抑制に貢献した。詳細は学会で発表する予定。

    報道によると、透析サービス大手のDaVitaは、昨年10月時点では、本試験の組み入れ条件に該当する患者は糖尿病性慢性腎疾患の1割足らずに過ぎず、上記5項目のうち一つだけでも事前に設定された条件を満たせば繰上げ中止するプロトコルであるため、詳細が判明するまで過大評価すべきではないとコメントしていた模様だ。他の糖尿病薬と同様にeGFRの悪化を抑制する効果が中心ならSGLT2阻害剤との比較も必要とのことだった。

    そこで、Farxiga(dapagliflozin)のDAPA-CKD試験のデータを見ると、主評価項目(eGFR半減、腎不全、心血管疾患死、または腎臓疾患死)のハザードレシオは0.61、eGFRだけでなく心血管疾患死でも0.81、腎臓疾患死は数が少なく解析不可能だが実数は2人対6人で1/3だった。こちらの試験は二型糖尿病以外の慢性腎疾患も組入れており、直接比較はできないが、結果が発表された当時、こんなに効くのかと驚いた覚えがある。

    リンク: ノボのプレスリリース

    【承認】


    ウコービの心血管リスク抑制作用が承認
    (2024年3月8日発表)

    FDAはノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)の適応拡大を承認した。心血管疾患で肥満またはオーバーウェイトの成人の心血管死や心筋梗塞、脳卒中を抑制する。心血管アウトカム試験SELECTでは、2.4mgを週一回、皮下注した群が心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の何れかを罹患する偽薬比ハザードレシオは0.80だった。平均40ヶ月の追跡期間中における発生率は6.5%、偽薬群は8.0%なので、1000人に3年超投与すると15人程度を救う計算になる。標準的な治療を受けている患者が対象であるためか、偽薬群の発生率も治療効果もそんなに高くない印象だ。

    ノボ ノルディスクのプレスリリースには心血管死のハザードレシオは0.85、全死亡のハザードレシオは0.81だったと記されているが、その後の長い記述をスクロールして末尾の脚注を見ると、前者の信頼区間は0.71-1.01で優越性は確認されていないこと、全死亡は0.71-0.93だが事前に設定された先行解析である心血管死が有意でなかったのでこちらも有意とは言えないことが明らかにされている。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: ノボのプレスリリース


    オプジーボが膀胱癌一次治療に適応拡大
    (2024年3月7日発表)

    FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療に用いることを承認した。cisplatin及びgemcitabineと併用で、60mgを3週毎に最大6サイクル投与し、その後はOpdivoだけを240mg隔週または480mg4週毎のスケジュールで投与する。エビデンスとなるCheckMate-901試験のサブスタディでメジアン生存期間が21.7ヶ月とOpdivoを併用しなかった群の18.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78だった。共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)も各7.9ヶ月、7.6ヶ月、0.72と有意に改善した。

    ライバルのKeytruda(pembrolizumab)は化学療法併用では承認されていないが、ファイザー/アステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)との併用が23年12月に米国で承認、日欧で申請中。メジアン生存期間は31.5ヶ月とcisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用した群の16.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.47、PFSのハザードレシオも0.45で、こちらのレジメンのほうが目を惹く。但し、深刻有害反応の発生率が50%、致死的有害反応は4%となっている。テレビドラマとは異なり、治験薬で3人が死亡したとしても30人が延命するなら許容される。

    リンク: FDAのプレスリリース


    BTK阻害剤が適応拡大
    (2024年3月7日発表)

    FDAはBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)のBrukinsa(zanubrutinib)を成人の二次以上の治療歴を持つ難治/再発濾胞性リンパ腫にobinutuzumabと併用することを加速承認した。ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、マントル細胞腫、辺縁帯リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫に次ぐ五つ目の適応になる。第2相ROSEWOOD試験でORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が69%、18ヶ月反応持続率は69%だった。obinutuzumabだけを投与した群のORRは45.8%だった。深刻有害事象発生率は35%。欧州でも1月に適応拡大が認められている。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: BeiGeneのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/4Vanda PharmaceuticalsのHetlioz(tasimelteon、入眠障害追加)
    24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
    24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
    24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
    24年4月推JNJのSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
    24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
    24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
    24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
    24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
    24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
    24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
    24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
    諮問委員会
    24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
    24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
    24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



    今週は以上です。

    0 件のコメント:

    コメントを投稿