2024年2月3日

第1140回

【ニュース・ヘッドライン】

  • Vertex、画期的鎮痛剤の第3相が成功 
  • 抗PD-1抗体の腎細胞腫術後補助療法試験が遂に成功 
  • リジェネロン、抗BCMAxCD3抗体を承認申請 
  • MAGE標的T細胞療法を滑膜肉腫に承認申請 
  • ダラキューロ配合剤を新患に適応拡大申請 
  • BMS、プレヤンジを濾胞性リンパ腫などに効能追加申請 
  • エンハーツをher2陽性固形癌に適応拡大申請 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


Vertex、画期的鎮痛剤の第3相が成功
(2024年1月30日発表)

Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)はVX-548の第3相中重度疼痛治療試験が良好な結果になったと発表した。年央に承認申請する考え。作用機序は斬新だが効果はオピオイド系合剤と同程度またはそれ以下のようなので、オピオイド不適/嫌悪患者向きというイメージだ。

末梢性疼痛のシグナル伝達に関わる電位依存性ナトリウム・チャネル、NaV1.8チャネルを選択的に阻害する経口剤。オピオイドと異なり中枢神経作用がない。第3相試験は、腹壁形成術後の患者1100人超を組入れた偽薬・実薬対照試験、バニオン切除後の1000人超を組入た偽薬・実薬対照試験、そして様々な術後疼痛患者と少数だが手術関連ではない疼痛患者も組入れた、様々な急性疼痛用途で承認を得るための単群試験の3本。試験薬は最初は100mg、その後は50mgを12時間おきに3回、経口投与した。対照試験二本の主評価項目はSPID48という、術後48時間に亘り一定の間隔でNumeric Pain Rating Scale (NPRS) を評価し、時間加重和を求め、偽薬群と比較したもの。最小二乗平均差は腹壁形成術試験が48.4、バニオン切除術試験が29.3となり、どちらも統計的に有意だった。

一方、hydrocodone bitartrate(5mg)とacetaminophen(325mg)の両方を6時間おきに7回投与した群と試験薬のSPID48を比較した副次的評価は、最小二乗平均差が各6.6(95%信頼区間-5.4, 18.7)と-20.2(同-32.7, -7.7)となり、どちらもフェールしただけでなく、後者は有意に劣る可能性を示した。

話が分かりやすいNPRS自体のベースライン比変化に注目すると、腹壁形成術試験では改善(低下幅)が偽薬群は2.3、試験薬群は3.4、実薬対照群は3.2、バニオン切除術試験では各2.6、3.4、3.6だった。

第2相試験の学会発表時に指摘された、偽薬よりは有効だが実薬より優れているようには見えないという評価が裏打ちされた格好だ。

リード・インディケーションは急性疼痛のようだが、非オピオイド系鎮痛剤ということなら慢性疼痛のほうが名実ともに需要が大きいかもしれない。糖尿病性末梢神経痛のPOC試験などが既に成功している。

リンク: 同社のプレスリリース


抗PD-1抗体の腎細胞腫術後補助療法試験が遂に成功
(2024年1月27日発表)

MSDはASCO GU(米国臨床腫瘍学会泌尿生殖器癌シンポジウム)でKeytruda(pembrolizumab)の第3相腎細胞腫術後アジュバント試験の全生存期間の解析結果を発表した。これまで多くの抗PD-1/PD-L1抗体がフェールした鬼門だったが、ついに改善に成功した。

このKeyNote-564試験は、腎淡明細胞腫の摘出術を受けたが再発リスクが中程度高度または高度と推定される患者を組入れて、200mgを3週毎に最大17回、投与する効果を偽薬と比較した。主目的のDFS(無病生存期間)は中間解析でハザードレシオ(HR)0.68、p=0.001と成功した。この時点では全生存期間はHR0.54、p=0.0164と好ましい方向を指していたものの成功判定基準には達していなかったが、昨年11月の中間解析が成功、今回、HRが0.72であったことが公表された。48ヶ月生存率(推定値)は91.2%と偽薬群の86.0%を上回った。PD-L1陽性(CPS≧1)にも陰性にも好ましい数値が出た。

この発表(LBA359)の直前にはBMSのOpdivo(nivolumab)のCheckMate-914試験がフェールしたことが発表された(LBA358)。腎細胞腫を完全/部分切除したが再発リスクが中程度以上と推定された患者を組入れてDFSを偽薬二剤を投与する群と比較したもので、Yervoy(ipilimumab)と併用する便益を検討したパートAは22年にフェールが公表されたが、今回、OpdivoとYervoy偽薬を投与したパートBも偽薬二剤群と大差なかったことが公表された。パートAのHRは0.92、パートBは0.87だった。

この二つの試験は患者層も試験薬も類似しており、なぜKeytrudaはDFSも全生存期間も成功し、OpdivoはDFSすらダメだったのか、理解に苦しむ。Opdivoの用法は2週毎に最大12回投与と、投与回数や期間が短いことや、組み入れ条件が若干異なることなどが響いたのかもしれない。

Opdivoは腎細胞腫摘出術の前に1回、後に4週毎に9回投与したPROSPER非盲検試験もフェールした。類薬の類似試験ではロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)のIMmotion010試験(3週毎1年間投与)もDFSのHRが0.93、全生存期間は0.97となり、フェールした。こうして見ると、Keytrudaの成功のほうが例外的と言えそうだ。DFSだけでなく全生存期間の解析も成功したことで、採用が増加するかもしれない。

リンク: 2024 ASCO GU抄録ダウンロード頁

【承認申請】


リジェネロン、抗BCMAxCD3抗体を承認申請
(2024年2月2日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は、REGN5458(linvoseltamab)をEUに承認申請し受理されたと発表した。米国でも昨年12月に承認申請していた。BCMAとCD3を架橋する二重特異性抗体で、成人の3種類以上の治療歴を持つ難治/再発多発骨髄腫に用いる。3次以上の治療歴を持つ、または主要三剤に難治の難治/再発多発骨髄腫を組入れた第1/2相のLINKER-MM1試験で、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が71%、完全反応率は46%だった。G3以上の有害事象発現率は85%で、サイトカイン放出症候群や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群は少なかったが、感染症などが多く、12%の患者が主として治療時発現感染症により死亡した。

第3相は昨年9月にLINKER-MM3試験を開始、やや早期段階の患者におけるPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を EPdレジメン(elotuzumab、pomalidomide、dexamethasoneの3剤併用)と比較する。成否判明は32年と、かなり遅くなる予定。

リンク: 同社のプレスリリース


MAGE標的T細胞療法を滑膜肉腫に承認申請
(2024年1月31日発表)

Adaptimmune(Nasdaq:ADAP)は、FDAがADP-A2M4(afamitresgene autolecel、略称afami-cel)の承認申請を受理したと発表した。優先審査を受け、審査期限は8月4日。

MAGE-A4を標的とする高親和性、特異的TCRを患者から採取したT細胞に導入した、T細胞療法。MAGE-A4を発現(腫瘍細胞の30%以上でIHC法2+以上)する進行滑膜肉腫で治療歴のあるHLA-A*02型患者に用いる。MRCL(粘液/円形細胞型脂肪肉腫)も組入れた第2相SPEARHEAD-1試験で一回投与したところ、47人中34%がORR(客観的反応率、独立評価)、太宗を占めた滑膜肉腫では36%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


ダラキューロ配合剤を新患に適応拡大申請
(2024年1月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)を自家造血幹細胞移植(HSCT)が適応になる新患多発骨髄腫の薬物補助療法に用いる用法追加をFDAに承認申請した。第3相PERSEUS試験に基づくもので、VRdレジメン(Velcade、Revlimid、dexamethasoneの3剤併用)による導入療法の後にHSCTを行い、その後にRevlimidによる維持療法を施行する標準療法群と比べて、導入療法と維持療法にDarzalexを追加した群のPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが中間解析で0.42となり、p値は中間解析に配賦されたアルファの0.0126を下回る、0.0001未満となった。48ヶ月無進行生存率は84.3%対67.7%と大きく上回った。維持療法期に入った試験薬群の患者の64%は、維持療法を24ヶ月以上施行し、完全反応を達成し、且つ12ヶ月以上MRD(微小残存疾患)が検出不能という条件を充足し、Darzalexによる治療を中止した。

G3/4の有害事象は好中球減少症や肺臓炎、下痢などが増加した。

Darzalexはジェンマブからライセンスした抗CD38抗体。様々なステージの多発骨髄腫に様々な薬と併用することが米欧日などで承認されている。オリジナルの製剤は点滴静注用だったが、皮下注できるようにしたのがFaspro。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、プレヤンジを濾胞性リンパ腫などに効能追加申請
(2024年1月30日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の適応拡大を米国と日本で申請し受理されたと発表した。米国の予定適応症は第2相TRANSCEND FL試験に基づき成人の再発/難治濾胞性リンパ腫、そして、第1相TRANSCEND NHL 001試験に基づき成人のBTK阻害剤による治療歴を持つ再発/難治マントル細胞腫。どちらも優先審査指定を受け、審査期限は前者は24年5月23日、後者は同月31日。日本は前者の適応を申請した。

CD19を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に米日欧で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツをher2陽性固形癌に適応拡大申請
(2024年1月29日発表)

第一三共とアストラゼネカは、米国でEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を成人の切除不能/転移her2陽性固形癌に適応拡大申請し受理されたと発表した。前治療歴を持つ、あるいは他に妥当な治療オプションがない患者に用いることを予定している。優先審査を受け、審査期限は第一三共によると5月30日、アストラゼネカのホームページに掲載されている両社の英文プレスリリースによると24年第2四半期。

エビデンスは第2相DESTINY-PanTumor02試験など。この試験はIHC(免疫組織化学染色)法で2+以上の患者を癌種毎に40人程度組入れてORR(客観的反応率、反応が一定期間持続した確認例のみ)を評価したが、承認申請は3+だけだった。2+以上と3+のみのデータを比較すると、子宮内膜腫では57.5%と84.6%、子宮頸癌は50%と75%、卵巣癌は45%と63%、膀胱癌では39%と56%となっており、2+だけのORRはそれほど良くなかったのかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)
24年1QロシュのXolair(omalizumab、食物アレルギー適応拡大)
24年1QアストラゼネカのTagrisso(osimertinib、未治療EGFRm+NSCLC)
24年3月推BeiGeneのBrukinsa(zanubrutinib、FL obinutuzumab併用)
24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
24/3/26MSDのMK-7962( sotatercept、肺動脈高血圧症)
24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
24/3/31Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
諮問委員会
24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



今週は以上です。

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